身体が解放されたその時だった。目の前の出来事に怒りを通り越して悲しくなる。そしてまたすぐ怒りが沸いてくる。
えーいとにかく自由になったんだ、みんなのところに行かなきゃ!
「コラーえりぽん!ばか!はやくカメ治して!!」
走りながら叫んでいる私以外の全員の動きが五秒ほど止まった……と思う。
あの子たちは私の勝利を見せ付けられたこと、みんなは私が現れたことに驚いてるんだろう。
そう、いたんだよ私ずっと!命を賭けて証明するために。
えりぽん、ちなみに私がつけたあだ名ね、あの子は私を一瞥するとカメのところへ歩いていった。
よしそれでいい。って素直に治す気があるなら最初から攻撃しないでよねー。
「にーがきさぁーん!」
「うおっ、小春!」
いきなり飛びついてくるんだからーもー。このキンキン声も懐かしいよ。
あはは……はあ。疲れたなー。やっと帰れる。
リゾナントでお茶したい。
ゆっくり眠りたい。
みんなの元へ
「こは
「小春もういい、こっち来るっちゃ」
田中っち? ………… みんな?
訝しがるような、あるいは睨んでいるような。はっきりと嫌悪を向ける顔もあった。
あっ……そうか……なんで気付かなかったんだろう。精神を読まずとも解る。
えりぽんに声をかけるタイミングを間違えたんだ。えりぽんがそれを誘ったというのもあるけど、まんまと引っかかった私も悪い。
また左脚が言うこときかなくなっちゃった……。
「はぁーい」
いつもと変わらない返事で私から離れる小春。
右手がぼんやり光ってる……きっと妙な動きを見せたら即感電させられたんだろうな。
ああなに私冷静になってるんだ。いや、冷静であれ。里沙。
「みんな」
声が震える心音が早まる冷や汗が出る今の私はどうみられてる?まだ間に合う?きっとグレーから
「裏切り者!なに亀井さんにしとんねん!」
黒に
「光井、落ち着いて」
「こっちは散々心配したんやで!泣いて、傷ついて……意味わからへん!指示したんやろ!仲もいんやろなぁあだ名で呼んで!」
冷静であれ 冷静で
「ちょちょちょおっと、今から説明するから、ね」
「うっさいわ!もうわかってるんや!探しに来たん、やで、なのに、こんな小さい子たち、使うてまで」
新垣さん……卑怯や……って言ったかなぁ。涙声になっててよく聞こえないよ。
あ、右脚はもう駄目だ。頭が真っ白になりそうなるのを必死で耐える。こんなはずじゃない。まだ望みは捨てられない。
「新垣サン見損ないマシタ」
「攻撃されテモ信じてタノニ……」
ジュンジュン、リンリン。両肩の自由がなくなった。
「本当に、待ってみんな、私に話もさせてくれないの?」
「聞かなくても解るけん。れーなたちが来るの知って待ってたんやろ?もう子分おるんね、まとめてかかって来いっちゃれーな手加減せんよ」
股関節が。
「絵里は落ち着いたみたいだけど……まだ目覚めないの。ジュンジュンとリンリン、絵里にまでヒドい目に遭わせるなんて……。
いくらガキさんでも問答無用、さゆみは許しません」
左腕が。
私の身体はもうほとんどが動かない。ずっと立ちすくんでいるからみんなは気付いてないけれど。それに言えない。これは『縛り』。
自由がきくのは右腕と首から上だけになってしまった。まだ声が出せるのが救いだ。
そう。諦めちゃだめだ里沙。私は証明しなければならない。
「愛ちゃん……お願い聞いて……」
愛ちゃんは、話聞いてくれるよね?愛ちゃん。愛ちゃんってば黙ってないで応えてよ。
心にも問いかけるのに、それを受け止めてくれない。愛ちゃんの心の中に投げ込まれたまま反響せず放置されている。
つまり拒否、だ。あ、あ、あああああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
「あんたか!!」
「きゃっ」
首だけ左に動かすと、瞬間移動をした愛ちゃんがフクちゃんを羽交い絞めにしていた。
「なんかピンみたいなの投げてたな。僅かな動作だったからなかなか解らなかったけど、それでガキさんの動きを奪ったんやろ?」
「くるし……」
「苦しいのはガキさんだ!ずっとここに閉じ込めて!!今この瞬間も!!遊ぶのもいい加減にしろ!!」
「……ご、めっ……」
筋繊維に刺さった針の気配が消えた。
無理矢理封じ込まれていた反動なのか、解放されると身体がふわりと浮き上がってるんじゃないかと思った。
膝が、ふにゃふにゃする、転ぶっ、…………いぃった尾てい骨打ったよーーー。
ぬっと大きい手が目の前に出てきた。
「ガキさん。立てるか?」
「愛ちゃん……」
ぎゅっと掴んで起き上がり、そのまま抱きしめる。温かい。
あー、愛ちゃん。愛ちゃん。愛ちゃぁん。うううう。視界がぼやけるよう。
はははってなによ笑わないでよ。鼻水出てる?しょーがないでしょー泣くとセットで出るでしょおー!
別に愛ちゃんだから、とかじゃない。誰一人聞く耳を持たない状況で、一人でもわかってくれたことが嬉しいから。
そしてこの結果はあの子たち四人にとって逃れられない証明になるんだ。
私がすでに得ている信頼を投げ捨てて、証明したかったこと。探しに来てくれる“仲間”が存在する。疑念を超える“絆”が存在する。それは生きる希望となる。
わかって、くれたかなぁ…………?
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最終更新:2011年01月21日 20:34