『Lost children 中編(2)』


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



                                 ←back


「ちょっときみたち?動物いじめちゃだめじゃない」

驚いた。
今のご時世、赤の他人に忠告してくる大人がいるなんて。
無視したら「ちょっとちょっとー」と食い下がってくる。うざい。

「ハァ……いじめてなんかないし。遊んでるの。これ私のだもん」

何したっていいじゃん。生まれたときからいつも一緒にいる相棒。どうせ私から離れられないんだから。

「だったらなおらさ大事にしなよ……泣いてるよ?」

この人、動物愛護団体かなんかなの?はー、めんどくさいやつにつかまったなぁ。
なんにも知らないくせに出しゃばる大人は大嫌い。まぁ……この子たちも信用してるわけじゃないけど。

「さやしりほちゃん」

え?

「すずきかのんちゃん。いくたえりなちゃん。ふくむらみずきちゃん。ちなみに私は新垣里沙ですヨロシク」

みんなの名前も次々と当てていく。私の口もぽかーんと開いてたんだろうな、四人揃って同じ顔してる。
当然、こんなうざい大人の名前は知らないし会ったこともなかった。

そして次の言葉には驚きというより恐怖を感じた。私は思わず相棒を抱きしめてしまった。


「私もきみたちと同じで……力を持ってる。心を読めるんだ。驚かせてごめんね。
きみたちからさー、こんなこというのもあれだけど、なんていうか絶望感が出てる。
いっぱいいっぱい傷ついて、何も信じられなくなってるんでしょ。私もそうだったから……。
でも本当は寂しいんだよね。全員今にも泣き出しそうだよ?この子みたいに」

相棒を見ると、いつもと変わらずどこか遠い目をしていた。その目で、この人の正体を映し出してよ。

「いきなりごめんね。謝ってばっかだね。でも、あんまり悲観しないでほしい。
私も見つけられたから、きみたちも信じられるものと出逢えるといいね。
あ、そうだ、よかったらここ来なよ!えーと……あった、ハイこれ。私の理解者が集う喫茶店」

わかった。この人の正体は……偽善者だ。

心を読めるのは本当で、境遇を理解しているのもわかる。でもみんながみんな自分みたいに救われると思ってるんだ。

名刺のような紙……地図が描いてある。それを差し出された手ごと払いのける。

「証明して」

「へ?」

「あんたの“信じられるもの”を、証明して」

「じゃあ今からみんなで行く?私の信じられる仲間たち、紹介しようか」

「だめ。イチから。ううんもっと、ゼロからじゃなきゃ証明されない。証明できたら喫茶店、行ってもいいよ」

「ふーん……もしできなかったら?」

「殺します」



里保ちゃーん、どうしちゃったの?
私は今のやりとり、よくわからなかった。証明?殺す?
おねえさんは……ゆっくりと頷いてた。

「みんなも協力してね」

「待って里保ちゃん、よくわかんないんだけど」

「ここじゃ寒いから、あそこに戻ろう。あんたもついてきて。もう始まってるの」

あそこというのは、私の借りてきた空間。
しばらく歩くと使われていない倉庫が立ち並ぶ。
そのなかの一つの倉庫に、地下への階段と空間を持ってきて、一週間ほど前から過ごしていた。
私たちの避難場所。そして再びやり直すための、出発地点。

階段を降りながらおねえさんが話しかけてきた。

「へー。これは誰の能力?作り出したの?」

「私です。作るんじゃなくて、借りてくるの」

「かのんちゃんかー。へええーすごーい」

おねえさんはさすがって言ったらいいのか、全然驚いてなかった。
この力を知っちゃった人は気味悪がってどんどん遠ざかっていったのに……。

おねえさん自体が、私の知らない世界そのものに思えた。


「里保、説明してよ」

「珍しいね熱くなっちゃって。私もよくわかんなかったよ」

衣梨ちゃんも譜久村さんもわかってなかったんだ。ちょっと安心。

「じゃあ説明するね」

説明の間、おねえさんはただ静かに聞いていた。きっと里保ちゃんの心を読んでいて、もうわかっていたんだと思う。

このおねえさんは“信じられるもの”を命を賭けて証明することになった。
今日から三日間ここに軟禁、携帯電話も使えなくする。
三日経ったらおねえさんの仲間に連絡をし、ここに呼び出す。そのとき私たちは別の空間を借りて隠れてる。

まずここで仲間が来なかったら証明失敗。おねえさんは殺される。

仲間が来たらおねえさんは、仲間を裏切る。信頼を失わせる方法は自由。それができたらおねえさんも別空間に入れる。

ここからが『ゼロからの証明』だよ、と里保ちゃん。

また三日以内に、裏切られてもなお仲間がここに探しに来ればおねえさんの勝ち。証明できたことになる。
でも三日過ぎた時点で来なければ証明失敗。おねえさんは殺される。

「りほちゃん、私途中で逃げ出しちゃったらどうするの?」

「逃げたり証明失敗したら死ぬ呪いをかける。仲間に計画を漏らしてもあんたは死ぬ。あと、譜久村さんにも身体の自由奪ってもらうから安心して」

里保ちゃんは相棒の頭をなでなでしながらさらりと怖いことを言っている。
胃のあたりがぐっと冷えた感じがした。なんだか私のほうが逃げ出したい気分だ。本気?ねえ本気なの?
私の知らない世界は、私以外のすべてなんじゃないか?


「やっしーね!えーと、ズッキとか良くない?やっぱフクちゃんでしょー、うーん、そうだなー、えりぽん」

みんなして変な呼び名をつけられた。衣梨はやだったから絶対呼ぶなって言った。

「私はねー、ガキさんって呼ばれてるよ。みんなもそれでいいから」

衣梨はめんどくさかったから絶対呼ばないって言った。

「まあまあ、一緒に生活してる仲なんだしさ」

「なんで笑ってられるんですか?こんな状況なのに。死ぬかもしれないのに」

あれから三日経ち、この人の仲間は来た。思ったよりたくさんいたことに驚いた。カタコトの人もいた。
死を回避したこの人はシナリオどおり動いた。なんかよくわからないけど攻撃もしてた。
全てが終わったあと、泣いている人や叫んでいる人を見たのがとても新鮮だった。あんなに感情をオープンにしたことなんてここ数年ないし。
なんていうか衣梨は感情の渦の中にいるようで、衣梨が責められているようで、胸が苦しくなった。

そして一夜明けても相変わらず、この人は聖の能力で身体が動かせず横たわっている。笑ってるってことは案外平気なの?鉄の心臓の持ち主か。

「いやー昔を思い出しちゃって。こんな時代もあったなぁなんて」

気持ち悪。変態?どんな昔があったのよ。でも突っ込んだら負けな気がしたから無視した。

「それに、私死なないよ。絶対また来てくれる。前にもあったんだ」

前にも?更に興味があったけど、やっぱり聞いたら負けな気がしたから無視した。

「その時はもうどこにも行かないからねって約束したんだけど……今この状況だからなぁ。私はやっぱり裏切り者なのかもね」

その天井を見つめる顔がすごく寂しそうだったなんて、言ったらめんどくさくなるから見なかったことにした。

そもそも里保は「みんなも協力してね」って言ったのにおかしい。私なんにもしてないじゃん。
この人の話し相手だけ?そんなのつまんない!

「みんなっ、来た!にいがきさん隠すね!」

香音ちゃんが小さく叫ぶと目の前の人を別空間に入れる。
もう来たの?昨日の今日だよ?早くない?“信じられるもの”……あるの?

「あれ……女の子だよね!?しかも小学生いや中学生くらいかな?」

“信じられるもの”“仲間”“絆”……なんどもあの人から出た言葉をぐるぐる反芻しながら会話を繋ぐ。

「そっか……残念。でもね、昨日ここにお友達が来たのは確かなんだ。ちょっと調べさせてもらうよ?」

聖が能力を解くのがわかった。香音ちゃんも解こうとしている。里保はまだ認めてないみたいだけど。
どうするのよ。衣梨もわかんないよ。それに、ただ見せ付けられるのはなんか嫌だ。参加したい。この大掛かりな『証明』の一部になりたい。

「そこをなんとか!」

気付いたら攻撃していた。やってしまった。いつもこう。衣梨奈は場をかき乱すねってよく言われてた。

「コラーえりぽん!ばか!はやくカメ治して!!」

早速来た。その呼び名、やだって言ってるのに。それにしても『かめ』ねー。かめに縁でもあるのかな。

「今から治しますのでちょっとどいてください」

「嘘」

「ほんとです」

「…………もし嘘だったらさゆみ、あなたを刺すから」



衣梨奈ちゃん暴走しちゃって……。ナイフ当てられてるけど大丈夫かなー。

「譜久村さん、またお願い」

「なんで?里保ちゃん」

「今、流れが変わってきてる」

流れ……。あ、なるほど。にいがきさんの仲間が、また疑いだしてるんだ。里保ちゃんのいう『証明』に達していない。

「今度は八箇所でお願い。判断は譜久村さんに任せる」

里保ちゃんは多くを語らない。それは私がうまく汲み取るから。

にいがきさんの仲間が八人。にいがきさんを信じない者と判断した時点で、私は針を刺していく。

きっと八箇所刺した時点で里保ちゃんは殺すんだろうな。

私と一緒で、訓練された彼女は、私以上に冷酷だった。でも……

「里保ちゃん熱いね」

「私、案外熱いんだよ」

こんな『証明』に熱くなるなんて、子どもだ。

針を刺す。負の感情は恐ろしい。
針を刺す。あっという間に連鎖するから。
針を刺す。にいがきさんの負けかな。
針を刺す。ひとつ、言っておけばよかった。
針を刺す。ありがとうって。
針を刺す。普通じゃないとか、特別だとか言わないでくれて。

そういえばひとり、衣梨奈ちゃんが倒した人の分、余っちゃうな。
あの人がダメだったら二本同時に投げればいいかな。ねえ里保ちゃん。

「いいよ」

だよね。あの人は……まだ黙ってる。早くどっちかにしてよ。結構神経使うんだよ。
ハア、と息を緩めたそのときだった。く、くるしい……!!

「あんたか!!」
「なんかピンみたいなの投げてたな」
「苦しいのはガキさんだ!ずっとここに閉じ込めて!今この瞬間も!遊ぶのもいい加減にしろ!!」

やっと解放されて、その場でしゃがみ込みげほげほ咳き込む。
甘かった。まさか、見破られたなんて。
香音ちゃんと衣梨奈ちゃんが背中をさすってくれる。
里保ちゃんはというと、もう移動する準備をしていた。え、にいがきさんは?

「ちゃんと呪いは解いたよ。私の負け。……行こう、譜久村さん、みんなも」

私のほうが子どもだったのかな。それとも両方かな。
思い通りにいかなくて憮然とした顔の里保ちゃん。
にいがきさんが死ななくて嬉しい私。

あの日こっそり拾っておいた喫茶店の紙を、ポケットの中で握り締めた。




                                 ←back