れいなは俯いて震えている。
小春はずっと叫んでいる。
ジュンジュンとリンリンは血を流して倒れている。
さゆみはというと早く二人を治療しなきゃいけないのに、絵里の手を握ったまま動けないでいる。
ひどいよ、と絵里が呟いた。
さゆみも呟いた。
ひどいよガキさん。
なんでこんなことするの?
なんで?なんでなんでなんでなんでなんで!?
声は次第に大きくなって、地下倉庫にずいぶんと空しくこだました。
なぜならそれをぶつける対象がいないから。
ガキさんはいなくなった。目の前で姿を消しちゃった。
さゆみたちを裏切って。
でもなぜだろう、ガキさんはまださゆみたちのすぐそばにいる気がするのは、この事実を認めたくないせいかな。
◆
目、醒めたらリゾナント。
足はもうイタクナイ……。道重サン……イツモアリガトございマス。
オーミナサン!リンリン元気になりマシタ!
……ワタシそんな寝てタ!?びっくりデース。
高橋サンアリガトー。水美味しいデス。
アージュンジュン!!ジュンジュンはだいじょぶ?……アーヨカタ。
みなサン無事でヨカタ。
……新垣サン……イッチャタんデスネ……。引き留めラレナカタ……。
どう思うか、ですカ?
ア、だいじょぶデスヨー、頭スッキリダカラ!
リンリン、新垣サン許せナイデス。ダッテ仲間を攻撃シタ!リンリンイタカタ。
ムコウは手加減ナンカしてマセンデシタ。
デモ、リンリン聞こえマシタ。
新垣サン、リンリンに攻撃したトキトテモ悲しそうに言いマシタ。
「出逢ってごめんね」
「裏切って」じゃナクテ、「出逢ってごめんね」ッテ。
ワタシたちと出逢ったコト否定シタ。
リンリン切ないデス。このコトバ頭から離れないヨ。
ぐずっ、うぅ……ティッシュくだサーイ……亀井サンアリガトー。
◆
アノネ、ジュンジュンもそれ聞いたヨ。
多分ワタシたちにシカ聞こえてナイヨ。
新垣サンオカシカタ。ツラソウな顔ナノニ強くて本気ダタ。
え?何デスカ道重サン。意味わかんないノ?ナンデ?
ダカラー、フツウ心に迷いあるトキ、身体イウコトききませんヨ。
ジュンジュンは獣化シテ理性あんまりなくなるカラ、迷いもありまセン。
ナノニ新垣サンに倒されタ。
精神干渉使い、多少自分をコントロールできるカモだケド……
攻撃強い慣れてるジュンジュンとリンリン、アッサリ倒すハ信じラレナイ!
え?何デスカ久住サン。つまりどゆコトかテ?
ダカラー、新垣サンは操られてタかもシレナイヨ。
デモ新垣サンの精神強いダカラ、心までゼンブ明け渡サレナカタ。
ホントは戦いたくナイ、デモジュンジュンとリンリン来たモンダカラ、戦サわレタンダヨ。
心と身体バラバラなるト、サイショに心が悲鳴上げるヨ。
◆
ちょっと待ってください、一度整理してもいいですか?
あの地下倉庫には新垣さんしかおらへんかった。
ジュンジュンの説が正しければ、あの時すでに新垣さんは操られていた。
そうや……新垣さんがリゾナントに来いひんようなって、連絡も取れへんかった三日間……。
そのあいだに新垣さんがダークネスと接触したんや。
私らも異常事態だと思った頃に連絡が来て、全員をあそこに呼び出して、揃ったところで言いはった。
「もうあなたたちと一緒にいられない。さよなら」
そのあと怒ったジュンジュンとリンリンが新垣さんに詰め寄ったら……銅線で攻撃して、姿を消してもうた。
操られていたかどうかは保留にして、あ、ごめんジュンジュンのこと信じてるけど、ちょっと待ってな?
色々と疑問が残ります。大きく二つ。
一、なぜ地下倉庫に集めたのか。
リゾナンターを辞めると宣言するだけならこの場所でもいいはずです。
穏便に済まさせないことを予想しての選択かもしれませんが、新垣さんの性格からして事を大げさにするのは避けるばず。
二、だとすれば真の目的は何か。
ジュンジュンとリンリンへの攻撃も言わば反撃。新垣さんは私らを攻撃する気はなかったと思います。
そもそも私は新垣さんがダークネスに寝返る未来は見ていないんですよ!
愛ちゃん、何か新垣さんから感じ取りませんでしたか?
◆
あっしはガキさんから何も感じなかったやよ。愛佳も言うように殺気もなかった。
だから……油断してた。
ガキさんを見つけたと思ったらあんなこと言うしリンリンたちは怪我するし、気が動転しちゃってた。
リーダー失格でごめん……。……ありがとれいな。
ガキさんから何も感じなかった。あっしらを裏切ることの躊躇いも何もなかった。
まる一日経ったわけだけど、そのことがずっと引っかかってたんだ。
ガキさんは、なんの躊躇いもなく、ガキさんのままで、あっしらと訣別できる人間か?
答えはNo,出来ない。ガキさんは素直でいい子やざ。
あんないい子がリンリンの足に、ジュンジュンの腕に銅線の束を突き刺したのは、絶対変なんよ。
絶対変なのに、あの時はその違和感を見破れなかった。あっしの不注意のせいで。
そこでみなさんに提案があります。
もう一度、あの地下倉庫に行きたいです。
あっしも、あの場所に集められたことが無意味とは思えない。
調べればガキさんの痕跡が残っているかもしれない。
あっしはガキさんにもう一度逢いたいんやよ。
◆
れーなは怒っちょる。
れーなは謎とか心理とか小難しいもんはキライっちゃね。
そりゃあ人間やし、何でもかんでも割り切れるもんでもないのは解るっちゃけど、それにしたってガキさんは解りにくい。
消えるにしたって、なぜなのかもっとちゃんとれーなに一発で解るように説明してから消えんかい!あ、これ次会ったら言おう。
次会ったら……。
会えるのかな。
もうれーなたちの前に現れてくれないのかな。
ガキさん。
愛ちゃんはさっき素直って言いよったけど、れーなから見ればとても複雑。完璧な笑顔の裏に完璧に感情を隠す人。
れーなとは正反対やん!だかられーなはガキさんのことすごく気になる。
「さっき笑っとったやん、ほんとに楽しかった?れーなといて楽しい?」って実際聞いたこともあったなぁ。
そしたらガキさん笑って
「田中っちは可愛いね~!楽しいに決まってんじゃん!」
って言っとった。あー、あの笑顔は本物。れーな嬉しくなったもん。
てことはガキさんは素直ってこと?れーなが逆に素直じゃない?
もう……わからん。やっぱりれーなは小難しいもんはキライっちゃね。やめーやめー。
ひとりでぐるぐる考えていたのが顔に出ていたのか、さゆがこっち見とう。なんね?
へ?着いた?ここだ!
なんかむずむずするけん、でもガキさんに会って話しよったらこのむずむずがなくなる気がする。
うん、だから、絶対会える!会えなくってもなんかある!コレれーなの直感よ!!
◆
田中さん張り切ってるなぁ。小春はなんかダルイっす。乗り気じゃないんじゃなくてさ。
全然覚えてないけど、みっしげさんが言うには相当叫んでいたらしい。
にーがきさんのバカー!とかその他もろもろ。どうりでノドが痛いわけだ。
さて、昨日の舞台にとーちゃく。
戸が壊されている大きな木造倉庫。もちろん何年も使われた痕跡はない。
どういうわけか地下に続く階段があるへんてこな倉庫。
よくよく考えるとおかしいよね?あんな立派な地下倉庫作れるなら、ふつー見える地上の部分もちゃんとしない?
愛ちゃんのみけんにぎゅっとしわが寄ってる……小春とおんなじこと考えてるのかな。
かなり嫌な予感がする。今までこんな感覚になったことはあっただろうか。気をつけよう。
そうそう、すぐ能力を使えるように気を抜くなって愛ちゃんに言われてたんだった。
階段を降りきると、地下なのに薄ら明るい。電気なんてつくわけないのに。
へんてこだらけだ。なんで昨日は気付かなかったんだろう。にーがきさんに電気をつける能力はないじゃないか。
これじゃあ、小春たちのほうが大バカだ。にーがきさんは絶対悪くない。
奥のほうから、生き物の気配がした。小春、集中。
◆
「あれ……女の子だよね!?しかも小学生いや中学生くらいかな?」
声が思いのほか響いてしまって、みんなびっくりしている。エリ自身もびっくりしちゃったくらい。
でも奥から出てきたのが女の子四人とわかったとき、みんなだってホッとしたはずだ。
「おねえちゃんたち、なに?ここは私たちの遊び場なんだけど」
むしろ女の子たちのほうが警戒していた。よし、ここはエリが緊張をほぐしてあげましょう!
「あのねぇおねえちゃんたち、お友達探してるんだけど。私と同い年なの。知らないかな?」
「知ってる?」
「さぁー」
「私たちしか来ないしねー」
「だよねー」
「そっか……残念。でもね、昨日ここにお友達が来たのは確かなんだ。ちょっと調べさせてもらうよ?」
「ダメだよせっかく遊んでるんだから」
「そこをなんとか!」
こうべを垂れ、パンッと両手を前で合わせてお願いのポーズ。
これがいけなかった。
一瞬でも目を離してはいけなかったのに。エリはとんでもない愚か者。
腹部に衝撃を受けた。こみ上げる鉄の味。吐血。膝から崩れる。さゆが来る。まだ治らない。まだ治らないの?やだ、やだ。
床からエリを襲った子をゆっくり見上げると、暗い瞳で笑っていた。昔のエリみたい…………。
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最終更新:2011年01月21日 20:40