『Vanish!(3) 病むときにも愛する故に』


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●月◆日(木) PM 9:00

亀井は寒さに震えながらコンビニへと向かう途中だった。
道重は足のむくみをとるためのマッサージをしていた。
久住は仕事帰りのタクシーの中だった。
光井は図書館で期末テストの勉強をしていた。
リンリンは部屋でギターを弾きならしていた。
ジュンジュンは餃子の皮を作っていた。
そして、新垣は遅めの夕食の用意をしていた。

『みんな、出動の用意して!ダークネスが現れたわ!場所は町外れの××!
 私は先にれいなと向かうから、みんなできるだけ早く支援に来てちょうだい!!』
それぞれの頭の中にリーダー高橋からの声が届く。

喫茶リゾナントから漏れてくる灯りが消え、2つの影が飛び出してくる。それは、高橋愛と田中れいなの二名
二人の白いリゾナンタースーツが、黒色の闇夜に浮かび上がっている

               *  *  *  *  *  *

なんか胸騒ぎがして、ここにまた来てよかったと本当に思う。
こんな時間にこんなところに現れるなんて、ちょっとしたストーカーみたいね、私、フフ…
しかし、なんであんな変わった格好をしているんだろう?あんな薄い服を着て寒くないのかしら?
高橋とかいう女と田中さん、おんなじような服装だったけど、これから何かあるのかしら?

でも、双眼鏡で田中さんの顔をアップにして見たら、ちょっとピンと来たことがあったわ
あの顔は私を助けてくれた時、私に稽古をつけてくれた時、何度も訪れたピンチの時にみせた表情
やはり私が憧れたあの田中さんの魅力は失われていないようだ。戦いの女神としての美しさ…

あっ、こうしていてはいられない、田中さんがどこに向かうのか突き止めなくては・・・

               *  *  *  *  *

●月◆日(木) PM 10:00

「今回はあっけなかったね~やっぱり絵里達、さ・い・きょ・う・かも~」
「その通りなの!さゆみがいればダークネスなんて全然怖くないの!」
「こら~まだ、私がこの辺に住んでいる人の記憶を修正しているんだから、うるさくしない!」
「ごめんなさ~い、ガキさん…でも~そう行っているガキさんも~顔が笑ってますよ~エヘヘ」
ダークネスの破壊行動を防ぐことに成功したリゾナンターのメンバーは戦闘後で上がった息を整えていた。

「デモ、道重サンが言ったようにジュンジュン達、ズット強くなっていると思いマス!」
ジュンジュンは戦闘時に使用したぐにゃっと曲がった鉄パイプを手に持ちながら言った。
「リンリンもそう思いマス!一人一人の能力が強くなっているの感じますヨ!
リンリン、炎を曲げられるようにナリマシタ!グリーンスネイク、カモン!!!」
リンリンは手のひらの上で蛇のように緑色の炎をくねくねと躍らせていた。

「リンリンのその技面白いね~小春も、こうやって・・・うわっ」
久住の手から放たれた雷が道重と田中の近くに落ち、落雷した部分の地面に焼け焦げができた。
「小春ちゃん!むやみやたらに雷を打たないの!危ないの!」
「小春、危ないっちゃろ!」
道重とれいなが久住を叱ることはいつも通りの光景の光景となっていた。

「高橋さん、ちょっといいですか?」
そんな勝利の余韻を味わっている面々を横目に一人やけに静かな制服姿の光井が高橋に声をかけた。
「ん??どうした、愛佳?」
光井がやけに静かなことに気がついた高橋が、騒いでいるメンバーの輪から外れ、光井に近づいて行った。
「あの、高橋さん・・・最近、田中さんと喧嘩してませんよね?」
「れいなと?最近は・・・してないけど、どうかしたの?」
「していないならいいですけど…田中さんとけんかする未来が視えたので忠告しておきますね」

高橋は光井の頭に手を軽く置き、笑って答えた。
「大丈夫やって。私とれいなが喧嘩しそうになっても、私が我慢すればいいだけやし。
 そんなことは絶対に起きないから気にしないで大丈夫やよ。愛佳、ありがとうね」

高橋はパンパンと手を叩いて興奮冷めやまぬメンバーの注目を集めた。更に新垣が輪に加わる。
「愛ちゃん、だいたいこの辺に住んでいる人の記憶の修正終わったよ」
「ガキさん、お疲れ様やよ!すまんの~いつもいつも。
 よーし、それじゃ解散するけど、みんなリゾナントにおいで!ケーキくらいなら出すよ~」
「「「行く~」」」
特に元気な声をあげたのはリンリンと道重であった。

               *  *  *  *  *

ふぅん・・・田中さんの眼が輝いていたのはこういうことか・・・
なんだかんだ言ってあの人は戦いの中にしか身を置けないんだなぁ。フフフ
以前に比べてかなり動きにしなやかさが増していたな…田中さん、今も鍛えているようですね…

それから、私が思った以上にあの田中さんに『おともだちが』いたのね・・・
「絵里」「さゆみ」「ガキさん」「ジュンジュン」「リンリン」「小春」「光井」それに「高橋」か・・・
っていうか「小春」って芸能人の「月島きらり」じゃないのかな?とても似ているんだけどな
その「小春」の手から赤い色の雷みたいなものが出ていったように見えたけど、あれはなんだったのかしら?
あと、緑色の炎も見えたし・・・いったい何者なのかしら?あの人たちは・・・

それから、あの戦っている相手・・・『ダークネス』とか言っていたな。そして、田中さんは『リゾナンター』?
何?この戦隊ヒーローみたいなセンスのないダッサイ名前は?悪と戦う正義の味方みたいな感じ?
あぁ、格好悪くて、田中さんには似合わないわね…自分のためだけに田中さんは生きていればいいのに…

考えるたびにいらいらしてくる。戦いを楽しんでいる田中さんはいいけど、その横に誰かがいるなんて…
リゾナンターが正義の旗を掲げていたとしても、田中さんがそんな誰かのために戦うなんて…私は認めたくない。
私の手で田中さんをあの人がいるべき場所に戻してあげたいけど…一体、どうしたらいいんだろう?
      • これって嫉妬なのかな?それとも違う思いなのかな…私自身にもわからないなんて…

               *  *  *  *  *

「あんたが夏焼雅?」
ぼうっと考えていた雅は急に名前を呼ばれ虚を突かれて驚き、後ろを振り返った。
そこには背の低い金髪の女が民家の塀に寄り掛かりながら立っていた。
「あ、やっぱ、あんたが夏焼雅だね。写真とそっくりだ~キャハハ、ウケルし~」
女は懐から写真を取り出して、雅に近づいてきた。

「しかし、あんた、あの新垣の記憶操作から隠れ通すなんて、なかなかできないよ~普通じゃないね~
 さすがれいなの自称『弟子』なだけあるよ~」
『田中れいな』の名前を聞いて雅の鼻の頭がピクっと動いた。
「あなた、誰ですか?私の名前を知ってて、田中さんのことも知っているなんて」

女は私の質問に答えようとはせずに、雅の顔をしばらくじっと見つめ、ため息をつき呟いた。
「でも・・・能力はマイナスか。チェッ、せっかく楽しめるかと思ったのに、残念だな」
「なに訳わかんないこと言ってるのよ!何が目的なの?用がないなら帰ってください」

女は髪の毛をかきむしりながら、急にいらいらした口調で話し始めた。
「チッ…おいらだって、本当ならこんな仕事興味ないんだ。ボスがしろって言うから仕方なくしてやってるんだよ。
まったく、『ダークネス』きっての実力者のおいらがなんでこんな調査なんてしなきゃいけないんだか…」

「実力者?『ダークネス』って・・・プッ、アハハ」
女の愚痴のような言葉の中にあった現実とは思えない言葉に雅は思わず吹き出してしまった。
「ほんとうにいるんだ、しかも、田中さんが戦っているのがあんたみたいなものなんて、アハハ」
目の前にいる小さい女が『実力者』と言い切るような組織、そしてそのネーミングセンスが笑いのツボにハマったようだ。

雅の言葉が女の怒りの導火線に火をつけたようで、女の口調が荒くなった。
「うるせえんだよ!おいらだって本当はもっといい名前を提案したのに却下されたんだ!
 ・・・それから、おいらのことを、そして、ダークネスをなめるな!!」
そう女が周囲の空気が震えるほどの大声で叫び、雅に向かって両手を突き出してきた。

次の瞬間、見えない何かの力によって飛ばされ、彼女は地面に背中から強く叩きつけられた。

背中から叩きつけられた雅は起き上がろうとしたが、体はいうことをきかなかった。
「クッ・・・動けない・・・どうして?ウッ、ウッ・・・」
必死にもがいたが、左手が、両足が地面に打ち付けられたように全く動かなかった。

「わかった?あんたみたいな普通の子、全然怖くないんだよ。
 知らないだろうから教えてあげる。私達、ダークネスのメンバーは超能力を持ってるんだ。
 あんたみたいな普通の小娘がまとめてかかってきても構わないくらい強いのさ。
 …まあ、普通なら全然動けないのにあんたは右手が動くし、普通の人よりは強いのかもしれないわね」
女からは愛情というものが欠落し、倒れている雅を実験動物として見るような冷たさが感じられた。

「私をどうするつもりなのよ!ただじゃおかないわよ!!」
「キャハハ、そんな地面に倒れた状況でなかったら、さぞ威勢のいい台詞なんでしょうね。
 さっきまでなら何もしないで帰るつもりだったけど、バカにしたあんたには、それ相当の罰を!」
そういい女は動けない雅の腹を尖ったピンヒールで踏みつけた。

「あれぇ?どうしたのかなあ?雅ちゃん?さっきまでの威勢はどこにいったのかなぁ?」
そういいながら女は雅の腹を、足を、腕を何度も何度も執拗に蹴り続けた。
「これでも、私が弱いっていうの?ほら、どうよ?」
少しずつ意識が遠くなっているのを感じながら必死に雅は心の中で助けを求めた―誰も来ないのは分かっているのに

「これくらいでいいかな…あとで記憶操作して、すべて忘れさせればいいだろうし…」
そういい女は携帯端末を取り出し、ぶつぶつと自分以外には聞こえないはずの大きさの声で呟いた。
「しかし、思った以上に期待はずれだったわね…力の全くないただのガキだったし・・・
 ふん、田中れいなの弟子がこんなんじゃ、あれも大したことないわね」

意識が遠くなりそうになっていた雅は体を震わせながら、唯一動かすことのできた右腕で女の足首をつかんだ。
「・・・今、なんて言った!なんて言ったんだ!田中さんのことを、田中さんのことを!!
 私が誰よりも、世界中の誰よりも尊敬して、大切なあの人のことを!
 私のことは何と言ってもいい、だが、田中さんのことだけはバカにするな!」

ふつふつと煮えたぎるような怒りが雅の中を突き抜けた。
「まだ自分の置かれている立場がわからないみたいだね。だから、物分かりの悪いガキは嫌いなんだ!」
そういい女は両手を私に向けた。

(私をこんな状態にした不思議な技を使う気だ!超能力!)
敬愛する田中れいなのことを酷く言われた怒りだけが雅を動かしていた。

その怒りは唯一動かせた右手で女の足首を力いっぱい掴むという行動に反映された。
「この手を離すんだ!ふざけんなよ、小娘!!ああ、もう調査とか関係ない!メンドクサイ、いなくなれ」

周囲の景色がゆっくり回り始めたこの場でも、彼女は自分自身のことを考えていなかった。
(ここで死んだら私だけでなく田中さんの名誉も傷つけることになる。
 生き残るんだ、雅・・・自分自身のためにじゃなく、あの人の・・・田中さんのために)
生き残らなくてはならないという思いが最高潮に達した瞬間、頭の中に新しい感覚が生まれた。

それは生まれ持ったものであったが彼女の中で封じ込めれられていた『力』
命の危機を感じたこの場になって初めて認識されたれ彼女自身の有する『力』
雅は頭の中で生まれたばかりのその感覚を本能のままに『解放』した。

               (私のことを忘れてくれ!)
                     そんなことを思いながら・・・

次の瞬間、バチっと小さな音がし、雅の体を拘束していた見えない力は消えた。
先ほどまで襲いかかろうとしていた女を見ると何が起きたのか分からないように茫然としている。
雅は急いでその場から逃げようとしたが体がいうことをきかず、なかなか動かなかった。
(早くしないと、またこの女にやられてしまう…はやく、動け、私の体、もう少しだけでいいから)

そんな思いとは裏腹にさきに動いたのは女の方だった。そして、ゆっくりと雅の方に片腕をさしだした。
「あ、あれ、あんた、どうして倒れているんだ?ほら、おいらの手を掴んでいいから」
女の眼には先ほどの冷たさが全く残っておらず、困惑の色が明らかにうかんでいた。

女の口から出たまさかの言葉に雅は茫然としてしまった。
「大丈夫?ほら、あちこち怪我してるし、転んだの?キャハハ
あれ?そういえば、おいら、一体何をしていたんでしたっけ?何か大事なことをしていたと思うんだけどな~」
見事に女は自分が先ほどまでしていたことを、雅が願っていた通り、完全に忘れていた。

雅自身も何が起こったのかしばらく理解できず、蹴られ続けたお腹の痛みがジンジンと響いていた。
しかし、つい先ほど生まれた、新しい感覚だけは鮮明に残っていた。

(あの女…私が忘れろって言ったら…見事に忘れているし
 それからダークネスは超能力組織とも言っていたし、私のことをマイナスとも…
 あの女は『調査』が目的といっていたし、もしかして…)

先ほどの感覚を頭の中で再現させながら、雅は自分の左右の人差し指をゆっくりと近づけていった

パチッ

紫色に輝く小さな静電気が近づけた人差し指の間で発生し、空中に小さな電流の波が浮かび上がった

それを見ていた女が近づいてきた
「それ…どうやったの?綺麗だね?あんた、もしかしてマジシャン?」
雅は女の両腕を掴み、先ほどのように電流が流れるイメージをし、女に『今見たことを忘れる』ように念じた。

再びバチッという音がし、電流が女の体と流れた。非常に小さな電気なので、外見には変化は全く見られない。
雅が目を上げると女がキョトンとしていた。
「・・・見ましたか?」
「・・・何を?今、何かやったのか?」
「いえ、私が転んだところを。恥ずかしいので、失礼しますね」
女の瞳には嘘をついているような曇りも、雅がとっさについたを疑う光も全くなかった。
その目を見た後に雅は急いでその場から逃げ出すように駆けて離れた。

しばらくして、女はどこからともなく発生した光のゲートに入り、先ほどまでいた空き地から姿を消した。

走りながら、雅は何となく自分に生まれた力の理解をしていた
―おそらく、つかんだ相手の記憶を消去する能力である、と

「・・・あの女、記憶戻るのかしら?私のことを忘れているだけのはずだから…恨まれることはないわよね?」
ぼつりと自身のこれからの身を不安げに呟いた。

それからしばらく自分の手を何となく見ていると、ある考えが浮かんだ

「・・・もしかして、この力を使えば・・・田中さんを救いだせるかもしれない。
 いや、絶対に救いだせるわ!そうよ、そのために生まれた力なのよ!」
雅は一人で興奮し始め、顔には邪悪な笑みが浮かんだ。

「そのためには必要なことがいくつかあるわね…
 今日、リゾナントにあらかじめ行っておいたのは幸運だったわ。そして、あの戦いを見れたことも
 光井って子は確か、制服が△△高校だったわね…そして、明日は金曜日。本当に好都合ね

 どうしようかしら。次々と計画が次々とわいてくるように建てられるわ!
 きっと、このことは神様が私の計画が正しいことを示しているのね。そうね、そうに違いないわ!!」

 …せっかくだから、私のこのカワイイ能力に名前をつけてあげようかしら・・・フフフ
 なんてつけようかな・・・格好いい名前がいいわね、『ダークネス』みたいなセンスじゃなくて
 ・・・うん、決めた!私の好きな曲名にしよう!

 私の力の名前は

               『Vanishing Point―消失点―』」