『異能力番外編-Storm World-[20]』


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故郷でよく見ていた雨に似た白いモノ。
窓は靄で外を阻み、ソッと手を泳がすとヒヤリと冷たい感触。
ハァッと息を吹きかけると、白く世界は曇った。

曇った空。灰色の雲。
故郷は雪が降り、いつかの景色も、誰かの足音も、仔猫の鳴く声も
子ども達の笑う声も、きっと消してしまう。
私の吐く息は、いつだってただ真っ白で、酷く哀しい色でしかない。

―――見下ろす世界は、どこか静かに佇んでいる。





十一月下旬、天気はくもり。

空からは雪なのか雨なのか分からないモノが微かに降っていた。
唇はカサカサになり、寝癖に嫌気を差しながら愛はトボトボと歩いている。
ふと、現在高校生である二人の姿を思い出す。

まだあの子達は受験があるワケでもないが、1人は芸能人としての仕事があり
1人は進学校に通っている為、冬休みなど関係が無い。
年明けには全国模試があると嘆いている声だけが聞こえてくるだけだ。
愛と言えば、喫茶「リゾナント」の店長として務める前はほぼ現在の生活と
あまり変わらない暮らしをしていたが、『学校』というものに通った記憶は殆ど無かった。


愛は、自分の中にある勉学的知識がどれほど平凡で、平均的なやつかを自認している。
身長も小さい、運動や戦闘能力に関しては頭ひとつ抜けていたとしても
それは自分が「異能力者」だからだと思っていた。

 もしも普通の人間であったなら、そんな他愛の無い日々を過ごしていたのだろうか。

時々、その二人―――小春と愛佳が高校から出された課題を見せ合いながら解く姿を見た事がある。
何のオチも無い話をしながら向かい合う姿に微笑ましくなると同時に、自分の子供の頃の姿が重なった。
同い年くらいの子達と遊んでいる自分が。
この場所に来てから自分は上から見上げられる側にもなったし、下からも見上げられる側にもなれた。
だがどこかで、壁を感じていたのは否めない。

 まるで、自分だけ肩を並べられる人間が居ないように思えたから。

絵里や里沙、さゆみとれいな、小春と愛佳、ジュンジュンとリンリンは同じ出身国だから
それなりに通じ合えることだってあるだろう。

 ―――なら、あーしは?

『M。』から抜けて、必死に自分の"目的"へと進んできた。
だが、それを遣り遂げたとして、後に残るものってなんだろう?
一番上に立ち、皆で助け合って今まで来たが、まだ、そう―――メンバーに知られていない"秘密"という名の壁。
それが解決しない以上は、先に進むのは難しい。

"秘密"。それは、このリゾナンター自身に課せられた因縁そのもの。
多分、もしかしたら、それがどんな形で結末を迎えたとしても、愛達が築き上げてきた
「リゾナンター」という存在が、無くなってしまうかもしれない。

それほど重大な事。だからこそ、メンバーには秘密にしてきた。
だがもう、今ではそれがいつバレてしまうか分からない所までやってきていた。


 ―――"その時"が近い、そう愛の中で叫んでいる。

自分は多分、遠からずあの子達の傍から居なくなる。
それは寂しくて、哀しくて、とても辛い事だ。
それでも、あの子達が「リゾナンター」である限り、この因縁は彼女達にも繋がれる。

 光と闇に愛されし共鳴者―――"リゾナンター"
 其れに結末など無い、全てに紡がれ、全てに告げる歌詩(リリック)達

愛は自身の居場所へと変える道筋を辿りながら、聞こえてくる微かなメロディに耳を傾けた。
まるで呪文のようなそれらは何の意図もなく愛の元へと集う。
この歌詩が聞こえる限り、どこまでも道は続いていくのだ。
ふと、既に空は暗く染まり、照らし出される喫茶店のライトが視界に入った。

店内に入ると、猫の様な目をする副店長が大きな声を上げる。
そういえば、材料の買出しに行ってくると言って、既に数時間も経っているのに今気付いた。
今日もまた、いつも通りのメンバーが集まり、そしてまた違った歌詩が流れている。
だがどこか慌しいのは気のせいだろうか?
里沙が怒って何かを言っているが、それを軽く受け流してカウンターへと入ると
不意に良い匂いが漂い始めていた。

 「愛ちゃん、ちょっと味見してくれん?」
 「ちょ、道重さんちゃんと野菜は洗いましょうよぉ!」
 「亀井さん!それちゃんと根とか斬りはりました?」
 「え?これって全部食べれるんじゃないの?」
 「コラー!そこのさゆえりコンビ!アンタ達は二階で準備って言ったでしょうがぁ!
 愛ちゃんも帰って来たから、ジュンジュンとリンリンを手伝ってきなさい!」


里沙に怒られて渋々厨房から出て行く絵里とさゆみを見守りながら
小皿に入れられたスープの味見をする。
瞬間、愛の中で何処か懐かしい風味が現れた。

 「もしかしてこれ…」
 「ほら、もう冬だしさ、お鍋の時期だって田中っちと話てたのよ」
 「そしたらいきなり小春が出演した番組でお鍋セットと具材を当てて来たっちゃん。
 なら今夜はお鍋パーティしよっかって事になったけん」

さすが芸能人…と愛は内心で小春の凄さを改めて感じていたが
先ほどまで抱いていた頭の中のモヤがフッと消えたような気がした。
誰が何を言ったかなどの問題ではない。
突然の事をそれでも当たり前に受け入れる事が、愛にとって「リゾナンター」の凄さだと思えた。

 「という事で高橋さん、これお願いしまーす!」

小春が取り出したのは新鮮な魚介と、大きな蟹。
先ほどから騒いでいたのはこれだったのか。
愛の口角が引きつったのを見た里沙はただ笑うしかなかった。



 蛇口を捻る。
 冷たい水が手の平を跳ねる。
 痛いくらいの温度で、体温が徐々に下がるのを感じる。
 凍えるように冷え切っていたココロは、まるで凍死しそうなほどだったのに。

あの子達はきっと、愛にとっての太陽なのだろう。
雪のような愛を溶かしてくれる、唯一の存在達。
陽が沈んで、夜が来て、また雪で覆いつくされたとしても、きっと、溶かしてくれるだろう。


 いつかの景色を思い出す。
 ただひとり、背中が叫んでた。泣いていた。
 温かく、柔らかく、優しく抱きしめてあげたいと思えるほどに、その声は悲痛で、哀しい。
 誰かに愛されていた分、もっと愛されたくて、愛したくて。
 背中が叫び続けている。だが愛には、それを受け止められない。
 何故か?何故か。

足跡に咲いた花。いつかの風景で、―――高橋愛は、待っていた。



故郷でよく見ていた雨に似た白いモノ。
窓は靄で外を阻み、ソッと手を泳がすとヒヤリと冷たい感触。
ハァッと息を吹きかけると、白く世界は曇った。

ひとしきり終えた晩餐会の後の静けさ。
どこかが寂しげだが、それでもココロの中は温かみを帯び続ける。
グラスを傾け、愛の表情はどこか柔らかい。 

 それはどこか安心したように。

月明かりが眩い世界に手を伸ばし、空の果てへと息を吐く。
屑星がまた堕ちるかと思ったが、そんな事があるはずも無く。
愛は視線を伏せて、今度は歌詩(リリック)を鳴らした。

光を背ける事はしない。
眩しさの向こうにはきっと在るから。
唇からこぼれてく溜息が、風に滑っていく。

 ―――見下ろす世界は、どこか静かに佇んでいる。