『異能力番外編-Family game-[19]』


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この日、偶然が偶然を呼んだとしか言いようの無いメンバーが揃っていた。
光井愛佳、久住小春は高校、雑誌のインタビューで欠席。
新垣里沙は諸事情の為、数日前から店に立ち寄っていない。
結果、喫茶『リゾナント』にはマスターの高橋愛。
そして通院の寄り道として亀井絵里、付き添いの道重さゆみ。
中華料理店が定休日という事でジュンジュンとリンリン。

田中れいなは二階の通称『れいな城』で寝込んでいる―――原因は風邪だ。
今現在、地域内では普通感冒が蔓延している。たかが風邪、されど風邪、である。

「風邪は寝て治す」という言葉に基づき、愛はれいなに寝ているよう促した。
「お店は1日休んでも大丈夫やよ」という優しい心遣いからだ。
それでも「我慢できる」と言って起き上がろうとしたれいなの鳩尾に拳を入れ
強制的に布団へと転倒させたのも"あくまで優しい心遣い"だというのを忘れてはいけない。

かくして、愛かられいなが風邪だと報された面々は臨時休業した店内でお茶をしながらその話で盛り上がっていた。

 「れいなってそんなに身体弱かったっけ?」
 「絵里は不思議と風邪引かないの、まぁ病院で栄養の良いモノを食べてるからか」
 「さゆ、それって遠まわしに一人だったら栄養管理が出来ないって言ってる?」
 「中国デはカゼのトキに鶏肉をタべませン」
 「えぇっ!?何で何でっ?」
 「エイヨウの関係で余計に悪化すル。あとノドが痛イトキはピザとカ」
 「ピザはさすがに風邪の時は食べないでしょ…」
 「辛い物も食べれないんだよね。やっぱりお粥とか?」
 「ハイ、えト、中国でハ野菜のタクサン入ったのとカ」
 「何かアレだよね、中国って薬屋さんが一杯あるイメージがある」
 「何で?」
 「…何となく」


そんな会話が繰り広げられている中、厨房から愛が顔を出した。
時間はお昼過ぎ、寝むっているれいなに丁度お粥を作っていたのだ。

 「ごめんやけど皆、ちょっとお留守番頼むわ。近くのスーパーやから10分くらいで帰ってくると思うし」

それは愛がメンバーを信頼しての言葉だった。
「リゾナンター」としてリーダーを務めている愛が仲間と過ごしてきた記憶から
今其処に居る面々がこの場所を守ってくれることを知っているから告げた。
現在、サブリーダーは不在。
それでも愛は全てを信じてさゆみ、絵里、ジュンジュン、リンリンへと託す。

 「「「「いってらっしゃーい」」」」

それをしっかりと受け止め、4人は愛の出発を見送った。
財布と上着だけを持ち、中古で購入したミニバイクに跨る姿を見つめ
「瞬間移動で行けば良いのに」と思ったのは約2名。

だが愛は「人間としての行動で生活したい」という気持ちを抱いている事で
あえてそれを口にする事はしない。その心は共感できない事も無いのだから。

一瞬静寂した店内の中で、絵里が3人に手で招いた。
彼女特有のフニャフニャとした笑みがどこか期待感を抱かせる。

 「ねぇ、勝負しない?チーム戦しようよチーム戦」


その頃、二階の通称『れいな城』で気絶するように眠っているれいなはというと。

 「ん……あ、あれ?れいなどうしたと…?」



転倒した時に壁に頭を打ち付けていたれいなは原因不明の痛みを訴える鳩尾を擦りながら、周囲を見渡した。
立て掛けてあった針時計は既に正午を回っている。
ハッと我に返り、反射的にロフトから降りようとした。
だが奇妙な身体のダルさと発熱からか、手足に力が入らない。

そこでようやく自分が風邪の症状を患っていた事と、愛が自分の為にお店を休んだことを思い出す。
冷静に考えてみれば、愛にとって体調不良を訴えるれいなは足手纏いだ。
厨房で倒れても面倒を掛けるだけだし、今の状態も自分の健康管理がいけなかったから。
当然、愛はそんな事を思う人ではないのは知っている。
それでも、れいなは自分が情けない人間だと思う事しか出来なかった。
 ―――そんな時、ドアの前に感じた人の気配。

落ち込んでいた気持ちが一気に緊張へと変わる。
もしも愛だった場合はどんな顔をすれば良いのかとか、なんて声を掛ければ良いのか
という事だけが頭の中を埋め尽くしていた。
 ―――だかられいなは一瞬、反応が遅れた。

ドアが開け放たれ、其処から姿を現した人物が持つ異臭の物体に。
その半歩遅れてやって来た人物の手にも同等な其れ。

 「ねぇっ、それ絶対にヤバイってばっ、お粥の匂いじゃないじゃんっ!」
 「コレはお粥ダっ、ワタシがお粥と言えバそれはお粥になルっ!」
 「私は料理得意じゃナイ、でもジュンジュンを信じまス!」
 「ていうかジュンジュンが食べると全部「おいしい」なの。
 この前だって間違えてペットフード買って食べたら「シアワセシアワセ」って喜んでたもん」
 「こんなのワンちゃんだって食べないよ!」
 「亀井!ワタシをバカにするのカ!」


パンダにも変化していないジュンジュンが脊索動物の亀に威嚇しているかの如く咆哮し
その二匹をフォローする犬と悪態を吐くウサギ。
そんな風にしか見えないのは風邪の所為かはれいな自身にも曖昧だった。
が、分かるのは、病人の前で平気で騒ぐその非常識さからしてあの4人だと。

 「…絵里、ジュンジュン、そんな叫ばんといて」
 「あ、れいな丁度良い時にっ、ねっ、ねっ、これ食べてよっ」
 「田中!田中!コッチが先、コッチがオイシイ!」
 「まだ食べてナイでしょーっ?絶対にこっちの方が断然美味しいんだからっ」
 「あーッもーッいきなりなんッ……ぅ…」

無理。絶対に無理だ。有り得なさ過ぎる。
頭痛というのはこんな簡単にも酷くなるものなのだろうか。
二人の持つ器の中身はほぼ全てが丹念に煮込まれた所為で原型が無い。
「この材料は何でしょう?」なんて簡単に問い掛けられたくないほどの惨状が其処にあった。

 「だいたいこの異臭って何?おクスリみたい」
 「中国ノお粥ハ6千年続いてるダッ、薬膳は基本中の基本ッ。
 デモあんまり煮込めなカタ、それがチョト心配」

ちょっとじゃねぇ!とれいなは叫びたかったが、何かが彼女を制した。
料理は中途半端なモノほど危険なことは無い。
だからこれをいかにして回避するかという回答を探すのに必死だったからかもしれない。

 「でも亀井サンのよりはオイシイ、絶対にッ」
 「ムッカーッ、絵里は味見だってしたんだよ?ちゃんと美味しかったもん」
 「それは舌がおかしいダ。ならワタシのヲ食ベてみロ」
 「じゃあジュンジュンも食べてよっ」


何故かライバル同士の試食会が開かれる展開に最早付いていけない。
さゆみとリンリンは何処から取り出したのか、お菓子を摘んで他人事のように観戦している。
何だかもう、全てがどうでも良くなってきた。
れいなはボスンとロフトに倒れこむと、そのまま目を閉じた。


 ―――――――――…。
小さい頃は、良く母親に付きっ切りで看病してもらっていた。
暖かい卵粥を作ってくれたり、恐い夢を見れば子守唄を歌ってくれる。
眠れなければ不安がらないようにと眠るまで手を繋いでくれた。
ベットから布団がズレ落ちないようにと何度も何度も部屋を見に来てくれて。

忙しい筈なのに、それでも我が子の為だと母親は尽くしてくれた。
遠い過去。もう居ない幻影。夢の中でしか感じる事は無い其れは、手から
すり抜けるように何処かへ落ちていった。

真っ暗な世界。真っ暗な深淵の底。冷たい海に浸っているかのような感覚。
だが突然其処に現れた小さな光は、手の平に泳ぐように漂っていた。
―――そして、海の底から這い出してきたように目が覚める。

 「―――あ、起きたやよ」

手から温かみが無くなったかと思うと、額に当てられていたタオルが外された。
水を絞るような音と、雫の音が止んで再びヒヤリとした冷たさが額に現れる。
ぼんやりと記憶を辿り、あのまま眠ってしまったのだと気付いた。

 「…今、何時…?」
 「9時。もう皆もとっくに帰っとるで」
 「…お粥は…?」
 「お粥…あーあれか。詳しい事はさゆから聞いとるよ。まぁ、あの子達なりに
 れいなに元気になって貰いたかったんやろうし、怒らんであげてな」


愛から始終の話しを聞き、少ない材料から自分達で何か出来る事を4人は考え、実行した事を知る。 
メンバー達の"優しい心遣い"はれいなが再び寝込んでしまった事で
終止符を打たれてしまったが、ジワリと何かが心に染みていた。

 「じゃあ、何かあったら呼んでな」
 「愛ちゃん」
 「ん?」
 「…手、もう1回握っていいと?」

愛は笑顔を浮かべると、れいなの手を優しく握る。
途端、額にあったタオルを掴むと、それを視界に覆ってしまった。
人間は病気になると必要以上に弱気になると言うが、これも大切な事なのかもしれない。
自分の"弱さ"と向き合う事で、誰かの心に気付けるのだから。

 「今度は全員でれいなの風邪が治ったお祝いしよ?それまではゆっくり身体を休ませるやよ」
 「ん……」
 「…おやすみ。れいな」

愛は布団を整えると静かに二階へと降りていった。
れいなが小さな寝息を立てたのは、それからまもなくの事だった。

 ―――翌日。
 「何かあのジュンジュンのお粥を食べてから調子が良いんだよね」
 「亀井さんのもオイシカタ。今度作り方教えテくださいネー」
 「じゃあ絵里も教えてもらおうっかなー♪」

妙に仲良くなった二人を見て何があったのか分からない人間が約3名。
愛へ里沙が何があったのかを聞くと、愛はただ苦笑を浮かべるだけだった。