『異能力番外編-Will you like me?-[21]』


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ヒカリを見つめ、掃き溜めの中で立ち尽くすしかない。
右手をかざし、その眩しすぎるヒカリを遮って。

醜い私は、影に包まって眠る。
星の様な彼女達に儚い声で鳴いて。
いつだって、昨日の向こう側に皆は居た。

鮮やかに浮かんで消えて欲しいと願いながら。
あの子達の手はとても白くて、私の汚れた血を映してしまうんだ。

コレが現実。
この中で生きて、この中で息をしていく。
それを受け入れることが、生きることだと思った。

 それが全てだと。
 いつしか私は、世界にココロを鬱されていた。




 ―――粛清者(イレイザー)
 チカラによる犯罪を抑止するための法律を敷く者の総称。
 ただし研究過程で人間社会の法を犯したとしても処罰せず
 "反逆(トリーズン)"の存在が露呈する事態を引き起こす場合にのみ処罰を下す。

だがその存在も単独行動での執行をさせる訳ではない。
『ダークネス』にはもう一つ、"監視者"としての役目を負う異能力者が存在する。
"粛清者"は表立っての行動をする事が許されない。
「同士を殺す」という人間が居ると知られるのは組織として成り立たせるにはあまりにも重い。



ほぼ異能力者で構成される『ダークネス』では反乱分子、クーデーターを考える者は山ほど居る。
そういった情報でさえも耳に入れれば更なる反逆者を招くことは明らか。
つまり"組織の為の粛清者"。
それに拒否権など無い、既にその名を与えられた瞬間から、その身体が朽ちるまで
"影"として存在し、「存在しない者」として扱われる事となる。

だがそんな"粛清者"もまた、1人の異能力者として変わりは無い。
その為、組織では"粛清者の為の役目を負う"異能力者を同伴させる事を決めた。

 ―――監視者(デイウォッチ)
 粛清者が不正な行為を行わないように精神系異能力を保有する者のみの総称。
 新垣里沙は、僅か13歳にしてこの部署へと入る事となる。



流行ではない鼻歌を口ずさみながら、粛清者はテーブルの上のコーヒーカップに手を伸ばす。
英詩だが、その人はちゃんと意味を理解しているのにまるで重要ではないかのように省いていた。
ミディアムテンポのポップなメロディ。
その姿からは想像できない、まるで合わない声調な唄で笑みが毀れそうになるのを必死に堪える。

洒落たカフェに佇む"監視者"と"粛清者"。
どこか浮いている二人に、しかし誰も興味を持つ事は無い。
それともわざと気付かないフリをしているのかもしれないが。

 今ほど感情が余計なものだと感じる時間は無い。

湯気を立てるカフェオレを覗き込み、コーヒーの香りとミルクの匂いが同時に漂った。
喫茶『リゾナント』のコーヒー以外を飲む気は全く起こらない。
ただ、このカフェのカフェオレは唯一監視者―――新垣里沙が気に入っている代物ではある。
口元に運んだカップから流れる茶色の液体を含むと、ほどよい熱さと甘さが舌の上を転がり喉の奥へと流れていく。
不意に、"粛清者"がこちらを見つめ、不敵に笑った。



 「何か、最近楽しそうじゃない?」
 「そんなワケないでしょう」
 「あっちの"監視"が上手く言ってるとか?」
 「…まぁ、そんなところです」

"監視者"は唯一"粛清者"に接触できる存在。
だが別に馴れ合いなどは一切無く、あくまで"仕事"の対象物でしかない。
こうしてカフェに居ることはほぼ此処を「待合場所」としているから。
上層部の中でも数人はこの人に会う事が許されているが、それ以外は全くと言って良いほど皆無だ。

 「最近、組織内が慌しいみたいだけど、ホントに静かなときって無いわね」
 「気になりますか?」
 「ぜーんぜん。自分に関係ないことまで考えることはしないの、私」
 「もし、自分にその"役"が回ってきたら…?」
 「当然、壊すわよ。当たり前の事を聞くのね」
 「…そうですか」


打ち合わせ、という言葉で済ますよりも早く話を付けると、里沙はちらりと人間の"日常"を見つめる。
何も変わらない、穏やかで静寂した世界の中で、同じく"異能力者"も生きていた。
手足を縛られたように。見えない糸で操られながら。
与えられた唯一の環境の中で生きる存在を、人間達はどれくらい気付いているだろう?

誰かが作った環境の中で生きるしかない世界。
それは、ごく有り触れた日常なのかもしれない。
どんな環境であれ、どんな世界であれ、そこで生きる者にとってはそれが"日常"なのだ。
それは里沙にとっても、"粛清者"にとっても同じ事。



ただ、―――簡単に死ぬ事だけを許されていないだけ。
生きる場所も死ぬ場所も、生きる権利も死ぬ権利も。
ただの人形であるという事実を断ち切ることは叶わない。
だから時には、感情なんていらないと思ってしまう。
生きる為にも楽な方が良いし、都合が良い。
それでも、違う人間に生まれてきても多分、何も変わらないのだろう。
だから余計に思う、誰か、誰か私を―――。


轟、と豪風を纏った一撃が大地を粉砕する。
肌を掠める至近で風を体感した里沙は、迸る殺意に自身の戦意を重ねた。
危機的状況に呼応するように全身に火が入り、五感の全てが研ぎ澄まされる。
聴覚が砕け散る大地の一片一片の衝突音を捉え、嗅覚が漂う血臭の濃度を伝えた。

味覚が殺意に乾いた独特の空気を味わい、触覚が見えない威圧感を如実に感じ取る。
そして数秒前より鮮明になった視界に映し出される世界は―――赤銅色の処刑場。

『ダークネス』の研究機関で作られた"結界"は外界から自身の存在を遮断させると同時に
特定の異能力者を"捕縛"するという方法で使用される事も多い。
長年の研究成果により、精神作用系の能力者の方が完璧な結界を張れることから
"監視者"として選ばれる理由が此処にも存在する。
今日もまた―――"反逆"が出た。

その足元には幾つもの人影が倒れ、内訳は死体と意識不明の重傷者。
クーデターを起こした数人と大半は『ダークネス』の構成員。
慈悲など微塵も感じさせない、"粛清者"は獲物が同類であるという悟りからか
歓喜が鮮血に彩られる凶笑を飾る。



 ―――"化け物"と"化け物"の喰らい合い。
 暴力への耐え難い誘惑と、血と破壊を渇望する己の心が全てを歓喜へ誘う。

事が終わるまで、里沙はただその光景を見つめる。
今回の"反逆(トリーズン)"は念動力と透視を兼ね揃えた複合異能力者。

 透視能力(クレアボヤンス)
 その名の通り、物を見透すチカラとして発現されるが、その中でも
 遠隔透視(リモート・ビューイング)は視野の範囲内で行われるものを通常透視視野
 に入らない遠く離れた場所での映像を見ることが出来る。

そこに念動力が加わることで、標的側の防御はおろか、攻撃でさえも打つことは叶わない。
通常の構成員ならこれほどの異能力者を育成することは無いが
その正体は"暗殺者(アサシン)"だとすれば、"粛清者"も"監視者"も納得した。
だが納得しただけで―――結果が変わる事は無いが。

 「―――ウゼェんだよ!」

迫撃の結果はまさに爆発。
"粛清者"の剣幕と同時に衝撃の余波が大気を振動させ、肉の弾ける音に鮮血が散る。
歪んだ拳は白い骨が突き破り、指が倍増した錯覚を浮かばせ、清々しく破壊されていく。
"チカラ"と"チカラ"のぶつかり合いにより、威力負けをした"反逆"側が耐え切れなかったのだ。

"粛清者"もまた、"念動力"を保有する者の1人。
コードネーム"R"は悠然と見下ろし、恐慌に掛けられた"反逆(トリーズン)"が残りの
拳で薙ぎ払いにかかるものの、何も無かったように空を切る。
暴力的な欲求は破壊を存分に愉しみ、なおも苦痛の限りを与える事を要求する。
戦意の高揚に伴う破壊衝動、返り血を浴びる"粛清者"に喜悦の笑みを浮かばせた。

 「―――惨めに生き残るのと、潔く死ぬの、どっちか選ばせてあげるわ。
  前者なら贖いなさい?そうすればこの腐敗した世界も少しは楽しめるもの」



"暗殺者(アサシン)"はまるで人間のように血濡れの顔を恐怖に歪め、歯の根を震わせた。
へたり込み、惨めなその形相が愉快で仕方が無い"粛清者"。
だが戦意喪失に気付くと、表情は無機質で無感情の其れへと一変する。

 「誰でも退屈な世界は求めない。だったら―――"存在してても意味が無いと思わない?"」

―――"粛清"は終わった。
里沙は"監視者"として一通りの経緯を組織に連絡し、残りの構成員で撤収準備を進める傍ら
"反逆(トリーズン)"の姿を確認すると、その一瞬の出来事を思い出す。
念動力(サイコキネシス)のチカラによって引き千切られた傷口を晒し、首がキリキリと宙を舞う。
地面をボールのように弾み、既に生気を感じられない視線が里沙を貫く。
あまりにも無残なその姿だが、それでも目を逸らすことをしなかった。

胴体から噴水の如く鮮血が上がり、全身に血の斑点を浴びる"粛清者"の姿が忘れられない。
"粛清者"は"存在しない者"、事が終わるとその姿は視界から消えた。
余計な殺生をしないのは"R"の性分からなのか、それとも一通りを済ませる事で萎えるのか。
今回はたまたま"そんな気分"だったのか、その辺りは里沙が知る事の範囲外だった。

もうすぐ完全に処理が終わる。確認の作業も怠る事はしない。
全て闇の中で"執行"され、何も無かったように消していく。
ただそれだけ。それだけが全て。それが"日常"。

―――だから願うのに。
こんなにも願っているのに、"粛清者"は"監視者"を生かし続ける。
何の為に?組織の為に。

誰か。ねぇねぇ誰か。
身動きの取れない日常の中で深く埋もれて、闇に縛られている自分。―――誰か、私を。
変わらないモノなどない、そう思っていたのは、全て最初から狂っていたからだった。



いつもの喫茶店。いつものコーヒーの湯気の向こうに見える人影。
甘さと苦さがカウンターに広がり、窓の外に見る風景を見つめる。
陽の光に目を細め、そして静かに時間を過ごす。
ふと、新聞紙を広げる音が空間に響いた。

 「これで今月に入って六件目っちゃね」
 「『麻薬の取引現場で深夜の銃撃戦』…まーあそこまで鉄砲玉なヤツらが多いとは思わんかったな」
 「情報工作も楽やないけん」
 「その鉄砲玉っていうのはれいな達も入ってるからね」

愛はニヤリと笑みを浮かべて、開店の準備を始める。
れいなは誤魔化すように笑みを浮かべながら、何も発しない里沙に問い掛ける。

 「ガキさん何かボーッとしとるとよ。具合悪いと?」
 「え?…あぁ、うん、大丈夫大丈夫」
 「まだ風邪が治っとらんのやろ?今日も休んでも良かったのに」
 「なに言ってんのよ。2人で経営するなんてムリでしょうがぁ」
 「あ、愛ちゃん。お客さんが来たよっ」
 「具合が悪なったらちゃんと言うんやよ、ガキさん」
 「ん…ありがと」
 「じゃ、今日も喫茶『リゾナント』、開店しますっ」

カランコロン。
それは始まりを告げる鐘の音。
―――今日もまた、"日常"が始まる。