『異能力-Duelscape-[12]』


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里沙から緊急収集を受けたのは、それから一週間後の事。
愛が失踪後―――8人の憩いの場だった筈の喫茶「リゾナント」は主人を失い
扉には「Close」という文字が静かに立て掛けられている。
さゆみと絵里は何か異様な雰囲気を察知したように互いの手を硬く握り合う。
無機質に客人だと示す鈴の音が鳴り、二人は店内へと入って行く。
テーブルに椅子が上げられ、電気系統は一切電源を切られている。

ガランドゥな空間は、このたった一週間の間であまりにも変わり果てていた。
里沙が指定した先は……何故か地下にある『トレーニングルーム』
電気系統が全て遮断している所為で、そこに繋がっている通路さえも闇の中。
必死に目を凝らし、壁を手探りして進んで行く。
人が二人どうにか並んで歩ける程度の細い其処は、左右に蛇行しながら少しずつ地下へと下って行く。
さゆみが先頭を歩き、絵里は引っ張られるように一歩一歩着実に。
壁面がざらついた感触を指先に伝え、乾燥した埃っぽい空気が喉に張り付く。
微かな空気の対流音が、生物の唸りのように響き、肩を竦めた。

ようやく一番下まで辿り着くと、壁と同色の扉をスライドさせる。
唐突な光に一瞬目が眩むものの、そこは以前とまるで変わらない広い空間。
そして、まるで変わらない6人の姿が、其処にあった。

 「…これで、全員揃はりましたね」
 「で、いきなりどうしたと?いきなり皆を呼び出して…」

里沙を囲むように7人は並び、絵里はその顔ぶれを見渡した。
それは、あまりにも力の無い、言えば空虚の中にでも入り込んでしまったかのようで。
ジュンジュンとリンリンは何か余所余所しく、小春と光井はただ地面を見つめ
れいなは腕を組み、眉をひそめて不機嫌さを全開に表現している。
そんな中で、里沙は何故かいつもの戦闘服で身を包み、小さく、口を開けた。




 「…覚えてる?前さ、トーナメント形式で模擬戦したよね」
 「したっちゃけど…」
 「結局小春と田中っちが同士討ちしちゃって、ちゃんとした勝負にならなかったよね」
 「それがなん…」
 「あれ、今度はバトルロイヤル形式でやらない?」
 「は?」
 「私別に1人で良いからさ、あとの7人でどんなフォーメションでも良いから組んで」
 「……新垣さん、こんな時に何を…」
 「ちなみにこれ…」

ドン!
鈍い音が、空間に木霊した。愛佳の声はその音によって阻まれ、強制的に遮断される。
れいなの身体が後方に吹き飛び、その光景を6人はただただ見詰めていた。
喉元めがけて踏み込みざまに右の突き。
最悪の場合、致命傷になりかねないその攻撃を、里沙は躊躇無く放った。
れいなは辛うじて腕で防御したものの、反動までは殺しきれない。

 「最後の1人になるまで続けるから」



虚空に閃く爪の刃。空間を穿つ電撃の槍。世界を瓦解するように揺れる衝撃波 。
時空を把握し、回避への道筋を形成する。
傷を癒し傷を受け入れ、空気中の熱を奪い、防御結界、及び業火を放射。
それを、里沙は体術のみで組み伏せる。右足がすっと後ろに半歩引かれ、重心が深く沈む。
体重を一切感じさせない、流水のような其の挙動は、一気に眼前の人間を迎え撃つ。
―――瞬間、白黒の巨体が大きく揺れた。



防御運動によって生じた死角の隙間から滑り込んだ右足が、李純の膝関節を容赦なく撃ち抜いていた。
骨折とまではいかないが、ヒビが入っているのは明らか。
とっさに後ずさり、それに呼応するようにさゆみがチカラを行使する。
だが里沙は止まらない、身体の回転と曲線軌道を巧みに取り入れたその動きは
通常の軍隊格闘術とは明らかに異なる概念に基づいて構築されていた。
陽炎のように揺らめく里沙の姿を背後から狙っていたれいなの視界には既に無い。
爪先を軸に体全体が螺旋を描き、れいなの突き出された拳を掻い潜る。

驚愕の色を隠せないれいなは、圧倒的な差を感じていた。
筋肉、関節、重心運動―――人体という機械の性能を極限まで利用したその動きは芸術の域。
独自に作り上げたれいなの技術よりも遥かに優れた其れは、誰もが息を呑んだ。

途端、鋭く伸ばされた人差し指と中指が、一直線にれいなの左目に襲い掛かる。
肉体、意識が反応するよりも早く本能が導き出す。
指はれいなの頬を浅く掠め、その死角から飛び出すリンリンが里沙に触れようとした。
―――だがその時には既に、里沙の足が唸りを上げている。

不安定な態勢から繰り出された蹴りはしかし、リンリンの細い身体を弾き飛ばすのには十分。
壁にぶつかる直前、空中で一転し、床に膝をつく。
腹部にのしかかる嘔吐感を堪えながら、リンリンは衝撃波を放つ。
その一撃を飛び退って交わす里沙は空中で一息に身を捻り、7人と対峙する格好で着地を決めた。

 「…小春ぅ、あんた銃刀法違反で捕まっても知らないよ?」
 「心配無用です。これもチカラの使い方次第でしょ?新垣さん」



小春の手には朱色に染まった刀身が握られていた。
両手で包み込まれた無数の乾電池により、膨大な放電現象が暴発。
後は自分が描くラインによって閃光を整えるだけ。
だがその長さを長時間もの維持し続けることは出来ない。
言えば静電気ほどの現象を無理やり引き出しているのだから、疲労とチカラの消耗は激しい。
今でさえ、その強力過ぎる凶器を形成するだけで額に汗を滲ませている。

 「…一気に決めるつもり?」
 「逃げた方が良いですよ、小春も、後の事は分かりませんから」

―――小春は咆哮する。
それに呼応するように電光の剣は威力を増し、やがて世界は『光』に包まれた。
小春の意志を無視して両腕が跳ね上がり、両手で構えられた剣の先端が眼前の里沙へと襲い掛かる。
体が宙に浮き、衝撃を殺す間もなく立ち上がって行く。
振り下ろされた切っ先はまるで生物のように爆ぜて四方から突撃した。

―――そして、全ては一瞬で"霧散"する。

電光の剣を振り下ろした位置に里沙が居ない事に気付くのと、右方に出現した
拳が逆に小春の左腕めがけて突き出されるのはほぼ同時。
回避することも叶わず、肘の裏側に指先が触れる感覚。
瞬間、先程発現した筈の電撃が何事も無かったかのように縮小し
小春の全ての感覚を失った左腕はだらりと身体の横に垂れ下がった。
黒い鉄屑と化した乾電池が煙を上げながら落下の衝撃で粉砕し
驚愕の色を浮かべる小春は、里沙の手を見つめて更に困惑の色を見せる。

―――それは、"誰か"の朱色に染まり、"白い"何かが纏う。
 もっと言えばそれは、肘周辺の血管と神経組織を根こそぎ破壊された残骸。



慌ててさゆみが駆け寄った時、「ひっ」という小さな悲鳴が上がった。
服にも皮膚にも異常は何も異変は無いのに。
腕の内部、丁度里沙が触れたその一帯が、内出血でどす黒く変色しているのだ。
思わず小春はその場にへたり込み、さゆみは直視しないようにチカラを行使する。

 「…皆、本気でやって無いでしょ?一人だからって遠慮してるワケ?」
 「そ、そんなん…ワケ分からんからやろっ。だいたい、何でガキさんと戦わんとあかんと!?」
 「模擬戦だって言ったでしょ?本気で来ないと意味無いでしょうが」
 「こんな事態にするのがワケ分かんないです。こんな、こんな事…」
 「…こんな事態だから戦う必要があるんだよ、カメ」
 「ドウイウことですカ?」
 「このチカラはね、私のじゃないんだよ」

血に染まった手を眺めながら、リンリンの問いに里沙は答える。
先程のはあさ美から受け取った視た能力を一度だけ行使する事が出来る空間を再現する結界と
報告分の小春の幻術を応用し、あたかも『新垣里沙』がそれを駆使した様に見せただけ。
だがこれで十分。精神系能力者が体術には不向きなのは里沙自身が良く分かっている。
だが駆使していた事実が変わるわけではない、全身の労力はそのままであり
ここ一週間の寝不足と重なって先程の能力を使った時点で限界の域を達してしまった。

 ―――彼女のチカラは、それほど普通の人間にとっては異常だった。

 「…ごめん、後で話す。とりあえず眠らせ…て…」
 「っ!?ガキさん!」

倒れこんだ里沙をジュンジュンが支え、7人はその寝顔を見つめる。
その悲痛の表情は、まるで迷子になった子供の様だと思った。