『異能力-Killing Field-[4]』


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ヒトの思想は個々に存在する。
例えば理想、例えば世界。
心理的空間を意味する多義的な其れは、いつしか"具現化"する事を望む。

"再生"と"破壊"という憂き世の迷宮を歩き続け。
蒼き世界へ渇仰した果ての先。

 『何してんの?そんな思いつめた顔してぼーっと立っちゃって』

―――『共鳴』とは、『光』にも『闇』にも成りえる奇蹟。
  そして同時に、それこそが世界の"抑止力"。

―――"抑止力"は佇み、微笑を浮かべた。




 治癒能力(ヒーリング)

身体の持つ自己治癒能力に精神力を掛け合わせて疲労や傷を癒す力。
それは魔法の類にも近い奇跡であり、現代の科学技術でも再現不可能だとされている。
実現不可能な出来事を可能とするのが『魔法』であり
時間と資金をかければ実現できる"結果"では『魔術』だ。

故に魔法という名の奇跡をさす。
ダークネスでさえも物質による変換で再現を可能としているが
機械の演算速度と人間の脳とでは格が違う。
異能力が万物の霊長と呼ばれるヒトの中に溢れる"可能性"であるなら尚更。

そしてこれにはもう一つ、"隠された要素"が在る。
その事を、本人自身はまだ自覚していない。

 「…さゆみ達は光を見つけた。かけがえのない光を」

言い放ち、ミティを見据えた。
瞳の中で輝く意志が貫かんとしているように。

 「やっと"出てきたな"。シゲさんじゃあ対等に話すのは難しいからね」
 「…だからその子を操り、この子を傷つけるようなマネをしたと?」
 「そう。アンタは言わばシゲさんの"別世界"だからね。
 そこから引きずり出すにはこれが一番効果的だったわけ。
 あとアンタには前のお礼が残ってる」
 「…最低ですね、アナタは」
 「それほどアンタには価値があるって事だよ、"さえみ"さん?」




解離性同一性障害というのがある。
人間は自我を守るために心的外傷を自分とは違う「別の誰か」に
起こったことだとして記憶や意識、知覚などを高度に解離してしまうことがある。

そしてその「誰か」は独立した性質を持ち、さゆみの"世界"で生まれた人格。
―――『破壊』という心理空間から成りえた血縁の無い"姉"として"具現化"した。

 物質崩壊(イクサシブ・ヒーリング)

それはまさに物質の消滅を司る破壊の総称。
対象は元素から構成される固体、液体あるいは気体の状態をとる物体。
果てには元素の根源となる素粒子にまで及ぶ。
当然、人体さえも対象内である。

自身で認識できる物質全てを破滅へと導くそれはまさに、『闇』の無限回廊。
世界を分解し消滅させる異能力。

 ―――全て消えてなくなればいいという願望から生まれた奇蹟の産物である。

 「アンタはつまるところシゲさんの『闇』の部分なんだから
 その気になれば内側から主人格の世界を潰すことだって出来るでしょ?」
 「それをあの子は望んでない」
 「シゲさんがじゃなくて、アンタはそう望んでないワケ?独立した存在なら
 そう願うことだってあると思うけど?」
 「…主人格が無くなればこの世界のバランスが崩れる。
 そうなれば遅かれ早かれ、私は消えるわ」
 「だからシゲさんを殺せない…と?」
 「それもあるけど…」
 「けど?」


"さえみ"は何かを思い出したように笑みを浮かべた。
それはあまりにも、小さな光。
小さ過ぎて、最初は全く気にも留めなかった。

だがさゆみの親友である彼女が自身への重みに耐えかねたあの時。
真っ先に気付いてくれたのが彼女だった。
そして、いつも気遣ってくれた仲間が居た。

小さな光はやがて大きなものへと輝きを増し、さゆみ達を導いた。
眩しくて目を閉じたくなるときもあった。
一緒に進むことも億劫になるときもあった。

それでも、いつも隣でその手を握り締めてくれた光が居た。
優しく、暖かく、包み込んでくれる大きな存在が。

 「私は見てみたいの。その光の先に何があるのか」

相克し相反する二つの真実。
『闇』と『光』の違い。
自身が『破壊』という闇を持っていたとしても、さゆみは必要としてくれた。
それは諦めなどでも、畏怖でもない。
"姉"として愛してくれたのだ。

 ―――お姉ちゃん・・・ありがとう・・・

ただ、それだけ。


 「『共存』…ね、まぁそっちからしてみれば、私達は『闇』みたいなモノなんだろうな」
 「…でも、どこか違う。貴方達には不明瞭な点が多すぎる」

巨大組織ダークネス。その内部はあまりにも異質だ。
統一性の欠片も無い犯罪の数々。
構成員の数さえも不明、首領さえも不明。
しかも決まってリゾナンターの出動範囲内で起こる。

 まるでそれは、"リゾナンターの為に"起こしているかのような。

 「一番気になったのは、組織の幹部達が元々『M。』であるのにも関わらず
 何故仲間を裏切ってまで『闇』に染まったのか」
 「なんだ、そこまで分かってるんだ?残念だけど、それに答える気はない。
 …元から『闇』なアンタには分かんないよ。人間はそんな簡単なものじゃない」
 「えっ?」

ヒュッ。  ドサッ。

 「……ぅっ……っ」
 「っ…絵里!」

ミティは絵里の服を掴み上げると、"さえみ"の居るゴンドラへと放り投げた。
受け止めた反動で態勢を崩し、強く腰を打ち付ける。
胸の中に居る彼女は微弱な息を吐き、肌の色は真っ青に変色していく。
同じ傷を受けていてもさゆみには治癒能力によって自己回復が早い。
だが対して絵里のダメージはあまりにも深く、それを止める術も彼女には無かった。


 「さっさとシゲさんに戻らないと死ぬよ?アンタには『破壊』しか無いんだから」
 「…っ、待って!まだ話は…っ!」
 「あとここに仕掛けた人避けの結界はあと10分しかもたないから
 今の内に降りた方が良いかもね」
 「っ、あなたたちのやっている事は決して赦されない。
 それを続けていくっていうなら、私も容赦はしない」
 「上等、別に赦されたいなんて思ってないから。アンタとは別の意味で気が合いそうだよ」

そう言って、ミティは黒いローブを翻したかと思うと、その姿を消していた。
まるで闇の中に同化したかのようだったが、何かの道具でも使ったのだろう。
同時に、さゆみ達の居るゴンドラが地上の近くへと迫っていることを知り、"さえみ"
は瞬時にさゆみへと戻った。

 「…あれ、私……っ!?絵里!」

補足として、解離性同一性障害は一度「誰か」になると、主人格への記憶には残らない。
記憶や意識の喪失が顕著し、高度な同一性の疾患な為に別人格へと移行するからだ。
それは心的外傷の被害を主人格が防ぐための抵抗とも言える。



 「…ん、ぁ……さゆ?」
 「絵里…良かった……ホントに…」

そこは観覧車からそう遠く離れていない場所にあるベンチ。
ミティの言う結界はその言葉どおり10分後にその機能を停止し、嘘のように人が集まり始めた。
だが傷を治したまでは良かったが、眠ったままの絵里を一人で運ぶのには無理がある。

 「!さゆ、傷は…っ!」
 「ん、大丈夫。すぐに治したから」
 「良かった……ごめんね、さゆ」
 「絵里が無事なら良いよ。それに全然悪くないんだから」
 「うん……」
 「まさかこんな接触方法を取るなんて、さすが行動が大胆というか…」

不意に聞こえたリーダーの声。
見ると、さゆみの隣で頬を掻く愛の姿があった。

 「愛ちゃん…なんで…」
 「や、まぁ、声が聞こえて、小春の念写で場所を特定して、瞬間移動でダッシュみたいな?」
 「アバウト…。でも愛ちゃんが来てくれてホントに良かった…」

ありがとうございます。
そうさゆみは頭を下げ、絵里もそれに習って頭を下げる。
ただ愛は苦笑いを浮かべるだけで、二人の傷があった所をソッと触れる。


 「ごめんな…。辛かったやろ…?」

 自分がもう少し早く来れていれば。

先程の能天気な声とは違う、あまりにも小さくて壊れてしまいそうなそれ。
さゆみは何か声を掛けようとしたが、その細い指が小さく震えている事に気付く。
心なしか瞳はいっそう輝きを増したようにも思えた。

 優しすぎるその心は、今も尚誰かの声を聞いているのだろうか。

それが混同したかのように流れる雫は小さな光のようで。
さゆみは愛の手を掴み、握り締めた。
絵里もまた、もう一つの手を掴んで握り締める。

 治癒能力は癒すことであり、また心への同調だ。

二人は『共鳴』する、たった一つの希望へと。
その儚く、脆い光へと少しでも近くに居て上げられるように。

 だが、さゆみは気付かない。
 優しさが自身を『孤独』へと誘った元凶であることを。

 絵里は気付かない。
 その『繋がり』を持つことで、更なる"チカラ"を求めることを。

そうして、運命の車輪は回転を始めた。
この世に幾重の絶望があることを知りながら。