『異能力-Weight of life-[3]』


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死とは生まれた瞬間に定められた存在限界であり
死とはやがて訪れるものではなく既に内包しているものである。
その世界の秩序を覆すことは不可能に近い。

だからある者は不死を求めた。
だからある者は自身の価値を求めた。
それがただの自己満足であったとしても、存在理由を求め続けた。

死の受容。
触れた瞬間、人は理由を模索する。
この広い世界の中で、ポツリと佇む自分自身はどう在るべきか。




 傷の共有(インジュリー・シンクロナイズ)

それはテレパシーや精神感応という同調能力と酷似する異能。
人体の情報構造を理解し、対象者の情報すべてを取り込み、支配する。
だが絵里の場合、外部から接触し、起こりうる『傷』のみが対象範囲として支配することが出来た。

 それは異端の中の異端。

治癒系ならまだ分かる。
情報構造を直接支配し、修復をするという事に関しては納得が行く。
だが『痛覚』や『傷』を同調するという事は、すなわち自身にもそれが伝わる。

イレギュラー。もはやそれは、自己の破壊衝動に他ならない。
自身を自身で殺してしまうかもしれない異能力は、あのダークネスでさえ考えなかった。
否、理解が出来なかった。

自身を身代わりに相手への攻撃などは自殺行為に等しい。
それ以上に自身に傷を付けるという愚かな考えさえも思いつく人間は、常人では有り得ない。

 つまり、亀井絵里は"異常"だと思われている。
 自己犠牲による救いなど、ただの自己満足に過ぎないと。
 そしてこの異能を生まれもった事実はまさに―――原初の呪いでしかない。

同時に、亀井絵里の体内には"欠陥"がある。




『心臓性喘息』と診断されたそれは、主に感染症やストレスからの誘引が多い。
心臓のポンプ機能の急速な低下によって肺のうっ血が起こり
激しい呼吸困難・咳・血性痰・頻脈とそれによる動悸などの症状が現れる。
その発症は夜間。

異能力とは万物の霊長と呼ばれるヒトの中に溢れる"可能性"という名の奇蹟。
それが何らかの原因で外部に発現、"具現化"されるのだとするなら。

―――ヒトとしての種属を維持するための一種の自然淘汰なのかもしれない。

想う。
闇の中で、絵里は必死に戦った。自身の中にある"傷"に呑まれない為に。

あの日。
クラスの男子たちに校舎の裏に呼び出され、暴言を吐かれるのをただ耐えていたあの時。
突き飛ばされ、転倒し、頭部を石で強打した、あの瞬間から。
―――闇は、すぐ隣に在る事を知った。

否、既に生まれたときから、其処には存在していたのだ。
相手を傷つけて、自身さえも傷つける呪い。そこに救いなど無い。
ただただ、何も出来ずに闇の中へ引き摺り込まれるだけ。

―――その時から、思っていたのかもしれない。

 『自由』を。




白い壁、白い世界、白い檻の中から見つめていた果てしなき青空。
そこへ飛んで行きたい。
そこがどんな場所なのか分かっていた。
それでも、こんな孤独の世界で生き続けるよりも、本当の世界の中で…。

―――借り物の世界から、あの蒼き輝く場所へ。

 「何してんの?そんな思いつめた顔してぼーっと立っちゃって」

それは、ちょっとした嫌味だったのかもしれない。
あんなにも美しい世界に今まさに旅立とうとしている後姿を見て。

焦がれる光を、独り占めして欲しくなくて…―――。




 「…ぇ?」

其処は暗夜の中。
呟いた声さえもそれに呑み込まれたかのように一瞬で消えた。
突如、自身の声よりも遥かに大きな、叫びが木霊する。

 「絵里!」

それは聞き慣れた声。
それは見慣れた姿。
それは嗅ぎ慣れた―――血の匂い。

 「さ……ゆ…?」
 「あっ、いいところだったのに…やっぱり本物とまでは行かないか…」
 「な……なに……っ?」

それは、あの日に見た光景とはまるで違った。
濁る暗闇の中で点々とした光が埋め尽くされ、街全体が見渡せるほど高度な場所。
下はあまりにも不安定で、少しでも態勢を崩せば落下する。

 ―――其処は、観覧車のゴンドラの上。
 さゆみと遊びに来た事がある、あの遊園地のシンボルだった。

 「何で…絵里…どうして…っ」




頭の中が混乱する。思考が困惑し、今度は徐々に恐怖で足がすくんだ。
何故自分がここに居るのかも曖昧な中で、通常の思考など皆無に等しい。

 「風使い(ウィンド・アニピュレート)、さすが自然エネルギーを操れる異能力。
 こんな場所にでも連れてきてくれるんだから惜しいチカラだよなぁ」

意外な声が先程から聞こえてくる。
後ろを振り返ると、そこには黒いローブで身体を纏う女性。
何故、この人がここに居るのだろう。

 「藤本…さん?」
 「…その名前で呼ぶなって言わなかった?」
 「ぐっ……!」

首を掴まれ、強制的に観覧車の上から浮かされて空中に放り出される。
離せば、身体は重力に耐え切れずに落下するだろう。
だが何かを仕掛けられたのか、身体の機能という機能が全く働かない。
脳裏には畏怖しか浮かばず、絵里はただただ苦しさから逃れようと足をばたつかせるだけ。

 「絵里を放してください!」
 「私の趣味として可決されたからねぇ、こんな良い犬、遊ばないと勿体無い」
 「そんなのっ…っ…!」
 「あらら、下手に動くと出血多量で死んじゃうよ?ま、治癒能力を使うっていうなら
 コイツが代わりに死んじゃうけどね」




そう言い、首を掴む手が一瞬緩んだが、また異常なチカラで押し潰そうと握り込まれる。
乾いた声が空しく風に呑まれるだけで、声さえも出てこない。

辛うじてさゆみの方へ視線を向けた絵里は―――驚愕した。
四肢から流れる出血は、いずれも頚動脈ギリギリの箇所から溢れている。
誰もが見ても、それは放っておけば命に関わるのは明らか。

そして、気付く。何故自分の身体が張り付けられた様に機能を停止しているのか。
…動くはずも、無かった。

 ―――さゆみと同様に四肢を自身が持つナイフで切断していたのだから。

 「傷の共有(インジュリー・シンクロナイズ)に風使い(ウィンド・アニピュレート)。
 同調能力にしては愛ちゃんやガキさんの比じゃない。
 イレギュラー中のイレギュラー…存在自体が呪い…か」

愛のように初めから調節された『人造』の能力者でもなく。
里沙のようにダークネスで訓練を積んだ訳でもない、ただの人間が保有する異能。
だが当然そのチカラはあまりにも微弱で、攻撃、防御にしても脆い。

それでも、あちらにはあの田中れいなが居る。
彼女の根源から生まれたこの能力は、科学的にあまりにも未知数だった。

 「―――『共鳴』とは、『光』にも『闇』にも成りえる奇蹟」
 「な……に……?」
 「原初の呪いは決して解けないよ。それはまるで不死のように。
 私は氷の魔女、ミティ。人の道を外したら、それはもう人じゃない」




ドサリ。

 「か…っ…は……ゲホッ…ゲホッ…」
 「!?絵里!」

ミティの足元で蹲る絵里。同時に、胸部に異変を来たしたのか、グッと服を握り締めている。

―――さゆみの脳裏に過ぎる、絵里の病魔。

痛みに耐えながら立ち上がり、絵里とミティの居るゴンドラへと飛び移るろうとするが
回り続けることでさゆみの居るゴンドラからはもう不可能だった。
自身の身体能力は痛いほど把握している為、口を強く噛み締める。
それによって、さゆみはミティを見上げるような体勢になった。

 纏う冷たい空気はチカラだけではない。
 見下ろす冷ややかな瞳はまさに蒼氷の輝きを放ち、貫かんと殺気立つ。

―――お前達は何を信じて此処まで来た?
人で無いと理解していながら、何故人として生きている?

ミティは問う。

死の受容。
触れた瞬間、人は理由を模索する。
この広い世界の中で、ポツリと佇む自分自身はどう在るべきか。




「闇」として生きる者と、「光」として生きる者。
何故、同じ"呪い"を持ちながらこちらに来なかったのか。
何故、苦しみながら人としての道を足掻いてもがいて進み続けるのか。

 「…さゆみ達は光を見つけた。かけがえのない光を」

血に濡れた顔に浮かぶ意志の光。
たった一つの希望を示すように、さゆみは『闇』を静かに見つめる。