『異能力-Blanker of the night-[2]』


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人は何故、何かを犠牲にしなければ生きられないのか。
その問いは人の世の終わりまで永久に繰り返されるだろう。
願望や欲望を持つ人間は、それが例え自分自身であっても惜しむ事はない。

願望とは動機だ。
そして、「生」と「死」の狭間に存在する真理だ。

願いはやがて形と成り、一代限りで終わる偶発的な発現者が生まれる。
後にそれは異能力者と呼ばれ、先天的な自然干渉法の能力を使用することが出来た。

  ―――だが中には、人の手によって後天的に覚醒された者も居る。



 共鳴増幅能力(リゾナント・アンプリファイア)。

その名の通り、異能力者のを増幅させる力ではあるものの、つまりそれは人間型の増設タンクだ。
他人の思想、信条に共感するとされる「共鳴」は、お互いの波長が合わなければ成り立たない。
その為、能力を増幅する為には、れいな自身に『受け入れられた』対象者だけに制限される。

能力によっては、その能力によって本来発揮できなかったチカラさえも実現は可能。
だが、その元となるものは「田中れいな」という固体から生み出される為
無理な使い方をすれば、れいな自身も共鳴している相手にも負担が掛かる。

そして、この働きは常人には当然備わっていない。
ここからの事実は、以前、あさ美に両親の事を告げられた一件で、れいな自身が調べた情報の一部である。




ダークネスの配下に複数存在する研究機関の中に、『黒血』と呼ばれるものが開発されていた。
その正体は、分子レベルで特殊な回路を組み込まれた原型細胞の集合体。

僅か数名の研究員によって作業は全て極秘裏に進み、その具体的な内容は最高幹部級の
人間にしか知らされる事はなかった。
何故ならそれは、『生物学的操作』という、人間の肉体そのものに影響を来たす、つまり
異能力者の根源と言えるほどの代物だった。

肉体を、自身を殺人兵器と呼ばれるべき存在とさえ可能にするその計画は当然外部に漏れる事は許されない。

だがそれは、あまりにも無謀な賭けだった。
原型細胞の集合体。
人は全て細胞の構成によって成り立っている。
『黒血』の埋め込みは無事に成功したが、問題はその後にあった。




 ―――拒絶反応。

本来の人間部分が異物として拒絶する現象。

無論、研究者も予測はしていた事であり、極限までその現象を押さえ込む為に
披験体には可能な限りの処置も既に施されていた。
だが、どんな手段を用いたとしても、反応を完璧に消滅させることは不可能に近い。

『人間部分』の抵抗は『黒血』による攻撃とみなされて対抗進化を始める。
体組織の内部に独自の回路を形成し、拒絶反応を抑えようとするが、進化した
『黒血』に人体はさらに過激に反応し、その反応がまたさらなる進化を誘発。

その連鎖反応の末路は、全身が『黒血』に支配され、脳を浸食される。

 ―――それが、『暴走』という殺戮兵器への覚醒。




つまりれいなの持つ共鳴増幅能力(リゾナント・アンプリファイア)とは、元々
その『黒血』の補佐的役割の為に開発された一種の原型細胞だったのかもしれない。

今はまだ、その予兆さえもないが、今後無いとも限らない。
もしかしたら開発にあたった両親が何か細工したのかもしれないが、今それを知る術は無い。
二人がどんな思いでそのチカラを娘に与えたのかも。

だがこの"チカラ"のおかげで、れいなはたった一人でこの世界で生きてきたのも事実だった。
自分の身体そのものが増設タンク、つまり増幅器だとするなら身体能力の促進にも繋がる。
物心ついた時から小さい体つきと華奢な姿であった為に、小学校や中学校でも
からかう同級生、上級生はたくさん居た。

その上、孤児というレッテルが貼られることで、それはどんどん膨張していく。
生意気だと暴言も投げ掛けられたし、陰湿ないじめもあった。

全ては"チカラ"だと思っていた。
自分の中に在る"何か"にも気付いていたものの、それを手放す事は出来なかった。
例え闇の中でも、これさえあれば生きて行けると腹を括っていたのかもしれない。




 「―――こんな時間に出歩いてたら、通り魔とかに襲われるよ?」
 「似たような人が言う言葉でもないと思いますけど?」
 「あはっ、言うようになったねぇ」

そしてここに、もう一つの事実がある。
その『黒血』の拒絶反応という欠陥を修正する為に、すぐに次のプロジェクトが立ち上がった。
普通の人間に『黒血』を繋げるのではなく、初めから『人間』と『黒血』の混合体を
作り上げ、成長段階で二つの部分をすり合わせるのはどうか、と。

内部で育成される被験体には偽造された記憶を植え付け、外部への脱出
や、自動的に機能を停止させる"制限"さえも組み込まれた。

そして、ようやく成功した異能力者はたったの二人。
だが、その一人は『殺害』され、事実上成功例はたったの一人。

 ―――後にこれが、愛の主力である瞬間移動(エレポーテーション)や
  光使い(フォトン・マニピュレート)能力開発のきっかけとなる。




 「…後藤さんのその翼は、『黒血』の産物なんですね」
 「そ、『黒血』と人体の齟齬を修正するためだけに作られた人造人間。
 今はあそこの組織が作った薬で『暴走』なんてものは無いけどね」
 「その『暴走』で自分の同胞を殺したのに、随分余裕ですね」
 「あんなの、あたしがまだ生まれたすぐだからカウントしないよ」

 それに、今じゃそれ以上の人数を殺してるんだからさ。

背中から剥き出された翼はまるで蝙蝠のソレと似ている。
すでに制御方法はほぼ熟知しているのだろう。
無機質に輝くそれは微弱ながらも個々の生命を持っているように見えた。

能天気なまでのその口調は、どこか懐かしさまで覚えさせられる。
れいながまだ野良猫だった頃に出会ってからダークネスの一員であることを知るまで
間接的ながらも何度か連絡を取っていたのだから。

だが絶対に屈したりはしない。
あちら側に立ってしまった人間に情はあまりにも危険すぎるからだ。




 「紺野から全部聞いてるみたいだけど、話にのるの?」
 「…能力の消去…ですか?」
 「その事実を知ってるのはあたし達とれいなと…高橋も知ってるね」
 「………」

i914。
ダークネスで生まれた異能力者。
だがその詳細を、愛は何も教えてはくれなかった。

だから自分で真実を調べた。
時には違法的手段を使ったし、裏世界と繋がりを持つ人間にも交渉した。
メンバーを信頼していない訳じゃない。
でも、どうしても一人で調べたかったのだ。

自身の両親が関係している出来事。
人の手で創られた異能力者と呼ばれる人間の正体を。
そして、何故そんな研究に携わっていたのか。
あんなにも優しかった二人。
あんなにも子供想いだった二人。

そんな二人が、残酷な人体実験を行っていた。
れいなと同じ年の子供達で、殺人兵器を作っていた。




それはあまりにも哀しくて、哀し過ぎて。
そこにある『幸福』だけでは飽き足らなかった両親が、憐れだった。

もしかしたら、自分も本当は実験体なのかもしれない。
それを何かの理由で両親だと偽り、育てたのかもしれない。
自分たちでその実験体を育成するのは、どんな気分だっただろう。
愛情さえも、優しい言葉さえも全部偽って接して信頼させて―――!!!

そして、れいなの"光"さえも奪おうとしている。
それを取り返すためには、あさ美の言うとおり―――。

 ―――"れいな、あんたはここに必要や"

 「…後藤さんは、何でここに来たんですか?」
 「まぁ、一緒に来るかどうかの確認をしにね」
 「無理やりにでも連れて行けばいいでしょう?じゃないと後藤さんの
 命だっていつまでもつか…っ」
 「人間だって、いつ死ぬか分からない。もしかしたらそれは一秒後かもしれないし
 十年後かもしれない」




 ―――"こんな力なんて要らんって。ずっと思ってきたし、
   これからもその気持ちが無いって言えばそれは全部ウソになるわ"

 「だからあたしはそんな事に興味は無いよ。ただ、見てみたくてね。
 その事実を知って困惑する野良猫はどんな行動を取るのか」

 ―――"何かの違いを認め合えん限り、 あーしらはいつまでたっても孤独や"

 「紺野は能力の無い世界を求めてダークネスに入った。
 対して、リゾナンターのリーダーや自分が爆弾を抱えると知った今、何を求める?」

 ―――"積極的に受け取ることなんて難しいけど
   この力を持ってしまったことさえ、意味があるって信じたい"

 「自分を裏切っていたかもしれない両親の復讐の念でも込めて
 能力消去の実験体になる道でも歩む?」

 ―――"れいなは、やらんよ。あーしら、仲間やろ"




 「ま、れいなが決めることだから良いけど、それじゃああまりにもつまらない」
 「ぇ…?」
 「製造番号"g923"、人間も兵器も能力者も同じだよ。ただ在り方の違いってだけ。
 その中でれいなは、今どこに居るのかな?」

言って、真希は闇の中へと消えた。
不意に、今自分が繁華街のど真ん中にいる事に気付く。
まるで時間が停止していたかのような錯覚を感じたが、あの人ならそんな不思議な
事もやってのけるのだろう、と思う事にした。

 「自分の…在り方…」

何故自分がここに居るのか。
何故、愛達と出会ってしまったのか。
それが全て『共鳴』の"チカラ"であれば、れいなもまた、何かの在り方を持っているのだろうか。
この道で無ければいけない理由があるのだろうか。

 分からない、だけど確かな事は、れいなは何かを選ばなくてはいけないという事。

れいなは静かに振り返り、道を歩んでいく。
闇夜に浮かぶ世界で、誰かの願いが小さく木霊していた。