9-5


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。


魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」9-5


728 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 21:04:24.44 ID:F.ztGjEP
土木子弟「元々開門都市は片目の神や無名の神を始め
 いくつもの神殿やほこらがあります。
 ことに都市を囲む九つの丘に建てられた神殿は作りも強固で
 要塞と言っても通用するほどですよ。
 さいわい、例の街道を通すはずだった山の切り通しから
 石材はいくらでも出てきますからね。
 まずは神殿の補修です」

中年商人「しかし、そんなことをしていて間に合うのですか」

土木子弟「この図を見てください」

火竜公女「ふむ」
中年商人「この近辺ですな?」

土木子弟「この九つの神殿とその敷地を防壁で囲み、
 それらの防壁を重ねるように、都市そのものの防壁を
 伸ばしていくのです。
 確かに距離は多少長くなり、作業量も増えますが
 元から有る神殿の壁を利用できるために全体での
 作業量は減るはずです。
 神殿の補修と言うことであれば、それぞれを信じている
 氏族の方にも手伝っていただけますしね。
 寄付もあつめやすい。
 いただいた資金は、全て食料を買ってしまいましたよ。
 働いていただいた方には、日当よりも、
 食事を腹一杯食べてもらう。そう言う方式にしました」

火竜公女「働いている方も、楽しそうだ」

中年商人「何とか動き始めましたか……」

土木子弟「ええ。自治委員会を説得するにしろ
 ある程度形や現場がないと難しいようですしね」

火竜公女「見通しが立たぬと計画書も提出できぬゆえ」
729 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 21:06:29.40 ID:F.ztGjEP
中年商人「それにしても、この図だと神殿を
 抱き込むような構造ですね」

土木子弟「神殿を鐘楼代わりに用いる事になりますから」

火竜公女「ふぅむ。この部分は?」
土木子弟「掘ります」

火竜公女「なにゆえ?」

土木子弟「空堀ですよ。見かけ上防壁の高さを
 増すためのものですね。この地方はさほど水が
 豊かではありませんし」

中年商人「随分壁が厚くはありませんか?」

土木子弟「ええ」

中年商人「個々までの厚さが必要ですか?
 石にしろ土にしろ、これだけ積み上げるには
 相当の手間がかかるのでは無いかと思いますが……」

土木子弟「これは、まぁ。うん」
火竜公女「?」

土木子弟「必要になるでしょう。
 この世代でも、次の世代でも。
 そもそも相手は魔族じゃないのでしょう?
 ……で、あればこの防壁が意味を持つこともあるでしょう。
 聞いている話が真実であれば、なおさらに」
731 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 21:28:43.43 ID:F.ztGjEP
――冬越しの村、魔王の屋敷、勇者の部屋

ガチャ、ポイッ

勇者「うーん」

ガチョン! キュィィンっ!

勇者「ちげぇ、これじゃねぇや。……どこやったかなぁ」

ギュイイイン!!

勇者「刃の鎧とか、今考えると迷惑装備だよなぁ」

ポイッ。ポイッ

勇者「水鏡でもなくて……」

「おーい」

勇者「こっちだぞー。なんだー?」

がちゃ
女騎士「……何をやってるんだ?」

勇者「装備の整理をな」
女騎士「整理どころか、ぐちゃぐちゃじゃないか」

勇者「いくつか捜し物があってさ-。祈りの指輪とか
 エルフの飲み薬とか」
女騎士「ふむ……」
733 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 21:30:03.68 ID:F.ztGjEP
勇者「それよりどうしたんだ? めし出来たか?」はうはう
女騎士「そればっかりか。勇者は」

勇者「いや、べつに。そんなに卑しくはないぞ」
女騎士「ほんとうかー?」

勇者「本当だ」

女騎士「いずれにせよ、あと二時間は煮込まないとだめ。
 それから、今日はわたしは、
 修道院で大事なミサがあるから。
 夜ご飯は作りに来れないんだ。悪いな」

勇者「そうなのか?」

女騎士「そんなに困った顔をしてはだめだ。
 シチューをいっぱい作ったのはそのためだし。
 夜になったら、温めなおして食べればいい。
 チーズもパンも足りてるだろう?」

勇者「おう。そのくらいなら任せておけ!」

女騎士「勇者」

勇者「なんだ?」
女騎士「どうどう」なでなで

勇者「どうしたんだ? 女騎士」
女騎士「ふむ。撫でても平気か」

勇者「?」
女騎士「頃合いや良しっ!」 すくっ!
737 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 21:33:13.90 ID:F.ztGjEP
勇者「なっ。何がどうしたっ!?」

女騎士「勇者」ビシッ
勇者「はいっ」正座

女騎士「この件に関しては、いささか乙女としての
 恥じらいに疑問を覚えないでもないのだけれど
 話が錯綜するのも、混乱するのも、
 誤解を受けるのも、曖昧になるのも困る。
 故にはっきりという」

勇者「あ、ああ」

女騎士「魔王が戻り次第、勇者と褥を共にしたい」

勇者「……」ぴきっ

女騎士「大丈夫だ。勇者は心配することはない。
 私たちだって初心者だが
 その辺はうまく乗り越えてみせるさ」

勇者「あー」

女騎士「冗談ではないぞ?
 それから夜のおしゃべり会とか言う
 びっくりどっきりでもない。
 私たちは、勇者と、しとねを共にしたい。
 ――お互い判らない年齢でもないよな?」

勇者「う、うん」
女騎士「そ、それからなっ。
 いやだったら事前に断るのがマナーだからな?」

勇者「そうではないんですけれど」
女騎士「うん……」 なでなで

勇者「なにこれ?」
女騎士「いや、作戦行動の一環だ」
740 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 21:37:47.06 ID:F.ztGjEP
勇者「えーっと、さ。その、さ」
女騎士「無理にコメントしなくていい」

勇者「……うう」
女騎士「っていうか、しないで欲しい」

勇者「……」

女騎士「こっちだって顔から火が出そうだ。
 無理矢理押さえつけてるんだぞ」

勇者「う、うん」
女騎士「この件は一応魔王も了承済みだからなっ」

勇者「そうなのか」
女騎士 こくり

勇者「すっげー口がへの字じゃない?」
女騎士「い、要らない突っ込みだ」

勇者「……」

女騎士「どうしてもだめなのか? その……。
 こんな事言いたくないけれど、やっぱり。
 “次”は大勝負というか、
 すごく大きな戦争になってしまう気がするし。
 そう言うつもりではけしてないのだけれど……」

勇者「いや。……うん。判った」
女騎士「良いか?」 ぱぁっ

勇者「判った。ばっちりだ。覚悟完了だ!」

女騎士「それでこそ勇者だ!」にこっ
748 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 21:54:54.75 ID:F.ztGjEP
――聖王国某所、秘密大鉄工所

ガァン! ゴォン!!

労働者「おうっ! あぅっ!」

作業監督「どうした! 炉の動きが重いぞぉ!
 木炭を持ってこぉい!!」

ガァン! ゴォン!!

作業監督「ガンガン炊くんだ!!」

ガァン! ゴォン!!

職人の長「なんだって?」
技術者「いえ、ですから、木炭の備蓄が
 底をついてしまったのでして……」

職人の長「どうしてこうなったのだ?
 会計、会計はおらぬか!」

会計官「ギルド長、こちらにおります」ぱたぱたぱた

職人の長「木炭が足りぬではないかっ!」

会計官「はぁ。しかし、ギルド長の許可された分は
 全て購入し倉庫に入れておきましたが」

職人の長「そうなのか?」

技術者「このところの増産ペースで、
 備蓄分を使い切ってしまったようなのです」
750 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 21:57:43.51 ID:F.ztGjEP
熟練技師「木炭は元々鉄鉱石ほどの大きさの倉庫では
 ありませんから、本気で使えば一週間と持ちませんよ」

会計官「そうでしたなぁ。ふぅ、熱い」

職人の長「では新たに商人に運ばせよ」

会計官「それが、少々難しい雲行きでして」

職人の長「ん?」

会計官「連日の木炭買い付けで、
 木炭の価格が急騰しているのです。
 先週の三倍にも達しようかというほどに。
 さらに今までは夏でしたが、今や季節は秋も半ば。
 どの村でも、冬越しのために木炭を貯め込む季節となり
 なかなかたやすく買い付けも……」

職人の長「しかしそれでは、王弟閣下の望むだけの
 マスケットも過ノー根も、弾薬も送れないではないか。
 うぅむ。そうだ! この間話してていた策はどうだ?
 石炭から取れるコウクスなるものは?」

熟練技師「あれは、長の方で一回却下なさったでは
 ありませんか。林業ギルドとの関係が悪化する、とかで」

職人の長「だがしかし、情勢が変わったのだ。
 木炭がなければ仕方有るまい。
 今ひとつ信頼しきれぬ新方式だが、試す価値はあるだろう」

熟練技師「であれば、試すにやぶさかではないのですが
 砂丘の国も、礒岩の国も石炭の採鉱権は譲渡したと
 聞きました」

職人の長「どういうことだ?」
751 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 21:59:44.98 ID:F.ztGjEP
熟練技師「商人が高額で権利を押さえたとの話です」

職人の長「なぜそのような! いや、それ以前になぜ阻まぬ!」

熟練技師「お忘れなのですか? 長よ。
 我々は当分石炭を使用しない決定を下したんですよっ。
 購入しない、金も払わないで
 どうして権利だけを押さえることなど出来ますっ!!」

会計官「まぁまぁ」

技術者「だがしかし。と、なれば木炭を買うしかないでしょう。
 国家備蓄を進めている国はどうですか?
 我々は王弟閣下の口添えをいただいているわけですし。
 貴族や領主に木炭を出させる、というのは」

会計官「それならば出来るやも知れません」

職人の長「よかろう! ではわたしが早速手紙を出す。
 会計官は使者を用意させろ。隊商を作り、近隣の
 領主や王国から、木炭を送ってもらうのだ」

技術者「ええ、梢の王国などは、以前から林業に
 置いて大きな実績があります」

熟練技師「梢の王国の木炭であれば、きっと立派な
 鉄を作り出すことが出来るでしょう!」

会計官「早速手配して参ります」

たったったった

職人の長「フリントロックの方はどうだ?」

熟練技師「やはり精度が高いですが、
 何とか月産50丁のラインには乗って参りました」

職人の長「よし、今月の荷として、港から船で運ばせよ!」
763 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 22:31:04.32 ID:F.ztGjEP
――白夜の国、港

メイド姉「やはり、気が緩んでいる感じですね。
 警備もろくにしていませんし、これだけの軍が集まると
 敵が来るはずはないと言うことなのでしょうか?」

生き残り傭兵「元々はどうあっても農民だ。
 夜になったら寝るって言う暮らしをしてきた。
 そこまで敵の怖さってものが骨身にしみていないんだろうぜ」

ちび助傭兵「しっ!」

かつん、かつん、かつん……

    「ふわーぁ。早く宿舎で寝てぇよ」
    「ぼやくなよ。酒を持ってきてあるんだ」
    「いいね、身体が温まる」

……かつん、かつん、かつん

若造傭兵「……いったみたいだ」
傭兵弓士「よし」

貴族子弟「流石にドキドキしますね」

メイド姉「ええ、聖王都の大聖堂に忍び込んだ時以来です」

生き残り傭兵「このお嬢ちゃんはどういう
 経歴の持ち主なんだ?」

貴族子弟「この度胸と思い切りの良さは、生まれつきかなぁ」
メイド姉「そんなことはありませんよ」むぅっ
764 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 22:32:49.34 ID:F.ztGjEP
生き残り傭兵「で、どうすんだ?」

メイド姉「はい。貴族子弟さんは、
 打ち合わせ通り本隊80人を率いて船を接収してください。
 出来れば荷下ろし前の食料が載っている船がよいです。
 私たちは操船技術がないので、
 当直含め船乗りさんが乗っている船を選んでくださいね」

貴族子弟「人使い、荒いなぁ」
メイド姉「おねがいします」ぺこり

貴族子弟「やりますけどね」

メイド姉「で、私たちの部隊は、
 あちらの税関に忍び込みます。
 ここ数日調べた感じでは、この時間あの建物の中には
 5~8人が寝泊まりして居るのみ。
 可能な限り血は流さない方法で無力化してください」

生き残り傭兵「ふむ」
ちび助傭兵「判った」

生き残り傭兵「俺はそっちでいいか?」

メイド姉「はい、お願いします」

ちび助傭兵「じゃぁ、さっさと済ませるとしようか」
若造傭兵「おう」
765 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 22:33:53.48 ID:F.ztGjEP
――白夜の国、港、税関の建物

がちゃがちゃ

生き残り傭兵「鍵がかかってるな、流石に」

メイド姉「出番ですよー」つんつん

器用な少年「俺かよっ!?」

メイド姉「はい、お願いします」

器用な少年「何で俺がこんな事を……」
ちび助傭兵「さっさとやれ」こんっ!

器用な少年「くっそう。こんな鍵がなんだってんだよ」

ぴんっ!

器用な少年「おら、出来たぞっ!」
メイド姉「お見事です。良くできました」にこり

器用な少年「朝飯前のこんこんちきだ。ちきしょう」

かちゃり

生き残り傭兵「入るぞ」
ちび助傭兵「後方確認、担当する」
若造傭兵「前方制圧行く」

傭兵弓士「援護了解」

器用な少年「むちゃくちゃプロじゃねぇか」
766 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 22:35:15.20 ID:F.ztGjEP
  光の衛兵「うぐっ!!」
  どさっ

生き残り傭兵「ふぅ」

ちび助傭兵「こっちの部屋もふんじばったぞ」

  光の衛兵「だれだ、きさまらっ!」
ひゅばっ!
  光の衛兵「ぐぅっ!」

若造傭兵「よし。こっちも問題ない」

傭兵弓士「周辺の建物に気付いた様子はない。
 この税関に何の用事があるんだ?」

器用な少年「とっととずらかろうよ」びくびく

メイド姉「少し待ってくださいね。
 このあとは船をお借りして移動する予定なのですが
 あいにく、わたし持ち合わせが少なくて……」

器用な少年「わかった! 聖王国からぶんどろうって腹だな!」

メイド姉「とんでもない。それは非道ですよ。
 まぁ、危急の事態なので多少犯罪的な手法を
 とる覚悟はあるのですが、そこまで悪辣なことは
 出来ません。盗みは良くないことです」

生き残り傭兵「じゃぁ、何でこんな所に」
メイド姉「借ります」
767 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 22:36:42.40 ID:F.ztGjEP
器用な少年「はぁ?」
メイド姉「ですから、資金を少々お借りしようかと」

生き残り傭兵「……」
ちび助傭兵「……?」

器用な少年「盗みと何が違うんだ?」

メイド姉「借用書を書きます」

サラサラサラ、サラサラサラ

生き残り傭兵「……」
若造傭兵「……」

  器用な少年「なぁ、この姉ちゃんまじなのかなぁ?」
  生き残り傭兵「貴族の旦那が言うには本気なんだろうな」
  ちび助傭兵「良いのかなぁ。こんなのが代行で」
  若造傭兵「乗りかかった船だ。諦めるしかない」

メイド姉「出来ました。この借用書を、机の上に置いて。
 えーっと、金貨を運び出しましょう。
 数えている暇はないので、その箱五つで良いでしょう。
 重いのにしましょうね。軽いのは使っている最中かも
 知れませんし、二度手間もいやですし」

生き残り傭兵「やることは結構豪快だな」

ちび助傭兵「うんうん」

メイド姉「この資金で、船員さん達へせめてものお詫びに
 支払いをします。食料も買い上げて、極大陸へ」

生き残り傭兵「え? 極……!?」

メイド姉「混雑しないうちに魔界へと行きましょう。
 あちらでやるべき事が山積みですから」
783 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 23:07:02.11 ID:F.ztGjEP
――鉄の国、職人街、ギルド会館前

しゅわんっ!

魔王「っふぅ」
メイド長「くらくらしますね」
勇者「3連続転移はきついか」

魔王「うむ、ちょっと頭が痛くなるな」
メイド長「わたしは目が回っています」

勇者「慣れの問題なんだけどな~」

魔王「悪いな。迎えに来させた上に、足代わりに使って」

勇者「気にするなって。急ぎなんだろう?」

魔王「ああ、今回、大量生産するつもりはない。
 おそらく、充分な硬度の刃さえ作れれば、
 一ヶ月もあれば試作品は出来るはずなんだが……」

勇者「それもこれも職人に話さなきゃ始まらないぞ」

魔王「う、うん。行ってくる。行くぞ、メイド長っ」
メイド長「はい、まおー様っ」

勇者「いってこーい!」
785 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 23:10:01.95 ID:F.ztGjEP
魔王「ああ、勇者っ!」てってってっ

勇者「なんだ?」

魔王「今日は、鉄鋼工房の職人と打ち合わせがあるだけだ。
 夕方までには終わる。そこらの酒場で食事でもしているか、
 見物でもしていてくれ。今日こそ屋敷に戻りたい」

勇者「わかった」

メイド長「あまり沢山は食べちゃだめですよ? 勇者様。
 今日は腕によりをかけてご馳走を作りますからね。
 留守番のご褒美と、送迎の埋め合わせです」

勇者「わかったよ! ひゃっほう!」

魔王「じゃぁ、いってくる。待っていてくれ!」

たったったったっ

勇者「ふぅ……」

勇者「それにしても……」

――魔王が戻り次第、勇者と褥を共にしたい。

勇者「もしかして……。それって今夜か?」

勇者「ってなんかすげぇ焦ってきたぞ。
 やばいな。変な汗が出てきた。
 刻印王とやった時でもこんなに戦慄はしなかったぜ。
 ど、どうするんだ。どうすればいいんだ?
 ――落ち着け?
 ですよね。そうですよね。まずは落ち着くべきですよねー」

女魔法使い こくり
791 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 23:16:51.62 ID:F.ztGjEP
――鉄の国、職人街、裏路地

勇者「何処にいたんだよ、お前っ」
女魔法使い「……用事があった」

勇者「なんのっ」
女魔法使い「……入稿?」

勇者「訳判らないよ」
女魔法使い「……すぅ。……くぅ」

勇者「寝るな」 がくがくっ
女魔法使い「……はっ」

勇者「起きたか?」
女魔法使い こくり

勇者「なんだかなぁ」
女魔法使い「……勇者は」

勇者「うん」
女魔法使い「ごきげん?」

勇者「ぼちぼち」
女魔法使い「……へへ」

勇者「女魔法使いは、ご機嫌か?」
女魔法使い「……。ふつう」

勇者「そっか。ご機嫌になるといいな」
798 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 23:19:37.57 ID:F.ztGjEP
女魔法使い「……」

勇者「?」

女魔法使い「……」ぽけぇ

勇者「女魔法使いは、普段なにしてるのさ」

明星雲雀「ピィピィピィ! ご主人は長い長い間
 苦しい修行ぴっ! ピィピィ! なにするですかご主人っ」

女魔法使い「……タツタバード」ぼひゅん

勇者「それ、相棒か?」
女魔法使い「……目覚まし時計」

勇者「目覚ましあっても起きないじゃないか」
女魔法使い「……鳴らなかったって言い訳できる」

勇者「お前賢いな!」
女魔法使い こくり

勇者「……」
女魔法使い「……」

勇者「なんかあるのか?」
女魔法使い こくり

勇者「困り事か?」
女魔法使い「……ある意味、そう」
802 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 23:25:46.31 ID:F.ztGjEP
勇者「話、聞くぞ」

女魔法使い「……経済的な均衡状態、また発展状態を
 作り出すためには、該当する経済レイヤに対して
 政治および技術レイヤから健全な影響が無くてはならない。
 またこの健全な影響が充分に経済機構に行き渡るためには
 一定の時間が必要とされる。

  一方、政治、技術により不健全な影響を受けた周辺レイヤの
 ひずみは、そのまま外交や政治そのもののレイヤに逆照射し
 他の分野や領域をもまきこんだ引き攣れを見せる。
 これらの引き攣れは、
 軽度のものであれば時間と共に拡散していくが、
 重度のものである場合たわみを反発材料として、
 主に軍事的レイヤにてその緊張を解放しようとする」

勇者「……?」

女魔法使い「軍事的な衝突は、周辺レイヤに大きな爪痕を残す。
 技術レイヤには比較的ダメージが少ない。
 なぜならば知識とは本質的に無形であり破壊不可能だから。
 戦争により技術が発展するというのは、
 必要によって技術が発展するという点と
 技術が破壊不可能だから戦争によって消費されにくいという
 二点から導き出される結論。

  しかし、軍事的衝突は、政治レイヤ、経済レイヤには
 深いダメージを残すことがままある。
 また、これらの軍事的抗争は政治および技術レイヤから、
 経済レイヤへの転換を、大きく後退させる。
 なぜなら“財”と言う形で蓄積されたドライブフォースを
 無為に消費してしまうから。
 文化レイヤにおいては、民族的鬱屈から回復不能なまでの
 ダメージを受けることすらあり得る。

  ゆえに軍事レイヤに何らかのアクションを行なわせる
 ことなく滑らかに周辺レイヤを発展させるべき。
 ――これが魔王の出した回答」

勇者「……」
804 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 23:28:22.78 ID:F.ztGjEP
勇者「どういうことだ?」

女魔法使い「“優れた問いは、優れた答えに勝る”」

勇者「……」

女魔法使い「“なぜ、勇者と魔王という特別な存在が
 この世界には1人ずつ存在するのか?”   たとえば魔王が2人で勇者は居ないであるとか、
 その逆であるとか。また勇者が3人いて、
 魔王は2人であるとかいう状況は、なぜ無いのか?」

勇者「へ?」

女魔法使い「そのような状況は歴史上
 かつて一回も記録されていない」

勇者「……なぜ」

女魔法使い「“なぜ勇者と魔王は戦うのか?”」

勇者「俺たちは戦ってなんか居ない」

女魔法使い「……このような例は今回が初めてで
 今までは常に戦ってきた。
 今回は特殊な例外と考えた方がいい」

勇者「話が見えてこないぞ」
女魔法使い「……」

勇者「おい、魔法使い」
806 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 23:30:16.04 ID:F.ztGjEP
女魔法使い「勇者と魔王の近似」

勇者「え?」

女魔法使い「魔界における勇者が、魔王。
 人間界における魔王が、勇者。
 模倣子を造り出す経路が違うけれど、
 本質的には同じもの。

  同じものが、二つ。
 なぜ二つしかないのか?
 なぜ同じものなのか?
 特異点的存在とは一体何を目的として“ある”のか?」

勇者「そんなのに答えなんてあるのかよっ」

女魔法使い「答えは常にある。
 人によって同一とは限らないけれど」

勇者「なんでなんだよ」

女魔法使い「……」

勇者「……いや、聞いたらまずい気もする」
女魔法使い「教える」

勇者「ちょっとたんま」
女魔法使い「またない」

勇者「だからっ」

女魔法使い「2人の勇者、もしくは2人の魔王は
 有る存在の二つの終端、切り口だから」
807 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 23:31:28.40 ID:F.ztGjEP
勇者「切り口……?」

女魔法使い「そう。特異点が二つあると言うことはあり得ない。
 この世界にそれが二つも存在する確率はあまりにも低すぎる。

  両者は二つの特異点ですらない。
 一つの特異点。
 現世においてそれが二つの存在として見えている」

勇者「わかんないぞ」

女魔法使い「いわば、ひも。
 ひもの右端が、勇者。
 ひもの左端が、魔王。

  ――これが答え。
 常に両者がセットで存在し、2人にも3人にも増えず
 一つの時代にあつらえたように対峙する理由。

  そして同時に戦う理由でもある。

  二つの端子が接触した時から、このひもは収斂を開始する。
 端子同士が接続し、ひもは円環となり、世界が完成する。
 世界を縛るひもは、世界ごと小さくなり、世界と共に
 “始まり直す”」

勇者「はぁ!?」

女魔法使い「炎のカリクティスの古から続いてきた
 あのやりきれない伝説の正体がこれ」
809 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 23:35:37.14 ID:F.ztGjEP
勇者「……頭がついていかない」

女魔法使い「今の世の魔王はそのあまりある力を
 戦闘には全く用いなかった。
 どのような奇跡か判らないが、
 歴代魔王を継承するという魔王の模倣子相続システムから
 自由だったゆえに、別の道を夢見た。
 もしかしたら、夢見た故に自由だったのかも知れない。

  そしてその能力を、世界の拡張に当てた。

  また、偶然か必然か、勇者も魔王を殺害して良しとせずに
 その拡張に力を貸した。
 拡張は技術や経済から始まったが、やがて次々と
 隣接レイヤに波及し、政治、外交、文化、
 はては伝承の域にまで影響を与えようとしている。

  端子同士がたどのような形であれ接触した今、
 収斂力は作動している。にもかかわらず、
 魔王と勇者は世界を拡張させようとする。

  この拡張する速度と縮退する速度が均衡して
 世界は停止しかけようとしている。

  魔王の出した答えは間違っては居ない。
 けれど、それを実行するためには、
 この世界は根本的な病理を抱え込んでいる」

勇者「病理? 停止?」

女魔法使い「そう。それは罪ではなく、病理。
 そのために現実的な事象はおそらく次々と立ち現れる。
 助長系の歪みもその一つ」

勇者「何か、起きるのか」
女魔法使い こくり

勇者「ひどいことか?」
女魔法使い「……おそらく全員死ぬ」

勇者「……っ!」
女魔法使い「……」
817 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/03(土) 23:41:20.28 ID:F.ztGjEP
勇者「嘘、じゃないんだよな?」
女魔法使い「……」

勇者「どうしたらいい? 解決策はあるんだろうっ」
女魔法使い「……」

勇者「おい、魔法使い」がくがくっ
女魔法使い ぐらんぐらん

勇者「おいっ」

女魔法使い「機構上の要素のひとつが、
 機構を変更することは出来ない。
 現象とは機構が許容する状況の一切片にすぎないから。
 ――それが従来の答え、でも」

勇者「なんだよっ」
女魔法使い「……」

勇者「何でもするから言ってくれよっ!」
女魔法使い「絶対?」

勇者「絶対する」
女魔法使い「……」

勇者「頼むよ。お願いだ。……お願いだからさっ」
女魔法使い「……勇者は、いつもずるい」

勇者「え?」

女魔法使い「…………」ぎゅっ

勇者「魔法使い……?」

女魔法使い「そのときが来たら、躊躇っては、いけない」



ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。