7-4


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」7-4


577 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 20:32:00.41 ID:jeE4iYgP
職人の長「はっ。恐縮でございます」

王弟元帥「で、どうなのだ」

技術者「その……」ちらちら

王弟元帥「構わない。余は能力ある者に敬意を感じる。
 直答を許すから、詳しく聞かせよ」

技術者「では、その」

熟練技師「まずは、この『The genius's Manuscript』は
 素晴らしいですね。まさに精霊様の下された天恵の書!
 詳しい仕組みは判らずとも、残されたスケッチを見るだけで
 どんどんと新しいアイデアがわいて参ります!」

技術者「はい。このマスケットを中心に実に様々な考察が
 描かれています」

熟練技師「たとえば、この石炭なるものは、
 大地から掘れる石でありながら、燃えまする」

王弟元帥「ふむ、北の地で取れるというものか」

技術者「『The genius's Manuscript』には、この石炭を
 蒸し焼きにして純度を高め、コウクスなるさらなる燃料を
 作る方法が記されています。このコウクスをつかえば、
 より強力な鉄を作ることが出来ます」

熟練技師「また『The genius's Manuscript』にはこのような
 スケッチがあり……これはわたしが大きく描き写し、
 整理したものでございますが」

王弟元帥「これは……撃鉄周辺の構造か?」

熟練技師「殿下におかれましては、銃のことが判りますので!?」
578 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 20:34:49.79 ID:jeE4iYgP
王弟元帥「おのれの指揮する軍の武器ぞ。判らぬでどうする」

熟練技師「はっ! 恐れ入ります。
 では説明させて頂きますと、これはおそらく
 マスケットの改良と申しますか、
 いわば後継にあたるものかと考えられます」

王弟元帥「ふむ」

熟練技師「撃鉄によって打ち付けられたこの部分には、
 火打ち石がはめ込まれていまして、
 これがそのすぐ下に作られた小さな部屋の蓋を破り、
 打ち付けられます」

王弟元帥「この部屋はどれくらいのサイズなのだ?」

熟練技師「図では大きく描かれていますが、
 実際には指先でつまめるほどのものです。
 しかし、打ち破った蓋は開閉式に作られ、
 直後にバネ仕掛けにより閉まります。
 これにより、火うち石の火花が部屋に
 閉じ込められることになるのです。
 この仕掛けにより、火縄のないマスケットが開発できるわけです」

王弟元帥「ふむ」

熟練技師「えー……。お解りになられましたでしょうか?」
王弟元帥「理解した。運用と生産の問題点は?」

熟練技師「運用においては、私どもには今ひとつ
 理解しかねますが、まず火口、火縄の必要がなくなり
 発射の際の姿勢が自由になります。
 さらには雨などの悪天候に強く、火縄がないせいで、
 狭い場所での射撃が可能です」

王弟元帥「狭い場所……。密集隊形か」
579 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 20:38:03.39 ID:jeE4iYgP
熟練技師「命中精度は多少下がると予想されます。というのも」
王弟元帥「時間差で引火するからだろう?」

熟練技師「その通りでございます。
 生産においてはマスケットに比べてやはり精密な作業が
 必要とされるために、一部の高度な技術を持つ職人を
 導入する必要があり」

王弟元帥「つまりは、数多くは作れぬ、と」
熟練技師「はい」

王弟元帥「長」
職人の長「はいっ」

王弟元帥「量産する方法を考えよ」
職人の長「ええっ!?」

技術者「……」

王弟元帥「それが長の役割であろう」

職人の長「は、はぁ」

技術者「恐れながら、陛下」
王弟元帥「申すが良い」

技術者「これらの武器は様々な部品で作られております。
 新しいアイデアの武器もそうですが、
 全ての部品が全て高度な技術を要するわけではございませぬ」

王弟元帥「ふむ」
580 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 20:40:46.40 ID:jeE4iYgP
技術者「そこで、現在のように職人が一丁一丁仕上げるのではなく、
 たとえばある部品だけを作り続ける職人、別の部品を作る職人
 と云うように仕事を分けるのはいかがでしょう?」

王弟元帥「おお!」

技術者「そうすれば、一人の職人が覚える仕事の量は
 少なくても構わないと云うことになります。
 中級程度の技術は必要ですが、
 彼らも部品一個だけであるのならば、
 腕利きの職人に比肩する速度で
 仕事をこなせるようになるわけです。
 また新しい職人の育成も早くなります」

職人の長「しかし、それではギルドの立場はどうなるっ!
 長い間、技術の保全に努めてきた我らの立場は。
 職人を育成して親方として束ねてきたギルドの利益を
 害する考えだっ!」

技術者「はぁ……」

王弟元帥「ふっ。長殿。その件についてはわたしから
 提案しようではないか。
 この件で技術が仮に漏洩したとしても
 聖王国の影響範囲内であれば、
 全てのマスケット、およびその関連技術を取り扱うためには、
 銅の国の鉄工ギルドの許可、もしくは親方証が必要だという
 法律を作れば良かろう? 勅書でもよい」

職人の長「ほ、本当でございますかっ!?」

王弟元帥「ああ、この『The genius's Manuscript』は
 鉄の国からもたらされたもの。
 このままでは銅の国の技術は鉄の国に置いて行かれよう?
 ……それを考えれば、悪い話ではあるまい」
582 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 20:43:35.58 ID:jeE4iYgP
王弟元帥「よし、では話は決まったな。
 熟練技師、技術者、だったな?」

技術者「はいっ!」
熟練技師「はっ!」

王弟元帥「余は汝らの若い力に期待しておる。
 これからも長を助け、改革し、作業にいそしんでくれよ」

技術者「こ、光栄でありますっ!」
熟練技師「身命にかえましてっ!」

王弟元帥「うむ。では、余は忙しい。残る話は次の機会としよう」

職人の長「お送りいたします、殿下っ!」

バタバタッ

王弟元帥「よい。作業があるであろう? 余は期待しているのだ」

聖王国将官「長どの、ここでよいですよ。
 あとは技師達や作業者達と話をお詰め下さい」

ガチャン。
――ザッザッザ、ザッザッザ

王弟元帥「将官」
聖王国将官「はっ」

王弟元帥「時期を見て、あの長は切れ。
 若手に権力を握らせて工房の運転速度を最大化するのだ」

聖王国将官「心得ました」
587 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 21:01:50.88 ID:jeE4iYgP
――冬越しの村、魔王の屋敷、夜の執務室

さらさらさら……

メイド姉「……」

さらさらさら……
とさっ。
メイド姉(これで、二年分の整理はお仕舞い。
 ……後は、今月の財務諸表の写しを)

さらさらさら……

魔王「……」

さらさらさら……

魔王「メイド姉」

メイド姉 びくっ 「あっ。当主様!」

魔王「根を詰めすぎだ」
メイド長「ええ、身体をこわしてしまいますよ?」

メイド姉「それにメイド長様も……。すみません。えっと
 何かご用でしたでしょうか?」

魔王「何を焦っておるのだ?」

メイド姉「……」
589 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 21:04:47.72 ID:jeE4iYgP
メイド姉「いえ……」

魔王「ん?」

メイド姉「焦っているわけではありません。――当主様」

魔王「……?」
メイド長 こくり

メイド姉「当主様にお願いがございます」
魔王「どうした?」

メイド姉「お暇を頂きたく思います」

魔王「……」
メイド長「――」

魔王「どこへゆくのだ?」

メイド姉「わかりません。けれど
 ――ここではないどこかへ」

魔王「妹には?」

メイド姉「話してあります。
 あの娘には、ここでかなえる夢がありますから。
 ……すみません、こんな我が儘を。
 当主様やメイド長様に救って頂いた身でありながら。
 本当に申し訳ありません」

魔王「そう……か……」
メイド長「まおー様」
590 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 21:07:27.61 ID:jeE4iYgP
魔王「判っている」
メイド長 こくり

魔王「……」ふわり
メイド姉「あ……」

魔王「何を見るのだろうな、その二つの瞳で。
 ……これがお別れではあるまい?」

メイド姉「はい、きっと……きっと戻って参ります」

魔王「では行くが良い。そなたには翼にはその力があるのだ。
 おのれの運命と巡り会いに行くのであろう?」

メイド姉 こくり

魔王「ここを嫌って出て行くのでは、無かろうな?」

メイド姉「いいえっ。
 この家は、わたしの生きてきた全部のっ
 全ての中で、一番暖かくて、一番優しくて……
 い、ちばんっ。……大事な、場所ですっ。
 本当は出て行きたくなんて無かった、ですっ。

  でも、そうしないと。
 きっと、わたしは許せなくなります。
 わたしは沢山の人に。……沢山の責を負っているから。

  わたしが。――わたしが自分で歩くのを止めるのは、
 ひどく不実なことに思えるんです……。

  あの日、あの広場で叫んだから。

  わたしには“叫んだもの”として、
 やらなければならないことがあるように思うんです」
591 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 21:09:06.84 ID:jeE4iYgP
魔王「そなたが負うべき事などなにもない」
メイド姉「では、わたしが選びたいんです」

魔王「……」
メイド長「お行きなさい」

メイド姉「はいっ」

魔王「わたし達の教えを受けたものとして旅立ってくれるな?」

メイド姉「はい。ご厚情も、ご恩も忘れません。
 きっと何かを見つけて帰ってきます」

魔王「何を」

メイド姉「たぶん――戦いの意味を見つけに」

魔王「……っ」
メイド長「――」

メイド姉「他の誰でもなく
 わたし自身が見いださないといけないのだと思います」

魔王「……止める言葉を持たないな」
メイド長「はい……」

メイド姉「大丈夫ですっ。
 わたしは結局メイドにはなれなかったのかもしれませんが、
 メイド長の授けて下さったものはメイドを超えると信じます。
 当主様、勇者様、女騎士様、子弟の皆さん方……。
 授かった数多の教えは、どんな黄金より勝る宝ですから」
592 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 21:10:48.81 ID:jeE4iYgP
魔王「……判った」

メイド姉「当主様、ここにある二年分全ての帳簿の整理は
 終わっております。目録は全てこちらの小棚へと
 まとめておきました。諸表はこちらの引き出しです」

魔王「うむ」

メイド姉「えっと、僭越なお節介なのですが、
 もし、他の方が作業されることも考えて、
 仕事を引き継げるように覚え書きの帳がこちらにあります」

魔王「……ん」

メイド長「よくぞ、ここまでものにしましたね」
メイド姉「先生が優秀でした」

魔王「何時、発つのだ?」

メイド姉「夜明けと共に」

魔王「少しでも眠ると良い」
メイド姉「はい。失礼します。あの……」

メイド長「――」

メイド姉「お二人が、大好きです」

かちゃん。とっとっとっと

魔王「止められなかった」
メイド長「それが正しいのです」

魔王「メイド長……。手放させてしまったな」

メイド長「――いえ。何の問題があるでしょう。
 どこにいても、何をしていても
 彼女はわたしの自慢であることに何の代わりもないのですから」
610 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 21:49:39.53 ID:jeE4iYgP
――――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、仮設会議場

ギィッ

銀虎公「遅れたか? すまぬな」

火竜大公「いやいや、気にすることはない。
 まだ時間ではないのだ。我らは妖精女王土産の茶を
 飲んでおったのみだ」
妖精女王「はい」

巨人伯「……うま……い」
勇者「なかなかいけるぞ-?」

銀虎公「ではわしも一杯貰おうかな」

ギィッ

碧鋼大将「失礼いたす」
東の砦長「待たせて申し訳ねぇ」

紋様の長「おお、お二人も」

鬼呼族の姫巫女「これで揃ったようだな」

火竜大公「では、おほんっ。第二回の会議を始めるとするか」

妖精女王「今日のお話は?」

巨人伯「……まずは、前回の、続き」
紋様の長「そうだな、蒼魔族の件からとしよう」

東の砦長「どんな案配なんだ?」
鬼呼族の姫巫女「妖精族から報告して貰おうか」
611 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 21:50:46.72 ID:jeE4iYgP
妖精女王「はい。……まず、大きな動きはありません。
 蒼魔族の少なくとも50名を越える規模での部隊は
 その領土から一回も出ておりません」

紋様の長「ふぅむ」

妖精女王「あの後、蒼魔の新王が都にたどり着いてから
 しばらくの間、蒼魔の領土には高い緊張感がありました。
 蒼魔の新王の軍は蒼魔の領土全体を巡回していましたが、
 現在は多少落ち着きを取り戻したようです。
 もちろん各所にはかなり大人数の警邏が行われていますが」

東の砦長「つまり、戦時下って云う雰囲気かい?」

妖精女王「ええ、そうです。
 少なくとも蒼魔一族は現在を交戦状態、つまり何時
 奇襲をかけられてもおかしくない状態だと認識していることは
 確かなことです」

巨人伯「おれたち、奇襲なんて……しないのに」

銀虎公「戦の準備とか軍備増強の様子はないのか?」

妖精女王「それは判りません。
 いえ、偵察の妖精が訓練の様子などは見ていますし、
 武装もしているようですが……なんといいますか。
 蒼魔族ではそれが“日常”である可能性も否定できなくて」

鬼呼族の姫巫女「ふふっ。まさにそうだな」

妖精女王「今でも警戒は続けておりますが
 そのほかに特別な報告はないのです。申し訳ありませんが」

東の砦長「いやいや、動きがないのも重要な情報だろう」
612 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 21:51:40.66 ID:jeE4iYgP
紋様の長「と、なると、前回の続き。蒼魔族の処遇の問題か」

勇者「……」

銀虎公「俺から口火を切って良いか?」

火竜大公「うむ」

紋様の長「よろしく頼む」

銀虎公「我ら獣牙の一族は戦に生きる一族。
 とはいえ、この世界の内側で暮らしていて、
 事の理非程度は弁えているつもりだ。
 戦で打ち破るならばともかく、
 “蒼魔族を皆殺し”と云うのがいくら何でも
 行き過ぎで無法な行いであると云うことは、判る」

火竜大公「しかり」
妖精女王「その通りです」

銀虎公「あー。我らは、上手ではないが、手紙を出すのだ。
 どうだろう、手紙を出すというのは?」

妖精女王「手紙?」
巨人伯「……だれに?」

東の砦長「ああ、降伏勧告のことか?」

銀虎公「そうだ! そのカンコクだ。それが言いたかったのだ」
613 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 21:53:00.20 ID:jeE4iYgP
碧鋼大将「ふぅむ、それは考えてみなかった」
火竜大公「なるほど……」

銀虎公「その手紙には書くつもりだ。

 お主達は、卑怯者だぞ、とな。
 敵を討ちたければ戦場で堂々とすればよい。
 文句があるのならはっきりと言えばよい。
 それを影からこそこそと、それは武人のやる事ではない。
 そのようなひねくれた態度では、もはやどこの一族からも
 蒼魔族は、威厳のある一流の氏族とは認められぬだろう。
 申し開きがあらば、即座にするが良い。
 もしそれが望みであれば
 戦場でお相手いたす。

 ――そんな具合だ」

東の砦長「ふぅむ。考えたな。全面降伏しろって云う話
 じゃないわけだ」

鬼呼族の姫巫女「ほほぅ」

銀虎公「全面降伏しろって云う話にするならば、
 前回云っていた“蒼魔族全てが意固地になる”
 ってやつがあるのだろう?
 領地を押し包んで総攻撃する! とか云うと、
 蒼魔族は“自暴自棄”になるかもしれぬ」

碧鋼大将「うむ」

銀虎公「そこで、申し開きをさせてやろうというのだ。
 ただ、申し開きは、ここでやらせる」

火竜大公「ほほぉ!」
614 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 21:53:55.26 ID:jeE4iYgP
銀虎公「そうしたら、奴らももう一度会議に
 出てこざるを得ないだろう?
 この会議は忽鄰塔に似ているが、そのものではない。
 奴らの奇妙な前例を用いた策略は通用しない」

碧鋼大将「それはそうだな」

火竜大公「そして会議に出てきたら、奴らにはっきりと告げる。
 お前達のやり方は無法で不愉快だ、とな。
 もし詫びる気があるのならば、証明させる」

妖精女王「証明とは?」

銀虎公「まずは、親王と将軍クラスの首全てだろうな」

妖精女王「殺す……のですか?」

東の砦長「いや、それは仕方ないだろう。
 ここは銀虎公殿が正しいと俺は思う」

鬼呼族の姫巫女「そうじゃな」

銀虎公「その上で、しばらくの間は、蒼魔族の領地に
 我らのどの氏族か、混成でも良いが軍団を置いて様子を
 見させるべきだろう。賠償金も取るべきかも知れないが
 金の細かいことは俺には判らぬ」

碧鋼大将「悪くない案のように思えるな」
火竜大公「そうだな」
妖精女王「……ええ」

巨人伯「……のってくる……かな」
鬼呼族の姫巫女「そこが一番の問題であろうな」
623 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 22:26:49.01 ID:jeE4iYgP
銀虎公「いやいや、そこはそれで考えてあるのだ!」
碧鋼大将「とは?」

銀虎公「前回、衛門族の長が言っておられただろう?
 事が終わった後に理非の大事さが聞いてくると。
 一回の警告もせずに攻撃をしたらそれは不意打ち。
 ある意味、蒼魔族と同じだ。

  この手紙を出すことにより、いわば“申し開きのチャンス”を
 あたえてやるのだ。その上で無視をするなり、
 ご託を述べるようならば、
 それは、奴らが戦争をしたいと云っているも同じだ。
 その時はまさに合戦にて決着をつけるしかない。

  もしかりに、蒼魔族の軍勢を戦場で滅ぼした後でも
 蒼魔の都に戻り、その民に云うことが出来るだろう?

  お前達の長と軍は、斯く如くこのように無法を行った。
 ゆえに氏族会議はこれを処断したが、
 これはけして私心からではない。とな」

東の砦長(随分よく考えてきたじゃないか。虎の旦那。
 俺はあんたをちっとは見直したよ)

鬼呼族の姫巫女「よく考えられた案であるな! 銀虎公どの」

銀虎公「はははっ! なんてことはない。
 俺は考え事は苦手だしな。
 そこで獣牙の長老会に知恵を求めたのだ。
 久しぶりに頼られた爺どもは鼻血を流して喜んでな!
 三日三晩議論をして考えてくれたのだ。
 あやつらは腰抜けではあるのだが、こういう時には役に立つ」
625 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 22:28:18.80 ID:jeE4iYgP
碧鋼大将「ははははっ! そうでありましたか」

銀虎公「やはり、いまひとつか?
 爺の考えた手だからなぁ。
 俺としてはもっとはっきりした策も好みなのだが
 今回はこのような手段が良いとも思ったのだ」

火竜大公「いえいえ、立派な作戦でしょう」
妖精女王「はい」

紋様の長「よい部の民を抱えるのも、長の資質、器量です」

東の砦長(まったくだ)

鬼呼族の姫巫女「いかがだろう。ご老公どの、皆の衆。
 このような対応がもっとも当面は妥当だと考えるが」

勇者 こくり

碧鋼大将「異議はない」
紋様の長「まったくもって」

火竜大公「では、そのような手紙を届けるとしよう。
 書面については、そうだな……。
 人魔の族長、紋様殿に頼むとしよう」

紋様の長「心得た」

東の砦長(それもよく考えた対応だ)

鬼呼族の姫巫女「鬼呼族からの書状だといらぬ感情を
 かきたててしまうでしょうしな」

碧鋼大将「さて、他にもあるかな」
626 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 22:29:11.27 ID:jeE4iYgP
東の砦長「今回は、申し訳ないが衛門一族から
 願いたいことがある」

鬼呼族の姫巫女「ほほぉ、どのようなことだ?」

東の砦長「その前に、我が街で重要な仕事を
 行なっている担当者を一人を呼んでもかまわぬか?
 今回の願いに関係があるのだ」

鬼呼族の姫巫女「かまわぬだろう?」

銀虎公「うむ」
火竜大公「よろしい認めよう」

東の砦長「よし、入ってくれ」

がちゃり

鬼呼族の姫巫女「ほほう」にやり
勇者「あー」

火竜大公「……このような場所にっ」

火竜公女「お召し頂き感謝しまする。
 衛門一族の長よりのお招きに頂き参上いたしました。
 我、火竜一族を出身とする火竜公女と申すもの。
 いごおみしりおきくださいますよう」ふかぶか

勇者「うー」

銀虎公「これはこれは。……子煩悩で誰にも見せないって云う
 話だったのではなかったのか」

火竜大公「うぉっほん!!」 ぼうっ
628 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 22:31:06.00 ID:jeE4iYgP
妖精女王「して、お話とは」

東の砦長「まずは、わが衛門一族の本拠地、
 開門都市の現状から述べさせて貰う。
 まず我が街は……人間どもに荒らされてな。
 俺もその軍の中にいたから、
 このような言い方は好きではないし本来は出来ないのだが、
 街はともかく周囲の農地や街道は
 めちゃくちゃになってしまった」

鬼呼族の姫巫女「うむ」

銀虎公「あのあたりは大規模な攻防戦が何ヶ月持つづいたからな」

碧鋼大将「さもありなん」

東の砦長「もっとも今では人の行き来も復活して、
 もとより沼地やら山奥にあるわけでもない、
 平野の都市だから、随分復興もしてきた。
 そこは心配には及ばない。皆、明るく働いてくれている。

  しかし、ここまで復興してくると、
 今度は交易が盛んになってきてな。
 元々交易の要衝であった街だ、無理もないのだが
 そうなると、踏み固めた程度の街道では馬車の旅に不足がある」

鬼呼族の姫巫女「ふむ」
火竜大公「で、あろうな」

東の砦長「もちろん我が氏族の領地のことであれば
 我が氏族が総力を持って整えればよいのだが
 事が交易となるとそうも行かない」
631 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 22:35:13.35 ID:jeE4iYgP
鬼呼族の姫巫女「衛門一族の領地は確か……」

火竜大公「魔王どの直轄宣言だから、開門都市および
 その周辺馬で2日、くらいであろうな」

妖精女王「そのくらいでしょうね」

東の砦長「で、調べてみたところ、長い戦乱でこの世界の
 街道という街道は荒れ果てて、
 橋はあちこちで焼け落ちているそうじゃないか。
 それを修理したり、何とかしたいという話だ」

鬼呼族の姫巫女「ふむ」

碧鋼大将「それは我が一族の願いでもあった、しかし」
妖精女王「そう、莫大な労力が掛かりますよ」

東の砦長「その辺は、専門家を連れてきたので聞いてくれ」

鬼呼族の姫巫女「ほほう」

火竜公女「はい。
 今回開門都市自治委員会の依頼を受けて調査をしました。
 この街道敷設は十分に利益をあげる、と思われまする」

碧鋼大将「は?」

銀虎公「おいおい、道を造るだけで何で利益が上がる」

火竜大公「話してみよ」
645 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/24(木) 23:14:48.53 ID:jeE4iYgP
火竜公女「まず、我らは長い長い戦乱を過ごして参りました。
 前魔王殿はそう言った戦乱を傍観したばかりか
 奨励すらなさいましたゆえ。
 また今魔王どのはご病気が続きました」

妖精女王「そう……ですね……」

火竜公女「第一に示すべき事は、
 戦をする人手があって、道を造る人手がない
 などと云うことはあり得ぬ、と云うことです」

鬼呼族の姫巫女「それはそれで、道理よな」

火竜公女「新しい街道を造れば、人も物も流れまする。
 物の流れは、豊かさへの第一歩。
 何か足りない物があれば隣国から買えばよいのです。
 あまりたる物があれば、隣国へ売ればよいのです。
 そして、売り買いを行えば、税が入りまする」

紋様の長「税か」
勇者「……ふむ」

火竜公女「こたびの計画では、こちらの地図に示したとおり」

ばさりっ!

火竜公女「9本の本街道を考えまする。
 これらは現在の旧街道を利用しますゆえ、
 その長大さと比較して短期間で作れる見通し。
 これを九族大路と称しまする。
 さらには、今後の展開として、この九街道を補佐する
 18の街道も視野にいれまする」

碧鋼大将「なんと壮大な!」
646 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 23:16:03.98 ID:jeE4iYgP
火竜公女「これら街道は、必要があれば土を盛り上げ
 谷を削り、可能な限り石畳で作りまする」

銀虎公「何故か?」

火竜公女「この世界を悩ませてきた、
 大規模な河川の氾濫に対する備えとしてゆえです。
 道の左右には一定の間隔で槐の木を植え、
 この根を持って大地を抱き、土の流れを防ぎまする。
 また、この九族大路の要所には水路を平行して作り
 水利をはかりまする」

紋様の長「水利とは?」

火竜公女「これは受け売りでございまするが、
 この地下世界、我らが故郷には、
 水のある場所と無い場所の差が激しすぎまする。
 ある場所は大河の氾濫に怯え、
 無い場所では実りのない赤茶けた大地。
 これでは豊かな場所を奪い合い、戦乱が生じるも必定。
 水のある地域からは水を抜き安全を確保し、
 無い地域へと水を少しでも運ぶ方策を練るべきかと」

火竜大公「……これだけの計画をどれだけの期間で
 行おうというのだ」

火竜公女「九族大路を9年。
 その後18枝道をもって18年」

鬼呼族の姫巫女「それだけの人手、金をどうする?」

火竜公女「今回のお願いはそれでございまする」
648 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 23:17:23.16 ID:jeE4iYgP
銀虎公「とは?」

火竜公女「債符を興しまする」

碧鋼大将「債符?」

火竜公女「はい。債符は木の札のような物で、
 番号が振ってあり登録が必要でありまする。
 これを大量に作りますゆえ、買って頂きたい。
 債符を持った商人は、債符ひとつにつき一台の馬車を
 あたらしく作った九族大路において税を払うことなく
 通行させる、とすればいかがでしょう」

鬼呼族の姫巫女「ふぅむ、つまりは事前に税を集める訳か」

火竜公女「御意」

紋様の長「その債符は高いのか?
 普通の商人では買えなくなってしまうのではないか」

火竜公女「あまりにも高い、つまり後で税を払った方が
 安くつくというのであれば本末転倒。
 ですがその場合、その判断も商人の才覚ゆえ
 あとから税を払おうと考える方は、それで宜しいでしょう。
 しかし、税なり債なるものは
 その重さ軽さよりも、
 不公平であることにがもっとも民の反感を買うと思いまする。

  説明をし、街路の有用性を説き、上位に当たる者から
 積極的に債符を買えば必ずや上手く行くと考えまする」
649 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 23:18:53.73 ID:jeE4iYgP
火竜公女「また、これらの道が通るところは交通の要と
 なりましょう。
 氏族の長がたならばお解りかと思いまするが、
 小さき街は大きくなり、今はなにも無き村であっても
 新しく街になる可能性もありまする。
 水路が引かれた地にため池を作れば、新しい畑も作れましょう。 この計画は、必ずや子々孫々にわたる益をもたらしまする」

妖精女王「……」
巨人伯「……俺たち、お金は、少ない」

火竜公女「心得ておりまする。
 巨人が一族の方には、逆にこちらから債符をお送りしたいほど。 資金の代わりに、その強き腕を街道敷設にお貸し下さい」

勇者「……魔王なのか? 誰が鍛えたんだこれ」

銀虎公「我が領土にも水が来るのか」
火竜公女「必ずや」

火竜大公「……」

紋様の長「わたしたち人魔一族は、通例を破ってでも、
 この案には真っ先に賛成させて頂きましょう。
 我ら人魔は雑多な族のあつまり。
 あちこちの街に散らばって生きています。
 これだけの街道があれば、我らが受ける恩恵は計り知れない」

東の砦長「かたじけない」

鬼呼族の姫巫女「面白い。即答は出来ぬが、国元へと帰り
 急ぎその裏付けを検討させよう。前向きな答えを
 期待してくれても良い」

火竜大公「娘よ」

火竜公女「火竜大公におかれましては、いかがでしょう?」
651 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 23:20:43.76 ID:jeE4iYgP
火竜大公「良かろう。支持しよう」

妖精女王「わたし達は、どのようなことが出来るか
 検討してみるとします」

巨人伯「おれたちは……支持する」

碧鋼大将「我らは保留だ。鉄が来るのは有り難いが
 我らがどれほどに受け入れてもらえるのかは
 部の民に相談することなく、軽々に返事は出来ぬ」

鬼呼族の姫巫女「意見が割れた時は過半数、と云う話だったが
 この話は明確な反対があるわけでもない。
 今しばらく時間を取っていただき、
 氏族の中での意見も聞いてみたいが、よろしいか?」

火竜大公「うむ、それが適当であろう」

妖精女王「判りました」
巨人伯「おう……」

東の砦長「かたじけないな。長の方々」

鬼呼族の姫巫女「なんの。火竜老公の美しい娘御を
 みれて眼福であったぞ」

火竜公女「次回までには、今少し詳しい計画図をお持ちしまする」

東の砦長「助かったぜ。やつにも礼を言っておいてくれ」

火竜公女「承りました」にこっ
699 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 13:09:31.80 ID:W1zfwn6P
――――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、仮設会議場の表

パタタタッ

火竜公女「黒騎士殿」

勇者「はい」ビクッ

火竜公女「会議の際は知らぬふりをして申し訳ありませぬ。
 あのような席ゆえ、馴れ馴れしくも出来なかったゆえ」

勇者「ああ。それは、うん。当たり前だよ。
 すごく格好良かった。たいした計画だったよ?」

火竜公女「そのように云ってもらえて、妾も嬉しく思いまする」

勇者「おう」

火竜公女「ついでに、一つお願いしてもよいかや勇者殿」

勇者「出来ることならなんでも……ゆうしゃ!?」

こそこそ

東の砦将(アイコンタクト) ごめん、全部、ゲロった
副官(アイコンタクト) まことに、ごめん、なさい

火竜公女 にこにこ

勇者「……はい」

火竜公女「魔王殿に会いたいのです。連れて行ってください」
701 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 13:11:05.13 ID:W1zfwn6P
――冬越しの村、魔王の屋敷、廊下

勇者「……」

勇者「なんかさ。俺すげー虐められてね?」

勇者「火竜公女と魔王が話すのを廊下で
 待たされてるって、どんだけサドなんだよ。
 泣いて良いよね? 俺泣いて良いよね?」

勇者「……良いよね?」

しーん

勇者「勇者の自信なくなってきたぞ、こんちきしょうめ」

ぽつーん

勇者「……?」

      「――。――――」
      「――――――」

勇者「いやいや。それは駄目でしょ? 盗み聞きとか。
 それは勇者じゃなくて、一人の男として終わってますことよ?」

      「――――! ――!」
      「――――――」

勇者「……えーっと」
702 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 13:12:06.76 ID:W1zfwn6P
勇者「うわぁぁぁ! だ、だめだぁ。
 盗み聞きなんて良く無いのだぁぁ!
 変態紳士の爺じゃあるまいしぃぃぃ!」

勇者「……」

      「――。――――」
      「――――――」

勇者「……」そろー

メイド長「どうしたんですか? 勇者様」

勇者 ビクゥッ!! 「ナンデモナイヨ」

メイド長「そうなんですか?」

勇者 こくこくっ

メイド長「あらあら、まぁまぁ」くすっ

コンコンッ

メイド長「まおー様。お茶のお代わりはいかがですか?」

ガチャ

勇者「あ」

魔王「いや、もう良い。それより勇者。
 公女殿が帰られる。送って差し上げてくれ」
705 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 13:27:25.32 ID:W1zfwn6P
――魔界、開門都市、郊外の虹降りしきる丘

しゅわんっ!

勇者「よっと。……ついたよ」
火竜公女「ありがとうございまする、黒騎士殿」

勇者「いえいえ」
火竜公女「……」

さくっ、さくっ、さくっ

勇者「えっと、街まで送る」
火竜公女「いえ」

勇者「……」
火竜公女「黒騎士殿?」

勇者「はい」 びくっ
火竜公女「はっきりさせて頂くことがありまする。
 妾はふられたのですよね?」

勇者「えっと……」
火竜公女「黒騎士殿の、一番大切な方はいらっしゃるのですよね」

勇者「うん……」

火竜公女「……」

勇者「大切って云うか、みんな大切なんだけど」

火竜公女「どれくらい大切ですか?」
勇者「すごく」
709 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 13:30:13.23 ID:W1zfwn6P
火竜公女「妾のことはどれくらい大切ですか?」
勇者「……」

火竜公女「答えてください」

勇者「危険があったら……身体を張って護れるくらい」

火竜公女「……ふふふっ」
勇者「?」

火竜公女「黒騎士殿は、その言葉で随分損をしていますゆえ」
勇者「そう、なのか?」

火竜公女「普通の殿方は、黒騎士殿ほど強くありませぬ。
 故に、護れる女子は一人がよいところ。だからその言葉も、
 護るという行為も、告白と同じ意味を持つのでありまする」

勇者「……」

火竜公女「努々、軽率にそのようなことを云ってはなりませぬ。
 ……“餌は与えても野良は飼わない”。
 そう言うことをしてはなりませんよ」

勇者「……」

火竜公女「黒騎士殿は妾を護ってはくれても、
 妾と添い遂げてはくれないのでしょう?」

勇者「えっと……。個人的には、その」

火竜公女「父上が何と言おうと、
 妾は一番でないといやでありまする。
 また、並の女子相手では押さえられぬとも
 思ってはいませんでした」
710 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 13:33:02.19 ID:W1zfwn6P
火竜公女「勇者殿」
勇者「……」

火竜公女「妾を振るにあたっては、傷心は無用にございまする。
 妾もまた裏切りの徒。情けをかけられる一理もありませぬゆえ。
 ただただお願いしたき義が」

勇者「うん」

火竜公女「大事な人がいるのなら、大事と仰いなさいませ。
 勇者殿のお力があれば、幾百、幾千の女子の
 命と安全を守ることが出来まする。

  しかし、それでは、あなた様に限っては、
 真心の証とはなりませぬ。
 そのことはお解りになったでありましょう?

  なにも妾が、そこまで難しいことを
 申しておるわけでもありますまい?
 魔王殿は口を濁されておられましたが、
 やはり不安でありましょう」

勇者「……」

火竜公女「妾が理不尽を云っておるかや?」

勇者「いや、そんなことはない……と思う」

火竜公女「では、云うべきです」

勇者「……」
火竜公女「……」
711 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 13:35:12.85 ID:W1zfwn6P
勇者「あー」
火竜公女「……」

勇者「……やっぱ、おれ、ダメダメだから。
 人と魔族を殺すこと。田畑を焼くこと。
 大地を砕いて、街を灰燼にかえすこと。
 そのくらいじゃん、俺が出来るのって。
 そういうやつって、なんかさ。

  まぶしいっていうか。ダメっていうかさ。
 よく分かんないけど。
 ……幸せになっちゃいけない気がする。

  うまく言えないけど」

火竜公女「臆病者」

勇者「……」

火竜公女「そんな気持ちで剣を取るのなら、
 あなたはいつかきっと敗れまする。
 そんなに強いことがいやですかや。
 血に濡れた両手が厭わしいですかや。
 好いた女子が由とするなら、それを持って由となさりませ。
 自らの能力を押さえてなんとしますか」

勇者「……」

火竜公女「護るというのは敵を倒せば終わりですか。
 勇者という名前は、そのように軽きものですかや」
712 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 13:37:05.02 ID:W1zfwn6P
パシンッ!

勇者「っ!」
火竜公女「これは道違えたる妾からの最後の餞別」

勇者「……うん」

火竜公女「妾は幸せになりまする。妾は美しくなりまする。
 あとで……我が君と最初に呼んだあなた様が振り向くたびに
 後悔と妬心ではち切れそうになるほどに。

 よろしいですかや?
 これは貸しでござりまする。

 勇者殿は妾に大きな借りがございまする。
 その返済は、貴方が幸せになることでしか返せぬ事
 それをお忘れ無きように」

勇者「……」
火竜公女「……帰りまする」

さくっ

勇者「……」

さくっ、さくっ

勇者「……」

さくっ、さくっ、さくっ



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