6-3


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」6-3


392 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 14:56:25.56 ID:GDf918.P
――開門都市、小さな月桂樹の神殿

土木子弟「なんだよ、つく早々」
奏楽子弟「参拝よ、参拝」

土木子弟「なんだよ。神殿か? お前そんなに熱心だったっけ?」
奏楽子弟「別にそんなでもないけど。
 せっかく音楽の神様の神殿もあるもんだからさ」

土木子弟「そうなのか?」
奏楽子弟「『開門都市』っていえば、神様の多い聖地だからね」

土木子弟「そっか」

奏楽子弟「一応その庭で商売しようってんだから
 挨拶くらいしかないと気分悪いじゃない?
 別に参拝くらい損する訳じゃないしさ」

土木子弟「そりゃそうかぁ」

奏楽子弟「さっ。きりきり歩くっ」

てくてく、てくてく

土木子弟「それにしても、神殿多いな」
奏楽子弟「そうねー。街を囲む丘には全部神殿有るんだって」

土木子弟「そうなのか、そりゃすげぇ」
奏楽子弟「大きいのは片目の神の神殿、雷霆の神の神殿、
 光明神、欺きの神、闇の神ってあたりだけどね~」

土木子弟「で、音楽の神ってのは?」
393 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 14:57:23.40 ID:GDf918.P
奏楽子弟「じゃん!! ここでーっす」
土木子弟「これ、神殿じゃなくて祠じゃん」

奏楽子弟「ぶーぶーっ! どっちだって同じじゃない」
土木子弟「建築の様式上、明らかに違うだろ」

奏楽子弟「信じる心の貴賎はないのよっ」
土木子弟「たいして信じてもないくせに」

奏楽子弟「さっ。軽く掃除しててよ」
土木子弟「お前はどうするの?」

奏楽子弟「奉納に一曲弾くっ」ぴしっ

土木子弟「で、俺は肉体労働?」
奏楽子弟「そのとーり♪」

土木子弟「まぁ、いいんだけどね」

奏楽子弟 ~♪ ~~♪

土木子弟「それにしても、あいつ本当に音楽馬鹿の本馬鹿に
 なっちゃったなぁ。学んでいる時は色んな教科やってたのに」

奏楽子弟 ~♪ ~~♪
土木子弟「人のこと云えないか。俺だって土木好きだもんな」

ざしゅざしゅっ

奏楽子弟 ~♪ ~~♪
土木子弟「……せっ、っせ。結構土貯まってるなぁ」
394 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 14:59:08.54 ID:GDf918.P
――開門都市、小さな月桂樹の神殿の前

    奏楽子弟 ~♪ ~~♪

土木子弟「んっと。こんなもんか」

土木子弟「それにしても……神殿か。見事なもんだなぁ。
 二本の河と都市を囲む九つの丘、その丘の上に立つ神殿」

土木子弟「この都市を考えついたのは、相当な才覚の持ち主だぞ」

土木子弟「特に神殿が良いな。
 どの神殿も優美な胸壁があるじゃないか」

土木子弟「えーっと。ん? まてよ。
 どっかに紙あったかな、無いか。……地面でいいや」

がりがり

土木子弟「防壁、防壁内通路、胸壁だろー。
 これって神殿って云うよりは砦みたいだよな。
 形が美しいからそう見えないけど。
 参拝路を支援物資搬入路だと考えれば、開放型の防御線なのか?
 いや、開放型とも云えないか……。
 古代には防壁で繋がれていた可能性もあるもんな」

土木子弟「そもそもこれらの神殿はどれくらいの
 古さの物なんだ? 随分堅牢な作りだけど……」

土木子弟「今考えれば、二本の河川も
 護岸工事が為されていたようだし……。
 そもそも俺たちが渡ってきたあの船着き場も、
 随分高くて都合の良い曲がり角だと思っていたけれど、
 古代の堤なのじゃないか?
 石だの土塁だのを積んで作ったあとに、長い年月で
 土が被さって植物が生えてああなったとか」

中年商人「ふむふむ」
395 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 15:00:54.02 ID:GDf918.P
土木子弟「だとするとー」

がりがり

土木子弟「こっちが北だから、こんなもんかな。
 こんな風に街道があるけれど、
 本来はこの山を貫く街道があってもおかしくない、っと。
 いや、むしろ、南へ延びる動脈が必要なわけで。
 そうじゃなきゃ辻褄が合わないだろう。
 と、すると、この都市の本来の正門は南門なわけだ」

中年商人「ありますよ」
土木子弟「へ?」

中年商人「その方向には旧道があります」
土木子弟「ホントですかっ?」

中年商人「ええ、山を途中まで登って途切れていますけどね。
 ゲートへ向かう新道から分岐してるんですよ」

土木子弟「広さは? 工法は!?」

中年商人「工法は判りませんけれど、
 広さは人の身長の3倍弱ってところですかねぇ。
 場所によっては石畳になっていますよ」

土木子弟「石畳……」

中年商人「興味があるんですか?」

土木子弟「すごく見たいな! 旧街道かぁ。
 途切れている? それは何らかの災害のせいなんじゃないですか。
 その災害で途切れて、山を迂回する新道が作られたとすれば
 辻褄があうし。新道から旧街道が分岐したのではなく
 その逆が正しい物の見方だと思います」
396 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 15:02:14.46 ID:GDf918.P
中年商人「ふむふむ」
土木子弟「あ。すんません。見ず知らずの人を巻き込んで」

中年商人「あー。いえいえ、面白い話が聞けましたからね」
土木子弟「俺は土木子弟。見ての通り角つきの鬼呼族です」

中年商人「わたしは中年商人。この開門都市にやってきた
 旅の商人って所ですね」
土木子弟「旅商人さんか。それで道に詳しいんですね」

中年商人「ええ、まぁ。随分あちこちに行きましたから」

土木子弟「それにしても興味深いな」
中年商人「……街路に興味があるんですか?」

土木子弟「ああ、おれは土木屋なんですよ」
中年商人「土木?」

土木子弟「聞き慣れない言葉ですよね。
 堤防や街道を造ること、防壁や城を造ること、
 水を生かして農業に用いる水利、木を植えたり、
 災害に備えて山の形を変えたりもします。
 そういう一人の手には負えない、大きなものを造るのが
 俺の仕事なんですよ」

中年商人「街道も?」

土木子弟「街道もですね。獣道なんて云う言葉もあるとおり
 道なんて放っておいても歩きやすい場所には
 自然に出来上がっていくものだけど、
 造るとなるとこれはなかなか奥の深い物なんですよ」

中年商人「橋なんてどうです?」
土木子弟「ああ。橋も重要ですね!」
397 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 15:03:44.67 ID:GDf918.P
土木子弟「橋というのは橋梁とも呼ばれて、
 人や物が、谷、川、窪地などを乗り越えるための構造物です。
 人が渡る物を橋、水を渡す物を水道橋なんて云いますね。
 木造の物も多いけれど、石造りの方が主流じゃないかなぁ。
 いやまてよ、この時代……。いやもっと先の時代なら
 鉄製の物が出現する可能性もあるのかな?
 たとえばボルトのような物を……」

がりがり

中年商人「え、あ。いや」
土木子弟「となると、強度面での問題を負荷拡散して……」

がりがり

中年商人「もしもしっ」
土木子弟「あっ! いや、すいません! 話の途中で。
 こういう事になるとすっかり夢中になっちゃって」

中年商人「橋と街道に興味がおありなら、
 一度わたくしどもの仕事場を見に来ませんか?」

土木子弟「仕事場?」

中年商人「ええ。今まさに、橋を架けようとしているところです」
土木子弟「そうなんですかっ!? どんなです?」

中年商人「さぁ……。
 見たこともないような、としか云えませんね。
 なにせ、天と地が反転するような場所に橋を架けていますから」
401 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 15:07:41.43 ID:GDf918.P
――冬越しの村、冬の終わり、メイド妹の日記

「三度目の冬の終わりです。
 この冬は使える香辛料が増えました。
 肉荳蔀や胡椒、蕃紅花などです。こういうのは、
 お兄ちゃんが魔界から持ってきてくれて、とっても便利です。
 おにいちゃん万歳!

 当主のお姉ちゃんは色々忙しいみたいです。
 お兄ちゃんと一緒に、冬のお城に行くんだっていって
 今日も出掛けています。
 交易とか、通商とか、受け入れとかいっています。
 お土産を沢山用意しないといけないんだって。
 当主のお姉ちゃんは、魔界の王様もしているので
 お土産が沢山必要なそうです。
 お土産で貧乏になるんだって。
 大変だね。

 本日は、ソーセージの平焼きパイを作ります。
 胡椒が手に入ったので、胡椒味です。
 お兄ちゃんはこれが大好きです。
 血入りのソーセージのも作ろうっと。
 村長さんへ届けると、喜んでくれるから。

  もうすぐ、春です」
404 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 15:53:28.16 ID:GDf918.P
――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、天幕で作られた街

勇者「おいおい、すげぇな」
メイド長「そんな風に覗かれると、不審に思われますよ」

勇者「それにしたってこれは。……街みたいだぞ」
魔王「まぁ、小さな街程度の人は集まっているだろうな」

メイド長「各氏族の主立った実力者、小さな氏族の者たち、
 そういった忽鄰塔の参加者を目的に集まる商人や芸人、
 売り込みに来た戦士達。
 忽鄰塔には忽鄰塔に参加する何倍もの人数が詰めかけるのが
 常のことですから」

勇者「……いよいよか」
魔王「ああ、いよいよだ」

勇者「勝算はどんなものだろうな」
魔王「決して良いとは云えぬ。が、時間はある」

勇者「そんなことを云っていたな」

魔王「全会一致が原則だからな。
 わたしが首を振らなければ最悪引き延ばしは出来るわけだ」
勇者「ふむふむ」

魔王「とは云っても、無限の時間をかけられるわけでもない。
 いくら長いとは言え、二月が限度だろう。
 忽鄰塔においては前例が重視されるからな。
 時には魔王の言葉よりもだ」

勇者「そうなのか」
魔王「ああ。だから二ヶ月。
 その間に探り、交渉して事態を打開せねばならぬ」
405 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 15:54:52.26 ID:GDf918.P
メイド長「本日の所は、開催宣言と挨拶程度ですね」

勇者「開催宣言は、魔王がするのか?」
魔王「そうだ」

勇者「俺はどうすればいい?」
魔王「どうするんだった? メイド長」

メイド長「えーっと、守護騎士の扱いですよね……。
 魔王様が挨拶している間には、剣を抜いて地面に突き立て
 右後ろあたりでぼーっと立ってればよいのではないかと」

勇者「なんだかえらく地味だな」

魔王「魔王直属の最強騎士、かつ将軍というシロモノだからな」

メイド長「ええ。ある種の権威付けと脅しですから。
 ときたま“ギラッ!”とか無意味に殺気を放って
 参加者連中に“こいつ、出来る!”とか思わせれば
 いいんじゃないでしょーか」

勇者「不安になってきたぞ」

魔王「初っぱなから不安になってはダメだ」
メイド長「そうですよ。体力消費しますよー」

勇者「それもそうだけど」

魔王「我らの天幕はこれと周囲の八つだ」
メイド長「そんなに必要ないんですけれどね」

勇者「俺らだけだしな」
魔王「とはいえ、後で貢ぎ物を届けられたり、
 客人を待たせたりすることもある。
 そもそも魔王の天幕がちんけでは示しが付かぬ」
406 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 15:56:20.26 ID:GDf918.P
魔王「さぁて、そろそろか?」 すくっ
メイド長「お待ちください」

魔王「へ?」
メイド長「まさかその綿のシャツと巻きスカートに白衣
 なんて出で立ちで開幕の演説に向かうおつもりでは
 ないでしょうね?」

魔王「だ、だめか? やっぱり」おどおど
メイド長「何で小声になるんですか」
勇者「あはははっ。びびってやんの」

メイド長「勇者様」
勇者「はい?」

メイド長「しばらく背中を向けていてください」
魔王「だ、だめだっ! 勇者は外に出ているべきだっ」

メイド長「勇者様がいないと魔王様が抵抗するでしょっ!」

勇者「えー、はい。仰せの通りに」

   魔王「だ、だめだというのにっ! わ、わかった。
    脱ぐっ! 自分で脱ぐっ! ちゃんとするっ」
   メイド長「まぁたこんな地味な下着を着けてっ」

   魔王「暖かいのだ、良いではないかっ!」
   メイド長「色の取り合わせをお考えください。
    ほら黒ですよっ。ちゃんとつけて」

   魔王「やっ。ど、どこに触るっ。苦、苦しいっ」
   メイド長「脇から肉を持ってくるんですよ。
    こんな時こそ駄肉でも活用しないとっ」

勇者 ……ぽたっぽたっ。
407 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 15:57:48.85 ID:GDf918.P
――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、中央大広場

魔王「我が同胞(はらから)よっ! 我が臣民よっ!」

おおおおお! 魔王様だっ! 魔王様が演台にあがられたぞ!

魔王「まずは我が呼びかけにかくも多くの同胞が応えてくれたこと
 この魔王嬉しく思う。魔族の繁栄よ、とこしえなれっ!」

おおおおっ!

魔王「我が治世もはや二十年に達する。
 人間族の強襲により突破されたゲートは、
 長らく活動状態にあった。
 起動されたゲートは魔力や法力により制御され、
 我らが住むこの内側なる大地と、
 人間族の住まう外側なる大地の間を隔て、
 またつなげる関門としての役目を果たしてきた。

 しかし、ゲートはその役目を終えた。
 我が右腕にして守護の剣、
 黒騎士によりついにゲートは消滅したのであるっ!」

  メイド長「ほら、勇者様。一歩前へ。やり過ぎ禁止ですよ」
  勇者「お、おうっ」

勇者 ザッザッザ、ガシャン!!

く、黒騎士だ! あれが黒騎士……。魔王麾下の最強騎士。
光るらしいぞ? いや、俺は回るって聞いた。音も出るらしい……。

勇者 ギラッ☆

す、すごい殺気だっ! なんて恐ろしい気迫なんだ……。
409 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 15:58:34.99 ID:GDf918.P
魔王「我が同胞(はらから)よっ! 我が臣民よっ!
 ゲートは消滅したっ。
 これにより、内なる大地と外なる大地は、
 今ひとつの大地となったのである!

 我らの前に広がるのはもはや旧き日の我らが世界ではない。
 新しい一つの世界であるっ!」

おおおお! 魔王! 魔王様! 魔界に栄光あれっ!

魔王「我が臣民よっ! 今こそ我らは岐路に立つっ。
 この内なる大地に山積した諸問題にもけりをつける時が来た。

 あまたある氏族の長なるものよっ。
 参集に応えてくれて礼を言おうっ。

 だがしかし、今はそのような儀礼に時を費やすことなく
 我らが明日への道を探らねばならぬ」

おおおお!
  おおおおお!

魔王「我、三十四代魔王なる“紅玉の瞳”は
 ここに忽鄰塔の開催を宣言するものであるっ!」

おおおお!
  おおおおお!
 魔王様! 魔王様~! 魔王様ーっ!! 魔王様!!


 魔界万歳! 忽鄰塔万歳! 魔族の繁栄よとこしえなれっ!!

   メイド長「……ふぅ」
   魔王「とりあえずはこのような物でよかろう
   勇者「なんか、もう、えらい人数だなぁ」
423 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 16:39:02.47 ID:GDf918.P
――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、魔王の天幕
――その夜

勇者「はぁぁぁ」 ぐってり
魔王「ううう。しんどかったな」 くたり

メイド長「あらあら、まぁまぁ」

勇者「何でメイド長はそんなにタフなんだ」
魔王「ば、ばけものか」

メイド長「わたしがご挨拶に付き合った訳じゃありませんから」

勇者「あれから何人にあったんだ?」
魔王「さぁ……? 15組くらいまでは覚えていたが」

メイド長「48氏族でございますよ」

勇者「48!? よんじゅうはちって云ったか」
魔王「数千人はいたかと思ったのに」
メイド長「まぁ、一組の氏族さまが挨拶に見えられると
 族長に何人かの有力な枝族のひとに、王子や王女や
 なんやかやにお付きの人なんかも来て、
 結構な大人数ですからね」

勇者「それが一斉に喋ると、なんかこー。
 うわーんと耳鳴りがするような……。すげぇな」

魔王「メイド長。茶を頼む。甘いやつ」
勇者「俺もだ。すげー甘いやつ」

メイド長「はいはい、お待ちくださいね」
424 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 16:39:58.04 ID:GDf918.P
勇者「なんだっけ、魔王」 くて
魔王「なんだ勇者」ずるずる

勇者「えーっと。八大なんちゃらってのは、挨拶来てたのか」
魔王「来てたぞ。真っ先に来てた」

勇者「よく判らなかった」
魔王「そうか。馴れないとなかなかピンとは
 来ないのかも知れないな。どこの氏族も立派な挨拶をしていたぞ」

勇者「そうか。悪いけれど、今後のためにもざっくり解説
 してくれないか? 今日の様子も含めてさ」

魔王「うむ、かまわんが。……メイド長、もう一杯たのむ」

メイド長「はい。畏まりました」

 とぽとぽとぽ……

魔王「まず、真っ先に来た使節は人魔族だな。
 人魔族はもっとも数の多い魔族だ。
 姿形は、人間族に似ているな。もちろん瞳の形や身体の各部分に
 特徴のあるものもいるが、ちょっとした変装で人間社会で
 暮らすことが出来るものが殆どだろう。

 人魔族は数が多い上に、混交や、他の種族からの流入も多い。
 生粋の人魔族は、紋様族や秘眼族くらいだろうな。獣人族や
 鬼呼族のものが、人魔族と交わり、一員になっているケースは
 珍しいことではない」

勇者「ああ、わかった。あの威厳のある貴族風のおじさんだな」

魔王「そうだな。あれでも斧を使わせると強いらしいぞ?」
425 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 16:41:19.41 ID:GDf918.P
魔王「彼らは人間界侵攻については、賛成でも反対でもないんだ。
 というか、数も多いし、枝族も多いから
 そこまで統一された意見を持ちずらいというのが本音だ。
 人間界侵攻に限らず、多くの問題に中庸の姿勢を取る。
 まぁ、氏族としては煮えきれないんだが
 個人個人は好奇心も強く、その場その場の状況に悪く云えば迎合、
 よく言えば臨機応変に対応してゆける連中だ」

メイド長「都市居住の魔族は、特に人魔族が多いですね」

勇者「ああ。開門都市で出会う、ちょっと猫目だったり
 腕が長かったりする連中は人魔族なのか」

魔王「そうだな。彼らは氏族としては、
 良くも悪くも保守的で堅実だ。
 と云うのも数が多くて、内部での
 意見調整が付かないせいなのだがな」

勇者「ふぅん。……まぁ、会議では敵でも味方でもない感じだな」
魔王「そうだ」

勇者「ふむ」

魔王「次に来ていたのが、蒼魔族の連中だ。
 肌が蒼くて、記章をいっぱいつけていた……判るか?」

勇者「ああ、判る。すっごいきびきびしてた連中だろう?
 蒼魔族は知ってるぜ。何度か剣をあわせたこともあるし。
 なんだろうな、エリートって感じだよなー。
 実際弱い蒼魔族にはあったことがない」

魔王「そうだな。蒼魔族は強力な部族だ。
 数としては人魔の半分もいないだろうが、
 身体能力と魔力に秀でていて、個体能力が高い。
 魔族の中でも優秀と云えば、優秀だ。
 彼らもいくつかの枝族に分かれているが、
 共通しているのは蒼い肌だな。瞳の色は金色から赤まで様々だ」
427 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 16:43:18.32 ID:GDf918.P
勇者「ふぅん」

魔王「彼らは結束力の強い氏族で、
 氏族内部では完全な階級社会を築いているな。
 蒼魔族の族長は、他部族の族長とは別次元の権限を持っている。
 また戦士が尊ばれる軍人国家的な性格を持っているな。
 彼らは純潔を重んじるために、他種族と交わることは
 殆ど無い。親戚での結婚が奨励されるほどだ」

勇者「魔族もいろいろだな。共存についてはどうなんだ?」

魔王「彼らは人間界侵攻論の急先鋒だ。
 もちろん領土的だったり経済的な野心も持っているが、
 一番強いのはエリート意識だな。
 その意識が発展に向かううちはよいが、
 戦争に向かうとなかなか物騒な一族なんだ」

メイド長「実際、大きな軍事力も持っているから始末に負えません。
 八大氏族の中ではもっとも多くの魔王を輩出しているという
 自負心もあるでしょうしね……」

勇者「やっかいそうだなぁ」

魔王「やっかいついでに、開戦論のもう一方の雄が獣人族だ。
 獣人族は、これまた様々な氏族に分かれているな。
 獣の身体の一部を身体の特徴として持っている氏族だ。
 いまの族長は銀虎公と呼ばれている。
 彼らはあまり都市には住まない。山野に城塞などを作り、
 そこに住むことが多いな。
 森の中や自然の中で起居するものも多いようだ。
文明程度では遅れた氏族だが、その分戦士としては強靱だ」

勇者「あー。んー……。魔狼元帥とかやっちゃった……」

魔王「それは先代の大将軍だ……。やっぱり勇者がやったのか」
メイド長「まぁ、あの将軍も開戦論派でしたから……」
428 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 16:45:27.72 ID:GDf918.P
魔王「この獣人族も、開戦論派だな。
 元々血気にはやった連中だし、地下世界では、
 最近耕作面積が増えて、原生林の伐採や開墾が進んでいる。
 新しい居住空間を求めて、地上世界を縄張りにしようという、
 いわば偏向した領土欲求だな」

勇者「偏向してるのか?」

魔王「獣人族の概念では、縄張りというか領土は重複可能なんだ。
 そもそも彼らの多く、まぁ肉食獣的な性向を持つ氏族は、
 1人あたりに要求する空間が桁違いに大きい。
 人間や農耕を行う魔族は、せいぜい一人が耕せる広さしか
 要求してこないが、彼ら獣人族が要求するのは、
 1人あたり数km四方の“狩り場”なんだ。
 その上、彼らは彼らと文化の違う氏族、
 つまり農耕をする氏族の縄張りと、自分たちの縄張りは
 重なっていても構わないと考えてる。
 なぜなら自分たちが行っているのは、
 農耕ではなくて“狩り”だから、だとね。
 これではいくら人数が少なくとも
 他の氏族との関係はぎくしゃくするよ」

勇者「そりゃそうだ」

魔王「まぁ、そんな獣人族も最近は内部で穏健派が
 育っていたはずなんだが……。
 今は強硬派が息を吹き返しているらしいな」
メイド長「そうですねぇ」

魔王「さて、次は機怪族だ。魔族の中でも相当に
 変わった連中だな。機械仕掛けの鎧みたいな連中だ」

勇者「ああ。うん、判った。いたな、そういうの」

魔王「彼らはからくりと魔力機関を育てている氏族でな。
 時に技術者を輩出することでも有名だ。
 もっとも彼らのからくりは、機怪族の身体と接合される
 前提なので、魔界全土に広まることは滅多にないのだが」
429 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 16:47:23.47 ID:GDf918.P
魔王「彼らもまた開戦論支持者だ。
 もっとも機怪族は前の二氏族よりは随分冷静というか、
 利己的で目的ははっきりしている。
 彼らが欲しいのは金属資源なのだな。
 それも希少土類が欲しいらしい。
 彼らの研究欲を満たすためには新しい金属サンプルが必要で
 そのためには地上はもってこいの鉱山なのだろう。
 また、彼らの領土の鉄鉱山は枯渇しつつある。
 それも開戦論を支持する理由の一つだな」

勇者「やっと説得できそうな相手が来たよ」
メイド長「そうですね」

魔王「まぁ、だからといって油断は出来ん。
 かれらは、八大氏族の中ではもっとも数が少なかったように思う。
 そのため謎が多くてな。わたしにも実態は知れない。
 どのような隠された目的や意図があるやも判らないのだ。

  そもそも、彼らがどのようにして生まれて、
 本当はどのような姿なのかも判らぬ。
 あの大鎧のような外見が本物なのか
 からくりなのかも今ひとつ判然とせぬのだ」

勇者「ああ、あれはからくりだよ?
 鎧の中には、クリーム色とピンクの、
 何かどろっとした果肉みたいなのがつまってて、
 その中に女の子が入ってるんだ。
 中から魔力伝達糸と圧力シリンダで動かしてるって云ってた」

メイド長「……」
魔王「……」

勇者「え? どうしたの?」
437 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 17:39:25.50 ID:GDf918.P
――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、魔王の天幕

勇者「らからなんれもないのり……」

魔王「わたしも女騎士もいるのに、なんでそう
 女子に好意を振りまいて生活するのだっ」

勇者「いや、あれは好意じゃなくて勇者の義務で……」
魔王「問答無用ぞっ」

メイド長「はぁ……」

魔王「連れ帰って紹介するくらいの覚悟があるならともかく、
 それだけの覚悟もなく婦女子の裸体だけを見るとは何事か」

勇者「はひすひません」

魔王「まったく!」
メイド長「ほんとですよ。傷物にする順番を考えてください」

勇者「えらいすひまへんれひた」

魔王「……」ぷんすか
勇者「……」

魔王「……えーっと、どこまで解説したのだったか?」
メイド長「人魔族、蒼魔族、獣人族、機怪族までですね」

勇者「のこりは……4っつか?」

魔王「と、なると……竜族か」
勇者「ううう。竜なら少しは判るぞ」

魔王「そう言えば火竜大公とは面識があるのであったな」
勇者「開門都市の時に賭けをしたからな」
439 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 17:41:58.71 ID:GDf918.P
魔王「竜族もまた高い戦闘力と英知を秘めた氏族だ。
 現在の長は火竜大公だな。
 竜の姿と人の姿を行き来できると云われているが、
 実際行うには高い魔力が必要とされるので
 限られた血筋の才能有るものが可能にする秘術だ。

  多くの竜族は、竜の角や鱗を秘めた人型の氏族だな。
 彼らもまた山中に住み、あまり他の氏族と関わろうとはしない
 孤高の氏族だ。だが決して愚かではないため、先々の
 展開を読もうとするところは買えるな。

  わたしとしては、今日火竜大公と話した感じでは
 そこまで馬鹿ではないと思った。
 だがしかし、ひいき目に見ても氏族としての態度は保留、
 中立であろうなぁ」

メイド長「そうですね」

勇者「まぁ、氏族を率いるなんて云う立場に成ると、
 どんな決断でも軽々しくは下せないのかも知れないな」

魔王「次は巨人族か」
勇者「おお、あのでかい連中だな?」

魔王「うん、そうだ。とは云っても、
 身長はわたしの3倍程度から倍程度の者が多い。
 彼らはこの地下世界でも中央部から北方にかけて住んでいる。
 多分に漏れず枝族にわかれていて、
 山に住まう者、森に住まう者、丘に住まう者などがいて
 性質も様々だ。
 中には乱暴者もいるが、それも“乱暴”程度であってな。
 凶暴とまではとても云えぬ。
 話してみれば素朴で素直な連中だと云えよう」

勇者「じゃぁ、味方になってくれそうか?」
440 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 17:43:32.48 ID:GDf918.P
魔王「それはそれで、ちょっと難しい。
 彼らの先祖は、どうやら地上世界に
 何回か出た事があるらしくてな」

勇者「そういえば、巨人のおとぎ話は地上にもあるな」

魔王「どうも、人間には良い感情を持っていない。
 “巨人を騙して無理矢理働かせる意地の悪い人間”というのは
 巨人族全体で語り継がれている、
 それこそ子供でも知っている物語なのだ。
 彼らは地上世界に関わることを望んではいない。
 どちらかと云えば放っておいて欲しい派閥だ。

 しかし、あえてどちらかを選べ、と迫るならば
 人間と共存するよりは戦争をすることを選ぶと思う」

勇者「人間のご先祖様何やってるんだよ……」
魔王「まぁ、仕方有るまい」

勇者「見るからにでっかくて気の良い連中っぽいのだけどな」
魔王「付き合ってみると、酒好きの良い奴らだ」

勇者「残りは?」

魔王「鬼呼族は角を持った氏族だ。
 なかなか複雑な氏族だが地下世界の東側を領域としている。
 魔族の中でも器用な連中で、法力を使いこなす者もいるな。
 妖力を持ち、姿を消したり変えたりするのもお手の物だ。
 ……魔物の中にも、動物とは言え、それなりに知恵を
 持つ存在がいるのは知っているであろう?」

勇者「ん? ああ」
441 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 17:45:04.60 ID:GDf918.P
魔王「そういった魔物を使役する術も鬼呼族が得意とするものだ。
 彼らは彼らなりのやり方で世界を見る。
 彼らの傘下に収まっている小氏族も多いし、支配地域も広い。
 あまり発言力は強くないが、それは彼らが魔族にもあまり
 興味を抱いていないせいだな。
 詰まるところは自分たちでバランス良くやっているのだ。
 そのせいで、人間界侵攻には否定的。
 だがしかし、共存したいわけでもない。
 出来れば二つの世界は切り離したいという所であろう」

勇者「そうか。鬼呼族とは知り合いが居ないように思う」

魔王「開門都市のあたりには少ないだろうな」

メイド長「お酒が有名ですよ。それに米、ですね」

勇者「米?」
魔王「温暖で湿潤な地方で取れる農作物だ。麦に似ているが、はるかに生育条件の制約は厳しい。その代わり面積あたりの生産量は段違いに優れる」

勇者「そんな作物があるのか」
魔王「気候によるんだ。南部諸王国では芽さえでないだろうな」

勇者「で、ラストは俺でも判る。妖精族だ」

魔王「うむ。いまは妖精女王が治めるのが妖精族だ。
 元来は森に住む小さな魔族の総称だったが、時を経るごとに
 だんだんと融和し、今では妖精女王の治める宮殿を中心に
 協力して暮らしを営んでいるな」

勇者「妖精族は味方なんだろう?」

魔王「ああ、彼らは殆ど唯一と言っても良い
 人間族共存派だ。聖鍵遠征軍からの被害にも遭っていないし
 悪感情を持っていなかったんだろうな。
 姿形に美しい者が多いので、
 おそらく人間とも会話しやすいのだろう」

メイド長「妖精女王もなかなか英明な方のようですしね」
444 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 17:51:42.78 ID:GDf918.P
魔王「ま、あ妖精族は基本的には
 ちょっと悪戯好きだが、戦争嫌いの臆病な連中だ。
 と云うのも彼らは魔力こそそこそこ有るが戦闘能力が低くてな。
 魔族同士の戦乱の世ではまっ先に
 犠牲になっていたという歴史があるからだ」

勇者「そう言えば、以前、人間との戦争の前は
 魔族同士で争っていたって云ってただろう?
 あれはどんな感じだったんだ?」

メイド長「あれは乱世でしたね」
勇者「乱世……?」

魔王「基本は鬼呼族と蒼魔族の戦い、
 人魔族と獣人族の戦いの二つが同時に起こっていた。
 だがまぁ、至る所へ飛び火してな。
 魔界の中に無関係と云えるような氏族や場所の
 方が少なくなってしまった」

メイド長「血なまぐさい時代でしたね」

勇者「魔王は止めようとはしなかったのか?」
魔王「もちろんした。あのときも忽鄰塔を開こうとしていたのだ。
 人間との戦争が開始されなければ……。
 いや、それは云っても、仕方ないか」

メイド長「……」

勇者「まぁ、それはそれとしてもだな」
魔王「うむ」

勇者「やっぱり相当に辛そうだよな」
魔王「うーん」
445 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 17:53:30.73 ID:GDf918.P
勇者「だって、人間との共存を認めているのは
 妖精族だけなんだろう? 

 そんで、全会一致って事はそれ以外の氏族は
 全部説得して人間との共存を認めさせなきゃならない。
 7つの氏族をそれぞれに説得して回るってのは
 これは相当に難しい問題だろう。
 ちょっと方法の想像さえ付かないぞ」

魔王「人間との共存は目指さないよ」

勇者「へ?」

魔王「共存じゃなくても良いんだ。
 とりあえずの所は、戦争の停止だけで十分だ。
 なんだったら限定的な鎖界、とかでもいい」

メイド長「鎖界とはなんですか?」

魔王「界を閉ざす。交流を断つってことだな」

メイド長「出来るんですか? ゲートのない今」

魔王「そりゃ完全なことは出来ないだろうが、
 お題目としては有りだろう。
 もちろん鎖界が戦争に繋がっては意味がないから
 人間側の、まぁすくなくともいくつかの国とは
 停戦協定をした上での鎖界と云うことになるだろうが」

勇者「そんなのでいいのか?
 魔王は共存を目指してきたんだろう?」
446 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 17:56:29.74 ID:GDf918.P
魔王「それはそうだが、絵に描いた餅を眺めていても
 仕方ないだろう。
 目下は戦争を急いで停止することだ。
 今のところはわたしが怪我で負傷をしたと云うことで
 休戦状態にあるが、別に条約を交わしたわけでもなく
 “事実上の休戦”でしかない。

 人間とは現在戦争中なんだよ。
 この状況では、小さなきっかけからどこで火が付くか判らない。

 現にこのあいだ蒼魔族が人間界に単独侵攻したけれど
 あれだって戦時下だから、魔王とは言えわたしにも
 なにも云えない」

勇者「そうか。……そうだな」

魔王「とりあえず、停戦を目指す。
 平和とか交流は戦争を止めてから考えるしかない。
 地下世界と地上世界の交流にはそれだけの価値があると
 わたしは思うんだ。だから、心配はしていない。
 わたしは経済屋だしな」

勇者「交易で?」

メイド長「うん。地下世界から見れば、地上は宝の山だ。
 塩や鉄や麦、羊や魚。欲しいものが沢山ある。
 地上から見た地下も同様だ。香辛料や金、茶。

  平和が来さえすれば、たとえ鎖界していたとしても
 地下と地上は徐々に触れあってゆく。
 当たり前だ。もうゲートはないんだからな。

  人が行き来をすれば、感情的に行き違いがあっても
 少しずつ傷も癒える。一口に魔族や人間と云ったところで
 個人個人はいろんな存在がいるのだって判るようになる。
 共存も出来るようになるさ」
447 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 17:58:52.13 ID:GDf918.P
勇者「そっか。うん」

魔王「目指す結論が、一時的な停戦であれば
 氏族の意見も中立で十分だ。
 “共存はともかく、積極的に攻めなくても良い”程度でな。
 積極的な抗戦論を展開している氏族は、
 蒼魔族、獣人族、機怪族の3氏族だけだ。
 この三者を口説き落とすか、鬼呼族を交流賛成にまで
 もっていって説得の側面支援に回ってもらえれば、
 とりあえずの停戦は成り立つと思う」

勇者「そう考えれば……。さっきよりは無理じゃない気がしてきた」
魔王「であろう?」

勇者「そうだな。俺たちの代で全部やらなくても良いんだ」
魔王「なにをいうか。見届けるまでは……」

メイド長「まおー様」
魔王「あっ……」

勇者「……」
魔王「……」

勇者「まぁ、うん。とにかく随分目の前が開けたぜっ!」
魔王「……」

勇者「なんてツラしてんだよ。忽鄰塔を乗り切らなきゃ
 どっちみち明日も明後日もないんだぞっ。
 そのみっつの氏族を切り崩す準備はあるんだろうな?」

魔王「む。それは、明日からの交渉次第だな」
勇者「作戦は?」

魔王「まずは時間稼ぎだ」
452 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 18:17:37.17 ID:GDf918.P
――地下世界(魔界)、中央の交易都市、酒場

執事「クリッタイ?」
魔族の旅人「忽鄰塔、だよ。クーリールーターイー」

執事「忽鄰塔ですか。ほむ」
魔族の旅人「どこの山から下りてきたんだい、爺さん」

執事「し、失敬な! 田舎者ではございませぬぞ」
魔族の旅人「いや、どこからどう見ても田舎者だよ」

執事「そうかもしれませんが」しょんぼり

魔族の旅人「まぁ、良いってことよ。
 暴漢から助けてもらったのは有り難かったしな!
 爺さん、あんた強いなぁ!」

執事「これでも昔はぶいぶいいわせてたのですよ」
魔族の旅人「昔はか?」

執事「いまもぶいぶいですぞ。主にこんな」ぎゅいんぎゅいん
魔族の旅人「わははは! 爺さん若いなぁ!」

執事「にょっほっほっほ」
魔族の旅人「まぁ、お陰で荷物も無事だったよ」

執事「ところで、その忽鄰塔なるものは賑やかなのですか?」
魔族の旅人「ああ、そうだよ。大会議って云うくらいだからな」

執事「ほむ」
魔族の旅人「どれくらい賑やかなのかは
 何十年に一度のものなんで行ってみなければ判らないが
 主立った氏族の族長全ての魔王様まで出席だし
 賑やかじゃないはずがないだろう」
453 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 18:19:02.00 ID:GDf918.P
執事「魔王、ですか」きらっ
魔族の旅人「魔王様だろっ、爺さん」

執事「そうでした! 魔王様魔王様。にょはは」ぎゅいんぎゅいん

魔族の旅人「俺もここらで玉蜀黍を仕入れたら
 忽鄰塔へと回ってみるつもりなのさ」

執事「おや、会議なのに今から向かっても間に合うのですか?」

魔族の旅人「忽鄰塔と云えば、一ヶ月は開かれているのが
 普通だって話だぜ。たとえ会議が早く終わっても、
 その場合は早く終わったことを記念して宴が開かれるはずさ。
 そうなれば玉蜀黍も捌けるだろうし、
 ああいう会合は東西から商人が集まるんだ。
 何か面白い荷が買い込めるかも知れない。どうせ一人旅だしな」

執事「そうですか、それは良いことですぞ」
魔族の旅人「ま、そんなわけで乾杯だ!」

執事「乾杯!」
魔族の旅人「乾杯!」

執事「にょっはっは。これは美味いですな!」
魔族の旅人「だろう、このあたりは玉蜀黍で酒をつくるのさ」

執事「にょっほっほ。いけますぞ!」
魔族の旅人「おうおう、どんといけ!」

執事(……忽鄰塔。魔王もその姿を現すという魔族の
 戦略会議……。情報の価値は無限に大きいでしょうな)
465 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 19:54:39.40 ID:GDf918.P
――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、騎馬の背

青年商人「配役に手違いがある気がしませんか?」
火竜公女「約束は、約束ですゆえ」

青年商人「適材適所という言葉があると思うんですが」
火竜公女「契約を捨てるかや?」

青年商人「……」
火竜公女「反故にするかや?」

青年商人「判りました」
火竜公女「殿方はそうでなければ」

青年商人「どこで間違ったかは反省の余地がありますね」

火竜公女「明日の朝日をみれるのならば
 反省会には妾がとっくりと付き合って進ぜる」

青年商人「いや、そこでお酒を入れるのが間違いだと思うんです」
火竜公女「酒は百薬の長にして人生の友と云うゆえ」

青年商人「公女のそれは度を過ぎています」
火竜公女「“我が君”の言葉であれば聞きもしましょうが」ふいっ

青年商人「……はぁ」

火竜公女「殿御ぶりが下がりますよ」
青年商人「もう大暴落ですよ。中央金貨も真っ青です」

火竜公女「行ってらっしゃいませ」
青年商人「骨は適当に肥料にでもしてください」
466 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 19:56:09.22 ID:GDf918.P
――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、竜族の天幕

さくり

火竜大公「誰ぞ?」
青年商人「こんばんは。お邪魔します」

火竜大公「何者だ? 近習、なにをしているっ」

近習「この男、公女殿下の紹介状を持っておりまして」

青年商人「よろしくおねがいします」
火竜大公「……良かろう。で、何者なのだ? 人間」

近習「にっ、人間っ!?」「人間ですって!?」

青年商人「判るものですか」
火竜大公「匂いが違うわ」

青年商人「ご慧眼ですね。竜族の長たる火竜大公。
 わたしは青年商人。人間の世界で商売を営むものです」

火竜大公「商売とは?」

青年商人「あらゆるものを売り買いしております」

火竜大公「ふむ。まぁよい。
 公女の紹介状ゆえ見逃そう。疾く去れ」

青年商人「そうはいきません」

火竜大公「何を言うのだ、人間風情が」ぼうっ
青年商人「いや、わたしだって去りたいんですけれどね」



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