627 名前:名前が無い程度の能力 投稿日:2006/10/22(日) 14:21:07 [ JV7L54pE ]
「天狗しばき」という地方行事があると聞き、カッとなってはやまった。
流れも、文体も、つじつまも、全てが不自然ッ!
だが誰かがもっと良い物を書いてくれると信じている。

注:ややハードな表現有りますので、お読みになる際は御注意下さい。

良い記事のネタが有る、と巫女に言われて博麗神社にやって来た射命丸文。
そのネタはというのは、今年から博麗神社で始めたという人間の厄払いの行事であった。
霊夢はその行事を文にも手伝って欲しいと言う。
しかし、文としては第三者の視点で行事を取材したい。
そもそも、文々。新聞は主に妖怪向けの新聞であるから、人間の行事は記事としてはイマイチである。
以上の理由で申し出を断ろうとした文であったが、そこに霊夢が食い下がる。
「そうやっていつも端から見たものを記事にするだけで本当に良いの!?」
「行事に参加し当事者の視点に立ってこそ見えるものもあるはずよ!!」
「そうして練り上げた記事ならばいつもより一味もふた味も違った出来になるわ!!」
妙に鼻息の荒い霊夢に気圧されながらも、その言も一理有ると考えた文は、行事への協力を承諾する。
しかしそれは霊夢の巧妙な罠だった―――




「それで、私は何をすれば良いのでしょうか」
「まず、この天狗面を被る」
「むぅ、あまり美形ではないですね」
 文は不満そうに面を被る。 
「次に、この神輿を担ぐ」
「はぁ」
 渡された寿司桶ほどの小型の神輿をしげしげと見る。
「で、その天狗を、子供達が笹の枝、青竹、棒などで叩く。」
「……は!?」
「大丈夫よ、相手は子供だから。それに、叩かれた天狗は体内の陰氣を浄化され、
 病や厄災を免れる事ができるので、大変に有り難い…らしい」
「いやいやいや、叩かれてる時点で既に厄災っぽいんですけど!?」
「ついでに子供達も天狗の霊格にあやかり、魔除け厄除けの御利益を受けられて元気に育つ…らしい」
「らしいって…そ、そもそも天狗が叩かれる行事なんて、記事にできませんよ!」
「ああ、もう里から玉串料も納めてもらってるんだから、途中で逃げないでよ?」
「そ、そんな…!」


そのようなやり取りをしている間に、鳥居の下の方から大勢の子供がはしゃぐ声が近づいて来た。
やがて、見覚えのある弁当箱のような物体が、石段の下から現れる。
沢山の子供達に囲まれて両手を引かれながら石段を登って来たのは、里の守護者・上白沢慧音。
子供達の保護者として付き添って来たのだろう。
境内に上がって来た子供は50~60人程は居るだろうか。
その全員が手に笹の枝を持っている。

「さあさあ、天狗を叩いて厄を祓いましょうー」
霊夢の声が境内に響く。
笑顔の軍勢が、神輿を担いだ文を目掛けて一斉に群がってきた。


628 名前:名前が無い程度の能力 投稿日:2006/10/22(日) 14:26:23 [ JV7L54pE ]
「わわっ、待っ――」
あっという間に四方を子供の海に囲まれる。

一本の笹の枝が空気を裂いてしなり、文の太腿を打った。
それを皮切りに、何本もの笹の枝が、文の細い腰や白い二の腕に打ち付けられ始めた。
「いたっ!」
持ち上げている神輿に両手を塞がれているので、身体を庇う事もできない。
すぐに慧音が顔色を変えて霊夢の元へ駆け寄って来た。
「れ、霊夢、これは少しやり過ぎではないのか…?」
子供達に群がられ身をよじっている文を不安げに見ながら霊夢に問う。
「大丈夫。私がちゃんと見ているから、心配無いわ」
霊夢は文の方を見つめたまま、傍らの慧音に答えた。
「いや、そうではなくてだな…、あの天狗の方が心配なんだが…」
慧音は、和気藹々とした子供の行事をすると聞かされていた。
しかしそれが、こんなに激しいものだったとは…。
心配そうに見つめる慧音の視線の先で、また文がビクリと身をひねる。

「やひっ!」
今度は背中と尻を打たれた。
初めは遠慮がちだった子供達だが、徐々にその歯止めが緩み始めていた。
無邪気な笑顔で押し合いへし合いしながら、ムチのように笹枝を振り下ろして来る。
手加減というものが全く無い。
細い笹の枝を子供の腕力で振るうだけなので、打たれた箇所にほんのり赤みが差す程度である。
痛み自体も大した事は無い。
だが、それが背後や横手などの死角から、心の準備も無しに不定期に与えられると、衝撃と恐怖感が増すような錯覚に囚われる。
ひどく視界の狭まい天狗の面を被っている事も、その錯覚を助長していた。

肩と首筋を打たれ、腋を突き上げられて、身をよじる。
「あくッ! ちょっ、いい加減に……やっ!」
さらに胸元を打ちつけられてあられもない声を漏らし、文は頬を微かに朱に染める。
堪らず、蠢く頭の海の向こうで見物している霊夢の方を振り向く。
そのまま、天狗面の中から涙目でキッと睨みつけた。だが――

 逃げたら、わかってるわね?

霊夢の顔が凄絶な笑みを浮かべて、そう語っている。
その左右の瞳の中には、円形の銭貨が納まっていた。

悔しい……でも、仕方が無い…。
笹枝は痛いが、夢想封印はもっと恐ろしい。
どうしてこんな事に。
巫女の話などに乗らなければ良かった。
文は後悔と憤怒の念を飲み込み、唇をきゅっと一文字に結ぶ。

次の瞬間、つぷり、という感触とともに、腰下から電流のような痺れが文の背骨を駆け登った。
「ふあああぁッ!!」
尻に枝を差し込まれた文は裏返った声で悲鳴を漏らし、思い切り背をのけ反らせた。

初秋の晴れ空の下。
子供達の楽しそうな喧騒が、神社の境内に響いていた。