レミリアは部屋に戻ろうと廊下を歩く
明日になるのが待ちどおしかった
(あの子の快気祝いのパーティーの準備をしなくちゃ、皆を呼んで盛大にやりたいわね・・・・・)
そんなことを考えていた
すると突然後ろから、殺意を感じた
急いで振り返ると、フランドールの姿が猛スピードでこちらに向かってきた

その手に杖は無く
殺意に満ちた目が自分を見つめている
視力が戻っているとわかった

「あなたどうして!?」
その問いかけを無視してフランドールはレミリアに飛び掛かる
いきなりのことで混乱し反応が遅れ、3発殴られる
だがバランス崩し大きくよろけた
そこにすかさず反撃を入れ、フランドールを窓の外まで殴り飛ばした




窓の外に殴り飛ばされてフランドールは自嘲ぎみに笑った
落下中、時間がゆっくり流れていているように感じた

やっぱり、勝てなかった・・・・・・・最後に一泡吹かせてやろうと思ったが、耳は治ってないことをすっかり忘れていた

目の前に久しぶりの見る夜の景色が広がっていた
最後に月を見たのはいつごろだっただろう?ふとそう思った
「今日は満月だったらいいな・・・・・・」
落下しながら首をぐるりと回し月を探す
「あれ?」
今夜は曇っていて月はおろか星さえ隠れて見えなかった
「残念・・・・・・・・・最後にアイツの顔が見られただけでもまあ良かったのかな」
もうすぐ一分が経つ
だんだんと視界がぼやけてきた

フランドールが地面に落下したときにはもう視力は無かった




レミリアが窓から下を覗き込んだ、妹の落下した庭には小悪魔がいて、フランドールとなにやら話しているところだった

「どうでしたか?最後に見た景色は?」
「うん・・・・まあまあだった」
「それは良うございました。では失礼します。痛みは感じないのでご安心を・・・・・」
そう言って小悪魔はフランドールの目に指を入れる
袋に入ったビー玉を取り出すように簡単に両方の眼球を取り出した。その間、血は一滴も出ていなかった
「このままでは瞼が窪んだままなので、義眼を入れておきますね」
「ありがとう」
「いえいえ、これくらいはサービスです・・・・・・・・・・・・ではこれで『取引』完了ですね」

そうこれは『取引』つまり『悪魔との契約』だった
一度結べば破る行動が取れない
レミリアも眼球を取り出している間、動くことができず、ただ傍観するほか無かった


『取引』が終わり、小悪魔はその場で眠ってしまったフランドールを地下室まで運びベットに寝かせた
図書館に戻る途中、レミリアが道を塞いだ
レミリアは咲夜もここに呼ぼうと思ったがこの事態の半分は自分の失態だという負い目があり、呼ぶのは控えた
「やってくれたわね・・・・・小悪魔。まさかあなたの気まぐれで運命を変えられるとは思わなかったわ」
「ここでは音が響きます、どこか場所を変えませんか?」


未来は一つではなく、複数存在する
ただその複数ある中の一つしか選べないということだけ
レミリアが見た未来は『このままフランドールが永琳の手術を受けたら』という条件を前提にただシュミレートしただけの未来視だった
予想外の出来事でその前提が崩れれば当然結果も変わってくる



場所を人通りの少なく、防音の設備がある小会議室に変えた
「明日フランが手術するのは知ってるわよね?」
「誤解しないでください。私はこういう『取引』があると紹介しただけです。申し出たのは妹様です。私は何一つ強制してません」
涼しげに小悪魔は応対する
対するレミリアは一見冷静だが内心では激昂していた
「今の状態で手術をしてもフランの目は治るのかしら?」
まずこれは聞いておきたかった
「いいえ、無理です。『取引』に医療技術が入り込む余地はありません」
視神経を移植しても、眼球が永久に失われたままでは意味は無い
「眼球を元にもどせば十分可能ですが」
「つまり、また『取引』して戻せばいいのでしょう?・・・・・・いいわ欲しいものを言いなさい」
「では紅魔館の当主権限とパチュリー様を私専属の肉奴隷に・・・失礼、愛玩動物にすること。あとそれと・・・・・」
「待ちなさい!」
めちゃくちゃな要求に困惑する。いくらなんでもそんな要求を全部通すわけにはいかない

「残念、交渉決裂ですね・・・・・」
そう言って小悪魔は眼球を2つ取り出し、自分の足元に放る
そして足を上げる
「!!」
レミリアが小悪魔のしようとしていることを理解して眼球に手を伸ばす
小悪魔が眼球に向かって足を落とす
「ぐっ!」
なんとか間に合い、手で眼球を包み込んで守る。しかし小悪魔に手を踏まれる形となり、まるで土下座しているような格好になる
「お嬢様やめて下さい。綺麗な御手が汚れてしまいますよ?」
そう言いながら、容赦無く靴底をぐりぐりと手に押し付ける
レミリアは苦悶の表情を浮かべながら耐える

だが先に小悪魔が折れた

「わかりました、後が怖いので止めておきます」
小悪魔の足がレミリアから離れる
レミリアも手の緊張を解く






グチャ



「えっ?」
手の力が抜けた瞬間を見逃さず、小悪魔がレミリアの手を再び踏みつけた
レミリアの手のひらに眼球の液体が広がる
「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
小悪魔の高笑いが響く
「あっ・・・・・ああああああああああ」
レミリアは手に残った感触に震える
「だめじゃないですか、お嬢様?大事なものならしっかり最後まで守ってあげなきゃ?」
勝ち誇ったように小悪魔が言う

だがその一言でレミリアがキレた
「ぐっ!」
今度は小悪魔が苦悶の表情を浮かべる
レミリアが小悪魔の首を掴んでいた
「もうどうでもいいわ・・・・・・あなたが死んで全部償いなさい・・・・・・」
首をギリギリと締め上げる

苦しそうにしながら小悪魔がポケットからあるものを取り出した
それもまた眼球だった
「いいんですか?私が消滅すると、私の所有物である妹様の眼球も消滅しますよ・・・・・・」

どうやら先ほど潰したのは予備の義眼らしい

それを見てレミリアは手を離す
自分は小悪魔にからかわれたらしい
開放された小悪魔が咽ながら、呼吸を整える

「ここまでして一体なにが目的!?」
レミリアは得体のしれない相手に恐怖した
「『これ』なんですよ。これが一番欲しかったんです」
小悪魔はフランドールの眼球を手の中で転がしながら話す
「フランの目が?」
「私も低級ですが曲がりなりにも悪魔ですからね、契約相手の供物は悪魔にとってステータスなんです。お嬢様にはコレの価値がわかっていないようですね」
小悪魔は話を続ける

「495年も生きていながら、地下室で隔離され俗世の穢れを一切知らない、まるで生まれたての赤ん坊の目のような濁り一つ無い純粋な輝き
 ありとあらゆるものの終わりを見つめ破壊する残酷さ。これの前では世界中のどんな宝石でも皆恥じらい身を引いてしまうことでしょう
 それが今私の手の中にある。私にとって余に分不相応なものが目の前にある、そう思うと、持つ手の振るえが止まりません」
小悪魔は自分の世界に入りながらもレミリアに力説する
「私のとってコレを上回る価値があるものはこの紅魔館にありません」
つまりフランドールの目を返すつまりは無い。それが結論だった



「なんてこと・・・・・・・・・」
落胆するレミリアに小悪魔が問いかけた
「妹様の目が元通りになって欲しいですか?」
突然の質問
「あたりまえでしょう。大切な妹よ」
はっきりと言い切る
だが
「ククククク・・・・・・・・・・・・あははははははははははははははははははははははははははは」
再び小悪魔は狂ったように笑い始めた
ワケがわからずに戸惑うレミリア
「さっきから何!!あなた言ってることがめちゃくちゃよ!!」
レミリアのその言葉を聞いて小悪魔の声がさらなに大きくなる
「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」


       妹様の目を潰したあなたが今更なにを言っているんですか?




突然真顔になって小悪魔が言った
「どういうこと!?私がフランの目を潰した!?」
身に覚えのないことをいわれ混乱する
確かに小悪魔が妹と『取引』したのは自分のせいでもある
しかし小悪魔の言っていることはどうやらそのことではないらしい
「身に覚えが無いと仰るんですか?」
「当たり前でしょう!!」
小悪魔がレミリアの顔すれすれまで近づく
その目は狂気で踊っていた
「お嬢様はこれまで一度でも『フランが大人しくなればいい』と思ったことありませんか?」
当然ある
「あるから何?」
「じゃあ『フランの能力が無くなってしまえばいい』そう思ったことはありませんか?」
それもある。一度や二度ではない。ずっと昔から思ってきたことだ
「あるわよ、だからなんだって言うの!!」
その言葉に小悪魔は満足してにっこりと微笑む
「ほら、やっぱりお嬢様がやったんじゃないですか」
ますますワケがわからなくなってくる
「いいですか?お嬢様は運命を操ります。先ほどお聞きした妹様に対する願望が、長い年月をかけて少しずつ少しずつ蓄積していったんです
 『フランが大人しくなればいい』『フランの能力が無くなってしまえばいい』という願いをかなえるにはどうすれば一番手っ取り早いと思いますか?」

レミリアは気付いてしまった
背中からは嫌な汗が流れ、顔は見る見る蒼白になっていく

「気づきましたね?ようやく理解してくれましたね?そうです・・・・・・・」


       今回の一件は全てお嬢様の無意識の願いが運命を操り、引き起こしたシナリオなんです



「運命という見えない力が妹様の視神経がズレる体内活動や運動を誘発させ今回の失明を長い時間かけて引き起こしました。
 お嬢様の予知が外れたのも。そして私が眼球を手に入れられたのも。お嬢様が望んだ運命どおり、なるべくしてなったことなんです
 全員がお嬢様の用意した脚本にしたがって動いていたに過ぎません。ただ私はそのことに途中で気づけた。それだけのことです」
悪魔は相手の負の感情を感知するのに長けている、小悪魔はかなり早い段階、レミリアが妹にその感情を抱いていることを知っていた

「違う!!」
これ以上聞きたくないとレミリアは両手で耳を塞ぎ、その場に座り込む
妹を失明させたのは自分自身
その事実を知っても認めることは出来なかった
認めたら全てが終わってしまう気がした


そのレミリアに小悪魔が優しく声をかける
「大丈夫です、安心して下さい私は別にこのことを皆様にふれ回り、お嬢様を貶めようという考えはこれっぽちもありません」
「え?」
意外な言葉に思わず顔を上げ、話を聞いてしまった
「私はお嬢様の味方です」
それは悪魔の囁き
「このまま全てを見届ける。それだけで良いんです。妹様が永久に光を明してしまったのは多数の不幸が重なって起きた悲劇
 誰にもどうすることはできなかった。それに眼球を失ったのを知っているのも私たちだけです
 妹様はもうじき耳も完全に聞こえなくなり、口もろくにきけなくなるでしょう。だからお嬢様を責める方はだれもいません。」
「・・・・・・・・・」
レミリアは小悪魔の言う事を黙って聞いていた、それも良いんじゃないかと一瞬思ってしまった
「もしかしたら、妹様は今夜中に亡くなるかもしれませんね・・・・・・」
その一言でレミリアは我に返る
「明日手術のをするために永遠亭のお医者様がいらっしゃいますよね。そうなれば全てがばれてしまいます。けれど
 この出来事はお嬢様の都合の良いように進んでいきます。そうなると妹様が今夜中に死んで手術が出来なくなった方が望ましい」
「なんですって!!」

フランドールが死ぬ、その未来が頭に浮かび慌てて消し去った
「馬鹿なこと言わないで!フランが死ぬ?そんなこと望んでないわよ!」
「本当にそうですか?」
「無いに決まってるでしょう!!」
「あははははははははははははははははははははははははははははは」
「さっきからなに!!私がフランのことを気遣っているのがそんなに可笑しいの!?」

レミリアは『自分がフランドールの事を大事に思っている』という内容のことを話す度に小悪魔が突然必ず笑い出すということに気が付いた

「あなたは本当に愛してるんですか?妹に浮浪者の真似をさせるのがあなたの愛情ですか?」
「うっ・・・・・」
最近の妹の生活スタイルについて言っていることがわかる
今思えば確かにあれはやりすぎたとレミリア自身反省している

「あなたの妹様に向ける愛情はいつも、歪んでいるんです。あなたがいくら納得のある理由を話しても、その行いはどこか間違っている
 地下室に閉じ込め一人ぼっちにしただけで今日まで何もしなかった。全てを知る機会を全て奪っておきながら
 あなたは妹様に常識を要求する。今回もすぐに妹様は治せたのにあえて手術を延期した
 普段から妹様に関わることを極力避けておいて。それで大切にしているなんておかしくないですか?」

レミリアには言い返すことができなかった
「勘違いしないで下さい、私はあなたを責めているのではありません」
「?」
「あなた達姉妹は本当におもしろい。お互いの愛情は正しく伝わらず誤解ばかりを生むのに、負の感情だけは正確に伝わる
 あなたの周りに皆が集まっているとき、妹様は孤独に震えている。
 あなたが地上で好き勝手遊んでいるとき、妹様は地下室に閉じ込められ何もできないでいる
 あなたが笑っているとき、きっと妹様は泣いているのでしょう?
 まるで質量保存の法則のように、片方がプラスならもう片方がマイナス
 光と影のように全く正反対の人生
 そんなのが500年近くも続いている。本当に興味深い。きっと生まれた順番が逆なら今ごろは逆の立場になっていたのでしょう・・・・」
楽しそうに話す小悪魔


「もう一度聞きます、妹様を愛してしますか?よく考えたら死んでくれれば自分は幸せになれる、そう思っていませんか?」
小馬鹿にしたように尋ねる
「ふざけるな!!そんなのはお前の勝手な思い込みだ!!私はフランも幸せを願っている!!あの子のためならなんだってするわ!!」
はっきりと大声で言い放つ
小悪魔はそれを聞いて嬉しそうにうなずく


   では『取引』しましょうか?あなたの片目を妹様にお譲りしましょう。もう片方の目は契約の手数料として私が頂きます

   それで魔力の半分を私に支払っていただけたら『取引』は成立です

   何を驚いているんですか?

   説明したじゃありませんか? 

   姉妹のどちらかが幸せになるには、どちらかが不幸にならなければいけないと・・・・・・・・・・














私の手術を受けてから1週間が経った
手術は成功した


今、夜の紅魔館の庭に私はいる
隣には魔理沙がいてくれる
館内を出歩く許可はまだ継続中だから、だれも地下室に戻れとは言わない



魔理沙が複雑な表情で私に訊いてくる
「フラン、もう慣れたか?」
「うん、今は飛んでくる弾だって、スイスイかわせるよ。距離感もばっちりわかるよ」
「そりゃすごい」

魔理沙の顔が綻んだ





「でしょ?目が見えなくても音と空気の流れで結構わかるんだよ」


そう、手術が成功したのは耳だけだった
目はもう取り返しがつかない事態まで進行していたらしく、手遅れだとアイツは私に説明した

しかし耳が治った次の日から、目以外の器官がどんどん敏感になっていき
今では音を聞くだけで、形、重さ、大きさのその全てがわかってしまう
音さえ聞こえれば、壁の向こう側の情景が映像となって頭の中に浮かぶ
魔理沙の表情だってはっきりとわかる
生活に全く支障は無い

美鈴と組み手をしても圧勝だった
私は吸血鬼の適応能力はすごいこと身を持って感じた


「魔理沙、今日って満月?」
「ああ、まん丸のお月さんだ」
「見たかったなー・・・・・・」
「もう少し待ってろ、今パチュリーとお前の目が見える魔法の義眼の開発中だ」

魔理沙とパチュリーは私の目が見えるように研究をしてくれているらしい
もう実験段階まで進んでいて、遅くても来月には完成するとのこと

すごく楽しみだ





レミリアは廊下の窓からフランドールと魔理沙を見てた
「たくましいですね、妹様は・・・・・・」
後ろから小悪魔が声をかける
「ええ、そうね・・・・・・」
「これもお嬢様の運命どおりですか?」
「違うはフランの実力よ、あの子が強かっただけ」
「そうですか」

小悪魔に『取引』を持ち出された時
レミリアはそれに応じることが出来なかった
両目を失い、魔力も半分になってしまうのだ、そんな無茶苦茶な要求を飲めるわけがなかった
運命操作が効いたのか、妹はちゃんと生きていた、永琳にも義眼だとバレず手術の失敗も勝手な理由で納得して、深くは追求せず帰っていった
不審に思われることは一度も無かった



「その分、あの子の力になるつもりよ」
「そうしてあげてください」

小悪魔が豹変したのはその時だけで、この一週間はおとなしいものだった

「今パチェたちが作っている魔法の義眼は上手くいくの?」
「ええ、医療では無理でも、魔術なら『取引』に介入できるので、完成したら見えるようになるはずです」
「良かった」
それを聞きレミリアは胸を撫で下ろした



「なに、安心してるんですか?」
「えっ?」
小悪魔の方を見ると、『あの時』の表情の彼女がいた
レミリアは訊かずにはいられなかった
「何が安心できないと言うの?」
「あなたの眼球は、わたしの『取引』リストに入っています。あの時、契約に応じず保留にしたからです
 誰かが私に魔力の半分を支払えば、あなたの目の片方はその方に、もう一つは私に譲渡されます」
「なによそれ!!知らないわよ!!」
「私を殺さないほうが賢明ですよ?コレを知っているのは私とあなただけなのですから」


踵を返し、レミリアから離れていった
「妹が幸せになれば、姉が不幸になる・・・・・・まさに運命どおりですね」


取り残されたレミリアは恐怖に震えていた







  ダレカ ワタシ ト 『トリヒキ』 シマセンカ? マリョク ノ ハンブン ヲ ハラウ ダケデ 

              ミライ ノ ミエル フシギナ メ ガ テニハイリマス






fin