里で数々の戦いが繰り広げられていた丁度その頃、霊夢は中有の道を突き進んでいた。
地獄までの道のりは遠く、もう数時間は飛び続けている。
やがてようやく見えて来る三途の川。
そこでは凄まじい弾幕勝負が行われていた。

「………何してるの?」
「れ、霊夢! やっぱり来てくれたわね! 力を貸してくれない!?」
「高いわよ」
「今はそれどころじゃない!」

弾幕勝負を挑んでいたのはパチュリー・ノーレッジと、その使い魔である小悪魔。
対して待ち構えるのは、

「霊夢、まさか貴方まで地獄に入ろうなどと考えてはいないでしょうね」

幻想郷の閻魔、四季 映姫その人だった。

「困ったわ。パチュリーに協力する理由が出来てしまった」
「生者が閻魔の許可もなしに、地獄に行こうなど言語道断! そう、貴方達は少し身勝手過ぎる。
 物事には順序があり、人はやがて朽ち果てるもの。貴方達も自然の流れに従い、死した時に地獄を訪ね…」
「それじゃあ遅すぎるのよ!」
「………ならば言う事は決まっています。即刻、立ち去りなさい! 此処は生者の来るべき地ではありません!」

そう言って映姫は霊気を発し、霊夢達を威圧する。

「そうはいかないわ。異変を放置するのは、博麗の巫女の尊厳に関わる。邪魔するなら閻魔でも容赦しないわよ」

しかし霊夢も負けじと、映姫に祓い棒を向け身構えた。
お互い一歩も引かぬ様子で、じっと睨み合う霊夢と映姫。

「止めぬか、戯けがっ!」

ところがそこへ謎の声が響く。
同時に突如、空中に小さな月のようなものが現れた。

「………何処かで見た事あるような……」

その光景に霊夢は小首を傾げる。
だが他の者達は緊張した面持ちで、その月をじっと見つめていた。
やがて月の内側から、すり抜けるようにして女性が上半身を出して来る。
その女性は霊夢を見ると、手に持った扇子で口を覆いながら言葉を紡ぎ出した。

「霊夢か、久しいのう。もう会う事もないかと、思うておうたぞ」
「貴方は確か…」
「菊理媛様!」

すると映姫が二人の間に、割って入って来る。
そしてその女性、菊理の前で必死に頭を下げ始めた。

「申し訳ございません! すぐにこの者たちを追い返し…」
「よい。頭を上げい、ヤマザナドゥ」
「し、しかし…」
「妾がよいと言っておるのじゃ。何か不服か?」
「い、いえ! 滅相もございません!」
「ならば退いておれ」
「はい!」

そのまま映姫はのびている小野塚 小町を掴んで、裁判所の方へと飛んで行く。
残された霊夢とパチュリーと小悪魔は、凄まじい霊力を感じさせる菊理を前にたじろいでいた。
そんな霊夢達に、菊理はにこやかに話しかける。

「して霊夢よ。地獄に何の用じゃ? 事と次第によっては、手を貸してやらなくもないぞ?」
「え、ええ………実は私、矜羯羅に用があって…」
「霊夢!」

ところがそこで、突然パチュリーが声を張り上げた。

「何よ。貴方の用件は後にしてくれない?」
「そうじゃない! そうじゃなくて………」

霊夢の言葉に、パチュリーは顔を真っ青にしながら菊理の方を指差す。
何事かと霊夢が振り向くと、何やら菊理が手をわなわなと震わせていた。
やがて菊理は怒気を孕んだ静かに、されで恐ろしい声で言葉を紡ぐ。

「……今、何と申した……」
「………え?」
「今、何と申したと訊いておる!」

その怒号と共に、菊理は膨大な霊気を辺り一帯に放出した。
途端に周囲は滅茶苦茶になり、地面は捲れ上がり川は荒れ狂う。
その霊気は、霊夢達にも襲いかかっていった。

「ぐっ! ……こんな………気だけで……!」

まるで台風のような凄まじい霊気に、霊夢達は必死に飛ばされないよう耐え忍ぶ。
しかし菊理は怒りを露わにして、霊気を放出し続けた。

「事も有ろうに矜羯羅殿を呼び捨てとな!? いくらお主でも許しておけぬぞ、霊夢!
 そもそも矜羯羅殿は地獄の最高管理者! お主等が容易く会えるような御方ではないわ!」

最早怒り心頭に発して、周りの事など見えていない菊理。
そんな霊気の嵐の中、霊夢はある事が気になり菊理に話しかけた。

「ちょっと待って! 私は矜羯羅…さんに会った事があるわ! あれは…」

だがそれが、余計に菊理を怒らせてしまう結果となる。

「戯けがっ! あれは妾の作った愛が…幻影じゃ! お主等が矜羯羅殿に会おうなど百万年早いわ! 出直してまいれ!」
「ちょっ………あああー!」

そして菊理は霊気を一気に放出すると、霊夢達を吹き飛ばしてしまった。

「ふん! ………………あの時は、よくも壊しおってからに……」

そのまま霊夢達は、中有の道へと落ちていく。
それを確認すると誰もいなくなった三途の川で、菊理は大きな溜め息を吐いた。
やがて菊理は地獄の門を作り出し、門を開いて二人の配下を呼び出す。

「魅魔、神玉。里に行きサリエルの配下を見張れ。泳がせておきサリエルが現れ次第、始末するのじゃ」

その言葉に応えるように、門の中から現れる菊理の配下。

「私にやらせるからには、やり方は私流でやらせてもらうよ」

足のない緑の長髪の女性、魅魔と

「承知いたした、菊理媛様」

陰陽師のような格好をした男性、神玉の二人だ。
二人は菊理の命を受け、霊夢達を通り越し勢いよく里へ向かって行く。
だが菊理は、そんな二人を訝しげな表情で見送っていた。

「………狸共め。お主等の考えなど、すべてお見通しよ。精々、妾の手の上で踊るがいいわ」







まさか裏でそんな事が起こっているとは知らずに、里では避難の為に次々と人が聖輦船に乗り込んでいく。
先程の襲撃を受けて、里の殆どの人間が避難が必要だと判断したのだ。
その様子を人数を数えながら見守る慧音と星とナズーリン。
そこへ荷車を押しながら、一人の男がやって来た。

「貴方は……」
「里が危ないと聞いて何か出来ればと思って来たけど……どうやら遅かったみたいだね」

男は香霖堂の店主をしている半妖、森近 霖之助だ。
彼は荷車を慧音達の前に止めて、荷台にかけたシーツを取る。
そこには幾つもの砲台などの武器が積まれていた。
同時に荷車の後ろから、数人の妖怪が姿を現す。

「それにしても……この惨状は酷いなぁ」

それは緑髪と触覚が印象的な蛍の妖怪、リグル・ナイトバグ。

「そこら中、滅茶苦茶ね……。犠牲者が出てないといいんだけど」

背中に大きな翼を生やした夜雀、ミスティア・ローレライ。

「うわー」

金髪に赤いリボンを付けた妖怪、ルーミア。

「人形は………無事なの?」

小柄で赤と黒のドレスを身に纏った少女、メディスン・メランコリーの四人だ。
彼女達四人は里での騒動を聞き、状況が気になり霖之助と共にやって来た。
しかし想像以上に荒れている里の姿に、全員思うところがあるようだ。
一方で慧音は荷台に並ぶ近代兵器の数々に驚く。
そして霖之助に近寄ると、真剣な眼差しでぎゅっと手を握った。

「いや、まだ何があるか分からない。今は少しでも戦力は多い方が心強い。
 里を代表して、私から礼を言わせてもらおう。態々駆け付けてくれてありがとう」
「そんな……僕はただ武器を持って来ただけで…」
「……ふ~ん、そっちとくっつくの」

その様子を何やらいい雰囲気だと、にやにやしながらミスティアは見守る。
そんなミスティアを余所に、リグルとメディスンは奇妙な形の大木と化した幽香の前に立った。

「幽香……」

もう幽香は何も語らないし、動く事もない。
だが死んだ訳じゃない。今も確かに此処にいるのだ。
そんな変わり果てた幽香の姿に、リグルとメディスンはそっと涙を流す。
その涙を拭くと二人は、幽香の前に花の種を植え去っていった。

「それじゃあね、幽香」
「また……会いに来るから」
「待ちなよ」

そこへ立ち塞がる星とナズーリン。
何事かとこちらを窺うリグルとメディスンに、二人は手を差し伸べた。

「君達も乗りなよ。そもそも命蓮寺は妖怪の為の寺だ。君達を拒む理由はない」
「幻想郷が戦場になれば、力の弱い妖怪は危険に曝されます。貴方達も共に避難を」

星とナズーリンの言葉に、リグルとメディスンはお互いに顔を見合す。
そして改めて二人の方を見て質問を投げ掛けた。

「いいの? 私達、妖怪がいると人間は嫌がるんじゃない?」
「何を言っているんですか。私達だって妖怪ですよ」
「………………」

するとリグルはミスティアとルーミアを呼び、話し合いを始める。
そのまま話し合う事、数十秒。
四人の中で話が纏まると、四人は星とナズーリンの方に振り向き答えを出した。

「じゃあお言葉に甘えさせてもらう事にするよ」
「戦闘の際は、微力ながら手助けするわ」
「私は……人形を守るだけ」
「わーい、船旅だー」

その言葉に、にっこりと笑って星は四人を聖輦船に案内する。
ナズーリンは、そんな妖怪達を見てふっと笑う。
やがて里の人間が全員乗り込んだのを確認すると、ナズーリン自身も聖輦船に乗り込んでいった。

「まるでノアの方舟だな」





その頃、聖輦船の内部では村紗が操縦席に座り発進準備に取りかかっていた。
幾つもの航海計器が光を放ち、村紗がボタンを押す毎に付いたり消えたりする。
そこへ一輪がやって来て、操縦席を覗き込み村紗に話しかけた。

「どう? 上手く飛べそう?」
「問題ない問題ない。ただ魔界に行くには高度が必要だから、聖に浮力を上げる準備をするよう言っておいてよ」
「分かった」

そう言って一輪は、操縦席を離れようとする。
だがふと思うところがあり、計器を弄る村紗に微笑みながら一言呟いた。

「随分、楽しそうね」

その一言に村紗はくすりと笑う。
そして振り返らずに計器の画面を見ながら、落ち着いた様子で返事をした。

「そりゃまぁ、船を動かすのは久しぶりだからね。船長としては腕がなるってもんよ!
 …………本当の事を言うと、また皆で航海出来るのが嬉しいんだ。聖を助けに行った時みたいにさ。
 やっぱり私は船が好きなんだよ。昔いろいろあったけど、また大海原を冒険したいって思ってる。
 ……魔界に海はあるのかなぁ。あったら私、皆を乗せて舵を取りたい。
 聖にも一輪にも皆にも、これが私なんだって………キャプテン・ムラサなんだって見せつけたいんだ。
 そんで船の上でパーティをしよう。皆でわいわい騒いで楽しい宴にしよう。
 全員生きて魔界に行って、無事を祝ってパーティをするんだ。そう考えたら、わくわくしちゃってさぁ」

一輪はそんな村紗の話を最後まで黙って聞き、にっこりと笑ってこう応える。

「海、あるといいわね」

そのまま白蓮に話を伝えるべく、一輪は操縦席を後にした。













一方で菊理に吹き飛ばされた霊夢達は、中有の道で暫し休憩を取っている。
凄まじい霊気の影響で、パチュリーは見た目以上に消耗していたのだ。

「……はぁ……はぁ……」
「大丈夫ですか? パチュリー様」
「平気よ、小悪魔。それより……早く戻らないと……」
「そんな体じゃ無茶ですよ」
「……ねぇ、いくつか訊いてもいい?」

しかし霊夢には先程から気になる事が山ほどある。
パチュリーを気遣う小悪魔には悪いが、何か知っているなら話してもらう他あるまい。
そんな霊夢の心情を察したのか、小悪魔は諦め気味に返事をした。

「……分かりました。では…」
「ダメよ、小悪魔」

だがその言葉を遮るパチュリー。
そんなに秘密にしたい事でもあるのだろうか。
霊夢がそう考え訝しげな表情を浮かべていると、パチュリーはふらふらと立ち上がり歩き始めた。

「話すなら……少しでも進みながらじゃないと……時間がないわ……」

しかしすぐにふらつき、倒れそうになってしまう。
すると小悪魔はパチュリーに慌てて駆け寄り、そっと支える。
そしてパチュリーが体勢を立て直すと、前に回りしゃがみ込んだ。

「おぶっていきます。乗ってください」
「………悪いわね」
「私は貴方の従者ですから」
「…………ありがとう」
「ぱ、パチュリー様ぁ!?」
「どうしたの? 顔が赤いわよ」
「だ、大丈夫です! 行きますよ、霊夢さん!」

小悪魔はパチュリーをおぶると、そう言って元気よく走り出す。
霊夢もその後に付いて行き、里を目指して飛んで行った。
その途中、霊夢は小悪魔に問い掛ける。

「……それで訊きたい事なんだけど、菊理は一体何者なの? あの映姫に命令するなんて、ただ者じゃないみたいだけど」
「え? 霊夢さん、菊理媛が誰だか知らないんですか?」
「何よ」

霊夢の質問に唖然とする小悪魔。
そんな彼女を、不機嫌そうに霊夢は睨み付けた。
途端に小悪魔は霊夢から目を逸らし、呟くような声で話を続け出す。

「……菊理媛は地獄の獄卒達を束ねる獄卒長。閻魔とは直接の上下関係こそありませんが、遥かに格上の相手です。
 元々地獄の神ではなく、大昔に現れ実力で伸し上がったそうです。何でも前獄卒長を、傷一つ負わずに退けたとか」
「………そんなとんでもない奴だったのね……」
「どうも地獄王、矜羯羅に特別な感情を抱いているそうです。それで矜羯羅に対する言葉には酷く敏感なところが……」
「ああ……それで」
「……こんな筈ではなかったのですが……元々望みは少なかったですけど」
「そうよ。貴方達は何をしようとしてたの」

そこで思い出したように、霊夢は小悪魔に問い掛けた。
その言葉に小悪魔がパチュリーの方を向くと、パチュリーは無言で頷く。
それに応えるように頷き返すと、小悪魔は霊夢の顔を見て話し出した。

「私達は三幻想の一人である、矜羯羅に動いてもらおうとしたんです」
「……何故?」
「…………その様子だと三幻想の事は知っているようですね。では能力については?」
「……力、無限、狂気。そこまでなら……」
「それで十分です。………何か気付きませんか?」
「…………………!! まさか…」
「そうです。三幻想の能力は三竦みになってるんです。
 力はあらゆる者を屈服させるが、無限は不死身故に何度倒しても立ち上がる。
 無限は如何なる攻撃でも死ぬ事はないが、狂気に蝕まれてしまえば不死も無意味。
 そして狂気はすべての者を狂わすが、圧倒的な力の前では成す術なく倒されてしまう。
 この三竦みの関係こそが三幻想と関わる上で、もっとも重要なんですよ。
 今、幻想郷には幻月がいます。それによりサリエルの配下である魔界の住人も数名、里にやって来ました」
「待って。何故サリエル達が来るの? 狂気に無限は相性が悪い筈でしょ?」
「………サリエルの目的は私には分かりません。何らかの勝算があるのか、それとも戦わなければならない理由があるのか。
 ただしエリスには気を付けてください。あの女は人間を助けるつもりなんて、これっぽっちもない」
「……どうしてそんな事が分かるの」

小悪魔の確信を持った口振りに、疑問を抱く霊夢。
すると小悪魔はくすりと笑い、笑みを浮かべて口を開いた。

「何言ってるんですか。私もエリスも悪魔ですよ? 魔界じゃ一時とはいえ仲間だったんですから」
「………一時?」
「そう、あの女は姉妹を二度裏切った」

途端に先程までとは一変、冷たい目をして小悪魔は続きを話す。

「霊夢さんは悪魔がどうして生まれるか知ってますか? 吸血鬼や魔女ではなく、魔界の種族としての悪魔が」
「…………………」
「悪魔って言うのは、魔界のルールを破り禁忌を犯した魔界人の事なんです」
「ルールを……破った?」
「そうです。魔界の神が決して破ってはいけないとした、最大の禁忌」

そこで小悪魔は牙をチラつかせて、にやりと笑った。

「私達は人間や魔界人の魂を喰ったんです」
「………………」

その言葉を緊迫した面持ちで霊夢は聞く。
小悪魔はそんな霊夢を見ると、真面目な表情で再び話し始めた。

「元々魔法に長けた素質を持つ魔界人、それが別の魂を取り込めば力は更に増す。
 ですが強大な力と引き換えに、魔界人は悪堕ちし悪魔となるのです。
 私達、悪魔となった者は罰せられる。大抵の場合は力を封じられますが最悪の場合、創り直される事も……。
 ですから私達は独自の組織を築き、契約者を探し魂を集め力を高めていたんです」
「貴方、弱いじゃない」
「…………余計なお世話です。まだ良質な魂に巡り合えていなかったんですよ。……今となってはどうでもいい事ですが」

そう言うと小悪魔は小さく溜め息を吐く。
そして今度は歯を食い縛り、苛立った表情を見せた。

「ですがエリスは悪魔となり組織に所属しておきながら、仲間を裏切りサリエルにアジトを密告したんです。
 そしてあの女は、まんまとサリエルの配下となった。何人もの仲間が捕まったって言うのに!
 あの女は自分の利益の為なら仲間も簡単に切り捨てる、そういう女なんですよ!」

声を荒らげて小悪魔はそう叫ぶ。
だが霊夢は極めて落ち着いた様子で、冷静に小悪魔に問い掛けた。

「エリスの事は分かったわ。それで矜羯羅を呼び出そうとしてたのは何故?」
「……………貴方が振ったんじゃない……」

ぼそりとそう呟く小悪魔。
すると小悪魔の背にいたパチュリーが、ゆっくりと口を開いた。

「それは私から説明するわ。三幻想は自分が苦手とする相手を潰そうと動いている。
 潰す目的はそれぞれ違うけど、それだけは全員変わらないわ。
 ……もっともサリエルを狙っているのは、矜羯羅ではなく菊理だけど。
 だから私達は矜羯羅と交渉し、サリエルではなく幻月を倒してもらおうと思ったの。
 ……でもそもそも菊理が通してくれる筈ないわよね。菊理は個人的にもサリエルを敵視しているし。
 でもサリエルが何を考えてるか分からなくても、幻月を放置するのが一番危険なのよ」
「………エリスも言ってたわね。そんなに危険なの? 幻月は」

その言葉にパチュリーは、身を乗り出し霊夢に近付く。
そのまま下で慌てる小悪魔を余所に、真剣な面持ちで言葉を紡いだ。

「私達は幻月がやろうとしてる事を知ってる。幻月の目的、それはねぇ





 幻想郷の消失。つまり霊夢、貴方を殺して博麗大結界を破壊する事よ」













その頃、里では脱出の準備が終わり聖輦船は魔界に向けて動き出そうとしていた。
白蓮は聖輦船の甲板に立ち、その時を静かに待っている。

「結局サリエル達は見つからなかったわね」

そこへ訪れる静葉と穣子。
二柱は白蓮の斜め後ろに立ち、甲板からの風景を眺める。

「はい。………しかし次の襲撃がいつ来るか分からないので、避難を優先させる事にしました」

そんな二柱に、白蓮は申し訳なさそうに笑いかけた。

「いいと思うわ。エリスも自分達を頼るなと言っていたし、本当に避難を呼び掛けるだけなのかもしれない。
 それにサリエル達は魔界からやって来た。態々待たなくても、自力で帰れる筈よ」

静葉はそう言って白蓮に微笑みかける。
すると聖輦船中に、村紗の声でアナウンスが入った。

『お客様、当船は間も無く出港いたします。衝撃…はありませんが、一応気をつけてお待ちください』

そのアナウンスの直後、ふわりと浮かび出す聖輦船。
揺れもなく、少しづつ高度を上げていく。
やがてある程度の高度に達すると、大きな霧笛を鳴らし前に進み出した。

「…………霧笛なんて付いていたでしょうか?」
「ああ、私が付けたの」

白蓮の疑問への答えと共に、一輪は船内からやって来る。
後ろには大きな飴を舐めながら、ぬえも一緒に付いて来ていた。

「村紗が楽しそうだったから、つい………まずかった?」
「いえ、構いませんよ」
「にひひ! 聖は太っ腹だもんね!」
「あんたは調子に乗るな!」
「うあー!」

そんな一輪とぬえのやり取りに、静葉と穣子もくすりと笑う。

「仲がいいのね」
『何処がー!』

それに二人揃って反論した瞬間、突然村紗のアナウンスが聖輦船中に響き渡った。

『緊急事態発生! 緊急事態発生! 前方に空間の歪みを発見! これより旋回する! 総員衝撃に備えよ!』

どうやら何か問題が発生したようだ。
同時に大きく揺れ動く聖輦船。
白蓮達は振り落とされないように、必死に手すりにしがみ付いた。
そして白蓮達の目の前で、突如開く巨大な空間の穴。
その中から、これまた巨大な戦艦が姿を現した。

「……こ、これは一体……」

幻想郷ではありえない規模の巨大戦艦に、茫然とする白蓮。
その巨大戦艦内部には、数人の女性が乗り合わせている。
男装の女性に、三つ編みおさげの少女。白衣の女性に着物の女性、更に唾の広い帽子の少女。
そんな巨大戦艦の操縦席に座る少女は聖輦船を見つけると、楽しそうに中央の椅子に座る女性に話しかけた。

「空間移動成功! 目標確認! 御主人様、噂の小舟だぜ!」
「ええ、よくやったわ。……さて魅魔、取り引きの内容を確認するわよ。
 私は妖怪を捕まえ、私達の世界に連れて行きたい。貴方は魔界の住人を襲い、サリエルとかいうのを誘き寄せたい。
 その両方が乗り合わせている、あの船を襲えばお互いの為になる。それでいいのね?」

そう言って話しかけて来る女性、岡崎 夢美に魅魔はにやりと笑い返事をする。

「ああ、あんた等の好きに暴れてくれて構わないよ。こっちはサリエルさえ出てくりゃ、何でもいいからねぇ」

その言葉に船内は賑わい、活気付き始めた。

「ふっふっふ、遂に学会に私の力を見せる時が来たようね。さぁ、ちゆり! 派手なの一発お見舞いしなさい!」
「了解!」

すると先程楽しそうにしていた少女、北白河 ちゆりはノリノリで運転席のレバーを引きボタンを押す。
途端に巨大戦艦、可能性空間移動船からエネルギー砲が飛び出しレーザーを放って来た。

「あ、危なっ!」

それを村紗は舵を取り慌ててかわす。
そこへ戦艦からスピーカーを使い、夢美は大声で呼び掛けて来た。

『あー、そこの小舟。私は比較物理学科教授、岡崎 夢美。
 貴方達の中に妖怪及び魔法使い、魔界人がいる事は分かっている。素直に投降せよ。さすればこれ以上の攻撃はしない』

その夢美の言葉に、ざわめき出す聖輦船内。
しかし村紗はマイクを取ると、これまた大声で夢美に反論した。

『それは出来ない! この船は法力で飛んでいる! 飛倉を扱えない人間だけでは、墜落してしまう!』
『なら大人しく撃墜されなさい』

だが夢美はそう言い、そちらの事情などお構いなしと言わんばかりに攻撃して来る。
まさに絶体絶命の聖輦船。
ところがその時、突然聖輦船からレーザーが放出され可能性空間移動船を攻撃した。

「な、何事ですか!?」

本来、聖輦船には攻撃能力はついていない。
まさか一輪が霧笛と一緒に、何か付け加えたのだろうか。
そう考え白蓮は、レーザーの射出口を探す。
そんな白蓮の耳に届く静葉の声。

「…………!! あいつよ!」

それに反応して静葉の指差す方を見ると、そこには聖輦船にへばり付く5つの目玉があった。
5つの目玉、幽幻魔眼は可能性空間移動船目掛けて5本のレーザーを放つ。
可能性空間移動船がそれに対抗するべくレーザーを撃つと、お互いにぶつかり相殺された。

「あれは……一体……」
「待たせたね!」

そこへ砲台を動かしながら霖之助が現れる。
そのまま砲台を船の縁に付けると、照準を合わせトリガーを引き砲撃を放った。
更に他の妖怪達も砲台と共にやって来る。
やがて船の縁は砲台で埋まり、次々と砲弾を撃ち出していった。

「………兵器で私に敵うと思ってるの?」

しかし夢美からしてみれば、この状況は面白くない。
目的が達成出来ないのもそうだが、何より魅魔に嘗められるのは癪なのだ。
上から目線の魅魔の事だから、こちらが苦戦していればそれだけ付け上がる。
他人に馬鹿にされるのは、教授としてのプライドが許さないのだ。
夢美は中央の椅子に腰かけたまま頬杖を突くと、他の乗組員に声をかける。

「総員かかれ! 抵抗勢力を叩き潰してしまいなさい!」

その言葉を受けて、五人の乗組員が操縦席から飛び出していった。
うち三人は階段を駆け上がり甲板へ、うち二人はスロープを下り格納庫へ急ぐ。
そして三人側が甲板に辿り着くと、三人のうちの一人がスナイパーライフルを取り出し甲板に付けた。
その女性はスナイパーライフルを固定し、砲台を狙って引き金を引く。
途端に放たれた弾は、レーザーの嵐を掻い潜り砲台に命中。
中の電子機器を綺麗に撃ち抜き爆発させた。

「ぐっ……一つやられた!」

隣で爆発した砲台を見て慌てる霖之助を余所に白衣の女性、朝倉 理香子は更なる標的へと照準を合わせる。
照準が次の砲台に合うと同時に放たれる弾。
だがその弾は、聖輦船を守るように舞い上がった落ち葉によって防がれた。

「静葉さん!」
「防御は任せて!」

その落ち葉の主である静葉は、更に落ち葉を操り理香子の弾から船を庇う。
何発撃ち込まれようとも、次々に防ぎ切る無数の落ち葉。
それを見て理香子は舌打ちをし、ぶつぶつと小声で呟き始めた。

「………どいつもこいつも、くだらぬ力ばかりを……」
「退いて退いて~」

そこへ理香子を押し退けて、三人のうちの一人が打ち揚げ筒を手にやって来る。
打ち揚げ筒を持つ着物の女性、小兎姫は花火の玉を作り出すと打ち揚げ筒に入れて撃ち出した。

「た~まや~」

打ち揚げ筒により撃ち出された玉は、夜空を空高く昇っていく。
やがて空中で爆発し無数の火の粉となると、聖輦船目掛けて大量に降り注いでいった。

「くっ!」

静葉ご自慢の落ち葉の盾も、炎が相手では役に立たない。
止むを得ず退く静葉。
それに代わって妹紅が飛び上がり、無数の花火弾幕に向かって行く。

「炎は任せろ!」

そして勢いよく炎を燃え上がらせると、自身の炎と花火の火の粉をぶつけて消し飛ばした。
それを見た小兎姫は、うっとりした表情を浮かべる。

「ああ、今の炎いい……美しいわ。やっぱり弾幕は美しくなくちゃ。でも私の弾幕は、もっと美しい。
 あの円形に広がる炎の輝きは芸術的かつ官能的であり非常にエクスタシーなその美しさは数字で表すなら
 3.14159265358979323846264338327950288419716939937510
 58209749445923078164062862089986280348253421170679…」
「あんたは大人しく帰ってなさい」
「は~い」

そのまま小兎姫は理香子の言葉を受け、船内へと入っていった。
代わりに大きな手荷物を投げ、三人の最後の一人が勇ましく立つ。
手荷物の中からはバラバラのドラムセットが飛び出し唾の広い帽子の少女、カナ・アナベラルの周りに浮かび出した。

「私の弾幕は激しいわよ」

そう言うとカナは、撥を霊力で操りドラムを叩きまくる。
すると音に合わせて、上空から凄まじい量の弾幕が落ちて来た。
弾幕は真っ直ぐ聖輦船を狙って、まるで隕石のように降り注いでいく。
いや、量を考えればむしろそれは流星群に近かった。

「な、何だよありゃあ……」
「さすがに……数が多すぎるわね」

その膨大な量の弾幕に、静葉と妹紅も思わずたじろぐ。
そんな二人を追い越して、四人の妖怪が空の弾幕目指して飛び上がっていった。

「数が多いなら皆で戦えばいい!」
「此処は私達が受け止めるわ!」

リグルは蟲、ミスティアは音、ルーミアは闇、メディスンは毒の弾幕で無数の弾幕相手に立ち向かう。
勇敢に戦いを挑む彼女達の姿を見て、静葉と妹紅も負けてられないと弾幕を放ち始めた。
そこへ船内に戻った小兎姫により、可能性空間移動船の縁に並べられた打ち揚げ筒が一斉に花火弾幕を撃ち出す。

「あっちは私がやる。静葉はリグル達の援護を頼む」
「分かったわ」

妹紅はそう言うと、花火の群れへと炎を纏って突っ込んで行った。





空を飛ぶ二つの船体。
その間を飛び交う砲弾とレーザーの嵐。
花火が撃ち上がり隕石が降り注ぐと、それに対抗して炎と落ち葉が宙を翔ける。
幻想郷の空で起こる激しい攻防。
その凄まじい光景を、白蓮は茫然と眺めていた。

「…………何故こんな……」

相手を見れば、乗組員は半分以上人間に見える。
何故人間と戦わなければならないのだろうか。
何故それほどまでに、人は妖怪を拒むのだろうか。
すべての生物は等しくこの地に産まれ落ちた仲間だと言うのに。

「私が……寺にいた頃と、人間は変わっていない……」

そっと人知れず涙を流す白蓮。
しかしふとある事に気がつくと、慌てて船体の方へと振り向いた。

「船が……揺れていない?」

今まさに戦闘中の聖輦船。
だがその船体は、目的地に真っ直ぐと飛び続けていた。
本来、回避行動を取るなどで多少の揺れは生じる筈。
しかし今の聖輦船は、相手の攻撃に全く反応せずに突き進んでいた。
それがつまり何を意味するか。

「まさか……」

この船は自動操縦に切り替わっている。
白蓮は咄嗟にそう判断した。
そして戦闘中に自動操縦に切り替える理由。
それは操縦席で何らかのトラブルがあった以外、考えられない。

「村紗……?」

嫌な予感が脳裏を過ぎり、白蓮の頬を冷や汗が伝う。
だがそこに何処からともなく、刃が振るわれ白蓮に襲いかかって来た。

「!!」

しかし白蓮はギリギリのところで、刃の射程から離れてかわす。
同時に跳びながら体を捻り、刃の主へと振り返った。
だがその刃の主の姿に、白蓮は驚愕する。

「な、何故………」

それは刃の主が、二本の薙刀を手に持つナズーリンだったからだ。
ナズーリンはにやりと笑うと、白蓮に向かって薙刀を振るった。
白蓮はその攻撃をかわしながら、必死にナズーリンに話しかける。

「どうしてですか! 何故このような事を!」

しかし白蓮の問い掛けに応えたナズーリンの言葉は、あまりにも予想外のものだった。

「………聖………聖なのか……?」
「ナズー……リン?」
「……そうか………私は……聖と戦っているんだな……」
「…………何を…」
「頼む、私を………倒してくれ……」
「なっ!」

ナズーリンの言葉に白蓮は驚き、声を上げる。
だがその間にも、ナズーリンは薙刀を振るい襲いかかって来ていた。

「そ、そんな事出来る筈がないじゃないですか!」
「………分かっている………分かっているが、体が言う事を聞かないんだ。視界も……歪んで……音も……おかしく聞こえる。
 このままでは……私は聖を………傷つけてしまう……!」
「そんな……」
「だから頼む………私を……止めてくれ!」

更に別方向から、白蓮を狙って拳が飛んで来る。
咄嗟に白蓮がかわすと、そこに立っていたのは一輪だった。

「一輪まで……」
「………ごめんなさい………あんなに恩を受けたのに……こんな事………。だ、ダメなの!
 理性が………持って行かれそうになって……正気を保つのに精一杯で…………自分で自分を止める事が出来ないの!」
「……………」
「お願い、姐さん……。私達を倒して。………もう………限界が……!」

そこへ飛んで来る槍。
その持ち主、星は白蓮を攻撃しながら槍を拾って振り回し始めた。

「傷つけられないなら………せめて船から降ろしてください。……私達がいれば………聖だけでなく、里の人も危険に……」
「星……」
「………お願い……します」
「……出来ません。……きっと、きっと何か解決策が……………」

しかし白蓮の首に突き付けられた錨と三叉槍が、その言葉を途切れさせる。
後ろを振り返るまでもない。
背後に立っているのは、間違いなく村紗とぬえだ。

「……私、おかしくなったみたい……。錨で…人の頭をかち割る事ばかり……頭に浮かんで来て
 ………他の…大切だった筈の事が……どうでもよくなっちゃう………。
 ひ、聖……助けて………。私……このままじゃ………里の人達を殺してしまう!」
「にひひひひ! ち、違う……。こんな事やりたくないのに……聖をバラバラにする事ばかり考えて……
 それで…それでそんな事………………私、気持ちよくなってる! 人を殺す事、考えて興奮してる!
 私……私、違うのに! ………嫌…………こ、壊れちゃう……私に…これ以上変な事考えさせないで!」

そのまま二人は勢いよく武器を振り上げ、白蓮の頭目掛けて振り下ろそうとする。

「させるか!」

だがそこへ駆け付けた慧音と穣子が、村紗とぬえを殴り飛ばしその暴挙を止めた。

「聖! 逃げてください!」

しかし今度は、星が槍を手に向かって来る。

「やめるんだ!」

それを霖之助が羽交い絞めにして止めると、上空から二つの影が飛び降りて来た。

「助けに来たよ!」

そう言って二つの影、リグルとメディスンは聖輦船に向かって降りて来る。
そしてその勢いのまま、リグルはナズーリンを蹴り倒しメディスンは一輪を押し倒した。

「しっかりしろ! 一体どうしたんだ!?」

慧音は大声で、取り押さえられて尚暴れる命蓮寺のメンバー達に話しかける。
するとリグルの下敷きになったナズーリンが、瞳孔の開ききった目を小刻みに震わせ呟き始めた。

「……ダメ…なんだ………。これは……私達にどうにか出来るようなものじゃない………。
 体の内側から…じわじわと何かに蝕まれていくんだ…………。わ、私達も……時期に正気を失う……。
 あの時! 里を襲った幽香のように! 私達も理性を失い見境なく暴れ狂ってしまうんだ!」
「そんな事は私達がさせない!」
「無理なんだ! ………これは…そんな単純なものじゃない……。蝕まれている私達が一番分かるんだ。
 恐ろしく危険な何かが……私達の中にいる。この原因を…取り除く方法を…………私達は…知らない……」
「……くっ! 何か方法はないのか!」

原因不明の暴走に治療法が見つからず、押さえつける事しか出来ない慧音達。
その様子を可能性空間移動船の中から観察していたちゆりは、にやりと笑って夢美に報告した。

「御主人様! あいつら、なんか揉め出したぜ!」
「そう、今がチャンスね。ハッチオープン! 里香、イビルアイΣ起動よ!」
『了解なのですー!』

途端に可能性空間移動船の底部が開き、中から巨大な黒い目玉のようなものが出て来る。
紫の大きな翼に、高いエネルギーが具現化された天使の輪。
その目玉、イビルアイΣの姿は聖輦船からもはっきりと確認出来た。

「な、何ですか…あれは……」
「こんな時に新手か! 誰か動ける者はいないのか!」
「無理だよ! 押さえ込むだけで精一杯だ! 静葉も妹紅もミスティアもルーミアも戦ってる! 他に戦える人なんて…」

そこで全員の視線が、白蓮へと向けられる。
白蓮はキョロキョロと辺りを見ると、自分を指差して周りに尋ねた。

「私…ですか?」
「頼む! 君しか戦える人がいないんだ!」
「しかし……」

霖之助の言葉に、心配そうに命蓮寺のメンバー達を見る白蓮。
このまま彼女達を置いて、戦いに出て大丈夫なのだろうか。
そんな白蓮を安心させようと、慧音は声を張り上げた。

「お前の仲間は私達が必ず助ける! だから私達を信じて戦ってくれ!」
「!! ……………分かりました。お願いします!」

大丈夫、この人達になら任せられる。
白蓮は決心すると、イビルアイΣに向かって飛んで行く。
その後ろ姿を慧音達は、ナズーリン達を押さえつけながら見守っていた。








  • 霊夢はこのとんでもない旧作の面々と立ち合ってなぜ生きていられたのか。
    サリエルは手加減してくれた、矜羯羅は幻影、他は? -- 名無しさん (2012-10-21 15:13:56)
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