夜は更け、月は西の空に向かって傾いていく。
恐らくは日を跨いだところなのだろう。
すでに闇が世界を支配する時間。
そんな中、此処さとりの陣地は異様なまでに明るかった。

「………さとり…様…?」

シャンデリアに照らされた室内で、燐は背を向けたままのさとりに話しかける。
しかしさとりは、こちらに振り向かずにぼそりと呟いた。

「お空は?」
「………あ…」

その言葉に今まで起きた事を思い出す燐。
さとりには口で伝えるより、考えてしまった方が早く伝わる。
なのでこうして思い出すだけで十分説明になるのだ。

「そう……」
「あ、あのお空は…」
「私の力はそんなに信用出来ないと、そう言いたいのね」
「………え」

さとりの一言に、燐は固まってしまう。
そしてすぐに原因に気付き、とてもまずい状態だと悟った。
何故ならさとりは、空の性格を知らない。
如何せん空自身も気付いてないので、心を読んでも分からないのだ。
心を読める事は優秀な能力だが、それ故に読んだ内容だけが真実だと錯覚しやすい。
特に空はすぐに物事を忘れてしまう為、心を読んだだけでは分からない事の方が多いのだ。
このままでは空が誤解されてしまう。
慌てて弁解を考える燐だが、すでに第三の目はこちらに向いていなかった。

「いいわよ。そんなに私が信じられないなら、皆何処へでも行ってしまえばいいわ!」

そのまま奥の部屋へ入ってしまうさとり。
はっきり言って今の状況は最悪だ。
空はどうしたら全員無事に、生き残れるかを必死に考えている。
さとりは皆で協力して、戦いに勝ち残る事を目指している。
お互いにチームの事を考えているのにすれ違ってしまう。
燐は地霊殿が崩壊していく哀しみと同時に、こんな状況にしたてゐへの怒りを募らせていた。

「あいつさえ、あの兎さえいなければ……」





「今日も綺麗な月が出てるわねー。いや、偽物なのは分かってるけど」

殺伐とした空気が流れるさとりの陣営とは対照的に、輝夜はのほほんと塔の最上階で月見をしている。
まるで此処だけ戦争から切り離されたかのように。

「姫様、よろしいのですか?」
「何が?」
「町が燃えてるのですが」
「……………」

本当に此処だけ。

「妹紅が死んだら本気出すわ」

その妹紅は町を守る為に奮闘している。
今まさに町に火を放った侵入者と戦っている最中なのだ。

「おい! こんな事して何が目的なんだよ!」
「目的………お姉さんを本気にさせる、かな」
「こいつ!」

侵入者、フランはそう言って町の鳥居に弾幕を放つ。
すると鳥居は真っ二つに折れ、倒れた先の民家から更に火が立ち昇った。
その光景を見ると、妹紅はフランを睨み付ける。
ところがフランは全く動じず、退屈そうに妹紅を見ていた。

「お前いい加減にしろよ! 町の連中は関係ないだろ!?」
「そうだよ。でもお姉さんが早く私を倒さないと、皆死んじゃうかもよ」
「……分かったよ。そんなにやられたいなら、私がぶち殺してやる!」

背中の炎の翼を燃え上がらせ、フランに真っ直ぐ向かって行く妹紅。
それに応えようとフランはレーヴァテインを取り出そうとした。
だがレーヴァテインは先程の戦いで砕け、もうない。
仕方なくフランは距離をとり、弾幕を放った。

「『カタディオプトリック』!」

フランの手から巨大な弾が幾つも飛ばされ、妹紅だけでなく町にも降り注ぐ。

「チッ! こいつまた!」

すぐに弾幕を展開し、妹紅は弾を防ごうとした。
しかしここで輝夜の言葉が脳裏を過ぎる。
死。
今まで考えた事もなかった命の危機。
弾幕を放とうと、フランに向けた妹紅の手が止まった。
何せ妹紅の弾幕は火力を重視するあまり、自身の安全を度外視したものになっている。
そのせいで攻撃後は、毎回リザレクションする破目になっていた。
今までは蓬莱人だったので何の問題もなかったが、今は違う。
本気の弾幕を放てば、自分も死ぬ事になる。
まだ一撃も加えてないうちに、死ぬ訳にはいかない。
妹紅は弾幕を諦め、自分の脚に炎を纏わせて飛んで来た弾幕を蹴り返した。

「うぎっ! ………くっ………まだだ!」

炎と弾幕の影響で脚は焼け落ちたが、すぐに再生する。
問題は町に向かった弾幕の方だ。
今から飛んだのでは間に合わない。

「万事休すか…!」

すると町の中から、身に覚えのある妖気が感じとれた。

「あれは……慧音か!」
「『三種の神器 剣』!」

人混みの中から姿を現した慧音は、剣を振るい弾幕を打ち消す。
更に残りの弾幕目掛けて、自身も弾幕を放った。

「『三種の神器 玉』!」

弾幕は見事に的中するが、打ち消すには威力が足りない。
だが衝撃で軌道がずれ、人のいない広場や川に落とす事に成功した。

「おお、やった!」

慧音の活躍に歓喜の声を上げる妹紅。
しかし喜んでもいられない。
何せまだフランには、傷一つ負わせていないのだから。

「そっか、あの人お姉さんの仲間なんだ」

ぼんやりと慧音を見つめながら、フランはそう呟く。
そして妹紅の方に振り返ると、魔力を集めながら話しかけた。

「じゃあ、あの人殺したら本気出してくれる?」
「!!」

あまりにも衝撃的な一言に、妹紅は目を丸くしてフランの方に振り返る。
その表情を見るや否や、フランは口元を吊り上げて笑った。

「お、おい。何考えてんだよ。……やめろよ。やめろ!」

血相を変えて、フランに掴みかかる妹紅。
だがフランは後ろに飛び、集めた魔力を3つに分散させる。

「『フォーオブアカインド』」

途端に魔力はフランの姿に変わり、妹紅へと襲いかかって来た。
三体のフランに襲われ、妹紅は身動きがとれなくなる。
その隙に本体のフランは、慧音を目指して飛んで行った。

「慧音ええええぇぇぇぇ! 逃げろおおぉぉぉ!」

妹紅は必死に叫び声を上げる。
その声に気付き、避難誘導をしていた慧音は振り返った。
しかし何もかもが遅すぎる。

「どうし……た…………」
「慧……音……?」

慧音が振り返ったその時には、すでにフランの爪は慧音の心臓を捉えていた。
フランが爪を抜くと同時に、辺りにぶちまけられる鮮血。
それは力無く倒れる慧音と共に、その命が尽きた事を示していた。

「う、うあああああぁぁぁぁぁあああぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

断末魔のような凄まじい叫び声を上げる妹紅。
同時に妹紅の中の何かが、音を立てて崩れ出す。
そこへ満面の笑みを浮かべて、フランがやって来た。

「これで本気、出してくれるよね」

すると妹紅は、だらんと前屈みになる。
そしてふらつきながら顔を上げると、にやりと不気味に笑って見せた。

「ああ、いいよ。たっぷり魅せてやる。あの世にまで持って行けるトラウマになる弾幕をな!『火の鳥 -鳳翼天翔-』!」

攻撃宣言と同時に炎が巻き上がり、妹紅を巨大な火の鳥が包み込む。
だが火の鳥の炎は、妹紅自身にも襲いかかっていた。
全身を包む凄まじい炎が、妹紅の体を徐々に焦がしていく。
だがそんな事は気にも止めず、妹紅は火の鳥を纏ってフランに突っ込んでいった。

「大切な者も守れなくて何が命だ! 何が永遠だ! こんな命、喜んで差し出してやるよ!」

完全に特攻を仕掛けるつもりの妹紅。
しかしフランも、ただで喰らってやるつもりはない。

「『カゴメカゴメ』!」

フランは魔力を解き放つと、妹紅を取り囲むように弾幕を展開した。
妹紅の前に立ち塞がる弾幕の壁。
だが死ぬ気の妹紅に立ち止まる理由はない。

「邪魔だあああぁぁぁぁあああああぁぁぁぁ!!」

そのまま躊躇する事なく、弾幕の壁に突っ込んでいった。
壁を一枚突き破る毎に、妹紅の体は吹き飛び少しづつ減っていく。
しかし妹紅を倒すには一歩足らず、遂に妹紅はフランの目の前まで辿り着いた。

「死ねえええぇぇぇぇえええぇぇぇぇ!!」

巨大な火の鳥がフランに襲いかかる。
もしレーヴァテインがあったなら、真正面からぶつかって消し飛ばしただろう。
だが今のフランに、この鳥を止める手段はない。
火の鳥はもう抵抗する術のないフランに突っ込むと、その炎でフランを焼き尽くした。

「うっ……ぐ……ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!」

火達磨になり、地面に落下していくフラン。
そのまま首だけの大仏に突っ込むと粉々に砕き、その残骸に埋もれてしまった。
一方で妹紅も、すでに限界に達している。

「……慧音………今………そっち……に…………」

突然、軌道を変え空に向かって飛んで行く火の鳥。
天を目指して、どんどん高く上がっていく。
やがて天高くまで上がると炎は弱まっていき、その火が消えると跡には何も残っていなかった。





決着はついた。誰もがそう思っていた。
しかし違う。
彼女はまだ生きていた。
大仏の残骸を押し退けて、フランドールは立ち上がる。

「………ハァ……ハァ……ハァ……」

荒い呼吸を繰り返し、黒焦げの体を引き摺りながらも
フランはその再生能力でダメージを回復すると再び動き始めた。

輝夜チーム 上白沢 慧音
輝夜チーム 藤原 妹紅
リタイア





一方、こちらはパルスィの追跡から逃げ続けている早苗。
必死に逃げながら、信頼する二柱を探していた。

「諏訪子様………助けてください、諏訪子様……」

早苗は近くにいる筈の、諏訪子の姿を探して走り回る。
すると崖の影から、横になっている諏訪子の足が飛び出していた。
探していた者の姿に、早苗は喜んで駆け寄っていく。

「諏訪子様、そんな所で寝…………」

だが崖の裏を覗き込んだ早苗の目に飛び込んで来たのは、上半身のない諏訪子の姿だった。

「………え? え? 何? どういう事?」

状況が理解出来ず、早苗は誰が見ても明らかな程に動揺する。
取り乱して辺りをキョロキョロする早苗、すると何やら赤いラインが引かれている事に気付いた。
無我夢中で早苗は、そのラインを辿っていく。
徐々にラインの上に転がっていく何かの塊。
それは先に進めば進む程、数と量を増していった。
そして早苗は辿り着く。

「………諏訪……子………様………?」

諏訪子の亡き骸が凭れかかる大岩の前に。

「……嘘……ですよね……? 嘘! 嘘嘘嘘! こんな事! こんなこうぐえええぇぇぇ!」

大切な者の無残な姿と、凄惨な光景のショックから早苗は嘔吐してしまう。
やがてある程度吐き動けるようになると、早苗は諏訪子の亡き骸を抱きかかえようと手を伸ばした。
しかしすでにぐちゃぐちゃの諏訪子は、持ち上げるとバラバラに崩れてしまう。
その肉片は早苗の手をすり抜け、血溜まりに落ちるとビシャビシャと音を立てた。

「嫌あああああああぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁ!!」

叫び声を上げ、その場に崩れ落ちる早苗。
その悲鳴を聞き近くにいたパルスィは、早苗の許へと駆け寄っていった。

「あらまぁ、これは酷い」

諏訪子の亡き骸を見て、開口一番にパルスィはそう呟く。
次に何やら、おかしな行動を取っている早苗に話しかける。

「そんな事しても、貴方の神様は帰って来ないわよ」

早苗は必死に諏訪子の肉片を掻き集めていた。
そして集めた肉片を諏訪子の上半身だったものに、くっつけていく。
だが肉片は、くっつけたその場からボロボロと崩れ落ちる。
その光景を見ていられなくなったパルスィは、早苗の腕を掴み肉片を集めるのを止めさせた。

「諦めなさい。貴方の神様は死んだの。何をしたって無駄よ」

すると早苗は血塗れの手で、パルスィの手を掴み返す。
何事かと、きょとんとするパルスィ。
しかしパルスィは、すぐにその手を振り払うべきだった。

「………………『妖力スポイラー』」
「!!」

途端にパルスィの全身の妖力が、どんどん放出されていく。
その妖力は掴まれた手から、早苗の体に吸い込まれていった。
本来なら多少の妖力を吸われたところで、妖怪にはなんて事もない。
だが今回は明らかに吸収量が多かった。

「……や、やめなさい。貴方の神様は信仰を失ったんじゃない。死んだのよ。今更、力を集めたところで……どうにも…」

徐々に妖力を吸われ、パルスィは弱っていく。
ところが吸っている早苗も膝をつき、少しづつ衰弱していった。

「……はぁ……はぁ……うぐっ!」
「!! 早くやめなさい! 人間が妖怪の妖力をそんなに吸ったら…………貴方、死ぬわよ!?」
「……はぁ……諏訪子様ぁ……諏訪子様ああぁ……!」

しかし早苗はやめようとしない。
どんどん妖力を吸い、ボロボロになっていく。

「………早苗…………あな……た……………」

やがてパルスィの妖力は底をついてしまった。
その場に力無く倒れ、パルスィはぐったりとうつ伏せになる。
すると早苗はふらふらと立ち上がり、口元を吊り上げ瞳を禍々しい緑色に輝かせた。

「はは……あははははっ! 諏訪子様あぁ! 私は! 私はああぁぁぁ!? あはははははッ!」

それが錯乱状態の悪化なのか、妖力を取り込み過ぎた結果なのかは分からない。
ただ正気を失ってしまった早苗は、そのまま何処かへと走り去ってしまった。
残されたパルスィは、その後ろ姿に必死に手を伸ばす。
だが妖力を吸い尽くされた妖怪は、そう永くは持たなかった。

「……私も……ほしかったなぁ…………汚い所も……醜い所も………理解し合える………家族……が…………」

さとりチーム 水橋 パルスィ
リタイア





「………………」

火の手が上がり続ける輝夜の陣地、その中をフランは歩いて行く。
さすがに先程の攻撃は痛かった。
戦闘が行える程度には回復したとはいえ、まだ全身に負ったダメージは完全には癒えてはいない。
一旦陣地に戻り、傷が治り切ったらまた遊びに出かけよう。
そう思っていたところに、彼女が立ち塞がった。

「妹紅が死んだら本気を出す。確かにそうおっしゃいましたよね」
「はぁ、余計な事は言うもんじゃないわ。それにしても、まさか妹紅が負けるとはねぇ」

炎をバックに現れたのは輝夜と永琳。
しかし輝夜の服装は、いつもの着物ではなく洋服だった。
また髪は長い二本の三つ編みにしている。
そんな普段と違う格好の輝夜は、フランの方を見ると気だるそうに口を開いた。

「そーれーでー、貴方が妹紅を倒した吸血鬼? よくもまぁ、人の陣地を滅茶苦茶にしてくれて……それはいいんだけど。
 で本題、これから私は本気で貴方と戦わなきゃいけないの。貴方も此処まで来たからには覚悟は出来てると思う。
 けどこっちも殺すつもりでやるから、後悔だけはしないように全力で来なさい」

それだけ言うと輝夜は一気に妖力を解放する。
同時に凄まじい妖気が流れ出すと、輝夜は次々と弾幕を具現化し始めた。

「『サラマンダーシールド』!」

最初に出て来たのは真っ赤な衣。
輝夜は、それを頭巾のようにして被る。

「『ブリリアントドラゴンバレッタ』!」

次いで出て来たのは巨大な機関銃。
輝夜は、その持ち手の前に腰かける。

「『蓬莱の玉の枝 -夢色の郷-』!」

最後に出て来たのは多数の弾薬を帯状にしたベルトリンク。
それを先程の機関銃にセットすると、輝夜は銃口をフランに向けた。

「さぁ、こっちは何時でもいけるわよ」

そう言ってフランの反応を見る輝夜。
一方のフランは今まで見た事のない戦闘スタイルに興奮していた。
この人間はどんな弾幕を扱い、どんな戦術をとるのだろうか。
その好奇心の前では撤退する事など、どうでもよくなってしまった。
どうせ被弾しなければ、多少の傷など関係ないだろう。
それより目の前の人間と戦ってみたい。
フランはそう思い、勢いよく輝夜に向かって行った。

「いっぱい楽しめると、嬉しいんだけどね!」
「そう、でも勝負はいつも一瞬で決まる。須臾の弾幕、見逃さないようにしなさい!」

それに応えるように、輝夜は引き金を引く。
途端に高速の弾幕が次々と撃ち出されていった。
だが吸血鬼の身体能力の前では、ゆっくり飛んでいるように見える。
回避は簡単、の筈だった。
ところがフランの目の前で異様な出来事が起こる。

「!?」

なんとそれまでゆっくり飛んでいた弾幕が、急に加速し始めたのだ。
加速した弾は先頭の弾に追い付くと、再びゆっくり飛び始める。
すると後から飛んで来た弾はどんどん先頭に並び、やがて煌びやかな弾幕の壁が出来上がった。
こうなってしまっては回避する隙間なんて存在しない。
慌てて方向転換しようにも、もう間に合わない。

「な…」

フランは迫って来た弾幕の壁に呑み込まれ、悲鳴を上げる間もなく消し飛んでいった。

「……………ふぅ」
「お疲れ様です。さすがは姫様」

最早分かりきった事ではあるが、全ては輝夜の能力によるものである。
永遠と須臾を操る程度の能力。
その力の前では、全てのものの動きは輝夜の自由自在なのだ。
やった事は非常に単純、フランの周囲の時間を永遠に変えただけ。
すると向かって行った弾は、フランに近付くと時間を止められ動かなくなる。
やがて大量の弾幕はフランの目の前で交通渋滞を起こす。
そこで時間を元に戻してやれば、巨大な壁が突然現れたように見えるという訳だ。
輝夜の完全勝利に、ご満悦の永琳。
しかし当の輝夜は納得のいっていない様子だ。

「こういうやり方って好きじゃないのよねぇ。だって動けない相手を狙うなんてズルいじゃない」
「ですが本気でやると申されたのは姫様ではないですか」
「う~ん、今度から永琳の前では発言に気をつけよう」
「しかし………姫様の本気、久しぶりに見れました。あの弾幕の壁の美しさは、まさに幻想郷一! あ、これは失礼。
 幻想郷一は姫様自身でしたね。では弾幕の中で幻想郷一美しいに決定です! さすが姫様! 二冠ですよ!」
「永琳、ちょっと五月蝿い」

やたら目をキラキラさせる永琳に、輝夜は大きな溜め息を吐く。
そして辺りの光景を見渡すと、他に敵がいないのを確認して機関銃とベルトリンクを回収した。

「しっかしこれじゃあ、もう此処は陣地には使えないわねぇ」

そう言う輝夜の視線の先には、焼け落ちた町の姿が広がっている。
鳥居は倒れ大仏は砕け町中には火の手が上がり、元の旧都市の面影は殆ど残っていなかった。

「ご安心ください。こんな事もあろうかと、すでに手を打っております」
「あら! そういうところはさすがね、永琳!」
「ふっふっふ、なんてったって月の頭脳と呼ばれる大天才ですから!
 ところで姫様、先程の弾幕の名前を考えてみたのですがビューティフルホウライサンカグヤスペシャ…」
「却下」

レミリアチーム フランドール・スカーレット
リタイア





その頃、天子と戦っていたレミリアもフランの魔力が途絶えた事に気付く。

「……フラン……よく頑張ったわね。今はゆっくり眠りなさい」

レミリアはそうそっと呟くと、一気に魔力を高めて来た。

「そろそろ夜明けが近い。いい加減、貴方の相手も飽きたわ。終わりにしましょう」
「あら、降参でもするの?」
「まさか」

するとレミリアは、一気に天子の懐に入る。
突然至近距離に現れた敵に驚く天子。
だがレミリアは間髪入れず勢いよく突っ込み、天子を空高く打ち上げた。

「あがっ…」

さすがに今の一撃は効いたようで、天子は無抵抗のまま宙に投げ出される。
そこへレミリアは、高速回転しながら突っ込んで追撃を加えた。

「今のが『デーモンキングクレイドル』……そして…」

更に続くレミリアの攻撃。
先程の一撃で空高く舞い上がったレミリアは、空中で再び回転し天子に襲いかかった。

「うぐあっ!?」
「これが『バッドレディスクランブル』だ」

そのまま天子を叩き落とし、華麗に着地するレミリア。
地面にぐったりと倒れて動かない天子を流し目で見ると、ふっと鼻で笑う。
ところが突如、陣地内から無人の軽トラックが飛び出し二人目掛けて突っ込んで来た。

「……………」

それを全く動じずに、レミリアは蝙蝠へと姿を変えかわす。
だがのびている天子はそのまま撥ね飛ばされ、断崖の中に吸い込まれるように落ちていった。

「紫め、くだらない事を」
「あ! 大丈夫でしたか?」

そこへ慌てて駆け付けて来た美鈴。
深々と頭を下げると、申し訳なさそうに話を切り出した。

「す、すみません。逃がしちゃいました」
「放っておけ。どうせ紫のくだらん仕掛けだろう」

レミリアはそう言って、自分の陣地に帰って行く。
ところが美鈴は頭の上に疑問符が浮かんでいそうな顔をして、レミリアに話しかけた。

「いえ、私が言ってるのは車に乗ってた兎の事ですよ?」
「兎? ……………ああ、そういう事か」

紫チーム 比那名居 天子
リタイア





その車を運転している鈴仙は、自分の陣地目指して急いで車を走らせている。
鈴仙がこんな事を遣って退けたのには、ちゃんと理由があった。
実は鈴仙には波長を同調させる事で、遠くの他人とも会話する能力がある。
これを駆使し、まだ探索から帰って来ていないてゐとも情報交換していたのだ。
そうして得た情報を永琳に伝え、その頭脳を以て作戦を考えてもらう。
これにより探索の最中でも作戦が立てられ、すばやく行動する事が出来るようになるのだ。
今は移動手段の確保の為に、レミリアの陣地に忍び込んだ帰りである。
何せこの世界は平原がやたらと広い。
歩くにも飛ぶにも時間がかかるが、逆に車は高低差が少ない分動きやすいのだ。
さすがに断崖を越す事は出来ないが、少なくてもそこまでの移動で無駄に消耗しなくて済む。
それを考えれば車の確保は、動きたがらない輝夜の事もあって大きなメリットとなる筈なのだ。

「さてと……」

運転をしながら波長を同調させ、連絡を取り始める鈴仙。
やがて上手く受信が出来たのを確認すると、まるで電話でもかけているかのように話し出した。

『てゐ? 今何処にいるの? 陣地には帰ってないみたいだけど』
『ああ、鈴仙? 悪いけど今、取り込み中なんだ。すぐに帰れそうにないから、お師匠様に途中で拾ってって伝えといて』
『…………分かった。あんまり無茶しないでよ』
『分かってるって』

鈴仙はそこで通信を切ると、再び運転に集中し始める。

「てゐ、大丈夫かなぁ」

その行く先には、昇り始めた太陽が姿を現していた。













日が昇り夜が終わる。朝の訪れだ。
世界は太陽の光に包まれて、闇は徐々に影へと追いやられていく。
吸血鬼も陣地へ帰らざるを得なく、各陣営は何とか一山越えたといったところだ。
そうは言っても、すでに参加者の三分の一が退場している。
油断を許さない状況は、未だ続いていた。
そして現在進行形で命の危機に晒されている者もいる。

「うわっ! ちょっ! 危なっ!」
「あははははは! 待ってくださいよ! 逃げられたら上手く当たらららららららららら!」
「なんかヤバいって! こいつ!」

てゐは襲い来る早苗の弾幕から逃げ続けていた。
別に早苗が怖くて逃げてる訳ではない。
ただ一見すると分からないが、早苗の周りには小さな霊力の爆発が起き続けているのだ。
爆発はとても小規模な為、てゐのような音に敏感な妖怪でないと気付きにくい。
しかし爆発に巻き込まれると、小さな衝撃とはいえ隙を生んでしまうのだ。
そこに弾幕を叩きこまれたら堪ったもんじゃない。
故にてゐは爆発の範囲外で戦う為に、早苗から逃げ続けていたのだ。
だがこの鬼ごっこは思わぬ形で終わりを迎える。

「!!」

てゐの目の前に、突如大きな川が立ち塞がったのだ。
川は思いの外深く、泳いで逃げるには若干のリスクを伴う。
幸い橋は少し歩いた所にある。
そっちまで走って行こう。
そう思ったてゐだったが、川を見た瞬間に立ち止まったのがよくなかった。
すでにてゐは、爆発の範囲内に入ってしまっていたのだ。

「………う、うわあぁ!」

途端にてゐの足下で起こる小爆発。
ダメージこそないものの、衝撃で躓き転んでしまう。
そこへ襲いかかって来る早苗。
そのまま転んでいる、てゐの首を掴み絞め上げる。

「が……あ……」
「ふふふふふ、捕まえましたよ。『妖力スポイラー』!」
「あぐぁっ……!」

同時に早苗は、一気にてゐの妖力を吸い取り始めた。
首を絞められた上、力まで奪われ絶体絶命のてゐ。
だがその状況は、予想外の事態でひっくり返る。

「あはははは! これで! これで諏訪子様はうぐえぇぇ!?」
「!!」

なんと突然、早苗は口から大量の血を吐き出したのだ。
慌てて口を押さえる早苗だが、吐血は治まる気配を見せない。
その隙にてゐは、ゆっくりと距離を取る。
するとそれに気付いた早苗は、慌てててゐに手を伸ばした。

「!! ま、待っで! 私には妖力がひづっ!? ぎゃああああぁぁぁぁ!!」

ところが今度は目を押さえ、早苗は苦しみ悶え出す。
ある程度距離を取り一先ず安全を確保したてゐは、その様子を見て何が起こっているのかを理解した。
これは妖力の暴走に間違いない。
体内に取り込んだ妖力が当人の制御可能な限界を越えた事で、暴走し肉体を破壊し始めているのだ。
恐らく時期に失血死する。
最早自分がどうこうする事は何もないと、てゐはそっとその場を去ろうとした。
しかしもう目の見えていない早苗は、何処にいるか分からないてゐを探して必死に手を伸ばす。

「……ダメです。……ダメなんです。私が………私が妖力を集めないど………私が頑張らないと……。
 だって……頑張らないと………人より優れでいないと………誰も……誰も私を……認めてくれないじゃないですか…」

そんな姿を見ていたら、てゐは段々この少女が哀れに思えて来た。
だからてゐは去り際に一言、大声でこう叫んだ。

「あ! あれは山の神社の神様! まずい! 早く逃げないと!」

するとてゐは、慌てて走り去る。
勿論この場に二柱などいない。
だが目の見えていない早苗には、その言葉の真偽を確かめる術などなかった。

「…神奈子様……ですね? すみません……こんな…姿で………。でも………助けに来てくださって……本当に嬉しいです。
 神奈子様……私で、よかったんですよね? 私が………風祝でも………よかった…ん……です……よ…………ね……………」

やがて静かに息を引き取る早苗。
ただその顔は、とても穏やかな表情を浮かべていた。

神奈子チーム 東風谷 早苗
リタイア





一方こちらは、さとりの陣地に帰らず考え事を続ける空。
平原にある川の上流にある滝の上で、あれからずっとどうするべきかを考えていた。

「……………」

万が一でも、さとりが死ぬような事はあってはならない。
その為には味方は多い方がいいが、永遠亭が何処まで信用出来るのかも微妙なところだ。
だからと言って他の陣営は、こちらを何時でも切り捨てれるだけの戦力があるのでもっと危ない。
しかし今の戦力だけで全員無事に勝ち抜くのは、少し厳しいのではないか。
そんな堂々巡りの考案を続けていると、突然地面が揺れ始めた。

「な、何!? 地震!?」

空は慌てて飛び立ち、状況を確認する。
すると今まで自分がいた地面が崩れ、中から巨人が姿を現した。
その姿に空は見覚えがある。

「あれは……………非想天則!?」

何時ぞや、どっかの誰かが何かをどうにかしようとして誰かに作らせた非想天則だ。
細かい事は忘れた。
だがあれは、こんなにテカテカしてなかった筈。
そんな事を空が考えていると、非想天則の方から声が聞こえて来た。

「うひゅうぇい!? そこにいるのはウ~ツホ君じゃ、あ~りませんか~?」
「そ、その声! あの時の河童か!」
「如何にも! 私こそがこの非想天則Mrk-2を開発したドクター・ニトリ様だぁー!
 見よ! この超合金ボディを! お値段以上のクオリティとなっております、はい」

何やら様子と言うか、キャラがおかしい。
しかし空はにとりの事をあんまり覚えていなかったので、こんな感じのような気がしないでもなかった。

「強度は当社比、数億倍! 機動力も大幅に強化! 更には…」
「で、何がしたいの?」
「ああ、そうだった。早速だが君には死んでもらう! 私の世界征服の為の人柱となってもらおう!
 次に君の仲間も皆殺しだ! この非想天則Mrk-2の前に、すべての妖怪はひれ伏す事となるのだ!」

その言葉に空は反応する。
ナトリだかネトリだか知らないが、さとりや燐に手を出させる訳にはいかない。
こいつはこの場で自分が止める。
目の前の敵に戦闘意思を剥き出しにする空の頭には、もう先程までの悩みの事など残ってはいなかった。

「此処を通るのなら、私を倒してから進むがいい! そんな事が出来るのならね!」
「ふっふっふ、いいだろう! 行くぞ、非想天則Mrk-2! 俺様が造り出したこの力でボッコボコにしてやんよ!」

にとりの掛け声と同時に、勢いよく拳を振るう非想天則Mrk-2。
それを空は上に飛んでかわす。
だがすぐに腕を振り上げた非想天則により、空は一気に吹き飛ばされた。

「ぐがっ…!」
「ん~? 力加減を間違ったかな?」

そのまま空は、力無く落下していく。
そこに非想天則の拳が追撃を叩き込んだ。
凄まじい威力の一撃に、空は川の下流にまで吹っ飛ぶ。
そんな空を非想天則はゆっくりと追いかけていった。

「はっはっは! 見たか! これが非想天則Mrk-2の実力だ! 凄いぞー! かっこいいぞー!」

最早余裕といった様子のにとり。
それも非想天則の圧倒的パワーを考えれば当然の事だ。
しかし空は諦めない。
ここで自分が負ければ、仲間の身が危ないのだ。

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

一気に飛び上がり、再び空は非想天則に向かって行く。

「何度来ても同じ事だああああぁぁぁぁ!」

迎え撃つべく非想天則も拳を振るった。
再び近付く拳と空。
その瞬間、空は一瞬にして姿を消した。
だがにとりには、そんな手は読めている。

「下だああぁぁ!」

一気に腕を振り下ろす非想天則。
腕の影に隠れて視界から消えたつもりだろうが、これで一巻の終わりだ。
にとりは勝利を確信し、打ち落とされ地面に這い蹲る空を見ようと振り返る。
しかしそこには、目の前で弾幕を放とうとする空の姿があった。

「な、なんだってー!?」

にとりの読みは半分当たっている。
確かに空は腕の下に回り込んでいた。
だが腕の影に入って飛んでいたのではなく、非想天則の振り終えた腕に掴まっていたのだ。
そのまま空は、下に振った腕と一緒に非想天則の背後に出る。
あとは気付かれる前に頭に近付き、弾幕を撃ち込めばいいだけだ。
そして今まさに、その弾幕が放たれようとしている。

「『ギガフレア』!!」

空の宣言と同時に非想天則の頭目掛けて放出される、膨大なエネルギーのレーザー攻撃。
それは非想天則を後退りさせ、更に顔の装甲にひびを入れた。

「ば、馬鹿な! この非想天則Mrk-2の装甲は、初号機の数億倍だぞ!?」
「初号機ってあのふわふわした奴でしょ? あれの数億倍って、どのぐらいなの?」
「しまったぁー!」

すると空は非想天則より更に高く飛び上がる。
やがて丁度いい高度に到達すると、全身に炎を纏って頭のひび目掛けて突っ込んでいった。

「『八咫烏ダイブ』!!」

そのまま装甲を突き破り、コクピットに侵入する空。
そこには巨大な動力炉と思われる球体と、そこから伸びたコードを頭に繋がれたにとりの姿があった。

「くっ…! まさか此処までやるとはな! こうなったら俺様が直々に相手してやる!」

そう言ってにとりは弾幕を仕掛けようとする。
しかし空はそんなにとりを無視し、後ろの球体を狙って胸の瞳から弾幕を繰り出した。

「な、なんだとー!?」

弾幕が命中すると球体の中から、大量の小人が炎に焼かれながら飛び出して来る。
同時に爆発を始める非想天則。
空は此処にいては危険だと判断し、すぐに外に飛び出した。
一方でにとりは唖然としている。

「私の……私の非想天則Mrk-2が、まさか…こんな筈では……うぎゃあ!」

そこへ襲いかかる爆風。
にとりを一気に吹き飛ばし、操縦席へと叩きつける。
するとにとりの頭に繋がれていたコードは、引っ張られた事と本体の崩壊により引き千切られた。

「はっ、此処は? 私は今まで何を? え? 何これ!? う、嘘でしょ!? なんで私、こんな事になって…」

そして非想天則は大爆発を起こす。
粉々に吹き飛んだその残骸は、脱出した空の背後で流星のように降り注いでいる。

「…………あ、そうだ! 早くさとり様の所に戻らないと!」

最早悩んでいた事さえ忘れた空は、意気揚々と自分の陣地へと飛び去って行った。

神奈子チーム 河城 にとり
リタイア





その頃、紫の陣地では相変わらずまったり過ごす幽々子の姿があった。

「もう幽々子様、こんな事してていいんですか?」
「妖夢、私は紫に此処にいるように言われてるのよ。私は今まさに仕事中なの」
「それって見張りをしろって事じゃないんですか?」
「だって見張れなんて言われてないもん」

周りで戦況が動いている事などお構いなしに、のんびりとしている幽々子。
そんな幽々子に付き添って、妖夢も未だ自分の陣地を出ずにいた。

「でもいいんですかね。私達は戦いに参加しなくて」
「戦ったじゃない、昨日」
「自分達から動かなくてって意味です」
「いいんじゃない? それが紫の作戦なんでしょ。何か言われるまで高みの見物と洒落込もうじゃない」

そう言って幽々子は、置かれていた団子に手を伸ばす。

「妖夢~、おかわり~」

そしてあっという間に平らげると、妖夢に空になった皿を手渡した。

「もう、幽々子様ったら。……取って来ます」

妖夢は皿を受け取ると、家屋の中へ料理を取りに行く。
ところがその途中、突然足を止めた。

「妖夢?」
「……幽々子様………お逃げ……ください……」

そのまま、うつ伏せに倒れる妖夢。
その胸元からは、真っ赤な血が次々と溢れ出ていた。

「え? 何? どういう事?」

事態が掴めず、幽々子は慌てて妖夢の許へ駆け寄る。
そして傍に寄ると、妖夢を抱き起こして事情を確認しようとした。

「ちょっと妖夢、一体どういう事………な……の……?」

すると突如、胸に感じる衝撃。
何事かと見てみると、幽々子の鳩尾に白楼剣が深々と突き刺さっていた。
その柄を握る白い手の持ち主を、必死に幽々子は目で追う。
そこには黒い帽子を目深に被った、こいしの姿があった。

「無意識下の攻撃はどう?」

そう言ってこいしは白楼剣から手を放す。
途端に幽々子はその場に倒れ、服だけを残して消滅してしまった。

「さ、早くお姉ちゃんの為にお土産を取って来ないと!」

そんな事はどうでもいいといった様子で、こいしは家屋の中に入って行く。
だがそこには新たな刺客が待ち構えていた。

「土産が欲しいならカクテルの材料をやろう。さとりも好きだろう?」

座っていたバーのカウンター席から立ち上がり、藍はこいしの前に立ち塞がる。
こいしは無邪気に微笑みかけると、明るい口調で話し出した。

「じゃあそれもお土産にしよう。でもお姉ちゃんを喜ばせるには、紫の首も持って帰らないと」
「贅沢だなぁ」
「姉思いの妹って言って」

そのまま暫しの間、無言で向かい合う二人。
すると突然、藍は素早く何かを掴んだ。

「土産物を貰いに来ている時に、こういう態度は感心しないな」
「ふぇ!?」

それは長く伸びたこいしの舌、妖夢を仕留めた必殺技だ。
確かに無意識下で忍び寄り、藍の不意を突いた筈。
なのに何故かその舌は、藍の手に掴まれ必殺の一撃を止められている。
思わぬ出来事に動揺するこいし。
しかし藍はお構いなしに舌を引っ張り、こいしをその場に跪かせた。

「ひゃ、ひゃんひぇ……」
「分からないか? それもそうだな。お前は世間を知らなさすぎる」

そう言って藍は、こいしの頭を鷲掴みにする。
代わりに舌は解放されたがギリギリと締め付けられる痛みで、こいしには能力を使う余裕などなかった。

「痛い! 痛いよぉ!」
「そりゃそうだ。痛いようにしているからな」
「なんで!? 無意識下の攻撃が防げる筈ないのに!」
「簡単だ。お前は能力により無意識下に入る事が出来る。だが攻撃する瞬間、お前は微弱だが私に殺気を向ける。
 その殺気に反応して無意識を意識に変えれば、お前の攻撃など真正面から向かって来る弾と一緒だ」
「そ、そんな! そんなの数コンマの話でしょ!? 簡単に出来る訳ないじゃない!」
「だからお前は世間知らずなんだ。この程度の事、幻想郷のパワーバランスに関わる者なら出来て当然だ。
 そもそも襲撃とは不意にやって来るもの。お前の能力は、その不意を何回でも狙えるだけの能力だ」

徐々に藍は、その手に加える力を強めていく。
するとこいしは、ボロボロと泣き出してしまった。

「うっぐ……ごめんなさい………もうしないから……」
「主の命を狙った輩を、ごめんなさいで許すと思うか?」
「お、お願い……助けて…………」
「私が、怖いか………?」

その直後、いきなり右手を振り上げる藍。
殴られると思ったこいしは、怯えて目を閉じた。
だが藍は、そのまま拳を下ろす。
そして怯えてスカートをぐっしょり濡らすこいしに、ゆっくりと話しかけた。

「それがお前だ。人に避けられる事を恐れて逃げた弱い覚りだ。何故一人で来た? 大方勝手に飛び出して来たのだろう。
 姉より自分が優れているとでも思ったか? だとすれば、それは酷い驕りだ。お前には、さとりの能力は効かない。
 だがそれは、お前が姉より強いからではない。お前が立ち向かう事を放棄したからだ。
 それで人には避けられなくなっただろう。だが避けられないだけだ。人はお前をいないものとして扱う。
 これがお前が望んだものか? 違うだろう。どうしてこうなったか分かるか? それはお前が逃げただけだからだ。
 さとりを見ろ。あれが人に避けられた哀れな姉に見えるか? 様々な妖怪に囲まれた、あの姿が。
 さとりは人に避けられても自分の能力を捨てなかった。だから今、慕って来る者がいるのだ。
 お前は姉に勝ったつもりで負けていた。さとりはお前より遥かに強い、それを忘れるな」
「………えっぐ…………私、お姉ちゃんに謝らないと……」

涙を拭きながら、こいしはそう答える。
すると藍はにっこりと笑って

「そうか、分かってくれたか。なら一回休みだ」
「へ?」

九本の尾から凄まじい妖力を放出し始めた。

「えっ? ちょっと、やめ…」

そのまま九本の尾は、こいしを狙って一気に向かって来る。
頭を掴まれたままのこいしは、かわせずに膨大な妖力に貫かれ砕け散った。

「これに懲りたら現実では大人しくし、姉とも仲良くやるんだぞ」

そう言って藍は、家屋の上階へと上がって行く。
その途中、小さな声で何やらぶつぶつと呟いていた。

「しかし紫様もおかしな遊びを始めるなら、私に一言くださればいいのに……」

紫チーム 魂魄 妖夢
紫チーム 西行寺 幽々子
さとりチーム 古明地 こいし
リタイア




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