更に時間は流れ、日は頂点を通り越す。
徐々に夜に向かって下がり続ける日の下で、天子は意気揚々と歩いていた。

「さぁ、どっからでもかかって来なさーい!」

自慢の緋想の剣を振り回し、何故か船が沈没しかけている川辺を進む天子。
紫と決別してから、ずっとこんな調子で陽気に散策している。
するとそこへ一羽の兎が飛び出して来た。

「んん~? さては挑戦者ね!」
「いえいえ、そんなつもりはこれっぽっちもありませんよ」

現れたのは永遠亭の兎、てゐ。
だが何やらやたら低姿勢である。

「噂の天人様がおらっしゃると聞いて、一度その姿を拝見したく此処まで来たんですよ」
「え? そ、そう? そうよね! 天人様だもんね!」
「しかし噂以上にお美しい。まさに天界の天女様! いやぁ~来た甲斐がありましたよ~」
「そ、そう! 幻想郷にも私の素晴らしさが分かる奴がいたのね!」

次から次へと飛び出す、お世辞の数々。
そんなてゐの言葉に、天子はすっかり気をよくしていた。
するとここらが頃合いだと言わんばかりに、てゐの目が鋭く光る。

「おや? その剣、もしかして緋想の剣ですか? これは素晴らしい物をお持ちで! さぞや剣の腕も素晴らしいのでしょう!」
「そうね! そりゃあ、そこらへんの妖怪なんて千切っては投げ千切っては投げよ!」
「そうなると、あの吸血鬼も敵じゃないですか? いや、でもさすがの天人様も苦戦しちゃうかな~」
「吸血鬼? ああ、あの噂の。もちろん余裕余裕! なんなら今からやっつけちゃおっか?」
「ええ! まさかそんな、ついで感覚で!? さすが天人様は格が違う! 緋想の剣も凄いですね!」
「ふっふっふ、それ程でもないわ! でもやっぱり分かっちゃう奴には分かっちゃうのよね~!
 こう内面の品格って奴? まあ、見てなさい。ちゃっちゃと片付けて、灰でも持って帰って来てあげるから!」

そのまま天子は、てゐに言われたレミリアの陣地へと向かって行った。
それを見届けると、てゐは永琳に渡されたおにぎりを取り出し口に頬張る。
そしてにやりと笑うとメモを取り出し、その一ヶ所にチェックをいれた。

「いっちょあがりっと」





その頃丁度天子が目指す先、レミリアの陣地では咲夜が帰還していた。
ガーデンチェアに腰かけたレミリアが、その活躍を労う。

「ご苦労だった」
「いえ、スカーレット家のメイド長たる者これくらいの事が出来なくてどうします?」
「さすがは私の従者だな」

咲夜は自身が集めた情報を元に作った地図をレミリアに手渡した。
そこにはこの世界の地理を事細かに記した、精密な地図が描かれている。
それによればレミリアのいる陣地は全体の南西、北に行けば森があり東に行けば町があるそうだ。
更に全体の北東には奇妙な城が建っており、世界の中央には大きな家屋が建っていると記されていた。

「この5ヶ所が各陣地、そうだな」
「恐らくは」
「となると中央は紫の陣地と考えるのが妥当だな。此処だけ地上からの侵入口が限られている」
「紫のやりそうな事ね」
「あら、パチェ」

暗闇の中から姿を現した魔女、パチュリーは小悪魔を引き連れレミリアの座っている反対側のガーデンチェアに座る。
間髪入れずティーセットを持って来た咲夜から紅茶を受け取ると、ゆっくりと本を開きながら話を始めた。

「レミィ、貴方はどうするの?」
「夜になったからといって、二人同時に攻めるのは得策ではないわ。陣地ががら空きになるのはよくないし
 それを狙って奇襲をかけて来る陣営も、いないとは限らない」
「じゃあ妹様には留守番を?」
「いいえ、襲撃はフランにやらせるわ」
「………危険じゃない?」
「そうね、確かにリスクがないとは言えない。ただ突破力ならフランの方が上よ。きっと私以上に活躍してくれるわ。
 それにいつも留守番じゃ、あの子に悪い。こんな時じゃなきゃ自由にしていいなんて言えないもの」
「……………レミィがそういうなら止めないわ」

フランの能力は非常に危険かつ不安定だ。
本人が癇癪を起し、暴走する可能性も否定出来ない。
だからこそ今までレミリアはフランを外に出さなかった。
何か問題が起きて一番傷付くのはフランなのだから。
しかし戦争という状況は、フランには好都合だ。
向こうも戦う気でいるので、フランは自由に『遊ぶ』事が出来る。
だがそれが本当にフランの為なのかレミリアには分からない。
ただの自己満足な罪滅ぼしかもしれない。しかし戦争は始まってしまった。
もう今更、後に引く事なんて出来やしないのだ。

「運命を操る能力なんて、はったりね。私に見える世界はこんなにも狭い」

ふと空を仰ぐレミリア。
高層建築が建ち並ぶこの都市の空は、とても小さく狭かった。





「何処まで続くのさ~、この洞窟~」

こちらは洞窟の中をひたすら進む椛とにとり。
洞窟の倒壊により、別の出口を探している真っ最中である。
この洞窟は何故か壁が異様な雰囲気を醸し出している。
赤く微妙に波打っているように見える壁は、まるで生物の体内のようであった。
勿論、本当に体内を歩いている訳ではないしそもそも生体反応はない。
しかしその独特な雰囲気が、にとりを精神的にも疲労させていた。

「………にとり様、少し宜しいですか?」
「え?」

そんな最中、突然椛に話しかけられ驚くにとり。
だが椛の真剣な目を見ると、何やらただ事ではないと唾を呑んだ。

「な、何?」
「にとり様とは此処でお別れです」
「………えっ」

しかし話された内容は、あまりにも予想外のもの。
思わず固まってしまうにとりを余所に、椛は更に話を続ける。

「今まで将棋を指したり雑談したり楽しかったです。本当にありがとうございました」
「えっ、ちょっと。お別れって…」
「にとり様はにとり様で頑張って生き残ってください。それでは……さようなら」

そう言うと一気に走り出す椛。
すぐに椛の姿は小さくなっていってしまう。

「う、嘘……だよね? ……待ってよ! 嫌だよ、さよならなんて! 行かないでよ!」

慌てて後を追いかけるにとり。
だが相手は白狼天狗、追い付ける筈もなくどんどん差は開いて行く。
やがて分かれ道に辿り着くと、もう椛がどっちに行ったのか分からなくなってしまった。

「どうして……どうしてあんな事……………っ!!」

取り残されその場にへたり込むにとり、その目に何かの影が映る。

「椛っ!?」

もしかしたらまだ近くにいたのかもしれない。
無我夢中で影の主をにとりは追う。
しかし影の主は椛ではなかった。

「………えっ」

影の主は前掛けをした奇妙な小人。
小人は洞窟の中をてくてくと歩いて行く。
期待が外れ、がっくりとするにとり。
だがまだ希望は潰えていない。

「ねぇ、そこの君! 此処で白髪の大剣を持った子を見なかった!?」

この小人が椛の行方を知っているかもしれない。
僅かだが少ない希望に、にとりは必死に手を伸ばした。
すると小人はこちらをちらっと見た後、何処かへ歩いて行くではないか。

「あ、ありがとう!」

案内してくれる、にとりはそう感じ取った。
どんどん進んでいく小人を、にとりは一生懸命追いかけていく。
やがて小人はある場所に辿り着いた。

「…………此処は…?」

そこはなんと行き止まり、此処には椛はいない。

「違うよ、私は椛を探しているんだ。だから…」

その時にとりは気付いた。
自分の背後から不気味な音が聞こえて来る事に。
恐る恐る振り返るにとり。
するとそこには夥しい量の小人が集まっていた。

「……………あああ……」

小人達は徐々に、にとりとの距離を狭めて来る。
最早考えるまでもない。
嵌められたのだ。
この小人達は獲物を自分達の巣穴に呼び込む為に、道案内の振りをしていたのだ。
しかし今更気付いても、もう遅い。
小人達は一斉に、にとりに飛びかかって来た。

「う、うわあああああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ!!」





所変わって、さとりチームの陣地内。
さとりは帰還したパルスィの言葉に耳を疑った。

「………どういう…つもり?」
「だからチームを抜けるって言ってるの」

なんとパルスィは、さとりを裏切り他のチームに付くと言うのだ。
心を読めば理由は分かる。
何でも調査先で手を組みたい相手がいたらしい。
その為には今が丁度都合がいいそうだ。

「……相手は……貴方を受け入れないかもしれないわよ?」
「やる前から諦めるなんて御免だわ」

どうやら戦いが始まる前から、ずっと目を付けていた相手らしい。
それが今回の騒動でチャンスが生まれた。
動くなら今しかない、という考えのようだ。

「仲間を……裏切るのね」
「何を言うかと思えば……」

そう言うとパルスィは、さとりの方を向きにやりと笑う。
パルスィが喋り出すその前に、心の声を読んださとりは逸早く目を丸くした。

「大切なのは自分の理想。その為なら、同じ穴に入れられただけの仲間なんて二の次よ」

それだけ言うと、パルスィはさとりから離れて行く。
その途中で通りかかった燐にメモを渡すと、そのまま陣地を後にした。

「ん? ……あ」

燐がメモを見ると、そこに描かれていたのは未完成の地図。
さとりはさっきから俯いたまま何も喋らない。
今この陣営を守れるのは自分しかいない、そう考え燐は地図完成の為に走り出した。
すると後ろから空も付いて来る。

「お燐! 私も行く!」
「お空………分かった、行こう!」

二人はそのまま元気よく駆け出して行った。
残されたさとりと勇儀は、気まずい空気の中立ち尽くしている。

「…………あ、あのさぁ…」
「今は………一人にしてくれる?」

そう言ってさとりは、城の中へと入って行った。
さとりは周りが思っている以上に、酷く取り乱している。
パルスィは同じ穴に入れられただけと言っていたが、さとりにとっては同じ傷を負った大切な仲間なのだ。
お互いの苦しみを理解出来るからこそ他の陣営にない深い絆が生まれる、そう考えていた。
しかしその考えは、さとりの考える最大の不安を具現化する形で脆くも崩れ去る。
さとり自身、過去の経験から絆に異様に執着しているところもあった。
だからこそ今回の出来事は考えてはいたものの、実際に起きたショックは計り知れないのだ。

「……なんでよぉ………私じゃ、私じゃダメだっていうの……?」













日は更に傾き、遂に山の影に隠れ始める。
空は紅に染まり、世界は黄昏を迎えていた。

「いい天気ね~」

そんな世界をのんびりと庭から眺めている幽々子。
敷物に座り寛ぐ姿は、まるで花見でもしているかのようだ。
だが此処は戦場、穏やかな時は長くは続かない。

「幽々子様、危ない!」

突然何処からともなく妖夢が飛び出し、幽々子を背に刀を振るった。
すると一気に向かって来た何者かの影は、刀の射程スレスレで後ろに飛び斬撃をかわす。

「何奴!」
「随分いい腕をお持ちなのですね。しかし主には恵まれなかった、と」

向かって来た影の正体は椛。
大剣を片手で持ち上げ幽々子をキッと睨みつける。

「覗きは趣味ではありませんが、貴方のした事は見させていただきました。よくもまぁ天狗の評判を落とすような真似を」
「な、何よぉ………紫がそうしろって言ったんだもん。それに戦争にいいも悪いもないでしょ?」
「ええ、ですから独断でけじめをつけに来ました。その首、貰い受けます」

椛はそのまま大きく飛ぶと、幽々子目掛けて大剣を振り下ろした。
しかし間に妖夢が入り斬撃を止める。
そのまま二つの刀で押し返すと、お互い刀を構えて距離をとった。

「………………………………」

剣士同士の真剣な戦いに、周りの空気も緊迫したものへと変わる。
お互い不用意には攻められない。
刀は振った直後が、もっとも大きな隙なのだ。
勝負を決めるのは一瞬の隙。
その隙を突き、一撃を加えた方が勝ちだ。
負ければ待っているのは死のみ。
不要な動きは己の命を危険に曝す。
二人は一歩も動かず睨み合う。

「………………………………………」

お互い相手の隙を探り、攻めに回れずにいる時間が続く。
張り詰めた空気に、幽々子も黙って見守る事しか出来ない。
だが戦いは突然動きを見せる。

「!!」

一気に走り出し、妖夢に真っ直ぐ向かって行く椛。
それに応えるように、妖夢も刀を構え駆け出していく。
やがて二人の影は重なり、刀の風を切る音だけを残し再び沈黙が広がる。
そのまま、ぴくりとも動かず刀を振った姿勢のまま固まる二人。
そして戦いは決着を迎える。

「………お見事、です」

そう言うと椛は鮮血を撒き散らし、その場に崩れ落ちた。
何も言わず刀を鞘にしまう妖夢。
そして椛の方を見ると、そっと手を合わせた。

「貴方の一撃はとても重く鋭かった。恐らく楼観剣と白楼剣でなければ受け止める事など出来なかったでしょう。
 …………本当に貴方は優れた剣士だった。出来ればもっと違う形で出会いたかった」

刀を交えた者同士だから分かるとでも言ったところか。
妖夢は彼女もまた、この戦いの犠牲者にすぎなかったのだと悟った。
暫くして妖夢は、その場を静かに後にする。
彼女の心は勝利の喜びよりも、よき好敵手となれたかもしれない相手との別れの哀しみに染まっていた。

神奈子チーム 犬走 椛
リタイア





よもや自分達の知らない所でメンバーが戦死してるとは露知らず、諏訪子と早苗は洞窟の中を順調に進んでいた。
やがて先の方に、微かだが光が入り込んでいるのが見えてくる。

「出口だ!」

急いで光の方へ進んで行く諏訪子。
するとそこには渓谷のように、崖で囲まれた外の景色が広がっていた。

「無事出られたみたいですね」

何事もなく洞窟を抜けられた事に、早苗はほっと胸を撫で下ろす。
しかし諏訪子は、ある問題点に気が付き頭を掻いた。

「……もう夕暮かぁ」

それは日没が近いという事だ。
何せ早苗は人間、こんな明かりもない所ではあまり視界が利かない。
さすがに早苗を庇いながら戦うのは、土着神といえども簡単にはいかないだろう。
そうなると早苗を連れて不用意に歩き回るのは得策ではない。

「あのさぁ、悪いんだけど暫く此処で待っててくれないかなぁ」
「あ、はい。分かりました」
「後で迎えに来るよ」

とりあえず今は仲間を探すか、夜をやり過ごせそうな場所を見つけよう。
そう考え諏訪子は、一先ず早苗をおいて探索に集中する事にした。





そんな諏訪子達の動きを感じ取り、神奈子は閉じていた瞳を開く。

「さて、いよいよだね」

目の前に立ち塞がるのは、崩れた岩の山。
だがそんな物は、神奈子の障害にはなり得ない。
神奈子が両手を構えると、勢いよく飛び出した御柱が岩の山を吹き飛ばした。

「…………!!」

するとそこには、辺り一面を埋め尽くす死蝶の群れ。
地面や壁には隙間なくビッシリ止まっており、溢れ出した死蝶が空を埋め尽くしていた。

「死蝶って事は幽々子……………紫の仕業かい」

そう言うと御柱を一本、自分の足下に出す神奈子。
その姿を確認するや否や、死蝶の群れは一斉に襲いかかって来る。
しかし神奈子は臆する事無く、御柱を振り回して死蝶に向かって行った。

「上等だ! 神に妖怪や亡霊が敵う筈がない事を教えてやる!」





その頃地図完成の為に動いていた燐と空は、大平原の川が流れるエリアに到着していた。
川は基本的には浅いのだが、場所によっては海底都市のような物が見える程に深い。
うっかり深い所に入り込んでも困るので、二人は川辺を歩き続けていた。

「こっちの方は川しかないのかなぁ」
「もうちょっと行ってみよ」

いろいろと話しながら先へ進む二人。
そこへ一羽の兎がふらふらとやって来た。

「ああ! そこのお二人! 助けて!」
「ふえ?」

兎はそのまま燐に凭れかかる。
何事かと様子を見る二人。
しかしその兎の顔を見ると、露骨に嫌そうな顔を浮かべた。

「あんた永遠亭の嘘吐き兎じゃん」
「私達を騙しに来た訳?」
「ちっ、バレたか」

すると兎の正体、てゐは燐から離れ近くの岩に腰をかける。
そして一息吐くと、二人を見ながら口を開いた。

「確かに上手く陣地に連れてってくれないかな~とは思ったけど、別に戦うつもりがあった訳じゃないよ。
 私は取り引きしに来たのさ」
「取り引き?」
「そう、あんた達のリーダーは戦闘能力が低い。そして私達のチームは大きなデメリットを背負った。
 はっきり言って私達は他のチームより劣った状態で戦ってる。ならお互いに潰し合うより
 ここは停戦協定を結んで、先に協力して他の連中を殲滅した方がいいんじゃないかなぁ?」

一見すると、てゐの話は魅力的に思える。
確かにさとりは他のリーダー程は強くない。
仮にレミリアや神奈子とぶつかろうものなら、あっさりやられてしまうだろう。
だが戦力が2倍になれば、戦況も大きく変わる筈だ。
それに永遠亭には特別強大な戦闘要員はいない。
少なくてもレミリアや神奈子と比べたら、勝率はかなり高くなるだろう。
ただこの話には一つだけ大きな問題がある。
それは話を持ちかけたのが『嘘吐き兎』だと言う事だ。

「疑わしいなぁ。停戦とか言って、不意打ちするつもりなんじゃないの?」
「そんな事しないよ。だってそっちのリーダーは心が読めるんでしょ? だったら騙し討ちなんて効かないじゃん。
 それにそこまでする程、私達はさとりを恐れていない。だって………あの力じゃねぇ」
「なっ!」

その一言にカチンときた燐。
しかしてゐの悪口は止まらない。

「はっきり言ってリーダーって格じゃないよね。能力も攻撃には使えないし。それに引き換え、あんた達は強い。
 なのになんで配下で我慢してるのかなぁ。別にさ、好きでやってるならいいよ? でもこの戦争の真っ最中に
 力のないリーダーを掲げてたら、皆危ないんじゃないかな? 私に力があったら、そんな危険な事しないなぁ」
「あんた、いい加減にしなよ! そんなにあたい達のリーダーが気にいらない訳!?」
「別にそうじゃないけどさぁ、そのリーダーの顔立てすぎて皆死んじゃったら元も子もないんじゃないかなって」
「あ、あんた…」
「そうかもしれない」

そこへ飛び込んだ消え入るような声。
燐はその声の主の存在を思い出し、しまったと心の中で呟いた。

「確かに……さとり様の力じゃ、この戦いは生き残れないかもしれないよ」

声の主、空はてゐの言葉に静かに賛同する。
いつもの彼女らしくないその発言は、彼女の性格が関係していた。
空は鳥頭と言われるように、あまり多くの物事を考えたり記憶したりしない。
だがそれは一つの事を考え出すと、他の事を考えられなくなる性格に由来していた。
普段は自分の興味のある事にだけ集中し、他の事は頭に入らないので明るい性格に見える。
しかし一度悪い事を考え出すと思考を切り替える事が出来ず、どんどん悪い方にいってしまうのだ。
こうなってしまうと、もう誰にも止められない。
疑い出したら何もかもが疑わしく見えてくるように、今の空は完全にネガティブな思考に支配されていた。

「皆、死んじゃうかもしれない……どうしよう……」
「う、空!」
「でしょ~? だからこそ手を組もうって言ってるんだ」
「………ちょっと……一人で考えて来る…」

そう言って暗い顔で、ふらふらと飛んで行ってしまう空。
するとてゐは橋を渡り、何処かへ走り去ってしまう。

「あ! あんた…」
「じゃあゆっくり考えてね~」

それだけ言い残すと、てゐはどんどん走って行き見えなくなってしまった。
あとに残されたのは燐一人。
その状況に愕然とし、ぺたんとへたり込んでしまった。

「やられた……」













遂に太陽は沈み切り、世界は闇に覆われる。夜の訪れだ。
本来は妖怪の活動時間となるこの時だが、今はすべての妖怪が警戒する時間となっている。
理由は言うまでもない。
闇は誰よりも夜の王が待ち望んでいたものだからだ。

「ねぇねぇ、お姉様! もう行ってもいいよね!?」
「ええ、存分に楽しんで来なさい。ただし夜明け前には帰って来るのよ」
「は~い!」

紅い無邪気な悪魔が跋扈する時間が今、始まる。





夜の訪れは、渓谷周囲を探索中の諏訪子にとっても不都合なものだった。

「まずいなぁ………早くしないと…」

このまま仲間にも隠れ場所にも恵まれないと、早苗に負担をかける事になる。
かと言って洞窟に戻るのは神奈子が暴れる事もあり、倒壊の危険性があるだろう。
最悪、渓谷の影に隠れて一晩過ごすしかないかもしれない。
いよいよ不安になって来た諏訪子。
すると何やら、もの凄い勢いで何かがこっちに向かって来る。

「………もしかして神奈子!?」

ひょっとしたら、こちらが脱出したのに気付いて駆け付けてくれたのかもしれない。
自分が言うのも何だが、なんだかんだ言っても神奈子は頼れるリーダーだ。
その強気な姿勢は仲間の士気を上げ、凄まじいパワーは見る者を圧倒させる。
本来は無謀な作戦も、配下の者達の気力を高める事で成し遂げてしまう優れた神だ。
ただ少し短気なところが玉に瑕ではある。
だがそれを差し引いても、神奈子が優秀な軍神である事に違いない。
そんな神奈子なら何の障害も無く助けに来てくれても、おかしくないだろう。
しかし諏訪子のそんな希望は、飛んで来た者の姿の前に一瞬で砕け散る。

「……………よりにもよって…」
「貴方が私の最初の相手?」

七色に輝く奇怪な翼。
夜風に揺れる金髪の髪。
そして手に握られた異様な形状の剣。
悪魔の妹の降臨だ。

「貴方は強い? 出来れば歯応えがある相手だといいんだけど」

フランは何も渓谷を目指して飛んでいた訳ではない。
ただ自由に空を飛んでいたら、川にぶつかってしまったのだ。
吸血鬼は川を渡る事は出来ない。
仕方なく断崖の上を飛んでいるうちに、渓谷の方までやって来てしまったのだ。

「一撃で死んじゃったらつまんないよ?」
「………安心しなよ! 私は神様、吸血鬼になんか負ける気はしないよ!」
「そう」

その言葉に目を光らせるフラン。
だが実際は諏訪子に勝算なんてない。
この近くには早苗がいる。
もしフランを野放しにして、早苗と出会ってしまったら非常にまずい。
他に頼れる相手がいない以上、此処で自分が何とかしなくてはいけないのだ。

「じゃあ……本気で行くよ」
「!!」

その言葉を皮切りに、フランから凄まじい殺気が放たれる。
咄嗟に身の危険を感じ、諏訪子は一気にその場を離れた。
途端に諏訪子がいた場所は、粉々に吹き飛んでしまう。
一瞬背後を見て青褪める諏訪子。
しかし立ち止まっていては、今度は自分が吹き飛んでしまう。
そのまま走り続け、近くの木へと向かって行った。

「『クランベリートラップ』」

そんな諏訪子を無数の弾幕が追いかける。
次第に迫る弾幕の光。
すると諏訪子は木を目掛けて跳び、その木を蹴って更に高く跳び上がった。
弾幕を飛び越し、夜空に舞う諏訪子。
そのまま空中で攻撃態勢をとる。

「『洩矢の鉄の輪』!」

宣言と同時に現れる巨大な鉄の輪。
それを大きく振りかぶると、フランに向かって投げ飛ばした。
だが相手は吸血鬼、何事も無くレーヴァテインで撃ち落とされる。
しかしその間に、諏訪子はフランの背後へと回り込んだ。

「『諏訪清水』!」

すかさず放つ吸血鬼の弱点、流水。
これはさすがのフランも回避せざるを得ない。
その隙に諏訪子は更に跳び上がる。

「『手長足長さま』!」

次いで放たれる四肢からの弾幕。
フランはレーヴァテインを回転させ、すべて弾き飛ばす。
だが諏訪子はすぐに木をばねにして跳び、次の攻撃を仕掛けた。

「でいやー!」

はっきり言って諏訪子には、フランを倒すだけの攻撃力はない。
確かに勝機はない、しかし引き分けに持ち込む事は出来る。
唯一の突破口、それは日の出までフランの相手をし続ける事だ。
吸血鬼である以上、日が昇れば引くしかない。
それまで攻撃し続け、兎に角フランに攻めさせないようにする。
今出来る生き残る術は他にはないのだ。

「………………」

だがそんな退屈な遊びで満足してくれる程、フランは出来た娘じゃない。
レーヴァテインをしまい、両腕を大きく開くフラン。
瞬間、辺り一帯に無数の弾幕が放出された。

「う、うぎゃー!」

慌てて跳び上がり、射程外に逃げる諏訪子。
しかしそこには、こっちを見て笑うフランの姿があった。

「しま…」
「『過去を刻む時計』」

フランの手の中で膨れ上がる魔力。
それは十字のレーザーを放ち始めると、勢いよく投げつけられた。
咄嗟に身を捻り、一つ目の攻撃をかわす諏訪子。
だが二つ目はそうもいかない。

「うぐあっ…!」

諏訪子の体は青白いレーザーに焼かれ、上下に真っ二つになってしまった。
血と内容物を撒き散らし、二つの体は地面に落ちて行く。
しかし此処でこの化け物を逃がしたら、早苗の身が危ない。
せめて道連れにと諏訪子は最期の攻撃を仕掛ける。

「『獄熱の間欠泉』!!」

諏訪子の声に応えるように、地面から噴き出す溶岩流。
地に落ちて行く諏訪子と対照的に、フラン目掛けて上って行く。
だがフランは口元を吊り上げ、膨大な魔力を溶岩流に向けた。

「『495年の波紋』!」

フランの手から放たれる巨大な波紋。
それは溶岩流にぶつかると、一瞬で吹き飛ばしてしまった。
最期の切り札が破られた事に、驚きを隠せない諏訪子。
その驚愕に染まった諏訪子の顔を、フランは地に落ちる前に掴んだ。

「~ッ!!」

そのままフランは諏訪子を地面に叩きつける。
衝撃で傷口から噴き出す血が、大地を紅く染め上げた。
しかしそれだけではフランの攻撃は終わらない。
フランは諏訪子を掴んだまま、低空飛行で飛び始めたのだ。
引き摺られるままに、地面を削り続ける諏訪子。
その跡には真っ赤な線が道標のように残っていた。
線が伸びていくと諏訪子の体も削れ、肉片が線の上に散らばっていく。
やがて遊びに飽きたのかフランは急に曲がると、諏訪子を近くの岩に叩きつけた。

「……………」

フランはそっと諏訪子から手を放す。
すると諏訪子の顔は、ぐちゃりと地面に落ちる。
その体はすでに原形を留めておらず、フランが掴んでいた顔だけが辛うじて残っているだけだった。

「………神様がこの程度? ……………つまんない」

動かない遊び相手に興味はない。
フランは溜め息を吐くと、夜の闇の中を飛んで行った。

神奈子チーム 洩矢 諏訪子
リタイア





もう諏訪子が帰って来る事はない。
そうとは知らずに、早苗は洞窟近辺で諏訪子を待ち続けていた。

「………寒い…」

崖のおかげで風は凌げると言っても、夜の冷え込みは身に堪える。
そこに心細さも加わって、早苗は縮こまり震えていた。
自身の能力を使えば、暖をとる事自体はさほど難しくない。
だが何処に敵がいるか分からない状態で、自分の位置を知らせるような行動は危険すぎる。
それが分からない程、早苗は愚かではなかった。

「……………」

そうは言っても、この寒さは辛い。
せめて何か熱源になる物は作れないだろうか。
そんな事を考えていると、突然背後から声をかけられた。

「こんな所にいたのねぇ。探したわよ、早苗」

自分の名前を呼ぶ声、しかしその声に早苗は聞き覚えがない。
味方じゃない、すぐに早苗は戦闘態勢を取った。
だがこの闇の中では少し離れているだけで闇と同化してしまい、声の主を見つける事は出来ない。
ならばと気配を探ろうとする早苗。
しかしその隙に、早苗の腕を何者かが掴んだ。

「えっ」
「ほら、捕まえた」

そのまま早苗は押し倒される。
ここまで近付けば分かる、声の主はパルスィだ。
何故彼女が此処にいるのかは分からない。
ただ今、自分が危機的状況にあるのは理解出来る。

「や、やめてください!」
「やめろと言われて、やめる奴なんていないわよねぇ」
「神様が……怖くないんですか!?」
「だったら最初から、こんな事しない」

徐々に迫って来るパルスィの緑の瞳。
死の恐怖から早苗は瞳を閉じる。
だがパルスィがとった行動は、早苗の予想外のものだった。

「っ!?」

突如、唇を重ねるパルスィ。
そのまま舌を早苗の口に入れ舐め回す。
何が何だか分からず混乱する早苗。
しかしそんな事は構わず、パルスィは舌を絡め合わせた。
やがてパルスィは、そっと唇を離す。
そして早苗に跨ったまま笑い、先程まで重ね合わせていた口を開いた。

「ねぇ、私達手を組みましょうよ」
「……て、手を……?」
「そう、二人ならこの戦い勝つ事だって出来るわ。私の嫉妬心を操る能力で殺し合わせ、貴方の奇跡で逃げ続ける。
 そのまま私達の敵がいなくなるまで続けて、最後の一人は2対1で襲って大勝利って訳よ。
 私は貴方だから、こんな事言ってるのよ? 貴方だから、唯一理解し合える姉妹だから手を組もうって言ってるの」
「姉妹……? 何を言って………ぁ…」

訳の分からない言葉に、早苗は反論しようとする。
だがパルスィは早苗の胸を掴み無理矢理黙らせると、更に話を続け始めた。

「地上の人間や妖怪は、私を下賎な妖怪と呼ぶわ。地底の妖怪は私に優しくしてくれるけど、同情されたいんじゃない。
 私が本当に欲しいのは貴方なのよ! 貴方が地底に訪ねて来た時からずっと思ってた! 貴方なら私の妹になれるって!
 あの二柱がいるから今までずっと何も出来なかった。でも! 今なら! この混乱の最中なら貴方を奪ってしまえる!
 私には貴方が必要なの! いえ、私だけじゃない。貴方の事を分かってあげられるのも私だけ」
「……えっ?」

パルスィの言葉に反応する早苗。
するとパルスィの瞳の輝きが、より一層深く強くなる。

「二柱がいる? 違う。あいつ等は優秀で清楚な風祝を求めているだけ。貴方の心の奥まで見ている訳じゃない。
 でも私には分かる。貴方の隠された嫉妬心が。幼い頃、周りの友達が自由に遊んでるのを見て羨ましいと思った。
 学生の時、虐められずに普通に暮らしてる周りの生徒が妬ましく思えた!
 幻想郷に来て! 唯一の誇りだった霊力で負けて! 博麗の巫女に敵対心を持った!
 私は貴方の内側を知ってる! 誰よりも貴方を分かってあげられる! もう自分を誤魔化さなくたっていい!
 何もかも受け入れるから! 貴方の汚い所も醜い所もすべて! だから………私の妹になりなさい。
 人間は脆すぎる。貴方を簡単に失いたくはない。私の所なら貴方は柵から解放され自由になれるわ。だから…」

そう言ってパルスィは、早苗に手を差し伸べた。
しかし早苗は、その手を受け取らない。
自分の見られたくなかった部分まで見てしまう、目の前の妖怪が恐ろしかったのだ。
少しづつ後退りして早苗はゆっくりと距離を取る。
そのままパルスィの手が届かない位置まで逃げると、荒い呼吸を整えて立ち上がる。

「い、嫌です………。私は! 神奈子様と諏訪子様の風祝です! 妖怪にはなりません!」

そして大声でそう叫ぶと、何処かへ走り去ってしまった。

「…………今のまま無理を続けたら貴方、最後には壊れてしまうわよ」





一方、勇儀は気まずい空気に堪えかね探索に出かけていた。
今のさとりは下手に刺激しない方がいい。
それより帰って来ない燐や空、そしてパルスィを探しに行った方が陣営の為になるだろう。
そう考え出て来たが、生憎手掛かりらしい手掛かりはない。
仕方なく気を感じた方に歩いているが、こんな状態で大丈夫なのかさすがに不安になってきたところだ。

「そろそろ誰かに会わないと、何処歩いてるかも分かりゃしないなぁ。…………ん?」

そこへ近付いて来る凄まじい魔力。
強敵の気配に勇儀も身構える。
徐々に見えて来る敵の正体、それは諏訪子を倒し先へ進んでいたフランだった。

「貴方は誰? 強いの?」
「随分単刀直入な質問だね。私は勇儀、強いよ。じゃあ今度はそっちが私の疑問に答えてもらおうか。
 ここらへんで猫か鴉か耳の尖った妖怪を見なかった? 私の友達なんだよ」
「見てない。そんな事より本当に強いの? 簡単に死んじゃうと面白くないんだよね」

すでにやる気全開のフラン。
勇儀もこれは相手をしない訳にはいくまいと、拳を地面に突き付け妖力を解き放った。

「悪いがお嬢ちゃん、私は不器用なんだ。くだらない小細工は抜きにして、力と力のぶつかり合いといこうじゃないか」
「いいよ。その方が退屈しないで済むし」
「鬼の気迫にビビらないか。気に入った! 駄目になるまで相手してやるよ!」

そう言うと勇儀は突き付けていた拳を振り上げる。
そして勢いよくフランに向かって振りかざした。

「『大江山颪』!」

途端に拳から放たれる、無数の弾幕の嵐。
フランを呑み込んでしまう程の、大量の弾幕が迫ってくる。
だがフランは全く動じず、手に魔力を集め始めた。

「『スターボウブレイク』!」

魔力は七色に光る弾となり、空に向かって一気に放出される。
すると空中で爆ぜ、七色の雨になって勇儀の弾幕に降り注いだ。
お互いに高密度の弾幕同士のぶつかり合い。
衝突の瞬間、凄まじいエネルギーが炸裂する。
地面は砕け木は吹き飛び、断崖は音を立てて崩れ出す。
その衝撃はフランの翼にひびを入れ、勇儀の腕枷を砕く程だった。

「くっ……やるね! まさか本当に真正面から受け止めるとは思わなかったよ」
「じゃあ今度は私から行くよ。『恋の迷路』!」

次いで放たれるは、一ヶ所だけ穴の開いた輪っかの弾幕。
それを見ると勇儀は、にっと笑って腕を振り上げた。

「鬼を試そうってか! いい度胸だ! 勿論、真正面から挑ませてもらおう!『咎人の外さぬ枷』!」

そのまま振り下ろされた拳は地面を殴り、衝撃で大地がぐらぐらと揺れる。
同時に勇儀の妖力がリング状に固まり、フランの弾幕目掛けて向かっていった。
そして再び起こる弾幕同士の大激突。
最早、度重なる衝撃に周囲の地形は完全に様変わりしていた。

「いいねいいねぇ! これこそ力と力のぶつかり合いだ! 態々参加した甲斐があったよ!
 でも祭りは必ず終わるもんだ! さぁ、そろそろフィナーレと行こうじゃないか!」

そう言うと勇儀の拳に、未だかつてない程の妖力が集まっていく。
恐らくこれが最後の一撃、勇儀の意思を汲み取ったフランはレーヴァテインを取り出した。
お互いに拳と剣に力を注ぎ込む二人。
やがてその力は、明らかに規格外のものへと膨らんでいく。
徐々に紅く染まるレーヴァテイン。
一方で勇儀は大きく左足を踏み出した。

「一歩!」

その衝撃は、まるで巨大な怪物が歩き出したかのよう。
更に今度は右足を前に出す。

「二歩おぉ!」

ここでレーヴァテインは完全に紅く染まり、その膨大な魔力を噴き出し始める。
そこへ勇儀が左足を踏み込み、フラン目掛けて大きく拳を振りかぶった。

「『三歩必殺』!!」
「『レーヴァテイン』!!」

勢いよく振り下ろされた拳。
それに応えるように、フランもレーヴァテインを振り上げる。
そしてぶつかる二つの力。
今までで一番凄まじい衝撃が、辺り一帯を襲った。
放たれた強烈な閃光は、夜闇を昼のように照らし出す。
巻き起こる衝撃波は、土も木も水も跡方もなく吹き飛ばした。
強大な一撃同士の衝突。
それはやがて術者同士の限界も越えていく。

「!!」

最初に異変が起きたのはレーヴァテイン。
ぴしりという音を立てて、ひびが入る。

「もらったああああぁぁぁぁぁ!!」

途端に一気に勢いづく勇儀。
その拳はどんどんフランの顔に迫っていく。
しかし勇儀にも限界がない訳ではない。

「うぐっ!?」

勇儀の右腕に起こる出血。
それも一ヶ所や二ヶ所ではなく、至る所から噴き出し始める。
今が押し切るチャンスだ。
そう判断し、フランはひびの入ったレーヴァテインを一気に振り上げた。

「行っけえええぇぇぇぇぇ!!」

ひびはどんどん広がり、レーヴァテインは崩壊を始める。
だがフランは躊躇せずに力を加えていった。
そしてフランの体は、突如夜空に舞い上がる。
その瞬間、手にあったレーヴァテインは完全に砕け散ってしまった。

「!!」

慌てて戦いの結果を見る為にフランは振り返る。
そこには微動だにせず立ち尽くす勇儀の姿があった。
負けたのかと落胆するフラン。
しかしよく見ると勇儀の右肩周辺は、ごっそりとなくなっていた。

「まさか私が負けるとはね……。でも正々堂々戦って死ぬんだ。悔いは……ない………よ…………」

そう言い残し、勇儀はその場に崩れ落ちる。
フランは地面に降り立つと、勇儀の方を一度だけ見てまた飛び立って行った。

「楽しかったよ、鬼のお姉さん」

さとりチーム 星熊 勇儀
リタイア





フランがあちこちで戦闘を繰り広げているその頃、レミリアの陣地にはあやしげな影が近付きつつあった。

「此処があの吸血鬼の根城ね! 遂に辿り着いたわ!」

影の正体、天子は摩天楼を前に意気込んでいる。
あれから大分時間が経ってしまったが、どうにかこうして目的地に辿り着く事が出来たのだ。
それまでには辛く長く険しい道のりがあった。
途中何故かいたライオンに襲われ、2対1の戦いを強いられたりもした。
だが時間がないので、そこらへんは省略しよう。
兎に角長い道のりを経て、ようやく此処までやって来たという訳だ。

「さぁ、覚悟しなさい! 吸血…」
「ちょっと待ったー!」

しかし出鼻を挫かれてしまう天子。
何事かと不満そうに声のする方を見ると、そこには美鈴が待ち構えていた。

「此処から先は紅魔館のテリトリーよ! どうしても通りたいのなら、私を倒していきなさい!」

どうも吸血鬼討伐までの道のりは、まだまだ続くようだ。
小さく溜め息を吐いて、武器を手に取る天子。
ところがここで思わぬ出来事が起こる。

「下がれ美鈴、こいつは私が殺る」
「お、お嬢様……」

なんと吸血鬼自ら、何処からともなく姿を現したのだ。
これには手間が省けたと、内心喜ぶ天子。
だがそんな考えは表情には出さず、毅然とした態度で話を切り出した。

「貴方が吸血鬼の………レミ…えっと…」
「レミリアよ」
「……別に名前はどうだっていいのよ! 兎に角貴方には此処で消えてもらうわ。これも運命だったと諦めなさい」
「ふん、仇討ちって訳ね。いいわ、望むところよ」
「えっ?」
「…………何も知らずに来たの。もっとも今更知ったところで何も変わらないでしょうけど」

そう言うとレミリアは翼を大きく広げ、天子を威圧してくる。

「何が言いたいのか知らないけど、あんたも緋想の剣の餌食にしてくれるわ!」

しかし天子は怯む事無く、レミリアに向かっていった。

「喰らいなさい! 必殺、天ど…」
「遅い!」
「ぐえっ!」

ところが天子の攻撃は、高速で繰り出されたレミリアの蹴りに阻まれてしまう。
だがそこは天人、傷一つなく起き上がる。

「ふっふっふ、そんな攻撃じゃ私は倒せないわよ」

するとレミリアは、呆れた様子で溜め息を吐いた。

「こいつは時間だけは、かかりそうね」

そう言って爪を立て、天子に向かって行くレミリア。
その後ろで待機している美鈴は、突然感じた気配に振り返った。

「何も………ってあれ?」

ところがそこには誰もいない。
近くにもそれらしき妖怪は、いないようだ。
レミリアも反応していないし、もしかしたら気のせいだったのかもしれない。
そう考え、美鈴は特に何もしなかった。
まさかレミリアには気付けない相手とは夢にも思わずに。


  • 諏訪子… -- 名無しさん (2011-03-20 07:55:46)
  • パルスィと早苗がまさかの地獄兄弟だった件www -- 名無しさん (2011-03-21 10:33:31)
  • 俺的には諏訪子が死んだと勘違いした神奈子が暴れる姿を見たい。 -- 名無しさん (2011-06-12 21:11:53)
  • 紅魔無双の予感! -- 名無しさん (2012-05-26 19:02:05)
  • パルちゃん…、私が妹になるよ -- 名無しさん (2015-12-30 10:56:54)
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