ああ、救世主様。私の救世主様。
私の為に花を摘んでくださる救世主様。
私の為に花冠を作ってくださる救世主様。
疲れた私を抱きかかえてくださる救世主様。
はぁ、まるで天国みたい……。
……いいえ、これは必然。
私と救世主様が結ばれる事は、前世から決められた運命なの。
それを邪魔する事は、誰にも出来ない。
たとえ暗黒神の配下が襲って来ても、私達の愛の力で乗り切ってみせるわ!

「!!」

あら? 救世主様、どうしたの?
急に怖い顔して………!!
何かが凄いスピードでこっちに来る!
この妖気………もしかして…!

「見つけたわよー! 麓でウロウロする侵入者!」
「違います。山には入ってないので、侵入者ではなく不審者です」

天狗、それも二人!
片方は鴉天狗の射命丸 文、もう片方は白狼天狗の犬走 椛ね。
二人とも天狗の中でも相当な実力者よ。
一体、何の用かしら。

「デート中に訪問とは感心しないね。用があるなら後でにしてもらえないかな」
「そうもいかないわ。貴方は危険な妖怪として調査命令が出ている。逃がしはしないわ」

調査命令……まさか山がすでに暗黒神の配下に乗っ取られてるって事なの!?
……これは一大事よ。
妖怪の山は幻想郷有数の大組織、それが敵の手に堕ちたとなれば……。

「雛、下がって。こいつらは悪の手先だ」
「ええ、分かってる」
「……来い! 僕が相手だ! 雛には指一本触れさせない!」

なんて勇ましいの、救世主様。
大丈夫、救世主様が負けるなんてありえない。
だって救世主様はすべての悪を斬り捨てる、この世の救世主なんだから!
私は信じて待てばいいの。
救世主様の一点の穢れもない完璧な勝利を。

「ふふふ、元より私達の狙いは貴方一人よ! 覚悟しなさい!」
「……そうやってすぐ出しゃばる。だから文様と組むのは嫌なんですよ」

く、来る!
もの凄いスピードよ!
さすがは鴉天狗、動きが違うわ。
救世主様にかわせるかしら…。
いいえ、信じるのよ。
救世主様なら必ず勝ってくれる!
私達の愛の力は無限大なのよ!

「私のスピードに追い付けるものか!」
「雛が信じてくれてる。それなのに僕が負ける訳にはいかないだろ!!」
「ぐあああああ!!」

や、やった!
文の動きを読んで、逆に斬り付けたわ!
………え。
でも……血がいっぱい流れて……。
………文が…………死んじゃう。

「そん…な…………幻想郷最速と云われた……この…私が…………」

ああ……文が…文が死んじゃった……。
こんな、こんな筈じゃ……。
私は救世主様に負けてほしくなかっただけで、そんな殺すなんて……。
!! う、後ろに椛が!

「救世主様、後ろ!!」
「!? ……ぐっ!」

ああ! 救世主様が!
そんな……救世主様が負けるなんて……。
…………嘘よ。救世主様が、こんな簡単に死ぬ筈ないわ。
だってやっと出会えたのに……またお別れなんて……。

「嫌あああああああぁぁ!! 救世主様死なないでええぇぇ!!」
「無駄ですよ。確実に急所を狙いました。もう死んでます」
「嘘よ! 私の救世主様が死ぬ筈ないわ!」
「………勝手にしてください」

どうしよう………血が止まらない……。
私は……何をすればいいの?
どうしたら救世主様を助けられるの?
………そうよ、救世主様には神の御加護がある筈よ。
救国の為、悪と戦い続ける為の大いなる御加護が。
そんな救世主様を神々が見捨てる筈がないわ。
お願い、悪を滅する正義の神々よ。
どうか救世主様に、もう一度悪に立ち向かう力を……。
……………………!!
な、何か私の体から光が……。
………ああ、私の光が救世主様の中に入っていく。
……………救世主……様?

「……………………雛…」
「!! 救世主様!」
「なっ! そんな筈が!」
「……どうやら雛の愛が奇跡を起こしてくれたようだ」
「そんな奇跡って……………やはりお前は…」
「ありがとう雛、君が僕を想う気持ちが強かったおかげだ」
「救世主様……」

やっぱり救世主様は負けたりしないわ。
どんな悪にも私と救世主様の力が合わされば勝てるの。
二人の絆は無敵、誰にも引き裂けない。
私達の愛に勝るものは何もないのよ!

「…………………」
「まだやる気かい? 君達の目的は調査だったと思うけど」
「やりますよ。文様を殺した相手を生かす理由はありません」
「そうか」

大丈夫よ。さっきは不意打ちだっただけ。
正面から戦えば救世主様が負ける筈ないわ。
信じるのよ。救世主様の勝利を。
………でも…椛も殺してしまうの?
確かに天狗組織は暗黒神の配下に乗っ取られてるかもしれない。
だからといって皆、殺さなくちゃいけないの?
救世主様は正義感が強いから、悪は許しておけないのでしょう。
でも………私にとっては……ずっと近くにいた……。

「!!」
「…………………」

…………………勝った。
救世主様が勝ったわ。
でも椛は生きてる。
救世主様が斬ったのは、椛の右腕だけだから。

「……やって…くれましたね」
「僕は負ける訳にはいかない。雛が傍にいるからね」
「…………いいのですか? 殺さなくて。私はお前の正体を知った。私を帰せば不利益になりますよ」
「……雛の辛そうな顔は見たくない」
「………立派な救世主様ですね。腕を斬れば無力だとでも思いましたか。天狗をなめるなよ。
 次会う時は必ず殺してやる。お前のその低劣な舞台、いつか私の牙でぶち壊してやりますよ」

………ああ、行ってしまった。
あんな大怪我して大丈夫なのかしら。
でも救世主様が私の想いを察して、椛を殺さないでくれたわ。
これも二人の絆の力かしら。
救世主様は私の事、なんでも分かるのね。

「ごめんね、雛。怖い思いをさせてしまった」
「いいの。悪と戦う事は救世主様の使命だから」
「雛は優しいんだね」
「救世主様こそ」
「愛してるよ」
「私もよ」

辛い戦いの後、お互いの愛を確かめ合う二人。
こんな日が来る事を、今までどれだけ待ち望んだかしら。
救世主様は私の願いを、何でも叶えてくれるわ。
きっとあの日、救世主様は私を救い出す為だけに暗黒神の城にやって来てくれたのね。













今日は救世主様は悪と戦う為にお出掛け中。
私はにとりに呼ばれて、滝壺の近くに行く所よ。
未だに、にとりが暗黒神の配下の手先かどうかは分からない。
でも私はにとりは敵じゃないと思うわ。
だって私を狙ってるなら、いつでも襲えた筈だもの。
それなのに、にとりはずっと私と話しをするだけだった。
きっとにとりは暗黒神とは関係ないのよ!
そうよ! そうに決まってるわ!
にとりが敵の筈がない。
救世主様もちゃんと分かってくれるわ。
そしたら改めて紹介しましょう。
私の親友と愛する方を。

「にとり~」
「………雛…」

最近にとりの様子がおかしいのも、救世主様の事を理解しきれてないからよ。
それもそうよね。
いつも話してはいたけど、直接会うのは初めてだもの。
でも時間をかけてじっくり話しあえば大丈夫よ。
だって二人とも私の大切な方だから。

「実はにとり、貴方に話したい事が…」
「雛、ごめん!」

え?
なんで?
頭にガツンって何か。
意識が…遠く……。
そんな……。
どうして……にと…り……。













…………うぅ……。
……此処は…………神社?
ああ、私縛られてる。
どうしてこんな………なんでなの、にとり…。

「気がついたようだね」

貴方は八坂 神奈子様……。
かつては国を次々と侵略し恐れられていた貴方が、悪の手先に落ちぶれるなんて。
暗黒神の支配は想像以上に広がっていたのね。
油断したわ……。

「早く来な、にとり」
「………雛…」
「……どうしてよ……」
「…………………」
「貴方は私の味方じゃなかったの!? 騙したのね!? にとりは……にとりだけは味方でいてくれると思ったのに!」
「………強引に連れ出した事は悪いと思ってる。でも私は今も雛の味方のつもりだよ」
「じゃあどうして!」
「……………雛、落ち着いて聞いてほしい」

な、何よ。改まっちゃって。
何を言われたって、私は屈しないわよ。
私と救世主様の絆は無敵なんだから。

「……いないんだよ」
「…………………え? 何が?」
「救世主だよ! あれは! 雛の妄想なんだよ!」
「…………………………はい?」

何を………言ってるの?
救世主様がいない?
おかしな事、言わないで。
だって、いるじゃない。
実際に、ずっと傍に。

「最近、奇妙な妖怪が幻想郷に入り込んで来たんだ。それも外界からじゃない。幻想郷内の別の空間からさ。
 その妖怪は変な能力を持っていてねぇ、誰かの誰かに会いたいという気持ちを感じて擬似餌を作るんだ。
 擬似餌は会いたいと思ってる獲物の、会いたい相手へのイメージに忠実に作られる。
 その能力は獲物の想いの力に比例して、より強く精密な擬似餌を作るんだ。
 だから現実には存在しない生物でも、獲物が強く会いたいと思えば擬似餌は作られる。
 そして擬似餌をその獲物に接触させて親しくなるんだ。その後は獲物を自分の巣穴に引き寄せるのさ。
 その妖怪は獲物の願いを喰う。つまり……………取り込むんだ。永遠に擬似餌と戯れ食料を作り続ける家畜として」

……………何?
何の話?
理解出来ない。
にとりが何を話してるのか分からない。

「………雛、救世主ってのは前世で知り合ったんでしょ? じゃあなんで前世と同じ姿なのさ。
 おかしいじゃないか。生まれ変わったら見た目も変わる筈でしょ?」

そ、それは……。
でも
そんなの。

「それに性格だってそうさ。救世主って世界を救う者じゃないか。なんで雛をずっと捜してるの。
 それじゃあ雛の理想の救世主であって、世界を救う為に戦う救世主じゃないだろう」

あああ…。
違う。
嘘よ。
出鱈目よ。
何もかもでっち上げよ。
私の救世主様がそんな……そんな………
ありえない。

「雛、救世主なんていない。あれは雛の願望を形にしただけの擬似餌なんだ」
「嘘よ!!」
「………雛……」
「そうよ! あんた暗黒神の手先じゃない! 私達の絆を裂こうって魂胆ね! 騙されないんだから!」
「はです…? あんた何言ってるんだい」
「……雛、辛いかもしれないけど現実を見なきゃ。雛は厄神なんだ。暗黒女神じゃない」
「五月蝿い! 五月蝿い五月蝿い五月蝿あぁぁい! 救世主様は無敵なのよ! 最強なのよ!
 あんた達、悪党が何人来ようが負けたりしない! 私と救世主様は深い愛情で結ばれてるのよぉ!!」
「ダメだ雛! 願っちゃいけない! 奴は願いを喰うんだ! このままじゃ雛の心が喰い尽くされてしまう!」

そうよ。
全部、私を誑かす為の嘘なのよ。
救世主様はいる。
私を助けてくれる。
助けを呼べば、いつでも駆けつけてくれる。
……ほら。
やっぱり来てくれた。

「雛、無事かい? ごめんね、すぐに助けに来れなくて」
「大丈夫。来てくれるって信じてたから」
「あんたが文を殺った奴かい! 覚悟しな! 叩き潰してやる!」
「…………無駄だよ。雛がいる限り、擬似餌をどんなに叩いても意味がない。何処かに隠れてる本体を潰さないと」
「……くっ!」

見なさいよ。
何も出来やしない。
救世主様には誰も敵わないわ。
私達の愛に不可能はないのだから。

「だからって……だからってこのまま帰す訳にはいかないだろうがぁぁ!!」
「……やるのか。雛、下がって」
「ええ」

それは相手が神だって同じ事。
救世主様は暗黒神を倒したのよ?
こんな奴に負けたりしない。

「うぐっ!」
「急所は外しておいた。君の為じゃない、雛を悲しませたくないからさ」

私達は無敵なのよ。
誰にも恋路を邪魔する事なんて出来ない。させない。
二人の前に立ち塞がる者は、すべて薙ぎ倒される運命な………。

「………にとり…」
「行かせない!」
「離して」
「嫌だ! 今行かせたら、もう雛を助けられない!」

助ける?
馬鹿言わないで。
私を救えるのは救世主様だけよ。

「離して」
「ダメだよ雛! あいつに取り込まれたら、一生食料を与え続けるだけになっちゃう! お願いだよ……行かないでよ…」
「……………………………………」

分かってる。
本当は分かってるわよ。
にとりが言ってる事が嘘じゃない事も。
救世主様が偽物だって事も。
でも、もう耐えられないのよ。
人間の為に頑張って
でも人間には避けられて。
ずっと厄神なんて辞めたいと思ってたわ。
もっと誰かに好かれる存在になりたかった。
だから抱いたのよ。
私を愛してくれる存在を。
私の救世主様を。
今までは、ただの夢だった。
でも今は違う。
手が届く位置にいるの。
今、救世主様は存在してるのよ。
確かに偽物かもしれない。
でも私の理想通りの救世主様がいるのよ?
偽物って何?
私を幸せにしてくれるなら、もう本物の『私の救世主様』じゃない。
にとりが言ってる事は分かってるつもりよ。
こんなものは紛い物の幸福。
でも縋りたい。
紛い物でも救世主様は確かに此処にいるの。
叶わない筈の夢が、すぐ傍で手を差し伸べているのよ。
………にとり。
お願いだから行かせて。
身勝手だって思われても構わない。
もう厄神なんて嫌なの。
私の一生でいいなら差し上げる。
家畜でも何でもいいから『私の救世主様』と一緒にいさせて。
理解出来ないなら無理にしなくていい。
だからただ黙って行かせて。
これが
これだけが私が幸せになれる道なのよ。

「………雛…」
「さようなら、にとり」
「………やだよ。行かないでよ、雛ああああぁぁぁ!!」



































ああ、救世主様救世主様救世主様救世主様救世主様救世主様メしアサまアアああぁァぁァァ!!
私だケノめしアサま!! カっコよクて優しイ大好キナめシアさマあァァ!!
モう体トか、ガーでぃアンと一つにナッちゃッテ自由に動ケなクナっタけド
めシアさマがイれバ私、ソれだケデ幸セよ!!
コンな体ニなッテカらも献身的に看テくレルし
本当にメシあさマハ素敵ナお方!!
こレ以上ノ幸せナンて、何処ヲ探しテモ見ツカらなイワ!!
コレかラモ、ずット二人デ幸せに暮ラしマしょウね!!
フふフ、アハははハはハハはハ!!


  • あーあ -- 名無しさん (2010-11-08 14:08:07)
  • 蟹が本体だったのか
    本人が幸せならそれでいいのかなあ -- 名無しさん (2010-11-09 01:29:01)
  • 見てて悲惨 -- 名無しさん (2011-05-10 09:35:21)
  • なんか最後見てゾクッとした -- 名無しさん (2015-12-02 01:13:09)
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