36

「行っけええぇぇ!」

吊るされた鎖に巻き付くさとり目掛けて、くるみの弾幕が炸裂する。
だがさとりは宣言通り、弾幕が飛んで来る前に別の鎖に渡ってかわす。
まさにくるみの心を読み、被弾位置を先に知っているからこそ出来るかわし方だ。

「ようやく分かってくれたみたいね。私を撃ち落とす事は出来ないって」
「!! そんな筈ないでしょ!」
「心にも思ってない事を喋るのね。本当は心の中は不安と動揺で満たされているというのに。
 諦めなさい、貴方に勝ち目はないわ。私には隠し事は一切出来ないのだから」
「ぐっ…!」

悔しいがさとりの言う通り、くるみにも自分の心が読まれている事が薄々分かる。
だからこそ虚勢を張り、絶望しないよう自身を奮い立たせているのだ。

「そんな強がり、いつまでも続くものじゃない。本当は分かっているでしょう?」
「五月蠅い!」

必死に弾幕を張って、さとりの言葉を聞かないようにするくるみ。
そこへ鎌がくるくる回って通り過ぎ、さとりを狙って飛んで行った。

「無意識のつもり? 軌道が完全に頭に浮かんでるわよ?」

しかしこれもあっさりかわされる。
やがて戻って来る鎌を追ってくるみが振り返ると、そこには回復したエリーが立っていた。

「もう大丈夫なの?」
「ええ。それよりくるみ、一つ作戦があるわ」
「作戦って言ったって心を読まれたら意味が………へ?」
「それじゃあ頼んだわよ!」
「え? ちょっとどういう事!?」

そのままエリーは水面ギリギリまで近付くと、大きく鎌を振り上げさとりを威嚇する。
するとさとりは訝しげな表情で、エリーを睨みつけた。

「『くるみがなんとかしてくれる』ねぇ。無意識で戦い、後始末は仲間に任せるつもり?」
「言い方は悪いけど、そうなるわね」
「………ほお、何かが起こる事を期待している。でもそれが何かまでは分かっていない、と」
「いつまでも考え込んでると、危ないわよ!」

そう言ってエリーは鎌を投げつける。
だがやはり簡単にかわされ、鎌は何を斬る訳でもなく宙を舞う。
そのまま手元に戻って来ると、再びエリーは鎌を投げつけた。

「……そういえば吸血鬼の子がいないわね。彼女が何かしてくれるのを待ってる、そういう事?」
「どうかしらねぇ!」
「………なるほど。私の能力の及ばない位置で何か企んでる、そういう事」

更に次々と飛んだ来る鎌を、華麗にかわし続けるさとり。
そこへ突然、棘の付いたローラーが飛んで来た。

「……ッ!!」

間一髪のところで、さとりは鎖を移動しかわす。
そしてすぐに別のローラーの射出口を睨みつける。
するとさとりの読み通り、射出口が開いてローラーが飛び出して来た。

「上にいる子が装置を動かして私を倒す、貴方は囮って訳ね。よく出来た作戦だけど装置を知ってる私には効か……」

そう言ってさとりは近くの鎖に触手を伸ばす。
しかし触手は鎖を掴む事無く、さとりの体を離れて落ちて行った。

「………あら?」

見れば八本あったうち、五本の触手が斬り落とされている。
慌てて他の触手で鎖を掴もうとするさとりだったが、間に合わず水に落ち沈んで行った。

「さて、囮はどっちだったのかしらねぇ」

戻って来た鎌を掴むと、エリーは階段を昇っていく。
すると一階層上で、くるみは呆れ顔で壁に寄り掛かっていた。

「おかげで助かったわ!」
「まったく……いきなりなんとかしろって無茶苦茶にも程があるわよ」
「くるみなら、なんとかしてくれるって信じてたもの」
「………使えそうな装置が見つからなかったら、あいつがバテるまで戦い続けるって戦術も考えてたんだけど」
「……それは勘弁してください」

苦笑いを浮かべながらも、手にした勝利を噛み締めるエリー。
ところが突然階下から伸びた触手が、くるみに絡め取いて来た。

「え、エリー! なんかこれ……おか…し……い…」
「くるみ!」

触手に絡み取られたくるみの瞳は、徐々に光を失い淀んでいく。
どうやらあの触手には、何やら危険な能力があるようだ。
このままではくるみの身が危ないと、触手を斬り落として助け出すエリー。
ところが触手はすぐに再生を始め、くるみを置いて逃げ帰ってしまった。
慌ててエリーは階段を降り、くるみを攫おうとした触手を追い掛けていく。

「ふふふ、まさかあれで終わりなんて思ってないわよねぇ?」

するとそこにいたのは、姿が変化したさとりだった。
八本の触手はより太く長くなり、さとり自身よりもよっぽど大きくなっている。
宙に浮いていた第三の目は、さとりの体に寄生虫のように取り付き侵蝕し巨大化していた。
更に背中にはボロボロの蝙蝠の羽が生え、不気味さがより増している。
その姿は最早さとりより、第三の目を中心とした蛸のような触手が本体のようだった。
しかも当のさとりは嬉しそうに、エリーの姿を見降ろしている。

「私、貴方にやられた時からおかしいのよ。体が火照ってどうしようもないの。これは貴方の仕業?
 ………そう、違うの。でも構わないわ。今の私は貴方を痛めつけて、惨めな悲鳴を聞きたくて仕方がないの!
 私をあそこまで弄んだのよ? 当然、責任とってもらうわ!」

そう言って、さとりはエリー目掛けて触手を伸ばし襲いかかって来た。

「…………なんかもの凄く気持ち悪い事、言われた気がする…」

※サイコロを二回振り、出た数くるみのMGを減らす。






37

「幽香ちゃんをあんな目に遭わせておいて、ただで済むとでも思ってるの?」

エリーは向かって来る蓮子に躊躇なく鎌を投げつける。

「なっ!」

両腕を使い鎌を防ぐ蓮子。
だが鎌は床に落ちずに再び向かって来る。
弾かれた鎌をエリーが左手で掴み、斬りかかって来たのだ。
しかしこれも蓮子は防ぎきる。

「何回やっても同じこ………ああっ!」

エリーの二撃目も防ぎきった蓮子。
だが防いで初めて己の失敗に気付く。
エリーは落下中の鎌を掴み、そのまま蓮子を狙った。
結果として二撃目は下から打ち上げるように飛んで来る。
それを防いだ蓮子の腕は勢いに押され、頭の上まで弾かれてしまった。
そうなると残ったのは無防備な蓮子の胴体と、エリーの右腕。
その右腕は蔦が絡みつき、巨大な拳となっている。

「幽香ちゃんの苦しみ、思い知れええぇぇぇぇ!!」
「おぐぅっ!?」

綺麗に蓮子の腹に決まったエリー渾身の一撃。
そのまま蓮子の体は放物線を描いて宙を舞い勢いよく棚にぶつかると、飛び出した書物に隠れて見えなくなった。

「…………」

警戒するエリーだが、蓮子が起き上って来る様子はない。
どうやら棚にぶつかった衝撃で気を失ったようだ。
同時に部屋に広がっていた電磁波も治まる。
するとくるみがふらつきながらも立ち上がって、エリーの傍へとやって来た。

「大丈夫? 無理しない方がいいんじゃない?」
「…大丈夫………あ、エリーこれ」

くるみはそう言って手に持っていたノートを渡す。
エリーが開いてみると、そこには明らかにページを破り捨てた跡があった。

「……去年の夏頃から先がなくなってるわ」
「そう、丁度幽香ちゃんがいなくなった頃よ」
「………幽香ちゃん………」

エリーの脳裏によぎるのは、異形と化し襲って来た幽香の姿。
二人の事は覚えていたようだが、最早ただの獣に近い状態だった。
変わり果てた主人を思い出し、目に涙を浮かべるエリー。

「どうして……こんな事に……」
「それを知る為にも私達は進まなくちゃ」

くるみの言葉にエリーは若干落ち着きを取り戻したようだ。
やがて二人は他に誰もいないか確認すると、換気口の中へと入っていった。

※『雷符』を取得






38

エリーとくるみは青いパトランプの光る換気口を進んで行く。
やがて換気口が何かの部屋へと繋がっている部分まで辿り着いた。
辺りを警戒しながら蓋を開け、部屋の中に入る二人。
するとそこには、冷え切った巨大な霊安室が広がっていた。
部屋は一つで広く壁一面にロッカーのようなものがあり、恐らく大量の死体を保管する必要があったと考えられる。
一方で部屋の中心には魔法陣のようなものもあって、何かの儀式を行っていたとも思われた。

「………さすがに此処には何もないわよね、戻りましょう」
「……待って」

帰ろうとするエリーを引き止めるくるみ。
そのまま一つのロッカーの前までやって来ると、エリーの方を無言で見た。

「……何よ、墓暴きは番人の職に反するんだけど」

くるみはエリーの言葉に、ロッカーを指差して応える。
そこには『風見 幽香』と書かれたプレートが取り付けられていた。

「………えっ」
「…開けるわよ」

そう言ってくるみは勢いよくロッカーを開く。
そして台を引き出すと、そこには透明な袋に入れられた白い腕が置いてあった。

「…………これって」
「まさか………うっ!」

突然エリーは口を押さえて、床に手をつき震え出す。
その様子を、くるみは辛そうな目で見ていた。

「…………」
「……………」

部屋の中を暫くの間、静寂が包み込む。

「……あの、見てしまったんですね」

すると、いつの間にかすぐ傍にいた妖怪が口を開いた。

「ッ!!」
「!!」

慌てて妖怪から離れ、戦闘態勢を取る二人。
その妖怪は鱗に覆われた腕を持ち、真っ赤に腫れ上がった目でこちらじっと見ている。
更にスカートから白い蛇の尾を伸ばしており、まるでラミアのような姿をしていた。

「何こいつ……全く気配がなかった…」
「……気をつけてエリー、そいつの気配はとても微弱にしか感じられないわ。気配を消す能力を持っているみたい」

気配を追えない相手と知り、二人はより警戒を強める。
ところがその妖怪は襲って来るどころか、こちらの視線に怯えて竦んでしまった。

「ま、待ってください! 私は東風谷 早苗、私達は争いを望んでいる訳ではありません」
「………幽香ちゃんを何処へやったの? 返答次第じゃ見逃してあげても構わないわ」
「…………そうですか、貴方達は……」

そう言うと早苗は先程までとは打って変わって、毅然とした表情で二人の方を向く。

「帰ってください。そうする事を幽香さんも望んで…」

しかしエリーは鎌を投げ、早苗の頬を掠めて傷つけた。

「返答次第じゃって言ったわよね? 生憎私は人間が嫌いでね、貴方のその人間臭い態度が気にいらないのよ」
「……あ……ぁぁ………嫌……嫌ぁ…」

途端に泣き出し冷静さを失う早苗。
所詮はこんなものか、とエリーが蔑んでいると突然早苗の尾がエリーに向かって振り下ろされた。

「なっ……こいつ!」
「嫌あああぁぁ! 助けて神奈子様ぁ! 諏訪子様ぁ!」

跳んでかわしたエリーに全く反応せず、早苗は錯乱したまま襲いかかって来る。
エリーは心の中で舌打ちすると、鎌を手に取り身構えた。

※サイコロを一回振り、出た数エリーのMGを減らし
 サイコロを一回振り、出た数くるみのMGを減らす。






39

エリーは触手を斬り落とすと、一気に逆方向に走り出す。

「ちょっと! なんで逃げるのよ! やるだけやっといてズルいわ!」
「心が読めるなら分かってるでしょ! 今の貴方、なんか気持ち悪いのよ!」

そのままくるみを抱え、どんどん階段を昇っていくエリー。
その後ろを、さとりの触手がぬるぬると追い掛けて来た。

「ふふふ、今の貴方は私を恐れている。得体の知れない触手、訳の分からない言動。
 全てが貴方を追い詰め、震え上がらせる。ふふふ、あっははは! いいわ、ゾクゾクする!」
「………いい加減に、しろっ!」

迫り来る触手をエリーは次々と斬り落としていく。
だが斬った傍から再生する触手には、あまり効果がない。
必死に逃げるエリー、その前に換気口のあった階層が見えて来る。
あと少しで逃げ切れる。そう思った瞬間、触手の一本がエリーの脚に絡み付き引き倒した。
同時に頭の中に、さとりの声が響き渡る。

『貴方のトラウマ、見せてあげる』
「なっ…………ひっ! 何!? 何なの!?」

すると突然、異様な光景が広がっていく。
そこは暗い遺跡の中、見覚えのある景色だ。
そこへ後ろから、屈強な男達が追い掛けて来る。
男達の目的はエリーの持つ財宝の鍵だ。
だがこれを捨てる事は出来ない。
何故ならエリーは財宝を守る妖怪だから。
そうこうしてるうちに行き止まりへと追い込まれるエリー。
そして男達は剣や槍を構えると…

「嫌ああああああぁぁぁぁぁ!! 助けて! 助けてよぉ!」

頭を抱え、泣き叫び出すエリー。
その姿をさとりは、恍惚とした表情で眺めていた。

「そう、これよ! これが見たかったのよ! さぁ、もっと泣き喚いて! 私を興奮させて!」
「………黙れ、変態」

刹那、炸裂した斬撃がさとりの触手を細切れにする。
何事かと振り返ったさとりの視線の先にいたのは、復活したくるみだった。
くるみは蹲るエリーの手を掴むと必死に呼び掛ける。

「落ち着いてエリー。私達は幽香ちゃんを助けに来たんじゃない。そんな幻に負けちゃダメよ」
「…嫌……助けて………見捨てないで、ご主人様……」

しかしエリーは錯乱していて、くるみの声も届いていない。
その隙にさとりの触手がくるみに巻き付いていき、その意識を奪っていった。

「………………うぅ……」

それから暫くして、エリーはようやく正気に戻る。
しかし最早、何もかも手遅れだった。

「やっと起きたのね、待ちかねたわ」
「!!」

目の前に現れたさとりに、慌てて戦闘態勢を取ろうとするエリー。
ところがその体は台に固定され、全く身動き出来ない。

「な、何を……」
「貴方に見せたいものがあるの」

そう言ってさとりが出した触手に掴まれていたのは、苦しそうにもがくくるみだった。
見れば触手が首に巻き付き、締め上げているではないか。

「………ッ!! …………!」
「何をする気!? くるみを放して!」

すると、さとりは不気味な笑みを浮かべてエリーを見た。

「………そう、そうやったら貴方は苦しんでくれるのね」
「ッ!!」

エリーの心の中に、一瞬浮かんだ最悪の光景。
それを再現するように、さとりはくるみの首をきつく締めていく。
やがてくるみが完全に動かなくなると、こきゅっという音を立ててくるみの首を圧し折った。

「嫌あああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!! くるみいいいぃぃぃぃぃ!!」
「あははははは! 素晴らしいわ! もっと、もっとよ! もっと苦しんで私をゾクゾクさせて!」

そのさとりの言葉に、精一杯の恨みを込めて睨みつけるエリー。
ところがエリーの視界に入ったのは八本の触手に長い針、焼きゴテ、蝋燭、五寸釘、小型の万力、内側に棘の生えたベルト
内側に湾曲した大きなフォークが二つ組み合わさったような物、それに塩を持ったさとりの姿だった。

「今夜は楽しい夜になりそうね、ふふふ……あきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!」






40

「ああああああああああああああああああ!!」

錯乱し滅茶苦茶に暴れるくるみ。
一方のパルスィは冷静に結晶を使い、攻撃を防いでいた。
更に隙あらば結晶を飛ばし、攻撃に転じて来る。
だがくるみは飛んで来る結晶をかわすと、再び斬撃を繰り出していた。

「……はぁ……はぁ……だったら……」

やがて若干理性を取り戻したのか、距離を取るくるみ。
するとくるみの手に妖力が集まっていく。
妖力は次第に形を持ち始め、暫くするとオレンジのハンドパペットを作り出した。
人形は大きく口を開くと、中に大量の氷弾を作り出す。
そしてその口をパルスィの方へ向けると、氷弾を一気に打ち出した。

「うっ……そんなものっ!」

パルスィは結晶を出し、氷弾を防ごうとする。
だが大量の弾幕を結晶だけで止めるのは無謀に近い。
防ぎきれなかった氷弾はパルスィの体に当たり、その部分を凍りつかせていった。

「あ、ああああ……そんな……」

やがてパルスィを守ろうと、大量の小蜘蛛が闇の中から姿を現す。
ところがそこは氷弾飛び交う戦場、現れた傍から小蜘蛛達は氷像へと姿を変える。
そのうちにパルスィも全身が凍りつき、身動き出来なくなってしまった。

「……………」

凍りついているとはいえ相手も妖怪、パルスィは時々カタカタと震え動き出そうとしている。
それが分かっているのか、くるみは床に降りると追撃を始めた。

「このッ! 死ねッ! 死ねッ! 死ねッ! 死ねッ! 死ねッ! 死ねッ! 死ねッ! 死ねッ! 死ねッ!」

床で凍りついている小蜘蛛達を片っ端から踏み砕いていく。
凍っていない中身は潰れるとじわりと染み出して来るが、正気を失っているくるみはそんな事は気にしない。
ただひたすら目についた蜘蛛を、次々に砕いていった。
すると最後に残ったのはパルスィ一人、その傍にくるみはにじり寄っていく。
そして思いっきり足を振り上げると、凍っている脚を蹴り砕いた。

「……ふふふ、あはははははは! ざまあ見ろ! あははははは!」
「くるみ……」

その後もくるみは二本、三本と脚を砕いていく。
さすがにもうこれ以上見ていられないと感じたエリーは、くるみを抱き締めてその凶行を止めた。

「もうやめて! パルスィはもう襲って来ないわ!」
「離してエリー、蜘蛛は皆根絶やしにしなくちゃ」
「もういい! もういいから戻りましょう?」
「待って、ほらあそこにかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそ…」

もうくるみの精神は限界を越えている。
エリーは暫くの間くるみを抱き締め続け、少しでも冷静になるよう妖力を流し込んだ。
やがて若干くるみが落ち着いたのを確認すると、二人は換気口の中へと入っていった。

※サイコロを四回振り、出た数エリーのMGを減らす。
※『土符』を取得






41

「くっ…!」

エリーは後ろに跳び、蓮子の一撃をかわす。
だが蓮子は更に攻撃を仕掛けるべく距離を詰めて来た。

「この距離ならッ!」

蓮子の右腕の電流が渦を巻きながら指先から放出される。
それはまるでドリルのように、エリー目掛けて飛んでいった。
しかし軌道上に突然現れた椅子によって、電撃は分散され消える。
その隙にエリーは鎌を投げ、部屋の隅の暗がりに突き刺した。

「しまっ…」

鎌が突き刺したのは、壁に貼り付けられていた鱗。
今までは見えなかったその鱗はバチバチと放電した後、砕け散る。
すると同時に部屋の中に広がっていた電磁波が一気に治まった。

「さっきも言ったでしょ? やるなら完璧にやるべきねって!」

エリーの言葉に反応し振り返る蓮子。
その眼前に勢いよくエリーの脚が飛び込んで来る。
咄嗟に両腕を盾に攻撃を凌いだ蓮子だったが、エリーの攻撃はまだ終わらない。

「後ろがガラ空きよ」

言葉と共に蓮子の耳に届く、鎌が風を切り飛んで来る音。
身の危険を感じた蓮子は、防御に使っていた左腕を鎌の方に向けた。

「うぎぃ!?」

鱗の生えた腕は鎌の斬撃を通さず、その場に弾き落とす。
だが打撲によるダメージは、確実に蓮子の左腕の機能を奪っていた。

「…あう……ぁ…ああ…」

最早、左腕は痛みで戦闘には役立たない。
エリーにもそれが分かっている為、右腕にだけ警戒しつつ鎌を回収しくるみの許へ駆け寄った。

「もう大丈夫よ、電磁波は止めたわ」
「う、う~ん………エリー? 私…」
「話は後よ、今はあいつをどうにかしないと」

目を覚ましたくるみと共に蓮子の方へ向き直るエリー。
その目には、もう敵意や殺意は感じられない。

「戦力差は歴然、貴方に勝ち目はないわ。大人しく撤退なさい。逃げるのなら追わないわ」

しっしっと手で追い払う仕草をして、エリーは蓮子を促す。
だが蓮子は右腕を宙に向けると、再び帯電し始めた。

「……分からない子ね、怪我じゃ済まないわよ?」
「私は逃げる訳にはいかない。このまま逃げ帰ったら、私を受け入れてくれた姫様に会わせる顔がないわ!」
「……貴方も主人の為に戦ってるのね」
「くるみ、ここは私一人にやらせて」
「任せるわ」

そう言うと、くるみは数歩下がり戦場から離れる。
一方でエリーは鎌を手に蓮子に向かって行った。

「私の攻撃が肉弾戦だけだと思ったら大間違いよ!」

蓮子は指先から電撃を放出すると、天井に真っ黒な雷雲を作り出す。
雷雲はゴロゴロと唸りながら、その矛先をエリーに向けた。






42

部屋を動き回る早苗をこちらから狙うのはほぼ不可能。
ならば向こうから攻めて来た瞬間を狙うしか倒す方法はない。
だが相手は見えず聞こえず感じ取れない幻のような妖怪。
襲って来た瞬間を見切るのは簡単な事ではない。
しかしやらなければ、こちらがやられるだけ。
迷っている暇はないと、エリーとくるみは全神経を集中させる。

「……………」

部屋に響くのは時々起こる壁を削る音のみ。
だが僅かに流れる大気の動きが、高速で動く妖怪の存在を表していた。
やがて大気の流れは、こちらに一直線に向かって来る者の気配を知らせてくれる。
その知らせを信じ、エリーは思いっきり鎌を振り上げた。

「……そこぉ!」

綺麗に振られた鎌は確かに何かに突き刺さり、エリーに手応えを感じさせる。
しかし目の前には何もなく、鎌の刃が途中で不自然に消えているだけ。
ところが鎌の刃が徐々に赤く染まっていくと、突然早苗が姿を現す。
早苗の脇腹には鎌が深く刺さっており、爪はエリーの顔のすぐ傍まで迫っていた。

「がっ……ああぁぁ…」

エリーが鎌を引き抜くと、早苗は脇腹を押えふらふらと動き出す。

「……ズルいです………何もかも……」

早苗はそう言い残し、霊安室を去っていった。
それを見送ると、エリーとくるみはへなへなと座り込む。
先程まで張りつめていた空気が一気に流れた事で、力が抜け立っていられなくなったのだ。

「…私達、助かったのよねぇ?」
「………多分」
「…もう戻らない? 此処には………あれ以外なさそうだし」
「………待って、立てない」
「…………あ、私もだ」

それから暫しの間、休憩したエリーとくるみ。
やがて動けるようになると、二人は換気口の中へと入っていった。

※『風符』を取得






43

動力室の中を高速で飛び回り、空から逃げるくるみ。
だがさすがに隠れる場所もないこの部屋では、高速弾幕から逃げ続けるのも限界がある。

「くるみ!」

そこへ聞こえて来るエリーの声。
くるみは藁に縋る思いで声を張り上げた。

「何、エリー!?」
「換気扇を止めたわ! 全部じゃないけど幾つかは逃げ道に使える筈よ!」
「分かった!」

すぐに近くにあった通路に逃げ込むくるみ、その後を空が追いかける。
しかし通路は元々熱を逃がす為の物。中は狭く鉄の翼の空は、上手く飛ぶ事が出来ない。

「この調子なら……あ、あれは!」

優勢にあったくるみ、ところがその前に稼働中のプロペラが姿を現す。

「そんな……」

どうやら此処はエリーが止めた通路ではなかったようだ。
しかし今更引き返す事も、立ち止まる事も出来ない。
くるみは覚悟を決めて、プロペラに弾幕を放った。

「うぅ……ああっ!」

弾幕がプロペラに当たると爆炎と砕けた金属片が飛び散り、くるみを襲う。
それでも血塗れになりながら飛び続けると、通路を抜け大きな縦穴に辿り着いた。
縦穴は丁度動力室の真上の巨大プロペラの上にあたり、上下をプロペラに挟まれている。
しかも他の通路は中が一直線で始まっており、後ろから簡単に狙い撃ち出来るようになっていた。

「………どうしよう…」

何処か隠れるところはないかと、くるみは縦穴内を必死に見渡す。
するとある物が視界に入り込んで来た。
それは運ばれていく、型に入れられたガラス液。

「……今の私じゃ、一か八かね……」

くるみは型の一つを手に取り、遅れて現れた空に振り返った。
そして瞳を真っ赤に光らせて弾幕を放出する。
しかしくるみの放った弾幕は、くるみ自身からは出て来ない。
赤い目の視線の先、縦穴の壁から出て来て空の頭を狙い撃った。

「お願い倒れて!」

くるみとしては結構本気でぶつけたつもりだ。
だが空は怯むどころか逆に変形し始めた。
今度は頭を胴体に回し、新しく出て来た鳥の頭部に胸の赤い目をつける。
更に左腕を三本目の脚にし、右腕を頭部の中に入れ口から弾幕を放出する機械鴉になった。

「も、もう他に手はないわ……」

空の赤い一つ目がくるみをじっと睨みつける。
そして翼から勢いよく炎を噴きだし、一直線に向かって来た。

※サイコロを二回振り、出た数くるみのMGを減らす。






44

鈴仙は仲間を呼んだ。しかし誰も現れなかった。

「…………」
「…………」
「………………あれ? おかしいなぁ。カモ~ン、うっつほー!」

鈴仙は再び仲間を呼んだ。しかしやはり誰も現れなかった。

「え? なんで? どうして、うつほこないの?」
「……もしかしてうつほって、あの空?」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「そいつ私が倒したから来ないんだと思う」
「えぇぇー! なんてこと、するのー!?」

すると鈴仙はこちらに背を向け、何かぶつぶつと考え出す。
やがて考えが纏まったのか、振り返ると指を差し言葉を紡ぎ出した。

「きょうはわたしじゃなくて、わたしのスペシャルなペットがあいてするよ!」
「………はぁ」
「それじゃあ、みせてあげる! これがわたしのつくってもらったペット、キメラピョンだぁ!!」

そう言うと鈴仙は何処かへ走り去ってしまう。
そして暫くして戻って来ると、何かを一緒に連れて来ていた。
それは腕は鰐、脚は蜘蛛、尾は蛇、背中には機械と雀の羽、体には魚の鱗と蛸の触手がついた異形の怪物。

「…………」
「…………」

だが何故か頭はぬいぐるみのような兎で、身長は20cmほどしかなかった。

「レーンコー!!」
「キャーかわいー!」

その姿に唖然とする二人。
しかしすぐ気を取り直すと、その怪物に身構えた。

「見た目に騙されちゃダメよ、くるみ。ああいうのに限って滅茶苦茶強いんだから」
「分かってるわエリー、こんな如何にも弱そうな奴が本当に弱い筈がないもの」

すると怪物は二人の方へ向って行く。

「レーンコー!!」
「やっちゃえー、キメラピョーン!」

そしてくるみ目掛けて跳びかかって来た。

「来た!」
「任せて!」

くるみは怪物を狙って勢いよく爪を振り下ろす。

「喰らえ!」
「シマネッ!」
「ぐえっ!」

するとキメラピョンは鮮血を撒き散らして弾け飛んでしまった。

「……うわーん! レティにつくってもらったキメラピョンがー!」

泣きながら走り去る鈴仙。
後に残されたエリーと返り血を浴びたくるみは、何とも言えない気持ちになり立ち尽くしていた。

「…………ねぇ、私って酷い奴かなぁ。なんかもの凄く罪悪感を感じるんだけど」
「…………大丈夫、くるみは悪くないわ。返り血だって吸血鬼なら普通よ」

そのまま暫く立ち尽くし続ける二人。
やがてエリーとくるみは少し精神的に持ち直すと、換気口の中へと入っていった。

※サイコロを四回振り、出た数くるみのMGを減らす。
※『音符』を取得






45

「…ッ!!」

振り下ろされた鎌を、エリーを引っ張ってかわすくるみ。
エリーは先程の戦闘で衰弱している為、かわしきれないと判断しての行動だ。
だがこちらの事情などお構いなしに、パルスィは攻撃を続けて来る。

「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる…」

どうやらパルスィは完全に怒りに呑まれてしまっているようだ。
今のパルスィと戦うのは危険だし、何よりエリーを掴んだままでは攻撃出来ない。
くるみは戦う利点がないと察すると、エリーを連れて一目散に逃げ出した。

「!! 待て! 殺す! 殺してやる!」

慌てて逃げるくるみと、鎌を振り回して追うパルスィ。
二人の距離は近付きも離れもせず、一定を保ったまま換気口のあった場所に近付いて行く。
そこでくるみは、ある事を疑問に思う。
そもそも姿が変わるまで目がなかった筈のパルスィが、どうやってこちらの位置を確認していたのだろうか。

「…………」

くるみの脳裏に、ある一つの可能性がよぎった。
外せば死、当たれば換気口に潜り込む時間が出来る。
決して分のいい賭けとは言えないが、このまま逃げ回っていても捕まるのがオチ。
ならいっそ逃げ切れる可能性に賭けてみるのもいいのではないか。
そう考え、くるみはパルスィの蜘蛛の目に弾幕を打ち込んだ。

「うぐっ………そんなもので私を止められるとでも思ったの!?」

弾幕によって目は潰されたが元々盲目の身、パルスィは構わずくるみを追い続ける。

「待てええぇぇ! 絶対に殺してやる!」

そのまま走り続けるパルスィを、くるみは棚の影から見送った。
パルスィが追いかけていったのは、くるみの羽を蝙蝠に変えたもの。
盲目の妖怪なら音や気配に反応するのではと考え、羽搏く音のする羽を切り離したのだ。
あの様子では暫くは追って来ないだろうと、ゆっくりと音を立てないように換気口に入っていく二人。
やがてエリーが奥まで入ったのを確認すると、くるみは羽を呼び戻した。
少しして換気口に羽が入って来ると、同時に何かが壁にぶつかる音が響く。
すると換気口に真っ黒な蜘蛛の頭が入り込んで来た。

「……う…………あああああああ!!」

だが巨大化した下半身が仇となり、中まで追って来れないようだ。
部下の小蜘蛛を使えばいいような気もするが、頭に血が昇ってるせいか無理矢理入って来ようとしている。
暫くすると諦めたのか、すごすごと引き返していく。

「覚えてなさいよ! 必ずいつか殺してやるんだから!」

出来る事ならもう出会わない事を祈りながら、二人は換気口の奥へと進んでいった。

※『土符』を取得






46

エリーとくるみは水色のパトランプの光る換気口を進んで行く。
やがて換気口が何かの部屋へと繋がっている部分まで辿り着いた。
辺りを警戒しながら蓋を開け、部屋の中に入る二人。
するとそこには、まるで拷問部屋のような場所が広がっていた。
部屋中に様々な拷問器具が置かれており、閉じ込めておく為と考えられる小部屋まである。
中央には螺旋階段があって、上下にも同じような部屋があるようだ。

「随分悪趣味な部屋ね。噂じゃ永遠亭は病院だって聞いたけど、どうもそれだけじゃないみたい」
「………ねぇ、こんな所に手掛かりなんてあるの? 一旦戻らない?」
「そうねぇ。そうしたいのは山々だけど、これを見ちゃったらそうも言えないわ」

そう言ってエリーの方へ振り返るくるみ、その手には緑色の毛が握られている。

「………まさか……それって……」
「そのまさかよ。ちょっと見てみたけど、妖力からして間違いないわ」

幽香が此処で拷問を受けた。
その衝撃的な事実に、エリーは吐き気を催し口を押さえる。
そんなエリーの背中を優しく擦ると、くるみは一人で階段を降りて行った。

「……くるみ?」
「辛いなら休んでていいわ、此処の探索は私がやる」
「………そうもいかないわよ」

慌ててくるみを追いかけ階段を降りるエリー、その前に新たな拷問器具が姿を現す。
一つは滑車から伸びた鎖が天井に続き、ぶら下がった先端に鉤のついた物。
もう一つは同じように天井にぶら下がった籠手のような物だ。

「………何よ、これ」
「そっちのは縄で縛って、その鉤に引っ掛けて吊るす物。そっちのは籠手で締め付けながら吊るす物よ」
「……なんでそんな事、知ってるの?」
「吸血鬼の中には人間を嬲り者にして楽しむ輩もいる。私も吸血鬼の眷族、真祖の命となれば逆らえないわ」
「………もしかして嫌な事、思い出させちゃった?」
「気にしないで」

そのまま階段を降りるくるみと、後を追うエリー。
幾つもの部屋を調べながら進む二人は、やがて最下層と思われる部屋に辿り着いた。
階段はこの部屋で終わり、部屋の中は石畳になっている。
また水が溜まった底が分からない程の深い窪みがあり、壁では巨大な水車が回っていた。

「……どうやら此処は、水責めに使われているみたいね」
「…あんまりいろいろ言わないで。気分が悪くなる」

エリーはそう言うと水の中を覗き込む。
だがやはり底は見えず、一見何の変哲もない水路にしか見えない。

「こっちは此処で終わりみたい、もう上に行きま…ごばっ!」
「……エリー?」

突然した大きな音に、くるみは振り返る。
するとそこにはエリーの姿はなく、水面に波紋が浮かんでいるだけだった。

「………嘘…」

恐らく水に落ちたと見て間違いないだろうが、生憎くるみは流水に弱い。
助けに行こうにも水流のある水の中へは入れないのだ。

「……どうしよう、浮かんで来ない。……………エリー!」

一方でエリーは真っ赤な触手に掴まれ、水中へ引き摺り込まれていた。

「ごぼぼっ……ごばっ……ごぼぼぼ……」

このままでは窒息死してしまう。エリーは慌てて鎌を振り、触手を斬って逃げ出す。
だがその後ろを数本の触手が追い掛けて来る。

「……ごぼぼばばっ…ごぼぼっ…!」

するとエリーは鎌を投げ、正体の見えない触手の主を狙う事にした。
途端に水面に向かって巻き起こる水流、その流れに乗ってエリーは水面から飛び出し脱出する。

「……ごほっ! けほっ……げほげほっ!」
「エリー! 大丈夫? 一体あれは何者?」
「………え?」

くるみの言葉に水面の方へ振り返ると、そこには天井の鎖に巻き付いた触手の主がいた。
その姿は一見少女のようだが、袖とスカートから計八本の触手が生えている。

「あ、貴方……一体な…」
「私は古明地 さとり、貴方達の思っている通り永遠亭の妖怪よ。………ふふふ、貴方達幽香の部下なのね」
「なっ……」

突然こちらの素性を言い当てたさとりに驚く二人。
するとさとりはクスクスと笑って、口を開き話し始めた。

「私には生き物の心が読めるの、だから貴方達の考えは丸見え。……あら、私と戦うの? やめなさい。
 私には心が読める、だから貴方達が私に攻撃を当てる事は出来ない。…それでもやるなら、お相手するわ!」

※サイコロを三回振り、出た数エリーのMGを減らし
 サイコロを一回振り、出た数くるみのMGを減らす。






47

アリス目掛けて勢いよく鎌を投げるエリー。
だが何処かから飛び出した人形達により、鎌は打ち返される。
更に背後から襲いかかる気配に、エリーは振り返り鎌を振った。

「………えっ」

ところがそこにいたのはくるみ。
くるみは鎌をかわすと、爪でエリーを斬りつけて来る。

「そんな……くるみ、どうして…」
「ふふふ、今の彼女は私の操り人形。さぁ、どうする? 自分の身惜しさに仲間を傷つける?」
「そうだったのね。私はてっきり、くるみがおかしくなっちゃったのかと…」
「……………いい加減にしなさいよ」
「えっ?」

突然凄まじい怒気を孕んだ声を放つくるみ。
その眼光は鋭くエリーとアリスを睨みつける。

「さっきから何? こっちが動けないのをいい事に言いたい放題………特にエリー!
 おかしくなったと思ってたのはまだ許すとして、なんであっさり受け入れちゃうの!?
 なんか私、昔からそういう予兆があったみたいじゃない! おかしいって言われるより、そっちの方が傷つくわ!
 お願いだから受け入れないで! せめておかしいって拒絶して! 冷たい目で蔑んで! なじって! 罵って!」
「く、くるみ落ち着いて。途中から言ってる事がおかしくなってる」
「………私が言うのもなんだけど……貴方の連れ、大丈夫?」
「……多分」
「これもそれも全部あんたのせいよ、アリス!!」
「えええぇぇ!? 不意打ち過ぎるわ!」
「泣いたって許してあげないんだから………覚悟しなさい!!」

そう言うとくるみは大きく息を吸う。
そして口の中に空気を溜めると、

「○▲□×◆▽●#◇▼%&△■!!!」

大音量で凄まじい怪音波を発した。
衝撃で吹き飛ぶ人形達、当然アリスも無傷という訳にはいかない。

「ああああああああああ!! 頭が! 頭が痛い! やめてよ! やめなさいよぉ!」

頭を押さえ苦しむアリス。
それにより糸に送られていた魔力が止まり、くるみは自由になる。
するとくるみは一直線にアリスに向かって行き、

「千分の一秒で駆け抜けろ!!」
「あっやっ!?」

思いっきり蹴り飛ばした。
そのままアリスは吹っ飛び、壁に叩き付けられる。
そこへ追い打ちをかけるように、くるみは拾った氷の杭をアリスの体に打ち付けた。

「うぎやっ! ………ぐっ……かはっ………あ……」

杭は奥まで突き刺さり、アリスを部屋の壁に固定する。
必死に震える手で杭を抜こうとするアリスだが、とても子供の力で抜ける物ではない。

「出し惜しみせず最初からグリモワールを出しておくべきだったわね。
 今度は貴方が人形をやる番。役名は藁人形、上演時間は……貴方が死ぬまでよ」

その言葉にアリスの顔は一気に青褪める。
するとくるみは、にやりと笑うとアリスの耳元で囁いた。

「一つ言い忘れてたわ。その杭は貴方の内臓を貫いてるから、無理に引き抜くと失血死するわよ。
 時間切れで凍死するか、助けが来て失血死するか。どっちなら苦しまず死ねるかしら? きゃはははは!」

直後、言葉にならないような悲鳴が部屋に響き渡る。
しかしくるみは気にする事無く、エリーのいる方へ振り返った。
ところがエリーは、その場にぐったりと倒れている。
どうやら怪音波の攻撃を受けてしまったようだ。

「…………どうしようもないわね…」

そう言うとくるみはエリーを引き摺り手術室に戻って来る。
そして泣き叫ぶアリスをその場に残して、エリーを連れ換気口の中へと入っていった。

※『凍符』を取得






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