※この作品は【東方学園~権力~】【東方学園~学力~】【東方学園~教師~】【東方学園~才能~】と同じ設定です。
読んでおくと話の流れが大体分ります。でも読まなくても大体分ります。




【東方学園~正義~】




「う、うぐ……」

 月が雲で隠れたとある夜、幻想郷立東方学園の教師である上白沢慧音は、とある人物に襟を捕まれ、苦しそうにうめき声を上げていた。

「あなた、生徒にテストの答えを高値で売ってたんですってね。教師として恥ずかしくないの?」
「い、一体何処にそんな証拠が……ぐっ!」

 その人物は襟を掴んだまま慧音を壁へと打ちつけ、威圧感のある声で言う。

「証拠? いくらでもあるわよ。あんたが売っているところを撮った写真。生徒の供述を録音したテープ。実際にあんたが売ったテストの答えの写し。他にも……」
「わ、悪かった! か、金になるもんだからつい! ゆ、許してくれ!」

 慧音は目の前の相手に必死になって懇願する。しかしその人物は表情を変えず、淡々と言い放った。

「欲をかき過ぎたわね。本当だったら理事長があんたをクビにしてるところだけど、今学校は色々と大変で、これ以上の不祥事は御免こうむるの。だから今回は減俸とこれで見逃してあげる。よかったわね、理事長が寛大で」

 そういうと、その人物は思いっきり膝で慧音の横腹を蹴りつける。慧音は声こそ出さなかったが、苦痛に顔を歪め、息を荒げている。
 その人物が腕を離すと、慧音はゼェゼェと息を荒立てながら、逃げるようにその部屋から出て行った。

「ふん……」

 その直後、月にかかっていた雲が晴れ、月明かりがつまらなそうに鼻を鳴らすその人物を照らす。

 普通の制服とは違った紅白の制服、美しく輝く黒髪と大きなリボン。
 幻想郷立東方学園風紀委員会委員長、通称『学園の巫女』、博麗霊夢である。




◇◆◇◆◇




 蓬莱山輝夜と藤原妹紅は全ての授業が終了した学校の廊下をとろとろと歩いている。
 この日は部活動がない曜日のため、学校に残っている生徒も少なく騒がしい生徒とすれ違うことなく歩くことができるため、二人は部活のない日が好きであった。

「……でさぁ」
「あらあら、それは大変だったわね」

 二人が他愛もない会話をしていると、正面の廊下から歩いている、明らかに他の生徒とは違った制服の少女、博麗霊夢が歩いてくるのが見える。
 霊夢と二人は目を合わせる事なくすれ違う。妹紅は足を止め振り返り、霊夢が廊下を曲がったのを見届けると、眉をひそめていた。

「……はっ、風紀委員か。形だけの癖に、お高く止まりやがって」

 東方学園において、風紀委員会は特別な立場を有している。
 東方学園は一般の生徒から社会的に影響力のある名家からの生徒が通う大きな学園である。ゆえにトラブルも絶えない。
 それをなるべく学校側が介入しない“形式”で片付けるために、東方学園の風紀委員会に特別な権限を与えられた。その特別な権限を行使すれば、多少の無茶ならば理事長の名の下許される。
 つまり、学校において、生徒が運営する形になっている委員会の中でもっとも権力がある組織なのだ。風紀委員会専用部屋まであるほどである。
 しかし、実際には形骸化している部分があり、目に余る事例でなければ、特定の家の出身のモノが行う問題行為はそれが与える影響を考慮して見て見ぬフリをするのが暗黙の了解となっている。
 博麗の家は学園の設立に携わった事もあり、代々この学園の風紀委員長を受け継いでいっているおり、例の如く霊夢も風紀委員長になった。
 彼女の通称については、霊夢の実家は神社のため、いつの間にか霊夢はそう呼ばれるようになっていたのだ。

「あら珍しい。あなたがそんな事言うなんてね」
「あいつらは小さい事には突っかかるのに、本当に取り締まらない事は取り締まらない。ま、風紀を守るってことならやってることは正しいんだろうが、どうにも私は釈然と行かないんだよ……」
「霊夢も変な立場を与えられて大変そうだけどね。与えられた立場だから逆らえない。だからこそ、かつてのレミリアや私のような奴が大きな顔が出来るもの。ま、あまりことを大きくすると叩かれるんだけどね」
「慧音のようにか……」
「…………」

 慧音が不祥事を起こし、風紀委員会が密かにそれを処理したのは生徒達の仲で密かな噂になっていた。
 確証が無い為噂の域を出ないが、慧音の素行を知っている妹紅達は、それが殆ど真実だと確信していた。

「あなた、先生のことをまだ気にかけていたのね。あんなになってしまったのに」
「まあね……半ば、私のせいみたいなもんだし……確かにあいつのやってきた事は許せない。でも、なんとなくだけど、あいつも苦しんでいたと思うんだ……それを理解できたのなら、どうにかできたのかなって……」
「覆水盆に返らず。後悔してもしかたないでしょ。あなたは何事も引っ張りすぎ。もっと前を向いて行きなさい。自分が正しいと思うことをしてればいいの。そうすれば救える相手だっているかもしれないじゃないの、
私みたいにね」
「輝夜……」
「さあさあ、さっさと帰りましょう。私、お腹が空いちゃった」

 輝夜は輝かしいとも言える笑みで妹紅に微笑む。
 昔は大嫌いだった、しかし、今ではかけがえのない友人となっている輝夜に妹紅は心から感謝しながら、「ああ」と一言いい、笑みで返した。




◇◆◇◆◇




「ふぅ~~~」

 霊夢はゆったりとお茶を飲みながら一日の授業の疲れをとり、これからの仕事に備えていた。

「えーと、昨日の件は片付けたし……見回りはだるいなぁ。いいか別に、どうせ何かあっても見て見ぬフリをしろとか言われるんだろうし」
 「あらあら、そんなにサボってたら風紀委員長として締まらないんじゃないの?」

 部屋の隅にいつの間にかいた少女が、霊夢に馬鹿にするような口調で言った。

「いいじゃないの。どうせ形だけだし。不正丸出しの選挙で受かったんだから、やる気も何もね……。それに、あんたがなんかネタもってこないと、私は勘で彷徨うことになるんだからね、てゐ」

 因幡てゐは霊夢の言葉に対し、不敵な笑みを浮べる。

「別に私に義務はないよ。私は風紀委員じゃないし、あんたと正式に『契約』したわけでもない。報酬さえもらえれば、作ってでもネタは持ってきてあげるけど?」
「私が金ない事知ってるくせに……そんな態度とってると、あんたが輝夜の下で何してたかを問題にするわよ」
「あれはあくまでばれない様に鈴仙にあわせてただけなんだけどねぇ。お師匠様との『契約』だったし。ま、今の姫様は大分丸くなったから別に正体ばらしても大丈夫そうだけど、公にされるのはきついねぇ。仕方ない……」

 てゐは手帳を取り出し、わざとらしくページをめくる。

「……と言っても、最近は比較的……あ、これかなぁ。最近急激に勢力伸ばしてる奴がいてさぁ。ちょっと行動が目に付くようになってきたんだよねー」
「ふぅん、誰?」

 てゐはニヤリとわざとらしい笑みを浮かべ、その名を告げる。

「7組、アリス・マーガトロイド」

 霊夢はその名を聞くと、持っていたお茶を飲み干し一呼吸置き、従容とそこから立ち上がった。
 そして、確実にてゐに二、三質問をすると、今度はさっき打って変わってスタスタと足早に7組への教室と歩いていく。

「ちょっといいかしら?」

 放課後、霊夢は誰もいないはずの教室に入ると、ぼんやりと外を眺めていた霧雨魔理沙へと声をかけた。

「ど、どうしたんだよ霊夢。突然、てかよく私がここにいると分かったな……」
「まあね。それよりもあんた、アリスと仲が良いんでしょ。今あいつ、何処で何やってるか知らない?」
「し、知らないな……」
「嘘ね」

 霊夢はまるで確信があるかのようにはっきりと述べる。

「な、なんでそんなこと言えるんだよ……!」
「勘よ」
「か、勘て……風紀委員長のお前が、一体あいつに何の用なんだよ……」
「そんなこと、言わないでも分かるでしょう」

 まるで1+1は2であることを聞かれたかのように軽侮した態度で霊夢が言った。

「確かに今のあいつは少しおかしいけどよ……他にひでぇ事してる奴なんて一杯いるだろ……! というか、やり方は間違ってても、そういう奴らをやっつけてるからいいだろうよ!」
「……ふぅん、残念ねぇ。教えてくれれば、あなたは見逃してあげたのに」
「え……?」

 その瞬間、魔理沙は何が起きたか分からなかった。
 いつの間にか、自分の腕が汲み取られ、地面に顔をつけているのだ。

「せっかく友達のよしみで更正できそうなあんたは助けてあげようと思ったのに……あいつの肩を持つなら仕方ないわね。丁度いいわ、脅しの材料になってもらいましょう」
「ま、まさか最初から……!」
「ええ、学校なんて狭い場所で、あいつの場所が分からないはずがないでしょ? さ、来てもらうわよ」
「ぐっ!」

 霊夢は苦痛に悶える魔理沙を尻目に、無理やり彼女と共に教室を出、階段を上がっていった。




◇◆◇◆◇




 アリス・マーガトロイドは一人、学校の屋上から沈みゆく夕日を眺めていた。
 今や彼女は東方学園においても最大の派閥と言っても差し支えないほどの勢力を有していた。
 初めは単なる歪んだ復讐だった。しかし、今ではその歪んだ復讐心がさらに歪んだ正義感へと変わっている。
 そんな自分を知ってか知らずか、そんな自分をアリスは嘲笑する。

 そのとき、キィ、と軋んだ扉を開く音が聞こえる。
 魔理沙だろう。そう思いアリスは振り返った。

「こんにちは、いやこんばんはかしらね。アリス」
「魔理沙っ! 霊夢、どういうつもり……?」

 そこには魔理沙の腕を縄で縛り、玉串を魔理沙の首に突きつけている霊夢の姿があった。

「なぁに、簡単な事よ。大人しく私に捕まってくれない? あなたの行動は目に余るの、異変と呼べるくらいにね。だから、他への見せしめのために、あなたをとっ捕まえてちょっと痛い目にあってもらってその写真を
裏で回すだけ。ね? 簡単でしょ?」

 その霊夢のあまりに横暴な態度にアリスは歯を強く噛み締める。

「……風紀委員会がこれじゃあ、どうやらこの学園、本当に腐ってるらしいわね」
「ふん、異変は解決されるものなの。恨むならあなたの落ちぶれてしまったあなたの家柄を恨みなさい」
「……ふん」

 アリスは手を頭の後ろに組み、ゆっくりと霊夢の前にしゃがみ込む。

「ふん、いい子、ネッ!」
「ぐっ!!」
「ア、アリス!」

 霊夢の蹴りがアリスの腹部を捉える。
 苦しそうに地面で悶えるアリスを霊夢は喜々とした顔で、何度も何度も蹴りつける。
 アリスハ涎を垂らしながら荒い呼吸で地面に突っ伏していた。

「止めてくれよ霊夢! ここまでする必要がないだろ!」
「いいじゃないの! 私も少しぐらい楽しんだって!」
「かっ……はっ……! だ、大丈夫……慣れてるからね……」

 執拗に暴行を受けているはずのアリスは、それにも関わらず哀れみに満ちた目で霊夢を見上げる。

「哀れね、霊夢……」
「はぁ……!?」
「あんた……今の自分に満足してないんでしょ? 与えられた立場で与えられた事ばっかやって……。大人の都合で振り回されて……。だからこうやって相手を暴力を振るって気を紛らわせてるんでしょ?」
「あ、あんたが言えた事じゃないでしょ! 似たような事やってるくせに!」
「ええそうよ、だから分かる。でも違うところがある」
「何よっ!?」

 一瞬の隙をアリスは見逃さなかった。アリスは素早く霊夢の足を救い、瞬座に組み伏せる。

「なっ!?」
「あなたの正義と私の正義じゃ、私の方が上って事よ」

 アリスは懐にこういったときのために忍び込ませていた縄で霊夢を縛り付けると、魔理沙の拘束を解いた。

「あ、ありがとうアリス……」
「まったく……先に帰っていなさい、こいつの始末は私がつけるから。あんたには刺激が強いでしょ」
「あ、ああ……」

 魔理沙はおずおずと屋上から降りていく。
 そして、階を一つ降りたところで、今まで抑えてきた感情が決壊し、彼女は人知れず泣いた。

「私は……何も……何も出来ない……うぁ……ああ……うああん……!」




◇◆◇◆◇




「がぁっ……!」

 廃材置き場にて、霊夢の体に鉄パイプが打ちつけられる。制服は破かれ下着姿にされ、恥ずかしい体勢で縛られた体はそこらじゅう青あざだらけであった。

「こ、こんなことして……ただで済むと……!」
「ああ、五月蝿いわ」
「ぐっぅ!!」

 霊夢の頭をアリスがぎりぎりと踏みつける。
 苦痛に悶えている霊夢の表情をひとしきり楽しむと、足を離し懐から取り出したカメラで、霊夢を様々な角度から撮影し始めた。

「な、何を……!!」
「今の無様なあなたを写真に収めて、ばら撒いてあげようと思ってね。こういうときのために常に常備していてよかったわ」
「や、止めて……!」
「そうねぇ、どうしようかしら。あなたの態度次第、といったところかしら?」

 アリスは可愛らしく霊夢に微笑む。
 その言葉の意味は霊夢も重々把握している。ゆえに、その言葉を言う事が、如何なる意味を持つかも分かっていた。

「もし風紀委員長である私が屈したら……この学園の秩序が……」
「ああ、そういえば今あなたの家、かなり大変らしいわねぇ。あなた特別な援助受けてるんでしょ? こんなものが出回ったらあなたはどうなるかしらね?」
「……っ!! わ、分かったわよ……」
「え? ごめん、小さくて聞こえないわ」
「分ったわよ! あんたのやってること、見逃せばいいんでしょ! それで満足!?」
「ええ、満足よ。よく出来ました……いい子ねぇ」
「くううううううううう……!!」

 顔を歪め怒りを口にしている霊夢に後で迎えを来させると一言告げると、霊夢を近くにあった今では使われていない倉庫に放り込む。
 そしてアリスは帰路を辿りながら、ぼそりと呟いた。

「準備は整ったわ……後は、この学園を壊すだけ……」

 もはやアリスの心は完全に壊れてしまったと言っていいだろう。
 一人の少女の、いや、少女だった者の狂気が、今この学園に終わりをもたらそうとしていた。

 果たして、彼女の心を取り戻せるものはいるのだろうか……。








  • 霊夢弱っ?! -- 名無しさん (2010-01-13 06:58:47)
  • こうなったら映姫様の出番だな -- 名無しさん (2010-01-13 12:24:17)
  • 魔理沙がゴミだ... -- 名無しさん (2010-01-13 14:44:04)
  • もっとやれ -- 名無しさん (2010-01-14 00:50:14)
  • 最初はいじめられたくないだけだった
    次は復讐がしたいだけだった
    それがいつか自分が正しいことをしていると思うようになって
    いつしかみんなをいじめていた

    ガキの頃いじめられていたからアリスの気持ちがよくわかる。
    自分も相手の弱みを握ったり、強い力(体力以外のものでも)を持ったらこのアリスみたいなことをしていたかもしれない。
    アリスを止めれるのは魔理沙だけだけど、その魔理沙は優しすぎてチキン過ぎて強く出れないんだな… -- 名無しさん (2010-01-14 23:38:33)
  • 自分の内から沸き出る正義と、誰かから押しつけられた正義とじゃ勝負にもならんな -- 名無しさん (2010-01-15 10:05:22)
  • こう色々キャラ出てきてるのに一番むかつくのが魔理沙なんだよなぁ・・・
    -- 名無しさん (2010-01-15 19:08:15)
  • なんとなく魔理沙自殺しそう… -- 名無しさん (2010-01-15 22:04:32)
  • でも最後はやっぱハッピーエンドを俺希望するぜ。 -- 外道 (2010-01-16 10:38:55)
  • ↑おいおいここはいじめスレだぜ? -- 名無しさん (2010-01-18 04:41:01)
  • ↑すみません。
    最後の文章の、果たして彼女の心を取り戻せるものはいるのだろうか・・・・・、と言う文で何だかハッピーエンドの予感がしたので、つい。

    PS,ちなみに皆さん東方学園シリーズのエンディングはやはり、バットエンド系を希望ですかね? -- 外道 (2010-01-18 08:44:08)
  • ↑なんつうか私は両方見てみたい。バッドサイドとハッピーサイドみたいな? -- 名無しさん (2010-01-18 18:32:45)
  • ↑どっちでもいい
    東方学園の全ては作者の手の内にあるから、作者がBADにしようがHAPPYにしようが関係ない。俺はそれを黙って享受するだけ

    という見解です -- 名無しさん (2010-01-18 19:28:20)
  • ↑そ、そうですね。
    いやぁ、それにしても東方学園の次回作たのしみです!
    作者さん自分オーエンしてます!
    -- 外道 (2010-01-18 19:40:16)
  • ここまでやっといて今更HAPPYはなあ・・ -- 名無しさん (2010-01-21 02:24:15)
  • おいだれか俺のアリスたんを -- 名無しさん (2010-03-18 00:33:17)
  • バッドエンドが好きだからこのサイトにきてるのよ
    しかし、そろそろ魔理沙がなんらかのアクションをとりそうだ -- 名無しさん (2010-03-24 02:58:01)
  • ↑↑誰のアリスだって? -- 名無しさん (2010-04-02 17:16:48)
  • ↑お前のだ -- 名無しさん (2010-04-02 17:24:14)
  • ↑アリマリがジャスティス!むしろアリスがジャスティス! -- 名無しさん (2010-04-02 17:28:39)
  • アリス総受けって最高だと思わない? -- 名無しさん (2010-04-03 04:34:28)
  • てるもこ! てるもこ! -- 名無しさん (2010-11-05 16:42:45)
  • アリスうぜええ -- 名無しさん (2011-03-20 21:32:03)
  • 理事長=紫or映姫かな? -- 名無しさん (2011-06-14 14:47:57)
  • なんか魔理沙が泣き虫に見える。いや、そこがかわいいんだけどね!
    理事長は個人的に紫がいい -- インしたお (2011-11-15 14:43:39)
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最終更新:2020年05月04日 09:39