※このSSには独自の設定やキャラの崩壊、グロテスクな表現が含まれています。そういった展開が苦手な方はご注意ください。
29スレ365『魔法少女達の百年祭』までの続きです。


































妖怪の山、壊滅。
新聞の一面に大きく書かれた見出しは、幻想郷中を震撼させた。
事の発端は一月ほど前に起きた妖怪連続失踪事件。
天狗のみならず河童、果ては妖精に至るまで能力の高い者ばかりが次々行方不明となる事件だった。
そして事件は守矢神社焼失、焼け跡から失踪者の頭蓋が発見された事で一気に収束へ向う。
結局、この事件に関わった者は全員死亡という最悪の結末となった。
しかし話はここで終わらない。
今まで天狗と守矢の力で幻想郷内での地位を築いてきた妖怪の山、しかし守矢神社は焼け落ち天狗は大勢殺された。
このままでは妖怪の山の失脚に繋がると考えた天魔は、守矢の穴を埋めるべく自身の仕事を倍以上に増やす。
しかしそれが仇となり、ついに天魔は過労で倒れてしまった。
総大将が倒れた事で、天狗達の間に動揺が生まれ統率も乱れ始める。
やがて完全に崩壊した天狗社会は自ら壊滅を宣言、八雲 紫に救済と代役のリーダーの派遣を依頼した。
そこへやって来たのが紫の式神、八雲 藍。
藍は妖怪の山の現状を確認すると、代役のリーダーが一刻も早く必要と判断。
幻想郷でそれ相応の実力を持ち、すぐに妖怪の山へ行けるような者を探し始めるのだった。





こちらは地底の旧都、かつての地獄の繁華街。
今日も鬼達が楽しそうに宴会を始め出す。

「それでは我らが同胞、伊吹 萃香の出世を祝って乾杯!」
「かんぱーい!」

高らかと宴会の開始を宣言したのは旧都に住む鬼、星熊 勇儀。
今日の主役、伊吹 萃香とは山の四天王と呼ばれた仲だ。

「それにしても、あんたが妖怪の山の大将代役に選ばれるとはねぇ」
「いやいや~、私はただゴロゴロしてただけだよ~」

藍が選んだ代役のリーダー、それは萃香だった。
山に住んでいた事、異変を起こすだけの能力を持っている事
そして幻想郷のバランスに影響するような住処を持たない事などから考えての人選だ。
次点で風見 幽香も選ばれていたが、彼女はここ数ヶ月行方知れずらしく惜しくも落選となった。
天狗達も鬼の帰還を恐れる者はいたものの、今はその恐ろしさも頼もしいと考える者が多く概ね賛成だという。
こうして数日後には正式に、妖怪の山の代役リーダーとして迎え入れられる事に決まったのだ。
その話を聞き、祝杯を挙げようと言い出したのが勇儀ら地底の鬼達。
何時も騒いでいる彼女達だが今日は一段と気合を入れ、同胞の出世を祝おうと萃香を呼んだのだった。

「いや、山の大将なんて並の者には勤まらないよ。謙遜するこたないさ」
「…………♪」

宴会に参加しているのは鬼だけではない。
勇儀に呼ばれ、黒谷 ヤマメとキスメも参加している。

「それではプリズムリバー三姉妹奏でる『旧地獄街道を行く』、お聴き下さい」
「いっくよ、リリカ! 私達の音色で皆ハッピー、ピッキョローンよ!」
「よく分かんないけどオッケー、メルラン姉さん!」

更に盛り上げ役としてプリズムリバー三姉妹のルナサ、メルラン、リリカも呼ばれている。
鬼達の笑い声と明るい音楽で、宴会場は誰もが陽気になれる活気溢れる場になっていた。
そんな中、一人だけ黒い感情を抱いている者がいる。

「……妬ましいわ」

彼女は地底に住む橋姫、水橋 パルスィ。
嫉妬心を操る妖怪で、自身も嫉妬深い性格である。
そんな彼女の今の嫉妬の対象は宴会の主役、萃香だ。
ただでさえ大出世と妬ましい限りだというのに、旧都を挙げての大宴会の主役。
しかも自分の友人達まで付きっきりなのだから、妬ましい事この上ない。

「…本当、恨めしい程妬ましいわ」

だからと言ってパルスィには何も出来ない。
宴会芸の一つでもあれば、少しの間スポットライトを奪う事も出来る。
だがそんな事は出来ないし、出来ても精々引き立て役。
萃香が主役でいる限り、この嫉妬心は消えやしない。

「………付き合ってられないわ」

これ以上此処にいても無駄に嫉妬心を募らせるだけだ。
誘ってくれた勇儀には悪いが、やはり他人の幸せは肌に合わない。
パルスィは賑やかな宴会場からそっと席を外し、自分の住処に帰っていった。





丁度その頃、旧都より更に地底深くの地霊殿にも楽しそうな歌声が響いていた。

「た~ましい~ふ~わふわ~な~のよ~♪ ワオ!」

歌声の主は灼熱地獄跡で死体運びをしている、火焔猫 燐。通称、お燐。
彼女が押している猫車にはメイド服を着た人間と首の無い鴉天狗、更に大量の妖精の死体が乗っている。
実は先程、紅魔館の庭に大量の死体が転がっているのを発見したのだ。
おかげで地上と灼熱地獄跡を行き来するのも、今日はこれで七往復目になる。

「いや~、今日は大漁だよ! しかも上物と来た! 後は魂が残ってたら最高だったんだけどね~♪」

とても上機嫌で猫車を押すお燐。
だが大量の死体を乗せた猫車は重い。
お燐が思ってる以上に、今の猫車は勢いがついている。
そしてそういう時に限ってトラブルとは起きるもの。
突然お燐の目の前に灼熱地獄跡で火力の管理を任されている、霊烏路 空が姿を現したのだ。

「し~ろくて~…ってお空!? どいてどいて!」
「…え?」

勢いがついた猫車は急には止まれない。
なんとか回避しようとするも重い為、うまく曲がれず空に向かっていく。

「あ、危ない!」

空に猫車がぶつかる瞬間、強い衝撃がお燐を襲った。
そのまま体が宙に浮き一回転したと思えば、今度は大きな音が響き背中に激痛が走る。
痛みに耐え辺りを見渡すと、運んでいた死体が散乱している。
どうやら回避出来なかったようだ。

「ちょっと、何事!?」

そう言ってやって来たのは地霊殿の主、古明地 さとり。
さとりは二人の心を読み状況を把握すると、小さく溜め息を吐いて空に近づいて行く。

「まったく、世話の焼けるペッ……お空!!」
「いたた…どうしたの、さとりさ……!!」

空を見るや否や大声をあげるさとりとお燐。
二人の目に飛び込んで来たのは、制御棒が粉々に壊れてしまった空の姿だったのだ。
空はぐったりしたまま、ぴくりとも動かない。

「お、お空!? ど、どうしようさとり様…」
「落ち着きなさい! ……ダメ、意識がない。早く二柱に代わりの制御棒を作ってもらわないと」
「さとり様…」
「何よ、お燐。早く二柱に……」

必死にお燐を急かすさとりだったが、そこまで言ってお燐の心の声に気づく。
二柱はもう幻想郷にはいないのだと。













「…………」

宴会が始ってから、もう3日は経とうとしている。
旧都は未だにお祭り騒ぎの真っ最中だ。
パルスィはあれから旧都には行っていない。
他人の幸福など知った事ではないのだ。
今は特にする事もなく、岩に腰掛けぼーっとしている。
すると地上から一人の少女がやって来た。

「こんにちは」
「……はぁ」

今まで見た事のない少女だ。
だが何者なのかは、すぐに見当がつく。
黒いカメラと大きなマイク、間違いなく取材に来た天狗だ。

「今日は妖怪の山の代役リーダーに選ばれた伊吹 萃香さんにインタビューをお願いしに来たのですが…」
「そう…」

また萃香か、まったく妬ましい。
八つ当たりにパルスィが一睨みすると、天狗の少女は竦みあがってしまった。
腰の低い態度といい少し睨んだだけで怖気づく様といい、どうもこの天狗は取材慣れしていないようだ。
大方、鴉天狗が減り新聞のネタを集められなくなった為に回された代わりの広報要員なのだろう。
服装や法螺貝の笛を持っている事からして、印刷業をしていた山伏天狗だと考えられる。

「だったら旧都はあっちよ、目障りだからさっさと行って」
「……すみません」

山伏天狗の少女は申し訳なさそうに頭を下げると、そそくさと去っていった。
別に彼女が嫌いな訳ではないのだが今のパルスィに萃香の話題はタブー、一つ言うとすれば運が悪かったに過ぎない。
しかし此処で一日中、今の山伏天狗のような来客の相手をするのも何か癪だ。
まるで萃香の為に、受付を担当しているかのようで無性に腹立たしい。

「……あの鬼の無様な様でも見れるかしら」

もしかしたら今頃旧都では、あの鬼が酔い潰れているかもしれない。
そしたら次の地上の宴会の時にでも、話の種にして笑い飛ばしてやろう。
そう思い、パルスィは数日振りに旧都を尋ねる事にした。





あれから小一時間後、パルスィは旧都に辿り着いた。
道中見回りも兼ねていた為遅くなったが、待たせている相手もいないので別に構う事もあるまい。
見れば鬼達は未だに酒を飲み続けている。
酒好きで強い事も知っていたが、ここまでくると呆れて物も言えない。
もっとも数日間ずっと飲み続けていた訳ではない、と思いたいが。

「僕だって~何時かは~文さんみたいな~立派な新聞記者に~なりたいんですよ~…ひっく…」

先程の山伏天狗だ、もう出来上がっている。
酒に強いと噂の天狗が一時間で酔うとは、どれだけ強い酒が振る舞われているのだろうか。
それか短時間で一気に飲んだのかもしれない、死ぬぞ。

「それなのに……文さん…どうして……」

今度は泣き出した、まったく面倒臭い。
そもそも取材に来たのではなかったのか、酒飲んでる場合か。
こんな奴にこれ以上付き合うつもりもないし、鬼も絶好調で面白そうな事はなさそうだ。
無駄足を踏んだと帰ろうとするパルスィの足を、突然誰かが掴み引き止めた。

「待って下さい! 僕の話はまだ終わってませんよ~!」

山伏天狗だ、なんでこいつはやたら絡んでくるんだ。
さっさと大好きな取材でもしてろと怒鳴りたいところだが、ここは宴会場。
下手に揉め事を起こせば、こちらが酒のつまみにされてしまう。
ここは冷静にあしらいつつ、一発かまさなくては。

「はいはい、続きはあっちの鬼にでも聞いてもらいなさい」

そう言ってパルスィは山伏天狗の頭を蹴り上げた。
すると見る見る山伏天狗の顔が青褪めていく。

「…うっぷ……おえ、うげえええええええええぇぇええ…」
「ぎゃあああああ! 汚っ!」

そのまま盛大に嘔吐する山伏天狗。
突然の大災害にパルスィも慌てて山伏天狗の手を振りほどいた。
ようやく解放され逃げ出そうとするパルスィだったが、ふとある物が目に入る。
それは天狗の命とも言える、取材内容を纏めた手帖だった。

「…私ねぇ、やられっ放しって嫌なのよ」

パルスィはその手帖を拾うと、逃げるように旧都を後にした。
帰る途中、手帖をパラパラと捲りながら何か面白そうな話はないかと探ってみる。
しかし書いてあるのは山伏天狗による取材の有り触れた話と、文の記事に対する絶賛の言葉ばかり。
何も面白そうな話題はない。

「ハズレ、か……あら?」

ところが大量の文の記事の中に一つ、パルスィの目を引くものがあった。
それは幻想郷の住人にドッキリを仕掛け、その反応を楽しむというもの。
中には本人に見つかれば半殺しにされそうな恥ずかしい結果のものまである。

「これは………面白い事になりそうね」

パルスィはにやりと笑うと、意気揚々と住処へ帰っていった。





それから暫くしてこの日の宴会もお開きになった頃、地上を目指すプリズムリバー三姉妹が洞窟を飛んで行く。

「今日のライヴも大成功だったね~」
「ええ、でも浮かれちゃダメ。鬼の宴会は長い、最後まで気を引き締めていかなきゃ」
「そんな事言わずに姉さんも楽しめばいいのに、ヘビードンな気持ちも軽くなるわよ?」

和気藹藹と飛んで行く三姉妹、その心はそれぞれ思うところがあった。

「そうも言ってられない、貴方達二人を抑える者がいなくては」

ヴァイオリンを担当している長女ルナサは、今回の仕事を一種の修練だと考えている。
それというのも数日にも及ぶ大宴会での演奏など初めての事だ。
連続演奏は体力を多く消耗するが、これも技術向上の為の壁なのだろう。
きっとこの宴会を成功させれば、より繊細で上品な音を奏でられる筈なのだ。

「ちょっと~、メルラン姉さんは兎も角私もなの~?」

キーボードを担当している三女リリカは、これを機にプリズムリバーを幻想郷中に広めようと考えていた。
鬼達を満足させた楽団ともなれば知名度、人気共に鰻昇りは間違いない。
そして行く行くは幻想郷一の楽団として姉達を裏で操る演奏家兼マネージャーとなるのだ。
目指すは主演ではなく真のリーダーたる監督、それがリリカの野望である。

「私達の仕事はハッピーを振り撒く事、私達が暗いとお客さんも心にバーリヤー張っちゃうわよー?」

トランペットを担当している次女メルランは、何も考えていない。ただ純粋に演奏を楽しんでいるのだ。
自分が楽しい事をして周りも楽しんでくれる、これ程幸せな事はそうそうない。
メルランにとって演奏こそが目的で、それ以外には何もないのだ。

「それじゃあ家まで競争! のんびりしてるとダダッシュして追いてっちゃうわよ!」
「あ! 待ってよ、メルラン姉さん! 負けた人が今日の当番ね!」
「……仕方ないわね」

そう言うと三姉妹は洞窟から飛び立っていった。
三姉妹は明日も自慢の演奏を聞かせに、旧都へやって来る。
それぞれの思惑を秘めて、それぞれの目的の為に。













今日も旧都はお祭り騒ぎ、それもいつも以上の活気で溢れている。
数日続いた宴会も、ついに最終日がやって来たのだ。
明日は萃香が妖怪の山に向かう日、鬼達のテンションも急上昇している。

「ん? どうしたんだい、萃香」
「にゃはは~、ちょっとトイレ~」

そう言って席を立つ萃香。
鬼達が笑って見送る中、立ち上がり萃香の後について行く者がいる。

「なんだ、パルスィもトイレかい?」
「……そんなところよ」

その人物、パルスィは勇儀に返事をすると萃香を追いかけて行った。
一見いつものパルスィのようだが、勇儀達に見えないようにあくどそうな笑みを浮かべ笑っている。
常に宴会の中心にいる萃香が一人きりになる瞬間、この時をパルスィは待っていたのだ。
そんな事とは露知らず、旧都の厠に入っていく萃香。
パルスィは萃香が出て来るのを今か今かと待ち構えている。
そしてその時はやって来た。

「…貴方、今度山に行くって言う萃香でしょ?」
「んん? そうだけど何か用?」
「実は貴方に耳寄りな話があるのよ」





同時刻、地霊殿ではさとりが頭を抱えていた。

「私は……どうしたら……」

空はあの後、目を覚ました。
だが制御棒が壊れた事で、八咫烏の力をコントロール出来なくなってしまう。
暴走し、凄まじいエネルギーを放出し続ける空。
今は灼熱地獄跡に蓋をして、閉じ込めてなんとかしている。
しかし灼熱地獄跡が使えなければ、エネルギーが作り出せない。
今は自動運転でなんとかなっているが、燃料を送らなければいずれ止まってしまう。
このままでは地霊殿はおろか、地底全体が機能しなくなってしまうのだ。
だからと言って空が暴走している所に突っ込めば、全身火傷では済まされない。
現状の打開策、それは空を灼熱地獄跡から退かすしかないのだ。

「…でも……そんな事したら…」

今の空は非常に危険な状態だ、外に出せば被害が出るかもしれない。
そうなれば危険な妖怪として退治されてしまう可能性もある。
もし被害を出さず退治される事もなかったとしても、八咫烏の力を放出し続ければ空の身が持たない。
最悪、高圧エネルギーに体が耐えられず爆撒してしまう事も…

「……それだけは……」

かといって何もしないでいても結果は変わらない。
それどころか灼熱地獄跡がメルトダウンを起こしそうだという。
そもそも二柱のいない今、制御棒を作れる者がいるのかどうかすら分からない。
地霊殿の主としてペット一羽の為に全員の命を危険に曝す訳には、いかないのではないか。
こうしてさとりが必死に悩んでいる間も、ペット達の不安の声が頭の中に響き渡る。

『もうこれ以上は持たない、お空のエネルギーで地霊殿が吹き飛ぶ…』
『ああ、こんな事なら戸棚のおやつ食べておけばよかった…』
『…実はさとり様のおやつのクッキー食べたの、本当は私なんです』

最早、時間は残されていない。
さとりは苦渋の決断を迫られていた。

「…やむを得ないわ……お燐、灼熱地獄跡の蓋を開いて」
「そ、そんな! お空は!? お空はどうなるの!?」
「…………」
「……さとり様……」
「……今は耐えて……お空は必ず迎えに行くわ」
「…分かった、さとり様の言葉信じるよ」
「…ありがとう」

お燐は背中を向けたまま親指を立てさとりに応えると、一目散に走り出した。
さとりが空を見捨てるなんてありえない、一旦外に出すだけでまた一緒に笑い合える日が来ると信じて。
やがて灼熱地獄跡の蓋を制御しているコントロール室に辿り着いた。

「ゾンビフェアリー集合! これより灼熱地獄跡のハッチを開く! 位置につけぇい!」
「被害状況報告! 地霊殿エネルギー、現在約25%! システム起動に影響ありません!」
「システム起動! ……起動確認! システム良好! ロック解除確認!」
「ゲートシステムチェック……1…2…3番オーケイ!」
「ハッチ解放準備完了! 行けます!」
「よし! ハッチ解放!」

お燐の言葉を合図に、地霊殿の中庭にある灼熱地獄跡の蓋が開き始める。
辺りに響き渡る重低音が、さとりの耳にも届く。
しかしさとりに聞こえるのは蓋が開く音だけではない。

『…さとり様? 嘘でしょ? 待って! 追い出さないで! 見捨てないで! さとり様ああぁぁ!!』
「……ごめんなさい…」

さとりの耳に届いたのは、空の悲痛な心の叫びだった。
両手で顔を覆い必死に謝罪を述べるさとり。
だがさとりの言葉は空には届かない。

『私のせい? 私が暴れるから捨てられるの? お願い……いい子にするから……助けて…さとり様…』
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめん…なさい…」

さとりの両手は溢れる涙で濡れていた。
出来れば如何にかしてあげたい、でも実際は何も出来ない。
強い絶望感に苛まれ、さとりは一人泣き崩れていた。
その頃、地霊殿のコントロール室にいるお燐達にも危機が迫る。

「目標接近中……!! 非常事態発生!」
「な、何事ぉ!? 至急情報報告!」
「目標のエネルギーが強大すぎます! 耐熱シールドが持ちません!」
「な、なんですとぉ!?」
「第1、第2耐熱シールド機能停止! 此処も危険です!」
「くっ! 総員に告ぐ! 至急コントロール室より撤退せよ!」
「いえ! 最後までお付き合いさせていただきます!」
「ターゲットの解放を確認して、それから皆で逃げましょう!」
「…………死に損ない共め、勝手にしな!」
「隊長! 目標、来ます!」
「総員衝撃に備えろぉい!」

次の瞬間、強い衝撃と熱風がコントロール室を襲った。
ガラスは飛び散り、機械は熱暴走を起こし爆発する。
暫くして辺りが静かになると、お燐はゾンビフェアリー達の無事を確認し始めた。

「…生存者確認! 番号!」
「…1!」
「2!」
「………3」
「……4…」
「5!」
「…………ろ…く…」
「自力で動ける者は動けない者を連れて撤収! あたいはさとり様に作戦成功を伝えてくる!」

お燐はそのまま傷だらけの体を引き摺って、さとりの元へ戻って行く。
その後ろ姿をゾンビフェアリー達が何時までも敬礼して見送っていた。





一方、旧都外れの岩場では萃香が楽しそうに歩いていた。

「勇儀の親友はいい奴ばっかだね~!」

萃香がこうして上機嫌なのには訳がある。
何でも先程出会ったパルスィという妖怪の話によると、この先の縦穴に美味しい酒のつまみがあると言うのだ。
持ち帰れば自分の為だけではなく、宴会を開いてくれた勇儀達へのお土産にもなる。
萃香の気持ちも、まだ見ぬ珍味に高まる一方だ。
やがて目的地と思われる縦穴が見えてくる。
すると突然一匹の妖怪が姿を現した。

「ん? その装い、確か宴会に参加してた……」
「覚えててくれたの? 光栄だねぇ」

妖怪の正体は初日に来てから、ちょくちょく顔を出していたヤマメだった。
彼女とは宴会が初めてという訳ではないが、こうして直接顔を合わせて話すのは初めてだ。
鬼に比べると酒は弱い方らしくあまり飲んでいなかったが、どうやら今日は最終日だから参加しに行くところらしい。

「それで、この先に何か用?」
「いや~、いいつまみがあるって聞いてね~」
「誰に?」
「パルスィ、知り合いだろ~?」

パルスィの名前を聞くと、ヤマメは何か考え始めた。
やがて答えが出たのかヤマメはにっこり笑って萃香に話しかける。

「そういう事なら私が取って来てあげるよ。あんたは宴会場に帰っておあげ、主役がいなくちゃ盛り上がらないでしょ?」
「お、悪いね~。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらって…」

ヤマメの言葉を聞くと、陽気に旧都目指して歩き始める萃香。
その後ろ姿が完全に見えなくなると、ヤマメは小さく溜め息を吐いた。

「…これさえなけりゃ、いい奴なんだけどねぇ」

パルスィが案内した縦穴は灼熱地獄跡の真上にある。
あそこは溜まった熱を逃がす為、定期的に熱風が吹き抜けるのだ。
知っていれば回避も容易いが、何も知らないと突然来た熱風に飛ばされ地上まで出てしまう。
大方パルスィの企みは、萃香の失敗談を話題にして恥でも掻かせてやろうってとこだ。

「さてと、一応見に行くか」

嫌がらせには手を抜かないパルスィの事だから、何か置いてあるかもしれない。
態々仕込んであるなら、完全に無視はちょっと可哀想だ。
それに罠だったら取り除いておかないと、何も知らない妖精が引っかかる可能性もある。
ヤマメは苦笑いしつつ、縦穴に向かって飛んで行った。

「はい、到着」

とは言っても縦穴は先程の場所から目と鼻の先、飛ばずともすぐに辿り着く。
早速覗いてみると、そこには面白い光景が広がっていた。

「こりゃご親切にどうも」

なんと縦穴には干し肉がぶら下がっていたのだ。
ご丁寧に熱風で美味しい燻製になっている。
確かに話し通り、美味しい酒のつまみがあった訳だ。
これだからパルスィは憎めない。
本気で誰かを陥れるつもりなどない、ただ少し羨ましくてしてしまう事なのだ。
時々本当に酷い事になる時もあるが口では懲りてないように言ってても、内心は深く反省している。
パルスィはそういう奴なのだ。

「だから私も友達やってるんだけどね」

あらかた燻製肉を回収するとヤマメは穏やかに微笑んだ。
騙すつもりならこんなもの、仕掛ける必要などないのに。
もしかしたら心の中では一緒に宴会を楽しみたいという、メッセージなのかもしれない。

「そろそろ時間かな」

時期に熱風が吹き抜ける、一旦やり過ごしてから旧都を目指そう。
そう思いヤマメは、熱風を回避出来る岩陰に身を潜めた。

「………?」

だが何かおかしい。
今日はいつにも増して異様に温度が高い。
不思議に思い縦穴の底を覗いてみると、そこには真っ直ぐこちらに向かってくる炎の塊が…。













「続きまして『華のさかづき大江山』、お聴き下さい」
「いっくよ、リリカ! 次の曲はリリカのソロパートもあるからノリノリでノッテコーよ!」
「うん、訳分かんない。でも任せて、メルラン姉さん!」

あれから数分後、パルスィは宴会を楽しんでいた。
プリズムリバーの演奏に耳を傾けながら酒を口に運ぶ。
その頭の中では熱風に飛ばされ涙目の萃香を想像して、口元を吊り上げている。
他人の不幸をつまみに飲む酒程、美味しい物はない。
パルスィは今回の宴会始まって以来、初めて楽しいと感じていた。

「お待たせ~」

噂をすれば何とやらだ。この声はあの子鬼のものに他ならない。
一体どんな無様な格好をしているだろうか。
煤だらけで苦笑いしつつの登場か、もしかしたら肌蹴た状態で赤面かもしれない。
パルスィはそんな想像をしつつ、わくわくしながら振り返った。

「あら、遅かった……じゃない?」

ところが萃香の姿は綺麗そのものだった。
煤どころか汚れ一つ見当たらない。
まさかあの初見殺しをあっさりかわしたというのだろうか。
パルスィが疑惑の目で萃香をじっと睨んでいると、萃香の方から近寄って来た。

「な、何?」
「いや、つまみだったら後から来るよ」
「は?」
「ヤマメが取りに行ってくれたんだよ」
「……あぁ~」

そういう事なら納得がいく。
ヤマメは時々、こちらの計画を邪魔しに来るのだ。
別に邪魔されて怒っている訳ではないのだが、なんか面白くない。
それを言っても逆に、他人を妬んで騙すのはよくないと説教される始末だ。
ヤマメの言ってる事は間違っていないと分かっているので、反論出来ないのが余計に辛い。
今回はこちらの負けだ、諦めて自棄酒に走るとしよう。
そんな事を考えていると、キスメが酷く慌てた様子でやって来た。

「何? 今日は気分が悪いの、明日にしてくれる?」
「…………! …………!!」
「…えっ!?」
「ん? 今その子、何か言った? 声が小さくて聞こえなかったんだけど」

きょとんとしている萃香を置いて、深刻な表情で話を進めるパルスィとキスメ。
なんとか話しに入れないだろうかと考えていると、パルスィが真っ青な顔で振り返った。

「や、ヤマメが………」





キスメの話によると縦穴を突然炎の塊が通り過ぎて行き、辺りを火の海に変えていったらしい。
その結果、縦穴にいたヤマメは巻き込まれて落下。
下にいたゾンビフェアリー達が見つけて知らせてくれたおかげで、キスメも事を知ったそうだ。

「ヤマメ!」

宴会場から地霊殿に急いで駆け付けたパルスィ達の目の前に、一ヶ所に集まるゾンビフェアリー達が映り込んだ。
ゾンビフェアリー達はパルスィ達の姿を見ると、一斉に飛び立ちその場から離れる。
そこには真っ黒に焼け焦げたヤマメの姿があった。

「…うっ……これは…」
「…………!! …………!!!」
「ヤマメ! 目を覚まして! ヤマメぇぇ!」

最早言われなければ誰だか分からない程の惨状に、思わず目を伏せる勇儀。
隣ではキスメとパルスィが必死に手を握り話しかけている。
すると黒焦げになっていたヤマメが微かに動いた。

「!! ヤマメ!」

ヤマメの反応に、パルスィの手を握る力も自然と強くなる。
それに応えるかのようにヤマメは薄らと目を開くと、パルスィの方を向いて呟いた。

「……パルスィ…」
「何!? 欲しい物があるなら何でも言って!」
「…もう…こんな事しちゃダメよ……」
「分かった、もうしない。…だから………ヤマメ?」

そう言うと握り締めていたヤマメの手から力が抜けていき、パルスィの手をすり抜け床に落ちた。
もう目も閉じられ言葉も紡ぎ出さない。
ヤマメからは生物の動きといえるものが失われてしまっていた。

「嘘…でしょ?」
「…………! …………!! ……ヤマメぇ……!」
「そんな…こんな事……ヤマメえええええええぇええぇぇ!!」

泣き叫ぶパルスィの周りには宴会に参加していた者たちが集まっていた。
その誰もが宴会の時とは違い、悲しそうな表情で涙を目に浮かべている。
そんな中一人、一歩引いた場所からパルスィ達を見ている少女がいた。

「また……私の鬱の音が悲劇を生みだしてしまった……」

そう呟くと少女、ルナサはふらふらと何処かへ去って行ってしまった。













此処は永遠亭の景観を損なわない為に、地下に造られた医療施設。
正面の大きな鉄の扉の向こうでは、今まさにヤマメを助ける為の手術が行われている。
今パルスィ達に出来る事は何もない。
ただ手術中と書かれたランプが赤く灯る真っ暗な廊下で、その時を待ち続けるしかなかった。

「…………」

廊下にいる者誰一人として口を開こうとせず、場を重い空気が包み込む。
それもそうだ、この事故は幾つもの偶然が重なって起きてしまったのだから。

「………」

萃香は話しかけられなかった、もしあの時自分が行っていればこんな事にはならなかったと思って。
勇儀もまた喋り出せずにいた、不用意に口を開けば萃香を傷つけてしまうような気がして。

「………」

萃香と勇儀の隣ではお燐が頭を抱えていた。
あの時、進路を確認していれば事前に防げた事故だったのではないか。
ちゃんと確認してから蓋を開けばよかったのではないのかと。

「………」

手術室の扉の前ではキスメが祈るように手を合わせている。
そんな様子をパルスィは虚ろな表情で眺めていた。
今回の事故、どう考えても責任は自分にある。
最初から嫉妬に駆られてこんな事さえしていなければ、ヤマメもこんな目に遭わずに済んだのだ。
ヤマメを襲ったのは自分と言っても過言ではない。
そうやってずっと頭の中で自分を責め続けていると、手術中と書かれたランプの灯りがふっと消えた。
同時に手術室の中から八意 永琳が姿を現す。

「あの、永琳。ヤマメは……」
「…………」

パルスィの問いかけに、永琳は何も言わずただ首を横に振った。
途端にパルスィの顔から生気が失われていく。

「そ、そんな……」
「こちらも全力を尽くしたけど思った以上に損傷が酷く……お悔やみ申し上げます」

一礼すると、永琳はそれ以上何も言わずに手術室に戻っていった。
すると今までの静けさが嘘のように騒がしくなり始める。

「私のせいだ! 私が行ってれば霧になってかわせたのに!」
「す、萃香!」
「違うよ! あたいがチェックを怠らなければ!」
「お燐もやめなよ! 誰も犯人探しなんかしてないだろ!」
「だって! だってヤマメは!」
「…………。…………うわあああああぁぁん」
「ああ、あたいはどうしたら…」
「な、何だよ…そんな……私だって…」

次々に飛び交う己を責める言葉。
響き渡るキスメの泣き声。
後悔と懺悔の喧騒の中、ヤマメを失ったショックでふらついたパルスィの懐から何かが零れ落ちた。
それは天狗の手帖、パルスィが持ち込んだ全ての惨劇の始まり。
その瞬間、パルスィの中で何かが音をたてて崩れ出した。

「ふふ、ふふふふふ。あはははは!」
「ぱ、パルスィ!?」
「そうよ、こんな事ある筈ないじゃない! 見事に騙されたわ!」
「…何を言って」
「私を反省させる為のドッキリなんでしょ!? 凄いわ勇儀、貴方にこんなに演技力があるなんて知らなかったわ!」
「……パルスィ…」
「あ~あ、思いっきり騙されちゃった! でもここまでされると、かえって清々しいわ」
「…………」
「ほらほら、貴方も出て来なさいよ! どうせドッキリでした~って言うんでしょ!? ほら、はやく」

そう言って手術室の扉を叩くパルスィ。
これ以上は見ていられないと言わんばかりに、勇儀はパルスィに駆け寄ると肩を掴み目を合わせた。

「な、何よ」
「パルスィ! ヤマメは死んだんだ! もういない! …辛いかもしれない、けど現実と向き合わなきゃ…」
「…嘘よ…」

その場に膝をつき、パルスィは力無く座り込む。
大きな瞳からは涙を流し、されど表情は驚愕のままで。

「嘘、全部嘘よ。だってヤマメがし、死んだ、死んだなんて、ヤマメが、そんな事、ヤマメ、ヤマメが」
「パルスィ……」
「だって、私、ヤマメが、なんで、殺した? 私が殺した? ヤマメを、なんで? 私が? ころ、殺し、私」
「!! 気をしっかり持って! パル…」
「私が、ヤマメを、なんで? 私、私は、ヤマメが、私、殺し、私が、私? 私は? パルスィ? 私? ヤマメは?
 私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は
 私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は
 私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私
 私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私
 私私私私わたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわた
 わたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわたわた…」













気付けばパルスィは部屋の中にいた。
自分の部屋かもしれないが、暗くてよく分からない。
目の前には鏡があり、後ろにはベッドが置いてある。
あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。
永遠亭にいたところから先の記憶が完全に抜け落ちている。
時計を見ようにも暗くて分からない。
辺りには誰の気配もないので人に聞く事も出来なそうだ。
今は昼なのか、それとも夜なのか。
そんな事を考えながら部屋を見渡していると、突然何者かの姿が視界に映った。

「!!」

慌てて離れると、そいつもこちらと距離をとる。
どうやら向こうにとっても予期せぬ遭遇だったらしい。
よく見るとそいつの顔には見覚えがある。
金髪に緑の瞳、間違いない。

「ヤマメの仇ッ!」

こいつが卑劣な方法でヤマメを殺したのだ。
ヤマメが死んだというのに、こいつはのうのうと生きている。
そう思うと無性に腹立たしく思えてきた。

「…あんたが死ねばよかったのよ、このウジ虫!」

罵声を浴びせても相手はこちらを、じっと睨みつけているだけだ。
その態度がまた気に入らない。

「何よ、自分が何をしたか分かってるの!? ヤマメを殺したのよ!? それで自分は生き続けるつもり!?
 いい加減にしなさいよ! あんたが今までどんだけ周りに迷惑かけて来たと思ってるの!?
 それでこの仕打ち! 恩を仇で返すとはよく言ったものね! あんたなんか妖怪の風上にも置けないクズよ!
 あんたが死んだって誰も困らないのよ! むしろ皆喜んでくれるわ!」

咄嗟に使える物がないか、近くにある物に手を伸ばす。
掴んだのは食器のスプーン、武器としては今一つだが十分だろう。

「だから死になさい…。それにあんたのその目、昔から気に入らなかったのよ。
 周りを不幸にして自分だけ幸せになろうっていう、魂胆が透けて見えるのよね。気に入らないわ。
 まずその目を叩き潰してから殺してあげるわ、外道に相応しい最期でしょう?」

スプーンを持つ手が震える。
だがここで引く訳にはいかない。
このままこいつを生かしておけば、また犠牲が出るかもしれないのだ。
覚悟を決め、思いっきりスプーンを振りかぶり大声を出す。

「…死ねええええええぇぇええぇ! パルスィ!!」

そう言うとパルスィは、スプーンで自分の目玉を抉り出した。


































  • 見えない何かのせいで、うまくいってないだけで、
    この作者のキャラは基本的にみんな仲間思いだったり、
    善良なんだよな……。 -- 名無しさん (2010-11-02 00:32:21)
  • パルスィ… -- 名無しさん (2015-12-30 07:10:39)
  • メタナイトの逆襲ネタで吹いた -- 名無しさん (2016-03-23 08:42:49)
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