※このSSには独自の設定やキャラの崩壊、グロテスクな表現が含まれています。そういった展開が苦手な方はご注意ください。
28スレ448『天衣無縫』までの続きです。


































その日もフランドール・スカーレットは一人ぼっちだった。
小さな照明だけが照らす薄暗い彼女の部屋を尋ねる物好きはそうはいない。
今日も遊び相手になるのはボロボロのぬいぐるみだけだ。
きっとこんな退屈な日が明日も続くのだろう。
明日も明後日も一人ぼっちの薄暗い部屋の中で過ごすのだろう。

「つまんないなぁ……」

今まで遊び相手になっていたぬいぐるみは綿が飛び出し、もう使えそうにない。
せめて新しいおもちゃを用意してくれないだろうか。
そう思い開かないと分かりつつも、固く閉ざされた扉に手をかけた。

「ねぇ、お姉様。何か新……あれ?」

しかしいつもは取っ手を握っただけで感じる結界の魔力が今日は感じられない。
もしかして外出許可が出たのだろうか。

「お姉様! ………?」

ところが勢いよく開けた扉の向こうには誰もいなかった。
いつも外出許可が出た時は必ず、フランの姉であり紅魔館の主であるレミリア・スカーレットと
レミリアの親友で結界を作り出しているパチュリー・ノーレッジがいて知らせてくれる筈である。
だが今日は監視役の妖精メイドすらいない。

「…………」

何故か胸騒ぎがする。
自分の知らない所で大変な事が起こっているのではないだろうか。
嫌な予感に突き動かされ、フランは暗く静かな廊下を全速力で飛んでいった。





「お姉様……」

程なくしてフランはレミリアの部屋の前に辿り着いた。
中からはレミリアの他、大勢の見知った気配が感じられる。
慣れ親しんだ者達の気配に少し安心しつつ部屋の扉を開こうとした瞬間、

「これは…どういうつもり?」

レミリアの怒気を含んだ声が響き渡った。
もしかして勝手に部屋を出た事を怒っているのだろうか。
恐る恐る扉を開け、なんとか弁解しようと試みるフラン。

「あ、あの……これは…………ッ!!」

しかし僅かに開いた扉の隙間から見えた光景は、フランが予想だにしなかったものだった。

「見ての通りですわ、お嬢様」
「……咲夜…」

そこにはレミリアを取り囲むように武器を持った妖精メイドとそれらを指揮するメイド長、十六夜 咲夜。
そしてパチュリーとその使い魔、小悪魔の姿があった。

「本日をもって紅魔館は私、パチュリー・ノーレッジの物になったわ」
「ふざけるな!!」
「ふざけてなんかいないわ。これは列記としたクーデターよ」
「なっ!!」
「お嬢様、私達はもう貴方の我儘にはついていけませんわ」
「他の方々もパチュリー様について行くそうです。貴方の味方は何処にもいませんよ?」
「そういう事よ、レミィ。大人しくしてくれれば楽に死なせてあげるわ」
「…くっ!」

パチュリーの反乱宣言が終わると咲夜が前に出てナイフを構える。
その刃先は確実にレミリアの心臓を狙っていた。

「それではさようなら、お嬢様」

そう言うと咲夜は真っ直ぐレミリア目掛けてナイフを投げた。

「お姉様危ない!」
「フラン!!」

しかしナイフはレミリアに当たる前に粉々に砕け散った。
部屋に飛び込んだフランがナイフを破壊したのだ。

「妹様…」
「どうしちゃったの、咲夜! お姉様だよ!? あんなに慕ってたじゃない!」
「………」
「パチュリーも! 親友だったんでしょ!? なんでこんな事するの!?」
「………」
「皆も目を覚ましてよ! お姉様が分からないの!?」
「…え? 私、その他大勢ですか?」
「フラン、何を言っても無駄よ」

必死に説得しようとするフランを止めるレミリア。
そのままフランを抱き上げると、大きく翼を広げ飛び立つ準備を始める。
それを見て一斉に戦闘態勢をとるパチュリー達。

「お姉様!?」
「外に出るわよ、ここじゃやりにくい」
「簡単に逃げられると思ってるの!?」
「簡単にとは思ってないさ」

その瞬間、凄まじい閃光が赤い部屋をより紅く染める。

「…ッ! 『不夜城レッド』!!」
「まだだ!」

間髪入れずグングニルを構えたレミリアが一直線に向かっていく。
止めようとする咲夜達だったが、不夜城レッドが目暗ましになりうまく狙う事が出来ない。
そのまま逃げ遅れた数名の妖精メイドを塵に変え、レミリアは部屋から飛び立っていった。

「……やってくれたわね、レミィ」

紅魔館からの脱出を試みるレミリアは、大広間を目指して廊下を進む。
途中邪魔をする妖精メイドもいるが、グングニルの前では紙の壁に等しい。
何の障害もなく大広間に辿り着いたレミリアは出口の扉を開けようと手をかけた。

「フラン、外に出たら貴方は逃げなさい」
「ど、どうして!? 私も戦う!」
「貴方が本気で暴れたら紅魔館が消えて無くなるわ。心配しなくてもあれぐらい私一人で十分よ」
「……でも…」
「私の言う事をききなさい、分かったらわた」

その時、突然レミリアの姿はフランの前から消えてしまった。
同時に凄まじい轟音が大広間に響き渡る。

「……お姉様ああぁ!!」

普通の人間だったら確実に見逃していたであろう。
だがフランは確かにその目で捉えていた。
廊下から猛スピードで走ってきた紅魔館の門番、紅 美鈴がレミリアを蹴り飛ばし壁に叩きつけたところを。
そしてフランは気付いていた。
美鈴はすでに自分の背後に回り込んでいる事を。

「すみません、妹様」

一言そう呟くと美鈴はフランの首に手刀を当て、その意識を闇の中に沈めた。

「終わりましたよ、咲夜さん」

美鈴が合図をすると、どこからともなく咲夜が姿を現した。
咲夜の表情は若干不機嫌なのか、どこかムッとしている。

「計画ではお嬢様が扉を開けたところを私のナイフで仕留める筈よ。何故勝手な事をしたの」
「わ、私だって見せ場の一つぐらいほしいですよ」
「あっそう。それじゃ私が止めを…」

そう言って咲夜はナイフをレミリアの心臓に向ける。
すると美鈴の顔から一気に血の気が引いていった。

「ちょ、ちょっと待ってください!」
「何? まさか止めまで私が刺すなんて言うつもりじゃないでしょうね」
「いえ、ただお二人は幻想郷では希少な吸血鬼。利用価値があるのでは…と」
「………そうね。パチュリー様が魔法の材料にするかもしれないわ、牢獄に入れましょう」

咲夜の言葉を聞きほっと胸を撫で下ろす美鈴。
そんな美鈴に咲夜は指示をし、レミリアとフランを牢獄へと運び入れさせる。
一方で咲夜は、ただじっと美鈴を監視するように後をついて行った。





「…ラ………ラン…」

真っ暗だった視界が少しづつ明るくなっていく。

「……フラ………ラ…」

誰かの呼ぶ声が頭の中で響き渡る。
確かこの声はたった一人の姉妹の…

「フラン! フラン!!」
「……お姉…様…?」
「よかった……無事だったのね…」

その言葉で一気に意識が鮮明になった。

「ここは……」

辺りを見渡すと真っ暗な視界の中に鉄格子が映り込む。
どうやら牢屋に入れられてしまったようだ。
両腕は鎖で吊り上げられ、足には大きな鉄球が繋がれている。
どちらも輪の部分が銀で出来ており、更に吸血鬼用の弱体化魔法まで施されているようだ。
自力で脱出する事は難しい。かと言ってレミリアに頼る事は出来そうにない。
声のした方向から考えて、同じように捕まっているのだろうから。

「だから言ったじゃないですかぁ、気絶させただけだって」

突然響いた声についビクッとするフラン。
だが無理もない、声の主はさっき自分を倒した美鈴なのだから。
どうやら美鈴はレミリアの牢屋の前にいるらしい。

「フランが目を覚ましたらちゃんと話すと言ったな。洗い浚い説明しろ」
「うっ……そんな睨まなくても……いえ、私のした事を考えたら仕方ないですね」

どうも先程から気になって仕方のない事がある。
美鈴からは咲夜やパチュリーが放っていた敵意や殺気が全くしないのだ。
そのせいで美鈴が近づいてきた事にも気がつかなかった。
気の使い手である美鈴なら殺気を隠す事も出来るだろうがそうじゃない。
咲夜達とは違い明らかに反乱に乗り気じゃないのだ。
恐らく先程襲ったのも何らかの理由あっての事。
レミリアもそれが分かってるから美鈴から聞き出そうとしているのだろう。

「私にも詳しい事は分かりません。ある日突然パチュリー様が紅魔館を乗っ取ると言い出して……
 その時にはもう咲夜さんも反乱側にいました、理由は分かりません。勿論反対する者もいました。
 しかし反対した妖精メイドは皆殺されました、どうせ数が減っても分からないだろうって……門番隊の子も…」

そこまで話すと美鈴は顔を伏せ小刻みに震え出した。
ここからでは分からないが、恐らく泣いているのだろう。
やがて落ち着いたのか、顔を上げると再び話し始める。

「…すみません、取り乱しました。……それで私はパチュリー様の目的を探る為、仲間になったフリをしていたんですが
 計画が早まり結局何も出来ないまま………本当にすみません」
「もういい。それより錠を外せ、私がけりをつける」
「それは……出来ません」
「ッ!!」

美鈴の返答が余程予想外だったのか、レミリアの気に動揺が混ざる。
しかしそれも一瞬の事、すぐに冷静さを取り戻した。

「……どういう事だ」
「今のお嬢様では咲夜さんには勝てません」
「………私が従者に負けると?」
「今回の事件は今までの弾幕ごっことは違います、お嬢様には……覚悟をしてもらわなくてはなりません」
「…私に咲夜を殺せと言っているのか。私は暴君ではない。咲夜には再び主従関係を教え込む、それだけだ」
「しかしそれでは………」

結局その日、美鈴が錠を外す事はなかった。
美鈴の言う事はもっともだ、咲夜は手加減して勝てる相手じゃない。
ましてや咲夜に勝ってもパチュリーがいる、咲夜に苦戦していては勝利は絶望的だろう。
そんな事はレミリアも分かりきってる筈だ。
それでも本気にならないと言うのはプライドからか、それとも本当に咲夜達の事を大切に思っているからか。
レミリアの想いを考案しながらフランは眠りについた。













それから数日間、監禁生活が続いた。
食事は僅かな血液のみ、辛うじて生き永らえる程度のものしか与えられない。
このままでは日を追うごとに体力が落ち、抵抗する力も失ってしまう。
美鈴も焦りを感じ始めているようだが主人を犬死させる訳にはいかないと出してはくれない。
そんな日が続いたある夕暮れ時、まだ夢の中にいるフランを他所にレミリアは話を切り出した。

「美鈴、もう限界だ」
「いけません。このままでは最悪全滅です、今は状況が好転するのを待って…」
「今までどれほど待ったと思ってる。結局霊夢も紫も姿を現さなかった、助けを待っても無駄だ」
「…………」
「よく聞け、私の運命視では今宵を逃せば私達は死ぬ! フランも! お前もだ!」
「……!!」
「咲夜が強いのは私が一番分かってる、殺さずに勝つのは至難の業だろう。
 それでも私は咲夜を殺さない! 私が生き残る時は全員そろってだ!」
「しかし……」
「美鈴、お前はフランを守れ。私が倒れてもフランがいればスカーレット家は滅びぬ」
「…お嬢様……」

レミリアの誰も殺さずに勝つという覚悟は本物のようだ。
その為に自分の身が危険に曝されようとも、この我儘な主人は考えを変えるつもりはないだろう。
美鈴は少しの間目を瞑り、一度大きく息を吸うと牢の鍵を取り出した。

「…どうしても行くのですか?」
「当たり前だ、今動かなければ待っているのは破滅しかない。…確かにこの選択の結果は私の運命視でも分からない。
 だが私は例え望みが薄くても戦う! 全員生き残れる可能性に賭けて!」
「……分かりました」

そう言うと美鈴はレミリアの牢の鍵を開け、錠を外す。
そして翼を広げ、飛び立とうとするレミリアに深々と頭を下げ見送った。
レミリアの覚悟が咲夜に届くと信じて。





美鈴と別れたレミリアは一直線にある場所を目指す。
そこは時計台の入口、紅魔館と時計台を行き来する為に必ず通る大広間だ。
襲いかかる妖精メイドを軽くあしらいながら大広間へと辿り着いたレミリア。
上を見上げればどこまでも続くような螺旋階段が続いている。
よく見ると時計台の暗闇の中に何か光る物がある事に気づく。
それが何なのか考えるまでもないと言わんばかりに華麗に一歩下がるレミリア。
するとレミリアが立っていた場所に上空から降ってきたナイフが深々と突き刺さった。

「不意打ちとは礼儀がなってないな」
「人が化け物と戦うのに礼儀など必要ないでしょう」

そう言って何もない所から現れたのはレミリアが此処に来た理由、咲夜だ。
咲夜は瀟洒な笑みを浮かべ、レミリアに近づいて行く。

「何故態々私の所へ?」
「私は好物は先に食べる主義でね」

その言葉に咲夜はくすりと笑うと戦闘態勢に入る。
手には数本のナイフ、勿論それだけではない。
戦いが始まると同時にナイフの雨がレミリアに襲いかかるだろう。

「その趣向、間違いだったと教えて差し上げますわ」
「教わるのはお前の方だ、誰が主人か思い出させてやる」

何度も言うが咲夜は強い。
銀のナイフを巧みに使い時も操る咲夜には、本気を出しても五分五分だろう。
更に殺さずにともなれば勝機は1%にも満たない。
それでもレミリアは戦う。
己のプライドの為、愛しき従者の為、そしてあの穏やかで幸せな日々を取り戻す為。

「来い! 咲夜! 必ずお前を取り戻してみせる!」
「出来もしない事を大層に語るのは威厳に響きますよ、お嬢様!」













あれから数時間後、辺りも真っ暗になった頃フランは目を覚ました。
気付けばすぐ傍で美鈴が何かしている。
すると突然ガシャンという音がして、同時に体が自由になった。

「……美鈴?」

錠が外れたのを確認すると美鈴はゆっくりと立ち上がる。
そしてフランを牢の外に出すと、じっとその姿を見つめた。
フランを見つめる美鈴の目には、何か強い決意が感じられる。

「妹様、すぐにお逃げ下さい」
「…お姉様は?」
「先に脱出されました」
「………」
「…………」
「…………分かった」
「ありがとうございます」

そのままフランは何も言わず、牢獄の出口に向かって飛び立っていった。
フランの後姿が見えなくなると美鈴は静かに振り返る。
そして暗闇の向こうを睨みつけた。
こちらに少しづつ近寄ってくる殺気の主に応えるように。

「やっぱり裏切ったわね」
「裏切ったなんてとんでもない、私の主人は今も昔もお嬢様だけです」

そう言いながら暗闇から姿を現したのはグリモワールを持ったパチュリーだった。

「退いてくれる? 妹様を始末しなくちゃならないのだけど」
「ははは、退けと言われて退いたら私門番クビになっちゃいますよ」

笑ってはみたものの状況は最悪だ。
パチュリーの後ろには武器を構えた、生気のしない不気味な気配が無数に並んでいる。
何者かは分からないが吸血鬼を殺すと言ったからには、武器は銀と見て間違いないだろう。
そしてパチュリーも吸血鬼が苦手とする流水を扱える。
今パチュリーをフランに会わせる訳にはいかない。

「貴方も死にたくないでしょ? 私もくだらない事で消耗したくないの。お互いにとって無駄な争いだと思うけど」
「無駄……ですか」

レミリアは無駄死に終わるかもしれないのに戦う事を選んだ。
ただ来るかも分からない助けが来る事を待つのではなく、自分の力で未来を切り開こうとしている。
それなのにどうしてここで引く事が出来ようか。
自分はレミリアに忠誠を誓った時、レミリアの為に戦う事を選んだ筈だ。
そのレミリアの出した命令は『フランを守る』事。
ならば最初から答えは決まっている。

「私は……紅魔館の門番、紅 美鈴! 我が主、レミリア・スカーレットの命により! 此処から先は通さない!」
「……そう、なら望み通り死になさい!」

パチュリーが合図をすると背後にいた軍団が一斉に美鈴に襲いかかってきた。
その数は百近く、とてもかわしきれそうもない。
しかも一発でも当たってしまえば隙が生まれ、一瞬で針鼠のようになってしまう。
咲夜のナイフなら気で弾く事も出来たが、持ち主がいる為それも出来ない。
どうやら消耗どころかパチュリーに何もさせる事も出来そうにないようだ。
だが後悔はしていない。
ここで戦う事でフランが逃げる時間を少しでも稼ぐ事が出来る。
今は一分一秒でも長く耐え『フランを守る』事に集中しなければならない。

「お嬢様…妹様……どうか、ご無事で………」

美鈴は一人静かに百の大軍に身構えた。





「ごめんね、美鈴」

フランは紅魔館の中を全速力で飛んでいた。
しかしそれは脱出の為ではない。

「でも美鈴も嘘ついたんだからお相子だよね」

フランが目指しているのはレミリアの気配である。
美鈴はすでに逃げたと言っていたが、プライドの高い姉が先に逃げるなどありえない。
実際レミリアは紅魔館の中で戦闘中だ。

「私だってお姉様が死んじゃうのは嫌だよ……」

例え怒られても加勢したい。
そんな想いでフランは真っ直ぐレミリアの気配のする時計台を目指すのだった。













目指す時計台が窓の向こうに見えるその姿を少しづつ変えていく。
より巨大に、より威圧的にフランの瞳に映り込む。
だがフランはそんなものは気にも留めず時計台を真っ直ぐ目指す。
その時、フランの目の前に見慣れない人間が姿を現した。

「…!!」

咄嗟に警戒しレーヴァテインを取り出すフラン。
しかし相手は両手を上げ敵意がない事を必死にアピールしている。

「待ってくれ、私は争いに来た訳じゃない。吸血鬼と戦うのに夜に一人で来る者はいないだろう?」
「……お前、誰だ」
「私は上白沢 慧音、人里で寺小屋を開いている」
「慧音…?」

確か何時だかレミリアが月を隠した犯人を探しに行った時、里を守っていたと話していた半獣だ。

「…何の用?」
「今日は頼みがあって来た。お願いだ、里の子を解放してくれ…」
「里の子?」

どうやらパチュリー達は人里にまで手を出しているらしい。
霊夢達を敵に回すつもりなのだろうか。
そんな事になれば紅魔館どころではなくなるだろうに。

「タダでとは言わない、替わりに私が捕まろう。自慢ではないが私は里ではそれなりの地位にある半獣だ。
 食料としても珍しく見せしめとしても効果がある筈だ。だから……子供は……子供だけは………」

必死に縋り付く慧音にどうしたらいいのか分からず戸惑うフラン。

「……話ぐらい聞くよ」

先を急いではいるものの、とてもじゃないが放って置く事は出来やしない。
とりあえず話を聞き、誤解を解いてからにしよう。
あのレミリアがあっさり死ぬ事もないだろう、少し遅れても大丈夫。
そう考えフランはレーヴァテインをしまい、その場に腰を下ろした。





慧音の話によると数日前、突然里の子供が行方不明になる事件が起き始めたらしい。
子供達は何処かに出かけた訳でもなく夜中のうちに忽然と姿を消してしまう。
妖怪の仕業の可能性が高いと考えた慧音と里の大人達は夜中の警備を強化する。
だが一向に犯人は見つからず手掛かりも何も掴めずにいた。
そんなある日、警備中の里の男が子供を抱えている女性を発見する。
呼ばれた慧音が駆け付けてみると、その女性は咲夜だった。
咲夜は、ある目的の為に子供を戴く、取り返したければ紅魔館まで来いと言い姿を消す。
だが取り返すと言っても里の人間全員で挑んでも門番の美鈴にすら勝てるかどうか。
レミリア相手となれば殺されに行くようなものだ。
そこで慧音が交渉に出る事にした。同時に里の者が霊夢に助けを求めに行く。
暫く経っても連絡がなかった場合、交渉決裂として霊夢が実力行使に出るという作戦だ。
最初から霊夢に頼めばいいのではと言う里の者もいた。
だが態々来いと言ったからにはそれ相応の戦力を出してくるに違いない。
そうなれば例え霊夢と言えど苦戦は避けられないだろう。
そこでまず慧音が交渉として乗り込み里の子の安否を確認。
次に霊夢が攻撃、その隙に慧音が里の子を連れ逃げる。
それが慧音が里の人間に話した作戦だ。

「…作戦を吸血鬼の私に話していいの?」
「こんな策で出し抜けるとは最初から思っていない。だが里の子供に手を出したと知ったら霊夢は全力で潰しに来るだろう。
 そうなればお互いの被害は計り知れない。……勘違いしないでくれ、脅そうという訳じゃないんだ。
 ただ…私は怖いんだ…再び里が殺伐とするのが………あの時は…私のせいで里が分裂しそうになった…。
 私は……それを避ける為という大義名分を盾に……自分の…罪を…隠したんだ……。
 許されない事は分かっている! だから私はどうなっても構わない! 里の為なら喜んでこの身を奉げよう!
 だが……里の子達には罪はないんだ……頼む……」

涙ながらに頭を地につけ必死に哀願する慧音。
もしかしたらこの人間は信用出来るかもしれない。
フランの中にそんな感情が生まれた。

「……本当の事、話すよ」

フランは慧音がそうしたように全てを話した。
紅魔館がクーデターにあった事。
自分とレミリアがついさっきまで監禁されていた事。
そして今まさに反乱側と戦いに行く所だという事を。

「……そんな事が…」
「だから私達がこの戦いに勝ったら里の子も解放する。……そういえば私達が捕まってた牢獄に…もしかしたら…」
「!! そ、その牢獄は何処に!」
「そこの角を曲がった所にある階段を下りて真っ直ぐ。美鈴が何か知ってるかも、私に訊いたって言ってみて」
「あ、ありがとう……恩に着る!」

そう言うと慧音は急いで地下牢獄へ向かって行った。
自分もこうしてはいられない、美鈴の為にも慧音の為にも早くこの戦いを終わらせなければ。
フランは慧音を見送ると時計台目指して飛んで行った。













フランが慧音と話をしていた丁度その頃、時計台ではレミリアと咲夜が死闘を繰り広げていた。

「『千本の針の山』!!」
「ッ!!」

レミリアの放つ無数の弾幕と咲夜の放つ無数のナイフが、空中でぶつかり弾け飛ぶ。
だが爆煙の向こうに咲夜の姿がない事を知ると、レミリアは体の一部を蝙蝠に変え始めた。
すると蝙蝠となり空洞になった部分をナイフが通り抜けて行く。

「さすがですね、お嬢様」
「……当たり……前だ…」

見た目にはお互い傷を負っている互角の状況に思えるが実際は違う。
レミリアの傷は、咲夜の必殺の一撃をかわしきれなかった時のもの。
対して咲夜の傷は、止めを刺す為に敢えて弾幕に突っ込んだ時のものだ。

「ここまでよく頑張ったと思いますよ? ですが粘り強いのと諦めが悪いのは違います」
「………」

咲夜もレミリアに殺意がないのが分かっていた。
だからこそ弾幕に突っ込むなんて戦法が使えたのだ。
確かにレミリアは強い、弾幕勝負でも本気の殺し合いでも。
だが殺す気の相手に弾幕のみの攻撃では分が悪すぎる。
咲夜にはレミリアが本気を出さない限り負ける要素がない。
それがこの数時間の戦いに、咲夜が出した答えだった。

「お嬢様の理想は叶いません、絶対に」
「………一つ…」
「え?」
「一つ、訊かせてほしい…」
「遺言でしたら私が責任を持ってお伝えしますわ」
「私を…裏切った理由はなんだ…」

レミリアの発言に咲夜は鼻で笑う。
そんな分かりきった事今更と言わんばかりに。

「勿論、我儘なお嬢様より知的なパチュリー様の方が…」
「違う!」

しかしレミリアの表情は真剣そのものだ。

「私が聞いているのはお前の、咲夜の意思だ! …何なんだ、常にお前が感じていたその疑惑の原因は」
「………」

その瞬間、今まで笑顔を崩さなかった咲夜の表情が変わった。

「……私は紅魔館に来る前の記憶がありません、真実を知るのは私を連れて来たお嬢様のみ。
 しかしお嬢様は私の問い掛けに答えては下さらなかった、それは私に知られては困るという事なのでは…と」
「…そうか」

咲夜の言葉を聞くとレミリアの表情はとても穏やかなものへと変わる。
そして咲夜にゆっくりと近づくと、その体を優しく抱きしめた。

「ごめんなさい、貴方の気持ちを分かってあげられなくて。知らない方が幸せなんじゃないかって思ったの。
 でもそれじゃダメだったのね。人は過去と向き合って強くなるもの、だったかしら。……私が間違ってたわ。
 全てが終わったら本当の事を話すわ、約束する。………そして」

そこまで言うとレミリアはそっと咲夜の体から手を離し時計台の闇に手を翳して一言、

「お前はそんな咲夜の気持ちを利用したのかッ!」

明らかに敵意が感じられる声で闇に向かって叫んだ。
同時に翳した右手に凄まじい魔力が集まっていく。

「『スカーレットマイスタ』ッ!!」

レミリアの言葉が時計台に響き渡った瞬間、大量の弾幕が闇を照らし炸裂した。
すると時計台の闇とは別の深い闇が時計台から落ちてくる。
その闇は大広間が近づくと人の形になっていき、床にぶつかる直前で翼を広げふわりと着地した。

「……気付いていたんですか」
「舐めるな、小悪魔。お前如きの気配が分からないとでも思っていたのか」

そう言うとレミリアはグングニルを小悪魔の額に向けた。
小悪魔の表情は恐怖で引き攣っている。

「咲夜と違いお前は悪魔だ、少しぐらい吹き飛んでも死にはしないだろう。
 そもそもお前は司書だ、腕さえ残っていれば問題あるまい。まったく、誘き出すのに苦労したな」
「……全部分かってたんですか?」
「お前が咲夜を操っていた事なら最初からだ。戦闘が長引けば痺れを切らせてやって来ると思ってな、敢えて長期戦にした。
 問題はどう咲夜を止めるかだったがさすがは私の従者、私の命を訊き洗脳の鍵を自ら喋ってくれた。
 悪魔の洗脳は人の心の隙を突く、鍵になる隙さえ分かってしまえば恐れるに足らん。私達の絆を甘く見たな。
 ……しかし結果的に咲夜の苦しみを分かってやる事が出来た、それに免じて半殺しで勘弁してやるとしよう」
「……す、すみません! パチュリー様に言われて仕方なく…」
「言い訳は後で聞く、仕置きの最中にたっぷりとな」
「ひいぃ!!」

時計台から逃げ出すように走り去ろうとする小悪魔。
しかし後ろをぴったりとレミリアが追いかけていく。
そしてその手のグングニルが小悪魔の背中目掛けて放たれる。
その瞬間、小悪魔がにやりと笑ったがレミリアがその事に気付いた時にはすでに手遅れだった。





辺りに飛び散る鮮血。
場を包む静寂。
まるで時が止まったかのように誰一人動こうとしない。
しかしこうしている間も時はしっかりと刻み続けている。
やがてけたたましい音と共に、止まっていたかのような時間は再び動き始めた。

「…さ、咲夜ああああぁぁああぁぁぁ!!」

レミリアが放ったグングニルは
軌道上に割って入った
咲夜の胸に深々と突き刺さり
その動きを止めた。

「咲夜!!」

そのまま前のめりに倒れる咲夜を受け止めるレミリア。

「しっかりして! 死なないで、咲夜ああ!!」

必死で手を握り咲夜に話しかけるも、出血量が酷く吸血鬼化も間に合いそうにない。
すると咲夜はうっすらとレミリアに微笑み、小さな声で言葉を紡ぎ始める。

「……申し…訳……御座い……ま……せ………」

そこで咲夜は瞳を閉じ、それ以上喋り出す事はなかった。

「……咲夜…」

徐々に冷えて行く手を離し、そっと咲夜を床に置くレミリア。
大粒の涙を流し喪に服すその耳に、不快で耳障りな声が飛び込んできた。

「ああ、なんて感動的なんでしょう。主人と従者の別れ、とても素晴らしい……ふふふ…いえ……素敵な……
 あははははははははははははは!! やっぱりダメあはははははははは!」

声の主、小悪魔は腹を抱えて大笑いしている。
まるで傑作の喜劇でも見ているかのように。

「それにしても……ふふふ…あの勝ち誇った顔……あはははは! 何が私達の絆よ! 洗脳解けてないじゃない!
 馬っ鹿じゃないの!? 人を誑かす事に長けた悪魔の洗脳が、あんな臭い台詞で解ける訳ないじゃない!
 あ、そっか! 脳なしだから分かんないか! 分かんないからやったんだもんねー! あっはははは!
 あのねぇ! あんたがねぇ! 絆だと思ってたあれ! 全部私の筋書き通りだったから! あはははは!
 本っ当最高! ちょっとそれっぽくしただけでこんなに簡単に……くくく…あひゃひゃひゃひゃひゃ!
 そうなの! あの親馬鹿メイドが全部喋ったのも、私があんたに何か言われたら喋るように暗示をかけてたからなの!
 それを絆とか……でもここまで計画通りに動いてくれると、ある意味絆感じちゃうかも! な~んてね!
 しかも何あれ! 人は過去と向き合って強くなるものだっけ!? あんな恥ずかしい台詞、よく素面で言えたものねぇ!
 あんたが自分の発言見直しなさいよ! そん時の顔も…ぷっ、あはははははは! あれ聖母のつもり!?
 吸血鬼の癖に! 突然口調変わったりさぁ! カリスマモードとかそんな感じ!? おっかし~!
 その癖、グングニル刺して殺しちゃって! 何が絆よ! 殺してんじゃん! あれは最高傑作だったわ!
 人里でお笑い吸血鬼でもやってればよかったんじゃない!? あはははは! ……あぁ、そうそう!
 ついでだから脳なしのあんたにも分かるように教えてあげる! あん時、あんたが余裕ぶって向かって来たでしょ!
 あれ、親馬鹿メイドを動けなくするなりなんかしとけば死なずに済んだから! あれねぇ!
 私が危なくなったら自動的に盾になるようにしてあったの! だからあんたがかっこつけなきゃ死ななかったのよ!
 昔から気に入らなかった奴だけどさすがに同情するわぁ! 本当……ひひひ…く、苦しい……あっははははは!」

騒がしい小悪魔の嘲笑にもただ沈黙を守り続けているレミリア。
その表情は明らかに今までとは違う。
浮かび上がるは並の者なら気を失うほどの凄まじい殺気。
この時、レミリアは地獄の修羅のような恐ろしい形相をしていた。
最早こいつに生かす価値などない。
手に持ったグングニルにありったけの魔力を込め、今まさに貫かんと…

「こおおぉあああぁくううぅ……ま……あ…」

しかしグングニルは放たれる事なく地に落ちた。

「はい、残念でした」

小悪魔の手に握られていた咲夜のナイフが、レミリアの心臓を貫いていたのだ。

「本当、扱いやすくて助かるわ。挑発したら見事に私の気配を追えなくなった、どこまでも計画通りに動いてくれるわね」
「…………ッ!!」

床に倒れ込むレミリア、その頭を小悪魔のヒールが踏みつける。

「どう? 地にひれ伏す気分は」
「……お前…なん……かに……」

小悪魔はレミリアを何度も執拗に踏みつけた。

「そうね、貴方にとって私はたかが低級悪魔でしょうね」
「…フ……ラ……」

次第にレミリアの瞳が光を失っていく。

「でもね、あの時あんたが私の話を聞いていればこんな事にはならなかったのよ!」
「…………」

それでも小悪魔は踏み続ける。

「あんたがちゃんとしてれば、パチュリー様も苦しまずに済んだ!」
「……」

すでにレミリアが死んでいようとも構わずに。

「全部あんたが悪いんだ!」

頭が切れ、帽子や髪が紅に染まろうとも。

「昔から気に入らなかったのよ! 親友面しやがって! ゴミクズ蝙蝠が!」

ただ執拗に踏み続ける。

「ざまあみろ! パチュリー様の恨みを思い知れ!!」

最後に小悪魔が止めと言わんばかりに思いっきり踏み下ろすと、レミリアの体は完全に灰となって消えていった。

「…はぁ……はぁ……」

小悪魔の全身から汗が噴き出す。
体がふらふらして、まともに立っていられない。
少しの間休憩をとろうと、その場にぐったりと座り込もうとする。

「……まだよ……あと、ひとり……」

しかし何者かが近づく気配を感じると、必死に立ち上がり歩き始めた。

「後少し……あと少しでパチュリー様は……」





フランは急いで時計台に向かっていた。
あの後何処から現れたのか首の無い妖怪が襲いかかってきた為、思いの外遅くなってしまったのだ。
しかし目指す時計台は目と鼻の先。
フランは躊躇せずに大広間の扉を勢いよく突き破った。

「……嘘……」

だが扉の先に待っていたのは想像を絶する光景だった。
胸に穴が開き死んでいる咲夜。
すでに灰になっているレミリア。
その傍で泣きじゃくる小悪魔。
それはフランにとって地獄絵図と言っても過言ではない。

「…嘘でしょ……お姉様…」

床に落ちているレミリアの服を持ち上げると、僅かに残っていた灰が風に乗って外に出ていく。
それはまるでレミリアがあの世に旅立って行くかのようにフランの瞳には映った。

「ああ、あああああ…」
「気をしっかり持ってください、妹様」

そう言ってフランの肩に手を置いたのは、先程まで泣きじゃくっていた小悪魔だった。

「お嬢様は咲夜さんと戦い、あろう事か相討ちに。私、それを見てパチュリー様にはもうついていけないと…」

小悪魔は次々と言葉を並べていく。
自分は命令されて仕方なくパチュリーについていた。
今は怯えて従っていた事を反省して、反乱鎮静を考えているといった内容の話を続けていく。

「…全ては私が弱かったばかりに起きてしまった悲劇、私さえしっかりしてればこんな事には……。
 ですからせめてお嬢様の為にも紅魔館に平穏を取り戻したいのです。…協力してもらえるでしょうか?」
「うん」
「本当ですか!?」

その言葉を聞くや否や小悪魔の表情が一気に明るくなった。
それに答えるようにフランも笑顔で手を差し出す。

「ええ! お嬢様の意志を継いで必ずや紅魔館をスカーレ…」
「小悪魔が悪いんでしょ?」
「……え?」

刹那、フランの穏やかな笑顔が一瞬で消える。
それに気付き慌てて離れようとするも、すでに小悪魔の『目』はフランの手の中。
そしてフランの口から告げられる死刑宣告。
その間、僅か一秒。

「じゃあ、オマエガシネ」

フランが手を握った瞬間、小悪魔の腹部は臓物を撒き散らして消し飛びその体を真っ二つにした。

「……なんで………」

小悪魔は現状が理解出来ずにいた。
自分の演技にミスはなかった筈。
ましてや今来たばかりのフランが真実を知っている事などありはしない。
なら本気であの言葉を真に受けたというのだろうか。
いくら精神的に幼いといえ、そこまで愚直ではない筈だ。
なら何故こんな事に…。
動揺して必死に原因を探す小悪魔の視界にフランの足が映り込む。
恐る恐る顔を上げた小悪魔の前には、レミリアが弱者を見下す時のような冷たい目をしたフランが立っていた。
レミリアと違うところがあるとしたら、その目に宿しているのがレミリアの場合軽蔑や威圧なのに対して
フランの目からはそういった感情が全く見えて来ない。
ただ瞳の中の血液が紅くその目を彩るだけ、悪魔の力を持ってしても見えない心。
小悪魔にはそれが何よりも怖ろしく感じられた。

「小悪魔はいつも嘘ばっか吐くから」
「……ッ!」

フランが小さく小悪魔の問い掛けに答える。
それは小悪魔がまるで考えていなかった可能性。
フランは反乱が起きる前から、小悪魔の嘘を見破っていたという事だ。

「いつもお姉様の前では嘘ばっか、思ってもいない事を平気で言う」

子供の感性は時々、周りの人の本性に敏感に反応する。
本当に優しい人には寄り付き、上辺だけの人には懐こうとしない。
それが精神的に幼いフランにもあったのではないか。
しかしそれだけで吹き飛ばしたというには理由が足りない。
これでは悪そうだから攻撃したと言っているようなものだ。
所詮は子供、考えなしと言う事なのか。
小悪魔の中で一つの結論が出そうになったその時、何かが小悪魔のすぐ隣に投げられた。
それは小悪魔の下半身、フランはその右足を黙って指差す。

「なんでって言ったよね」
「……え? ……あ………」

フランの指差す先、小悪魔の右足のヒールには血がべっとりとこべりついていた。
血溜まりを踏んだには少し不自然で、上からはかかる筈の無い血飛沫。
そして血塗れのレミリアの帽子に開いた、丁度サイズの合う穴。
間違いなく怒りに任せてレミリアを何度も踏みつけた時のものだ。

「ふ…ふふふ、あはははは! ひゃはははははは!!」

ふと頭の中に昔パチュリーに言われた言葉が浮かび上がる。
あれは確か魔法の材料集めの為に巨大な怪物と戦った時の事。

『貴方は何時も肝心なところでドジを踏むのよ』
「…まさか……最後の最後で………」

だが靴の血飛沫など普通だったら気付かない。
吸血鬼の動体視力で見えたとしても、それを根拠に襲うなど無茶苦茶もいいとこだ。
しかもフランは姉の死を前にして動揺していた筈。
その状況でこれ程の行動、推理が出来るだろうか。
もし彼女が情緒不安定な事が関係しているのだとすれば…。

「そりゃ閉じ込められる訳よ……こんなのが表立って暴れたら人間なんか一晩で滅ぶ…」
「ねぇ、もう壊していい?」

額に腕を当て乾いた笑いをする小悪魔に、フランは無表情で右手を向ける。
すると小悪魔は体を起こすとフランを睨みつけ一言、

「嫌よ、私はまだ死ねない。悪いけど先に退場させてもらうわ」

そう言うと小悪魔の下半身は破裂し、辺りを闇で覆い尽くした。

「…!!」

突然広がった闇で小悪魔を見失うフラン。
いくら吸血鬼と言えど、月明かりも届かない闇の中に放り込まれれば目が慣れるまでは何も見えない。
その隙に小悪魔は窓から外に飛び出した。

「…足を失ったのは痛いわね……」

フランに壊された腹部は完全に吹き飛んでおり、もう二度と元には戻りそうもない。
ならば足だけあっても無意味と下半身を吹き飛ばし囮にしたが、やはり精神的に堪えるものがある。
だがもし体を一部闇と同化させ『目』を分散させるのが遅れていれば、全身が吹き飛んでいただろう。
そう考えれば飛ぶ以外は這いずって動くしか出来ない身になったのも致し方ない。
小悪魔は夜闇と同化し傷口を塞ぐと、完全に紅魔館から気配を消した。





  • れみぃ…… -- 名無しさん (2010-11-02 00:08:08)
  • フランの思わぬ推理力! っすごい -- 名無しさん (2010-11-21 18:54:21)
  • フランちゃんいいぞもっとやれ。
    あとレミリア生き返れよ・・・ -- 名無しさん (2012-02-25 23:09:44)
  • 小悪魔強ええwww -- 名無しさん (2014-03-16 20:48:02)
  • おおお…なんかすごい展開… -- 名無しさん (2017-01-16 19:05:28)
  • レミリアいきかえらせろ
    そして小悪魔死ねゴミクズ
    立ち絵無しセリフ無しのくせにいびりたってんじゃねぇよ -- 名無しさん (2017-01-21 07:13:05)
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