4、
「…あら、まだ生きてるの?
 治療したり、食べ物を与えたりした?」
「いえ、そのような事は。 与えたものといえば、躾け用の弾幕くらいです。
 …いやはやしかし、とんでもない生命力ですね、吸血鬼って言うのは」
「ね? 私の言うとおり、『処分』して正解でしょ?
 レミリアも同時に処分できたのは、嬉しい誤算だったけど」
「………」
「ホント、研究対象としては最高峰ね」
「……ろしてや、る…」
「ん? 何か言ったか?」
「おま、えら… ぜったい、ぜん、いん、ころして、やる…!」
「もっとはっきり言ってよ。
 私ババアらしいから、耳が遠くてねぇ…」
「おま、え、から、だ。 やくも、ゆか、り…!」
「あらあら、怖いわねぇ。
 じゃあ襲われても怖くないように、今日も色々えーりん先生に調べてもらいましょうねー?」
「喜んで。 より詳しい研究を続ければ、もっと吸血鬼の生態について知ることが
 出来るかも知れないわ」
「八意女史は、本当に研究熱心だな。 感心するよ」
「………」
























「…もう一杯、頂戴」
「…ダメです、もう出せません」



紅魔館での殺戮から一週間後。


蓬莱山輝夜が、夜雀の八つ目鰻屋台で、酒を飲んでいる。
しかしどうやら、追加の酒を頼もうとして、断られてしまったらしい。

「…なんでよ。 お金なら、ちゃんと出してるでしょ…」
「お金の問題じゃなくて、輝夜さんの体の問題。
 いくら蓬莱人だって言っても、ここ数日は飲みすぎですよ」

輝夜は此処5日程、毎日この屋台に来ては、酔いつぶれるまで飲み、てゐや鈴仙
等の手を借りて、帰宅している。

「…何かあったんでしょ? 私でよければ、聞きますけど…」
「……」

ここ数日間は、ミスティアは敢えて輝夜にそう尋ねなかった。
他人に話したくない理由で、酔いつぶれている可能性もあったからだ。
しかし、もう5日である。
恐らく、他人に話したくても、話せないのだろう。
そう考えたミスティアが、輝夜にこう切り出したのだ。

優しく問う女将に対し、輝夜は目に涙を浮かべながら、こう言った。

















「は、吐く…」
「……ふぇ?!」

椅子から飛び出すように立ち、茂みに向かって走っていく輝夜。
しかし、茂みに着く前に、前屈みになって座り込んでしまった。

「う、うえ、おえええええええ」

ビチャビチャ。

「ゲホ、ウウウウ… ゲフ」
「あーあ…」

蹲って嘔吐する輝夜を、呆れ顔で眺めるミスティア。

「大丈夫ですか~?」
「…あんまり、だいじょばない…」

ミスティアは、輝夜の背中をさすりながら聞いたが、彼女の返事は芳しくない。

「う、ううう…」
「ほら、吐いちゃった方が楽になるよ?」
「う、うえええ…」
「……!? 輝夜さん、泣いてるの?」

ミスティアは、輝夜の顔を覗き込んだ。


輝夜は、泣いていた。


「なんで… なんで、こんなことになっちゃったんだろ…」
「え?」
「こんな事、こんなの、絶対おかしいよ…」
「えと、ごめんなさい。 話が読めないんだけど…」
「謝らなきゃいけないのは、私の方よ! 
 …ごめんね、ごめんね…」

号泣する輝夜を前にして、唖然とするしかないミスティア。
なぜ輝夜が泣いているのか、謝っているのか、ミスティアは全く想像がつかなかった。











と、そこへ、人影が現れた。

「…姫。 一大事です」

鈴仙だった。
随分急いで来たらしく、肩で息をしている。

「な、何よ…」

配下に格好悪い姿を見られてしまったと思ったのか、輝夜は慌てて目を擦り、口を拭った。
しかし、一方の鈴仙は、輝夜のそのような状態には、全く関心がないようだ。

無理もないだろう。 何せ、

「…フランドール・スカーレットが、脱獄しました」
「…!!!」

のだから。
























紅魔館から遠く離れた、森の中。



服はボロボロで裸同然のフランが、立っている。
その目の前には、美鈴の他、4名の妖精メイドがいる。


「…お待ちしておりました、フラン様」

フランの事を、『妹様』ではなく、『フラン様』と呼ぶ美鈴。

「…なんでだろう。 なんか知らないけど、ここに来ちゃったんだ」

フランは、それには敢えて突っ込まなかった。
それより、今口にしたことが不思議でならない。

「まずは、服を召されて下さい。
 召されている間に、それを含めて説明致しますので」

美鈴がそう言い、周りの妖精に目配せした。
4名の妖精は、それぞれ服の一部を脱ぎ、フランの分の服を形成した。
そして、それをフランに着せる妖精達。
幸い彼女たちは、妖精にしては比較的大きい部類だったため、フランでも何とか着る事ができた。

「…ここは、紅魔館に一大事があった時用の、緊急集合場所です」

美鈴が説明を始めた。

「知ってるのは、レミリア様の他、咲夜さん、パチュリー様、あと私のみ」
「なんで、私には教えてくれなかったの?」
「フラン様はご性格上、どれほど強大な敵に出会おうとも、応戦するタイプだとレミリア様は
 仰っていました。
 逃げるとしたら、自分の指示以外にあり得ないだろう、と。
 つまり、レミリア様が知っていれば、フラン様は知る必要がないのです」
「……」

わかるような、わからないような理屈だった。

「…まぁいいわ。 それで、なんでそれを知らない私が、ここに来れたのよ?」
「『レミリア様の死後から1週間後、フラン様はここに来る』。
 私にこの場所を教えてくれたレミリア様は、その時同時にそのように運命を操ったのです」
「……!!」

これにはフランも驚いた。
姉は、そのような芸当も出来たのか。
フランは、改めてレミリアに感心した。

「来るべくして、私はここに来たって訳か…
 大した吸血鬼ね、お姉様は」

フランの発言に、美鈴のみならず、妖精メイドたちも頷いた。












「…『当主』、フラン様」


美鈴は、服を着終えたフランの前に跪き、頭を下げた。
美鈴の背後に、4名のメイドがやはり跪いている。


「私は、レミリア様の敵が取りたいのです」


美鈴は言った。


「私は、咲夜さんの敵が取りたいのです」


美鈴は続けた。


「私は、パチュリー様の敵が取りたいのです」


美鈴は続けた。 声が震えてきている。


「私は、こぁちゃんの敵が取りたいのです」


美鈴は続けた。 声が涙ぐんでいる。


「…どうかご命令を!! フラン様!!」


美鈴は顔を上げた。
端正な顔は、涙と鼻水でグシャグシャになっていた。


「…お嬢様には、大変お世話になりました」
「咲夜さんには、メイドとして必要なことを、いっぱい教えてもらいました」
「パチュリー様は私に、面白い話を沢山してくれました」
「…こぁちゃんとは、一緒によく遊んでいたんです」


4名の妖精メイド達も、泣きながらフランに訴えかけてきた。


「「「「…どうかご命令を!! フラン様!!」」」」






「………」

それらを無言で見ていたフランだが、やがて目を瞑り、もう一度その目を開いて、
何かを口にした。



その目は、つい先日までレミリアが見せていた目とそっくりな、『紅魔館の主』の目だった。


























「はぁ、はぁ…」

永遠亭の地下深くにある、一つの牢屋。

その中に、一人の半獣が監禁されている。

「く、くすり… くすり…」

うわ言の様に、くすりという単語を繰り返し発している。
ほんの2週間前まで理知的だったその半獣は、今はその見る影もない。
だらしない表情で、絶えず爪で体中を引っ掻き回している。



そこに、一人の女が現れた。
手には、注射器と粉の入った袋を持っている。

「…!! えーりん! えーりん!」
「はいはい。 来たわよ? 慧音。 いい子にしてた?」

子供をあやすように慧音を扱う永琳。
慧音は興奮して両腕を、牢屋の隙間から出している。

「いーこにしてたから! 早く! それ!
 それ、うって! はやくうううううう!!!!!!」

興奮し、半狂乱になって永琳に要求する慧音。
フランに比べれば、よっぽど今の慧音の方が狂人だ。

「はいはい。 でも打つ前に、やって欲しい事があるの。
 …歴史、また創ってくれる?」

永琳が黒い笑みを浮かべて、そう慧音に聞いた。

「つ、創るよ! 創るから、それ打ってえええ!!」
「創るのが先よ」
「わ、わかったよおおおおおお!!!!!!」

慧音が力を込めると、彼女の頭に角が生えてきた。

━━━ 満月の時しか変身できない彼女が、なぜ今白沢に成れるのか?

それは彼女の目の前で薄笑いを浮かべる、永琳のみぞ知ることだろう。



「なに?! なにをつくればいいの?!」
「そうねぇ…
 『フランドール・スカーレットは、永琳の人体実験中に逃げ出した』
 ってなっている所を、
 『フランドール・スカーレットは、見張りがいない隙を見て、檻を破壊して
  逃げ出した』としておいてくれない?」








~~~~~~~~

今から2週間前の出来事。


「フランの能力は危険よ」

紫が、そう切り出した。


場にいるのは、紫、藍、永琳、輝夜の4名のみ。
紫が用意した、特性の密室での密会である。

「強力というのはもちろんだけど、何より未知の部分が多すぎる。
 放って置くのは危ないわ」
「…貴方にとって? 幻想郷にとって?」
「両方。 ただ、比重は後者の方が大きいわね」

永琳の問いに、紫はそう答えた。

「幻想郷を『破壊』されるのは、私としても困るわね…」

永琳が、顔を顰めた。

「…そういう話を態々私達を呼んでするって事は、私達に何かして欲しい事があるって事ね?」

紫に輝夜が尋ねた。

「ええ。 して欲しい事は2つあるの。 
 一つ目は、歴史の半獣を攫って、彼女を洗脳し、思いのままに歴史を作らせる。
 二つ目は、永遠亭のウサギの何名かが、フランによって殺されたという、嘘を付く」
「…! え?!」
「…一つ目のハードルが、随分と高いわねぇ…」

紫の発言に、驚く輝夜。
対して永琳は特に驚くことも無く、紫の要求を頭の中で吟味していた。

「ちょ、ちょっとまってよ! そんな事をしていいの?!」
「良くはないわ。 でも、背に腹は変えられない」
「背に腹は、って… そこまで危険な状況でもないでしょ?!」
「…フランドールが生きている限り、常に危険よ。
 あの子気が触れているから、いつ何を仕出かすか分からない。
 …もし、博麗大結界が破壊されでもしたら、破壊状況によっては、霊夢や私の力では
 どうにもならない事態になる可能性もある」
「…! た、確かにそれはあるかもしれないけど…」
「それに、フランドールを捕らえ、その能力や生体を『調べる』事ができれば、
 結界の強化への布石や、幻想郷で吸血鬼が暴れた際に、何かしらの対処法を見出せるかも
 しれないわ。
 ……ねぇ? 永琳」

紫が永琳に向かって、笑みを浮かべた。
既に千年以上生きている輝夜だが、それは今まで見たことも無い、気味の悪い笑みだった。
藍を見ると、彼女も似たような気色悪い笑みを浮かべている。

「え、永琳…?」

輝夜は怖くなって、縋る様に永琳の方を向いた。





















見なければ良かった。

輝夜はその時、永琳の顔を見てしまった事を、今でも深く後悔している。



「…守矢の二柱とか、幽々子、霊夢辺りは、上手くやらないと感づくかも知れないわよ?」
「守矢の二柱は、そんなに難しくないわ。
 彼女達の信者である、天狗や河童に嗾ければいいのだから。
 霊夢は、私と藍が上手くやっておくわ。 任せておいて。
 幽々子に関しては、貴方の協力が欲しいんだけど…」
「後は幽香辺りが感づくかもしれませんね」
「彼女自身は強いし賢いけど、これと言った徒党も組んでないし、背景も無いから、
 感づかれても放って置いて問題ないわ」



愕然としていた輝夜には、眼前で行われている三名の会話は、殆ど頭の中に入れる事が
出来なかった。


此れまで幾度も密会には参加してきたが、今日ほど参加した事を後悔した密会は無かった。


~~~~~~~~

























フランを含めた6名は、森の中を歩いてた。

空を飛ぶと、鴉天狗等に見つかる可能性が上がる為、敢えて地上で移動しているわけだ。


目指すは、八雲紫の住処。
行き先を決めたのは、フランだった。






フランは、美鈴を含めた5名の顔を、それぞれ見ていた。


━━━ 皆、死を覚悟した顔をしていた。


決して希望に向かってはいない、いや、寧ろ絶望に向かっていることは、自覚している表情。
それでいて、決してそれを曲げようとはしない、強固な意志も同時に感じられた。


それらを見ながらフランは、良い部下を持ったものだと嬉しさを感じると同時に、
酷い空しさも感じていた。




『全てを破壊する者、フランドール・スカーレット』




つい一週間前、八雲紫に言われたこの台詞。
今、彼女の頭に、この台詞が張り付いていた。



━━━ なる程ね。 流石は、幻想郷の賢者。



フランは一人、静かに頷いていた。



━━━ 紅魔館は私の代で終わり、か。



『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』の持ち主、フランドール・スカーレット。
彼女は物だけでなく、これからスカーレット家の血筋を絶やそうとしている。



━━━ 違いない。 私は、全てを破壊してしまったわけだ。

  平和も。
  日常も。
  親友も。
  使用人も。
  実の姉も。

  …そして、これから『紅魔館』も。







スカーレット家最後の当主、フランドール・スカーレットは、自嘲気味に笑った。













fin



  • ・・・・・パネェ・・・・・

    完成度高けーな、おい -- 名無しさん (2009-08-25 20:09:42)
  • こぁちゃんて… -- 名無しさん (2009-08-25 21:08:49)
  • ここで終わっちゃうのか…
    続きが見たいよぉ -- 名無しさん (2009-08-25 22:49:51)
  • 家族思いのスカーレットは良い -- 名無しさん (2009-08-26 21:46:50)
  • スカーレット姉妹がかっこいい(`;ω;´)
    それはそうと紫の黒幕率の高さには噴くw

    この後はフラン→紫に対象がシフトしていくわけですな。 -- 名無しさん (2009-08-27 05:44:32)
  • 紫の敵になりそうな人物

    輝夜→妹紅 
    幽香

    守屋と霊夢は確率低そうだが十分勝てそうだな。 -- 名無しさん (2009-08-27 05:47:17)
  • レミリアがちょっと好きになりました。 -- 名無しさん (2009-08-27 12:39:40)
  • 耐えられなくなった輝夜から真実が霊夢たちに広まったら…
    八雲一家+永琳に勝ち目無いんじゃね? -- 名無しさん (2009-08-27 13:36:41)
  • ↑の方向で続きを切に願う -- 名無しさん (2009-08-27 14:59:13)
  • フランが紫の企みも、けーねが創らされた歴史さえも破壊してしまわんことを…… -- 名無しさん (2009-08-29 09:08:29)
  • けーねに手を出したのがなぁ -- 名無しさん (2009-08-29 09:48:05)
  • 面白かった
    けーねいじめだなこれは -- 名無しさん (2009-09-04 22:54:13)
  • これ一番かわいそうなのはけ−ねだよね?まちがいないよね? -- 名無しさん (2009-09-06 23:38:34)
  • 次回があるなら
    輝夜と妹紅、守矢の二人は仲間になってくれそう。 -- 名無しさん (2009-09-19 14:03:21)
  • これってなんか話の元ネタがありそうな気がするけど -- 名無しさん (2009-09-21 13:35:24)
  • すげええ!!そして紅姉妹が格好よすぎ!!
    フランドールの味方をしたくなりますね。続編作ってください!!
    しかしみょんとけーねが可哀そうすぎる・・><:
    -- J (2009-10-24 19:01:33)
  • 完成度て……これで完成度高いとか言っちゃうのってどんだけ…… -- 名無しさん (2009-11-11 17:30:45)
  • 終わりが半端すぎて泣いた
    あとこんな外道しか思いつかないゆかりんなんて賢者じゃない -- 名無しさん (2009-11-11 18:26:06)
  • 外道・・・っすか・・・(´・ω・`)。なんか・・・すんませんした。 -- 名無しさん (2009-11-11 18:45:59)
  • なける -- 名無しさん (2009-11-15 15:55:12)
  • なんか白ひげVS海軍みたいだなぁ -- 名無しさん (2010-02-09 01:31:25)
  • 龍神はこの幻想郷を滅ぼすべき -- 名無しさん (2010-02-24 03:09:16)
  • 幽香はなんではじめに紫が首謀者だってわかったんだろな? -- 名無しさん (2010-03-16 19:37:55)
  • あれ?これで終わり?
    フラン復讐ENDはどこに行った? -- 名無しさん (2011-06-14 21:00:28)
  • 続編マジでないの?
    もう作者じゃなくてもいいから誰か書いてよ。 -- 名無しさん (2011-09-08 23:09:28)
  • 続編は? -- 名無しさん (2011-09-16 23:19:42)
  • 4人は負けるんだよ
    書いてないからってそんくらい分かれ -- 名無しさん (2011-09-18 01:59:48)
  • 魔理沙星蓮船組輝夜妹紅あたりが紫に敵対しそうだな -- 名無しさん (2011-10-01 23:12:41)
  • 続きが気になるんだけど…
    え?続きないの? -- 名無しさん (2011-11-15 15:25:47)
  • 死んだレミリアが映姫に殺された理由を話す→映姫が調べてレミリアの言ったことが本当だと確信して妹紅、魔理沙、霊夢に本当の事を話す→魔理沙から話を聞いたアリス参加→幽香、輝夜も参加→八雲一家+永琳オワタ\(^O^)/ でOK? -- 名無しさん (2012-11-19 18:29:54)
  • いーこにしてたから! 早く! づづき!
    つづき、つくって! はやくうううううう!!!!!! -- 名無しさん (2013-06-11 01:21:06)
  • 普通に輝夜が口を滑られて皆にばれるイメージがわくんだが -- 名無しさん (2013-06-14 19:17:11)
  • レミリアァァァァァァァ -- 名無しさん (2015-08-12 12:31:36)
  • 霊夢は咲夜達殺した罪悪感パネェナ -- 名無しさん (2015-09-28 19:11:54)
  • よし、誰か続きここでいいからかいとくれ。 -- 名無しさん (2016-05-10 22:13:10)
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