※グロ注意、切断表現注意









館に鳴り響いた轟音にレミリアが目を覚ましたのは、まだ日の沈みきっていない夕方のことだった。
何事かとベッドから飛び出し音のした方へと駆けつけてみると、地下室へと通じる通路から、モクモクと煙が上がっている。

「またあの子……」

レミリアはチッと舌打ちをすると、グングニルを取り出してゆっくりと階段を降りた。
フランが暴走するのは別段珍しいことではなかったが、最近の頻度が高さには流石のレミリアも嫌気がさしていた。
しかもそのたびにこうやって当主自らが出向かなくてはならないのだから、たまったものではない。
だがフランを完全に抑えることができるのは紅魔館ではレミリアくらいしかいなかったので、それもまた仕方の無いことだった。

「フラン、どこにいるの?」

フランの部屋まで来ると、鋼鉄のドアが半壊していた。あたりに舞う粉塵や煙の量もひどく、視界もかなり悪かった。
レミリアはどこから攻撃されても対応できるよう、神経を尖らせる。
それにしてもいつもなら真っ先に咲夜も現れてレミリアのサポートをしてくれるのだが、今回はどこにも姿が見えない。
買い物にでも行っているのだろうか。レミリアの起床時間も近かったので、それは考えにくいのだが。

そんなことをレミリアがぼんやり考えていると、しだいに粉塵が晴れてきて、視界が回復する。
辺りは予想通り瓦礫の山。こうやって地下室が形を保っているのが奇跡的に思えるほど、そこら中滅茶苦茶に壊れている。
フランの姿もすぐに確認できた。部屋の隅に縮こまって、なにやらブツブツと独り言をつぶやいていた。
とりあえず今のフランに戦意や逃走する気配がないようなので、レミリアはパチュリーに拘束を頼もうと思い部屋を出ようとした。

そこで、レミリアの視線は固まった。

瓦礫の隙間から、人間の腕が覗いている。瓦礫と言ってもプラスチックや木材ではなく、何十キロもある岩の塊である。
その岩の下敷きになっている人間の体が、無事であるはずがない。その証拠に岩の隙間から腕と一緒に、おびただしい量の血が流れ出ていた。

レミリアは一瞬でその瓦礫をなぎ払うと、その下敷きになっていた人間の姿を確認する。
その人間の姿は紛れもなく、レミリアが最も寵愛する人間、十六夜咲夜のそれだった。










咲夜は生きていた。永遠亭の薬師曰く、人間があれほどの傷を受けながら生きているのは前代未聞らしい。
だが一命は取り留めたものの、その代償は咲夜にとっては死よりも辛いものだった。
咲夜の両手と両足は、失われてしまった。厳密には、右腕は肘から先、左足は膝から先、他は付け根から無くなっている。
もはやメイドとしての仕事を全うすることも、弾幕勝負を興じることも、二度とできないだろう。
そう永琳が宣告しても、咲夜はいたって冷静なままだった。
てっきりパニックを起こしたり泣き喚いたりするのかと身構えていた分拍子抜けだったが、その後無表情のまま舌を噛み切って死のうとするのだから油断も隙も無い。
ひとまずレミリアが"命令"という形で自殺はしないよう約束を取らせたが、はたしてそれが最良だったのかは、誰にもわからなかった。

幸い咲夜の体に合う義手と義足はすぐに作れたので、最低限の歩行程度はできるようにと、今はリハビリに励んでいる。
だがまだまだ満足に立つこともできず、その度に「赤ん坊みたい」と笑っている咲夜を、レミリアは見ることができなかった。










ある日、レミリアは広間に集まるよう館の者全員に招集をかけた。
無論、まだ永遠亭でリハビリ中のため、咲夜はいない。だから集まるのは美鈴、パチュリー、小悪魔と妖精メイド達だけだった。
重苦しい空気の中、全員が集まったのを確認すると、レミリアはゆっくりと口を開いた。

「皆がフランのことをどう思っているのか、率直な意見を言って頂戴」

レミリアが何を言わんとしているのかは、皆薄々わかっている。
だからこそ誰もが口篭り、中々意見を言うものは現れない。

「美鈴、あなたはどう思っているの?正直に言いなさい。大丈夫、絶対怒ったりしないから」
「……はい」

名指しで呼ばれたからには仕方ないと、美鈴は覚悟を決めて言った。

「妹様は……咲夜さんをあんな目に遭わせた方ですから…。その…正直、憎い…です……」

躊躇いがちながらも、はっきりとフランのことを"憎い"と言う美鈴。
釣られるように、今度は小悪魔がその後に続いた。

「妖精メイドだって何人も殺されてるんです。妹様にいつ殺されるかと、妖精メイド達も怯えて仕事になりません」

そうだそうだと、妖精メイド達が声を上げる。

「パチェ、あなたはどう思う?」
「もの凄く危険な存在ね。同じ館に住んでる私達が生きてるのが不思議なくらいに。毎回壊れる壁や扉の修理費だって、馬鹿にならないわ」
「そう……」

そこまで聞くと、レミリアは椅子に座ったまま両手で頭を抱えた。
全員がレミリアの次の言葉に、息を呑んだ。

「フランは……もう……殺すことにするわ」
「………」

誰も何も言わない。反論するものも、誰もいなかった。










フランの食事の時間。レミリアの手には、シチューの乗ったトレーが持たれている。
吸血鬼用のシチューなので、もちろん血や人肉が入っている。他にも今回は特別に、パチュリーが配合した毒薬が入っていた。
レミリアはフランの部屋まで来ると、震える手でノックをして中に入った。

「フラン…食事の時間よ」
「え?…お姉さま?どうしてお姉さまが?」

フランがベッドに座りながら、驚いたように言った。咲夜がいなくなってからは、美鈴に食事を持ってこさせていたからだ。
というより、レミリアが直接フランの食事を持って来ること自体、何十年ぶりかのことだった。
毒入りのシチューを運ばせるなんて仕事を、レミリアは自分の従者にさせたくなかったし、相手がフランともなれば、やるほうも嫌だろう。
せめて自分の手で殺そうという、レミリアなりの気遣いだった。

「最近フランの顔を見てなかったから、たまには…ね。今日は…美味しいシチューよ」
「……」
「…ほら…早く食べないと…冷めちゃ…うわよ?」
「お姉さま大丈夫…?具合悪いの…?」

心配そうな目でレミリアを見るフラン。慌てて平静を装おうとするが、震える体と、額に滲んだ汗はどうすることもできなかった。

発作が起こっていないときのフランは、いたって正常だった。
それどころか、人の心配までできる心の優しい子なのだが、何故か突発的に感情が昂ぶると、破壊衝動に駆られてしまう。
しかもその間の記憶はないため、自分が咲夜にしたことすらほとんど覚えていないのだ。

だからこそ性質が悪い。
無垢なフランを見ていると、レミリアの決心が大きく揺らいだ。
やはりだめだ。殺せない。私にこの子が、殺せるわけがない。だってフランは、たった一人の私の妹。
私は何を馬鹿なことを思っていたんだ。あやうくとんでもない過ちを犯すところだった。
そうだ、フランの面倒は、これからは全部私一人で見よう。

「フラン…実はね…」
「あ~、でもおなかペコペコ。シチューもらうね」

そう言いながら、フランは吸血鬼固有のスピードでシチューをすくうと、それを口に入れた。

レミリアが止める間もなく、本当に一瞬の出来事だった。


直後、おびただしい量の血を吐いて倒れるフランを、レミリアはただ呆然と眺めるしかなかった。


そうして灰になってしまったフランを前に、レミリアはただ泣き崩れるしかなかった。








おわり(^p^)