20kx年。

日本の経済は既に破綻し、食料自給率の低下を防ぐこともせず農家をないがしろにしてきたツケが日本全国民にきた。

国民に対しての衣・食・住の供給は大きく理想とかけ離れた。

年金制度などはとうの昔に崩壊している。

生活保護の受給?それなんつー古臭い手段?


20nx年。

日本政府はその選択を間違えたがゆえに、外国からの信頼の多くを自らの過ちゆえに手放すこととなった。

石油、薬剤関係、コンピューター事業、人材の育成…。

一国を動かすシステムの多くはもはや日本国内には存在せずに、多数の国々の傘下へ。

日本という国はまるで鋳型として「日本」という架空の器に石膏を落とし、

その外壁のみをカタチどったものに成り代わっていた。

医療体制の崩壊、学力・教育力・モラルの低下。

そんな状況下において、名ばかりの日本国政府はある法律案を可決した。





薬がある。

それは適量が定められていて、その量が守られていないと接種したとしても効果は期待できない。
さて、ここに11人の病人がいる。
薬はしかし10人分しかない。圧倒的に1人分足りない。それはどうすることもできない。
1人を助けようと、11人分の薬を10人に分けるとする。
この場合、ひとりひとりの薬の摂取量はその適量に満たず、全員が、絶滅する。
しかし、1人を助けようとしなければ。
1人を助けようとした場合に比べ、10人もの命を救うことができる、1人を見殺しにして。

人間には知恵がある。

それは他の動植物とは比べものにならないほどの高度なものである。
多くの人が幸せであれば、少人数の不幸せなんてちゃんちゃらおかしいじゃん?
だって、周りを見渡した時にみんなが笑ってたらそれってその場は楽しそうに見えるでしょ?
たとえ笑ってる人の陰で数人が泣いているのが隠れて見えなくても、さ。


海外との輸出輸入をほぼ制限され、日本ではあらゆるものが足りなくなった。
薬、食材、石油、臓器、血液…。
それに対し、人口は増えた。
モラルが低下した、といったでしょう?
本能を抑える理性の道徳的な教えを乞わなければ、人間なんてすることはある程度に通ってくる。
ゴムってのは、日本一国だけでは生産することができない道具なんだよ。

人間はその身体を故障すると、どんなに医療が進んでも完全には元に戻らなくなる場合もある。

そんな状況でどうすんの?

泣くの?

泣いてるだけなの?

そうなの?

それでいいの?

馬なの?

鹿なの?

馬鹿なの?


健康な人間はたくさんいるのに?

名ばかりの日本国政府はある法律案を可決した。
その法律名をここに書いても、あまり意味がない。その内容だけを書くことにしたい。


さぁ、さっきの薬の例を思いだしてもらいたい。
原理は同じだ。

まぁさ、政府としても、
全員が絶滅するくらいなら多少の犠牲を払って日本国民の生存率を上げたいというものなのだろうね。
他国へ「いろいろなことがあったけど…私たち、幸せにくらしております。えへへ」と見栄でも張りたいんだろうね。

ほら、本題にはいるぞ、クソども。

人間がいる。

全くの健康体である。仮にAとしよう。
さて、ここに5人の病人がいる。
病例はかぶっていない。肺、心臓、胃、すい臓、大腸。
各々、臓器は病に侵され手術での回復は見込めない。
この5人はそれぞれ、健康体の人間―Aとは拒絶反応が起こらないことはすでに確認済みである。
ほっとけば5人は死に、Aは生き続ける。6人中5人の脱落。アイタタタ。
しかし、Aの臓器を5人それぞれに提供することにより5人は生き続け、A、ただ一人のみが死ぬ。
6人中5人の生存。

人間には知恵がある。

知恵がある。

それは他の動植物とは比べものにならないほどの高度なものである。

ものである。

その知恵は「最大多数の最大幸福」というルールに従うことを、この国の良心とした。


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日本人はその身体データをすべて日本政府が管理する膨大なデーターベースに管理されることとなった。
そのデータベースをもとに無作為に選ばれし健康体日本人には、老若男女かんけーなしに「おしらせ」が届けられる。
その「おしらせ」は幸福の黄色いハンカチーフになぞらえて黄色の紙であることから
人々はそれを「きがみ(黄紙)」と読んでいたが、伝言ゲームのおもしろさがそこに加わり
いつしかそれは「いきがみ」と呼ばれるようになった。

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『いきがみはあなたの命で他人の命を救うことができるという素晴らしいものなのです!!!』


『私はいきがみによって命を助けられました。

 もう二度と病棟から出られないと覚悟をきめていたのですが、みてください!!

 今ではもう健康体そのものです!!いきがみ最高!!!!!ありがとう、いきがみ!!!!』


『俺もいきがみのおかげでまたたばこを吸うことができるようになったわ。いやー、また、なんての?

 肺がんになったと宣告されたときは、もう絶望してまさに死ぬかと思ったけどよ、

 こうしてまたうまいたばこをまっさら清潔な肺で味わえることができるなんて俺は幸せもんだっての!!!

 いきがみ、さいっこーっす!!!!』


唯「……」

憂「おねーちゃん、テレビばっかり見て、ご飯食べないと遅刻しちゃうよ?」カチャカチャ

唯「…あー、うん。ごめんごめん、憂。うん、このたまごやき今日もおいしー!!!」モグモグ

憂「へへ。ありがと。朝からいきがみ特集なんてやってるんだね」

唯「そ、そうだね。朝のニュースも話題がないんじゃない?」モグモグゴックン

憂「いきがみかぁ。私はまだ届いたことないけど、憧れちゃうなぁ」

唯「え…。憧れる…?」

憂「うん、ちょっとかっこいいかなって」

唯「かっこいい…。じゃ、じゃあ、憂は…いきがみ届いてほしいの?」

憂「うーん、人のために役に立てるってすごいことじゃないかな、しかも命がけで」

唯「そ、そっかぁ…」

憂「おねーちゃんどうしたの?」

唯「え、い、いや、なんでもないよ?ほら、そろそろ学校行かないと!遅刻しちゃう!!ごちそーさま!!」

憂「あ、ほんとだ!もうこんな時間!!おねえちゃん、ちょっと待ってー」

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唯「命がけの、人助けかぁ…」

私だけなのかもしれない。

こんな風に違和感を感じているのは。

みんな、当たり前のように受け入れている。

でもそれって

唯「自分が当事者じゃないから言えることなんじゃないかなぁ?」


まぁ、こんな風に思っちゃうこと事態、今の私も結局は

唯「他人事なんだろうなぁ...」

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律「おーっす!唯!!おっはよー!!」

唯「おー!!!りっちゃん隊員!!!今日も朝から輝いてますなぁー」

律「あぁ!?どこが輝いてるってー!?なんか目線がおでこに向かってるんですけどぉ!?」

澪「っだー!もう!!朝からやかましいっ!!」

唯「やーい!!りっちゃん怒られてやんのー」クスクス

律「誰のせいだってーの!!だ・れ・の!!」

紬「ふふっ」クスクス

律「って!!ムギもこそこそ笑ってるんじゃなーい!!」

「えー!?いきがみが届いたのー!!!!!すっごーーーい!!!」

「これで世界を救ったも同然ジャン!!!」

「うわー、私本物初めてみちゃったー」

「これって本当に黄色い紙なんだねぇ」

紬「どうしたんだろう」

澪「いきがみって聞こえてきたけど…」

律「ちょっと聞いてくるよ」タタッ

唯「……」

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紬「りっちゃんおかえりー」

律「ただいまっと。なんか、いきがみが届いたらしい。

  すっげー!!このクラスからいきがみが届くやつが現れるなんて!!」

澪「ほ、ほんとか!?に、偽物なんじゃないのか!?」

律「いや、あれはマジ物だったね!!親戚のおじさんに届いたときに見せてもらったのと同じだったし!!!」

澪「わ、私、見せてもらってくる!!!」ダッ

律「たはは。澪のやついきがみ見たことないからはしゃいじゃってやんの」クハハ

紬「いきがみはなかなか届くのが難しいもんね。

  それこそ、そこまで日本の人口が爆発的に増えてるって証拠なんだろうけど」

律「だよなぁ。無差別の選別方式だからって、当選率が低すぎるよなぁ…。

  あーあ、うらやましいわ。私も人救ってみたいわー」

唯「あはは」

和「うちのクラスからいきがみ者がでるなんてね、送別会しないといけないわね」

紬「あ、和ちゃん、おはよう」

和「おはよう」

律「よっす!和!!だよな!!!わがクラスの名誉だし!!送別会してやらないとな!!!」

和「えぇ。学級委員として名誉ある死を盛大に祝わないといけないわ」

唯「......」

律「ん? 唯、どうした?そんな怖い顔しちゃって」

和「顔色が少し悪いんじゃない?」

紬「本当だわ。ちょっと青白いかも」

唯「え?あ、ううん、だ、大丈夫だよ、へーきへーき!!」

和「保健室で休んだほうがいいんだじゃない?」

唯「大丈夫だって!和ちゃん!! ほら、もうすぐ先生着ちゃうよ!!

  みんな席に戻らないと!!!」

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政府は日本人の教育課程にある項目を追加した。

それはこのいきがみに対しての不信感を払拭、、、
いや、そもそも、不信感や恐怖心といったものを抱かせないようにするための洗脳である。

日本人は幼少期からいきがみに関しては「名誉ある死の宣告」というイメージを植えつけられている。

この法律案が可決された時代、すでに初等・中等・高等教育を終えていた者に対しては
政府はサブリミナル効果を用いた洗脳を採用した。

音楽、TVCM、広告、インターネット、音、雑誌、新聞…。
ありとあらゆる伝達媒体がその効果を爆発的に向上させた。

とりわけインターネットは優秀であり、全国的動画サイトI ROPE や
日本の小・中学生に莫大な人気を誇る投稿型動画サイトホクホクムービーズは恰好の手段であった。

日本という国が現在もかろうじて地図上に存在しているのは、
そういった政府(笑)による国民への無意識下マインドコントロールが海外で高い評価を得ているというところもある。

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澪「今日はちゃんと練習するんだからな!!!」

律「ムギー!!紅茶のみたーい!!」

唯「私はミルクティーがいいー!!」

紬「ふふ、わかったわ、りっちゃん、唯ちゃん。今準備するからね」

澪「あぁ、もう!ムギィ…」

紬「今日はマカロン持って来たんだけど、澪ちゃんも食べてね?ここのマカロンとってもおいしいのよ?」

澪「ぐっ…、ま、マカロン」ゴクリ

律「あっれれ〜〜?秋山さんはお菓子も紅茶もいらないんじゃなくってぇ〜?」

唯「なくってぇ〜?」

澪「た、食べたら練習だからなっ!!!」

紬「ふふっ。澪ちゃんは何がいい?」

澪「あ、っと、私は…そうだな…ストレートでおねがいするよ、ムギ」

梓「すいませーん、遅くなりましたー」

唯「あっずにゃ〜〜〜〜ん!!!」ギュ

梓「ぐえっ」

澪「さ、さっきまでそこに座っていたのに!!!」

紬「なんという身のこなし!!」

梓「ちょ、唯先輩、だから抱き付いてこないでくださいよぉ」グググ

唯「やーん、あずにゃんのいけずぅ〜〜」ギュー

梓「うぅぅぅ」

律「あはは。梓ももう慣れてるなぁ」

梓「慣れというか、もう一種の防衛反応ですよ、拒絶反応が出ていないだけありがたがってほしいですよむしろ」

唯「ひどいよあずにゃん」ガーン

澪「そうそう、拒絶反応っていえばさ、梓」

梓「はい、なんですか?」

律「うちのクラスの子がいきがみをもらったんだー!!」エッヘン

梓「えっ…」

唯「……」

澪「なんでお前がいばってるんだよ」

律「別にいいじゃん!!いやーそれにしてもいきがみだよ!!

  いきがみっ!!!マジでうらやましいわー!!な、梓!!」

梓「あっ…。そ、そうですね。いきがみってなかなか当選しないって教わりましたし」

律「だよなー。宝くじの一等より当たりにくいってシステムとしてどないやねん!!」アハハ

紬「でも、確実に日本の人口は落ち着いてきているし、

  一人の人の命と引き換えにたくさんの命が救われるっていうのはとってもいいことよね。はい、澪ちゃん」

澪「ありがとう、ムギ。まぁ、当選確率が低いってことでそれだけ使命感が高まるからな。

  人間の心理をくすぐるのにはいい方法だと思うよ」

梓「……」

紬「梓ちゃんは何飲む?今日はね、マカロンもってきたんだ。おいしいよ」フフッ

梓「あ、っと…。ミルクティーでお願いします。ムギ先輩」

唯「……」

律「てか、さすがにそろそろ梓を解放してやれよ、唯」

唯「……」

澪「ゆーい、ゆいってば」

梓「唯先輩?」

唯「あ、う、うん!?あ、ごめんね、あずにゃん!!そろそろマカロンたべよっか!!!」エヘヘ

紬「いろいろあるから好きなの食べてね」

唯「うわー、ほんとだ!!どれもおいしそ〜〜」

律「これだけあると選び放題だな」

澪「む…。体重…」

梓「……」

唯「あずにゃんもはやくー!!」

梓「はい…マカロン、おいしそうですね」

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和「以上をもちまして、送別会を閉めたいと思います」

「びんな、わだじの”だめ”にぼんなにいいお別れ会をじてぐでてあ”り”がと”う”」ビエーン

「元気でね」シクシク

「いい臓器になれよ」ウルウル

「来世でまた会おうね」ポロポロ

澪「ばんざーい!!ばんざーい!!」

律「いや、それはちょっと違うだろ」

紬「私、送別会をクラスの子のために開くのが夢だったの〜」

律「それもちょっと違うだろ。てか、みんなで開いた送別会だからな、な?」

紬「うふふ」

唯「あはは…ムギちゃんったら」

-----

律「いやー、いい送別会だったなぁ」

澪「まったくだ、本当にもう全くだ」ブワッ

紬「あらあら澪ちゃん、今ごろ涙が。はい、ティッシュ」

澪「あ、本当だ。感動しすぎて時差が…」ボロボロ 

律「時差って」

唯「…私、ちょっとトイレ行ってくるねー」

律「ん、あぁ。部室先にいっとくぞー?」

唯「うん!わかったー」

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唯「はぁ……」

「……っと…」

唯「えっ…だ、だれ…?だれかトイレにいるの…?」

「…やっと…やっと死ねる……」

唯「あ……」

「……あ」

唯「......」

「......」

唯「えっと...、ティータイム、する?」
-----
「ご、ごめんね……なんか変なこと聞かせちゃって」

唯「ううん、大丈夫。それより、落ち着いた?」

「うん。ジュースまで買ってもらっちゃってありがとう」

唯「まぁまぁ。たまには人のためにジュースを買うっていうのもいいもんですな」エッヘン

「あはは…唯ちゃんおもしろいね」

唯「そ、そうかな」テレテレ

「……」

唯「……」

「…さっきね、聞いてたよね」

唯「あ、うん…なんというか、ごめん」

「え、なんで唯ちゃんがあやまるのさ。こっちこそ送別会開いてもらったのにごめんね」

唯「……そんなこと全然。どうだっていいよ」

「……」

唯「……」

「……なんていうかさ、私、いきがみってイマイチよくわからなくて、さ」

唯「……」

「えーっと、こんなこと、いきなり言われて戸惑うかもしれないけど、

 私、そもそもいきがみのシステムに全く共感というか納得できなくて」

唯「……」

「それこそ小さい時からずっと『これは絶対おかしい』っていう気持ちがずっとあった。

 『こんな風に人の生死を他人が自由に決められるなんて絶対間違ってる』

 『健康な体やその人の命はその人だけのもののはずなのに』ってずっと思ってた」

唯「……」

「でも、私の周りの人はみんな『いきがみは素晴らしいものだ』『名誉のある死だ』っていうのが当然らしくってさ」

唯「……」

「確かに、注意して見てみたら私たちの周りにはいきがみに関することが溢れすぎてる。

 それこそもうがんじがらめに、私たちはいきがみに縛り付けられてる。

 小さい頃からずっといきがみについても教育を受けさせられてきた。

 そりゃ、それを当たり前だと思わないほうがおかしいよね」

唯「......」

「ずっと思ってた。

 『こんな風にいきがみのことを変だと思う私は間違ってる』

 『私は変なんだ』

 『私は普通じゃないんだ』って」

唯「……」

「親に一回だけ『こんなのおかしい』って言ったことがあるんだけど、

 病人扱いされただけだったんだ。

 てか、病院連れてかれた。もちろん正常だったけど」

唯「……」

「みんなと同じように楽しそうにいきがみについて話したり、憧れたり。

 ...そんな風に思ってなくてもバレないようにそういう風に思っているフリをするっての、

 きつかった。疲れてた。心から嫌だった」

唯「……」

「だから、いきがみをもらって本当にうれしかったんだ。これでやっと偽らなくてすむんだな、私って思ったら。

 あはは...!!なんか変なの!!」

唯「......」

「いきがみで私、死ぬんだ」

唯「……死ぬの、怖くないの?」

「自分の気持ちを偽って生き続けるくらいなら、死んだ方がマシだよ」

唯「……」

「でも、これでやっと解放される…。やっと死ねる…」

唯「……」

「いきがみなんて、私にとってはまるでしにがみみたいな存在だったんだよ、ずっと」


その時私はどうして彼女に言えなかったんだろう。


「私もおんなじようなことを思って生きてきたよ」って。


「こんな話きいてくれてありがとう。あと、ジュースもありがと!」

そう言って下駄箱の前で別れた数日後、彼女は私の知らない病人を自分の命を削って全力で救った。



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