上条が臨時警備員になって早くも一週間。相変わらず訓練は厳しいが、徐々に慣れ始めている。今日は第二学区ではなく、始めに手続きをした警備員の支部に二人は来ていた。「今日は私の部隊に挨拶してもらうじゃん」支部内の廊下を歩きながら黄泉川が言う。「ま、アンタが特別なのは皆知ってることだから、改めて挨拶っていうのもおかしいけど…」黄泉川は第一会議室と書かれた部屋の前で止まった。「転校生ってこんな気分なんですかね?」「そうかもね」くだらない事を言う上条に黄泉川は笑って答える。黄泉川がIDカードを当てると扉が開いた。「あ、おはようございます」扉の中では数人の隊員が談笑していた。上条は映画のようなピリピリとした空気を想像していたが、それとはまったく正反対の空気に驚く。(教師で組織されてるあたり、やっぱり違うのか…)
「今日は前から言っていた臨時の奴を連れて来たじゃん」「へぇ…あの高校生の…」黄泉川が言うと隊員達は珍しそうな顔で上条を見る。「ほら、自己紹介するじゃん」向けられる視線に少しどぎまぎしていた上条だったが、黄泉川に肩を小突かれ我に戻る。「え…あ、臨時警備員の上条当麻です。短い期間かもしれませんがよろしくお願いします」そういえば自分はどれくらいの期間警備員をすればいいのだろうか、と思う。そのあたりは詳しく教えられなかったが、やはり例の事件が解決するまでだろうか。頭を下げながら少し重要なことを考える上条に拍手がおくられる。その後、各々の隊員から紹介があった。「ま、ここにいるのが私の部隊だから、名前と顔くらい覚えとくじゃん」そう言えば黄泉川の部隊にも例の事件で怪我人が出ているということだったが、隊員たちを見ると頬に絆創膏を貼っていたり、手を包帯で巻いていたりと無傷の隊員のほうが少ない。これが現実か、と上条は改めて今回の事件がいかに危険なのかを実感する。本職の人間でさえこの有様だ。遊び半分で首を突っ込めば命を落とすかもしれない。そして中途半端な新参者が来れば、それだけで部隊に危険が及ぶこともある。黄泉川はこれだけの危険を背負って、自分が警備員になることを承認してくれたのだと思うと、単純に人を助けたいといった理由で返事をした自分が憎くなった。「どうした上条?早く席につくじゃん」「あ、はい…」「ここにいるのは皆教師。そんなに固くなることはないじゃん」黄泉川に促され椅子に座る。黄泉川は冊子を隊員達に配り、ホワイトボードに何かを書き始めた。ホワイトボードには『冬休み』と書かれた。「さ、明日から冬休みじゃん!」バン、とホワイトボードを叩きながら言う黄泉川。ちなみに今日は終業式が終わった後。昼過ぎからの出勤(?)となっている。「みんな知ってのとおり、長期休業中は生徒達の夜間徘徊や生徒間のトラブルがよく起こる。また、生徒達が街に出るようになるということは、例の事件も街で起こりやすくなるじゃん」例の事件、と言われて隊員達の表情が強張る。上条が臨時警備員になってからはまだ事件は起こっていない。一部報道機関ではすでに解決したのでは?とまで噂されている。上条もその報道を見て少しそう思っていたが、当事者である警備員達の様子を見て思い直した。
「例年通り、今日から警邏活動を強化するじゃん。二人一組の班にわける」名前を読み上げ、次々とペアを作っていく黄泉川。案の定、上条は黄泉川と組むことになった。「それじゃ、皆気を引き締めて警邏するよう!以上じゃん!」黄泉川が言い終えると、隊員達はペアを組んだ者同士で打ち合わせを始めた。「よし、私たちも動くじゃん」そう言って黄泉川は机に地図を広げた。「今日行くのは第十五学区。繁華街があるから夜遅くまで生徒がウロウロしてることもあるじゃん。当然、生徒間のトラブルも多い」地図にはところどころ印が付けられている。「この印はあまり人目につかないところ、カツ上げとか喧嘩とかちょっと危険なところじゃん。ま、あとは行ってから説明するか」出発じゃん。と言って地図をしまう黄泉川。「さ、初出動、張り切って行くじゃん!」「はい!」上条と黄泉川は勢い良く会議室から飛び出した。
一方、美琴も風紀委員の177支部で挨拶をしていた。「臨時で来ました御坂美琴です。本日からよろしくお願いします」「お姉さまー!黒子はこの日を待ちわびていましたのよー!」「うっさい!アンタこの一週間ずっとその調子で私に飛び付いてたでしょ」飛び付く黒子を手でおさえる美琴。臨時風紀委員は冬休みからの参加となっていた。「年末にかけて、どんどん忙しくなるけどよろしくね、御坂さん」黒子の様子にやれやれと笑いながら言う固法。「あ、はい。覚悟のうえです」「一緒に頑張りましょう!御坂さん!」「私も応援してます!」初春と佐天は拳をぐっと握り、目を輝かせている。「あはは、何もわからないから役立たずかもしれないけど、よろしくね」固法は支部の扉を開けて「それじゃ、まずは支部管轄内の見回り、行きましょうか」「さすがは警備員との共同戦線なだけありますわ。こちらのほうが私たちの性にあっていますの」「私はいつも通り、支部内から連絡します」「お願いね初春さん。それじゃ御坂さん、白井さん行きましょう」「はい!」三人が出て行くと、支部内を静寂が襲った。「…」扉を見つめながら、目を細める佐天。「佐天さん。私、佐天さんの入れる紅茶かココアがあると、作業効率が120%になるんです」「え?」佐天を見ながら微笑む初春。眩しくて、それでいて壊れそうな綺麗な笑顔。抱きつきたい衝動を押さえ、佐天は給湯室に向かおうとしたが、くるりと振り返る。「やっぱりこらえられなーい!」「わわわ!佐天さん!」支部内の静寂はどこかへ消えてしまった。
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。
下から選んでください: