何故だ。どうしてこうなった。自分たちの任務はただ子供を確保するという簡単なモノのハズ。能力者対策も万全だった。なのに。「ハッ…ハァッ…!」現実はどうだ。部隊は壊滅状態で、自分は逃げ惑うばかり。考えがまとまらない。足がもつれる。ここが限か―――――
「………」
スコープの中にある獲物の崩れ落ちる姿を認め、砂皿は次の標的を探す。もっとも、敵の残存戦力は多くない。大部分は、今はここに居ない味方達に無力化されたからだ。ふと、近付いてくる気配を感じる。「駆動鎧か…まだ残っているとはな」どうにかできない相手ではないが、いかんせん距離が近すぎる。だが、彼の表情に焦りは見られない。駆動鎧が、銃口をこちらに向ける。しかし、そちらに砂皿が目を向けることは無かった。
直後、ガガガガガッ!!と連続で金属が衝突する音が響く。それと共に、駆動鎧がみるみるスクラップと化していく。「ふぃー、危なかったですね砂皿さん……ってスルー!?私は空気か何かですかぁ!?」「……煩い、集中できん」「ぶーぶー!いいですよー!あとでネッチョリと絡ませてもらいますから!」コントのような会話をしながらも、着実に敵を排除していく。二人にとってはこのくらいがちょうどいいのかもしれなかった。「……そろそろ、か。ここが終わったら他のメンバーの援護に行くぞ」「はいはーい。……まあ行く前に終わってそうですけどね」
「反乱だと!?ええい、どうなっている!」「隊長、どうしますか?」「我々も出撃する!総員、相手にはレベル5もいる!十分に気を付け―――」言いきる前に、爆音と共に近くの壁が崩れる。「な、何があった!?」「おそらく、爆発物が仕掛けられていた模様です!ここ以外でも被害は起きているようで…!」「くっ…!」カツン、と床を蹴るヒールの音が響く。「あーあーフレンダの奴、張り切りすぎじゃないの?」まさか。
「麦野…沈利…ッ!?」「あらあら、名前を覚えてもってるのは光栄なんだけど……オッサンには興味無いのよね」瞬時に、男たちは彼女に向かって構える。「威勢がいいのは結構だけど―――後方注意ね」「何ッ!?」「超遅いです!」集団に向かって、小柄な少女が突っ込む。傍から見れば無謀に見えるが、彼女レベル4の能力者だ。窒素装甲で覆われた人体という弾丸に吹き飛ばされ、隊員たちは散り散りになる。「ナイス絹旗♪そんじゃ……サ ヨ ナ ラ」麦野沈利が光線を放つ。その光は、男たちの肉体を簡単に消し飛ばした。
「……派手にやったな」「あ?あー…グラサン、名前なんだったっけ?」「グラサン……土御門元春、だ」「ああ、土御門ね…そっちの持ち分は終わったの?」「いや、俺は戦力として数えられてないからな……だが、そろそろ出番だ」そう言って土御門は携帯を取り出し、どこかへと電話をかける。「超電話ですか、誰にです?」「なに、ちょっと高みの見物をしてる狸にな」『……よう』「おや、貴方ですか……」応対しているのは、スマートな黒の装束に身を包んだ人間。顔も隠されていて、性別を確かめることすらできない。「暗部同盟……なるほど、結束した貴方がたの力は凄まじいものがあります」『お褒めにあずかり光栄、だな……随分余裕じゃないか』「正しくは冷静、でしょうか……まあ、まだ策がありますので」『そうか?』土御門が、嘲笑するように言う。訝しげに、黒い人間は相手の出方を待つ。『そう思うなら、お前は随分と鈍感なんだな』ガチャ、という音と共に頭に銃口が押し当てられた。「悪いな、護衛は全員眠らせちまったよ」「な…に…ッ!?」銃口を向けるのは浜面仕上。アイテムの雑用係で、無能力者の男。「馬鹿な…!護衛には未元物質を元にした『アレ』を…!」「ああ、ロシアで俺たちを襲ったヤツらだろ」「無能力者程度が太刀打ちできる代物ではない…!元は第二位の、垣根帝督の力だぞ!」「だからこそだ」理解ができない。他のレベル5ならまだわかるが、今目の前に居るのは無能力者だ。こんなことがあるはずがない。「未元物質はロシアに行く前に滝壺がそのAIM拡散力場を記憶している」「……まさか」「そうだ、全員無力化させてもらった」だが、疑問が残る。未元物質を使っているとはいえ、彼ら自身が能力者であるわけではない。「元の能力が同じなら、できるんだよ」答えるように、浜面が言う。「元は未元物質なんだろうが。パンにとっての小麦粉……それを操れるなら、加工品のパンもってな」つまり、武器の素材そのものを掌握されたということだ。そして。「覚えとけ、これが新生アイテム―――そして暗部同盟だ」ズガン、という音と共に、黒が崩れ落ちた。
「おーおーお前ら俺のファンかよ、みんな俺の真似しやがって」「いや、このメルヘンさは誰も真似したくないでしょ。ホラ、嫌そうな顔してる」「仮面してるから見えねーっての」「あら、メルヘンの方には突っ込まないの?」ぐ、と垣根がうなだれる。だが、コントをしたところで敵が笑い転げるわけではない。「……自分の置かれた立場を理解できていないようだな」「あ?理解してるぜ?雑魚共がウジャウジャしてるってなあ!」「我々の力は、貴様の力を元にして作られたものだ。試作品が正式採用品に敵わないように、力の差は歴然だ」「おいおい言ってくれるなぁ…だが、大事なことを忘れてんじゃねーか?」「なに…?」「俺の未元物質に常識は通用しねえ」バサリ、と垣根帝得が翼を広げる。「テメエらのルールはあくまでテメエら自身のモンだ、俺がそれに縛られる理由はねーんだよ」「………」仮面の男たちも翼を広げ、空に舞う。垣根はそれを見て、ニタリ、と笑う。「さあ…見せてやる。魔術さえも理解した俺の未元物質をな」翼を持つ者たちが空で激突する。そして。
――――イギリス
「……今、何と言った?」「おお、ステイル…そんな顔をしけると、小皺が増えなりけるのよ」「うるさい…!何と言ったと聞いている!!」激昂するステイルに対し、ローラ=スチュアートはただくすくすと笑う。そう、人を見下したような顔で。そして。「魔導図書館を学園都市に送り込む、と言いけるのよ」「貴様、あそこは今戦場だぞ!そんな所にあの子を―――」ああ、と最大主教は答える。今気付いた、という意味ではなく同意という意味で。「だからこそ、意味がありしなのよ」「―――な、に?」どういうことだ、と炎の魔術師は思考を巡らせる。その答えが出ないうちに、最大主教は言葉を続ける。「あそこにはアレイスター=クロウリーが居けるのよ」それは、つい最近になって魔術サイドに広まった事実だ。もっとも、一般の魔術師には噂という形でしか認知されていないのだが。「そして今、幻想殺し達がそれを倒そうとしたるのよ、好機に他ならぬことよ」「……どういうことだ」ステイルが再び問いをぶつける。理解できない、むしろ理解したくないという風に。「まだわからぬことなりけるの、ステイル?」「………」ステイルは、答えない。何をしようとしているかはある程度理解できる。しかし、それを阻止するだけの力はあるのか自分にはわからないから。「アレイスターは魔術に関わる者にとって害悪そのものなるの。その討伐に我々が参加しすれば、功績によって発言力も増す」「だけれども、大規模な討伐隊を組んでここを空けるわけにもいかぬことよ」「だから、『アレ』を差し向けるのが効率的なりけるのよ」それは違う。確かに、フィアンマの件による被害の残るここを空けられないのは事実。だが、禁書目録を向かわせるのが討伐隊を組むより効率的とは言えない。その疑問に答えるように、最大主教は続ける。「別に、戦力にはなるであろ?……そう、コレがありければ」そして出てきた物は、ステイルにとって忘れようのないモノ。そう―――禁書目録の遠隔制御霊装。「また、そんなものを…そんなものを使えば、まだ全快でないあの子の体は…!」「死んでも、構わぬのよ?」
今度こそ、ステイルは言葉を失った。「他の組織を出し抜き、我々が参戦しけるという事実さえあれば、それで構わぬのよ」最早、目の前の女が何を言っているのか理解できない。「むしろ、損害がありける方がアレイスターの遺産と周りからの信頼も得られるであろうよ、それに、壊れたならまた用意すればよろし」沈黙。両者の心は憤怒と愉悦と、真逆の感情があった。そして。「遺産だと?信頼、だと?」拳を握りしめ、炎の魔術師は、怒りを爆発させる。「あの子の命が、そんなものと引き換えになっていいわけがない!!」叫びと共に、ルーンが部屋中にばらまかれる。そして使役する。目の前の『敵』を殺すための力を。「―――魔女狩りの王!!」だが、発動しない。それを疑問に思う前に、体が拘束される。「が、はっ…!」「……まさか、何の対策も取らぬとでも思うたの?」そう言う女の顔には、焦りの感情は微塵も感じられない。「な…にを…」「この部屋にある霊装が起動したのみなるのよ。部下の反乱を防ぐ対策は必要であろ?」そして、遠隔制御霊装を操作する。「や、めろ」「見ておれよステイル、お前の守ると誓ったものが滅びていく様を」「やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」叫びに、答えは無い。ただ、女は霊装を起動させた。
―――学園都市空に、白が舞う。どちらが優勢かは、誰の目からも明らかだった。「……どうした、大口を叩いた割に防戦一方だぞ?」仮面の男が、垣根帝督に告げる。その通りだった。1対1ならいいものを、敵は複数いる。垣根の翼で対応するのにも、限界はあった。「―――チッ!」敵の翼を破壊できる翼で、垣根は攻撃を加える。だが、その間に別の性質を持った翼が割り込む。「貴様が敵対した場合に備えて、性質の違う未元物質を用意していたのだ」その繰り返し。1対多では、持久戦に持ち込む意味もなかった。「もう諦めろ。貴様の命運は決した。」
「―――く、」ふと、垣根帝督が俯き、体を揺らす。「くく――くははははははははははは!!」突然の狂笑。ついに狂ったか、と男たちは感じる。「よお、お前ら……残念だったな、もう終わりだ」「……ふん、この状況を打破することなどできん。ブラフだろう」そうかそうか、と垣根は至極愉快そうに答える。男たちは、妙な真似をする前に処分しようという結論に達し、そして、「遺言なら聞いてやろう。この力を得ることのできた恩義もある」「誠実だな、まあ、一言だけ言うなら――――」「解析完了だ、クソッタレ」
「―――は?」男たちが反応をする前に。何らかの対処さえさせないまま、垣根は翼を振るう。そして。「が、あっ…!」白い翼を粉砕された男たちが、ノーバウンドで数十メートル吹き飛ぶ。男の一人が、かろうじて空中で垣根に向き直る。だが。「―――ひ、い!?」「悪いが、俺は遺言を聞いてやるほど優しくはねぇぞ」目の前に迫る、学園都市第二位。再び、翼が振るわれる。残ったのは、肉片だけだった。「いやー、余裕だったぜ」「あら、その割にはボロボロじゃない?」物陰から、心理定規が姿を現す。先の戦いに巻き込まれなかったのが不思議に感じられるが、理由はある。垣根が、彼女をかばいながら戦っていたのだ。「仕方ねーだろ、ハンデ付きで対複数だ。無傷で済むわけねぇよ」「……やっぱり、居ない方が良かった?」「いいや、そうでもねぇよ、おかげで第一位に近付くことができた」「……?」そう、周りの人間を守りながら戦うこと。今だあの境地には程遠いが、前に進むことができたのは確かだ。「なあ」「何?」「疲れた時はやっぱ膝枕だよな」「………ハァ、まあいいけど、ホント締まらないわね」「だろうな、俺に常識を当てはめる方が間違いだ」「……それって、ただの馬鹿じゃない?」戦いの後に訪れる平穏。だが、未だ戦い続ける者もいる。だからこそ、二人に休む暇などは無かった。
ピシ、とひびが入るような音がした。「―――――?」辺りを見回すが、特に変化は無い。だが、ピシ、ピシと、音の間隔だんだんと短くなっていく。まさか。そう考え、手の中の霊装に目を向ける。そして、パキ…ンという音と共に魔道図書館の遠隔制御霊装はガラス細工のように砕け散った。
「なッ……!」最大主教が、驚愕に目を見開く。ステイルはそれに対し、最初は理解ができず、ポカンとしていたが、すぐに表情を変える。「く…くくく……!」その表情は歓喜。まるで長年の研究の成果の出た科学者のような。「――――ステイル、貴様の仕業か?」「く、ふふ……おや、いつもの喋り方はどうしたんです、最大主教?」「やはり……!」「いいや……僕は何もしていないさ……」そう言って、拘束されたままごろん、と仰向けになる。「だが…これであの子を縛るものは無くなった……!」
ふ、と最大主教から顔から憤怒の表情が消えた。だが、それはステイルに対する許しを意味しない。そこには、ただ失望と侮蔑があったのだから。コト、という音と共に、ローラ=スチュアートが杖を手に持つ。ステイルにそれの正体はわからなかったが、どうせろくでもない霊装だろうと結論付けた。ボウ、とステイルの上空に火球が現出する。
「炎、か……僕に相応しい死に様じゃないか」「……そうか」「まあ、あの子を守って死ぬのが理想だったかな」興味なさげに、最大主教はブツブツと詠唱する。それと共に、炎が肥大化する。「―――先に行っているよ」そして、炎はステイルに向けて堕ち、その体を完全に飲み込んだ。
「………」反逆者は、一人始末できた。ともかく、今は魔道図書館をどうにかしなければならない。いや、アレイスターの件が先か。そこまで考えた所で、炎を落とした跡に、白い影が立っている。「……何者かしら?」煙と熱によって遮られていた視界が、徐々に晴れていく。そして、そこに立っていたのは、「―――禁書、目録?」
ステイルは、またも起きた事態に対応しきれずにいた。炎から自分を守った少女は誰だ?彼女が何故ここにいる?そもそも自分を助ける理由など、彼女には―――「すている」少女の唇から、炎の魔術師の名がこぼれおちる。それは、彼が何より欲する言葉。そして、もう戻るはずのない言葉。「ごめんね、すている」あの頃と同じ目で、少女が言葉を告げる。慈しむように、警戒などの感情を全く感じさせない顔で。「遅くなっちゃってごめんね、すている………ただいま」
「何故……」驚きを隠せない顔で、最大主教が問う。「どうして…記憶が戻っている…?」答えるために、インデックスが最大主教に顔を向ける。その目には、決意の色を宿して。「今思えば、最初からおかしかったんだよ」「私にかけられていた首輪は、記憶と魔力を奪うためのもの」「にも関わらず、破壊された後も記憶はおろか、魔力さえ戻らなかったんだよ、つまりは―――」「私の魔力と失われた記憶は全て、自動書記に奪われていたんだよ」
「そうだとしても、記憶を取り戻すことなど……ッ!?」そこまで言ってから、気付く。少女は一度、右方のフィアンマによって、霊装で操られたことに。彼女には、あらゆる魔術を解析する力があることに。そして、遠隔制御霊装が前触れもなく砕け散ったことに。「ま、さか……」あり得ない。だが、あえてその可能性を口にする。「掌握したのか……自動書記を……!」返事は、無い。だが、無言は肯定と同意だった。
ならば。魔道図書館が命令を聞かぬ邪魔者になったのなら。その意思と共に、最大主教は杖を構える。
「インデックス……!」ステイルが、少女の名を呼ぶ。危険だ、心配だという風に。くす、とインデックスが微かに笑う。「だいじょうぶだよ、すている」やがてそれが、満面の笑みへと変わる。「それに、今度は私が誰かを守る番なんだよ」そして、少女はステイルに背を向け、敵に向かう。ただ、大事な人を守るために。少女の形をした生まれたての魔神は、己を傷つけた組織の首領へと牙をむく。
『……どうしますか、彼らは絶対に来ますよ?』『ふむ、それなら……アレを出しなさい』『アレ、ですか?しかし戦闘能力が少し足りないのでは……』『問題はありません、彼か彼女のトラウマを刺激すればいいのですから』『それは…前例が…』『それよりは戦闘能力は少しは上ですし、強化用のツールもあるでしょう?』『……わかりました、その通りに』『頼みましたよ、それが唯一の対抗策です』『……了解』
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