「あ~疲れた」寒い部屋の電気をつけながら、上条は溜め息をついた。結局あの後もしっかりと飲まされ、酔った小萌を家まで送り、道中泣き出す小萌の相手をして帰宅したのだった。上条は鞄を適当に置き、かさばる学ランを脱いだところでベッドにふらふらと倒れこむ。「上条さんは意外とお酒に強いのですね、将来安心」風呂は明日の朝でいいやと思い、枕元に置いてあるリモコンで部屋の電気を消す。ウトウトとしていたところで携帯が鳴り出す。「誰でせうか、こんな時間に…」時計を見ると午前1時、この時間帯にかけてくるのはどう考えても非常識だ。ディスプレイで番号を確認せず、電話に出た。「もしもし~上条さんは本日もう終業しましたよと」『とうま!何寝ぼけたこと言ってるの?』電話から聞こえてきたのは、聞き慣れた声だった。「あれ?インデックスさん、まだ起きていらしたのですか?良い子は寝る時間です。そんなわけで寝ます、おやすみなさい!」電話も切らず、そのまま枕に顔を埋める上条。『何訳のわからないこと言ってるのかな?まだ午後の4時なんだよ!』インデックスの年相応の高い叫び声に上条の頭が揺さぶられる。「えぇ~あぁ…世界は広いなぁ」『も~とうまのバカ!毎日電話するって言ったのに』もうほとんど寝ている頭を回転させる。そういえばそんな事を言っていたような気がした。「あ~そういえば」このまま切って寝てしまいたかったが、それは少し可哀想だったので上条はベッドから降りた。窓を明けてベランダへ出る。夜風が酒で火照った身体に当たり、心地良い。『あれ?そういえば今の時間日本は…』電話越しに少し困ったようにインデックスが呟く。『わわっ。よく考えたら今日本は午前1時、ごめんなんだよ、とうま!』「あーいいっていいって。それで切らないでくださいよインデックスさん、夜中に不幸だとは叫べませんよ」
『?なんだかとうま、いつもと調子が違うかも』「んー?そうか?」酒のせいだろうかと思う。それとも…『何か隠し事してない?』「…」『やっぱり…何か隠し事してるんだ』敵わないな、と上条は心の中で呟く。『正直に言ってくれないと噛み付くかも』「それは勘弁して欲しいですよ」調子がおかしいな、と自分でも感じてきた。そもそも月明かりに照らされ、夜風を感じながら、年頃の女の子と電話をするなど自分のキャラではない。さっきの時点で寝てしまうのが上条当麻だろう。
『まぁいいや』しばらく無言が続いた後、インデックスが諦めたように呟いた。「え?インデックスさん?」『とうまのことだから、また人助けしてるんでしょ?』「まぁ…遠回しに言うとな」『だったら私は何も言う事は無いかも』電話越しにカチャリと食器の当たる音がする、時間的にむこうはティータイムだろうか。『とうまが信じた道を、とうまが全力で進むならわたしは止めない』ただね、と呟くように言う『気をつけてね』インデックスのこの一言に、どれだけの気持ちが込められているのか、と考える。インデックスといい、小萌といい、黄泉川といい、自分はどれだけの人間を不安にさせているのだろうと考える。そして自分を心配してくれる人に、どれだけの不幸を与えているのだろうと考え、自嘲的に笑う。
「あぁ…わかってる」ゆっくりと、噛み締めるように言った。何の映画ワンシーンだろう、と思う。普段のテンションの自分が見たら腹を抱えて笑い転げるだろう。そう思いながらも、今の雰囲気はなぜかとても大切なものに感じられた。『それじゃぁ、今日はもうおやすみなんだよ』「おぅ。おやすみ」『明日はもう少し早い時間に電話するんだよ』ははは、と上条は小さく笑い
「まぁインデックスのことだから、どうせ3時のおやつに夢中になって気がついたら1時間経ってたってオチだろ?」『なっ…!そそそ、そんなことないんだよ!』図星だったようだ。まさか本当だったとは、イギリス清教様、ご愁傷様です。『もう知らないんだよ!バカとうま!』「はいはい、おやすみ」ブツリと電話が切れる。きっと今頃は煙草臭い溜め息を付く神父にブツブツ文句を言いながら、追加のおやつを頼んでいるのだろう。
「ま、寝るとしますか」しばらく夜風に当たっていたので、身体はすっかり冷えてしまった。ブルッと身震いを一つすると、上条は自室に戻り一度身体を温めるために風呂へ向かった。ちなみに上条宅の給湯器、一度インデックスによって破壊されたが今はしっかりと修理が施され、(自称)寂しい上条にとって唯一の温もりをくれる存在となっている(上条談)。修理に来た業者が何故か意味深な溜め息をついたこと、上条が修理代を見て例の言葉を叫んだことは言うまでもない。上条が風呂場に入り湯を出し始めると、台所にもある給湯器の操作器が点灯し暗い部屋へ僅かな光を与えた。
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