同日風紀委員第一七七支部キーボードのタイプ音だけがリズム良く響く支部内。と、タイプ音が止まる。「くぁー白井さんも固法先輩もいないとなると、私だけって劣等感がします」頭の花を揺らしながら初春飾利は椅子で伸びをする。今この支部にいる風紀委員は彼女一人である。風紀委員は…「私がいるじゃなーい。はい紅茶」後ろから差し出される紅茶。ありがとうございます、と返事をしながらサラサラと砂糖を入れていく。「佐天さんはお客さんです。現に仕事しているわけじゃないですし…」「それ言われるとちょーっと痛いかなー」同級生の佐天涙子は困ったように笑う。「ってか砂糖入れすぎ!」紅茶にミルクとシュガースティックを5本入れたところで飾利スペシャルの完成だ。「だいたいジャッジメントオンリーのセキュリティに佐天さんも登録しているんだから、仕事をしてくれても何もバチは当たりませんよ」ずずずっと溶け残った砂糖に心地良さを感じながら紅茶を味わう。「私の仕事はねー初春をいじめることだー!」わー!という掛け声と共に抱き着かれてソファーに倒れこむ。「これじゃ私の仕事の邪魔ですー!」と言っても佐天は聞くはずがない。やれやれと思っていると入り口のドアが開いた。「あら、初春に佐天さん。お早いことで」この支部の風紀委員である白井黒子は初春たちの様子を見るなり怪訝な表情を浮かべる。「あれ、私たちが一番じゃなかったの?」黒子の後ろから御坂美琴も顔を出した。「えぇお姉様。初春と佐天さんが既に…」と、美琴も初春たちの様子を見て微妙な表情をする。4人が一気に無言となり、居心地の悪い空気が流れる。「あはは…こんにちは、白井さん、御坂さん。あ、これはですね、初春が男の人に初めてを捧げるための予行演習で」「かっ…勝手なことを言わないで下さい!それに今のこの空気を打開できる言い訳じゃないです!」真っ赤になりながら必死に抗議する初春に、美琴と黒子はいつも通りだなと笑みを浮かべた。「それにしても…遅いですね、固法先輩」支部内の机の上には4つのマグカップが湯気を上げていた。ポツリと呟く初春に対し「どっかで買い食いでもしてんじゃないのー」「佐天さんと違って、固法先輩はそんなことしないです」「うわっ!ぐさっとくるねー」ソファーに力無くもたれかかる佐天。「あら、固法先輩今日はジャッジメントとアンチスキルの合同会議に出席されているはずですの、初春は知りませんでした?」「あれ?そんなこと初めて聞きましたよ」「何やら近頃騒がれている能力者暴走の件とかで…緊急でしたから初春には回ってなかったのかもしれませんわね」
「あぁ、たしかにそんな事件あるわね」美琴がマグカップを置きながら言う。「なんだっけー?能力者の能力が暴走して周りの人や、それを取り押さえようとしたアンチスキルにも被害が出てるんだっけ?」「アンチスキルだけではありませんわ、先日の発火能力者の一件ではジャッジメントにまで被害が出ていますの」黒子は一つ、本当に困ったような溜め息を付いて「しかも、今回の事件で一番の謎とされているのが、暴走した能力者本人。まったく意志が無かったということですの」
え、と黒子以外の3人が驚く。「ちょ…ちょっと待ってよ黒子、そもそも能力の暴走なんでしょ?暴走なら本人の意志もなにも関係無いんじゃない?」美琴が3人の心持ちを代弁する。「えぇ…そうですわね…この事件の場合、能力の「暴走」ではなく「乗っ取り」と言ったほうがいいかもしれませんわ」「乗っ取りって…」「お姉様達もご存知の通り、本来暴走と言うのは本人が無意識のうちに能力を使用してしまうこと、しかしその暴走も能力者が意識すれば押さえ込めるはずですの」「なるほど…ね…」当の美琴も、とある少年の前では「ふにゃー」と能力を暴走させがちだが、それはほんの気の緩みや焦りのため、しっかりと制御すれば正常に戻る。「それに…どう考えても暴走では無いような気がするんですの…」さらに?マークを浮かべる3人。黒子もどう説明しようかと悩んでいるのか、考え込むが「言葉で説明するよりも見ていただいたほうが分かりやすいですわ」未だに?マークを浮かべた初春に声を掛け「先日の発火能力者暴走の映像、ありますわよね?」「はい、えっと…」ソファーから立ちパソコンへ向かう初春。しばらくタイプやクリックの音が聞こえた後、ありました。という返事。黒子の返事を待たず初春は動画を再生する。「見ていただけます?」美琴と佐天もディスプレイを覗き込む。そこで再生されているのは、ちょうど発火能力者と警備員が対峙しているところだった。真っ黒な戦闘服に身を固めシールドを持つ警備員が横一列に並び。対する能力者は何かに怯えているような表情だった。再三警告をするも、能力者のほうは応じない。そして、警備員達が徐々に距離を詰めようとした瞬間。能力者の炎が彼らを薙ぎ払った。「ここまで見て、お分かりなられました?」「うーん…」3者とも首を傾げるばかりだ。必死に理解しようと、動画を見続ける。体勢を立て直す警備員。それを薙ぎ払う能力者の炎。「次でお分かりになると思いますわ」「あ…ジャッジメント」美琴がディスプレイの一点を指差す。駆け付けた風紀委員。拘束しようと能力で応じるが、炎が風紀委員を狙う。
そう、狙っていた。
「あ…」3人がディスプレイから顔を上げる。「ようやくお分かりになられましたか」黒子は一つ溜め息を付き、「そう、能力者はしっかりとアンチスキルやジャッジメントを狙って能力を使っていますの。これはどう考えても能力の『暴走』とは言い難いですわ」「でも、どうしてアンチスキルは暴走って言い切るの?」「そうですよ、ここまで明らかな使い方をするのなら、れっきとした犯罪行為です」「それが…」美琴と初春の意見に言いにくそうに目を伏せる黒子。しばらくして自分も信じ難いというように、ゆっくりと話し始める。「容疑者である能力者によると…身体が無意識のうちに動いたとかで…自分が誰かに操られているようだと…」美琴が眉をひそめる。「どういうことよ!そんな言い訳で済むなら、街中暴れまくる輩で溢れちゃうじゃない」「落ち着いて下さいまし。もちろん、アンチスキルも最初は相手にしませんでしたわ」ですが、と黒子は一呼吸おいて。「初めての事件が起きて以来、立て続けに同じような事件が起きましたわ。徐々に起きる頻度も高くなっていますし…」うーん、と唸る4人。「その容疑者の人って本当に悪いことした人じゃないんですか?その…悪い集団みたいなのが暴れて、口裏を合わせてるとか」自身が無能力者であるがゆえか、佐天が遠慮がちに聞く。「もちろんその可能性も考えましたが、暴走した能力者の方は至って普通の学生。前科も無く、中には元ジャッジメントの方もいましたの。不可解な繋がりもなかったですし…先入観を持つのはいけませんが、どう考えても突然そのような道に進むとは思えない方ばかりですの…」解けない謎に、4人がそれぞれ頭の中で考えていた。あ、とパソコンで調べていた初春がと小さく呟く。「スキルアウトによる『能力者狩り』も激化しているようです」「ったく…ここぞとばかりに出てくるわね…」美琴がやれやれと溜め息をつく。スキルアウトは無能力者が自分の持てない能力を持つ能力者を妬み、敵対視しているため、今回の事件はスキルアウトが暴れるのにはちょうど良い口実になる。そのために、最近の警備員と風紀委員は能力者の暴走事件とスキルアウトの暴走への対処に追われ忙しく、人員不足と言っても過言ではなかった。しばらくは各々が頭の中で事件を整理していたようで、沈黙が続いたが、はぁ~と黒子が一つ大きな溜め息を付いて「それに関しての今日の臨時会議でしたが…遅いですわねぇ固法先輩。もしかして本当に買い食いだなんて端ない真似を…」「するわけないでしょ!」黒子が言い終わる前に支部のドアが開き、固法美偉が抗議の声と共に入ってきた。「げ、固法先輩…会議はもう終わったのですか?」「遅いとか言っときながら、来たらその態度ってどういうことよ」固法は黒子を呆れたように見ながら、鞄の中から書類を取り出す。「まったく、これからは年末で冬休みも始まるからただでさえ忙しいのに…」真面目な固法が珍しく愚痴をこぼしつつ、書類を黒子と初春に手渡す。「今日の会議の資料よ。最近起こっている能力者暴走の事件について、アンチスキルから正式な支援要請があったわ」つまり、と固法は続ける。「この事件については、ジャッジメントも捜査にあたれるわ」風紀委員とは、本来学校内の治安維持をメインとした機関であり、都市内での活動は管轄外である。そのために、初春は度々黒子の活動に対する始末書を書かされるわけだが…「今回は白井さんのために始末書を書く心配が無いわけですね」初春が心底安心したように呟く。「心外ですわね…でも、この事件について公認で捜査ができるようになったのは大きいことですわ」おもむろに、黒子は初春の後ろへ立つ。黒子が今にも頭の花へ手を出しそうだったのを、首を振り避けながら初春は言う。「でも、年末はその年の事件の整理とか、書類の提出とかで冬休みで学校が休みなのにジャッジメントはいろいろ大変なんですよね?それに加えて今回の支援要請。なんだかとても忙しそうですねー」「人事のように呟いているあなたには余裕が感じられますわ」「あぁ、そのことなんだけど…」固法が思い出したように、別の書類を渡す。「ジャッジメントの臨時募集?」書類を見ながら黒子が呟く。
興味をそそられたのか、今までの風紀委員限定の会話に微妙な居心地だった佐天と美琴も黒子の書類を覗き込む。「えぇ、さっき初春さんが言ったように、年末ただでさえ忙しい状況なのに今回の支援要請。さすがにそれではジャッジメントも仕事が多すぎるってことでの措置らしいわ」「では、一般学生がジャッジメントになるための試験も研修もせずに配属されるってことですの?あまりにも無茶苦茶なことかと…」「いいえ、誰彼無しにってわけじゃないわよ。大能力者以上で、もちろん本試験までとはいかずとも、試験もあるわ。今回は急な話だから、初春さんみたいに隠れた能力を持った人が来られないのは心苦しいけど…」「ま、どうであれ苦渋の決断ですわね…ってお姉様?」黒子が隣を見ると、美琴が何やら真剣に書類を読んでいる。「あ…あの、お姉様?」「私…やってみたい」
黒子の悪い予感が当たった。いつだったか、美琴が風紀委員に憧れて初春の腕章を使い、一日風紀委員をしたことがあった。その時は大きな事件も起きず、何も無い退屈な風紀委員の仕事に、風紀委員の大切さを知りながらも飽きてしまった美琴だった。だが、今回は状況が違う。風紀委員が捜査を許されるこの事件。臨時であろうと、風紀委員なら事件の捜査ができるだろう。むしろ今回の事件をより早く解決するための臨時風紀委員なのかもしれない、だから大能力者以上なのかもしれない…「やっぱりですの…」「あれ?黒子、あんまり食いついてこないのね、私はてっきり反対されると思ってたんだけど」周りを見れば、全員が黒子へ注目していた。黒子は溜め息を一つ吐いて「どのみちお姉様なら風紀委員でなくとも事件には関わってきそうでしたし、わたくしが言ったところで聞かないのはわかりきっていますわ」それに、と黒子は続ける。「おおかた、この手の厄介事にはあの殿方も関わるはずだとかお考えでしょう?そんな下心満載の乙女なお姉様には黒子はかないませんわ~」黒子が呆れた目で美琴を見る。なっ、と美琴が顔を真っ赤にしていると。「白井さんの言ってる殿方ってやっぱりあのツンツン頭の高校生ですか?」「え、え、初春!誰なのそれ?御坂さんの彼氏?」途端に初春と佐天が食いついてきた。「ばっ…バカ!なんで今あの馬鹿のこと考える必要あるのよ」「あの殿方、いろいろと面倒事に巻き込まれているようですけど、お姉様はいつも置いてきぼりですものね」「うっ…」「これに乗じて急接近しちゃおうってことですか!?」うわぁ…と目をキラキラさせ、乙女モード全開になる初春。「ち、違うから!初春さんまで…」「そうでもしないと接近できないなんて…御坂さんって案外奥手なんですね」「さ、佐天さんまで…!」必死に否定する美琴だが、周りから見れば顔を真っ赤にしながら否定するあたり、どんなお約束だよ。と突っ込みたくなるくらいだ。(た…確かにアイツなら、この事件もどうせ放っておけなくて首を突っ込んでるんだろうけど…でもアイツに接近したいからとかじゃなくて、アイツいつも一人で突っ走ってるから…いやいやいや、そうじゃなくて!私だって能力者の一人として、学園都市の一人としてやっぱりこんな事件は放っておけないわけで、決してアイツのことを考えたわけじゃなく…あ、でももしもアイツがこの事件に関わってるなら、やっぱり共同戦線張っちゃったり?確かに接近できちゃうの?いや、だから決してそういうつもりがあったわけじゃ…)「あぅあぅ~」「お姉様、考えていることがダダ漏れですわよ」「へっ!嘘!今考えてたこと全部嘘だから!」「冗談ですわよ…そんな聞かれちゃまずいことをお考えでしたの?」見事に鎌を掛けられた美琴だった。「と、とにかく、御坂さんが臨時ジャッジメントに立候補するってことでいいのね?」美琴の焦りように少し驚きながらも、固法は話を仕切り直す。「はっ…はい!」「それじゃ、この書類に必要事項をお願い」いくつかの書類を渡される。それらには自分の情報を書くものや、規則に対しての誓約書などが何枚もあった。「でも御坂さんが捜査に加わってくれれば百人力ですよねー」書類を記入していると、佐天がポツリと呟いた。「本当、私も大能力者だったらなー…なんだか私だけ何もできないって疎外感感じちゃうよ。今回はさすがにバット一本で何とかできる様子じゃないし…」佐天が困ったように笑うのを見て「そんなこと無いです!佐天さんは…佐天さんは仕事に疲れた私たちを癒してくれる。仕事を忘れさせてくれる大切な存在です!私の隣に居てくれるだけで、十分なんです!」初春が叫ぶように言った。「初春…」佐天は自分を必要としてくれる親友に心から感謝し、気を使わせてしまったことを反省した。
そして、「ありがとー初春!」飛びつかずにはいられなかった。「わー!今は必要な時じゃないですー!」ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を見て、美琴は佐天のように「何かしたくても何もできない」人がいるという事を実感する。(そっか…)誓約書へのサインへ力を込める。(でも、)頭に浮かぶのは、やはりあの不幸少年。彼なら「何もできなくても」立ち上がるだろう。(なら…)自分だって立ち上がってやろう。学園都市第三位と鼻を高くするつもりは無い。誰かを助けたい。助けたいと思っても何もできない人の気持ちも全部引っ括めて。
(やってやろうじゃないの!ジャッジメント!)
最後の書類にサインをした。「お願いします」書類を固法へ提出する。「確かに受理したわ。入るための試験は明日からやっているから、いつでも行ってね」固法から試験場所などを記入してある書類を渡される。「ま、お姉様なら受けるまでも無いですわ」「馬鹿言ってんじゃないわよー」美琴は否定するが、どうやら美琴以外は全員そう思っているようだ。「これからよろしくね、御坂さん」「改めましてお願いします」「頑張ってください!御坂さん」臨時風紀委員、御坂美琴が誕生しようとしていた。
車内は居心地の悪い雰囲気に包まれていた。(……気まずい…)上条は窓の外を見ながら、何か会話をしようかと考えるが、どう話しかけていいのかまったく分からない。結局学校を黄泉川の車で出てから、上条は一言も話していなかった。黄泉川のほうは特に気にした様子もなく、急停車、急発進無く丁寧で上条にとって(身体的な面で)快適な運転をしていた。と、気がつけば3車線道路が交差する大きな交差点に来た。今目の前の信号機は赤だが、前を横切る車は無い。今までも交差点には何回か止まったが、少ないとはいえいくらかの車が横切っていったはずだった。だが、この交差点はまったく車が通っていない。不思議に思い後ろを見ても信号待ちをしている車もなかった。まるで「人払い」の魔術を使用したようだ。上条は何か嫌な予感がした。しかし、黄泉川は何も気にした様子は無く。「上条、一つ聞かせて欲しいじゃん」「え?はい」緊張していたため、声が上ずる。「アンタ、まさかとは思うけど。生活費が苦しいとか、遊びたいがために、このアンチスキルをやるつもりじゃないだろうな?」「え?生活費?遊び?」上条は全くわけが分からず、間抜けな声をあげる。「…ったく、その様子で安心したじゃん」黄泉川は呆れたような、それでも安心したような表情で運転席の横の鞄に手を入れる。そして取り出してきたのは、さっきの任命状だった。「月詠先生から聞いてるけどアンタって後先考えず突っ走るバカらしいじゃん?でも、こういう書類はちゃんと読んだほうが人生得することがあるじゃん」書類を手渡されて、上条は目を通す。さっき見た「臨時のアンチスキルとして任命する。上条当麻」の下に、まだ文章が長々と書かれていた。
上条は校長室の時と同じように音読する。「なお、学生からという特別な形のため、今回は特例としてアンチスキルながらに給与が発生する。その額はこの文書では書かないが、それ相応のものとする」「ま、物で吊ろうっていう汚い考えだろうけど、アンタがそんなバカじゃなくてよかったじゃん」さっきから、後先考えず突っ走るバカだの、物に吊られないバカでよかっただのと言われているが、いったい自分はどんな人間なのだろうと考えるバカ学生、上条当麻だった。「ま、冬休みの課題もあって大変だろうじゃん。そのあたりも踏まえて、お小遣い程度の軽い気持ちで貰っとくといいじゃん」
え、と上条の「果たして自分はバカであるのかないのか」というバカな思考が途切れる。「や、やっぱり…宿題は免除されないのでせうか?」「当たり前じゃん?ま、休憩時間とか隙間の時間にやればなんとかなるじゃん。そのあたり、私が教師としてしっかり指導してやるじゃん」「ふ、不幸だ…」がっくりと頭を抱える。先日の期末考査でさえ散々な結果だった上条は、今でも鞄の中に大量の補習用プリントが入っている。それに加えて冬休みの宿題だ。きっと不幸な自分は警備員の仕事に恵まれすぎて、やる暇も無いだろう。二度目の一年生もそろそろ見えかけている。
実際今日、校長室に呼ばれたのもそれを覚悟してのことだった。(留年とか親に会わせる顔がありませんよ。そして周りの連中にバカにされまくるんだ…不幸だ…)「それで、上条当麻」これからの人生どう生きようかと、本気で悩んでいた上条は、黄泉川に呼ばれ我に帰る。「さっきアンタ。この道で車が通らないことに違和感を覚えたみたいじゃん?」「え、えぇ…まぁ…」そう言っている今も、車が通る気配も無い。「いい観察力じゃん…ご褒美として、教えてやるじゃん」黄泉川は運転席の位置を前後へ調整しながら言う。「この道は一般道じゃないじゃん。緊急車両用特別道路。つまりアンチスキルや救急の車が通る道」何だか嫌な予感がした。今までの不幸体質で養った、第六感が赤信号を灯している。「こんなこともできるじゃん!」目の前の信号機が青を示すと同時に、車の後部からタイヤの悲鳴が聞こえ、大きなGが上条の身体を襲う。「口を閉じてろ、舌噛むじゃん」口の中で上条は色々な意味を込めていつもの言葉を叫んだ。ビルが立ち並ぶ街を一台のスポーツカーが凄い速度で走り去っていった。
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