これは超電磁砲と幻想殺しが出会う少し前の甘酸っぱくてほろ苦い、淡い淡い恋のお話…
初春「さ、さ、さ、さ、佐天に彼氏ができたんですかぁ!?」佐天「ちょっと初春!声大きいよ!」初春「で、で、本当なんですか!」佐天「うん。実はね。それで今日はその人と会うからゴメンね?」スタスタ級友1「涙子も大人になったねぇ。ね、初春。」初春「…………」級友1「?」初春「佐天さんに男が出来た…佐天さんの純潔が…」ブツブツ級友1「」初春「級友1さん!!私に今すぐ病院を紹介してください!!」級友1「え?初春どこか悪いの」ビクッ初春「えぇ悪いですよ!私にアレが無いばっかりに佐天さんは悪い男に捕まって!」級友1「ちょ、ちょっと初春落ち着いて!」初春「落ち着いていられますか!佐天さんの純潔は私が貰うんです!」級友1「」初春「さぁ早く!私にアレを!アレを付けてください!」ワーワーキャーキャー
佐天「はぁっ、はぁっ!」 慣れないことをした。 それがこの事態を招いた原因だ。佐天「何の力もないのにっ、変に勇気振り絞っちゃったからっ!」 振り向き、後方を確認。 追い迫る不良が数人。 あれから数分しか経っていないのだろうが、感覚的には数時間にも感じられた。佐天「あはは……もうダメ、かも……」 全速力で駆けていた足が徐々に減速していく。佐天(やっぱ、助けなきゃよかったなぁ……) こんなこと考える自分に腹を立てる余裕すらなかった。 ただただ後悔の念だけが、じわりじわりと広がっていく。佐天(――助け、て……) 何の力も持たないただの女子中学生の自分が出来ることは、ただ願うだけ。 しかし、神様がそんな願いを聞き入れてくれるはずがない。佐天「誰か、助けて――!!」 だから、最後の力を振り絞り、叫んだ。 そして、コンクリートの地面に倒れるように膝をついた。
「手間かけさせやがって……!」 どたどたと複数の足音が近付く。 これから、助けた女の子の代わりにひどいことをされるのだろう。佐天(惨めだなぁ、私って……) 肩で息をする不良の一人がくつくつと笑いながら、目の前に立った。 顎に手を添えて、不良は品定めでもするように視線を上下させる。「俺はイケるぜ」「当然」「見張っといてやるよ」 恐怖で声も出せない。 目頭が熱くなる。手足が震える。 眼前の不良が足を使って、私の顎を持ち上げる。 背後に立つ不良が、私のスカートを摘み上げる。 ……嫌だ。 声にならない言葉を呟く。 と、同時に涙が頬を伝っていた。 それは筋を描いて零れ落ち、コンクリートの地面に吸い込まれていく。 その時だった。「――間に合ったか」 前方から、声が来たのは。
学ランを身に纏った男の姿が、視界に映った。 ツンツンと立った髪の間から、後光が差すように光が漏れている。「テメェら……恥ずかしくねぇのかよ! 男が、踏み出す。 右手で拳骨を作り、目を尖らせて。「男三人で寄って集って……カッコ悪ぃよ……! そんな風にしなきゃ女の子一人とも向き合えねぇのかよ!?」「いやいや、俺たちは向き合うつもりなんてねーよ。 どうせコイツもヒィヒィ喘ぐんだからいいだろ」「なぁに、ボクぅ? もしかして混ざりたいのかなぁ?」 路地裏に下卑た笑い声が谺する。 その中で、き、と歯を軋ませる音が混じった。「合意の上でなら俺だって何も言わねぇよ。だけどな、その娘は違ぇだろ!? テメェら、女の子を一緒くたに見てんじゃねぇよ! くだんねぇ幻想に囚われてんじゃねぇよ!」 ち、と不良の一人が舌打ち吐く。 三人の不良は私の前までのそのそと移動すると、それぞれポケットの中から何かを取り出そうとする。「いいぜ、来いよ。強姦なんてふざけたことをする根性をぶん殴ってやる――!」 次の瞬間、私の目の前で凶器を手にした三人と、どこまでも真っ直ぐな男が戦闘を開始した。 お世辞にも、華麗にとは言えないが、襲い掛かる凶刃を避けて男は打突を叩き込んでいく。 一人、二人、そして三人、と。 自分が瞬き一つしないでその様子を見ていたことに気付いたときには、三人の不良は呻き声を上げて倒れていた。 溜息を吐いて乱れた呼吸を整えた男が、こちらへ足を向ける。 その顔には、呆れたような笑みが浮かんでいた。
「可愛い女の子がこんな所に一人で来ちゃいけませんよ?」「か…かわっ?」ボンッ、と音のなりそうな勢いで、自覚出来る程真っ赤になる私。ナンパさんなのかな?と思い、赤くなった顔を悟られまいとうつ向きがちに彼の顔を覗き込む。「?」ニコッ(うわぁ…いい笑顔…)彼は、何のことか分からないような爽やかな笑顔でこっちを見ている。どうも彼は素でそのような事を口に出してしまう人間のようだ。(どうしよう…顔がどんどん熱くなってく…)チャラチャラした男達に言われても何とも思わないような歯の浮くようなセリフ。でも、何故かこの人に言われると、恥ずかしくて嬉しくて、何だか分からないような気持ちになってしまう。
「……?大丈夫でせうか?」その人は、いつまでたっても顔を上げないのを不審に思ったのか、私の顔を覗き込んでくる。そして、「ひゃんっ!?」突然おでこにひんやりとした感触があった。何事!?と思い、顔を上げると、彼が私の額に手を当て、熱……はないか、と呟いている。「何だか顔が赤くなってたみたいだから心配したけど、大丈夫っぽいな」何だか子供扱いされてるみたいで、ちょっぴり複雑だ。「それじゃあ私はタイムセールスがあるんでこれで失礼しますが、真っ直ぐ家に帰るんですよ?」そう言って、その人は走り出す。額に残る、心地よい手の感触。何か、何か言わなければあの人は行ってしまう。そう思った私は咄嗟に声を上げていた。
「あ、あの!」まだ何か?と言わんばかりの顔をして振り向くその人。呼び止めたは良いけど、何て言えば良いのか全く浮かんで来ない。あの、と声を掛けたポーズのまま固まる私。変な娘だ、って思われちゃったかなぁ……って違う違う!そんなこと考えてる場合じゃない!考えろ、考えるんだ佐天涙子!らしくないぞ!(そ、そうだ、お礼しないと!)熟考すること数秒、私はやっと話す口実を見つけた。それは何て事ない、誰でもいの一番に考え付く様な些細なもの。そんな簡単な事に気付かないほど、私は混乱していた。いや混乱させられていた、のかな?
(まずは名前を聞いて、で連絡先交換!)完璧!私はよし、と自分に気合いを入れ、意を決して口を開いた。「あ、あの!お名前をっ!」がしかし、完璧すぎると思われた私のプランは、一瞬にしてぶち壊されてしまった。「名乗る程の者じゃないよ。それじゃ」「」そう言って走り出した彼の背中は、幼い頃テレビを見て夢中になっていた、悪い怪人達を倒すヒーローのそれと重なっていた。彼の姿が見えなくなる。気付いたら私は側にあった空き缶を蹴り飛ばしていた。「何で私が恥ずかしくなんなきゃいけないのよー!」まさか現実にあんなことを言う人がいるなんて思わなかった。そして空き缶は、美しい放物線を描きながら路地裏の奥へと消えていった。(でも、格好良かったかな)そんな事を思いながらふと下を見ると、何やら手帳の様な物が落ちている。拾い上げて見てみると、どうやらヒーローさんの生徒手帳のようだ。(かみじょうとうま……って読むのかな?高校生なんだ)(返さないとダメだよね!これでまた会う口実ができたっ)端から見ればただの手帳だけど、私にとっては私と彼を結ぶ唯一の物。私はそれを大事にポケットに仕舞い、路地裏を後にした。心なしかその足取りは、いつもよりちょっとだけ軽い。空き缶蹴っ飛ばしやがったのはどこのどいつだァ!さっきまでいた場所から怒声が上がってたけど、聞こえない事にした。
―――――翌日―――――
「うーいっはるーん」ブワッサァ、と、主に女性の下半身を守るヒラヒラとした布、つまりスカートが宙を舞う。「っきゃわああああっ!?」慌ててスカートを押さえてる、頭に花を咲かせたこの子の名前は初春飾利。私の一番の親友だ。私の一日は、初春のスカートをめくる事から始まると言っても過言ではない。「あはは~、今日は白地に青の水玉か~」「だから往来でスカートをめくるのは止めてくださいよ~!!」初春があうあう言いながら私の胸をポカポカ叩いてくる。本当にからかいがいがあるな~。「へぇ~っ、二人っきりならめくってもいいんだぁ」「なっ、ちっ違いますよ~!だいたい、スカート捲りなんてするの自体おかしいんです!」「まぁ細かいことはいいじゃない~」いつも通りのやり取り。レベル0の私にも居場所があるだって感じで、凄く安心出来る。
「怒った?」クスン、と目に涙を浮かべる初春。うん、今日も可愛くて何より。「もう慣れましたよ……。あ、そういえば、佐天さん昨日大変だったらしいじゃないですか!?」突然初春が大きな声を出す。昨日のこと、とはつまりヒーローさんと出会った、あの時の事だろう。「いや~、まぁ何とか乙女の純潔は守られました」「え?つ、つまり、体は無事ってことですよね。良かった~、昨日はずっと心配してたんですよ~。メールも返って来ないし、電話もつながらないし」「あ、ご、ごめんね?昨日は携帯見てなくってさ」「そうなんですか?」い、言えない……昨日は生徒手帳相手にずっとニヤニヤしてたなんて……「それにしても、複数人のスキルアウトに追いかけられてた、って聞いたんですけど、よく逃げられましたね~」「フッフッフ、それを聞くのかい初春くん」「?」「実はね、私、ヒーローさんに助けてもらっちゃいました!」「??」胸を張り、腰に手を当て、ドーン、という効果音がでそうな格好で話す私。に対してキョトン、とした顔の初春。「もっと食いついてきなよ~」「はぁ、ヒーローさんですか?」「全く、初春にはロマンってものがないんだよね~。だから女を捨ててるなんて言われるんだよ?」「よ、余計なお世話です!」
………………………………
「でさ、でさ、相手がこうナイフ持って、切り付けて来るじゃない?」「それを、こう、サッと避けて、右手でバキッて感じでさ」「で、後ろからガアッて襲いかかって来るのを裏拳で……」具体的に分かるように、ヒーローさんの動きを思い出しながら再現しようとする私。「は、はぁ……何か変な踊りしてるようにしか見えないですけど……」それを呆れた様な顔で眺めてる初春。むぅ、やっぱり一人四役は無理があったか。「でね、去り際にこう言うの」「名乗る程の者じゃないよ」キリなーんて、なーんて、と、初春の背中をバンバン叩く。思い出すだけで恥ずかしくなってきた。「痛い痛い、痛いですよ~」「あ、ごめんごめん」ハッと我に返り、背中を叩くのを止める。初春はあたた、と背中をさすりながら言った。「もう……、それにしても、凄い人ですね~。スキルアウトを四人も能力使わずに倒しちゃうなんて」「ヒーローさん、っていうのも分かる気がします」にっこり笑ってこちらを見てくる初春。他の人に喋っても、はいはいとしか言われない様なことでも、初春はちゃんと聞いてくれる。そこが初春の良いところだ。
「後さ、ちょっと相談があるんだけど……」「相談ですか?でも、もう学校に着いちゃいましたよ?急ぎなら聞きますけど、回りに人がいたら話しづらくないですか?」あれ?いつの間にここまで来たんだろ。どうやら私は、時間すら忘れてしまうほど話すのに夢中になっていたらしい。(てことは……)あの、バキッ、とかドカッ、とかやってるのがクラスメイト達に見られてしまった恐れがある。ぐわー、恥ずかしい!初春も止めてくれれば良かったのに!しかし、そんな事を考えても後の祭り。誰も見てませんよーに、と、私はひそかに願った。「佐天さん?」もしもーし、と横から初春がのんきに話しかけてくる。「うーん、じゃ、放課後にしよっか。今日はジャッジメントお休みなんでしょ?」「はい、大丈夫です。それじゃ、放課後」そして私達は、ホームルームまで数分の余裕を持って、教室へと向かった。
――――――――――――
キーンコーンカーンコーン、と、どこの学校でも使われているチャイムが響き渡る。一日の最後の授業の終了を知らせる合図だ。殆んどの生徒は、この音が鳴るのを心待ちにしている。私のクラスメイト達も、チャイムを聞くやいなや、我先にと廊下に飛び出していった。私も授業の後片付けを済ませ、さて帰ろうかな~、と思っていた所に、級友から声が掛かる。「涙子ー、私達今からセブンスミスト行くんだけと、一緒に行かない?」「あっ、ごめんね~。今日はパス!また今度誘って!」ポケットに忍ばせた高校の生徒手帳を握り、決意を新たに友人の誘いを断る。そっかぁ、じゃあね~、と、手を振りながら彼女達は教室を出ていった。今日は私の人生の転機かもしれないしね!セブンスミストなんて行ってる場合じゃない!「佐天さ~ん、まだですか~?」おっと、相談相手であるところの初春のことを忘れてた。「今行く~」私は、少しだけ急ぎ足で初春の元へと向かった。
「じゃ、とりあえず落ち着ける所に行こっか!」「分かりました~」学校を出た私達は、近くにあるオープンカフェへと足を運んだ。
…………………………
「私は……とりあえずアイスコーヒーで。初春は?」「ジャンボフルーツパフェでお願いします」かしこまりました~、と、はきはきとした声で言って、店員が奥へと戻って行く。どうも新人さんみたいだ。「そういえば今日、佐天さんからかわれてたみたいですね~。珍しい事もあるもんです」「うっ」鈍感な初春もやっぱり気付いてたか。いつもいじる側だった私は、今日に限っていじられ側に回っていた。残念な事に、登校中の『あれ』がクラスメイトの2、3人に見られていたからだ。友達が、何の戦隊物にハマっちゃったのかな~?と、いやらしい笑みを顔に貼り付けて近付いて来た時は、世界の終わりかと思った。説明しようにも、なになに?と、他の人達も集まって来ちゃって、てんやわんやになってしまっていた。人の面白い噂というのはスグに広まってしまうもので、廊下やら教室やらで、戦いを吹っ掛けられる事もしばしば。そのたびに誤解を解くこっちの身にもなってもらいたいものだ。「でも、あれは初春のせいでもあるんだよ?」そう言っても、初春は頭に疑問符を浮かべるだけだった。程なくして、コーヒーとパフェを持って、店員がやって来た。
「コーヒーに、ジャンボフルーツパフェ、お待たせいたしました」「わぁ~、来た来た、来ましたよ~」キラキラと目を輝かせる初春。全く、いつになっても子供っぽいというかなんと言うか。大人な私は優雅にコーヒーを口に含む。もちろんシロップ入り。だって苦いから。「所でさ、相談の件なんだけど」パフェをパクパクと口に頬張る初春。この子聞いてんの?と、思いながらも、続ける。「えーと、相談したい事ってのは、他ならぬヒーローさんの事なんだ」「ひーほーふぁんふぁふぉうふぁひふぁんふぇふは?」パフェを口一杯に頬張って喋ってる初春。ごめん何言ってるか全然理解出来ない。「……うん。食べ終わってからでいいよ」わーい、と、食べる作業に戻る初春。そして私はまた、コーヒーをすすった。
「おいふぃれす」初春がパフェを凄いスピードで口の中へと運んでく。でも遅い。速いのに、遅い。普通食べるスピードと減少量は比例関係になるはずなのにどうなってんの?私は既にコーヒーを飲み干してしまい、ボーッと初春の食べっぷりを見ていた。とそこに、どこかで聞いた事のあるような声が耳に飛び込んでくる。どこだっけ?「だからなンで俺がそンなトコ行かなきゃいけねェンだよ!」「行きたい行きたい行きたいー!ってミサカはミサカは駄々をこねてみる!」兄妹かな?どうやら妹さんが遊園地に連れて行って欲しいと騒いでいるようだ。「だァァうるせェ!追い出されンだろうが!」「連れてってくんなきゃ泣いちゃうー!ってミサカはミサカは「分かった分かった分かりましたよォ!」」「連れてきゃいいンだろォ?連れてきゃ」「本当?嘘つきはダメだよ?ってミサカはミサカは上目使いでアナタにを見つめてみたり」「来週は仕事あるから再来週な」「わーい、行けるんなら何でもいいよってミサカはミサカは喜びのダンス!」「みっともねェからやめろクソガキ!」どうやら妹さんが勝ったみたいだ。良かった良かった。
「ちィ、外行きてェとか言うから何かと思ったが、そォいう事かよ」そして白いお兄さんとちっちゃい妹さんは、手を繋ぎながら店を出ていった。なかなか面白いやり取りで、いい時間潰しになった。「美味しかったです~」初春もどうやらパフェを食べ終えたようだ。よし、本題に入ろう。
「そういえば佐天さん、相談って何なんですか?」水を飲んで一息ついた初春が尋ねてくる。「えっとね、昨日ヒーローさんに会った、って事は話したよね?」「はい!名前も知らないヒーローさん、ですよね?それがどうかしたんですか?」あ、そういえばまだ初春には生徒手帳のことは言って無かった。「あのね、名前は分かるの。上条当麻さん、っていうんだけど」初春は不思議そうな顔で私を見てくる。「え?名前も言わずに帰っちゃったんじゃ無かったんですか?」「うん、それがね?」私はポケットに仕舞っていた生徒手帳を取り出し、事情を説明した。「はぁ、その手帳を返しに行って、お礼をして、あわよくばお友達になっちゃおう作戦、ですか?」うん、我ながらいい作戦だ。語呂が悪いのは分かってます。「でね、私何故かその人の前に出るとテンパっちゃうんだ」そして私はパンッ、と両手を合わせて、「だから初春、着いてきてくんない?」と、お願いした。
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