滝壺「私は、AIMストーカーだから」7

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 朝早くから、チャイムが鳴った。  財布など適当にポケットに詰めて玄関へと向かう。  それを見たインデックスが目ざとく反応した。 禁書「とうま、今日学校休みなのに、どこかいくの?今ちゃいむ鳴らした人?」  そう、今日は日曜で学校は休日である。  だからこそ、相応しい。  しかしながらインデックスにはそれが理解出来ないために、聞くしか無い。 上条「ああ。今日はきっと、一日留守にする。昼食は冷蔵庫入ってるし、夜ご飯は……いつ帰るかわからないから、お腹すいたら小萌先生のところに行っててくれ」  手早く身だしなみを整え、上条はインデックスへそう投げかける。  その言葉にインデックスは色々と複雑そうな表情を示し、また返す。 禁書「……りこう?」  そう名前を問いかける。  インデックスにとって、彼女が最近来た上条当麻の新しい女性の知り合いだ。  最近帰りが遅い時期とも知り合った時期がまた重なっている。  だからこうして早い時間に出る理由は、彼女しか無い、と思ったのだ。 上条「ああ、滝壺だ」  隠す必要もないから、上条はただそう答える。  それに対して、インデックスはやはり、少しだけ寂しそうな顔をした。  そっか、と言った呟きは、上条には届かない。 禁書「……それじゃあ、行ってらっしゃい。鍵はいつもどおりに郵便受けに入れておけばいいんだよね?」 上条「ああ、よろしくな」  上条は靴を履いて、ちらりとインデックスへと笑いかける。  彼女も同じく返し、上条は扉を開いた。  登り始めた太陽の日が玄関から僅かに入ってくる。  眩しさに目をつむりそうになるが、その向こう側には確かに、以前に見た顔があった。 上条「――――?」 滝壺「――――」   玄関口で何かを話す。  普通なら聞こえるはずのそれ。なのに、今日は嫌なくらい遠くに聞こえた。  それでも、インデックスは二人へ笑いかける。  そうであることが自分の役目だと思ったから。  無常にも、扉は閉まった。  外から男女の会話が聞こえて、そして遠ざかっていく。  足元にはスフィンクスが寄り添って、『どうしたんだー』とでも言いたげに彼女を見上げて鳴いていた。 禁書「……わたしは、とうまの選んだ答えに恨みはないよ」  誰に言うでもなく。  彼女はただ、漏らす。 禁書「でも、選んだ相手を泣かせたら……赦さないんだから」  去ってしまった背中に対して、誓わせるように。  二人は第七学区の道を歩く。  休みの日の午前中はまだ人は疎らだ。遊んでいるのは小学以下の児童と、或いは遊びに出ているグループ。  勿論、上条と滝壺は後者に分類される。 上条「なぁ滝壺、今日はどこいくんだ?」  上条は電光掲示板のニュース……『第七学区:晴れ』などの物を眺めながら、隣歩く少女に問いかける。  付き合う、とは言った。だが、何に、とは訊いていない。  滝壺はうん、と頷いて一拍おく。 滝壺「洋服とか見に行きたい」  洋服、と上条は繰り返す。  今まで滝壺との用事の中に、そんな正しく『それ』らしい用事はなかった。  だから変にもぞ痒く感じ、違和感を覚える。 上条「そんなのでいいのか?っていうか、俺男だし、そういうのに疎いんだが……」 滝壺「ううん、違うの。ただ洋服を見に行くだけなら、一人でも行けるから」  ふっ、と淡い笑みが滝壺に浮かぶ。 滝壺「かみじょうと行くことに、価値があるの」  思わず、生唾を飲む。  そこまで言われてしまっては、一男子である以上付き合わないわけにはいかない。  ……そもそも、自分と行くことに行くことになんの価値があるのか上条にはわからない。  だが、彼にしては珍しく、『俺がいることで楽しめるって意味だといいな』、と僅かな望みを心に灯した。 上条「……なら、なんの役に立つかわからないけど……付きあわせていただきませう、姫」  そして、また珍しく、エスコートをするように滝壺に手を差し伸ばす。  気まぐれ、といえばそうなのだろう。しかし彼はそんなことを普通はしない。  ……憎からぬ想いをい抱いている相手でなければ、そうは。 滝壺「…………」  滝壺はその手を見つめる。  そして、恐る恐るといったかんじに手を近づけた。  瞬間、二人の視線が交差する。  止まった一瞬を見逃さず、上条は強引に、滝壺が伸ばした手を掴みとった。 滝壺「!」 上条「一度繋いでるんだからさ、二度も三度も、同じことだろ」  言いながら、上条は自分がAIM拡散力場を発していなくてよかった、と思った。それがあり、滝壺に感知されていたら、上条のそれは有り得ない動きをしていたことだろう。  胸がばっくんばっくん心臓を叩く。それはもう、飛び出しそうなほどに。  男子高校生とは言っても、中々身近に刺激がないと一度手を繋ぐだけでも心臓が高鳴る。 上条「……じゃ、じゃあ行くか!」 滝壺「…………うん」  見ると、滝壺も無表情ながら、顔を真赤に染めていた。  相手も恥ずかしがっていたことに安堵し、彼らはたどたどしくも歩みを進める。  大通りを通る。  上条は先程も言ったとおり、装飾屋に詳しいわけではない。  だから一先ずは見て回って、適当なところがあったら入る、という戦法をとろうと思ったのだ。 上条「……そういえばさ、滝壺っていっつもそのジャージだよな」  服といえば、で思い出して話しかける。  首を傾げる滝壺をすとん、と見下ろす。  ゆったりとしたピンク色のジャージ。色気も何もあったものではない。 上条(いや!上条さん的には色気とはどうでもいいんですけどね!) 滝壺「それがどうかした?」  なしげもなく、滝壺は返す。  口調からして、上条の質問の意図がわからない、と言っているようだ。 上条「いやさ、俺、滝壺の他の姿見たことないし……もしかしていつもはジャージ以外の姿、とか?」  ふるふる、と首を横に。 滝壺「いつもこれ。暑い時は脱いでTシャツで、逆に寒い時は中に一枚着る」 上条「だろ?なのに、服を見に行くっていったからさ……もしかして新しいジャージとか?」  再び、首を横に。  滝壺はようやく上条の言いたいことを理解して、納得の行くように説明をつなげる。 滝壺「……いつもは動きやすいこれだけど、たまには他のもいいと思って」  ――それが、かみじょうの気に入るものなら、なおさら。  言外に告げるが、上条には届かない。  自分の気持ちには気づきかけていても、やはり恋愛経験値の足りないお子様なのだ。 滝壺「そういえば、ここらへんだったよね」  話が飛び、上条は慌てて滝壺の言葉を咀嚼する。  ここらへんだった。  何が、と思って周りを見渡す。  車が走り、自動清浄機が歩道を行き来する。人の流れは少ないが普通の道路といえた。 上条「……何かあったか?」  少なくとも、上条の記憶には見当たらず、首を傾げるのみ。  彼にとって、ここは単なる通学路に他ならない。  その反応に僅かながら、滝壺はジト目で上条を睨むように見た。  人目もはばからず、反射的に土下座へと移行する。その間僅か一秒にも満たない。 上条「申し訳ございませんっ!……よろしければ、何卒教えていただきたく存じます……!」  慣れているその行動に少々呆れつつも答える。 滝壺「……かみじょうと、初めて会ったところ」  あ、と思い出す。  確かに、この場所は見覚えがある――というのも、此処は基本的に色々な学校の生徒が入り乱れる交差点だからだ。  つまり、平日にはナンパだとか絡むだとか、そういったものが後を絶たない場所でもある。上条はそういうのを見かけるたびに首を突っ込んでいる。  だから、簡単に気付くことができなかった。ナンパから助ける、というのは恐らく相手にとっては特別なことだが、上条に取っては日常茶飯事だったから。 上条「あー……すまん、忘れてた。確かに、ここだったな……初めて会った場所」  女の子というのはそういった記念日とか思い出の物を大事にするという話を聞いたことがあるので、素直に謝り、そして過去に想いを馳せる。  所在なさ気に、ぼーっとしていた危なげな少女。  それがあの時の第一印象だった。  普通ならスルーして日常に帰るのだろうが、上条はそうはしなかった。  それが彼が彼である所以だから。 上条「……最も、こんなふうになるなんて思っても見なかったけどな」 滝壺「私も助けてくれる人がいるなんて思ってもなかったよ」  表の世界でも暗部の世界でも、手を差し伸ばしてくれる人はいないと思っていたから。  だから、善人な上条当麻に惹かれた部分も少なからずはあるのだろう。 滝壺「……今さらだけど、もう一度いうね、かみじょう」  滝壺は繋いだ手に僅かながら力を込める。  それだけで彼女の緊張が上条にも伝わった。  滝壺は至近距離で、少々背の高い上条の瞳を見て、今一度、お礼を言う。 滝壺「ありがとう、かみじょう。嬉しかったよ」  やはり、どきっ、と、心臓が一際大きく脈を打つ。  インデックスではこうはならない。  御坂美琴ではそれよりも疑心が先立つ。  姫神秋沙やその他の人でも――おそらくは。  ここにきて、ようやく、遂に、上条はこの想いに確信を持つことができた。  つまり、これは。  『それ』だ、と。 上条「……っ、た、大した事はしてねぇよ」  顔を背けて、滝壺の言葉に答える。  しかしきっと、上条の顔は滝壺に負けず劣らず、赤くなっていることだろう。  なぜなら、ただ立っているだけで顔が熱くなっているのを感じるのだから。 上条「そんなのでいいなら……いくらでも助けてやる。どれだけ困難でも助けてやる」 上条「だから……困ったときには、遠慮なんてすんなよ?」  言い終わると、やはり滝壺は笑い。  上条は恥ずかしいことを言った、と更に顔を赤くした。  厚顔無恥が自分のとりえだというのに、自分で言ったことを恥ずかしがっていてはわけがない。 滝壺「……早くいこう?きっと混んじゃうから」  笑いの余韻を残しながら、滝壺は繋いだ手をくいくい、と引っ張る。  上条はそれに答えず、しかし並び立つことで意志を示した。 上条「よし、それじゃあ滝壺にとびっきり似合う服を不肖わたくし上条当麻が選んでさしあげましょう!」 滝壺「うん、期待してる」  手を繋いで歩く彼らは、傍から見たらまるで恋人のようだった。  平たく言えば、上条当麻は抜け殻だった。  どこかに飛んでいった、と言ってもいい。その結果、霊魂だけが抜けた状態のようになっているのだ。  周りにある世界は、全て服。  そして――下着。  男子生徒にとって、これ以上無いぐらいの地獄の場所である。人があまりいなくても、その人がこちらをチラチラと窺っているのだから。  つまり、今の上条当麻は抜け殻だった。  ベンチに座り、天井を見上げて考えることをやめた、ただの――――。 滝壺「かみじょう、かみじょう」 上条「……………………」 滝壺「……………………」  ストン、と横に座る。  つつつー、と魂が抜けた上条の耳元に自らの顔を近づけて。 滝壺「ふっ」 上条「っ!?」  ガタン!とはじかれたように耳を抑えて、立ち上がる。  今までとは別の意味で、注目を集めることになった。  何がおこったのかよくわからない上条に、滝壺は小さく溜息を吐いて手に持った袋を見せる。 滝壺「終わったよ。次は服」 上条「お、おう、わかった」  言われるがまま、上条は滝壺の後を追って移動を開始する。 滝壺「……今度は、ちゃんと見てくれるよね?」 上条「いや勿論見るっていうか下着みるなんて上条さんは思ってませんでしたよ!?男性が女性の下着を一緒に物色してたらどう考えても気まずいでしょうが!」  滝壺の言葉に、上条は猛烈に反撃する。  彼らがいるのは、セブンスミストとはまた違う洋服屋。  あそこは基本的に女性ものばかりだが、こちらには男性物もある。  つまり、カップル御用達、ということだ。  そこに入って真っ先にいく場所が下着、というのもどうかと思うが。 滝壺「……でも、次はちゃんと」 上条「わかってるって。ちゃんと滝壺に似合う奴を選んでやるから」  その言葉をきいて、滝壺は満足したようにずんずんと先を行く。  上条はどんなのが似合うかなー、と頭の中で想像しつつ、彼女の後を追う。  季節の移り変わりの時期。  洋服売り場には秋物はそこそこ、冬物が数多く出揃い始めている。  上条は早速視線を素早く動かして物色し始めた。 上条「うーん……滝壺にはなんとなく、白系のものが似合いそうな気がするんだよな」  確かにピンクのジャージも似合っているといえば似合っているのだが、それは違う気がする。  夏場なら薄い生地のワンピース。春、秋ものならミニまでとは言わなくとも、膝位まであるスカートにハイソックス。  今言ったとおり、白を基調にして組めばどことなく清楚なお嬢様風だ。 上条「だから……少し早いけど、このコートとか……って服じゃないな、忘れてくれ」  首元が毛のようなもので覆われている、白のコート。  上条的にはこれにプラスして毛糸調の帽子でも被らせれば最高なのだが、だがそれはあくまで外出用だ。  服とは、また遠い。  放っておいたら、ジャージの上に着そうだし。 上条「それじゃあ……こんなのはどうだ?」  上条が選ぶのは、ふわふわのニットのワンピース。  簡単に言うなら、絹旗が着ているようなものと考えればいいだろう。  勿論、滝壺も真っ先に彼女を連想した。だが、彼女より大分長いものだが。 滝壺「……とりあえず、来てこようかな」 上条「ああ、俺はまだ他にも見ておくから」  上条の手からそれを受け取り、滝壺は試着室へと消える。  さて、ここで問題。  Q1,試着室に着替え中の女の子が居ます。  そこに男の子が見繕った他の服を持っていった場合、何が起こるでしょう。  ヒントは男の子は不幸とも幸運とも言えないラブコメじみたイベントを引き起こす体質を持っています。  正解は―――― 滝壺「…………」 上条「…………」  時が二人の間で止まる。  下着状態の滝壺が上条が選んだ服を今まさに着ようとしている瞬間。  同時、上条が幾つか似たようなものを滝壺に持ってきた瞬間。  ストーン、と。  試着室のカーテンが落ちた。 滝壺「………………」 上条「………………」  数秒、数十秒、或いは数分。  その間固まっていた彼らを誰も見ていなかったのは、奇跡に近い僥倖、不幸中の幸い、と言ってもいい。  そして、その次の瞬間。  世にも珍しい、少女の悲鳴が響いた。 上条「…………」 滝壺「…………」  あの滝壺悲鳴事件の後。  二人は何を言うでもなく、街を歩いていた。  彼らの間に会話はない。  正しく、『何を言うでもない』のだ。 上条(きっ!気まずい!!)  上条的には激しく不安に駆られてならない。  例えばインデックス。  もしあんな状況になったら、頭にガブリとくるだろう。  例えば御坂美琴。  もしあんな状況になったら、迷わずに電撃を飛ばしてくるだろう。  しかしながら、それが終わったあとは――何だかんだグチグチ言いながらも会話をするものだ。  それがどうだろう。この滝壺理后、なんのアクションも示さない。  とりあえずは購入した服をぶら下げて、チラチラと上条の方を見ては目をそらす。  傍から見ていると、ほんのり赤くなっているようにも思える。  しかし、それでも会話がないのは気まずいのだ。 上条(あーもうっ!!どうしてなんにも制裁がないんですかぁ――――ッ!?)  上条当麻は決して、Mなどではない。  しかしながら、制裁がないと居づらいのは事実。  そう考えると、なんというかインデックスの行動は二人の間に変な空気を漂わせない潤滑油になっていたんだなー、と実感する。 『ただいま、十二時をお知らせします』  空を飛ぶ飛行船が時刻を告げる。  今朝早くから出ていたはずなのに、いつの間にかこんな時間になっていた。  気がついたら急激にお腹が空いてきた気がする。 上条「…………た」 滝壺「…………?」 上条「……なんでもありません」  一言告げると彼女は素早く上条の方を振り向く。  しかし上条はその反応にこそ何かあると思ってしまい、萎縮し、黙らざるを得なかった。  そんな反応を見せると滝壺も何やら安心したような、或いは寂しいような表情を見せて、再び街中を歩く。  静寂という名の均衡が続く。  だが、そんな中でも。  やはりそれは壊されるものだ。  キュ~と鳴る。  それは決して上条当麻のものではなくて、隣の少女から。  彼女はハッとしたような表情をして下げていた袋を抱えるようにして上条の様子を伺った。 上条「…………あー」  察した上条は周りを見渡して。  ピッ、と一つのファミレスを指差す。 上条「……飯、食うか?」  答えるように、もう一度鳴る。  定員が迎えてくれたファミレス内はそこそこに混んでいた。  それはまぁ昼時だからであり、そんな中ですぐに通されたのは幸運の他何も無いわけだが。 上条(……嫌な予感がする)  なんとなく、上条には不幸の予感しかしないわけであり。  上条は身構えて、素早く見渡す。  それはモノを落としそうなウェイトレスなどではなく、いやそれも警戒すべきだが注文を持ってきたあとでも遅くはない。  彼がみるのは、客。  知り合いがいるかもしれないという可能性を考慮した上での、警戒。  勿論滝壺にはそれが不審極まりない行動に見えるわけで。 滝壺「……どうしたの?」 上条「……いや、なんでもない……多分、大丈夫だよな……」  一見して何も問題はなかった。  だからといって安心出来るわけではないが、一先ずは大丈夫。 上条「えっと……注文決めたか?」 滝壺「うん」  確認をとると、ウェイトレスを呼び上条は適当にハンバーグを注文する。  対する滝壺はちょいちょいとウェイトレスを側に呼び寄せて、耳打ちするように。 上条(恥ずかしいのかな?)  まぁ、確かになんとなく自分の注文を他人に聞かれるというのは僅かに気恥ずかしいものがあるから、上条は深く突っ込まなかった。  数分置いて上条の頼んだものをウェイトレスが持ってきた時に上条は警戒したが、危惧するようなことは起こりはしなかった。  しかし違和感――不幸の前兆は拭えない。  なんだ、なんだと考えるたびに泥沼にはまりそうなので、上条は一先ず話題を振る。 上条「お、俺のは来たけど、滝壺のはまだなんだな?」 滝壺「うん。先に食べてていいよ」  こらえきれなくなったように微笑を浮かべて、滝壺は言う。  そこで上条は自然な流れで先程の意味を聞く。 上条「何頼んだんだ?」 滝壺「……えと」  上条の問いに、彼女は所在なく視線を漂わせた後、答える。 滝壺「……ひみつ」  それ以上聞くのは野暮というものだ。  上条はそっか、とだけ返して、ハンバーグの片付けにとりかかった。 上条「……結局、来なかったわけだけど」  上条は最後の一切れを口の中に放り込む。  しかし、目の前にあるのは上条が食べたハンバーグの鉄板のみ。  滝壺は彼が食べているのをじっと見つめるだけで、居心地が悪かった。 上条「もしかして、何も頼んでないとか?」 滝壺「ううん、頼んでるよ。ただ、それと一緒に食べるべきでないから――来た」  滝壺の言葉に呼応し、上条が振り向く。  先導したウェイトレスが素早く上条の皿を下げる。  そして、次の瞬間。  ドン!と大きくテーブルが振動する。  その正体は、噂には聞き及んでいるが彼自身は食べている人を見たことがないもの。 上条「ジャンボ……パフェ?」  中にはフルーツやウェハースなど、具材は普通のパフェと何ら代わりはない。  しかし、驚くべきはその量。  通常のパフェのおよそ三倍。 滝壺「それじゃあ、いただきます」  疑いたかったが、やはりこれを頼んだのは滝壺だったらしい。  用意された二つのスプーンのうち、一つをとって早速食べ始める。 上条(それにしても……スゴイ量だ……)  その大きさには圧巻の一言しかない。  パフェというものはなんとなく軽いものだと思っていたが、認識を改めなければならないかもしれない。  確かにこれは、ハンバーグと一緒に食べることはできない。 上条(……全部、はいるのか?)  気になるのはそこだ。  女の子のお腹で、甘いモノが別腹、というのはよく聞くことだ。  だが細い滝壺にこれが全て入るとは思えない。  そんな心配な視線を送る上条に気が付いたのか、滝壺はようやく彼を見て、そして置かれたもうひとつのスプーンに目を落とした。 滝壺「……食べないの?」 上条「え、いや、これ滝壺の頼んだものだろ?こっちのスプーンだって、二刀流とかする人ようじゃないのか?量多いし」  滝壺はううん、と首を振る。 滝壺「だって、これカップル用」  ガタン!と上条は大きな音を立てて立ち上がる。  辺りからの奇異の視線が彼を貫くが、そんなことはどうでもいい。  問題は――そう、問題は。 上条「どうしてカップル用なんて頼んでいるんだよ!?」  その一言に尽きる。  いや、確かに滝壺とカップル……なんて、嬉しくないはずがない。むしろ嬉しい。  しかし、こんな堂々とは流石に恥ずかしいものがあるし、そもそも滝壺はそれでいいのかと。 上条(滝壺はそれで……) 滝壺「…………だめだった?」 上条(……いいん、だろうなぁ…………)  きっと彼女は周りからどう見られか、など考えてはいないのだろう。  こうなれば、彼も腹をくくる。  座り、スプーンに手を伸ばした瞬間。  スススッ、と滝壺がそのスプーンを取り上げる。 上条「え」  彼は何か言おうとして上を向く。  そこにあったのは、口元に寄せられたスプーンだった。  上条は再び、思考が停止する。  別にスプーンが宙に浮いて上条の口元に寄せられているわけではない。  それの先を辿ると、辿りつくのは勿論滝壺。 上条「あ、あのー……滝壺、さん?」  思わず一歩引くと、その分寄せてくる。顔をそらしてみても、それに付いてくる。  つまるところ、これが指すところは一つ。。 滝壺「……あーん」  それは、漫画やアニメに置いてよくあるシーン。  カップルなどが食べさせ合いをするもので――つまり、このパフェにはうってつけのシチュエーション。  嫌な予感。  それがプンプンした。  これを食べることではない、食べた後に起こる何か、それに対して。 上条「いやいや、待ってください滝壺さん!」 上条「そもそも量が欲しかったからカップル用を頼んだということで説明がつくのであって、カップル用だからそんなことをしなきゃいけないというわけではありませんですよ!?」 上条「そっちのスプーンを渡してくれたら、上条さんも普通に食べますかr」 滝壺「あーん」 上条「…………」  どうやら聞く耳を持たないらしい。  一つのパフェに対して、二回腹を括る事になるなど思っても見なかった。  上条は観念して、その出されたスプーンを咥える。  瞬間、間接キスという単語が脳裏をよぎった。 滝壺「……どう?」 上条「……うん、おいしいってか甘い」 滝壺「それじゃあもう一回」 上条「それだけは勘弁して……くだ…………」  上条の言葉が途切れる。  それは、滝壺からは見えない背後。  窓、そしてその外。  そこにいたのは、ただのクラスメート。  しかし、節操のないことを全くもって赦さない、実行委員には目がない(実行委員をしている男に目がないというわけではない)委員長属性を持つ少女。  そしてその隣には、もう一人、黒髪長髪の少女が立っている。  その少女は驚いたように見ているだけだが、隣の委員長属性少女は今にも恨みだけで人を殺せそうな眼で上条を睨んでいた。 上条「は、はは、ははは……」  乾いた笑い。  インデックスや御坂美琴よりは問題はない。  ……が、制裁を加えられる点では何ら代わりがない。 上条「不幸だ――――――――――ッ!!!」  久々に、大声でこれを叫んだ気がする。 上条「……疲れた…………」  時刻は夕方。  街角で彼らは一息入れる。  昼間遭遇した吹寄制理、姫神秋沙を皮切りにして、様々な人と遭遇した。  土御門元春、青髪ピアス。  御坂美琴、白井黒子。  月詠小萌。  土御門舞夏。  御坂妹、打ち止め。  恐らくは、上条が知っている学園都市の知り合いほぼ全員と会ったのではないだろうか。  幸運なのは、一方通行に出会わなかったことだろう。  それでも……一度会うたびに一悶着あっては、疲れるのも道理だ。 滝壺「……かみじょうって、女の子の知り合い多いんだね」 上条「んー……?そうか?ふつうじゃないか?」  普通、ではないと思う。  彼ぐらいに友好関係が広いのは、そうそう居ないだろう。  滝壺は空を見上げた。  そこには夕焼けが広がっている。きっと明日は晴れだ。天気予報でもそう言ってる。 上条「……そろそろ、お開きにするか?」  上条はそう提案する。  もう暗くなる。一度ご飯を食べに来たことはあったが、今回それはないだろう。  なら、別れるなら早いほうがいい。  滝壺は数秒空を見つめた後、いつもの表情で上条を見遣った。 滝壺「……行きたいところがあるの」  最後に――と付け加えたのは、風に消える。  道路から外れる。  人の気配が消える。  彼らが行くのは、そんなところ。 上条「……ここは」  過去に、来た覚えがある。  学校帰りになんとなくこっちに行きたくなって、来て、そして再開した――公園。  人は居ない。前は子供が遊んでいたはずなのに。  そんなことを思いながら立つ上条の手を、極自然に滝壺はつなぎ、引く。 滝壺「座ろう」 上条「……ああ」  流されるまま……ではないが、少年と少女は、そのままベンチに座る。  周りの木々が夕焼けの光を浴びて、燃えているようにも思えた。 滝壺「…………」 上条「…………」  今日、幾度目かの沈黙。  しかし、これは今までのとは気色が違う、と上条は感じた。 滝壺「……ここで、かみじょうと再会したんだよね」  滝壺はぽつり、という。  上条はそうだな、とつぶやいて、続ける。 上条「あの時は驚いたよ、ほんと。風紀委員を通してじゃなくて、直接届けにきてくれたんだから」 滝壺「まだ、私達はお互いを知らなかったからね」  くす、と彼女は笑う。  なんだか、上条と会ってから感情表現が多くなった気がした。 滝壺「かみじょうは不思議だったから。皆通りすぎていくのに、私を助けてくれた」 上条「いや、困ってる奴がいたら助けるだろ、普通……」 滝壺「ううん、かみじょうは普通じゃないよ。かみじょうにとっては普通なのかもしれないけど、現に助けれくれたのはかみじょうだけだったから」  そうして、また静寂。  人の訪れることのないこの場所では、彼らの発する声と、あとは風の音ぐらいしかない。 滝壺「……今日まで、ありがとうね」  それは、つい先日までのことについて。  『幻想殺し』の検証という名目で行った実験、その協力。 上条「いや、だから大した事してないって。……それに、痛かったのも最後だけだしな」  最後の科学的なものを用いた攻撃を除き、あとは立っていて話たりする程度だった。  だから、上条的には何かした、という実感はない。  それどころか、自分の為に動いていたような気もしている。 滝壺「でも、言わせて」  キュッ、と上条の手に力が加わる。  それは滝壺が勢いつけて言うためにつないでいた手を握りしめたから。  そして、彼女は告げる。 滝壺「ありがとう」  滝壺の、淡い笑顔。  上条はそれをみて、うつむき、やはり――と思う。  ああ、やっぱり――自分は、この目の前の少女を――――、と。 上条「……滝壺、俺は、」  顔を上げてそう言いかけた言葉。  それを、上条は止めざるを得なかった。  別に予想外の出来事が起こり、息が詰まったというわけではなく。  攻撃されて、言葉を紡げなくなった、ということでもない。  単純に、物理的に口を塞がれた。  目の前に或るのは滝壺の目を瞑った顔。  塞いでいるのは同じものと誇張しているような近さ。  つまり、それは。  キス、というものだった。  それは、たった数秒のことだっただろう。  滝壺は寂しそうな笑みを浮かべたまま身を離し、手を放し。  そして、紡ぐ。 滝壺「じゃあね、かみじょう」  タンッ、と地面を足が叩く。  少年へと背を向ける。  もう、二度と会うことがないだろう少年から離れていく――。  パシン、と腕を掴まれた。  驚きに心臓が止まるかと思った。  振り向くと、少年も驚いた顔でこちらをじっと見つめていた。  しかし、チャンスと思ったのか、彼も言葉を言う。 上条「……また、な」  少女の胸が引き絞られた。  それは、約束。  二度と会わない、という挨拶をした少女を縛る、もう一度あおう、という約束。  少女はその彼の手を振って。  そして、紅い公園の中を駆け抜けていく。  少年はただ少女を見送って。  そして、少女に不意打された唇をなぞる。 土御門「なるほど、なるほど……」  土御門元春はやっと合点が言ったように呟いた。  手元にあるのは一枚の資料。  彼がさんざん調べた結果手に入れたモノ。 土御門「確かに、『幻想殺し』をそうでない、と認識させるには彼女でなくとも、とは思っていたが……」  『幻想殺し』を超能力であると否定するのは、別に『能力追跡』でなくとも構わない。  なぜなら、その筋のプロフェッショナルが彼と親睦を深め、それを調べ、そう言うだけでいいのだ。  事実、結論を出したのは布束砥信であり、滝壺理后ではなかった。 土御門「……確かに、これは。俺でも、魅力的には感じるにゃー……」  ポス、と投げやりにそれを投げる。  別にここは自分の部屋で、隠れ家だ。誰に見られる心配もない。  それには、こうある。  『滝壺理后超能力者進化計画』。  それは、一人で学園都市の全てを補える能力への進化方法。 土御門「確かに、同時に進めるならこれ以上ない逸材同士だ。特にカミやんのフラグメイカーは筋金いりだからな……」  肝心の『幻想殺し』の秘密がわからなかったが、まぁそれはかまわない。  なんとなく自分には確信があるからだ。上条当麻は、そんなつまらないことに惑わされない、と。滝壺理后のことも、『幻想殺し』についても。  だから土御門はおもむろに携帯を取り出して、コールする。  三回コールしたところで、ブツッ、と音が、続いて返事が返ってくる。  そんな彼に、土御門は告げる。 土御門「もしもしカミやん?学園都市第四位『原子崩し』って知ってるかにゃー」

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