とある世界の残酷歌劇 > 幕間 > 04

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「ああ、そうかもな。もしかしたら一目惚れってヤツなのかも知れねぇ」 垣根の言葉は肯定しているようで、しかし明確に断定していない。 「惚れた弱み、ってか。確かにソイツは傑作だ。シンプルで実に分かりやすい」 つまりこれは言葉遊び。口先だけの詭弁でしかない。 麦野も、そして垣根もそれを分かっていて続ける。 だからきっと、こんなのはただの茶番劇だ。 「まったく下らないわね。好きとか嫌いとか、私たちには一番縁遠いもんでしょうに」 いっそ本当にそうだったらどれだけマシだったか。 もしかしたら、万が一にも本当にそうだったとしても何一つ状況が変わりはしないのだが。 ――いいわよ。今のでアンタに勝ったつもりになってあげる。 今だけは頭のお目出度い女になって騙されてやろう。 馬鹿な女が悪い男に引っかかって馬鹿を見た。他の彼女たちは運悪くそれに巻き込まれただけだ。 だから誰かに責がありそれを責めるなら。 「――あのさ、一つ言っておくけど」 ふ、と小さく、この距離でも気付かれないように鼻で笑い。 麦野は彼の顔を見ないよう、半ば目を伏せ視線を逸らし、力を抜いた。 「私、タバコ臭い男って嫌いなの」 「……悪りぃ」 その言葉は何に対しての謝罪だったのか。 問い返すよりも早く口を塞がれた。 ―――――――――――――――――――― 「あー……」 口に咥えたタバコから紫煙を燻らせる。 壁に背を預け座り込んだままゆっくりと立ち昇るそれを目で追い、上を見上げた 視線の先には天井。辺りの壁にも窓はない。 はあ……と煙と共に溜め息を吐き、ぼそりと呟いた。 「これで俺もようやく人殺しの仲間入り、か……」 感慨もなく言う浜面の手には厳しいドーナツ状の機械仕掛けのゴーグル。 血に濡れた輪の持ち主は、同じく血に染まりながら浜面の横に沈んでいた。 足音に視線を戻せば、絹旗がこちらに駆けてくるところだった。 その後ろには滝壺。まだ若干足元がおぼつかない様子だが大丈夫そうだ。 「おう」 手を挙げて応えてやる。 「麦野とフレンダは?」 姿の見えない二人を尋ねると絹旗は小さく首を左右に振った。 「だめです。モニタールームみたいなのがあったんですけど潰されてました。  携帯も超通じないみたいですし……」 そこで絹旗は言葉を切り振り返る。 どこか寝惚けているような様子でふらふらと歩いてきていた滝壺がようやく追いついた。 「はまづら。立てる?」 手を差し伸べてくれるのはありがたいが疲労困憊なのは彼女も同じだろう。 掌を見せ大丈夫だと示すと壁に手を付き自力で立ち上がった。 「とりあえず探すか。まだあと三人いるし、麦野もフレンダも別行動だ。  囲まれたら流石のアイツらでも分が悪いだろ」 とは言っても彼女たちが早々死ぬはずもないのだが。 憎まれっ子世に憚るとは言うが、あの手の女性というものは往々にして男には理解できない上手い立ち回りをする。 そもそもアイツら殺しても死にそうもねえし、と心中でごちて浜面はまだ思考に掛かったままの靄を振り払おうと軽く頭を振り髪を掻き上げた。 「ん……けほっ」 「あ、悪りぃ」 煙に咳き込む絹旗に「そうだよなーコイツらタバコの煙なんて慣れてねえだろうしなー」などと思いながら足元に落とす。 じゅ、と小さな音を立てて火が消えてから失敗した事に気付いた。 この焦げるような臭いは生理的な不快感を催す。苦虫を噛み潰したような顔で恐る恐る絹旗を見遣ると彼女も同じような顔だった。 「うえ……これ、超最悪です……」 「大丈夫?」 露骨に顔を顰める絹旗に滝壺が心配そうな顔(といってもどこか無機質めいた表情なのだが)を向ける。 「すまん……」 「あーもう、早く行きましょう。早いとこ麦野とフレンダを見つけない事には」 「確かにそれが先決か」 「うん」 もっとも、そんな事は別にしてもこの臭いから一刻も早く逃げたいというのもあるのだが。 この時になってようやく浜面はまだ手にドーナツ状のゴーグルを持っていた事に気付く。 迷わずその場に放り投げ、重い音が聞こえたが視線もくれなかった。 そんなものよりも目の前の少女たちの方が何万倍も見ていたいと思える。 「……ん?」 ふと、浜面は引っかかりを覚えた。 本当に小さな、些細な違和感。気付いた事の方が驚きのようなそんな誤差程度のものだ。 「なあ滝壺」 「うん?」 呼ばれ振り向く滝壺は相変わらずどこか眠そうなとろんとした目をしている。 「オマエ……大丈夫なのか?」 先ほど使用した体晶の影響もあるのだろう。 しかし少し疲れを見せている程度で意識ははっきりしているようだ。 彼女が眠そうな目をしているのはいつもの事だ。 「大丈夫。平気だよ」 違う。浜面は彼女の体調の事を言っている訳ではない。 「そうじゃなくて――」 首を傾げる滝壺に僅かな苛立ちを覚えながら浜面は自分の髪を乱暴に掻く。 「この臭いだよ」 言ってから失敗したと思った。口に出してしまえば嫌でも意識してしまう。 既に拡散して臭いは薄れてしまっているが、それは辺りに薄っすらと充満しているという事だ。 目に見えないあの蛋白質の焼ける臭いが立ち込めているのを想像してしまう。 重ね重ね馬鹿だ。余計に気分が悪くなる。 「……ああ」 滝壺はようやく合点がいったのか、微かに視線を宙に迷わせた後、納得した様子で浜面を見て。                、 、、 、 、、 、 、 、 、、 、、 、 「うん大丈夫。――私、臭いがほとんど分からないから」 「――――」 絶句した。 完全な失言だった事を後になって理解する。 あと味も、と変わらぬ表情で付け加える滝壺に浜面は途方もない罪悪感を感じていた。 滝壺の鼻、そして舌。その意味するところが分からないほど浜面は愚かではなかった。 体晶などというどう考えても害にしかならないような代物を受ける粘膜がまともに機能するはずがないのだ。 「別に、気にしなくていいよ。はまづら」 滝壺は相変わらずの眠たげな目で愕然とする浜面を見る。 「これくらいどうって事ないよ。別に手足が吹っ飛んでる訳じゃないし。ご飯美味しくないけど」 表情は変化していない。素のままの淡々とした口調と表情。 彼女は別に浜面に気を使っている訳ではない。 滝壺は自分の感覚が麻痺している事を本当に何とも思っていなかった。 「私まだ生きてるもん」 だからこの程度は些細な問題だ、と。 確かに生きているだけマシだろう。 暗部ではゴミのように人が死に、地球より重いらしい命は一山幾らのバーゲンセールだ。 浜面自身もその例外ではない。いや、『アイテム』である彼女らに比べれば明らかな格下だ。 それこそ掃いて捨てるほど代えはいる。彼女たちにとって浜面仕上は使い捨ての道具でしかない。 「まあ滝壺さんのは超分かりやすいですけど、麦野やフレンダだって似たようなものですよ」 絹旗が若干の憂いを帯びた顔で、視線はこちらに向けぬまま続ける。 言外ではあるがそこには絹旗自身も含まれているのは容易に想像が付いた。 皆暗部に落ちたと共に何かしらを失っているのだと。 あるいは、失ったからこそ暗部に落ちたのだ。 だからきっと浜面と彼女たちとの差はそこだった。 滝壺だけを例に取っても、彼女が失った代償は大きい。 他の三人も同じようなものだろう。何か絶対的に大切な物を失っているのだ。 それは彼女たちが二度と日の当たる場所へは帰れないようにするための足枷。 小鳥の風切羽を切るようなものだ。鳥が翼を失ってしまえば地を這うしかない。 だが浜面が暗部に落ちる切欠はどうだ。 危ない連中から仕事を引き受けてしまって盛大に失敗した。ただそれだけだ。 ――たったそれだけ。 浜面はただなし崩しに暗部に落ちただけで。 彼女たちのように『暗部以外に居場所がない』ような境遇ではない。 「……」 二人に気付かれないよう浜面はこっそりと背後に目を向ける。 そこには少年の死体が一つ、転がっていた。 名も知らぬ『スクール』の少年。 ゴーグルのようなヘッドギアのような、柳の葉のように四方からコードの飛び出た妙な機械を頭に付けていた。 浜面が彼を殺した。 力任せにゴーグルを引っこ抜いた感触がまだ手に残っている。 ベキベキと何かが砕けるような感触。身の毛もよだつような気味の悪い手触りだった。 ほとんど勘であたりを付けていたそれは見事に的中し、致命傷となった。 彼の頭を取り囲んでいたゴーグルから伸びた針と管は、どう考えても最初から脳に突き刺さっていた。 彼がどんな理由で奇妙なゴーグルを付けていたのかは容易に想像が付いた。 昔、大戦下のドイツでこの街と同じような事が行われていたらしい。 超能力者の開発。第三帝国は本気で超能力を戦争に用いようとしていた。 当時その存在は単なる絵空事でしかなかった。超能力の実在が白日の元に晒されたのは大戦後の事である。 今だからこそこうして学園都市が成立しているが、端から見ていた人間にとっては笑えないジョーク以外の何物でもなかっただろう。 知識も技術もなしの手探りで行われた結末は、言わずとも分かるだろう。 人体実験という名の浪費。一体どれほど食い潰したか。 多分この少年に行われていたのも同じようなものだった。 体晶とは別のアプローチからの、非人道的能力開発。 『プロデュース』、『暗闇の五月計画』、『暴走能力の法則解析用誘爆実験』……似たようなものは幾らでも出てくるだろう。 ああ、そういえば都市伝説か何かでそういう噂を聞いた事がある。 確かにこれは信じられないし信じたくない。だがどうやら実在しているらしかった。 ――まったくどんな冗談だ。                     、、 、、 そう思ってしまうあたり、浜面はまだまだなのだろうけれど。 一瞥しただけで浜面はすぐ視線を戻した。 死体は語らず動かない。ならば物と同じだ。 少なくとも浜面は彼にもう何の感慨も浮かばなかった。 「行こう」 音頭を取るには分不相応とは思うが、二人とも頷いてくれた。 「麦野とフレンダがベソ掻く前に見つけてやらねえと」 苦笑し、おどけてみせるのはきっと彼女たちを笑わせるためではない。 こうでもしないと死臭が鼻に付いて仕方がないのだ。 ポケットに両手を入れる。 滝壺がこちらに背を向けたのを合図に歩き出した。 足を動かすタイミングを一呼吸遅らせた絹旗が浜面の隣に立ち、並んで歩く。 「……私」 視線を浜面と同じく滝壺の背に向けたまま、絹旗は小さく呟く。 「前に一度だけ会った事があります。名前なんて超覚えてませんけど」 誰と、とも。どこで、とも。 絹旗は言わなかったがその意味は分かった。 「……そっか」 視線を交わさぬまま短く返し、それきりお互い何も言わなかった。 滝壺は振り返らない。彼女はこちらの短い会話に気付いているだろうか。 「……」 「……」 「……」 鼻腔を突く嫌な臭いは当分こびりついたまま取れないだろう。 ―――――――――――――――――――― 「だあーっ! チクショー!!」 長い金髪を背後に靡かせながらフレンダは大いに叫んだ。 「結局なんなのよこれはーっ!!」 固い床をローファーで蹴り、フレンダは研究所の廊下を全力疾走していた。 足音は二つ。一つはフレンダのものだ。 荒事を専門にしている彼女だが、所詮体力的には少女のものでしかない。 陸上選手でもないのにこんな事をしていればすぐに息が切れてしまうのは自明の理だった。                     トラッパー 『アイテム』での彼女の立ち位置は罠師。元来彼女はギミックを駆使して相手を追い詰めていくタイプだ。 そもそも直接の戦闘能力では滝壺はともかく麦野や絹旗には遠く及ばない。 表立っての戦闘特化能力を持たないフレンダは後方支援や遊撃、撹乱を主とした立ち回りをしていた。 だからこういう事態は想定外で、彼女としても不本意で仕方なかった。 そして、もう一つの足音。 足の速度をそのままに振り返る。 追跡者は相変わらず疲れなど微塵も見せぬまま淡々とフレンダを追いかけている。 疾走の足音はその体に似付かず驚くほど小さい。カチャカチャと細かい金属の衝突音が聞こえる程度だ。 追跡者は人ではなかった。 ロボット。 スマートな猫型の大型獣を思わせる四足歩行型の機械だ。 そのフォルムには違和感でしかないのだが、頭部と思われる部位から伸びたホースのようなセンサーが飛び出している。 キャタピラもなく『走って』追いかけているにも拘らずその先端部だけは揺れず、先ほどから常にこちらを指している。 重心を落とし体を低くしながら付かず離れずの距離。 疲れを知らぬ機械を相手にフレンダはかれこれ十分以上も追いかけっこを続けていた。 (くっそぉ……体力仕事は私の役じゃないってのに) 心中でぼやきながらフレンダは足を止めない。 足の速度は明らかに落ちているが背後の機械猫は一定の距離を保ったままだ。 しかし少しでも気を抜けば距離を詰めてくる。結局のところ彼女は常にその時の最大速度で走るしかなかった。 相手は恐らくこちらを疲弊させようとしているのだが……だからといって追いつかれたらどうなるのかは想像もしたくない。 そもそも相手の目的すら不明だ。 研究所の中央管制室のような部署を制圧し、施設全体のコントロールを奪ったところまでは順調だった。 直接の戦闘は得手ではないとはいえ彼女も暗部組織の一員だ。一般の研究者が束になったところで太刀打ちできるはずもない。 通気口経由で遅効性の催眠ガス(もちろん無色無臭)をプレゼントしてやった。体が重いと気付いた頃には夢の中だ。 この手の薬品に関しては学園都市は凄まじい技術力を誇る。 明らかに兵器にしか使えない代物を簡単に製造してしまうあたり薄ら寒いものを覚えるが、何にせよ彼女には関係のない話だった。 解毒薬は予め摂取している。そうして悠々と正面から管制室に入り、さて仕事を始めるか、とコンソールに向かったところで。 彼女に遅れるようにして、自動ドアからこのロボットがのそりと現れた。 そこから先の展開は……まあ分かるだろう。 「ああもうっ! 結局、マジでしつこいんだってば!」 振り向かず、懐から取り出した百円ライターほどの大きさの塊を背後に向かってばら撒いた。 マグネット式の小型爆弾だ。 本来は金属に貼り付けて仕込むためのものだが、相手は機械だ。強力な磁石は勝手に引っ付いてくれる誘導弾となる。 が、そこで気付いた。 (結局、ジャミングされてるなら起爆スイッチ押しても反応しないじゃないのよーっ!) 残念な事に起爆信号を受信しなければ爆発しない安全仕様だ。 自ら爆発してくれる空気を呼んだ性能は有していない。 舌打ちして、今度はダーツの矢のような形状をした爆弾を取り出し握った。 前に踏み出した右足を軸に疾走の勢いを利用して体を回転させる。 跳躍。さながらフィギュアスケートの曲を演じるように、速度を殺さず右手を振り抜いた。 センサー式の指向性爆弾だ。 突き刺さりはしないが、先端部にあるセンサーが衝撃に反応すると底部が爆発し、同時に先端方向へ数ミリの金属球を散布発射する。 その仕組みは米軍のM18クレイモア――通称・クレイモア地雷と言うと分かりやすいだろうか。小型かつ投擲弾だが似たような性質を持つ。 小型だが十分な破壊力を有するそれは、例えば人体に使用したなら大きな風穴を開けることも容易いだろう。 速度と無理な体勢、そして疲労がないような驚異的な正確さで矢は正確に四足ロボットに向かって放たれたのだが。 ここにきて初めて追跡者の象の鼻のようなセンサーが、蛇が鎌首をもたげるようにうねり。 光が直線状に閃き、バヂュッ! と映画の中でしか聞いたことのないような炸裂音を立てて矢の先端を正確に打ち抜いた。 「……やっぱ結局レーザーとか出しちゃうんだ、それ」 たたらを踏み後ろ向きに着地しながら呟くが、返事はない。 代わりに再びセンサーの先端がフレンダを指した。 嫌な汗が頬を伝った。 「――ほんと勘弁してよねー!?」 叫ぶが機械は聞く耳は持ってくれなかった。 (結局、こういうのの相手は絹旗あたりにやらせとけっての) 彼女ならこの程度の相手、二秒で切り返せるだろうに。 先ほどから何度も他の『アイテム』の面子に連絡を取ろうとしているのだが、恐らく妨害電波でも出しているのだろう。 携帯電話は使い物にならなかった。マグネット爆弾もだが、これまでも事前に仕込んでいたトラップのことごとくが沈黙している。 どれも暗部仕様の特殊な一品なのだが基本は電波での通信だ。ジャミングに弱いのは変わりない。 ただフレンダの場合機械に頼らずとも連絡を取る事は可能なのだが――。 (これは最後の手段だしなぁ……できるだけアイツらには秘密にしておきたいし) どうにも相手は自分を殺す気はないらしい。先ほどのレーザー装備もフレンダに直接向けられはしなかった。 機械相手にフレンダの能力は通用しないが、ロボットを遠隔操作しているらしい操縦者の気配は僅かながら感じられた。 近くから直接は感じられないのでカメラを通してなのだろう。そこから逆探知できるほどの距離ではないが殺意は感じられなかった。 (目的は私の捕獲か、それとも足止め……? 追い掛け回して疲労を狙ってるのか) だとしても――とフレンダは歯噛みする。 (これって結局、私の手の内ばれてるわよね。よりによって私に『機械』をぶち当ててくるんだもの) 学園都市の七人の超能力者。 その一角、第五位『心理掌握』。 常盤台中学の誇る二人の超能力者の片割れこそ彼女だった。 何だかんだでもう一人の常盤台の超能力者、『超電磁砲』が目立ってくれているのであまり彼女にスポットは当たらない。 もっともフレンダ自身がそもそも学校には行っていないし、何かしら表舞台に出てくる事すらない。 その事が『心理掌握』としての彼女の性質を如実に物語っていた。 能力はその名の通り、精神操作。 意識も無意識も知覚も記憶も、脳の内で起こるあらゆる事象を掌握する能力だ。 名門と名高い常盤台中学の最奥に座す絶対君臨者。 そもそも『派閥』と呼ばれる彼女の支持者や賛同者のコロニーですら――その中核を成す面子は『心理掌握』に操作された文字通りの傀儡だ。 同時に彼女自身、『心理掌握』は派閥の中に存在しない。 派閥に属そうとも幹部以外は面会できないという、いかにももったいぶった名目を立てているが。 それはあたかもそこにいるかのように見せかけた虚飾でしかない。 実際のところ、彼女は別人として別の学校に通っているのだから。 だからこそ他の『アイテム』の二人、滝壺と絹旗に対しては彼女が『心理掌握』だとは気付かれたくなかった。 精神操作系の能力者は孤独だ。 念話程度であればまだ可愛いものだが、読心や知覚操作ともなると周囲から人がいなくなる。 人は誰しも自己性――アイデンティティを持つ。 しかしそれが誰かの手によって改竄されてしまうとしたら。 知らぬうちに心を読まれ、認識を歪曲され、感情すら操作されているとしたら。 たとえそんな事実はなかったとしても周囲の勘繰りが孤独にしてゆくのだ。 だからフレンダは同じ『アイテム』であるためにその事実を隠していた。 麦野に限ってはリーダーでもある事もあって彼女の能力を知っているのだが、だからといって能力の使用には躊躇がある。 『心理掌握』は最後の切り札だ。 数ヶ月前の『超電磁砲』との戦闘でも使わなかった事からも分かるようにフレンダは能力を使用したくはなかった。 今この場にいるのは暗部組織『アイテム』の構成員である『フレンダ』だ。 常盤台の『心理掌握』ではない。まして『青髪ピアス』なはずもない。 はっきり言って――彼女は自身の能力を忌避すらしている。 たとえ相手を瞬殺する事ができたとしても『心理掌握』を使いたくはなかった。 (結局、どっちにしてもあんまり変わらない訳なんだけど……) 背後のロボットは相変わらず、カチャカチャと軽快なリズムでフレンダを追いかけている。 建物の見取り図は頭に叩き込んでいるが、どうにも誘導されているような気配がする。 現に同じところを何度も回っている。 建物はそう広くはないが、他のメンバーを探して合流しようにもロボットの牽制するような動きで行動を阻害されていた。 (っつかコイツは何者なのよ。  どう見ても自動制御じゃないし、遠隔操作してる奴がいるのは分かってる。  でもソイツの意図がいまいち読めない。麦野よりも私を抑えに来るってのは――) 脳に酸素が満足に補給されていない状況でも思考ははっきりしている。 意識せずとも自動的に『心理掌握』が自身のサポートを行ってしまう。 冷めた思考でも制御できない自動機能に苛立ちを覚えながらフレンダはどうにか打開策を練ろうとして――。 しかしそんな時間は与えられなかった。 前方、廊下の角から不意に現れた人影。フレンダの思考は中断させられた。 「――――!?」 能力を解放していれば不意打ちされる事もなかっただろう。 だが実際、フレンダは能力を意図的に抑え、その結果として死角にいた相手に気付かなかった。 しかし解せない。意図的に能力を抑えていても自分に向けられた殺意なり敵意なりがあれば反応できる。 そこは最低限の自動機能で、能力使用の有無に関わらず常に発動しているセンサーだ。だとしたら。 (認識操作系の能力者か――!) 『視覚遮断』など、精神感応系の能力の中には知覚を歪曲させるものもある。 それらはしかし、同系列の能力の中でも最上位であり極々一部を除けば完全な上位互換でしかない『心理掌握』に通用するものではないのだが。 同時に、同系列であれば『心理掌握』のセンサーに唯一対抗できる手段でもある。 「ちぃっ――!」 舌打ちし、ブレザーの懐に手を入れ中にホールドしていたダーツ爆弾を握る。 拳銃は持ち歩いていない。効果範囲の広い爆薬の中では唯一指向性を持ち近距離でも対応できるものがあるとすればこれだけだ。 しかしフレンダがダーツを引き抜き構えるよりも早く。 すっ、と相手が手を上げた。 両手を、掌をこちらに見せ、軽く。 「――――は?」 「こちらに敵対する意思はない」 思わず漏れた疑問の呟きに答えるように、赤いセーラー服を着た髪を二つに括った少女が告げた。 両手を挙げ無害を示した少女にフレンダは思わず足を止める。 ――どういう事だ? 疑問が浮かぶが、問い質すよりも早く、背後に金属質の足音が迫った。 「っ――!」 振り返る。背後の獣型ロボットは足を止めていない。速度をそのままにこちらに突っ込んできた。 もたげられた象の鼻のようなセンサー。 その先端が細く割れ、一センチに満たないほどの針が突き出した。 「しまっ――!」 回避しようにももう遅い。危険を察知した時にはもう数メートルの距離もなかった。 自身に『心理掌握』を用い真っ当な反応速度よりも早く行動を起こそうとするが、それでもなお遅すぎた。 ロボットは一直線にフレンダに突進し飛びかかり、前足を両肩に掛け押し倒した。 視界がぐるりと回転する。 背に激突する衝撃に一瞬目を瞑り、再び開いた時には目の前には天井と、金属で形作られたのっぺりとした顔があった。 ぐねりと蛇のようなセンサー部が構えられ。 直後、短い針の飛び出したセンサーの先端を首筋に叩き込んだ。 「がっ――――!」 細い首に打ち込まれた針の先端から何かが流し込まれる。 異物が体の中に進入する吐き気を催す感覚。 恐らく得体の知れない薬品の類であろう事は直感として悟る事ができた。 それがたとえ致死ではないにしろ、致命的には違いないだろう事は容易に想像が付いた。 「――――あ」 急速に意識がぼやけてゆく。 視界は彩度を失い輪郭もあやふやに。ごうごうと騒がしく耳鳴りが響くがどうしてだか気にはならなかった。 全身が痺れ固い床の感触と体の上に圧し掛かっている機械の重さが消えてゆく。 「――、――」 一体自分が何を言おうとしたのか分からない。 そもそも何を考えていたのか、彼女自身でさえ分からなかった。 けれどどちらにせよ、舌も唇も上手く動かせず、息を吐くのすら難しく。 そこでフレンダの意識は完全に闇に墜ちる。 「…………」 倒れた金髪の少女を見下ろし赤いセーラー服を着た少女は無言で見下ろしていた。 彼女――ショチトル、と花を意味する名で呼ばれる少女。 目立たぬよう偽装してはいるが本来見るからに異邦人である。 科学の支配する学園都市にあるまじき、世界勢力を二分するもう片方の勢力に属しているはずの少女だ。 しかし今現在において彼女は――『アイテム』や『スクール』と同じく暗部に属する組織『メンバー』の一員だった。 「――ふむ」 いつの間にか現れた、身に纏った白衣と同じ色の髪の、眼鏡をかけた老人が小さく言葉を吐き頷いた。 「なるほど。その精神障壁、豪語するだけはある。全開でないとはいえ第五位に真っ向から抗えるようだな」 爬虫類を思わせるような冷たい視線で気を失ったフレンダを見下ろす老人。 『メンバー』のリーダーであり、他からは『博士』と呼ばれる研究者だった。 彼は面白そうに――しかし顕微鏡を覗き見るような無機質な目でフレンダを見ながらくつくつと笑った。 「いや、お手柄だ。お陰で中々興味深いサンプルが手に入った。私だけでは彼女は捕らえられそうになかったからな」 『回収用に部隊を手配します』 ロボットから声が流れた。機械の合成音ではない、肉声を基にした通信だ。 外見からは分からないがどこかにスピーカーが備えられているのだろう。 声の主はロボットを操作していた本人しかいない。こことは遠い場所から遠隔操作を行いフレンダを追い詰めた人物だ。 「待て馬場」 声の主を制し、博士は事務的な事を述べるような様子で淡々と告げる。 「下部組織は動かすな。我々だけで処理をする」 『何故です? 小柄とはいえ人を一人運ぶには人数が足りないでしょう。それに――』 「我々の本来の仕事、かね?」 つまらなそうに博士はロボットを一瞥し、ふん、と鼻で嗤った。 「確かに上からの命令は『ピンセット』を手に入れようと造反した『スクール』の処理だが……私には正直、どうでもいいのだよ」 『ですよねー……』 四足歩行のロボットを操作していた主――馬場芳郎は薄々感付いていた事実に、博士とは離れた地で嘆息した。 この博士と呼ばれる老人は、外見からは機械めいた印象を受けがちだが――その実、とても利己的な人物である。 病的なまでの探究心。 彼は世界の毒に魅入られた人物だった。 例えば数学や科学に代表されるように、この世界は実に精巧に作られている。 その魅力に憑り付かれた研究者は数知れない。あらゆる物を投げ打ってさえ真実を探求しようとする者は後を絶たない。 さながらファウスト博士のごとく悪魔に魂を売る事も厭わない彼は、他人はおろか自分ですら省みない。 今回にしても、珍しく人間に興味を持ったと思えば相手はよりによって『心理掌握』。 学園都市に――世界に七人しかいない超能力者といえど彼にとっては貴重なモルモット程度の物でしかないのだろう。 「本当なら第一位か第二位が欲しかったのだが、まあいい。今回のところはこれで満足しておく事にしよう。  それに、第五位ですら天恵に等しい。何しろ超能力者だ。個人で好きに研究できる機会などそうあるまいて」 ロボットのカメラとマイクが捕らえる博士の姿と声に、馬場は小さく「楽しそうっすね……」と辟易するしかなかった。 [[前へ>とある世界の残酷歌劇/幕間/03]]  [[次へ>とある世界の残酷歌劇/幕間/05]]
「ああ、そうかもな。もしかしたら一目惚れってヤツなのかも知れねぇ」 垣根の言葉は肯定しているようで、しかし明確に断定していない。 「惚れた弱み、ってか。確かにソイツは傑作だ。シンプルで実に分かりやすい」 つまりこれは言葉遊び。口先だけの詭弁でしかない。 麦野も、そして垣根もそれを分かっていて続ける。 だからきっと、こんなのはただの茶番劇だ。 「まったく下らないわね。好きとか嫌いとか、私たちには一番縁遠いもんでしょうに」 いっそ本当にそうだったらどれだけマシだったか。 もしかしたら、万が一にも本当にそうだったとしても何一つ状況が変わりはしないのだが。 ――いいわよ。今のでアンタに勝ったつもりになってあげる。 今だけは頭のお目出度い女になって騙されてやろう。 馬鹿な女が悪い男に引っかかって馬鹿を見た。他の彼女たちは運悪くそれに巻き込まれただけだ。 だから誰かに責がありそれを責めるなら。 「――あのさ、一つ言っておくけど」 ふ、と小さく、この距離でも気付かれないように鼻で笑い。 麦野は彼の顔を見ないよう、半ば目を伏せ視線を逸らし、力を抜いた。 「私、タバコ臭い男って嫌いなの」 「……悪りぃ」 その言葉は何に対しての謝罪だったのか。 問い返すよりも早く口を塞がれた。 ―――――――――――――――――――― 「あー……」 口に咥えたタバコから紫煙を燻らせる。 壁に背を預け座り込んだままゆっくりと立ち昇るそれを目で追い、上を見上げた 視線の先には天井。辺りの壁にも窓はない。 はあ……と煙と共に溜め息を吐き、ぼそりと呟いた。 「これで俺もようやく人殺しの仲間入り、か……」 感慨もなく言う浜面の手には厳しいドーナツ状の機械仕掛けのゴーグル。 血に濡れた輪の持ち主は、同じく血に染まりながら浜面の横に沈んでいた。 足音に視線を戻せば、絹旗がこちらに駆けてくるところだった。 その後ろには滝壺。まだ若干足元がおぼつかない様子だが大丈夫そうだ。 「おう」 手を挙げて応えてやる。 「麦野とフレンダは?」 姿の見えない二人を尋ねると絹旗は小さく首を左右に振った。 「だめです。モニタールームみたいなのがあったんですけど潰されてました。  携帯も超通じないみたいですし……」 そこで絹旗は言葉を切り振り返る。 どこか寝惚けているような様子でふらふらと歩いてきていた滝壺がようやく追いついた。 「はまづら。立てる?」 手を差し伸べてくれるのはありがたいが疲労困憊なのは彼女も同じだろう。 掌を見せ大丈夫だと示すと壁に手を付き自力で立ち上がった。 「とりあえず探すか。まだあと三人いるし、麦野もフレンダも別行動だ。  囲まれたら流石のアイツらでも分が悪いだろ」 とは言っても彼女たちが早々死ぬはずもないのだが。 憎まれっ子世に憚るとは言うが、あの手の女性というものは往々にして男には理解できない上手い立ち回りをする。 そもそもアイツら殺しても死にそうもねえし、と心中でごちて浜面はまだ思考に掛かったままの靄を振り払おうと軽く頭を振り髪を掻き上げた。 「ん……けほっ」 「あ、悪りぃ」 煙に咳き込む絹旗に「そうだよなーコイツらタバコの煙なんて慣れてねえだろうしなー」などと思いながら足元に落とす。 じゅ、と小さな音を立てて火が消えてから失敗した事に気付いた。 この焦げるような臭いは生理的な不快感を催す。苦虫を噛み潰したような顔で恐る恐る絹旗を見遣ると彼女も同じような顔だった。 「うえ……これ、超最悪です……」 「大丈夫?」 露骨に顔を顰める絹旗に滝壺が心配そうな顔(といってもどこか無機質めいた表情なのだが)を向ける。 「すまん……」 「あーもう、早く行きましょう。早いとこ麦野とフレンダを見つけない事には」 「確かにそれが先決か」 「うん」 もっとも、そんな事は別にしてもこの臭いから一刻も早く逃げたいというのもあるのだが。 この時になってようやく浜面はまだ手にドーナツ状のゴーグルを持っていた事に気付く。 迷わずその場に放り投げ、重い音が聞こえたが視線もくれなかった。 そんなものよりも目の前の少女たちの方が何万倍も見ていたいと思える。 「……ん?」 ふと、浜面は引っかかりを覚えた。 本当に小さな、些細な違和感。気付いた事の方が驚きのようなそんな誤差程度のものだ。 「なあ滝壺」 「うん?」 呼ばれ振り向く滝壺は相変わらずどこか眠そうなとろんとした目をしている。 「オマエ……大丈夫なのか?」 先ほど使用した体晶の影響もあるのだろう。 しかし少し疲れを見せている程度で意識ははっきりしているようだ。 彼女が眠そうな目をしているのはいつもの事だ。 「大丈夫。平気だよ」 違う。浜面は彼女の体調の事を言っている訳ではない。 「そうじゃなくて――」 首を傾げる滝壺に僅かな苛立ちを覚えながら浜面は自分の髪を乱暴に掻く。 「この臭いだよ」 言ってから失敗したと思った。口に出してしまえば嫌でも意識してしまう。 既に拡散して臭いは薄れてしまっているが、それは辺りに薄っすらと充満しているという事だ。 目に見えないあの蛋白質の焼ける臭いが立ち込めているのを想像してしまう。 重ね重ね馬鹿だ。余計に気分が悪くなる。 「……ああ」 滝壺はようやく合点がいったのか、微かに視線を宙に迷わせた後、納得した様子で浜面を見て。                、 、、 、 、、 、 、 、 、、 、、 、 「うん大丈夫。――私、臭いがほとんど分からないから」 「――――」 絶句した。 完全な失言だった事を後になって理解する。 あと味も、と変わらぬ表情で付け加える滝壺に浜面は途方もない罪悪感を感じていた。 滝壺の鼻、そして舌。その意味するところが分からないほど浜面は愚かではなかった。 体晶などというどう考えても害にしかならないような代物を受ける粘膜がまともに機能するはずがないのだ。 「別に、気にしなくていいよ。はまづら」 滝壺は相変わらずの眠たげな目で愕然とする浜面を見る。 「これくらいどうって事ないよ。別に手足が吹っ飛んでる訳じゃないし。ご飯美味しくないけど」 表情は変化していない。素のままの淡々とした口調と表情。 彼女は別に浜面に気を使っている訳ではない。 滝壺は自分の感覚が麻痺している事を本当に何とも思っていなかった。 「私まだ生きてるもん」 だからこの程度は些細な問題だ、と。 確かに生きているだけマシだろう。 暗部ではゴミのように人が死に、地球より重いらしい命は一山幾らのバーゲンセールだ。 浜面自身もその例外ではない。いや、『アイテム』である彼女らに比べれば明らかな格下だ。 それこそ掃いて捨てるほど代えはいる。彼女たちにとって浜面仕上は使い捨ての道具でしかない。 「まあ滝壺さんのは超分かりやすいですけど、麦野やフレンダだって似たようなものですよ」 絹旗が若干の憂いを帯びた顔で、視線はこちらに向けぬまま続ける。 言外ではあるがそこには絹旗自身も含まれているのは容易に想像が付いた。 皆暗部に落ちたと共に何かしらを失っているのだと。 あるいは、失ったからこそ暗部に落ちたのだ。 だからきっと浜面と彼女たちとの差はそこだった。 滝壺だけを例に取っても、彼女が失った代償は大きい。 他の三人も同じようなものだろう。何か絶対的に大切な物を失っているのだ。 それは彼女たちが二度と日の当たる場所へは帰れないようにするための足枷。 小鳥の風切羽を切るようなものだ。鳥が翼を失ってしまえば地を這うしかない。 だが浜面が暗部に落ちる切欠はどうだ。 危ない連中から仕事を引き受けてしまって盛大に失敗した。ただそれだけだ。 ――たったそれだけ。 浜面はただなし崩しに暗部に落ちただけで。 彼女たちのように『暗部以外に居場所がない』ような境遇ではない。 「……」 二人に気付かれないよう浜面はこっそりと背後に目を向ける。 そこには少年の死体が一つ、転がっていた。 名も知らぬ『スクール』の少年。 ゴーグルのようなヘッドギアのような、柳の葉のように四方からコードの飛び出た妙な機械を頭に付けていた。 浜面が彼を殺した。 力任せにゴーグルを引っこ抜いた感触がまだ手に残っている。 ベキベキと何かが砕けるような感触。身の毛もよだつような気味の悪い手触りだった。 ほとんど勘であたりを付けていたそれは見事に的中し、致命傷となった。 彼の頭を取り囲んでいたゴーグルから伸びた針と管は、どう考えても最初から脳に突き刺さっていた。 彼がどんな理由で奇妙なゴーグルを付けていたのかは容易に想像が付いた。 昔、大戦下のドイツでこの街と同じような事が行われていたらしい。 超能力者の開発。第三帝国は本気で超能力を戦争に用いようとしていた。 当時その存在は単なる絵空事でしかなかった。超能力の実在が白日の元に晒されたのは大戦後の事である。 今だからこそこうして学園都市が成立しているが、端から見ていた人間にとっては笑えないジョーク以外の何物でもなかっただろう。 知識も技術もなしの手探りで行われた結末は、言わずとも分かるだろう。 人体実験という名の浪費。一体どれほど食い潰したか。 多分この少年に行われていたのも同じようなものだった。 体晶とは別のアプローチからの、非人道的能力開発。 『プロデュース』、『暗闇の五月計画』、『暴走能力の法則解析用誘爆実験』……似たようなものは幾らでも出てくるだろう。 ああ、そういえば都市伝説か何かでそういう噂を聞いた事がある。 確かにこれは信じられないし信じたくない。だがどうやら実在しているらしかった。 ――まったくどんな冗談だ。                     、、 、、 そう思ってしまうあたり、浜面はまだまだなのだろうけれど。 一瞥しただけで浜面はすぐ視線を戻した。 死体は語らず動かない。ならば物と同じだ。 少なくとも浜面は彼にもう何の感慨も浮かばなかった。 「行こう」 音頭を取るには分不相応とは思うが、二人とも頷いてくれた。 「麦野とフレンダがベソ掻く前に見つけてやらねえと」 苦笑し、おどけてみせるのはきっと彼女たちを笑わせるためではない。 こうでもしないと死臭が鼻に付いて仕方がないのだ。 ポケットに両手を入れる。 滝壺がこちらに背を向けたのを合図に歩き出した。 足を動かすタイミングを一呼吸遅らせた絹旗が浜面の隣に立ち、並んで歩く。 「……私」 視線を浜面と同じく滝壺の背に向けたまま、絹旗は小さく呟く。 「前に一度だけ会った事があります。名前なんて超覚えてませんけど」 誰と、とも。どこで、とも。 絹旗は言わなかったがその意味は分かった。 「……そっか」 視線を交わさぬまま短く返し、それきりお互い何も言わなかった。 滝壺は振り返らない。彼女はこちらの短い会話に気付いているだろうか。 「……」 「……」 「……」 鼻腔を突く嫌な臭いは当分こびりついたまま取れないだろう。 ―――――――――――――――――――― 「だあーっ! チクショー!!」 長い金髪を背後に靡かせながらフレンダは大いに叫んだ。 「結局なんなのよこれはーっ!!」 固い床をローファーで蹴り、フレンダは研究所の廊下を全力疾走していた。 足音は二つ。一つはフレンダのものだ。 荒事を専門にしている彼女だが、所詮体力的には少女のものでしかない。 陸上選手でもないのにこんな事をしていればすぐに息が切れてしまうのは自明の理だった。                     トラッパー 『アイテム』での彼女の立ち位置は罠師。元来彼女はギミックを駆使して相手を追い詰めていくタイプだ。 そもそも直接の戦闘能力では滝壺はともかく麦野や絹旗には遠く及ばない。 表立っての戦闘特化能力を持たないフレンダは後方支援や遊撃、撹乱を主とした立ち回りをしていた。 だからこういう事態は想定外で、彼女としても不本意で仕方なかった。 そして、もう一つの足音。 足の速度をそのままに振り返る。 追跡者は相変わらず疲れなど微塵も見せぬまま淡々とフレンダを追いかけている。 疾走の足音はその体に似付かず驚くほど小さい。カチャカチャと細かい金属の衝突音が聞こえる程度だ。 追跡者は人ではなかった。 ロボット。 スマートな猫型の大型獣を思わせる四足歩行型の機械だ。 そのフォルムには違和感でしかないのだが、頭部と思われる部位から伸びたホースのようなセンサーが飛び出している。 キャタピラもなく『走って』追いかけているにも拘らずその先端部だけは揺れず、先ほどから常にこちらを指している。 重心を落とし体を低くしながら付かず離れずの距離。 疲れを知らぬ機械を相手にフレンダはかれこれ十分以上も追いかけっこを続けていた。 (くっそぉ……体力仕事は私の役じゃないってのに) 心中でぼやきながらフレンダは足を止めない。 足の速度は明らかに落ちているが背後の機械猫は一定の距離を保ったままだ。 しかし少しでも気を抜けば距離を詰めてくる。結局のところ彼女は常にその時の最大速度で走るしかなかった。 相手は恐らくこちらを疲弊させようとしているのだが……だからといって追いつかれたらどうなるのかは想像もしたくない。 そもそも相手の目的すら不明だ。 研究所の中央管制室のような部署を制圧し、施設全体のコントロールを奪ったところまでは順調だった。 直接の戦闘は得手ではないとはいえ彼女も暗部組織の一員だ。一般の研究者が束になったところで太刀打ちできるはずもない。 通気口経由で遅効性の催眠ガス(もちろん無色無臭)をプレゼントしてやった。体が重いと気付いた頃には夢の中だ。 この手の薬品に関しては学園都市は凄まじい技術力を誇る。 明らかに兵器にしか使えない代物を簡単に製造してしまうあたり薄ら寒いものを覚えるが、何にせよ彼女には関係のない話だった。 解毒薬は予め摂取している。そうして悠々と正面から管制室に入り、さて仕事を始めるか、とコンソールに向かったところで。 彼女に遅れるようにして、自動ドアからこのロボットがのそりと現れた。 そこから先の展開は……まあ分かるだろう。 「ああもうっ! 結局、マジでしつこいんだってば!」 振り向かず、懐から取り出した百円ライターほどの大きさの塊を背後に向かってばら撒いた。 マグネット式の小型爆弾だ。 本来は金属に貼り付けて仕込むためのものだが、相手は機械だ。強力な磁石は勝手に引っ付いてくれる誘導弾となる。 が、そこで気付いた。 (結局、ジャミングされてるなら起爆スイッチ押しても反応しないじゃないのよーっ!) 残念な事に起爆信号を受信しなければ爆発しない安全仕様だ。 自ら爆発してくれる空気を呼んだ性能は有していない。 舌打ちして、今度はダーツの矢のような形状をした爆弾を取り出し握った。 前に踏み出した右足を軸に疾走の勢いを利用して体を回転させる。 跳躍。さながらフィギュアスケートの曲を演じるように、速度を殺さず右手を振り抜いた。 センサー式の指向性爆弾だ。 突き刺さりはしないが、先端部にあるセンサーが衝撃に反応すると底部が爆発し、同時に先端方向へ数ミリの金属球を散布発射する。 その仕組みは米軍のM18クレイモア――通称・クレイモア地雷と言うと分かりやすいだろうか。小型かつ投擲弾だが似たような性質を持つ。 小型だが十分な破壊力を有するそれは、例えば人体に使用したなら大きな風穴を開けることも容易いだろう。 速度と無理な体勢、そして疲労がないような驚異的な正確さで矢は正確に四足ロボットに向かって放たれたのだが。 ここにきて初めて追跡者の象の鼻のようなセンサーが、蛇が鎌首をもたげるようにうねり。 光が直線状に閃き、バヂュッ! と映画の中でしか聞いたことのないような炸裂音を立てて矢の先端を正確に打ち抜いた。 「……やっぱ結局レーザーとか出しちゃうんだ、それ」 たたらを踏み後ろ向きに着地しながら呟くが、返事はない。 代わりに再びセンサーの先端がフレンダを指した。 嫌な汗が頬を伝った。 「――ほんと勘弁してよねー!?」 叫ぶが機械は聞く耳は持ってくれなかった。 (結局、こういうのの相手は絹旗あたりにやらせとけっての) 彼女ならこの程度の相手、二秒で切り返せるだろうに。 先ほどから何度も他の『アイテム』の面子に連絡を取ろうとしているのだが、恐らく妨害電波でも出しているのだろう。 携帯電話は使い物にならなかった。マグネット爆弾もだが、これまでも事前に仕込んでいたトラップのことごとくが沈黙している。 どれも暗部仕様の特殊な一品なのだが基本は電波での通信だ。ジャミングに弱いのは変わりない。 ただフレンダの場合機械に頼らずとも連絡を取る事は可能なのだが――。 (これは最後の手段だしなぁ……できるだけアイツらには秘密にしておきたいし) どうにも相手は自分を殺す気はないらしい。先ほどのレーザー装備もフレンダに直接向けられはしなかった。 機械相手にフレンダの能力は通用しないが、ロボットを遠隔操作しているらしい操縦者の気配は僅かながら感じられた。 近くから直接は感じられないのでカメラを通してなのだろう。そこから逆探知できるほどの距離ではないが殺意は感じられなかった。 (目的は私の捕獲か、それとも足止め……? 追い掛け回して疲労を狙ってるのか) だとしても――とフレンダは歯噛みする。 (これって結局、私の手の内ばれてるわよね。よりによって私に『機械』をぶち当ててくるんだもの) 学園都市の七人の超能力者。 その一角、第五位『心理掌握』。 常盤台中学の誇る二人の超能力者の片割れこそ彼女だった。 何だかんだでもう一人の常盤台の超能力者、『超電磁砲』が目立ってくれているのであまり彼女にスポットは当たらない。 もっともフレンダ自身がそもそも学校には行っていないし、何かしら表舞台に出てくる事すらない。 その事が『心理掌握』としての彼女の性質を如実に物語っていた。 能力はその名の通り、精神操作。 意識も無意識も知覚も記憶も、脳の内で起こるあらゆる事象を掌握する能力だ。 名門と名高い常盤台中学の最奥に座す絶対君臨者。 そもそも『派閥』と呼ばれる彼女の支持者や賛同者のコロニーですら――その中核を成す面子は『心理掌握』に操作された文字通りの傀儡だ。 同時に彼女自身、『心理掌握』は派閥の中に存在しない。 派閥に属そうとも幹部以外は面会できないという、いかにももったいぶった名目を立てているが。 それはあたかもそこにいるかのように見せかけた虚飾でしかない。 実際のところ、彼女は別人として別の学校に通っているのだから。 だからこそ他の『アイテム』の二人、滝壺と絹旗に対しては彼女が『心理掌握』だとは気付かれたくなかった。 精神操作系の能力者は孤独だ。 念話程度であればまだ可愛いものだが、読心や知覚操作ともなると周囲から人がいなくなる。 人は誰しも自己性――アイデンティティを持つ。 しかしそれが誰かの手によって改竄されてしまうとしたら。 知らぬうちに心を読まれ、認識を歪曲され、感情すら操作されているとしたら。 たとえそんな事実はなかったとしても周囲の勘繰りが孤独にしてゆくのだ。 だからフレンダは同じ『アイテム』であるためにその事実を隠していた。 麦野に限ってはリーダーでもある事もあって彼女の能力を知っているのだが、だからといって能力の使用には躊躇がある。 『心理掌握』は最後の切り札だ。 数ヶ月前の『超電磁砲』との戦闘でも使わなかった事からも分かるようにフレンダは能力を使用したくはなかった。 今この場にいるのは暗部組織『アイテム』の構成員である『フレンダ』だ。 常盤台の『心理掌握』ではない。まして『青髪ピアス』なはずもない。 はっきり言って――彼女は自身の能力を忌避すらしている。 たとえ相手を瞬殺する事ができたとしても『心理掌握』を使いたくはなかった。 (結局、どっちにしてもあんまり変わらない訳なんだけど……) 背後のロボットは相変わらず、カチャカチャと軽快なリズムでフレンダを追いかけている。 建物の見取り図は頭に叩き込んでいるが、どうにも誘導されているような気配がする。 現に同じところを何度も回っている。 建物はそう広くはないが、他のメンバーを探して合流しようにもロボットの牽制するような動きで行動を阻害されていた。 (っつかコイツは何者なのよ。  どう見ても自動制御じゃないし、遠隔操作してる奴がいるのは分かってる。  でもソイツの意図がいまいち読めない。麦野よりも私を抑えに来るってのは――) 脳に酸素が満足に補給されていない状況でも思考ははっきりしている。 意識せずとも自動的に『心理掌握』が自身のサポートを行ってしまう。 冷めた思考でも制御できない自動機能に苛立ちを覚えながらフレンダはどうにか打開策を練ろうとして――。 しかしそんな時間は与えられなかった。 前方、廊下の角から不意に現れた人影。フレンダの思考は中断させられた。 「――――!?」 能力を解放していれば不意打ちされる事もなかっただろう。 だが実際、フレンダは能力を意図的に抑え、その結果として死角にいた相手に気付かなかった。 しかし解せない。意図的に能力を抑えていても自分に向けられた殺意なり敵意なりがあれば反応できる。 そこは最低限の自動機能で、能力使用の有無に関わらず常に発動しているセンサーだ。だとしたら。 (認識操作系の能力者か――!) 『視覚遮断』など、精神感応系の能力の中には知覚を歪曲させるものもある。 それらはしかし、同系列の能力の中でも最上位であり極々一部を除けば完全な上位互換でしかない『心理掌握』に通用するものではないのだが。 同時に、同系列であれば『心理掌握』のセンサーに唯一対抗できる手段でもある。 「ちぃっ――!」 舌打ちし、ブレザーの懐に手を入れ中にホールドしていたダーツ爆弾を握る。 拳銃は持ち歩いていない。効果範囲の広い爆薬の中では唯一指向性を持ち近距離でも対応できるものがあるとすればこれだけだ。 しかしフレンダがダーツを引き抜き構えるよりも早く。 すっ、と相手が手を上げた。 両手を、掌をこちらに見せ、軽く。 「――――は?」 「こちらに敵対する意思はない」 思わず漏れた疑問の呟きに答えるように、赤いセーラー服を着た髪を二つに括った少女が告げた。 両手を挙げ無害を示した少女にフレンダは思わず足を止める。 ――どういう事だ? 疑問が浮かぶが、問い質すよりも早く、背後に金属質の足音が迫った。 「っ――!」 振り返る。背後の獣型ロボットは足を止めていない。速度をそのままにこちらに突っ込んできた。 もたげられた象の鼻のようなセンサー。 その先端が細く割れ、一センチに満たないほどの針が突き出した。 「しまっ――!」 回避しようにももう遅い。危険を察知した時にはもう数メートルの距離もなかった。 自身に『心理掌握』を用い真っ当な反応速度よりも早く行動を起こそうとするが、それでもなお遅すぎた。 ロボットは一直線にフレンダに突進し飛びかかり、前足を両肩に掛け押し倒した。 視界がぐるりと回転する。 背に激突する衝撃に一瞬目を瞑り、再び開いた時には目の前には天井と、金属で形作られたのっぺりとした顔があった。 ぐねりと蛇のようなセンサー部が構えられ。 直後、短い針の飛び出したセンサーの先端を首筋に叩き込んだ。 「がっ――――!」 細い首に打ち込まれた針の先端から何かが流し込まれる。 異物が体の中に進入する吐き気を催す感覚。 恐らく得体の知れない薬品の類であろう事は直感として悟る事ができた。 それがたとえ致死ではないにしろ、致命的には違いないだろう事は容易に想像が付いた。 「――――あ」 急速に意識がぼやけてゆく。 視界は彩度を失い輪郭もあやふやに。ごうごうと騒がしく耳鳴りが響くがどうしてだか気にはならなかった。 全身が痺れ固い床の感触と体の上に圧し掛かっている機械の重さが消えてゆく。 「――、――」 一体自分が何を言おうとしたのか分からない。 そもそも何を考えていたのか、彼女自身でさえ分からなかった。 けれどどちらにせよ、舌も唇も上手く動かせず、息を吐くのすら難しく。 そこでフレンダの意識は完全に闇に墜ちる。 「…………」 倒れた金髪の少女を見下ろし赤いセーラー服を着た少女は無言で見下ろしていた。 彼女――ショチトル、と花を意味する名で呼ばれる少女。 目立たぬよう偽装してはいるが本来見るからに異邦人である。 科学の支配する学園都市にあるまじき、世界勢力を二分するもう片方の勢力に属しているはずの少女だ。 しかし今現在において彼女は――『アイテム』や『スクール』と同じく暗部に属する組織『メンバー』の一員だった。 「――ふむ」 いつの間にか現れた、身に纏った白衣と同じ色の髪の、眼鏡をかけた老人が小さく言葉を吐き頷いた。 「なるほど。その精神障壁、豪語するだけはある。全開でないとはいえ第五位に真っ向から抗えるようだな」 爬虫類を思わせるような冷たい視線で気を失ったフレンダを見下ろす老人。 『メンバー』のリーダーであり、他からは『博士』と呼ばれる研究者だった。 彼は面白そうに――しかし顕微鏡を覗き見るような無機質な目でフレンダを見ながらくつくつと笑った。 「いや、お手柄だ。お陰で中々興味深いサンプルが手に入った。私だけでは彼女は捕らえられそうになかったからな」 『回収用に部隊を手配します』 ロボットから声が流れた。機械の合成音ではない、肉声を基にした通信だ。 外見からは分からないがどこかにスピーカーが備えられているのだろう。 声の主はロボットを操作していた本人しかいない。こことは遠い場所から遠隔操作を行いフレンダを追い詰めた人物だ。 「待て馬場」 声の主を制し、博士は事務的な事を述べるような様子で淡々と告げる。 「下部組織は動かすな。我々だけで処理をする」 『何故です? 小柄とはいえ人を一人運ぶには人数が足りないでしょう。それに――』 「我々の本来の仕事、かね?」 つまらなそうに博士はロボットを一瞥し、ふん、と鼻で嗤った。 「確かに上からの命令は『ピンセット』を手に入れようと造反した『スクール』の処理だが……私には正直、どうでもいいのだよ」 『ですよねー……』 四足歩行のロボットを操作していた主――馬場芳郎は薄々感付いていた事実に、博士とは離れた地で嘆息した。 この博士と呼ばれる老人は、外見からは機械めいた印象を受けがちだが――その実、とても利己的な人物である。 病的なまでの探究心。 彼は世界の毒に魅入られた人物だった。 例えば数学や科学に代表されるように、この世界は実に精巧に作られている。 その魅力に憑り付かれた研究者は数知れない。あらゆる物を投げ打ってさえ真実を探求しようとする者は後を絶たない。 さながらファウスト博士のごとく悪魔に魂を売る事も厭わない彼は、他人はおろか自分ですら省みない。 今回にしても、珍しく人間に興味を持ったと思えば相手はよりによって『心理掌握』。 学園都市に――世界に七人しかいない超能力者といえど彼にとっては貴重なモルモット程度の物でしかないのだろう。 「本当なら第一位か第二位が欲しかったのだが、まあいい。今回のところはこれで満足しておく事にしよう。  それに、第五位ですら天恵に等しい。何しろ超能力者だ。個人で好きに研究できる機会などそうあるまいて」 ロボットのカメラとマイクが捕らえる博士の姿と声に、馬場は小さく「楽しそうっすね……」と辟易するしかなかった。 [[前へ>とある世界の残酷歌劇/幕間/03]]  [[次へ>とある世界の残酷歌劇/幕間/05]]

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