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「佐天「…アイテム?」10」(2011/05/29 (日) 15:39:25) の最新版変更点
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「遅いじゃない…常盤台の超電磁砲、御坂美琴」
「…知ってたんだ、私の事」
「フレンダから聞いたわ…」
麦野は施設の柱によっかかりながら丁寧な口調で説明する。
美琴はフレンダと言う名前を聞いてククリ刀を持ち、立ち向かってきた白人を思い返す。
「そうなんだ…」
「にしてもスゴイ量の人形ね…集めるのに時間かかったでしょ?」
(フレンダしっかり後始末しろや)
狙撃銃を忘れるな、とは言ったが、まさか自分のしかけた爆弾の後始末をしないで帰るとは。
今度あった時に拷問確定だな、と胸中でつぶやくと麦野は一気に美琴に向けて原子崩しをぶっ放した。
美琴の背後でフワフワと浮遊している人形群の内、数十をくだらない人形爆弾が猛烈な爆風をまき散らし炸裂する。
しかし、それでもなお美琴は数百の人形を背後に従えている。
そしてその人形の内のいくつかが麦野の発するビームをスルスルとよけて近づいてくる。
(…人形に何か仕込んでるのか?)
原子崩しを放出しつつ、麦野はスルスルと奇妙な動きで近づいてくる人形を見る。
(中にベアリングが入っているプラスチック爆弾もあるだろうが…爆弾の中に通電したら起爆する…有線でもあるめぇし…一体どういう原理だ、ありゃ)
麦野は誘導爆弾の正体を看破しようと推理を巡らしていく。
何故、人形があそこまで奇怪な運動を出来るのだろうか?
(まさか…鉄でも中に仕込んだか?)
人形を集めるだけならすぐに出来るがいちいち鉄の塊を入れたら美琴の能力ならば浮遊させることが可能だ。
麦野は「鉄か」と言おうとしたところでちょうど美琴が喋りだしたので控える事にした。
「中に鉄塊を仕込んでるのよ、爆弾だけだったら電気が通電して死ぬけど、これだったら…鉄塊が入ってるからコントロール出来るのよ」
「へぇ…鉄塊をねぇ…便利な能力だ事」
考えている内容を頭ごなしで言われて若干イラっとするも、麦野は納得した。
確かに彼女の能力なら撤回がしこんであればある程度の重さのものであれば浮かすことが出来る。
「鉄塊があるなら自由に誘導も出来るわね…」
「えぇ」
美琴はそう言うと一気に数十体の人形爆弾を麦野に差し向ける。
それらの全てが高性能爆薬を内包している。
人形は美琴の制御化の元、麦野を爆殺しようと、それぞれが違う方向から麦野に殺到する。
「吹き飛べ…!」
「しまった…!」
美琴は勝利を確信し、笑った。
ビームの間隙を捉えた数個の爆弾が爆弾が麦野を捉えたのだ。
しかし、麦野は美琴の笑ったそれよりもさらに口元をゆがめてにんまりと笑った。
「にゃーんてねん☆」
麦野のポケットから出されるトランプほどのカード。
それを空中にかざすと一気にそれめがけて原子崩しを顕現させる。
すると白熱した光がそのカードに当たる。
ビームが高射砲の弾丸の様に空中に飛散し、美琴の投擲した人形が次々と破裂していく。
「な…っ?あれは?」
「拡散支援半導体(シリコンバーン)」
麦野の弱点は膨大すぎるエネルギーを制御する事の難しさにある。
多方面からせめて来られた場合、何も出来ないのが彼女の致命的な弱点だった。
「私の弱点は私が一番知悉している。アイテムを舐めるなよクソガキ」
麦野の弱点をカバーする為に学園都市の治安維持機関がかつて彼女に送ったもの、それがこの拡散支援半導体だった。
カードにビームを照射するとカードが飛散し、同時にビームも拡散すると言うわけだ。
単純な構造ながら、麦野が一対複数の戦いに陥った場合、かなり有用な道具だった。
「ッたくよぉ…学園都市に貢献する利益の期待値で私が第四位でお前が第三位っておかしいだろぉが」
麦野は心底美琴を軽蔑するように言い放つと拡散支援半導体で広がった原子崩しで次々と人形を破壊していく。
気づけば人形は数えれるくらいにまで減っていた。
「けどよ…ここでお前を殺せばそんな利益の期待値なんて関係ねぇって証明できるんだよなぁ?」
「………」
黙って聞いている美琴をよそに爆弾人形はいよいよラスト三個までに減った。
「残り三個だぜ?超電磁砲?」
「………」
三個の内二つを左右に展開させ、麦野を爆殺しようとする。
しかし、セムテックス入りの人形はあっけなく融解させられる。
最後の一個が麦野の正面めがけて突撃してきた。
「は!聞かないって言ってんだろ!この売女がぁ!」
麦野はそういうと指の先でバシン!と勢いよく人形を消滅させる。
しかし、その人形の背後には幻想虎鉄が…。
(なっ!人形の裏に…?ヤバイ!)
即座に原子崩しで砂鉄の刀、幻想虎鉄を融解させる。
ザシュウウウウ…と刀が背後の壁に突き刺さる。
後少し遅かったら顔面に刀が突き刺さり、即死していただろう。
間一髪でその攻撃をかわした麦野だったが、ふわふわした大事に手入れをしている栗色の髪の束が刀に持って行かれる。
「いッ…てェェ…!…のやろォ…!」
「油断したあなたがいけないのよ?」
「畜生がァ!」
自分の手入れの行き届いた髪の毛の数十本が犠牲になった事で麦野の怒りはマックスに達した。
無傷だった自分が傷つけられ頭に一気に血が上る。
しかし、その直後に麦野の思考は中断する事になる。
コツン…
四つめの人形があっけなく頭に当たったのだ。
美琴の背中に隠していた人形だった。
麦野に気づかれないように背中にはっつけていた最後の切り札だった。
「…んの…ア…マァ…!」
麦野は怒りと苦痛に表情をゆがめ、最後につぶやくとどさりと床に体を沈めた。
美琴は「ふぅ」とため息をつく。
そして失神している麦野の様子をうかがう。
麦野と美琴の戦いの軍配は美琴に上がったようだった。
(手ごわい相手だった…早く復活する前に行かないと…)
美琴は施設の中枢があるであろう方面に向かって歩を進めようとするが、いや、と思い立ち止まった。
(あの狂った計画に…コイツも参加していた事になる…このまま逃がしておいていいのかしら?)
一瞬美琴は逡巡するがこの大規模な施設の全容を未だに把握していないので保留する。
一度刀を砂鉄に戻し、自分の所に引き寄せると、麦野の頭にヒットした人形を引き連れ、施設の奥に向かっていった。
「ここね…中枢は」
美琴は疲労でパンパンになった脚を引きずりながらもSプロセッサ社の中枢であるコンピュータールームに到着した。
フレンダの残していった人形の最後の一個を起爆させる。セムテックスは轟音を響かせ、パソコンの機器を吹き飛ばしていった。
そしてさらに念の為にそれらの機器を電撃でショートさせる。
(よし…後はあの女にとどめをさして…)
どす黒い感情が美琴の中でうごめく。
しかし、彼女は思った。
相手を倒すことはできても、殺す事が出来るのだろうか、と。
(殺せるかしら…?私に)
美琴は逡巡する。
果たして自分に人殺しという最低最悪な行為が出来るのだろうか。
人の生涯をいきなり断ち切る行為。それは自分がやられて最も納得できない行為ではないか。
ふと美琴はいつもいる四人組を思い出す。
(黒子、初春さん、佐天さん…みんな、私がこんな事してるって知ったらどう思うんだろう?)
美琴はよく遊ぶ友人たちの事を考えた。
(そんな事したら…私…)
(…何考えてるんだ私…人殺しなんて…でも…)
美琴は人殺しは出来ない、と思った。
しかし、あの計画のワンシーン…9982号が無残にも虫けらのように殺された光景が頭の中によみがえる。
美琴は目をつぶり、あの時みた凄惨な光景を払しょくするかのように頭をぶるぶると振るう。
(けど…あの実験に関わったヤツは絶対に許さない…!二度と戦おうなんて思わないくらいに叩きつぶす?)
(またあの計画がスタートして施設の防衛にアイツらがいたら絶対に許さない…けど…今日は…許してやるわ…!)
結局美琴は人殺しに手を染めなかった。
彼女はその場から一度出て、もう一つの施設に向かおうとする。
しかし、施設の高架を歩いている時だった。美琴の下腹部に猛烈な痛みが走る。
麦野にけられたのだ。
「ぐ…はぁ…!」
「待てよ…趙電磁砲…!今から…テメェにやられた事兆倍にして返してやるんだからよっ!」
出血しているこめかみのあたりを抑えながら麦野は美琴に原子崩しをゼロ距離で放つ。
美琴は間一髪でそれをよける。
麦野はそれをかわすと原子崩しを美琴に放つ。いや、美琴にではない。
目の前の物体、全てを吹き飛ばそうとする悪意に満ちたビームだ。
「な、何をする気なの?」
「うるせぇよ…超電磁砲…!」
動揺する美琴をしり目に麦野は手のひらの中に原子崩しを顕現させる。
美琴は幻想虎鉄を顕現させて一気に切りかかる!が、麦野の顔に幻想虎鉄が触れそうになる瞬間。
頬をかばうように麦野が腕を顔の前に出す。
その瞬間幻想虎鉄が焼け焦げた。
麦野は原子崩しを手の周りから撃ち出し、幻想虎鉄を完全に滅却させる。
「超電磁砲…私の顔に傷をつけた罪はぁ…!」
こめかみから流れる地は固まったようだが、その凝固した血が真っ黒に変色し、麦野は異様な雰囲気を醸し出している。
「死ね…超電磁砲ッ…!」
麦野は肩の辺りから一気に原子崩しを放出し、美琴を焼き尽くそうとする。
美琴は能力を使ってよける事しか出来ない。
もう体力もあまり残っていない。
体も限界に近づいていた。
「パリィ!パリィ!パリィ!ってかぁ!?学園都市の暗部の女王に喧嘩吹っかけといてそのざまかぁ?第三位ィ!」
美琴は麦野の怒鳴り声に「あ、ぐ…」とうめき、原子崩しをよける事しかできない。
しかし、ついに体力に限界が来て、美琴は床にへたへたと倒れこんでしまう。
「どぉしたぁ?もう終わりかぁ?第三位もこの程度かぁ?よくみらぁ…小便くせぇただの処女豚じゃねぇか…!」
麦野の吐く罵詈雑言に美琴は言い返す気力もなかった。
大事な髪の毛を持って行かれた事と出血し、しかも失神していた事がよほど屈辱だったのだろう。
アイテムの女王は狂える化け物として美琴の前に立ちはだかった。
「おい、もしかしてこれで終わりかよ…?超電磁砲、あれみてぇんだよ、あれ」
麦野はそういうと「テメェの必殺技の超電磁砲撃ってみてくれねぇかなぁ?」といきまく。
しかし、勿論美琴にそんなものを撃てる程の体力など残されているわけなかった。
(絶体絶命ねぇ…クッソ…!)
(何か…何かこの状況を逆転できるものはないの…?)
(考えろ美琴…!考えるんだ…)
ふと彼女は下を向く。すると白いテープが無数に設置されているではないか。
美琴はそれをちらとみるとこれしかない、と思った。
「ねぇ…この…白線…おたくの仲間が置いていったものでしょ?」
「あぁん?……?」
麦野は鬼も睨み殺してしまいそうな形相で美琴を見つめる。
が、美琴が床に指を差している白線を見て一気に身体が震え上がる。
「な…そ、それは…」
「そうね、えーっとフレンダさんだっけ?お宅の白人。…このテープを今ここで着火したら…どうなるかしら?」
「ば…か…やろう…フレンダぁ…!」
そう。フレンダの着火テープの未処理分がたっぷりこの区画に残っていたのだった。
美琴は偶然それを見つけたというわけだ。
「今の私でもこれを着火させられるだけの電気くらいなら残ってるわ」
「ば、やめ…!」
ビリッ…!
美琴の手からヒュボッ!っと青白い電気がはぜる。
手から発生した小さい電気はしかし、一瞬にして着火するとテープを焦がす。
そして一気に延焼していく。
ガラガラ…!
施設間を繋ぐ橋がテープの焼失に合わせて次々にバラけ、崩落していく。
底は全く見えない。
ここから落ちたらおそらく無傷ではすまないだろう。
美琴は最後の力を振り絞って崩落を免れた柱に捕まる。
彼女の近くにいた麦野はそのまま落ちていく。
(助ける…?いや、どうなんだ…!)
美琴は麦野を助けるか躊躇していた。
頭は彼女を殺そうとした。このまま落ちてしまえ。そう考えていた。
しかし、気付けば彼女は近くにあった鉄製ワイヤを電力で投擲していた。
「つかまって!」
「…!」
麦野は美琴が差し伸べた最後の命綱に手を伸ばしかける。
しかし、その手がワイヤをつかむことは無かった。
彼女はその手でワイヤを溶かすとにやと不気味に笑って漆黒の闇に消えていった。
「ば…馬鹿な?どれほどの高さだかもわからないって言うのに…」
美琴は唖然とした。
しかし、いつまで悠長にとどまっているわけにはいかない。美琴は撤退しようとする。
キィィィィ…!
撤退を決めた直後、多数のビームが下方から撃ちあがってくる。
おそらく着地に成功した麦野がやけくそでビームをぶっ放しているのだろう。
あてずっぽうに撃つビームを美琴は難なくよけて施設から撤退する。
戦いは急速に幕が引かれていく……。
佐天はサイバーテロのニュース速報を見ながらぼんやりとアイテムからくる任務完了の報告メールを待っていた。
戦闘が始まっておよそ一時間半。
連絡がやってきた。
ういーん…ういーん…
仕事用の携帯電話はいつもと変わらずバイブレーションの音を佐天の小さい部屋に響かせる。
彼女はなるべく平静を装ってメールフォルダにタッチする。
From:麦野沈利
Sub:作戦終了
全員良く敢闘した。
ふふ…学園都市の闇に引きずられていくといいわ。
あのクソ売女。
取りあえず施設防衛は失敗したけど、五分五分にもつれ込んだわ。
だから給料の振込に関してなるべく早く連絡頂戴ねー☆
(ふーん…施設防衛は失敗したけど…五分五分…取りあえず、上には私が報告しておきますかね…)
まず新規作成で学園都市治安維持会宛のメールを作成する。
(ってクソ売女って…やっぱり侵入してきたひとってやっぱり女だったんだ…女のエレクトロマスターって…)
今回の侵入者は事前にエレクトロマスターと言われていた。
そして麦野の任務完了連絡が正しいとすれば今回のインベーダーは女。
佐天の交友関係上にも一人のエレクトロマスターの友人がいる。御坂美琴だ。
(まさか…御坂さんじゃないよね?)
余計な詮索は依頼主の製薬会社からの依頼で禁じられている。
ここでフライングして麦野に聞いてしまえば、と思うがそれはご法度だ。
佐天は麦野に事の顛末を聞きたい衝動にかられたが、まずは任務完了メールを手がけることにした。
(今回の戦い…どうなったんだろう…)
佐天はこの時点で美琴以外にアイテムと戦い、五分五分にもつれ込む事が出来る人物はいないと勝手に決めつけていた。
果たして、今回の施設に侵入したインベーダーの正体はいったい誰だったのだろうか。
佐天はもやもやした思考を払しょくしようとベランダに出てみるが、外のじめじめした暑さにたちまち部屋に戻ってきた。
一人の時間が異様に長く感じた。
「結局…疲れたって訳よ」
下部組織の構成員の送るキャンピングカーの中でフレンダは「はぁ」とため息をつく。
今日の相手は強敵だった。
「じゃ、ふれんだ。ここらへんでおりよっか」
「あ、そうね、今日は集団アジトでいっか」
滝壺は体晶を使って麦野の膨大すぎる原子崩しの射撃補佐に当たって、インベーダーをあと一歩のところまで追い詰めた。
しかし、体調に不調をきたし、戦線から後退した。
下部組織からはいった連絡によれば麦野は擦り傷程度ですんだらしい。
絹旗も治安維持機関とかいう組織に布束を引き渡して無事帰還中との事だ。
インベーダーとの勝負はつかずじまいになったが、リーダー不在という事態は避けることが出来た。
「お疲れ様です」
「送ってくれてありがとね」
下部組織の名前も知らない男にフレンダは律儀に礼をする。
滝壺もベンチコートをはおったまま小さくぺこりとお辞儀をする。
「滝壺、鍵持ってる?」
「うん。私のジャージのズボンのポケットにあるよ」
「自分で取れそう?」
「ちょっときつい」
「はいはい。じゃ、私がとってあげよう」
フレンダはそういうと滝壺のポケットに手を伸ばして共同アジトの鍵を採る。
彼女はキルグマーのストラップがついているかわいらしいキーホルダーに繋ぎとめられた鍵をアジトのマンションのカギ穴に差し込んでいく。
ガチャリ…キィィ…
ドアを開け、電気をつける。
フレンダと滝壺が共同アジトに到着した。
二人はやっと肩をなでおろす。
♪I believe miracle can happen
フレンダの携帯電話の着信が鳴る。
Daishi Danceのシークレットカバーの曲、「I believe」だ。
フレンダは実はこのフレーズが大好きだ。
日本語に訳せば、“信じれば奇跡は起きる”このフレーズが大好きで、わざわざ有料のサイトに登録してダウンロードしてしまったくらいだ。
この曲をかければ姉にも会えるかも、とフレンダは思い、それ以降、着信音はずっとこれ。ゲン担ぎの様なものだ。
「フレンダ。携帯なってるよ」
「うん、わかってる。ちょっと待ってくれい」
明かりをつけてベレー帽を机に置く。
携帯をちらりと見ると麦野からだった。
「えーっと?麦野は今日個人アジトに戻るってさ。浜面が送迎してるそうね」
「…はまづらが送ってるんだ」
「うん。そうみたい。下部組織のまとめ役任されてたっぽいし、ちょうどそれの業務が終わったタイミングとバッティングしたんじゃないの?」
「かもしれないね」
フレンダは滝壺の一定のトーンの口調をおかしいと思い、ちらとリビングのソファに腰をかけている彼女の顔を見る。
いつも何を考えているかわからないといった調子の滝壺の表情が僅かながらゆがんでいるように見えた。
「ね、滝壺?あなた浜面の事…気になるの?」
「いや、別にそんなことないよ」
フレンダは滝壺につい質問していた。
ソファに座っている滝壺の顔が僅かながらゆがんでいる様に見えたからだ。
「ホント?」
「それを聞いてフレンダはどうしたいの?」
「え?い、いきなりそんなこと言われても」
「私もいきなり浜面の事いわれてもわからないよ。フレンダ」
滝壺の表情は心なしか悲しそうな表情をしていた。
フレンダは思った。
(滝壺、浜面の事好きなんだね)
お茶らけているように見えるフレンダ。
実はこう見えて結構鋭い。
(結局…アイテムのリーダーとその相棒が同じ男に惚れてるって状況…難解な訳よ)
(これからどうなるのやら…)
滝壺がまだ浜面の事を「好き」と言った訳でもないし、先のフレンダの質問に対して滝壺が首肯した訳でもない。
あくまでフレンダの女性的な勘だ。
「じゃ、私から先にシャワー浴びてもいいかな。疲れちゃった」
「あ、私も一緒に入る。汗一杯でちゃった」
「え?」
(結局何で一緒に?)
「え?」
(つかれた…)
「あーあ疲れちゃった」
「相手は誰だったんだ?」
「常盤台の超電磁砲」
「まじかよ」
「うん。まじ」
麦野は電話の女に報告するべくメールをカチカチといじくりながら浜面の質問に答える。
彼女は仕事が終わり、研究者に今回超電磁砲の阻止しようとしていた計画をはかせていた。
そのさなかに下部組織の仕事も終わり、居合わせていた浜面に自宅まで送迎させているといった具合だ。
浜面は運転しながら車載テレビを起動する。
彼はモニターを見れないが、座席のシートに埋め込まれたテレビモニターを麦野は目で追っていた。
『サイバーテロは沈静化した模様です…近隣の学生や研究者の方々にはご迷惑を…何かございましたら付近の警備員や…』
テレビに映っている女性キャスターはヘリから施設の上空を飛行しながら撮影を続けている。
そこはつい先ほどまでアイテムと美琴が激闘を繰り広げていた所だった。
テレビではサイバーテロと言い報道しているが、その一言の陰に隠れていくつもの思いが交錯していった事か。
さらりと“サイバーテロは沈静化”と言うが、その背後にアイテムの並々ならぬ努力があった事は確かだが。
暗部の彼女たちは決して表に出る事はない。アイテムの構成員達も自分たちが裏の存在であることは重々承知していた。
「今日はお前の単独アジトでいいのか?」
「うん」
「絹旗はどうする?途中で拾うか?」
「いや、絹旗はいいってさっき連絡来た。自分のアジトに帰るってさ」
「そうか」
絹旗は麦野、滝壺、フレンダの三人とは違う区画の防衛に回されていた。
そこで捕縛した人員がどうやら優秀な学者との事なので一応引き渡しまで立ちあうとの事だった。
「フレンダと滝壺は共同アジトか?」
「えぇ」
「滝壺は平気なのか?」
麦野はカチカチといじっている携帯の手をぴたと止める。
そして後部座席からミラーに映る浜面をぎろとにらんだ。
「平気よ。よく戦ったわ。今頃先にアジトで休んでるんじゃないかしら。安心しなさい」
「そっか」
早口で、棒読みの状態で麦野は淡々と言い放つとすぐに下を向いて携帯をいじり始める。
浜面はその素振りがちょっとだけ気に入らなかったが仕事を終えたばかりの麦野に何かを言おうとする気はわかなかった。
浜面は運転しつつ肩をそっとなでおろす。
その素振りは麦野をイライラさせる。彼女は浜面に話しかける。
「何よ…浜面。滝壺が無事で安心してるの?」
「あぁ。だってあいつ病弱そうっつかなんかおっとりしてそうな所あるじゃねぇか、お前も滝壺が無事でよかったろ?」
「あ、当たり前でしょ…」
(そういう事じゃなくてさ…)
麦野は自分の擦り傷を見る。
美琴が崩落させた接続通路から落ちた時、着地に失敗して出来た傷だ。
頭部も人形がぶつかったせいで裂傷があったがそれほど深くなく、凝固した血を拭き取って消毒したので浜面にはその傷は見えない。
「…何よ…そんなに滝壺の事が気になるんだったら滝壺の所に行けばいいじゃない」
「そんなこといってねぇよ」
「言ってる」
「言ってねぇって」
「……私だって…怪我したんだよ?」
こんなことを言って何になるんだろうか、いや何もならない。
麦野は分かりつつも浜面に膝の部分がすれてなくなったニーハイソックスを見せる。
浜面はミラー越しにちらとそれを見る。
「怪我…平気か?」
「…ばかづら」
「は?なんだよ、いきなり」
「もう疲れた、アジトについたら教えて、私寝るから」
「あ、あぁ」
浜面の運転するシボレー・アストロは学園都市の街の夜景をその黒いボンネットに映しながら走り続ける。
――滝壺とフレンダがいるアジト
「フレンダ。ダメ?」
「あ?え?ちょっと…滝壺?」
「別に…私、そっちの気がある訳じゃないから、安心してフレンダ」
「結局…二人ではいるのは確定って事?」
フレンダがシャワーに浴びるといいだした時、滝壺もなぜか入ると言いだして始まったこの問答。
アイテムの共同アジトといいう名の大型マンション。風呂も無駄にでかい。なので二人で入る分には全く問題はないのだが…。
♪あと五分ほどで入れます
風呂の自動給湯システムがお湯張りが完了するであろう旨を告げる。
場違いな位に明るい声が流れてフレンダは苦笑する。
「今日、熱かったし、一杯汗かいちゃったから早く入りたい」
「あ、それも、そうね、あはは」
(滝壺と二人でお風呂?ちょっとぉ…)
フレンダはまよった。自分が譲って後でお風呂に入ってしまえばいいではないかと思った。
しかし彼女は滝壺の提案を快く受け入れた。
特に拒否する理由もないし、滝壺なら構わないとなんとなしにフレンダが思ったからだ。
「ま、いっか。じゃ、滝壺、はいろ?」
「うん」
二人はバスルームの脱衣所で服を脱ぐ。
フレンダは手なれた手つきでぱっぱと服を脱ぐと、「お先!」と言ってバスルームに入っていった。
ざばぁ…ざばば
フレンダはお湯をざぶんと桶(おけ)で背中にかける。
すると今まで彼女は気付かなかったが、お湯を浴びたことで体から煙の匂いが落ちていき、バスルームにそれらが広がっていく。
(うわー…結構激しい戦いだったんだぁ…)
そんなことを考えながら彼女はお湯で何度か体を洗い流すとぽちゃりとぬるま湯にはいり、滝壺を呼ぶ。
「いいわよー、滝壺」
「はーい」
滝壺も風呂で背中を軽く流す。
人二人が入ってなお余裕のある風呂に二人は体を預けた。
「はぁ…誰だったんだろう?今日のエレクトロマスターって」
佐天は任務終了の報告を学園都市治安維持機関にした後、風呂に入り汗を流す。
風呂から出ると治安維持機関からの折り返しの連絡が届いている事に気付く。
メールの内容はギャラはアイテムと佐天にしっかり振り込まれた連絡の様だ。
エレクトロマスター
その言葉が佐天の思考を駆け廻る。
一体誰だったのだろうか。
(麦野さんに聞いてみよう…)
相手の素性の詮索は禁止、と固く言われていたが、アイテムに聞き出すくらいならいいだろうと思い、佐天は麦野宛のメールを作成する。
To:麦野沈利
Sub:無題
お疲れ様。
誰だったの?今回の侵入者
(短文だけど、いっか…)
佐天はベッドでごろごろしながらメールを作成し、送信する。
しばらく佐天は元々持っている携帯でゲームをして遊んでいると仕事用の携帯に連絡が入る。
麦野からだ。
From:麦野沈利
Sub:無題
そんなに知りたいのかにゃん?
「こ、こ、こ、こいつときたらー!」
「こ、こ、こ、こいつときたらー!」
佐天はついメールを見てうなった。
待望の侵入者の正体が聞けると思ったら肩すかしを喰らってしまった。
To:麦野沈利
Sub:あたりまえじゃない
麦野ー、お願いだから教えてー
(よし!これでいいわね。さっさと教えてくれー)
ボタンをひと押しするとメールは送信された。
次のメールが来るまで待つ。
メールを送って一分もしないうちに返信が返ってきた。
From:麦野沈利
Sub:無題
常盤台の超電磁砲
麦野のメールを読み佐天は心臓がとまるかと思った。
正体はやはり超電磁砲こと御坂美琴だった。
(えええええええええええ?マジで?????どうしよ、どうしよ、どうしよ)
(今度会ったら普通に話せるかなぁ…どうしよう…)
度胸は人一倍強い佐天もこればかりは衝撃を受ける。
まさか自分の予想が的中するとは夢にも思っていなかった。
(まさか…御坂さんが…今回の首謀者だったなんて…五分五分って言ってた麦野さんって言ってたよね?)
佐天は先ほど送られてきたメールの内容を思い出す。
(麦野さんと五分五分って…御坂さんなら出来ない芸当じゃないかも…?)
麦野の力はあくまで能力上の数値でしか知らない。
粒機波形高速砲とか言う得体のしれない高速ビーム。
(やっぱりレベル5同士の戦闘はすごいなぁ…)
直接見た訳ではないが、佐天は戦いのすさまじさを想像する。
(御坂さんにも聞いてみたいなぁ…って無理か…あはは)
佐天はいまさらながら自分がそんなこと聞けない立場にいることに気付く。
御坂がSプロセッサ社の脳神経応用分析所まで出張って単独でアイテムと激闘を演じたのはそれなりの理由があるのだろう。
それは決して安易に聞けるような内容ではない。
いわんや、佐天がそれを聞く事は即ち、佐天が学園都市の裏事情に精通している事を美琴に証明してしまうことになってしまう。
もし仮にそんなことを言おうものならば、御坂はどういった反応を示すのだろうか。
そして、二人の関係はどうなってしまうのだろうか?
――再び滝壺とフレンダのいるアジト
「フレンダ。綺麗だね、胸とか脚とか」
「にしし…!でしょ?結局、私の体のよさを分かってくれるのは滝壺だけってことよ!」
蛇口からでるぬるま湯。四十度の温水がちょぼちょぼと二人の浸かっている浴槽に入っては溢れていく。
換気扇から排出されていくケムリ。
「滝壺も結構きれいな体だよ…?」
「そう?ってかふれんだ胸見すぎ…」
「あはは、結局あんまり無いね―!滝壺も」
「うるさい。ちょっと気にしてるの」
「麦野に負けないように?」
「…………うん」
風呂に入る前までは浜面の事を好きかどうか、否定していた。
しかし、滝壺は自分の胸が小さい、と言うことを気にしていた。しかも麦野に負けないように、と意識していた。
(ふふ、結局、浜面、アンタって男は…)
滝壺とフレンダは二人とも体を洗い終わって湯船に入りなおし、仕事の疲れをたっぷり流している。
しばらくすると滝壺の顔がほんのりと赤くなり出す。
「ちょっと熱い。先にでるね、フレンダ」
「あ、うん。私ももうちょっとしたら出るから」
ざばんと滝壺が湯船から立ち上がる。
体から滴り落ちるお湯。ともくもく浮き出ている湯気。
いやらしさは全く感じない。
むしろ、優しい、あたたかい表情。
フレンダは幼少時代に亡くなった母の面影…等覚えていないのだが、滝壺の穏やかな表情に何か落ち着くものを見出した気がした。
バタン。
滝壺はバスルームの扉を開けて先に出ていく。
一人分の容積が抜けた湯船は一気に水が減って少なくなる。
フレンダは胸の膨らみのあたりまで減ったお湯をすかさず継ぎ足していく。
(あー…今日はしんどかったなぁ…実際滝壺と麦野の援護がなかったら死んでておかしくないわね…)
今日の戦いをフレンダは思いかえす。
『こっちは暗部に入ってまで人探してんのよ…!死ぬのが恐くてやってられるかっての…!』
我ながらレベル5の前でよくあれほどの啖呵を切ったな、と思う。
絶対に死ねない。その一心で彼女は美琴と真剣勝負を演じた。
(はぁ…ホント、死ぬのが恐くてやってられっかっての)
フレンダのこの街に於ける掟。それは――やられる前にやれ。
彼女がこの腐った最先端都市の路地裏の戦いに身を投じ、早数年。
彼女が培ったこの街で生き残るための処世術だ。
元々姉を探すためだけに、ちょっとだけ人よりも銃器や爆薬の扱いに長けているからといった理由で興味本位で投じたこの世界。
(お姉ちゃん…いつになったら見つかるんだろう)
一度はあきらめかけていた姉に会いたい、という期待が再び発露する。
もうこの学園都市にいないかもしれない。それはわからない。
「はぁ…お姉ちゃん…会いたいなぁ」
ぼんやりとつぶやく。
「なにしてるんだろう…?」
キィ…バスルームのドアが開く。
風呂から出た滝壺だった。どうやら外に声が漏れていたようだ。
「フレンダ?どうしたの?何か聞こえたけど」
「あ、いや、なんでもないって訳よ…」
「そう…」
しばらく沈黙が支配する。
ぴちょんとバスルームについている蛇口から水滴が滴り落ちていく。
滝壺は裸のまま、フレンダの事をじっと見つめる。
「……そっか。わかった」
(聞こえてたよ、フレンダ)
「あ、私もでるからさ…滝壺、体拭いたらタオルこっちによこしてちょーだい」
「はーい」
「なんかお腹減ったね、滝壺」
「うん」