拝啓 九月さま

 今年の九月さまはお暑いのですね。例年でしたらそろそろ秋の気配など感じさせていただけているのにと思いますと何だか少し愚痴などしたくなります。それに雨も少ないのが気にかかるところですが、どうなされたのですか?雨、お嫌いになりましたか?私は九月の雨、好きなのです。あのなんというのでしょうか・・・この雨が終われば、空は高く青く澄み切って程よく肌を撫でる涼しげな風に、いつもの九月でしたら頬を預けますのに、待ち遠しい限りです。
 悲しい九月であり、愛しい九月でもあることはある意味では愛そのもののような清々しい人間の情の季節なのですが、あなた九月さまはどうされたというのでしょうか。是非ともお願いです。例年の雨を降らせた後の青いあの空、澄み渡るほどに爽やかな頬の風などお忘れではないでしょうね。お忘れでないのなら、そろそろいかがでしょう。天井に溜まったままの水皿をひっくり返してみては・・・。そして水皿を遠く赤道近くの海へ投げ捨てた後に拡がる青天井など披露なさっては。
 このまま行きますと、十月さまにとっては辛い仕打ち。運動会のためにあると言ってもいい十月さまが雨をお降らしにならなければならない羽目になってしまいます。九月さま、十月さまをあまり困らせてもらっては困ります。まあ、だからと言ってあなた九月さまの気まぐれは、もしかしたら春のあの日に開かれた季節会議での決まりごとだと仰るなら致し方のないことではあります。
 繰り返される季節の機微その揺れ幅をこそ愉しみとして生きる愚老愚庵にとっては、ほんの少しずれただけとは言え、少々面白くないのもまた事実。残り少ない年月を愉しむ身を気遣って頂ければ嬉しいには違いありませんが、そうは言ってもこれまでたっぷりと移ろう季節を堪能させていただいた身、あまり強くあなたに言うのは憚れますので、決して強くあなた九月さまに具申しているわけではありません。まあ、なんとも手元の便箋が余っていたから書いた戯れごとなれば、どうか適当に馬耳東風聞き流していただきながらも少しは耳に留めていただければ、これ幸い。
           老愚より
               敬具
最終更新:2007年11月07日 19:34