アヤが美しく輝いていたあの夏の日々を私は忘れない。所詮は住む世界が違っていたふたりであったが、あの夏のふたりは激しく求め合い触れ合うことで互いの何かを慰めていた。若さというものがどんなに不安な明日を抱えていたことか。まだ社会へ出ていないという欠損の感覚がどれほど世界に対して恐怖を覚えさせられているにしても、その見開いた目は好奇の輝きを満々と湛えていることか。
 すべてが新しく、すべてが不安で、すべてが彼方に広がるオアシスに思える。夜の境内の松林の間から漏れてくる月明かりの下でふたりは互いを語り明日を思い、今この時を熱く抱擁する。手を握り合い、頬を寄せながらため息し、唇を重ねごとに芯が燃えてゆく。
 月明かり松林の向こう、まだ昼の熱が取れない砂浜に打ち寄せる波の音。湿気を帯びた海風がふたりの肌をやわらかく撫でて過ぎる。 (メモ)