医療周辺の点景SS


シオ見て小隊をはじめとした臨時医療班が忙しく立ち働く本陣を少し離れて、
そぞろ歩く二つの人影があった。

「そろそろ、結果が出ますね」
「さようでございますな」
ACEユニット、海法紀光とミュンヒハウゼンであった。

海法紀光といえば、音に聞こゆる共和国の軍神である。
今回レムーリア派遣軍の総司令を務める土場藩王あさぎに、
わんわん帝國単独での戦いを助言したのが彼であった。
犬限定縛りの中参戦は五分五分と予測されていたが、
ダイスの勝利で本陣への出現に成功している。
もっとも召喚に成功した人物は目下藩王ごと死亡しており、
同時に召喚されたミュンヒハウゼンともども
時間切れによるゲームからの除去を待つ身ではあった。

「あちらが成功しなければ」
と時計を覗き込む海法。
「我々の介入もここまで、時間切れです」
「ふむ、短い介入でございました」
「いや僕はまだ共和国にアイドレスがありますけどね」

医療班の方から、なにごとか叫び声が聞こえる。
ここからでは、悲鳴か歓声かわからなかった。

「しかしまあ、これなら」
と、空を仰ぎ見る海法。
雲はすでに円を描くようにおしのけられており、
そこから大量の加護がふりそそぎはじめているのが二人には見えた。

ニューワールド全土からかきあつめられた大量の応援が、
リンクゲートを通じてこのレムーリアに届き始めている。
元来医療系アイドレスをもたない帝國からの応援に混じって、
共和国の医療系アイドレス着用者からの助言がいくつも見えた。
「成功しそうでございますな」

「時間切れは、気にしなくていいようですね。……すると、再戦かー」
うーんと頭を抱える海法。
「まずは、茜くんと相談かなあ。補給もなんとかしないと」
また声の上がる本陣へと戻っていく二人。
今度は、確かに歓声のようだった。

[[槙昌福@立案副長>http://namelessworld.natsu.gs/sakura/sanbou_BBS/wforum.cgi?no=1949&reno=1893&oya=1891&mode=msgview]]


荒野は見渡す限り、敵味方の屍で埋まっていた。

見方の表情は乱戦を経て疲れきっており、誰もかれもが泥と血と汚物にまみれ、生気を抜かれたような表情をして黙り込んでいる。

(ちきしょう。ちきしょう、なんで、こんな・・・。

『なにしてるの!!!!』

静寂を破ったのは、力強い声であった。

「あんた達、未だ戦いは終わってないわ!」

むくろのような眼が、その声の主に注がれる

「何呆けてるのよ!そこのアンタ!要救助者のリストアップ!後ろの野郎どもは要救助者を見つけてアタシのところまで運んできなさい!」


(え?俺?

呆ける私に彼女は言う。

「未だ終わってないのよ。終わらせるものですか・・・お願い、急いで」


消え入りそうなその声に、私は自らの役目を、その意義を思い出した

―――風が、吹いた。

『よっし、野郎ども!要救助者を探せ!息のあるなし関係なくだ!指一本でも見落とすな!』

そして、広がる


『おお!』

『任せとけ!』

「ヲチ藩国、暁の円卓、神聖巫同盟、え~藩国、よんた藩国、土場藩国の人員が不明との連絡。リスト化します」

場は沸きかえり、みなが懸命に働きだす。

今ここに、もうひとつの戦いが始まった。

命を懸けた その戦いが。



[[時雨野椿@暁の円卓>http://namelessworld.natsu.gs/sakura/sanbou_BBS/wforum.cgi?no=1948&reno=1893&oya=1891&mode=msgview]]

――――ああ、ひどく静かだ

薄れ行く意識の中で、時雨野椿はただそう感じた。
一瞬前まで戦っていたとは思えない、静謐が意識を支配している。
何もかもが曖昧になっていく中で、自分を守るために覆いかぶさっているまさきちの体の感触だけが感じられた。
暁が先陣を切った最後の総攻撃。そこで彼は自分を守り、そして……

―――――ごめんね

そう言おうとしたが、唇が動かない。
体温はすでに失われ、体が凍るように停まっていくがわかる。
そう。

――――私たちは、死ぬんだ。

先陣を切った暁部隊は、敵を全て殲滅して見せた。
そして。味方の盾となって、その攻撃を全て守り通した。
その命を対価として。

――――悪くない、最後かな

暁は騎士の国だ。それを思えば、実に最後だろう。
どうせ人は皆死ぬ。だったら、念願の戦地であるレムーリアでこのように華々しく散るのは、まさに最高の散り際だろう。
ひどく安らいだ気分で、椿の意識が落ちようとした瞬間。

戦う直前、皆で交わした声を思い出した。
流れのもの自分を受け入れてくれた、かけがえのない仲間たち。
失うだけだった旅の果てに、やっと見つけた自分の国。

―――――いや

それに本当は気付いていた。ただ、認めたくなかった。
大切に思えば、失う事が怖くなる。弱く、惨めになる。
だけど。

―――――まだ、死にたくない。

そんな自尊は、脳裏に浮ぶ笑顔の前に何の意味もなかった。

―――――死ぬのは、いや。

最後の力でまさきちの手を取り、そう願う。

――――――死にたくない!

あまりにも惨めに、だけど強く。
椿はただ、そう願った。

「なら、もう少しだけ頑張りなさい。我らが守り手が、今参ります」
「何にもならないかもしれませんが、何もないよりは良いでしょう」

ひどく優しい女性の声が、聞こえた気がした。




 あまりに大量の重病人や重傷者が担ぎ込まれ、医師や看護師の手が回らずてんてこ舞いの様子を「野戦病院のよう」というが、そこは比喩でも何でもなく、野戦病院であった。それも最悪の状態のだ。
 あの悲惨な戦いの直後には既に展開していた緊急医療チームであったが。それでも損害は予想を遙かに超えていた。
「ライン確保っ!」
「こっち、静注急いで」
「スコポラミンを1CC投与」
 大騒ぎはない。
 ただそれぞれが最善を尽くし、少しでも無駄なく動き、1人でも多くの命を救おうと、いや1人も死なせはしないと、そこで働く1人1人が懸命の活動を不眠不休で続けていた。医師、看護師ばかりでなく、そこに医薬品や機材を運び込むトラックの運転手からI=Dパイロットまで、それらの動きを統制し指示を出して交通整理していくオペレーターまで全員が一丸となっていた。
 それでも力が足りなかった。
 この戦いに投入した部隊の半数が壊滅し、4人の藩王までが戦死したとも伝え聞いている。それが本当かどうか、これほど混乱した現場では確かめるすべもないし、目の前の患者を助けようとするのに精一杯で余裕もなかった。ただ片っ端から応急処置を施し、トリアージを行ってより適切な治療(実態は魔術的な蘇生に近い)がおこなえる施設へ後送するだけである。
「CPRを急げ!」
「輸血パック、ありったけ寄こせ!」
「無理です! B型が足りませーん」
「A型も10人足りていませんっ!」
 負傷兵たちの苦渋の呻き、不足していく医薬品、足りないベッドや後送用I=D。人々の心に絶望が囁きかけ、ついには人々がくじけそうになったそのとき、どこからか野戦病院に一筋の清浄な空気が流れ込んだ。
「風が変わった・・・・・・」
 意識不明だった患者の口から、ぽつりと言葉があふれ出した。
 その風が周囲に澱んでいた空気を一気に吹き払った。
「守り手だ」
 名医が立ち上がった。
「シオネの守り手が来たのよ」
 ほつれ髪の看護師が窓の外を見た。
 シオネ・アラダの守り手が緑の沃野を超え、1人2人と姿を現した。
「まだだ、まだ心は折れていない!」
 老いも若きも、男も女も、犬も猫も、立ち上がる力の無い者までが叫んだ。
「まだこれからだ」と。


医療SS(龍の使い編)



 人を殺す事は、時に人を助ける事に通ずる。

 ともに共通しているのは、『人体』の仕組みと作りをよく理解している点だ。

 どの肉がどう繋がっているか。
 どこを斬れば動けなくできるか、どう斬れば臓腑を潰せるか。

 どこにどの臓腑があるか。
 どの薬(毒)がどう作用するか、どれを壊せばどう反応するか。

 どの骨がどう組み合っているか。
 どう曲げれば折れるか、どう打てば砕けるか。どこを避ければ肉のみを斬れるか。

 どこまでやれば弱るだろう。 どこまでやれば死ぬだろう。

 逆理を唱えるならば──どこを『避ければ』『生きて』いられるのだろうか。

 “龍の使い”と呼び倣わされる彼らは、修行の中でそれを体得する。つまり自分の身を
以って識(し)るのだ。訓練の実験台は自分であり、修行者もまた自分。
 それもすべて、“シオネ・アラダの守り手”足り得る『業(わざ)』を備えるため──
 『守りの剣』を、揮うために。

 ──いまのままの拳法ではいずれ誰かが被害を受けるわ、
 ──だからお願い、みんな生き残る為に今以上の訓練を課させてもらいます。

 ──許してなんていわない、その代わり生き残ってたあとで私たちを罵ってくれることが
   私たちの望みだわ

 苛烈な修行の果てに得る、“龍の使い”。 その神秘にして修羅の『業』。

 濃密な修行内容で得た経験と、自らの持てる能力すべてを結実させる時が来たのである。

/*/

 自らの体で会得した人体の摂理。
 “龍の使い”にとって、それは知識の枠を飛び越えた百戦錬磨の『経験則』に等しい。
 人ゆえに人を識る。
 武器であり鎧である己の体。 自らを鍛錬する過程で、彼らは彼らなりに世界の摂理、
そのひとつを学んでいたのだ。
 誰かの助けになるために。 『守る剣』となるために。 そう信じて──


「ふぅ……」

 処置が終わり、ひと息つく。それでも、ぜんぜん休まらない。
 『野戦病院』の『戦争』は、まだひと段落もついていない。傍らでは忙しない人の足音が
何度も行き交う。背中では、救助活動を行う仲間たちの気配がある。
 全身は、処置を待つだろう患者のうめき声を聞いていた。

「──患者の心臓停止!」
「心マに切り替え! 誰か、人工呼吸に入って!」

 蘇生処置を何人に、何度繰り返したかわからない。
 意識を喪失した患者を何度覚醒させただろう。
 ようやく意識を吹き返したかと思えば、今度は別の患者が倒れている。

「患者さんが痙攣起こしてます!」
「そのまま押さえて! 人手が足りないなら、動ける人の手を借りて!」

 運びこまれた患者の痙攣が収まるまで、落ちないように何度も押さえつけた。手術中に
始まった時は、切り開いた術部のこともあって恐々とした。

「急患! 大腿部の大動脈が破れた! 止血、縫合を!」
「こっち空いてます! あああそんなに揺すらない!」

 患者に触れる度、悪い予感しか感じられない。患者のほとんどは重傷者だったからだ。
致命傷になり得る傷、もう元には戻れぬかもしれない傷。触れた端から、嫌な予感、悪い
予感だけがひしひしと感じられた。
 敵の大部隊を向こうに回した大合戦は、自分たちにも甚大な被害を残していった。貴重な
人材を──藩王ですら死に体で戻ってきた。何より、どれだけ凄惨な戦いかは、参戦した
自分たちが骨身に染みてわかっている。

「負傷者、三名! うち一名は意識喪失! 処置を!
 左手断裂が一名、背部への創傷処置が必要な方が一名! 誰か──」

 どれだけの患者を処置しただろう。 どれだけの患者が残っているのか。

 考えると『負ける』気がして、省みるのは止めた。誰ひとり尋ねて来ない質問だ。おそ
らく、皆がわかっているだろう。
 黙っていると、じっとしていると、不安だけが湧き上がる。
 それでも動き出してみれば、自分のしていることはひどく空回りしているんじゃないか、
という錯覚さえ覚えた。希望が、遠くに感じられた。

 それでも──

 誰かの助けになりたいと望んだ。 『守る剣』でありたいと望んだ。

 現実の辛さから逃げる事が『悪』だとは言わない。
 ただ、自分たちの積んだ、あの苦しい修練に『嘘』をついて逃げるのが、もっと許せない
だけなのだ。
 少なくとも、自分たちがここで逃げたら(折れたら)、そこで終わる。
 “シオネ・アラダ”を支え、守ることなぞ、夢のまた夢だ。

「お願いします、誰か──!」
「ひとりをこちらへ回して下さい!」

 挙手をして、名乗り出る。 気づいたらしい搬送者たちは、板に乗せた患者をこちらへ
運びこんでくる。仲間──たけきの藩の剣士たちだ。他に手隙だった者たちが、道をあける
のを手伝ってくれた。

「焦らず、丁寧に! あまり揺らさないで」

 その間に、こちらも患者へ歩み寄る。どんな容態なのかは、実際に見てみないとわから
ない事が多い。何より、伝聞よりも一見の方が情報の正確さが違う。

「しっかり! 声が聞こえますか?!」
「っぐ、ぅ……──!」
「痛いですか? なら、生きてる証拠!」
「今、処置しますからね。痛いのなんて、すぐに飛んでなくなりますよ。
 ──輸血準備! まず消毒から入ります! 感染予防用に抗体アンプルも準備! 手術
道具は──」
「今取りに行ってもらってます!」

 後からついてきた仲間たちも、患者に声をかける。
 医療部隊として母国からついてきてくれた彼ら。本当なら、出番なんてないに越した事は
なかったのに──。
 現実だけが、思いをあっさり裏切っていく。

「──手術台に移します! 少し、我慢して下さい」
「左手、気をつけて──行きます!
                「「「「 一、二ィの ── 三ッ! 」」」」」

 なるべく丁寧に、かつ迅速に。患者を板の上から、手術台へと移動する。
 手術台の上のシーツがすでに新しく取り替えられていた妙技は、さすがに手馴れていた。
 運んでくれた剣士たちに板を返し、礼を返す。

「ありがたい。苦しいですが、正念場です。どうか、もう少し──」
「わかってますよ。 任せてください」

 言葉を遮った声は、思いのほか、明るかった。

「人手が居るなら、いくらでもお貸しします」
「今、これくらいしかできないッスからね。俺ら」
「だから、お願いします。“龍の使い”殿」

 運び手を買ってくれた剣士たちは、矢継ぎ早にそう言い、頭を下げる。

「──助けてやって下さい」

 明瞭で、簡潔な言葉。それなのに、この上ない重さを持つ。

 それは祈るような言葉。ここに居る誰もが──おそらくは、NWに居るだろう仲間たちで
すらも、同じ思いでいるだろう言葉。
 ああ、そうだ。

「準備できました!」
「消毒から先にやっちゃいます」
「血圧、78! 輸血点滴、入れます!」

 仲間たちも、自分たちと同じ思いで居る。

「では、自分たちはこれで」

 ぱっ、と身を翻し、剣士たちは再び外へ出て行く。
 その背が遠ざかるのを最後まで見届けず、踵を返す。

 自分に託された役目は、これからなのだから。

「医療マニュアルは確認してますね? では、術式、開始──」

 誰かの助けになりたいと望んだ。 『守る剣』でありたいと望んだ。
 この手にしたメスが、今こそ、そう成らんことを。


/*/

 人生は概ね『理不尽』の連続だ。自分の思うままにならないことを指すのなら。

 然れども、忘れてはならぬ事がある。
 『理不尽』に見舞われる以前に、人は『生きている』ことを。

 時間の、情報の『流れ』は、死と定義される終の瞬間まで動き続ける。
 生還者の大半は本能的にそれを識り(あるいは執着し)、最期まで足掻く。
 そこにこそ、『ただの人ならぬひと』を生み出す『力』の源が発生するとしたのなら──

 有史以来、奇跡と呼ばれた事象は、『ただの人だった』者の手で創られてきたのだろう。

 ただの人から、“龍の使い”へなったように。
 あとは、その手なる成就を信じ、願わん事を──


[[草ノ端@わかば@伏見藩国>http://namelessworld.natsu.gs/sakura/sanbou_BBS/wforum.cgi?no=1917&reno=1893&oya=1891&mode=msgview]]



 理不尽な事実がある。
 否、『理不尽』としか『言いたくない』事実がある。

 天災に見舞われた時。
 事故に遭遇した時。
 病気が重かった時。
 災難に巻きこまれた時。

 そして、これらに命を奪われた時。

 人生は概ね『理不尽』の連続だ。自分の思うままにならないことを指すのなら。

 然れども、忘れてはならぬ事がある。
 『理不尽』に見舞われる以前に、人は『生きている』ことを。

 時間の、情報の『流れ』は、死と定義される終の瞬間まで動き続ける。
 生還者の大半は本能的にそれを識り(あるいは執着し)、最期まで足掻く。
 迫り来る『死』を前に、『生』は衝動的に覚醒する。
 即ち、『生きる』という渇望に──

/*/

 戦争の悲惨さは身に染みてわかっている。
 戦地から帰ってくる人々は、歩いて帰ってくる事の方が少ない。
 ひどい時には遺品しか戻ってこない。それすらない時もある。行方不明になったり、体
ごと戦場の塵と化すようなめに遭うからだ。
 それに引き換え、今回は幸運だったのだろうか。
 患者は体ごと、自分たちの目の前に居る。

「負傷者、一名! 気道確保、胴体部に30cmの創傷! 他、裂傷多数! 輸血準備を!」
「こっちに回して下さい」
「麻酔準備! 準備でき次第、すぐ処置に入る! 生理食塩水を──」

 戦場から戻ってきたばかりの負傷者。
 彼らを最初に待ち構えていたのも、やはり『戦場』のような野戦病院だった。
 方々では泣き声とも叫びともつかぬ轟音が飛び交う。遠くでは何がしかの叫びや罵倒も
聞こえる。
 まだ戦場の興奮が、尾を引くような空気が張り詰めている。それも道理である。
 医療部隊にとり、ここはすでに『戦場』なのだから。

「向こうでチアノーゼ出ました! 酸素吸入の準備を!」
「向こうってどっちだ? 具体的に言え!」
「黙って処置に当たる! ホラ、手が止まってるでしょっ!」
「「……すいません」」
「ボンベが届くまで人工呼吸から始めて! 呼びかけは続けなさい。
 道具は取りに行かせたから、落ち着いて処置を──急いでっ」

 次々に運ばれる患者たち。
 処置が終わった後、別の場所へ搬送される人も居れば、道端でじっと蹲る負傷者もいた。
 レムーリアから帰還した兵士は、誰も彼もが疲弊しきっている。それほどの激戦だった。
 軽症で済んだ者ですら、虚脱状態に陥って一歩も動こうとしなかった。気が抜けただけか、
はたまたシェルショック(PTSD)の兆候なのかはよくわからない。
 いずれにせよ、心身ともに傷が深すぎた。
 そんな脱力状態の彼らを、手の空いた者たちが他所へと引っ張って行くのが見られた。

「負傷者三名! 全員意識有り! 骨折!
 うち一名、患部が骨で破れてます! 他、創傷多数!」
「止血は?」
「一応、できるだけ応急処置はしました。創傷は止血完了。二人は副え木で患部を固定。
 残りのひとりは止血帯をしてから十五分経過。保護ガーゼを当てていますが、破れた
箇所の壊死が始まりかけてて──」
「もう少しもたせて。手術準備! その間に消毒! 後はこっちが引き受ける。
 誰か、二名の処置に当たって!」
「患者さんを手術台へ移します。一、二の──三っ!」
「──しっかりしろ! ちと痛いが、絶対助けるからな!」

 医療部隊の──仲間の戦う様子が伝わってくる。
 すぐ脇を患者が通り過ぎ、すぐ後ろで痙攣し出した患者の様子を背中で聞く。搬送され
る患者の中には、板に乗せられて運びこまれる者も居た。搬送台すら間に合わない。
 斯く言う自分も、目の前に横たわる患者の手術の最中だ。重傷者の執刀医担当になって
かなりの時間が経過している。担当する患者の声は、うめき声以外に聞いてない気がする。
 誰も彼もが、ひどい負傷だった。

(……痛いよな。いや、それすらもうわからんか)
(それで、こう言うのも不謹慎だが……)
(──……それでも、)
(それでも、今は感謝する)

 自分たちの前に帰ってきてくれて。
 手の届く──触れられる位置に戻ってきてくれて、感謝したい。

(体が──息がある状態で戻ってこれたのなら……)
(まだ、俺たちの手が届くのならば……)

「癒着部分を剥がす。クーパー──…肩の力を抜け、手が震えてる。
 傷をこれ以上増やすなっ」
「縫合処置完了。続いて──」
「血圧低下。昇圧剤を投与」
「誰か鎮静剤余ってないか? できたら補充も頼みたい」
「頃合いか……と──止血帯、少し緩めます」

 まだ手が届くならば治療できる。 まだ手が届くならば手術できる。

 諦めるな。 あなたは『死』に抗うべきだ。 死神の手を振り払え。 誘惑に負けるな。
 楽が一瞬なら苦も一瞬で済む、せめて──せめて、その間だけでも……。
 頼むから──

「手術道具の洗浄・消毒、完了しました!」
「在庫、確認してきました。薬剤も器具もまだ余裕があります」
「誰か、手の空いてる人居ます? 居たら凍傷患者の末端マッサージお願いします」
「大丈夫ですか? 手、握ってるのわかります?」
「ガーゼ足りてますかーっ?」
「食糧配給、行ってきます。荷物持ちにもう二、三人着いてきて。
 あ、ついでに毛布も持ってこ」

 聞こえているか? わかっているか?
 助けたい、って思ってる奴らがここに居る。 こンだけ居るんだ。
 三途の川を渡ろうッてンなら、俺らが現世(コッチ)に引きずり戻す。
 カッコよく死ぬなんざ『御伽噺』だけでいいンだよ。 こちとら体を張って生きてる人
間だ。カッコ悪くたって次の日には笑っていられる。 王様だってそうだろうよ?

(死ぬなよ……──死なないでくれ…………)

 戻ってきてくれ。 目を覚ましてくれ。 犬死にで満足かよ?

(力が足りないなら──力が欲しいなら、くれてやる)
(俺たちが持ち得る限りの技術を、全部──注ぎこむから、)

 シオネの『守り手』が、ここで尻尾を巻くわけにはいかない──!

「──術式終了」

 傷口を閉じ、しっかり結んだ縫合糸と針を切り離す。カンシを使用済みの道具と一緒に
しながら、患者の様子を伺う。
 やれるだけのことはやった。後は、信じること。
 自分を、患者を、仲間たちを──。

 我らがお守り申し上げる方──シオネよ。どうか、御加護を……



SS1 シオネ・アラダさまが見てる~戦場の研修医偏~


彼等は元々医者では無かった。
その拳と剣を振るい敵と踊るための部隊だった。

だが、世界はそれを許してくれなかった。
彼等が動くのは常に人が倒れた時。
誰かが泣くのをとめるために彼等はいつも走り、戦ってきた。

そして今回も。

「本当にどうにかなるのか…」
「うるさい。そんな暇があったら手を動かす!ここで泣き言言っても本当に泣く人たちが増えるだけだ」

しかし今回は駆けずり回って死傷者を回収するだけではなかった。
幸運というかうっかりというか、
シオネ・アラダの守り手という大層な加護を受けた彼等は医療という仕事にもつけるようになっていた。
ただ、名医がたくさんいる医療国家のようにはいかない。
ついでに言えば、医療班としての出動は初めてである。
…にゃんにゃんの名医のような安心感はまず無い。
研修医達の奮闘、そう言うのがぴったりな状況。それでも当人達は必死だった。

「他の人の命預かっちゃった以上失敗できないね…」
「だ、だいじょうぶ。落ち着けば絶対成功するはず!」
「お、落ち着いて!一回深呼吸して落ち着こう!」

『すーはーすーはー』
手が震える。目がぐるぐるする。
自分たちにこれだけの人を救うだけの力があるのだろうかと、重圧に押しつぶされそうになる。
それでもやらなければいけない。今ここで動けるのは自分たちだけだという自覚はある。
出撃前、役にたたなければいいねと言いながらも慣れない医療書も読み漁り
医療のマニュアルも持たされた。
予行訓練しとこうね、と一通り応急処置、蘇生処置の手順も確認してきた。
大丈夫、大丈夫と言い聞かせるが傍から見ても実に頼り無い。
今にも泣きそうな気持ちで処置を続ける中、一人が口を開いた。
「……面白い話をしてみようか」
面白い話と言いつつもその表情は必死そのもので、手は止めず蘇生処置を続けている。
「これさ、一人でも死なせて帰ったら藩王さまどころかわんわん中からフルボッコ確定だぞ」」
「わんわんだけで済めばラッキーくらいだな」
「いや、突っ込みどころはそこではなく、笑い話でも何でもねーぞ!それ!!」
「…………だったら笑い話にすればいい。今ここで皆を助けて皆で笑って帰ればいい!」

そんなこと最初から──────
『わかってる!!!』
迷いも不安も無理矢理にでも振り切った。今はやれることがまだある。
やらなきゃいけないことがある。

ふと、誰かの声が聞こえた気がした。
[だいじょうぶ、みんながついてる]


とくん、と患者の心臓が動いた。
「よし!もう少し!戻ってこい!」
「OK、そっちは!?」

「大丈夫!意識はある!」
「包帯足りません!あと鎮痛剤と輸血の準備!」
「包帯は足りなきゃ着替えでもなんでも破いて使え!ちゃんと消毒しとけよ!」

「次!時間は無いんだ!早く!」
「生きて!まだ死んでいい人なんて誰一人いないんだから!」

次々と死傷者が運ばれ血の匂いが濃くなってくる。
そんな中騒がしくも必死に救助をする者達がいる。
それはとても頼りなかったが、シオネ・アラダとわんにゃん全土の加護を受けて必死に働いていた。

その名はたけきの藩国、龍の使い-シオネ・アラダの守り手部隊
又の名をたけきのレスキュー部隊。


彼等は元々医者では無かった。
その拳と剣を振るい敵と踊るための部隊だった。

幸運にも彼等は医療行為をすることが出来るようになった。
だからこそ。
誰かが泣くのをとめるために彼等は今回も戦っている。

「シオネ・アラダよ。今ここにいる人たちを助ける為に最大の加護を!」


助清@伏見藩国



「本当だったら、こんなモン役に立たない方が良かったんですけれどね…」
「備えあれば憂いなし。そもそも、使う機会すら無いくらい、やられちゃうかもしれない様な作戦だったんですから。良しとしましょうよ。“医療リーダー”さん」

彼女の言う通りだ。
もはや意地だけで構成されたわんわん帝國のレムーリア突撃部隊は、予想以上の戦果を上げた。
上げた、が、それまでだ。
被害はそれ以上に甚大で、帝國にその人ありと言われる様な腕利きの戦士や、藩王達すらも大けがを負って倒れている。
肝心の敵の大将を取り逃してしまった事も考えると、正直苦しい展開だ。

「けど。僕等が動ける。医療の心得がある、僕等が。」

そう。先の戦いはまさに激戦だった。激戦だったが、重要度で言えばむしろ今の方が重要かもしれない。
今自分が手にしているメスは、少しずれてしまえば患部でなく、帝國の未来すら切り裂いてしまうかもしれない。こんな事もあろうかと用意していた薬も、量を違えば毒薬だ。

でも、やるしかない。
手術に取り掛かる直前。たけきの藩国の面々は、一瞬だけ目配せをして頷いた。
後は、嫌になるほど頭に叩き込んだ知識をフル活用し、罰ゲームが怖くて丸暗記した作業分担を的確にこなせば良い。
それだけで。

「それだけで、助かる……それでも駄目なら、駄目じゃなくなるまで頑張るだけさ」

半ば祈る様な、リーダーの指示が飛ぶ。
自分達が、シオネ・アラダを守る者ならば。
朋友くらい、護れなくてどうするのだと―――!

「加護を……!」

祈りは叫びに変わる。
答えるように、患者の心臓は、とくんと脈を打った。

SS2

助清@伏見藩国



名前くらいしか知らない人だった。
輸送船の中で話して、笑って、食事をして。
肩を並べて戦って、解った。とても、良い人だと。

「そこに顔を出す度に饅頭よこせ、ってさ。私は饅頭屋じゃあないって(笑」

もっと話したいと思った。少し落ち着いたら遊びに行って、
お互いの藩国の御話でもできたら、嬉しいなとか考えていた。
きっと辛い戦いになるけれど、その時の事を考えれば、できる気がした。

/*/

「気道を確保!呼吸状態を確認してくれ!」
「こっち鎮静剤をください!早く!!」

戦場に次いで、そこも戦場だった。
殺す為でなく、生かす為の戦場だった。
もし、ここで助からない人が多ければ、敵は今度こそ手堅く私達を殉滅するだろう。
でも、逆に言えば、ここで皆が助かれば補給が到着次第決戦に持ち込める。
否。戦力健在を見せつければ、停戦交渉に持ち込むチャンスにだってなるかもしれない。

「人口呼吸に入る。えぇい、男同士かよ!」
「ガーゼが足りない……着替えを破きます、包帯にして!」

医療の専門家はいない。なら、少しでも知識がある私達がやるしかない。
人やデーモンを殴るのに躊躇いの無い手でも、注射器を持った途端、震えがきた。

「大丈夫、落ち着け、落ち着け私………」

深呼吸をした時。
少しだけ遠く。包帯にぐるぐる巻きにされた、“あの人”と目が合った。

(あ……――)

信頼されている。
私たちなら、できると。
此処にいる全ての人を助ける事が、間違い無くできると。

「よぉぉーーーーっし!」

柄にもなく大声で叫ぶ。
みんな死んじゃうなんてバッドエンドは、どうしても性に合わないから。

[[助清@伏見藩国>http://namelessworld.natsu.gs/sakura/sanbou_BBS/wforum.cgi?no=1904&reno=1893&oya=1891&mode=msgview]]


ふと、何かに呼ばれる様な気がして、ふらふらと窓の方へと歩いて行った。
夜更けすぎ。
職業の開拓と、大規模施設の施工工事、来賓の歓迎に兵器開発。
ニューワールドの誰もがそんな仕事に追われている最中だった。

窓の向こう。隣の家のあの子も、同じように窓を見ていた。

「なに、してるの?」
「君こそ、何してるんだよ」
「……呼ばれた、気がしたの」
「―――なんだ、ボクと一緒か」

呼ばれた気がする。この子も、そう言った。
自分達だけじゃない。見れば、町の家ぜんぶからみんなが顔を覗かせていた。

「じゃあ、呼ばれた気がしたんじゃなくて、呼ばれたんだね」

少しだけ、嫌な予感がしたから。
みんなで、「そんな事ありませんよーに」ってお祈りをした。

/*/

死に物狂いの治療は、後に行くほど苛烈を極めた。
ただでさえギリギリの物資に詰め込んだ医療器具には限りがあるのに、
負傷者の数は甚大で、大怪我を負っている人間が少なくない。
さらに、時間が経てば経つほど患者の状態が悪化していくのは自明の理であり、
最善を尽くせば尽くすほど器具が消耗されていくのも、当然の成り行きである。

「くっそぉ、くっそぉ!」

いくら自分達が専門の医者ではないといえ、例えば実習を行ったたけきの藩国にある病院でなら、皆を助ける事も、そんなに難しくは無いと想像できた。
けれど、状況が悪すぎる。余りにも。

「もう、駄目なのかな……」

誰かが、ボソりと呟く。
どこかで解っていたけど、敢えて押し殺していた考え。
心が折れそうな時、トドメを刺してしまう一言。

けれど。釣られて弱音を吐きそうになった自分の口から漏れたのは、
心境とはまるで違う、遠くの誰かの言葉だった。

「そんな事ありません」

………偶然、なのかもしれない。
けれど、自分は、自分達はそれが偶々自分の口を通して出た、誰かの声援だと。
そう、信じる事にした。

「そんな事、無い。あるわけねェだろォッ!!」

/*/

鍋 ユウ@鍋の国


「そんな事、無い。あるわけねェだろォッ!!」

誰かが呟いた「もう、駄目なのかな……」の言葉の後に聞こえた言葉。

 それは心の中に染み渡る言葉であった。どんな時でもどんな場所でも医療現場では悲しい事がある。しかし、その悲しい事を起こさない為の活動が医療である。例え、専門の医者でなくても医師として活動する以上は医師として最後までがんばるだけである。どんなに心が砕けようが、患者がどんな状況でもただあきらめない。

 それはただ一人の人間の意地かもしれない。

 しかし、医療現場の人間は皆、その患者を救う為、患者の命の火を消さない為に自らの全ての技術を、全ての想いを込めてただ、最後の最後まで諦めずに進むだけである。専門の医者でなく、限りある物資の中だとしても想いだけはいっぱいなのである。ならば、するべきことをすればいい。

「くそ!! まだ終わんねぇぞ!!」

誰かの言葉は皆の想い。

「まだよ! あなたはまだ生きるべきなのよ!!」

 患者に向ける言葉。どんな人だろうが、ただ助ける……それは医者の心である。シオネ・アラダの守り手が医者ほどの技術ではなくても治療行為ができるのならばその想いは医師と同じ意思である。どんな患者だろうが、最後の最後まであきらめない……想いは一緒なのである。

「まだだ! まだあきらめるなよ!」

 誰かが叫んだ言葉は守り手達の意思である。

(なんだろ……何かが叫んでる?)

 それは想いである。想いは患者の心に届き、かならず治療は成功する……ただその結果だけを信じ、守り手達は懸命に作業を行っているのである。



[[竹戸 初@たけきの藩国>http://namelessworld.natsu.gs/sakura/sanbou_BBS/wforum.cgi?no=1911&reno=1893&oya=1891&mode=msgview]]

 仮設の野戦病院は、消毒液の匂いではなく、血と泥と汗と汚物の臭いが充満していた。ここが、病院と言うよりも戦の野に設けられた天幕の類に過ぎない事を如実に証明している。

 もっとも、今の彼等にはそれを気にする余裕は無い。
 意識を喪いそうな者を励ます戦友の叫びと、身体から離れようとする魂を呼び戻すべく怒号する声に、まだ叫ぶ事は出来る者の苦悶の声。
 医療の指示を飛ばす声も、自然と大声になる。怒号、絶叫に等しい。
 誰もが殺気立っていた。寸前までの戦場の余韻だけでは無い。今、この瞬間もまた、違う意味で紛れも無い戦場なのだ。

 縫合した疵口に、手早く膏薬とガーゼと油紙を当て、消毒された包帯で包む。
(人体は、水と気の流れるもの)
(今、この瞬間も息づいている肉体は、手を当てれば鼓動が伝わる)(だから、手を当てれば素人でも何らかの処置は出来る)
 全速で回転している筈の頭に、前後の繫がりもなく、以前に聞き習った教えが浮かんで来る。もとより、断片的な代物で当座の役に立つものでは無い。混乱している頭が、役に立つ智識はないかと過去の記憶を総浚いしているのだろう。
(現実逃避している暇など、あるかッ!)
 まずは、眼の前の怪我人に専念する。と、気づく。掌に伝わっていた振動が、止っている。
 人体を流れる血や体液といった水と、呼吸の気、それらの流れが止っている。それが意味する事は、一つ。

「心停止かッ!」
 だが、まだ脳は死んでいない筈だ。魂も、身体から抜けていない筈。それが正しいか間違っているか、今は考えている暇はない。巧緻よりも拙速。
「未だだ!」
 ともすれば、自分自身が捉われそうな絶望を振り払うべく、両の拳を組み合わせる。高く頭上に掲げ、何かに祈る。
 それは、あの神々しい女神像のようでもあるし、たけきの神社の神であったかもしれない。否、それらを含めて自身が知る全ての者に、竹戸 初は祈った。
「帰って来い!」
 渾身の力を込めて、心臓に一撃を叩き込む。まるで、肋骨もろとも粉砕する勢いで。
「帰って来い!」
 もう、一撃。跳ねる身体に、更に一撃。

 ……後日。彼が蘇生処置を担当した患者の何名かが、本当に肋骨を骨折ないし罅割れていたらしい。