『10 > 1日』


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私の名前は譜久村聖
喫茶リゾナント近くのアパートを借りて、えりぽん、香音、里保ちゃんと共同生活をしている
初めは某大人な子供が「いやなの、りほりほはさゆみと一緒に住むの!」と散々駄々をこねたが・・・
リーダーの高橋さんが「4人で住ませた方がいい」と必死に説き伏せた
新垣さんは「中学生だけで住ませるのってどうなの?」と思ったようだがそれも何とかなった
だって高橋さんは知っているから・・・私が・・・『未来から来たリゾナンター』だということを・・・


「みずぽん、何してるの?さっきから何回もカレンダー見ているけど?」
「え?そうかな?」
「そうだよ、聖ちゃん、なんどもカレンダーの方ばっか見てるんだろうね」
「え~そんなことないって~二人とも思い違いだって~」
そういって私は笑いを顔に浮かべているが、横から飛んでくる冷たい視線がなんだかイタイ

「ほらほら、そんなこと言っていないで4人ともれーなが作った特製セット食べると」
そう言って私の目の前にどうしても『お子様ランチ』と称せざるを得ないプレートがならんだ
「わ~かわいい!」
そう言ってさっそく旗の刺さったチキンライスにスプーンを入れるのはえりぽん
一方えりぽんの横に座っている香音は口いっぱいにハンバーグを頬張って幸せそうな表情だ

「ほらほら、そんなことすると喉詰まるから、ゆっくり食べる!」
新垣さんの注意にも香音はあんまり気にしていないようでグフフと笑ってばかり

それに対して
「ほら、りほりほも早く食べるの!さゆみも手伝ったの。
 真っ赤なうさちゃんウインナー、さゆみが作ったの!食べて、食べて!はぁはぁ・・・」
道重さんの必死なアピールにも私の横に座っている鞘師ちゃんは「はあはあ」といってあまり嬉しそうではない
 ・・・それはそうだろう、こんなおこちゃまの食べるものを『水軍流』の継承者、鞘師里保が好むはずがない
冷静沈着、頭脳明晰、努力の天才、そんな言葉が似合う彼女には『お子ちゃまランチ』なんて似合うはずもない
おそらく今無理やりされている二つ結びも引きちぎりたいくらいのものなのだろう

「あれ?フクちゃんも食べとらんと?もしかして遠慮しとると?」
「まあ、確かにフクちゃんにはちょっと子供かもしれないけど、ほら、子供向けのメニュー会議だからさ」
田中さんと新垣さんの会話を聴いて慌てて私はフォークを手にしてナポリタンをくるくるっと巻いた
意外に美味しかったのでほっぺに指当てて「ヴォーノーーー」と言ってみた
一瞬の静寂の後、みんな笑いだした
「フクちゃん、何言っていると~」「ふくちゃん、面白いの」「みずぽん、どうしたっちゃ?」
その輪の中にもやはり鞘師は入ってこようともしない

目の前でケラケラ笑っている生田衣梨奈は『精神破壊』の能力者
それも制御できておらず、常に垂れ流しの状態で自分自身の心まで壊れる寸前だったという
そんな生田の心を溶かし、人間らしさを再び与えたのは今、横に座っている鞘師里保だという
感情を、表情を失った生田を優しさで包み込んだ里保ちゃんには力ではなく技術で人の心を読むことができる

だからこそ・・・私は恐れているのだ
こうやって・・・高橋さん以外には誰にも言っていない秘密を、未来から来たことを知られることを
今でも思えている、もう半年以上前になる、高橋さんに告白した日のことを

高橋さんは私の話を聴いている間、何も言わずにあのまっすぐな瞳を私に向けてくれた
もちろん初めは信じられないようであった。仕方ないであろう、逆の立場でも信じられる話ではない
ただ、カバンに入れられていたボロボロの「A」「R」のお守りを見せたところ信じてくれたようだ
「私は何も教えられないかもしれないけど、聖ちゃんなりに私達を見て、学んでほしい」
そう言った高橋さんからは本当にたくさんのことを学ばさせてもらった
優しさの本当の意味、強くなることの価値・・・数え切れない

そして一つだけ高橋さんにお願い事をした
私―譜久村聖が未来から来た人間だと誰にも言わないで欲しいと


それは未来から私を送ってくれた光井さんの手紙に書いてあったことだし、私も望まなかったから
だって、未来が変わってしまったら私が消えてしまうかもしれないから
そんなことをみんなに考えさせたくなかったから知って欲しくなかった
「本当にいいの?」
そんな私の思っているのを当然のように悟った高橋さんに私はこう答えた
「いいんですよ、未来が変わってくれればみんなが幸せになるんだから」

その言葉を聴いた高橋さんの表情が一番残っている
悲しいとも怒っているとも何とも言えない表情で『そう』と呟いたのだから

その小さい呟きは私の中で今も渦のように消えない
『自己犠牲』、そんな簡単な言葉で済ませられる簡単な事実
小さな勇気をもって、勇者となるために私は未来から送られてきた
それは仕方ないと思っていたし、自分でも納得していた

でも高橋さんと出逢い、新垣さんに怒られ、田中さんに気を使って、道重さんから里保ちゃんを守って
えりぽんのテンションにあきれ、香音と笑って・・・気持ちが揺らぎ始めていた
みんなと一緒にいると『楽しい』『心の底から笑顔でいられる』何かが変わり始めているのを自覚していた

『何のために過去に来た、何のためにリゾナンターになった』

それを迷うことが多くなっていた。本当なら・・・未来は変えたい、でも、みんなと一緒にいたい

でもそれは同時に叶えられることなのか・・・わからない
だからこそ、こうやって誰にも言わないでいるのだと思う
言ってしまったら、もう戻れないような気がして

だから一番怖いのは里保ちゃんになっていた
嫌いなわけではない、むしろ大好きだ。もちろん道重さんとは違う意味で
でも、あの目が怖い―全てを見透かそうとしてくるあの無邪気な刃
もちろん、そんなことを里保ちゃんは考えてもいないのだろう


普段から食べるのが人一倍遅い私だったためかこうやって考えながら食べても誰も不思議に思わなかった
「ごちそうさまです」
ナプキンで口元を拭き、ついでに香音ちゃんの口も拭いてあげた
「フクちゃん、お母さんみたいなの」
道重さんの言葉に若干傷つきながら私達4人はアパートへと帰るために席を立った

「どうだったと?」と田中さんが訊いてきたので「美味しかったです」と答えた
えりぽんも香音もうんうんと大きく首を振って答えたからか、田中さんは満足げだ
「それではまた明日も来ますね。ご馳走様でした。おやすみなさい」
里保ちゃんが挨拶をするとそれぞれ「おやすみ~」と返してきた

「ねえねえ、えりぽん、アイス買いに行こうよ~」
「いいっちゃね!よし決めたっちゃ!コンビニに後に着いた方が二人分奢るとよ!よーい、ドン!」
勢いよく走っていくえりぽんを追って香音が駆け出した
「もう、二人とも知らないよ・・・」
大抵里保ちゃんはこういう遊びには参加しない

「そんなことよりフクちゃん、何かあった?おかしいよ、最近」
      • ほら来た。やはり水軍流の目を誤魔化すのは至難の業
「二人ですら気がつくくらいにカレンダーを見てるし、やたら時間を気にしている」
うん、時間、時、それが気になってしまうんだよね。時が・・・
「二人に言えないことだとしても私に相談してくれてもいいんだからね」

その優しさが辛かったりするのよ・・・時間が止まればいいのに

「ねえ、フクちゃん。私達は仲間である以上に友達なんだからね、だから・・・」
「え~里保ちゃん、ありがとう~かわいい~」
「!!ちょっとやめてよ!フクちゃん、恥ずかしいって」

      • 道重さん、あなたの技借ります。こうやっておけば里保ちゃんは何も言えなくなるって知ってるから
そうしてこの日はなんとか誤魔化しきったが・・・次の日、『その日』がきた、いや来てしまった


                ★   ★   ★   ★   ★   ★

寝ぼけた頭で朝に弱いみんなを起こし、身支度を済ませた
そしていつも通りに朝食を作ってもらうためにリゾナントに向かった
「おっはようございま~す!」「おっは~」
これもまた、いつも通りに能天気な二人が元気にあいさつする

「・・・何かおかしい」
里保ちゃんが呟くと同時に、田中さんがキッチンの奥から飛び出してきた
「あ、4人ともおはよう!ねえ、愛ちゃん知らんと?
 愛ちゃんがどこにもおらんっちゃけど!
サユもガキさんも愛佳も愛ちゃんがどこにいるか知らんっていってると!」

驚きの声をあげる能天気な二人に対して私はまた隣の水軍流から刺される視線を浴びることになった

それは今から約一か月前、10月1日のこと