『止み、病み、闇』


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二人の預言者が彼女を例えた
一人は「希望」と、一人は「絶望」と

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

「はい、オッケーです!!」
「「「「「「ありがとうございました」」」」」」
豪華なセットの前でブラウン管の中の人物達がテレビ局のスタッフに挨拶をする

その中に月島きらり、いや、久住小春の姿があった
「ありがとうございました!」
久住は深々とお辞儀をして、スタジオを後にし、用意された楽屋に戻ってきた
「マネージャーさん、どうでした?今日の小春は?」
「う~ん、まあまあだね。もう少し頑張れるとおもったな、僕は」
「そうですか?小春は結構手ごたえありましたけど~あ、着替えるので後ろ向いてください」
マネージャーとの反省会をしながら久住は身支度を整える
「はい、こっち向いてもいいですよ。え~と、今日はこれでおしまいですよね?」
「いや、チーフから事務所に来るようにと言伝を受け取っております」
「え~せっかく早く終わったから映画観ようと思っていたのに~」
唇を尖がらせて久住は抵抗を示すが、それが無駄だということは分かっていた

「じゃあ、急いで駅まで行きましょうか?」
「え~タクシーじゃないんですか~?」
マネージャーは頭を掻きながら苦笑いを浮かべた
「ダメみたいです、アハハ…」
「最近さあ、タクシー移動減ってるよね?もしかして、エコに会社も賛同したのカナ?」
「え、そ、そうかもしれませんね、ハハハ・・・さて、きらりちゃん行きましょうか!」
「は~い」

                ★   ★   ★   ★   ★   ★


「エリ~まだ帰らないの~寒いよ、暗いよ、お腹すいたよ~」
「さゆ、もう少しだけ付き合ってよ。今、秘密特訓中なんだから」
「さゆみがいるだけでもうすでに『秘密特訓』じゃないと思うの」
さゆみは自販で買ったホットココアを一口飲み、満足そうに白い息を吐きだした

亀井は公園のベンチの上に並べられた空き缶に意識を集中した
体全体で空気の流れを感じ、微かな気流を読み取る
そこから気流の渦を掴み、その気流の端を手にするイメージを浮かべる
気流の端をムチのように、もしくは気流をそのまま弾丸のように弾き飛ばすように手を大きく振るう

シュッ  カーン

並べた10個の空き缶が見事に宙に舞った

「お見事、もう完璧だね♪」
道重がカマイタチで弾かれた缶の軌道を目で追いながらパチパチと拍手する
「・・・いや、まだだよ、今はしっかりと風の流れを掴め切れなかったもん
 ただ風をぶつけただけで、切れ味がまったくない。重いだけのカマイタチじゃダメなんだよぅ」
亀井は飛ばされた缶をもう一度並べ直しながら、首をかしげた
「どうすればいいんだろう?もっとしっかり風を読める方法ないのかな・・・」
「エリはほんとうにがんばるね~さゆみはもう眠くて眠くて仕方がないよ」
しかしそうやって文句を言いながらも道重は亀井の特訓に付き合ってきていた

「よし、もう一回!」
亀井は集中するために大きく深呼吸を繰り返し、目を閉じた
両手を広げて全身の感覚を過ぎ富ませ、風を感じる
(よし、今は風は静かに流れてるね。よし、これなら、風を掴みやすい)
亀井は静かに呼吸を整え、きっかけをつかもうとタイミングを伺い始めた

(うん、いい風だな・・・ん?あれ?)

突然腕を下ろし、辺りをきょろきょろと見渡し始めた亀井の様子を見て道重もベンチから立ち上がる
「どうしたの、えり?」
「サユ、なんか風がおかしい。何か起こりそうな気がする」
「それってダークネス」
「いや、違う、そんな悪い空気じゃないの。これまで感じたことのない感覚」

亀井は空気が渦巻きのように一点に集中しているように感じた
その一点の空気の密度が重くて奇妙な感覚
まるでその一点に空気が流れこんでいて、窓があるかの外へと抜けていく感覚

「サユ、ちょっと見に行こう。何か気になるの」
強引に道重の手を引っ張って亀井は走り出した
「あっちだ!サユ、あそこを見て」
亀井がさした先はこの公園のシンボルにもなっている大きな木の頂上近く
「え?何あれ?」
空間に渦巻きができていて、頂上付近の葉が渦の中に吸い込まれて少しずつ消えていった

「ちょっとサユ、下がっていて。そーれ」
亀井は特訓に使っていた空き缶を頂上近くに飛ばした
放物線を描いて頂上付近まで飛んで行った空き缶は―そのまま地面に落ちることなく消えた
「消えた?」「というより吸い込まれているって感じだね」

(これは愛ちゃんに報告したほうがいい)
そう亀井が思った時、新たな、今とは違う風を感じた
今度は先ほどとは逆に『外に向かう』風だった

(―何かが来る)
それを感じさせたのは亀井の本能だったのかもしれない。何も言わずに亀井は道重の手を取って駆けだした

二人が振り返ると渦巻きのあった木の頂上の辺りの空間に卵を割るときのようなヒビが入っていた
そこから何本もの細い光が差し込み、深夜だというのに奇妙な明るさが生まれていた
「何が起きているの」
立ち止まろうとする道重の手を引っ張って足を止めないようにしつつも、亀井の目はそこに向いてしまう

ヒビ割れた空間には葉っぱなり砂が吸い込まれたり、吐きだされたりと忙しい
そうしているうちにひびが細かくなり、卵のように空間が『砕けた』
亀井、道重はもちろんのこと、辺り一帯が眩しい光で包まれた
「まぶしい」「何も見えない」
思わず道重は亀井の手を強く握った。ぎゅうっと強く、逃がさないようにと

光が消え、目を開けて視界が回復するのも時間にしてみればわずか数秒
「さゆ、大丈夫?」
「うん、まだ少し頭がボゥっとしているけど、怪我はしていないよ。エリは?」
「エリも大丈夫・・・だけどなんだったんだろう?風は元に戻ったから大丈夫だと思うんだけど」
「爆発・・・じゃないよね?怪我もしてないし、何も倒れていないし」
そう言って道重は先程奇妙な渦が浮かんでいた辺りを眺めた

「!!ねえ、えり、あそこ、木の根元を見て!誰か倒れている」
「本当だ!さゆ、急いで!!」
慌てて二人は駈け寄った

倒れていたのは一人の女性であった。近くには彼女のモノと思われるカバンが落ちていた
道重は肩をたたいて意識があることを確認する
「もしもし、大丈夫ですか?私の声が聴こえますか?」
「う、うん・・・」
かすかではあったが女性は反応を示した
「よかった、意識はあるみたい。それに怪我もしていないみたい」
亀井と道重はほっと安堵のため息をついた

すると倒れていた女性が尋ねてきた
「あ、あの、今は何年何月ですか?」
「へ!?20XX年3月だよ」
「そう・・・よかった・・・着いたんだ・・・」
そう言って女性は意識を失った

「ちょっと、もしもし、もしもし!起きてよ!」
突然意識を失った女性を腕に抱えて何度も道重はヒーリングを試みる。が、一向に起きようとはしない
「息はしているんだけど、どうしよう?このままほっておくわけにはいかないし」
「・・・さっきの風の変化とこの人が関係あるかもしれないし、一旦リゾナントで預かってもらおうよ
 今、愛ちゃんにお願いするから」
亀井は携帯をカバンから取り出した

亀井が高橋に電話する間、道重は何者なのかを調べようと落ちていたカバンを探りだした
カバンの中身は主に衣服だったが、驚いたことに底の方に数百万ほどの現金が詰まっていた
「な、なに、この人何?なんで現金が入っているの?」
カバンの内ポケットには名前を示す書類が入っていた
「『ふくむらみずきさん』・・・14歳・・・え?14歳?この人、14歳なの!?」

そこに高橋が“跳んで”現れた
「連絡貰って急いできたよ~話は聞いたからリゾナントに連れていくよ!絵里とさゆ荷物はお願い!」
そう言い高橋は「ふくむら」を背負い、リゾナントへと跳んだ
道重は開けていたカバンを閉じ、他にも落ちていた「ふくむら」の持ち物と思われる荷物を亀井に渡した
しかし、しっかりとカバンが閉じていなかったのだろう、何かがカバンから地面へと落ちた
「さゆ、しっかりしてよ。何か落ちたじゃない。もう~」
亀井がしゃがみ込んでその“何か”を拾った
「なにこれ?お守り?」
月明かりに照らされたそれには黄色の糸で「A」、緑の糸で「R」とアルファベットが縫われていた


               ★   ★   ★   ★   ★   ★
カタンと光井の手から離れたその刀を小春は拾い上げた
鞘から抜き出しその刃が研がれているのを確認して、へえと小さく声を上げた
「なんだ、みっつぃ、やっぱりこの子をしっかり使ってくれてるじゃない。
全然錆びていないし、きっとたくさん血を吸ってきたのカナ?」
久住は刀の峰をぺろりと舐め、嬉しそうに微笑んだ

「うぅ・・・さ、触るんな・・・」
「あ、やっぱ電圧抑えてたから死ねなかったのカナ?みっつぃ、具合はどう?」
「・・・気易く愛佳の名前を呼ぶなや、この裏切りモンが!」
「その台詞、しっかり立って言えたらきっと凄身がでるのにね~関西弁ってやっぱ苦手かも~」
久住は地面で倒れたまで動けない光井を見て、髪の毛を左手でいじりながらあっけらかんとした口調で言った
「無駄だって、しばらくはみっつぃは動けないから。
『いい感じ』に運動神経だけ麻痺させたから見えたり、話せたりするけど動けないから」
そう言われても光井はどうにかして動かそうと手足に力を入れたが、やはりぴくりとも反応しない

久住はしゃがみ込み、動けない光井に顔を寄せた
「くやしいでしょ、みっつぃ。何もできないって。ただ見るだけ、話すだけってツライよね~
ねえ、みっつぃ、その格好地べたにはいつくばっているようだよ!まるで蟻みたいカナ☆
それに比べて小春は蝶!自由に何にも囚われず空を飛びまわる綺麗な蝶☆バサバサ~」
そう言って久住は腹を抱えて笑いだし、光井は唇を強く噛み締めた

その表情に気がついたのだろう、久住は明らかに不機嫌そうな顔で光井を睨みつけた
「あ?何、その表情?蟻の分際で蝶に楯突くつもり?」
「・・・あんたはほんまの久住さんやない・・・」
「何言ってんの?私は小春、あなたのかつての仲間であって、今はダークネスの久住小春」
「愛佳のしっとる久住さんはあんたみたいな心が凍った人間やない。
あんたは名前と顔は久住小春やけどあんたは仲間だった『久住さん』なんかとちゃうわ!」
久住は自分を見つめる愛佳の目に憎しみの炎が燃えたぎっているのを感じていた
「・・・光井愛佳、小春は変わったんだよ。あの頃みたいな甘い考えは捨てた
 やりたいようにやって、生きたいように生きる、それが今の小春のポリシー!今が楽しければそれでいい!」

小さく光井は悲しげに息を吐いた
「かつて視た未来の予知では久住さんと愛佳が高橋さんが残してくれたものを守るハズだったのに
いつから愛佳達の道は分かれてしもうたんや・・・」

光井の呟いた言葉が久住の脳裏に邪悪な心を呼び起こした
「『いつ』から?そうね、明確な時は小春も分からないや・・・そうだ、面白いこと考えた♪
 ねえ、みっつぃ、いつから小春が変わったのかその正確な日時を教えてあげるよ」
わざと声色を優しくして久住は光井に話しかけ始めた
「何をする気や!やめるんや!」
光井は大声をあげて、久住を引き留めようとした。そう、これから彼女がしそうなことを予測できたので―
ただ動こうとしてもやはり力が入らず、どうしようもない

「無駄だって、動けないよ。そこで大人しく見てなよ。
でも、仲間だったことがあるから小春のしそうなことは予想できるって?すごいよ、やっぱみっつぃは凄いよ
今度はさ、みっつぃも私と一緒にこちら側に来てくれることを期待しているから」
(動け、愛佳の体、少しでも動け!)
「みっつぃのしたことは小春、知ってるよ。過去に戦士を送って今を変えようとしてるんでしょ~
そして、これがその過去へとつながり入口ってことも☆」
そう言い久住は―光井の開いた時空の扉へと飛び込んだ
「面白そうじゃん、時間旅行なんて☆」と言葉を残して

「フクちゃん・・・すまん、とんでもない人をそちらに送ってしもうた
気を付けてくれや・・・ああ、高橋さん、ふくちゃんを、久住さんをしっかりみていてください」
そして、動けない光井の目の前で時空の扉は完全に閉じ切った








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