『声を奪われたカナリア』


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2011/08/23(火) 更新分


――――ごめん。

――――ごめんね。

――――ごめんね、なっち。

今だから言える、落ち着いて謝れる。
だけど声に出しては言えない。


私はダークネスを抜けた。

ダークネスの脱退制度を作ったのも私。
ダークネスを抜ける前、私は必ず、なっちと組んでた。
可愛くて天使と呼ばれる、なっちと地味な私。
私は、なっちの引き立て役だったんだ。
やっと夢を掴んだキッカケがダークネスだったけど、まあしょうがないかって感じ。
それにやたらと、なっちが私に懐く。
私の方が年下なのにね。

ダークネスを抜ける代わりに声を封印された私。
でも裕ちゃんも甘いよね。私の最後の能力まで消さなかったんだから。
消すのが怖かった?

なっちと組みたくて裕ちゃんの嫌いなトマトやバナナで散々脅してたから?

あれは脅してたんじゃなくて私が裕ちゃんをいじめることを趣味にしてたんだけどな?
またトマト、バナナ攻めにされると思ったから最後の能力まで消さなかったの?
そんなことで大丈夫?
ダークネス大丈夫?

まあ今の私にとってはダークネスもリゾナンターもどちらにもつけないけど、なっちに何かあれば許さないから。

『辞めないで!行かないで、行かないでよ福ちゃん、福ちゃん!!』

なっちの泣き叫ぶ声が忘れられない。
私が見た、なっちの涙は、これが最後だった。


喫茶リゾナントはコーヒーがメインか……。
私が扱っているお店は酒がメインだけど、って何を考えてるんだろう?

今は私はダークネスじゃない。
リゾナンターでもない。
ただのバーテンダーよ。
歌はもう歌わない、歌えないのよ。

          ◇          ◇          ◇

2011/09/03(土) 更新分


今夜も最後のお客さんを見送った後、私は明日の仕込みや後片付けをしている。

私はダークネスのせいで声を封印されているから接客は出来ない。
接客は、もっぱらママさんと弟のヨウヘイに任せている。

ダークネスから抜けたすぐに、ここのバーのママさんに私は拾われた。
超能力は使わずに何も物も言えない私をママさん、母さんは、余計な詮索もせずに私をここに置いてくれている。

嬉しかった。
ダークネスを抜けて普通の女の子として生きたかったから。
ダークネスを抜けた時の私は14才だったから、そのまま母さんのはからいで高校の定時制に通いながら、ここのバーの手伝いをしてきて今に至る。
せめて、ここがダークネスにバレないように結界を張っていたのだが、どうやら無駄だったようだ。

私は母さんに、すぐに帰ってくるから家から出ないでね、と書き置きを残してダークネスの刺客がいるであろう深夜のネオン街に出た。

ハイヒールの足音を立てながら私は刺客を探す。
すると、突然周りが闇に覆われた!
私は襲いかかる闇のエネルギーをバックステップで避けた。

「さすがだな」

低い男の声がした。
そいつを見ると表情はサングラスで覆われて服装は黒づくめだ。

「腕は衰えていないということか」

私は男を睨みつけた。
いったい何の用?
私は声を裕ちゃんに奪われて何も出来ないはずなのに何故ダークネスは、こうまでして抜けた物達まで執拗に追い続けるのか。

もう放っておいてよ!

「何を考えているのかしらんが、俺は聞いているぞ。お前は声が出せないんだったな」

男が近づいてくる。
私は念動力を発動させるために右手を男に向けた。

何も起こらない!?
どうして?


「はっはっはっ。お前の得意の念動力も俺には効かない。能力制御装置がここについているからなあ」

男はそう言いながら自分の首を指差した。
よく見ると細長い輪っかのような装置が首に巻きついている。
くそっ!それで念動力が使えないのか!

男は私の胸ぐらを掴み壁に叩きつけた。

ガシャーンという音が辺りに響く。
すると、


「姉ちゃーん!姉ちゃーん!」
「明日香、明日香!!」

まずい!
騒ぎが大きくなりすぎたのか私を心配したヨウヘイと母さんが、こっちに向かってくる!
巻き込みたくない!
私が超能力者だってことをバラしたくない!
来ないで!
危ないから逃げて!
母さん!ヨウヘイ!

首をしめられてだんだん息が苦しくなってきた。
声が出ない事が、こんなに悔しいなんて!
大切な家族を守れないなんて!
私は出せないはずの声を出そうとする。
しかし出ない。

せめて二人を逃がすだけの声が欲しい!!
歌えなくてもいい!
家族を助けたい!
化け物だって思われても、このさい構わない!

暑い、体中が暑い!
首から喉にかけて燃えるように暑い!
ちぎれそう!
言わなきゃ、声を出さなきゃ!


「母さん!ヨウヘイ!逃げて!!」

私の首を絞めていた男は、ぎょっとしている。

自分でも驚いている。

その隙に私は長い髪を乱し、もがきながらも男から離れてハイキックで首の装置を破壊する。

「き、貴様!!聞いてないぞ!」
「自分でも驚いてる!あの人達を巻き込まないで!まだあなた達はあの計画を企んでるの!?そんなことをしても、もう尋美は帰ってこない!これ以上なっちや圭織を傷つけないで!!」

私は念動力を発動させて男を壁に叩きつけた。
鈍い音がした。
あばらをいくらかやっただろう。

「その安倍なつみに何かあったら、どうする?」

男は、不気味な笑顔で私に言った。

なっちに何があったの?
私がダークネスを抜けた間に何があったの?
なっちは孤独だった私を救ってくれた。
周りの大人達は私を「聡明だ」とか「冷静」とか「落ち着いてる」とか言うけれど本当はそうじゃない。

『福ちゃんはいつも寂しいって言うね。大丈夫だよ、なっちがいるさ』

息が詰まった。
私は孤独だった、孤独だった私に手を差し伸べてくれたのがなっちだった。
そんななっちにダークネスは何をしようとしてるの?


許さない!
なっちを傷つけるやつは誰であっても許さない!

「うわああああ!!」

私は湧き上がる感情に任せて念動力を発動した。
すると、壁にグッタリともたれかかっているが突然、叫んだ。
ビルの看板が壁に落ちて、その壁が雪崩のように崩れ落ちて男は逃げる間もなく呻き声を上げながら壁の雪崩に生き埋めになり絶命した。
雪崩た壁からは男の血がアスファルトにゆっくりと広がっていった。

私は悲しい目で男を見つめた後、ネオン街を後にして母さんとヨウヘイと合流した。

もう、ここを出ないといけないな。
私はダークネスにもリゾナンターにも、どちらにもつけない。
だけど、なっちだけは助けたい。
いつか聞いた事がある。
なっちお気に入りの後輩が喫茶店で働いているということを。
彼女に会ってみようか?
それとも一人でダークネスに乗り込もうか。
答えが出ないまま、私は結界をお店に張って明日の仕込みの準備をした。

          ◇          ◇          ◇

2011/09/04(日) 更新分


私はお店の洗い物がまだ残っていたので先に母さん達を寝かせて一人で考え事をしながら片付けをしていた。

『安倍なつみに何かあれば、どうする?』

刺客は、こう言っていた。

まだダークネスは、あの研究を続けているのだろうか?
なっちのホワイトスノーの力を利用して…。
それとも、なっちを利用しても、まだ成果が見られない?
だから私を襲いにきたのか……。

ダークネスの発足、それは1つの悲しみから生まれたものだった。


私達は私がまだ14才だったころ、とある海辺でキャンピングカーを利用した喫茶店を運営していた。
売れっ子のアイドル御用達で、そこそこ売り上げも良かった。
私の今の接客も、その頃に習ったと言っても過言ではない。

『当店名物ホットドックとホットコーヒーでーす!』

なっちと圭織が笑顔で接客していたのを思い出させる。
いつまでも楽しい日々が続くと信じていた。
でも、それは長くは続かなかった。

喫茶店の買い出しに行った尋美が帰ってこない。
確か車で一人で運転していたはずだ。
みんなが悲しみに暮れたのは喫茶店に掛かってきた一本の電話だった。

裕ちゃんの声がする。

『えっ?まだ帰って来てないんですが、そんな、そんなこと言われても!……分かりました、今すぐ病院に行きます……』

今までに聞いた事もない弱りきった裕ちゃんの声だった。

突然の交通事故。
尋美――柳原尋美は、広い道路で直進していたのにも関わらず対向車に気付いたものの、動物好きで優しい彼女は突然、森の茂みから鹿が飛び出してきて、それを避けてハンドルを切った。
対向車は止まりきれずに、そのまま尋美の車に衝突し尋美はうずくまりながら車の下敷きになり亡くなった。

1999年7月16日 19才 没。

ちょっとワガママだったけど明るくて優しい彼女。
このキャンピングカーで、いつか北海道へ行って牧場で働きたい、私達の進路もお構いなしに言っていたが私には、いつか一人でやりきってやるんだ、と言う彼女の強い想いが感じられた。

思えば彼女が亡くなってからダークネスが生まれたのかもしれない。

ある日、裕ちゃんが言い出した。

『尋美を生き返らせるんや』


私達は超能力者だ。
亡くなった尋美も動物の声が聞こえるという力を持っていた。
超能力者の集まりだけど普通の女の子として生きたい。
だから喫茶店を開いたのかもしれない。
キャンピングカーにしたのは、もし心ない人間に出会ったとしても移動できるから。
その名残が今のダークネスの本拠地、移動する島なのかもしれない。

尋美を生き返らせるために集められた超能力者達。
超能力があれば尋美は生き返らせれる。
そう思った裕ちゃんは、私達、初代メンバーを筆頭に全国から超能力者を集め出した。

初めは私達だけだった組織も今は私一人では手に負えない程の大規模な組織になっている。
今のダークネスは尋美を生き返らせるだけではなく、世界を自分達の思い通りにするために活動している。


そんな組織では自分らしく生きられない。
私は、なっち達の反対を押し切ってダークネスを抜けたのだ。

普通の女の子として生きるために。

しかし新垣里沙は知っているのだろうか?
今はダークネスを裏切って喫茶店で働いてるらしいが、なっちが捕らわれているということを。
なっちを敬愛している彼女なら、いてもたってもいられないだろう。

昨日、刺客と戦ってみたが自分としては、やはり子供の時のような力は出せなかった。
そんな自分がダークネスの本拠地に乗り込むなんて袋のネズミだ。

洗い物を終えた私は最後のグラスを丁寧に拭いて乾燥させた。

全ての片付けが終わって一息ついた。

心の中でヨウヘイと母さんに謝りながら私はようやく決心した。

バーの室内の電気を消して二階へ上がる。
私は長年開けていないタンスの一番下に入れてある黒い革の戦闘服を手に取った。

          ◇          ◇          ◇

2011/09/05(月) 更新分


私は戦闘服を手に取り目を瞑る。
すると色々な事が思い出させる。

まだダークネスが出来たばかりのころ5人の部屋は六畳一間で、ところ狭しとメンバーが騒いでいた。

「カオリのパンがないよ~」

圭織が座布団や、なっちの勉強机である、みかん箱の下などを探し出した。
「あっ!」
どうやら見つかったようだ。
「お昼のパン!これ誰が踏んづけたの!?もう、ぺっしゃんこだよ~」

「そこに置いとるんが悪いんや」
「裕ちゃんのバカ!」
怒った圭織は潰れたパンを台所に持って行き、それを電子レンジの中に入れて温めていた。
「元に戻るかなあ?」
台所から圭織の声が聞こえてくる。


666 名前:名無し募集中。 。 。[] 投稿日:2011/09/05(月) 01:10:45.26 O
すると勉強を終えたのか、なっちが私の横に手帳を持って寄ってきた。

「福ちゃん、これがなっちで、これが友達ね」
「はあ、そうですか……」
嬉しそうにプリクラを見せるなっち。
ぎゅーっと私を抱きしめてくる。
ちょっと苦しいんだけど。無理矢理なっちの手を払い、ウォークマンから聞こえる音楽に集中する。

「わあ、歌上手だねえ……」

しまった、思わず声に出していたようだ。
私は慌てて口をふさいだ。

「もっと聞きたいな、ねぇ、なっちと一緒に歌おうよ!」
「だからどうして……」
私は軽く睨んだけど、なっちはお構いなしに話を進める。
「そうだ!今夜裏庭で歌わない?訓練が終わったらすぐね!待ってるから!」
「えっ、ちょっと!」
私の話を聞かずになっちはトレーニングルームへ向かった。
全く、なっちはいつだって勝手だ。
こっちの身にもなってみろよ。
私はウォークマンをしまって午後の訓練に向かった。

訓練を終えて裏庭に向かった。
まだなっちはきていないようだ。
一緒に、といっていたが勝手な、なっちへの仕返しに私が先に歌おうと思った。

私のアルトの声が裏庭に響く。
すると、

「福ちゃ~ん!」
「えっ!?」
後ろから、いきなりだったので抵抗出来ずに、なっちから抱きしめられた。
「会いたかったよー」
「ひ、昼間会ったじゃん!」

「福ちゃんに一秒でも早く会いたくて。私が甘えられるのは福ちゃんだけなんだもん」
なっちは子供のように三つ年下の私に甘えて来ては、短い髪をいじったり、ふっくらしたほっぺをつついたり、ホント勘弁してほしい……。

その後、私達は二人並んで歌った後、寝室に向かった。
なっちの歌声に私は虜になった。
すでに完成された透き通った歌声……。
それに合わせてアルトの私の声を重ねると、なっちが微笑んだ。
なっちが言った。

『もし私達が超能力者じゃなかったら歌手になりたいね』


――ほら、風に乗り、きっと届くから。


私は、なっちの歌声を胸にしまい込んで戦闘服で作った手袋をはめた。
長い髪を後ろで1つに纏めた。
私はダークネスの裏切り者だ。
でも元ダークネスには変わりはない。
こんな私でもリゾナンター達は受け入れてくれるだろうか?
途中で、またダークネスからの妨害があるかもしれないが、明日の昼前に喫茶リゾナントに行こう。
例え疑われても、妨害されてもリゾナントのメンバーだけは守ろう。
なっちの歌声を愛した人の仲間なんだから――。

          ◇          ◇          ◇

2011/09/08(木) 更新分


私は子供の時の戦闘服をグローブに作り直し力強くはめた。
母さんには、もしかしたら帰ってこれないかもしれない、お世話になりました、と置き手紙をカウンターに置いた。
もし新垣里沙に出会えたら私の家族に私に関する記憶を消して貰おう。
そう思いながら私は家を出た。


もうすぐ喫茶リゾナントだ。
ん?あそこに見えるのは店員だろうか?
看板を出して店先を掃除してる。
私が近づいているのに気づいていないようだ。

「!?」

私が店員に気持ちを向けていた時に油断したようだ。これは、幹部クラスの闇のエネルギー?
私はエネルギーが放出された先を睨み付けた。


「久しぶり、明日香」
「矢口!?」
私は構えながら矢口を睨み付けた。
「そんな怖い顔をしなくても、いいじゃん。随分背が伸びたねぇ、髪もショートだったし入った時の身長はおいらと変わらなかったのにね」
「あの時のまま、あなたが小さいという事は、もう成長しないんじゃない?」
「それはおいらに対する挑戦状ってこと?おいらの能力知ってるよね?」
「それでも私は、あの店に行かないといけないから、そこをどいてほしい」
「生意気なのは相変わらずか。昔は恋人にするなら矢口さんって言ってたのにねぇ、誰かさんのせいで明日香も変わっちゃったわけだ」

「いいからどいて」
「新メンバーのおいら達を始めて受け入れてくれたのは明日香だったのに残念、だよっ!!」
突然、矢口はエネルギー弾を店の方に放った。
「危ないっ!!」
私は念動力は矢口に封じられているので体を跳躍させ顔面でガードの構えを取りエネルギー弾を防いだ。
「はあ、はあ……」
「明日香得意の念動力も使えないんじゃ肉弾戦も時間の問題だよね。でもさあ、おいら達の敵であるリゾナントを壊して何が悪いの?甘くなったよねえ、クールで無口な明日香サン」
再び矢口がエネルギー弾を店の看板目掛けて放った。

「ぐあああっ!!」
私は体全身でエネルギー弾を受け止めた。

店の看板は、そのお店そのものの象徴!!
よく見ると手書きじゃないか……。
きっと心をこめて書いたんだ……。
私もお店をしているから分かる。
家族のようなお客さんのために、おいしいお酒で生活の疲れを癒やしてあげたい。
皮肉やの私が、こう思うようになったのは、なっちと母さんに出会ったからだ!それを壊すなんて、許せない!!
私は矢口を睨み付けて言い放った。

「殺す!あんたの能力封じを破ってでも殺してやる!!」

          ◇          ◇          ◇

2011/09/09(金) 更新分

私は矢口に啖呵を切った後、胸が熱くなった。
同時に胸から喉にかけて火傷をしたような暑さが私の中で疼く。
思わず胸を鷲掴みにする。ともに動悸、息切れが激しくなった。

暑い!
あの時と同じような暑さだ。
私の声が戻った時のような。
「組織も惜しいよね、こんな逸材を逃がすなんてさ」

矢口がおどけたふうに言う。
どういうことだ?

「明日香も、なっちに継ぐ、いや、それ以上の力を持つ能力者がいるってことくらいは知ってるよね?」
……確か、組織極秘に研究をしていた、尋美を生き返らせるために利用する人間を造るといっていた。


「それが、そこの喫茶店のマスターなんだよね」

「!!」

「可哀想に明日香が脱退したからi914が生まれたんだよ?」
「どういうこと?」

「まだ分からない?あんた、なっちとやたら気が合ってたよねえ?」
「それがどうかしたの?」
「なっちの能力は光を使うチカラ、そしてなっちは、明日香と一緒にいる時には何倍ものパワーを出す、それは明日香の自分自身の能力の解放、それを利用すれば最高の実験体が出来たのに明日香が脱退しちゃって、また振り出しだよ」

それで店にまで私を襲いにきたのか。
私はゾッとした。
もし脱退しなければ私は組織の実験体にされる所だった。
i914には悪いけれど……。
だからといって今更、実験体なんてごめんだ。
組織に洗脳されるくらいなら、せめてなっちを助けてから自分らしく散る。
ダークネスにいた自分は忌まわしいけれど青春の1ページとして胸の奥にしまい込んでいたのに……。

「さっきからだんまりしちゃって相変わらず何を考えてるかわかんないね」
「私は、あなたほどお喋りじゃないだけよ」
「その生意気、いつまで続くかなっ!!」


いきなり矢口の拳が顔面目掛けて飛んできた。
私は腕をクロスさせてガードした。
更に矢口はエネルギー弾を私の腹部にぶち込んだ。
私は咳き込み赤黒い物が口から吐き出された。
だが、また喉元や胸が暑い。
「念動力使えなきゃただの雑魚じゃん、そんなんでよく幹部にいられたよね、オリメンのくせに!」

そうやって皮肉を言いながらでしか攻撃出来ないのは私のチカラが怖いからでしょう?
なっちとツートップだった時のチカラが。
矢口は、たかをくくっている。
右腕の拳に力を込める。
するといきなり心臓が高鳴った。
暑さが体中に広がってゆく。
能力阻害も時間の問題のようね。
私は矢口に向かって唇をついっと上げた。
腹部の痛みが麻痺してきたのか私がおかしくなったのか?
唇からは血が滴り落ちている。
矢口を睨み付けながら、左手で腹部を庇いながら右腕にチカラを込める。

「それが生意気なんだよっ!!」
矢口はエネルギー弾を私に向けて放ったが、かろうじて後ろに飛んで、それをよけた。
体の痛みはもう限界なのにチカラだけが湧いてくる。

――生意気、か。
なっち以外のメンバーは、やっぱりそう思っていたか。
私はただ大人っぽいものを好み、マイペースにいたいだけだったんだけど矢口達にはそれが落ち着いている、冷静、生意気、素っ気ないふうに捉えられていたんだろう。
メンバー全員で行動する時もあからさまに私だけを残してみんなだけが団結していた。
なっちと組んでいた見た目普通な私が気に入らなかったようだ。
だけどお互い本音を最後に言えたのは裕ちゃんだったな。

私は湧き上がる衝動のまま右手を矢口に向けた。
矢口がこちらに向かってくる。
まだ死ぬわけにはいかない。
新垣里沙、せめてあの店員にだけは伝えなければいけない。
新垣里沙に直接伝わらなくても、あの店員に伝えれば自然と伝わるだろう。

――どっちつかずな私でもなっちだけは助けたい――

「おいらがあんたとなっちを倒してオリメンになるんだ!」
矢口が近づき私にエネルギー弾を放つ構えを取った瞬間、私の中で何かが弾けた。

           ◇          ◇          ◇

2011/09/10(土) 更新分


「倒せるものなら倒してみなよ」

私は鋭い眼光で矢口を睨み付けながら言い放った。
右手はチカラが段々高まってゆくのを感じるが、そのまま照準を矢口に向けたままだ。
私は覚悟を決めた。
覚悟を決めた自分は、きっと誰よりも潔いと思う。
人によっては冷淡だと感じる人もいるだろう。

矢口の体が震えている。
今まで散々余裕ぶっていたのに。
「嘘だ!おいらの能力阻害が破れるなんて!」
「嘘かどうか試してみる?もう、あなたの内臓をぶちまけるくらいのチカラは溜まっているわよ?」
「ま、待って!待ってよ明日香!」
「今更、命乞い?もう容赦しない」

私は矢口に向けて、ありったけの念動力を放った。

電柱のそばのゴミバケツや住宅街の看板が飛び上がったかと思うと矢口めがけて飛んでくる。
矢口の表情に恐怖が走る。


更に空き缶やビンなど、次々と命を吹き込まれたように矢口を襲い始める。
どこへ逃げようが容赦なかった。
それらはまさに生き物だった。
矢口は血まみれになり、そのまま絶命した。

後は組織が矢口を引き取りにくるだろう。

私がリゾナントに向かう時にはさっきの小さな店員はいなかった。
矢口ほどではないが今、自分も血まみれだ。
今の状態では新垣里沙には会えるか、わからない。
だから私は、もしもの時のために手紙を書いてきた。

店先のポストに入れておけば店員が気付くだろう。
私は、その郵便受けを見た。
新しい?
この喫茶店は、何年も前から建っているのであればポストも古いはずだが新しい物に変えたのだろうか?
まあ、いいか。
さっさと手紙をポストに入れて退散しよう。
傷の治療もしたいし。
そしてまた改めて、ここに来ようと思ったのに……。

なのに……。


「あんた、ちょっと待ちいや」

私は驚いた。
なぜならいきなり店のドアが開いたかと思えば、少し訛った、高い声で話す女の子の声が聞こえたからだ。

この時は夢にも思わなかった。
どうして私がこんなことを……。
私は人助けをする性分じゃないのに。
それに元ダークネスなのに。
しょうがないなあ、って、私、流されるタイプだったっけ?
それとも、この人が強引なのかな?

なっちを助けるのは、まだまだ先のようだ。