『Vanish!Ⅱ~independent Girl~』 エピローグ


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。


(1)

エピローグ
「・・・ここに来るのひさしぶりなの」
「そうっちゃろ?」
れいなと道重は街を一望できる丘の上に来ていた
「なんで、ここに来たか、わかるっちゃろ、サユなら」
れいながまだ目が腫れぼったい道重に尋ねた

道重は目の前に広がっているまだ淡い白い雪を被った街を眺めながら言った
「ここは・・・エリが・・・大きい夢を言ってくれたところだから」

『れいなと手をつないで、さゆの癒しの力をさ、絵里が起こす風に乗せて、世界の人たちに幸せを届ける』
この丘の上で亀井が二人にそんな大きな夢、いや計画を語ったのはもう数年前のこと

「ここに来ると、いつも思うことがあるっちゃ。エリとサユのためにも頑張ろうって
 エリみたいな目標を持つことを素直に格好いいと思ったけん、少しでも出来ることはしたいって」
れいながさゆみの横に並んで立つ。その目はさゆみにも負けないくらいに大きく腫れている
「だけど、そんときはれーな思ってもみんかった。まさか・・・エリがその夢を最初に諦めることになるなんて」
隣に立っている道重は思わず涙ぐむ
「れいな、そんなこと思っても言わないで欲しいの」

そんな道重を知ってか知らずかれいなは語り続ける
「リゾナントは開いているけど、やっぱり愛ちゃんも元気ないと。だけどお店は休めないって愛ちゃんらしいと
もちろん、れーなも愛ちゃんも一緒に泣いたっちゃ。だってエリがおらんくなるなんて…信じられんもん」
事実れいなは一日中泣いて、泣いて、泣き通した
流れ落ちた涙がお気に入りのベッドに染みいり、大きな跡として今も残っている

「他のメンバーも気になって、こっそり見に行ったと。メールするの恥ずかしいっちゃろ?」
泣き崩れている高橋に気付かれないようにれいなは二階からこっそりと脱出したのだ
リンリンとジュンジュンはバイトしているようであったが、いつもよりも目の周りの化粧が濃かった
久住は生放送のテレビに出ていたが、笑顔がいつもよりもかなりひきつっていた
光井は授業には出ているようだが、うつむいて登校しているで首に巻いたマフラーは黒かった
そして、新垣はお店にすら現れていないらしい

「みんな、つらそうな顔してたと。ガキさんは見とらんけど、特にショックを受けとう。
 もちろん、一番ツライのはサユやと思ってるけど」
「・・・」
道重はカバンからハンカチを取り出し涙を懸命に止めようと悪戦苦闘している
「みんなエリがいなくなったことに向き合うことはできておらんっちゃ
 自分達に出来たことが何かなかったのかってずっと自問自答していると
 もちろん、れーなも悩んだとよ。れーなの思いが足りなかったんじゃないかって」

「ねえ、れーなはどう思ったの?・・・さゆみと戦っているとき」
最後の一言を口に出すのは苦しそうであった
「怖かった?それとも、悲しかった?」
「正直、複雑だったと。さえみさんを倒したらサユを失うことになったかもしれんっていう不安もあった
 さえみさんがれーな達を認めてくれるなら、無事に帰れると思ってたけどさえみさんが暴走して…
 それにさえみさん、手加減しなかったけん、れーな、途中で何をしたいのかわからなくなってたとよ」
「そうなんだ・・・ごめんね、れいな」
道重はさえみが表に出ていた時の記憶はほとんどなかった
「れーなに謝られてもどうしようもないとよ」

「でも、一つだけわからんことがあると・・・なんでさえみさんが消えたのにさゆは消えなかったと?」
「エリの傷の共有で体ボロボロになったのに、なんでサユの体は無事なんやろ?」
れいなはピンクとオレンジ色の光に包まれる直前の二人の姿を思い出していた

「・・・お姉ちゃんが守ってくれたの。『私が消えるからさゆみは生きなさい』って」

亀井の傷を移されたさえみは悟ったのだろう、このままでは自分も消えてしまうと
それは自分が存在する意味そのものであった何より愛しい妹を消すことになる
確かにさゆみとさえみ、二人の存在が消えることになれば永遠にさゆみを自分のモノにできる
ただ、それは・・・さゆみが望んでいることではないとわかっていた
さゆみの望むことを全て叶えてあげたい、それがさえみの生きる目的であったのだから―

「最後の最後までお姉ちゃんがさゆみを守ってくれたの。さゆみが拒否してもやっぱり離れられなかったみたい
 ・・・あのね、れいな、最後にね、お姉ちゃんと会話できたの
『さゆみちゃんに本当に申し訳ないことをしてしまった』って悲しそうな声してたの
それに『さゆみちゃんも大人になった。いつまでも守らなくてもいいのよね』とも言ってた
ただ正直、お姉ちゃんを許していいのかわからないの。だってお姉ちゃんは私自身だったから」
れいなは何も言わない方がいいのだろうと思い黙っている

「それから・・・お姉ちゃんにみんなに伝えてって言われたの」
「なにを言われたと?」
「『私がいなくなってもさゆみをよろしくって、それからエリちゃんのことは償わせてもらいます』って」
「『償う』ってどういうことっちゃ?」
道重はわからないという風に首をかしげているが
「多分、さゆみを守っていたようにエリを守ってくれるんで事だと思うの」

「ほら、そんなことよりれーな、持ってきたの?」
「もちろんとよ、提案したのれーなやけん」
そういいれいなが取りだしたのは猫の飾りのついた青色の携帯ストラップ
さゆみもカバンからピンク色のウサギの飾りのついたピンク色の携帯ストラップを取り出した

「本当ならエリの思い出のモノも一緒に埋めたいっちゃけどれーなお揃いのモノないけん」
そういいながられいなは凍った地面をスコップで掘り始めた
「これ、さゆみエリとお揃いのリングなの。変わりにこれを入れるの」
さゆみはれいなから受けとったストラップ、そして二つのリングを穴の中に丁寧に置いた

れいなが優しく土をかぶせていく
「エリ、ここでゆっくり眠るっちゃ。エリの分までサユとれーな頑張るけん
頑張ってきたぶん、休むと、れーな達負けんからね!」
「さゆみ達、前を向いて行かなくちゃいけないのわかっているの。
 今まで本当にエリと一緒に入れて幸せだったよ。あ、こういうのエリ嫌いだっけ?幸せがああだこうだ言うの
 ・・・そうだよ、今、全然幸せじゃないんだからね!もう幸せになれる気なんてしないんだから!
 エリがいて、馬鹿見たく笑って、泣いて、感情隠さないでいたから楽しかったんだから!!エリのバカ!」
そう大声で叫び、道重は涙を流しながらブーツをはいたその足で荒っぽく土をかけ始めた

れいなと道重の手によって埋められていく絆の証
携帯ストラップもリングも亀井絵里と共に時間を過ごしたという証明
それを忘れないために二人はこの丘に埋め、亀井の『墓』ではない

「エリはこの場所がとても好きだったの。愛ちゃんがこの場所を教えてくれたって言ってたの
 ここならエリも安心して笑っていられるでしょ?・・・この世界一の幸せ者がぁ」
「・・・エリはずっとここで生き続けるっちゃ。多分、れーな達は思いだすんやろうね、風が吹くと」
「アホっぽくて、適当で、天然で、だけど誰より考えていて、強くて、意地っ張りなエリのことを」
自然と手を握っていたれいなとさゆみ、そんな二人の間を一筋の風が吹きぬけた

「さあ、さゆ、リゾナントに戻って愛ちゃん達に何か作ってもらうよ!
 愛ちゃん達はまだ立ち直れていないっちゃけど、いつまでも立ち止まれないやろ?
 出会うのも運命、だけど別れ、それも運命っちゃろ!うじうじしてたらエリにバカにされるっちゃ!」
「・・・そうだね、愛ちゃん達にも早く向き合って欲しいの!エリ、さゆみ負けないから笑ってみてて!」
れいなとさゆみ、二人は小さく「ありがとう」と呟き、今来た道を駆け足で戻り始めた


(2)


                ★   ★   ★   ★   ★   ★

誰にもつけられていないことを確認して彼女は部屋に入った
施錠したことを確認して、ほっと一息つき、右手をのばし部屋全体に灯りをつけた

「元気にしてた?ほら、ここにあなたの大好物を置いておくから」
女は近くに立っている若栗色の女の子の足元にプリンを置き、目を閉じて手を胸の前に合わせた
「今日で、あなたがここにきて3年ね、どう?後悔してる?」
女の子は何も言わずに目を大きく見開いたまま微動だにしない

女は部屋の奥へと足を進め、奥に置かれたテーブルにカバンを置き近くの椅子に座った
「ただいま、久しぶりね、元気だった?」
椅子のすぐ横に立っている茶髪の女に声かけたが、その女もやはり反応はない
「・・・あんたが話せたらいいんだけどね・・・まだその時じゃないのよ、残念ね」
女は一人呟き、部屋を見渡した

部屋の中には数十人の人間の姿、ただしそれらはまったく動いておらず人形の館の様だ
思い思いの格好のまま止まっていて、呼吸すらしていないのだが、死んでいるのではない
彼らはこの部屋の主である女―保田圭によって永遠の時を与えられた存在だからだ

保田は時々この部屋にやってきては彼らの欲望のあまり止められた愚かさを確認しに来ていた
それは自分自身が強欲であることを戒めるためでもあり、同時に変化がないことを見るためであった

数日ぶりに来たこの部屋にはほとんど変化はない
保田がテーブル横の女の足元にかぼちゃプリンを置き、自分は持参した水筒からコーヒーを飲みだした
「あらやだ、おいしいじゃない。あのお店いいもの扱っているのね」

保田の目はゆっくりとかぼちゃプリンを置いた女の隣へと移動する
そこには栗色のふんわりとした髪の女の姿が。もちろん止められている
ゆっくりと保田はその女性の全身を眺め、変にねじれているところがないことを確認した

時々・・・保田の力が弱まり、勝手に動くことがあったのだ
それは主に、大きな相手、Gだの天使と戦う時に限られてはいたが用心にこしたことはないと考えている

時間を止めること、それが保田の能力
あの時-さえみに消されそうになった吉澤、マルシェを救いだしたのもその力があったためだ
マルシェと吉澤を連れて帰ってきたのはもう一週間も前のことになる

                ★    ★   ★   ★   ★   ★

「おかえり~キャハハ、圭ちゃん大変だったねえ~」
転送装置に乗って本部に帰ってきた保田、吉澤、マルシェを出迎えたのは矢口だった
「矢口さん、珍しいですね、お出迎えしてくださるなんて」
「キャハハ、誰か幹部が消えればおいらの出世も近づくじゃん、残念だけどみんな無事なようだね」
そういいながらも矢口が出迎えてくれたことがマルシェにとっては嬉しかった

「矢口いいの?仕事中でしょ?」と尋ねる保田にも矢口は「休憩」といって相変わらず笑っている
「それじゃあ、俺は疲れたからシャワー浴びて来るわ」
さえみと戦い自慢の髪の毛に埃が付き、汗をかいた吉澤が早々に立ち去ろうとした
しかし、矢口が吉澤を呼びとめた
「ちょっとよし子、少しくらい話聞かせてよ。おいらの部屋に来てさ、コーヒーくらい用意するからさ」
先輩の半ば強制的な誘いを断れることなく、4人は矢口の部屋へと向かった

矢口の部屋は巷で人気のフィギィアや漫画が置かれており、悪の幹部の部屋とはとうてい思えなかった
矢口は自分の椅子に座り、保田達は部屋に置かれているソファーに腰掛けた
机の上に置かれたボタンを押し、「すぐにコーヒー4つね」と矢口が注文する。どうやら厨房と繋がっているようだ

「それで一体何があったって?マルシェ、簡潔に説明してね」
「あ、はい。あ、でも一体矢口さんはどこから知っているんですか?」
マルシェは矢口が何を聴きたいのか把握するために尋ねた
「ん?おいらが知っていること?」
矢口がうーんと指を顎に当てて考え出した
「そうだね・・・あの誘拐現場での犯人がさえみさんってことくらいかな?」

「え?なんで矢口さん、そんなこと知っているんすか!?」
そう声を上げたのは吉澤だった。犯人がさえみだと判明したのは本人の口からでたからだった
にもかかわらず目の前にいる先輩は行かなかったにも関わらずそのことを知っていた
あの現場で唯一生き残った男の精神にダイブした吉澤ですら犯人がさえみであることはわからなった
なのに・・・なぜ?

そこにノックの音
「矢口様、コーヒーお持ちいたしました」「ごくろうさん、入っていいよ~」
ドアノブが回される音がして「失礼いたします」と男が入ってきた
その男の顔に吉澤は見覚えがあった
「あ!お前!なんでここにいるんだ!」

吉澤が驚いたのも無理もないだろう、そこにいたのはさえみに消されなかった誘拐犯の唯一の生き残りの男だった
この男の心に吉澤は前日に飛び込んだばかりで、後の『処理』を矢口に任したはずだったからだ
処理とは言わずもがな―消すことだが、なぜかこの場にいる

「矢口様、こちらケーキもお持ちいたしました」
矢口にお盆に載せたケーキを渡している男に矢口は「相変わらず気がきくね~」と言った
「矢口さん!こいつと知り合いなんですか?」
吉澤が尋ねると男は吉澤の姿を見て背筋を伸ばして、敬礼した

「ん?こいつ?ああ、おいらの部下の一人だけど、言っていなかったっけ?」
敬礼している男を指差して矢口が紹介した

「吉澤がこいつの心に飛び込んだときに教えていなかったけ?キャハハ」
矢口が憎たらしく笑うのをみて吉澤は苦虫をつぶした表情を浮かべた
「・・・どうりでこいつの心をしっかりと見れなかったわけだ
 矢口さん、あなたが外から俺の『ダイブ』を邪魔していたってわけですか」
吉澤の言葉にも動揺せず矢口はケーキにフォークを伸ばした

吉澤はマイペースにティータイムを楽しむ矢口を見て一人考えた
(よく考えれば、こいつらがどうやって能力者を選別して集めていたのかわかる
 矢口さんが頂点を務めている部隊なら能力の保有の有無を判定できるからな
 前もって矢口さんが部下に『こいつ』と指示すればただ隊員達は捕まえるだけでいいからな)

一年前の雅との接触の際にも矢口は雅を「能力者」として判断する目を使っていた
今回の「能力者のたまご」を集めるにも矢口の「能力者判定」がなければ不可能であるはずだ

マルシェも同じことを考えていたのだろう。思わず口に出してしまった
「まさか矢口さんが絡んでいたなんて思ってもいませんでした
 ・・・しかし、そうだとしてもなんで道重さゆみを連れ去ったんですか?彼女は強力な能力者なのに」
マルシェの疑問に対して矢口はぴくりと少しだけ体を動かして反応してしまった
「なにか大きな理由があるみたいですね。ただ、矢口さんが言わないってことは・・・」
「別に大した意味なんてないよ、よし子。メンドクサイだけ」
矢口が空になった皿を机に置きながら言った

言わないでいるものつまらないと思ったのか矢口は自ら口火を切った
「ねえ、マルシェはさ~今回のおいらの目的は何だと思う?」
「え?それは新しい能力者を捕まえて支配下に置くためかと」
突然名指しされたとはいえ、まさにマルシェはお手本のような回答を示した
「キャハハ・・・マルシェは本当に教科書通りだね~キャハハ・・・
 ブー、残念でした~そんな普通のことしてたら道重なんて連れていかないって」
「つーことは道重は『あえて』連れ去ったということになりますね、矢口さん」
矢口はどうして、吉澤に対してだけ「どうだか」とはぐらかしてばかりだ
そんな先輩の姿を見て吉澤はなんとなくいらいらを感じずにはいられない

「あたしの考えなんだけど、矢口は道重を暴走させるつもりだったんじゃない?」
低い声で保田がマルシェと吉澤の視線を惹きつけた
「あんた達は知らないかもしれないけど、道重が連れ去られる前日、あいつらと私達の小隊がぶつかったの
 それはもちろん、ダークネスが撤退して終わったけど、それはどこの部隊かと言うと矢口のところ
 しかもそこで道重さえみによって一隊員が消されている」
矢口はなんでそのことを知っているんだ?とでもいう表情だ

「それから吉澤がだれよりも知っているだろうが…一年前の雅との接触の際にあいつの心の中に闇を感じたでしょう?」
「ええ、保田さん、雅の中には田中へのねじ曲がった愛情が詰まってましたよ」
「吉澤、あなた、撤退するときに雅になんて言ったか覚えているかしら?」
「『ダークネスは闇に巣くいし者。いつでも闇を持つ者がいれば、そいつに近づき…闇へといざなう』」
吉澤はゆっくりとそのボスから教えられたダークネスの存在する意味を噛みしめながら口に出した

「それなら道重さえみはどういう存在?正義という光の元に生きている道重さえみを支える影の存在
 その一方で彼女はリゾナンターとして戦ったことは一度もなく、たださゆみを守るだけの存在
 彼女は決して正義ではなく、むしろ雅に似たねじ曲がった愛情の塊であったといえないかしら?」
保田の推理の範囲でしかならない想像に矢口は鉄仮面をかぶったように表情は変えまいと必死だ
「さえみは闇に巣くいし存在。そして、矢口はこう思ったんじゃないかしら?
 『もし、さえみが仲間を裏切ったならば誰も止められず、リゾナンターは消される』とね
 そしてリゾナンターを消し去ったら、今度はダークネスがさえみを倒す、いや私が『止める』と」

ダークネスの言っていたさえみを止める手段、それはなんてことはない保田の『時間停止』だった
動きを止めてしまえば何も怖くない、そのために多少の犠牲はあるのかもしれないが致し方が無いことだと

「ついでに言うと熊井っていう子、あれは単なる偶然だったんでしょうね
 矢口が誰でもいいから身近にいた能力者を集めた時に偶然混ざってしまっただけの存在でしょうね」
マルシェは逃してしまった可愛い獣化能力者を思い、強く唇を噛んだ
「おい、マルシェ、目がやばいぞ」
マルシェの目をみて吉澤が肩をたたき、マルシェはウーっと唸った

                ★   ★   ★   ★   ★   ★


(3)


保田の推理に対して矢口は何も言わなかったが、おそらく図星なのだろう
突然仕事の時間だといって部屋を飛び出してしまったのだから

保田の推理を聴いた吉澤とマルシェは何も言わなかった
別に自身が出世するためだとかリゾナンターが嫌いとかそんな理由でしたわけではないこともわかっている
全ては組織のため、だと、上から許可が下りているということを

そのことをあの二人がどうとらえたのかはわからない
本来ならばリゾナンターは私達にとっては邪魔だけの存在なのだが…奇妙な感情が湧いているのも事実だ

あれからそれなりの日にちがたっているが、あの二人はきっと前と変わらない日常を送っているのだろう
相変わらず矢口は笑っていて、吉澤は裏世界を駆けまわり、マルシェは兵器制作に取り掛かる
先程、表世界に出たが、喫茶リゾナントも開いているし、月島きらりもテレビで笑っている
大学受験の近い光井もおそらく学校に出ているだろうし、ジュンリンも生きるためバイトをしているだろう
雅も熊井も変わらず学校で笑っているようだ―熊井の記憶は雅が消したようだが

もちろん一人という人間が消えたこと、特に身近にいるならば、それは確かに精神的には大きい
だからといって日常が全て崩れるというわけではないのだろう
関わることが少ない、多い、そんなことは関係ないのであろう
変わらないのだろう、だってみんな、生きていくしかないのだから
命のある限り前に進み続ける、それは仕方がないこと

ただ思わざるを得ないこともあった
この世に生きること、それは人と人との関わりで、人は一人では生きていけないということ
でもそれは一人くらい欠けたって世界は変わらないことの裏返し
小さい一人がどんだけ大きな声をあげてみても、どれだけ立派なことを叫んでもそれは小さいこと
それを認め、共に動いてくれる存在がいなければ止まってしまう
仲間という存在は一人では生きていけない私達が生きていくために見つけ出した手段なのだろう

結局、私、そんな一人は小さい歯車(motor)にすぎないのだろう
歯車を集めて、互いに支え合って大きな力になる、そうなのだろうか

じゃあ、それが二人だったらどうなのだろうか?
それも大切な二人を―さえみと親友、亀井絵里を失ったならば?
ここで言っているのはもちろん、道重さゆみのことだ

あの子は自分では気付いていないが依存して生きていた
「気付いていないこと」、それは彼女にとって偶然ながら幸せなことだろう
なぜなら、今はまだツライだけの感情が先走っているのだから

私くらいの年齢になれば誰だって大切な人を失うという経験はしたことがあるだろう
悲しみにうちひしがれ、思い出を巡り、最後には居なくなったことを受け入れる、そんな過程を取る
関わりが深ければ深いほど立ち直るまでには時間がかかる
そう、彼女が耐えなくてはならないのはこれからなのだろう
笑ってくれる仲間は多くても、一番傍にいた人がいない、一番近くで慰めてた人を失った

でも、こういうときだから泣くのが一番なんだろう、悲しい時なんだからこそ
止めたりしちゃダメ、素直の心を溢れるままに任せていけばいつかは気持ちは晴れるんだろう
溜めこんでいて誰にも言えなかったからこそ、爆発してしまった
弱さを見せること、それは本当の意味での強くなるために必要なことなんだから

これくらいしか私はこの子にかけられる言葉は無いのだろう

あの日-道重さえみが暴走した日、私はダークネス本部に戻ってきた
それは、矢口の計画に隠されたもう一つの計画をするため
ボスから「矢口が動く」との連絡が入って来て、急いでここにやってきた
そして急いで…道重のもとへと『移動』した。そうあの『移動装置』を使って

マルシェ達もリゾナンターも疑問に思っていたのだろうか?訊かなかったが
どうやって道重と熊井があんな倉庫から遠く離れた森の中に移動したのか、ということを
どうやったとしても誰かに見つかってしまうだろう、あの二人だけの移動では

だからこそ私が時間を止めて二人をあの場所へと送ったの
もちろん二人ともなんであの場所に現れたのかは疑問に思うから、手紙を残しておいたけどね

ボスから「矢口が動く」との連絡が入って来て、急いでここにやってきた
そして急いで…道重のもとへと『移動』した。そうあの『移動装置』を使って

マルシェ達もリゾナンターも疑問に思っていたのだろうか?訊かなかったが
どうやって道重と熊井があんな倉庫から遠く離れた森の中に移動したのか、ということを
どうやったとしても誰かに見つかってしまうだろう、あの二人だけの移動では

だからこそ私が時間を止めて二人をあの場所へと『送った』
もちろん二人ともなんであの場所に現れたのかは疑問に思うから、手紙を残しておいたけどね
手紙には宛名は書かず、住所とこの建物が誰にも使われていないので人が来ないことを記しておいた
その手紙は・・・裏に熊井が雅を助けるために『逃げて』と書かれていたわね
そう、あの時、マルシェとリゾナンターをさえみの光から救う時に取り返させてもらったわ

ただ時間が止まった間は私が触れたもの以外は動かせないから、移動する時に余計なものも移動させざると得なかった
そう、それは死んだ隊員と部屋に置かれたテーブル
あの装置で隊員の一部とテーブルの角が削られて、その部分は異空間へと消えた
だからこそ、あんな綺麗な円形に抉られたテーブルが残してしまったのだ
もちろんすぐにリゾナンターが来てしまったので処理することが間に合わなかったのが残念だが仕方がない
幸運なことにあいつらはそのことに気がつかなかったのだが

なんのためかって?それはシンプルな理由
道重の暴走をより強力にするには一旦エネルギーを抑えなくてはいけないから
食事もこっそりと『嗣永印』の野菜を置いて届けるなど、支給していた
時間がたてばたつほど怒りのエネルギーが強くなる、そうボスがおっしゃっていたからそれに従っただけ
―そう、私はそれに従っただけのこと

そして実際に、さえみは私達の想像以上の暴走を見せてくれた
残念ながらリゾナンターを消すことは出来なかったが、まあ、それはいいだろう
必ず成功する作戦は無いのだし、リゾナンター達は仲間を失ったと思い落ち込んでいるのだから

そろそろ会議の時間だわ、またここに来るわね
さあ、強欲の象徴のみんな、またお会いしましょうね

あ、そういえばあなたにはまだ何も置いてなかったわね、新入りさん

はい、これ、あんたの好物なんでしょ?置いておくわね

ピンク色のお漬物とチーズケーキ

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

『聖痕』-それはイエス・キリストが磔刑となった際についたとされる傷
足首なり手首なりに残され、科学では証明できない神秘の傷

部屋を去る保田を見送る人は誰もいない
みな、永遠の時の中に閉じ込められているのだから

しかし、保田は知らない、たった今『お供え物』を置いた栗色の髪の女が残したものを
それは服で隠れた彼女の背中の傷

タイプは違うのだろうがある意味ではその傷も『聖痕』と言っていいのかもしれない
女の背中には傷が浮かんでいた
そして、その傷は部屋を出ていった保田の背中にも同じ位置にできている

健康的なその肌に刻まれていたのは本当に短い文章
『絵里は生きてるよ』

保田が出ていき暫くするとその女の目が金色に光った・・・ように見えた
それは部屋に差し込む僅かな光の加減なのかもしれないし、そうではないのかもしれない