『VanishⅡ~independent Girl~(8)』 - 9


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(9)
亀井の風に囲まれた7人は笑顔で手を振る亀井を見て呆気に取られていた
「あっしの右手も小春の右腕も『傷の移動』で自分の体に傷を移したっていうの?」
高橋は自分の右手が戻ってきたのが信じられないと、掌の感覚を確かめている。
「そんなことよりカメはなにする気なのよ!嫌な予感しかしないんだけど!!」
新垣は亀井の先程の笑顔が今まで見たことのない種類の笑顔であったのを感じていた

「でも、この風から出れませんよ」
久住とリンリンが雷と炎を放っているが、風はカマイタチの性質を持っているようで一向に弱まらない
獣化したジュンジュンが風の中に飛び込んだが、外に出られず弾き飛ばされた
「全然出れナイゾ」
「れいなもさっきからしてるけん、わかってるとよ!」

そんなギャーギャーと騒ぎ戸惑っている高橋達を尻目に亀井はすぅっと呼吸を整え始めた

(愛ちゃん達がずっとさえみさんと戦っている時からエリはずっと愛ちゃん達を守る方法を考えていたの
 風のバリアを張って…あそこから出られないようにすることがまず一つ)

亀井は走り出した―さえみに向かって

(そして、これがもう一つのみんなを、世界を救う確実な方法なんだ)

さえみに向かって走り出す亀井の姿は高橋達にも見えていた
「愛ちゃん、エリが!」
「亀井さん、勝手に何しはる気ですか!!」

仲間達の怒号が飛ぶ中亀井はさえみとの距離を詰めていく

走り出した亀井の右腕は消えている
それは久住がさえみから移したもの

(小春ちゃんは初めは鋭い目つきが怖かったし、全然エリを信用してくれなかったよね
 でも時を重ねていくにつれて小春ちゃんの本当の部分が見えてきた
 信じられないくらいに純粋でまっすぐで綺麗な瞳をしていたよね
 思うんだよ、エリ、小春ちゃんみたいな子と出会えてよかった、って
 だって誰よりも人の醜さを見ていたはずの小春ちゃんがあんなに綺麗な瞳をしていたなんて
 いつでもうるさくて、自分勝手で、ワガママで、だけど本当は泣き虫で寂しがりやな小春ちゃん
 いつまでも元気で明るい笑顔を忘れないでね)

そんなことを思われているとも知らずに久住は
「亀井さん、何するんですか?教えてくださいよ」と叫んでいる

さえみに近づいていく亀井の耳に片言の日本語が届いた
「亀井サン、やめてクダサイ!また一緒にご飯食べる約束したじゃナイデスカ」

(リンリン、こんなときまで笑わせようとしないでよ
 生きるか死ぬかって時にご飯なんて、リンリンらしいな
 正直、羨ましかったよ。リンリンのギャグはつまんなくてなんか嬉しかった
 同じ匂いがするなあってさ、でもいつの間にか本当に面白くなって、あなたのまわりには笑顔が咲いていた
 でもね、みんなのために頑張りすぎてこっそりと泣いていることも知ってたの
 ・・・そんなリンリンが大好きだし、生き残ってエリの分まで笑ってほしいの)

亀井がそんなことを思っていると後ろから大声が飛んできた
「亀井さん、二秒後、左から来ます!」

(ふふふ、愛佳、こんなときでも指示してくれるなんて嬉しいな、エリ勝手なことしているのに
 正直初めて出会ったときは自分に自信がない愛佳を、昔の絵里と一緒だなあって重ねてたよ
 友達もいないし、笑顔もなかったし、何よりつまらなさそうだった、生きていることが
 でも時間をかけて自分の弱さを受け入れて、びっくりするくらいに変わったよね
 いつの間にか自然に笑えるようになって、みんなを笑わせてくれることもあってさ
 でもただ笑うだけじゃなくてしっかり周りを見てくれて、本当に大人だよね
 エリと違って頭がいい愛佳なら、きっとみんなを守ってくれるよね)

光井の言葉に従って、亀井が体を右に傾け、さえみの光を避けた
後方の壁に綺麗な円形の穴が空く
「亀井サン、何しているデスカ、いつも亀井サンはワガママダ!」
もう一人のカタコトな日本語が耳に飛び込んできた

(ジュンジュン、最初に連れられて来た時は驚いたよ、だって裸だったんだから
 獣化能力って聴いてどんな怖い動物になるかって思ったらパンダだよ、笑いこらえるの大変だったんだから
 エリ達よりも後に仲間になったけどみんなを包み込んでくれるその暖かさってどこから来るのかな?
 寛容な心で気配りができて、それでいて主張するときはしっかり主張する
 それで甘えてきたりする…本当にジュンジュンって変わってるよね
 でも、そんなジュンジュンのことがエリは大好きなんだよ)

さえみに近づくにつれて光の濃度は増していく
距離にしてほんの10mほどまで近づくと、さすがにさえみも亀井の存在に気がつく
視界に入ってはいけないと思い、必死に避け続ける

ただそれも限界に近づき、一筋の光が亀井の左腕に突き刺さる
光に照らされ、ゆっくりと消えていく亀井の左腕
不思議と消えていく左腕に痛みは感じなかった
消えるってこういうものなんだって思い、亀井は微笑んだ

それを遠目から眺めているしかできない仲間達
「アホカメ!!やめなさいよ!」

(ガキさん、いつもガキさんは『このぽけぽけぷうが!』って突っ込んでくれましたね
 本当はエリと同じくらいにボケなのに、ガキさんったらおかしいですよ
 でもガキさんがいたからエリは好き勝手出来ていたんだと思っています
 エリが適当にしたこともガキさんが一生懸命フォローしてくれてエリは嬉しかったです
 適当な絵里と生真面目なガキさんだから息があったのかもしれないですね
 最後にまた自分勝手なことしちゃったけど、アホだからできるんですよ、可愛いアホですよ
 ガキさん、アホの意地みててくださいよ)

さえみは亀井の姿を捉えているのかどうかも分からない
ただもう無茶苦茶に光を放ち、全てを消そうとしている
その適当に放った光がまた一つ亀井に突き刺さる

消されたのは亀井の左足
自分の軸足を失った亀井はバランスを失い、地面に前のめりに倒れ込む
「エリ、何しとると!早く立つっちゃ!!」

倒れ込みながら亀井はおもった

(れいなか・・・こんな出逢いでなくちゃ絶対友達にはならなかっただろうな、怖いもん
 初めて出会ったのはエリが入院していた病院だったね
 あの時にはこんなにれいなに対して心を開けるようになるなんて思っていなかったよ
 ずっと一人だったから誰よりも仲間っていうものを大事にしてくれるれいな
 ただ不器用で意地っ張りだから素直になれないのも知ってるよ…ぶっちゃけるけどね
 でもそうやって真正面から言ってくれるのがれいなのいい所なんだよね
 本当はもっと、ずっと一緒にいたかったけど…)

右腕も左腕も左足も消えた亀井は立ちあがることはできない
(神様、ワガママなエリにもう少しだけ力をください)
亀井が眉間にしわをよせて全身に力を込める

建物内に強烈な風が流れ込んできた
風は壁を強く揺らし、瓦礫を宙に舞わせ亀井へと流れていく
埃により流れが見えるようになった風は亀井へと纏わりつき、幾重にも幾重にも重なりあう
失われた右手を握りしめるような感覚で亀井は右手を指揮者のように振るイメージを浮かべた

まとわりついた風が亀井を優しく包み、ゆっくりと、本当にゆっくりとその体を浮かび上がらせる
「!!亀井さんが空を飛んではります!!」

亀井はかつて光井から言われたことを思い出していた
『うまく風をとらえられれば空を飛ぶことだってできる』
光井の言っていることは難しかったが、亀井は何となく理解していた
―そう感覚的に

(練習してたわけじゃないけど…今のエリなら出来るような気がしたんだ)
驚いているのは亀井自身も含まれていた、できるなんて思っていわけではないから

風に包まれ亀井はさえみに向かって更に向かって飛んで行く

「止めるんや、エリ!一人で行くんじゃない!あっし達を置いて一人で行く気か!」
亀井の作った風の防御壁の中から聴こえる高橋の声にも亀井は振り向きもしない

(・・・愛ちゃん、エリは本当に愛ちゃんに会えて感謝しています
 こんなにたくさんの仲間、いや友達に恵まれて幸せですよ
 みんな体が弱くて可哀そうとかいうけれど、この体のおかげでみんなに出会えたんだから
 幸せだなあってエリは思うんですよ、そうじゃなきゃこんなに光のある世界に生きている価値がないなって
 エリ思うんです、小さい幸せが多すぎて幸せに気付かなさ過ぎているんですよ。
 幸せって気付かないくらいがちょうどいいんですよ、幸せって気付いたらそれまでは幸せじゃないんですから
 ホントのこと言うと愛ちゃんと出会う前からエリは幸せだったけど、もっともっと幸せになれましたよ
 ねえ、だから、いつも愛ちゃんの背中を見ていたけど、最後くらいエリの背中を見ていてください)

さすがにさえみの周囲には破壊の光が蜘蛛の糸のように張っているようだった
風で舞い上がった塵がさえみの周囲で綺麗に消されているのだから
でもさえみに近づくにはそこを突っ切っていくほか道はない

(それにいつさえみさんの光が愛ちゃん達に向けられるか分からないし・・・)
躊躇っている時間はない、亀井の背を押すように強い風が吹いた

ほんの少し動くだけでもさえみの光が亀井に降り注ぐ
風は光を曲げることなんてできないので容赦なく亀井は光を受けるしかない

光は亀井の顔、上半身、下半身、至る所に突き刺さる
寒さを防ぐために着ていた可愛い洋服はつぎつぎと消え去り、亀井本人の白い肌がむきだしになる
しかしその肌も次の瞬間には淡雪のように溶けていく
ぼろぼろと欠けていく自身の体を亀井はすごく冷静に見ていた
(こうやって消えていったんだ。でもよかった、思ったほど痛みはないよ)

さえみと視線があったとしても、この手の届く距離なら何も怖くない
亀井はさえみの正面に回った

遠目から見る亀井の姿はもう人の形をとどめていなかった
形容するなら小さい頃に遊んで、今は壊れてしまった着せ替え人形
腕も足も欠け、ぼろぼろになって浮かんでいる姿は海月を連想させた
高橋は目をまん丸に見開いて一人で震えるしかない

そんな仲間の様子を知ってか知らずか亀井を纏う風はますます強さを増す
破壊の光の中心にいるさえみの胸へと亀井は飛び込んだ

(さえみさんを確実に倒す方法、これしか思い浮かばなかったんだ)

自身の胸の中に飛び込んだものが何かしっかり見ようとさえみはゆっくりと視線を下ろす
さえみが見たのは顔に何重もの穴を開けた人の亀井
それでも何とか保たれている亀井の口はにこっと笑顔だった

「みんな、さえみさんを見て!」
新垣がさえみを指差す
遠いのではっきりとは分からないが、さえみの体に変化が起きていた

―左脚、両手が欠け、体中に無数の穴が開きはじめていたのだ

「あれは」「亀井サンの」「傷の移動と共有っちゃ」

さえみはどんな傷でも必ず消すことが出来る。だからこそ一気に倒さなくてはいけない
でも、亀井の力なら消すことはできないはずだ、と
自分自身にできた傷を治してしまえば、それは移した『傷』、元の持ち主の傷も消えてしまう
それに一回で大きな傷、治せないほど大きな傷を共有させれば―倒せる、と

だからこそ亀井は光を受け続け、さえみの懐に飛び込んだのだ

しかし、その代償は大きい
さえみに治させないほど深い傷を自分自身が負わなくてはいけないのだから

それにもう一つ、亀井は覚悟を決めていた・・・『さえみさんを助けよう』と
亀井にとって『さゆみ』はたった一人の存在であり、『さゆみ』は『さえみ』で、『さえみ』は『さゆみ』
さえみが亀井を妬んでいるのと違い、亀井は何もさえみに譜の感情は持ち合わせていなかった
むしろさゆみを守ってくれたことに対する感謝の気持ちが強い

そんなさえみが苦しんでいる―それを知った亀井がまず思ったことは他の7人とは違った
「さゆを救わなくては」ではなく「さえみさんを救ってあげたい」だった
それが戦っているうちに少しずつさえみの本心が分かってきた

「居場所が欲しい」

それがさえみの思い、そう亀井は感じた

だからこそ、亀井は決意したのだ
さえみといつまでも一緒にいてあげよう、と

さゆみと時を重ねたように、今度はさえみと時を重ねよう
一緒になって消えたとしても、さえみが生きていけるような意味を持たせてあげようと
それが亀井がさえみにできる最高の恩返しだと思った

そうして今は亀井はさえみの胸の中にいる
歯の欠け、風穴の空いた口からは自身が生みだした風が往来し奇妙な笛の音をならす

それでも亀井は笑ってさえみの目をじっと見つめる
もう喉は壊されて声は出ない
筋肉が壊されて動かすことはできない
神経が壊れて感覚なんて失われている
それでもさえみの目をじっと見つめている

幸運なことに脳への損傷は思った以上に少なく、まだ考えられる余裕があった
(ごめんなさい、さえみさん、こんなことまでしてさゆを守りたいなんて思ってもいなかったの
 でも、今後は私がずっと一緒にいますから、安心してください
 さゆには私以外にもたくさんお友達が出来ましたし、ずっと強くなりましたよ

 最後にさゆみに一言だけ言わせてください)

そして風がゆっくりと亀井を持ち上げ、道重と亀井の顔が同じ高さになる

(さゆぅ、大好きだよ)

強い風が亀井を押し上げ、満面の笑みを浮かべた亀井の唇が道重の頬にそっと触れた

亀井の唇が触れた瞬間、亀井とさえみの周囲から桃色とオレンジ色の光と強烈な風が放たれた
光と風は建物を突き抜け、森を走り抜ける

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

風が止んだのを確認して高橋はゆっくりと仲間たちの姿を確認し始めた
1、2、3、4、5、6、そして自分を入れて7人
さえみの放つ桃色の破壊の光は消えており、部屋の中はぼんやりと仄暗い
「カメは?さえみさんは?」
新垣がゆっくりと立ち上がる

そこに迫ってくる足音

コツン、コツン

ブーツの音を立てて近づいてきたのは、一人の黒髪の女-道重だった
女は何も言わないで、高橋達の姿を眺めた
「さえみさん?それともさゆ?」

「・・・愛ちゃん」
「さゆや!!」
道重の姿をしたものから高橋の名前が出たのでれいなは思わず駈け寄ろうとする
「「道重さん」」「「サン」」
次いで久住、光井、ジュンジュン、リンリンの4人も駈け寄っていく

抱きしめられてもさゆみは嬉しそうな顔一つしない
「?」
道重はれいなを振り払い高橋と新垣の元へと向かって駈け寄り、高橋の腕を思いっきり掴んだ

「愛ちゃん…どうしよう?さゆみ、エリを・・・」
高橋と新垣は何も言えなかった
これまで一度たりともさゆみがさえみだった時の記憶を覚えていたことが無かったのだから
「消しちゃった…一番大事な人を、この手で…どうしよう…
 うわぁぁぁぁぁぁぁぁああああん」
道重は人目もはばからず大声で泣いた

高橋は何も言わずに、道重をぎゅっと抱きしめ、一緒に泣いた
そして、新垣はそんな道重の姿を見て大声で叫んだ
「アホカメェェェx」
静かにその声は行きつく場所を探すように冬の空へと登っていく

もう風は吹かなかった

(Vanish! Ⅱ(8) 完) エピローグに続く。