『モーニング戦隊リゾナンターR 第17話 「世界を変えるチカラ」』


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Aパート

【前回のストーリー】
「A」と別れ、風に乗って新たなる世界にたどり着いた愛は炎で襲撃された。
襲撃者は刃千史機関の緑炎執行人、蠍火。
自分も知っているリンリンと同じ姿をしている蠍火に、リンリンの口癖「バッチリです」をぶつけてみた愛だったが、反応は冷たいものだった。
愛を付け狙う小川も同じ世界にやって来ていた。 予知能力者、飯田の手助けをするためだ。
病院の院長に収まり、何かを画策する飯田は小川に命じて自分の絵を院内の各所に飾らせた。
その仕事の途中でミクという子供と知り合った小川だが、突然体の変調を覚える。 飯田の絵によって張り巡らされた結界の影響を受けたのだ。
自分を騙した飯田を詰る小川、当の飯田はミクを誘い自分の執務室へと戻る。 
蠍火は緑炎執行の対象の居場所へと向かう蠍火は、自分の初仕事の時に起きた出来事を思い出していた。
それは罪も無き子を殺めてしまった消し去ってしまいたい過去。
その頃病院内に館内放送が響く。 「世界の破壊者、高橋愛様。 院長がお待ちです。 院長室までお越しください」

第17話 「世界を変えるチカラ」

                    ★★

「…お前もあの忌々しい占い女の仲間か!!」

視線が交錯した。
自分と同じように、院長室のあるフロアを見上げている女と視線が交錯した。
感情を捨て去ったよう貌を職員用の白衣で包んだ女の体つきや所作を見て取った小川は、その女が自分と同じように能力を持った戦闘要員であることに気づいた。
それは向こうも同じようだった。

飯田は自分を騙した。
この世界の在り方を偽って自分に知らせていた。
高橋愛への対応も自分に隠していた。
そんな飯田だったら、自分の知らない能力者をこの世界の何処かに伏せておくことぐらい平気でやるだろう。

飯田への怒りは小川を衝き動かした。
飯田の結界は蜘蛛の糸のように絡みつき、腐臭を放ちながら小川の脳髄に侵食していた。

―私の能力は"反射”
 そのチカラ単独では何者をも倒すことは叶わない
 しかし発動すれば、いかなる刃も私を侵すことは出来ない
 あんな交信女の張った結界ごとき…          ― 

小川は“反射”を発動させた。
精神系の能力者にしか視認できない思念の糸は周囲の人間に向かって跳ね返されていく。
元々一般の人間には何の効力も無い思念の糸を浴びたところで、殆どの人間には何の影響も無い。
不幸だったのは、精神系の能力者の資質のある人間だった。
小川の居たフロアには職員や患者を合わせて30名ばかりの人間がいたが、その内の5,6名がその条件に合致した。
平素は第六感が鋭いと言われながら能力者として覚醒したわけではない彼らは、思念の糸の集中砲火を浴びて気分を悪くしてその場に倒れこむ。

突然倒れこんだ彼らを助けようとする一般の人々。
道が出来た。
職員用の白衣を着た能力者に向かって、一筋の道が出来た。
小川は殺到した。

                    ☆

子供たちだった。
白い清潔な上下のツナギを身に着けたたくさんの子供たちが居た。
その姿はさっき愛が回廊で見かけた子供たちと同じだったが、顔は一緒なのかはわからない。

―君たち、一体ここで何を―

そう言おうとした愛だったが、実際に口にしたのは異なる言葉だった。

「あひゃぁ。 どの子も賢そうな顔してる。 はじめまして、わたしはアイ。 今日はわたしと鬼ごっこをして遊びましょうか」

言い終わるなり、一番遠くに居た子供の懐に飛び込んだアイは、小さな胸を腕で貫いていた。
アイは自分の肉体を瞬時に粒子化させると、子供の細胞間に浸透させ糊化力を奪っていく。
結合性を喪失した子供の肉体は、アイの光によって内部から崩壊を起こしやがて塵となって…消えた。

「制限時間の間、逃げられたらあんたらの勝ち。 でもあたしに捕まえられたらこうなる」

恐怖に顔を歪ませ逃げ惑う子供たち。
狩りが始まった。

                    ★★

「…お前もあの忌々しい占い女の仲間か!!」

蠍火は何を言われているのか判らなかった。
それ以前に自分に叫んでる女が誰なのか判らなかった。
一、二度見かけた覚えはある。
自分が職員として潜入する少し前に就任したという新院長の傍らにいたような気がする。
しかし、その女の素性には興味が無かった。
自分は緑炎執行の為に、身分を偽ってこの病院に潜入したのだ。
使命を果たすために必要なことには注力するが、そうでないことには興味を抱くことはない。
そうして自分の周りで起きた出来事を過去の風景として置き去ることで、今日まで生きてきた。
だから、清掃員の作業着を身に着けたその女が何者であっても構わない。
それは蠍火の自信の裏返しだといっていい。
どんな能力者であっても、どんなスキルを有していたとしても、最終的に遅れを取ることはないという経験に裏打ちされた自信。

人が倒れてゆく。
小川の“反射”によって跳ね返された飯田の結界の余波を食らって人が倒れてゆく。

―これは、あの女の仕業?―

自分に向けられた敵意に続いて顕れた現象。
その根源があの女だと思って間違いは無い。
問題はそのタイプだ。

蠍火は飯田の結界を認識していない。
能力者として飯田の思念らしきものを察知してはいるが、その全容を把握してはいない。
それは能力のタイプが適合していないこともあるし、蠍火と飯田の思念が共鳴せず透過してしまったからでもある。

だから数人の人間が倒れたのも、小川がその能力によって倒したと思ってしまった。
倒れ方や倒れた人間のダメージから判断して、小川は精神系の能力者だと判断した。

―それにしては、随分と前に出てくる―

自分に向かって最短距離をひた走ってくる小川の姿を見て蠍火は決意する。

―精神系の能力で格闘戦を補完するタイプの能力者なのか
 いずれにせよ、燃やしてしまう必要は無い      ―

拳銃を取り出すと、安全装置を解除して敵に向ける。
職員として働いていた蠍火を知っている人たちも、悲鳴を上げて難を逃れようとした。

―あるいは一生杖無しでは歩けなくなるかもしれないけど、命があるだけで感謝してもらいましょう―

あと数歩で手が届く距離に達したところで、敵の下肢に向かい引き金を引く。
ピンポイントを狙う必要は無い。
一定の距離で一定の範囲に弾丸を降らせる。
それが銃撃の要諦だ。

乾いた音がフロアに響いた。

                    ★

「さあ、その椅子に座って」

院長室にミクを導き入れた飯田は、椅子を指し示す。
おずおずといった様子で、腰を下ろしたミクを確かめもせずに、飯田は執務机のPCを起動した。
ディスプレイにはもう一つの院長室―表示を偽装させた機械室に迷い込んだ高橋愛が映し出されていた。
狭い画面の中で、愛は放心状態で立ち尽くしていた。

―私はたった一つの未来を視ているわけじゃない
 私が視ているのは現在の変数を入力して築き上げた仮想の未来
 私という最大の不確定要素が存在する限り誤差が生じてしまう
 でも現在の確定した要素から過去を逆算した場合誤差の生じる可能性は皆無
 私の思念に誘導されて追体験する過去にあなたは耐えられるのかしら    ―


                   ★★

―蜃気楼、幻覚?―

外す筈の無い銃弾が敵を捉えられなかった光景を乾いた眼で見ていた。
蠍火に敵意を向けてきた女へ放った銃弾は、狙いを外してしまった。
床や柱に当たった弾丸は跳ねて周囲の人間を脅えさせる。

「銭琳」

彼らの中には蠍火の通り名を呼んで助けを求める者もいたが、当の蠍火はそれを聞き流す。

―彼らは任務先で出会っただけの人間、ただの通り過ぎていく風景―

自分の銃撃が不発に終わったのは、目の前の女の能力による干渉だと看破した蠍火だったが、その実相はまだ掴めていない。

―精神系の能力者だと思ってたけど、銃弾の軌道を換えられる程の念動力者?
 それともやはり精神系の能力でわたしの視神経か運動神経に干渉してきた?―

いずれにせよ用を為さないことが明白な拳銃を捨てると、応戦する体勢を整えた。

―向こうから近づいてきてくれたのはありがたい―

蠍火の本領は刃千史で叩き込まれた格闘技術と生まれながらの発炎能力を組み合わせた接近戦にあった。

                   ☆

「あひゃひゃっ。 みんな賢そうな顔をした子ばっかりやん。 怖がらんでもいいよ、はじめまして私の名はアイです」

―これは幻覚じゃあない、あったこと
 それも私がやったこと
 それを私の脳が追体験してる   ―

3分25秒で最初の殺戮を終えたアイは、次の子供たちとの面通しに入った。
最初のグループと同じ人数、着ているものも同じ白いツナギ。
止まらなければいけないと思ってる。 子供たちに逃げるように言わなきゃいけないと思ってる。
しかし口を突いて出てくるのは、ゲームという名の殺戮を進行させる言葉ばかり。

―これはいつまで続く―

愛にとってせめてもの救いは、これが過去の追体験であるなら、現実に新しい命が奪われることはないという認識だけだった。

「それじゃあ今からおねえさんと追いかけっこをして遊びましょうか。 制限時間中逃げ切ったらみんなの勝ち」

―だれか、わたしを止めて―

                    ★★

―手強い、この女意外にやる―

謎の能力者との戦場は広々としたフロアから、狭く閉鎖的な階段へと移っていた。
蠍火の方から誘ったのだ。
病院の職員や患者から巻き添えが出ることを防ぐためではない。
もしも相手の行動原理が無関係な人間を戦闘に巻き込むことを絶対に避けるようだったら。
俗に言う正義の味方みたいなタイプだったら、それを利用して戦闘を有利に進めようとしたかもしれない。
無関係な人間を盾にとって、能力の武装解除を要求して、おのれの目的を達成することに邁進しただろう。
しかし先刻からの振る舞いから判断するに、この女は子供向けのドラマに出てくるような絶対的な正義のヒーローを目指しているというわけではなさそうだった。
積極的に無関係な人間を傷つけようとはしていないが、自分にとって不利益をもたらす存在だと見て取ったら躊躇無く排除するだろう。

―そういう点では私と似てる

名前も知らない能力者に根拠のないシンパシーを一瞬抱いた蠍火だったが、だからといって手を緩めることはない。
階段に誘い込んだのも、その構造が自分の戦い方に適していると思ったからだ。乱戦を装いながら本来の標的のいる場所へ近づき、その反応を確かめようという思惑もある。

携帯に送られてきた標的の所在地は、最上階に位置する院長室だ。
しかし、肝心の標的が誰なのかはまだ明らかにされていない。

―こんなことははじめてです

自分が院長室に行けば明らかになるというその標的が誰であろうと、自分は関心がない。
問題は使命を果たせるか否かという点に尽きる。

―私は刃でいい
 意志を持たない刃に徹しよう―

―標的がどんな人間で、どんな思想を持ち、どんな正義を掲げていようと構わない
 自分に必要なものは、標的と標的にあらざる者を識別する材料だけだ     ―

何の偽装もせず、己の存在を誇示しながら追尾してくる足音の主に心の中で宣告する。

―標的であろうと、標的で無かろうとあなたは執行の妨げになる存在だと認識しました。

―まだ見せる必要はない
 自分の身体を燃やし尽くす緑色の炎
 それがあなたが人生で最後に見る光景です―

                  ★

「何をしてるの」

蜘蛛の巣のように張った思念の糸に囚われた高橋、移動しながら攻防を繰り広げる小川と蠍火。
分割したディスプレイに映し出される映像を見るともなしに見ていた飯田は、いつのまにか席から離れていたミクを見咎めた。

退屈だったのか、飯田の使っている画材がまとめられたテーブルの傍で何か物色している。

「あんた、絵が好きなの?」

子供に向けた言葉だとは思えない飯田の問いかけに元気良く頷いたミクを見て、飯田の顔に仄かな笑みが。
テーブルの上のバッグを探ると、中からクレヨンを取り出し…。

                    ★★

荒涼とした風景の中で対峙する二人の女。
一人はライダースーツに身を包み、射るような眼差し。

「どういうつもりだ、私の邪魔をするとは」

一人は闇色のスーツに一切の感情を失ったような女。 

「あなたの方こそどういうつもりかしら。世界の破壊者に肩入れし過ぎじゃないの」

ポケットに手を入れ立ちはだかる。

「私が受けた指令は、あの女の旅を完遂させる、つまりは旅の終点まで送り届けることだ。 その目的の為ならダークネスの幹部といえど」

取り出した金属製のヨーヨーを誇示するように見せつける。

「あなたは高橋愛に並立世界を旅させることの本当の意味を知らない、それがどんなに危険なことなのかも」

ポケットから出した手で作ったピストルを相手に向ける。

「交渉決裂というわけか」

じりりとにじり寄るライダースーツの女。

「破壊者と長く居すぎて、調子が狂ってるんじゃないの。 私が再調整してあげるわ」

「それはど・・ ・ ・・・」

そして時は止まる。
ライダースーツの女が繰り出したヨーヨーとは名ばかりの暗器が空中で静止した。
勿論その操り手の女も静止している。 全ての音が消えた空間で、闇色の女の手が閃く。

「ぐふっ」

苦悶の声を漏らしたのは闇色の女だった。
ライダースーツに包まれた腕が、女の腹に埋まっている。

「まさか、わたしの動きが見えていたというの」
「お前の“時間停止”は、お前が超高速の時間を生きることで、相対的に起こる現象だ。 ならばこちらも超高速で動けばいい」
「System「A」の“acceleration”モード! 高橋愛に同行してずっとメンテナンスを受けていないあなたの内部機関が耐えられるかしら」
「不安を抱えているのはお互い様だろう」
「…そうね」

闇色の光が交錯する。

                    ★★

―似ている、この女の手筋
 パラシュートで降ってきたあの女と似ている
 刃千史の連絡員は、パラシュートの女はイレギュラーな存在だと言っていた
 命を奪う必要は無い、手出し無用だと
 廃棄物の収集室で話した時、私も思った
 この女は強いかもしれない、しかしただのバカだと
 だが格闘の手筋の似ている二人の女、仲間か?
 やはりあの女も始末しておくべきだったか                ―

蠍火は最上階のエレベーターホールで謎の女と死闘を繰り広げていた。
スポーツの試合ではない、死合だ。
対峙する相手の眼球や腎臓、再生不可能な器官へ致命的なダメージを与える攻撃を幾度も繰り出している。
回避できたとしても、それだけの攻撃を行うこちらの明確な殺気を意識すれば、心理面に何らかの影が差すものだ。
しかし女は平然としている。 不遜な笑みさえ浮かべている。

―確かにこの女は強い
 それにしたってこの反応は度を過ぎている
 私の拳では自分は傷つかないと確信している
 見くびられたものだ、それとも見切られた?
 感情を捨て去ったつもりでいた私でもこの女のように振る舞える自信はない
 あるいは今日がその時なのかもしれない
 この女は私の願いを叶えてくれる存在なのかもしれない          ―

ある思いが蠍火を支配し始めていた。 それは敗北を待ち望む思い。 そして死への甘美な誘い。

―いや、こんなところで果てるわけにはいかない―

使命への重いが蠍火を突き動かす。

                    ☆☆

「さあ、これからお姉さんと遊びましょう。何をして遊ぶかというと、殺し合いです」

清潔な白のツナギを着た子供たち。 高い知性を窺わせる顔立ち、感情が抑制されているような表情。
アイの口から不穏な言葉が飛び出しても淡々と受け入れる。

「あんまり早く終わってもつまらないから、みんなにはハンデをあげます」

プラスチック製のコンテナボックス。中にはヌンチャクやトイファー、蛮刀やスタンガン、催涙スプレーといった類。

「わたしは素手でいいからの。みんながあのドアを潜り抜けるか動けなくなったらこのゲームは終了」

―わたしこの状況を楽しんでる
 みんなにひどいことしてるのに笑ってる―

愛は過去の自分が犯した行為に心を痛めた。 そして無駄な事だと知りながら、自分に抗う。

フォトン・マニピュレート、物質の光子化という能力を現出させなければ、子供たちが助かる可能性は高くなる。

―私が私のことを止めていられるうちに、みんな早くあの扉から―

スチール製の扉の前に群がる子供たち。

―あぁ、もうなんでさっさと出て行かんの、私はもう私を・・・―

「あひゃひゃっ」

閉ざされていた扉が開いた。 我先に外へ飛び出していく子供たち。

―逃がさんよ―

これまでとは違う展開に胸躍らせ、飛躍するアイ。

「つぅぅ」

誰かがアイの胸元に足刀を飛ばした。
抜群の反射神経で直撃を免れたアイは、白い部屋の中程へ戻り、子供たちが難を逃れてゆくのを見守った。そしてその張本人の顔も。

「麻琴!!」
「愛ちゃん」

身体の方々に傷を作った小川麻琴が悲しげな瞳で愛を見つめている。

「この子供たちは信頼できる団体に預かってもらう」

「何するんや、麻琴。いきなり飛び込んできて私の邪魔をして」(私のこと助けに来てくれたんか)

「今の「M。」はダメだ。 骨の髄まで腐ってる」

「折角、面白くなってきたとこなのに。 はは~ん。 判った、私から玩具を取り上げに来たのか」(違う、私こんなこと思ってない)

「あの子供たちは玩具じゃない。 愛ちゃんと同じ命を持った人間だ」

「それやったらしょうがないな。 今度は麻琴に遊んでもらおうかな」(逃げて、麻琴。 私もう私を止められない)

「いいよ、私が遊んであげるよ」

「やったぁ。 麻琴となら思いっきりの全力で遊べる」(あんたの“反射”なら私のチカラだって跳ね返せるかもしれない。 私を助けに来たんなら、あんたの手で私を)

「来な」

麻琴は半身になるとアイの攻撃を誘う。

「あっひゃぁぁぁ」

全能力を解放して戦える歓喜に満たされながら、麻琴に向かって跳躍するアイ。
常人では考えられない素早さで距離を詰めると、右腕を突き出す。

「ごふっ」

アイの右腕は麻琴の胸を貫いた。 チカラが発動された腕は麻琴の肉体の光子化を促す。

「何や、麻琴。 ぼさっと突っ立って、しょうがないなあ」(何で“反射”を発動しなかった、これじゃまるで…)

最初からやり直しと言いながら、麻琴の胸から腕を抜くアイ。

「あ、愛ちゃんは何にも悪くない」

愛の右腕を握りしめ、息も絶え絶えに話しかける。

「愛ちゃんの周りに居た人間が、そんな風に愛ちゃんを育ててきたんだ。 世の中から隔離して自分たちにとって都合の良い生体兵器として愛ちゃんを育てようとした」

「麻琴、そんな風にのし掛かってきたら重い」(誰か、助けて。 麻琴が、麻琴の身体が、ひっ)

麻琴の身体の内部から光が洩れだしてきていた。 遊びと称しての実験で、愛が命を奪った多くの子供たちのように。

「愛ちゃんの手はこんなことをするためにあるんじゃない。 愛ちゃんの手は誰かを救う手だ。だから救いを求める誰か…」

けたけた、というアイの笑いが響く。

「わたし、そんな難しいことを言われてもよく判らん」(これは昔あったことなんだ。 わたしがこの手で麻琴を)

現在の愛の意識は過去のアイの肉体から乖離して、宙に留まった。
命の灯が消えた人間の肉体から霊魂が抜け出すように。
愛の周りでは時間が急速に動き出していた。
Mの実働部隊の中核を成す能力者の集団が研究施設を制圧し、白い服を着た研究員たちが愛を保護し、愛と麻琴の仲間である新垣里沙と紺野あさ美は事情聴取を受けていた。そして…。

車いすに乗った愛の前に紺野あさ美が立っている。
愛を介助する位置に新垣里沙が立っている。

「行っちゃうんだね、マルシェ」
「保田さんの誘いを受けることにした」

淡々と自分の心情を話すマルシェは研究者用の白衣を身につけている。

「麻琴を取り戻すにはこうするしかないんだ」
「でも、麻琴はもう」
「ああ、フォトン・マニピュレートによって塵に還った」

だから蘇らせる、どんなことをしてもというマルシェの口調には微塵の躊躇いも無い。
Mの施設内で採集した体細胞の断片、そして作戦遂行中の不測の事態に備えて生前に採取していた骨髄液から麻琴の再生クローンを産み出すという。

「確かに麻琴がいなくなったのは悲しい。戻ってくるなら嬉しいけど…」

実験動物ではない人間、それも自分たちに近しかった麻琴が、クローン技術で蘇ることに里沙は恐れを抱く。

「何て言ったらいいの。 神の領域を侵すっていうか…」

「神なんていないよ。 もしも居たとして私の邪魔をするというなら…私がこの手で殺す」

「そんな殺すだなんて」

治癒能力者には相応しくない言葉を口にした僚友を痛ましげに見やる里沙。
声をかけようとするが、愛の顔が目に入ると口ごもってしまう。

当のマルシェはそんな里沙の心の動きは判っていたようだ。

「大丈夫、理性では理解している。  麻琴の件で愛ちゃんの責任を問うのは酷だっとことは」

言葉とは裏腹にそれまで自ら抑制してきたマルシェの感情が、波打ってきた。

「でもね、私の感情は完全に消せやしない。  自分が消滅させた麻琴の名をけらけら笑いながら呼んでいた愛ちゃんを見たときの感情だけは」

「あさ美ちゃん」

「あの時私は愛ちゃんのことをこう思ったよ。 この娘は怪物だってね。 そしてこうも思ったよ、…死んでしまえばいいって」

束の間露にしたことでマルシェの感情は、元通り抑制を取り戻していた。

「あの時、私は“治癒”のチカラを失った。 誰かの死を願う人間が治癒能力を失うっていうのは辻褄のあった話だよね」

「でもそれは一時的なものかもしれないって文科省の寺田さん…」

「もう私には“治癒”なんて要らないんだ。 絆で結ばれ心を合わせた仲間と一緒に戦うこともなくなった私には“治癒”のチカラなんて必要ない。 それに」…

「それに?」

友の口から語られる言葉を一言も漏らすまいと口許を見つめた。

「…それに…チカラを取り戻すには私は自分自身と向き合わなければならない。 その時私は愛ちゃんのことを憎まずにいられる自信が無いんだよ」

理不尽な経緯でこの世を去った麻琴を蘇らせるために、そして麻琴の命を奪った愛を憎まずにいるためにも自分は理性で感情を抑制して生きていくと語るマルシェを里沙は黙って見つめているしかなかった。

やがて里沙と愛の前から立ち去ろうとするマルシェはふと思い出したように里沙に声をかける。

「里沙ちゃんがやろうとしていること、私は推奨しない」

里沙は悲痛な声を上げる、なぜ?と。

「“Truth Hits Everybody”  真実は全ての人を打ちのめす。 麻琴を自分の手で消し去ったという愛ちゃんの記憶を封印したところで、いずれは…」

友への言葉を曖昧な形で終わらせた元治癒能力者は、じゃあと言って里沙の前から去っていった。
後に残された里沙は車いすに乗った愛を見つめる。

小川麻琴がこの世から消えてしまったという事実。 その原因が自分にあるという真実を受け止めきれない愛は他の人間との心の交流を遮断していた。
虚ろな目で言葉にならない呟きを吐く愛。
里沙は愛の顔にかかっている前髪を手で払って、額を剥き出しにすると自分の額を合わせる。
発動するチカラ“精神干渉”。

―麻琴、何処に行ったんや、麻琴―
―愛ちゃん、麻琴はいない、死んでしまったんだ―
―嘘や、麻琴が死ぬはずない―
―麻琴は私が・・・私がこの手で殺した―
―何で里沙ちゃんが! 嘘やろ、みんなで私のことをかついでるんやろ―
―愛ちゃんに今まで隠していたけど、私の正体は世界制服を企む組織ダークネスのスパイ―
 能力者を探し出し抹殺するよう命令を受けていた私が見つけ出したのが小川麻琴だった―
―・・・ ―
―組織は麻琴を抹殺するように指令を出してきた・・・正直迷ったわ・・・だって大親友であり恩人でもあるあの麻琴なのよ!!
 ・・・でも私はダークネスには逆らえなかった・・・だからあの日事故に見せかけて私は・・・麻琴を抹殺した―
―・・・違うの!!あれは事故だった、本当に不幸な…―
―もう遅いのよ!!・・・愛ちゃん私を止めたいのなら・・・私を殺して・・・あなたのその手で―

里沙は幾重にも折り重ねた虚構によって、愛の心の中の麻琴の命を奪った記憶を覆い隠した。
その様子を見届けると愛の意識は現在に戻ってくる。
そこは隔壁で閉鎖された病院の機械室、薄暗い室内には愛以外誰の姿も見えなかった。

―私がみんな、壊したんだ
―麻琴の命、あさ美ちゃんのチカラ、そして里沙ちゃんの人生、みんな私が台無しにしてしまったんだ
―こんな私が世界を救うなんて…バカバカしい

愛の口から力の無い笑いが洩れる。
自分の存在に意味を見出せなくなったことへの自嘲…そして。