『■ フィジカルアデプト-鞘師里保- ■』


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■ フィジカルアデプト-鞘師里保- ■

鞘師里保はぼんやりと外を眺めていた。
深夜バスの外はすでに明るく、それまで都会といえば広島の街並みしか知らなかった鞘師には全てが新鮮な景色だった。
―――東京かぁ―――
まだ12歳になったばかりの彼女は―
―ちょっとおませな服を好み月並みに歌とダンスが趣味だったり―そんな「ごく平凡な」彼女は一人でこの大都会へとやってきたそのわけを―思い返していた。

彼女の両親とかわいい妹弟たちが不慮の事故で亡くなったのはほんの数日前の事だった。
悲しかった…多分。
多分…そう。
自分でも不思議なほどに肉親の死に対して動揺を感じていない自分に対して若干自嘲気味に彼女はそう自己表現していた。
「普通もっとショックだよね…やっぱり」
身寄りが無いわけではない。
鞘師の家系は代々日本刀の拵えを作る職人の家だった。
昔は鞘だけを作っていたというが、今では刀身以外の全て―を作っていた。
日本刀などというものはすでに過去の遺物…一部の好事家か試斬狂いの抜刀道関係者か…
まあとにかく何でも作れなくては食ってはいけない。
それが今や彼女の唯一の肉親である「じぃちゃま」のぼやきだった。
ワシが最後だ
ともいっていた。
鞘師の父親はとっくに刀装具には見切りをつけ、不動産関係の仕事についていた。

ワシが最後だ。表も裏も。
じゃがぁ裏の方は里保ちゃんが器用にこなしよろうがのお…あるいはなぁ
裏…裏というのは鞘師の家に伝わる「水軍流」と呼ばれる兵法だ。
普通は何々流剣術とか柔術とか名前が続く所だろうが鞘師は「じぃちゃま」からはただ「水軍流」としか聞かされたことは無かった。
それどころか簡単な来歴ですら特にこれといって聞かされた覚えもなかった。
鞘師はこれを単純にじぃちゃまと遊ぶ感覚で習い覚えた。
それもほとんどは単にじいちゃまがおかしな動きで踊っているのを面白がって横でマネをしていただけだ。
じいちゃまと一緒に踊り、じいちゃまに促されるまま巻き藁といわず竹といわず何でも斬りまくっただけだ。
だが当人はそのつもりでも「器用にこなし」た結果、その技量は常人の域をすでに超えたものとなっていた…多分。また自嘲、彼女はじぃちゃま以外に誰か他人に対して技を使ったことなどないからだ。
高次元の武術家は実際に対戦せずとも彼我の力量を読み切ることができる。これは実戦を経ていないものですら「技量だけでも高ければ」身についてしまう能力だ。従って彼女には見える…道行く人と自分との戦闘能力の差が手に取るように直感できる。
だがあくまで直感であり、現実に結果を出したわけではない。だから自嘲だ。
多分そうなんじゃないかな?である。
とにかく「水軍流」の修行のせいなのか鞘師自身の生まれ持った心根なのか
彼女は肉親の死をあまりにも普通に受け止めすぎていた。

「じぃちゃま」がいつも通りのとぼけた調子で
里保ちゃん、東京でぇいろいろ勉強しておいで。といったのが丁度両親たちの通夜が済んだその夜の事だ。
なるべく早い方がいい。ともいった。
自分で言うのもなんだが鞘師は祖父に溺愛されているという自覚があった。
その祖父が何の理由もなく自分を遠ざけるはずが無い。
表面上いつも通りを装ってはいてもその内心で祖父の警報ランプがレッドゾーンに振りきっていることも察知していた。
これもまた鞘師が「水軍流」によって身につけてしまった能力
まさに読心術といってもいいほど精度の高い「他人の意思を読む力」加えて「自分の意思を読ませない」力だった。

理由はわからない、経緯もわからないが祖父は何かの襲撃を恐れていた。
いつものように彼女には「どうして?」は無かった。
じぃちゃまがそうしろというならそうするのが最上なのだ。じぃちゃまは必要なら必要な理由は教えてくれる。教えないのは必要が無いか、教える時間が残されて無いからだ。
彼女はすぐに準備を整えその足で家を出た。携帯は折り曲げ捨てた。

初めて顔を合わせる「遠い親戚」と名乗る四人のひ弱そうなおじさんが名古屋までは一緒についてきてくれていた。彼らが護衛であることは何も聞かずとも理解できた。何かに脅え同時に自らは死んででも鞘師を広島から脱出させようという強い意志…
名古屋でのトイレ休憩…「おじさんたちはちょっとトイレに出てくるね戻らなくても気にしないでそのまま東京へ行くんだよ」
殺気を捉えることに関しては高い能力を持っているであるはずの自分にもまるで察知できないその危険をおじさん達の一人は「何か別の力で」捉えているらしかった。
おじさんたちは戻らなかった。「しんじゃったんだろうな…多分。」
どこまでも冷淡な自分に心底呆れながら鞘師はカーテンを再び締め、じぃちゃまが別れ際に教えてくれた東京で頼るべき人と場所を思い返していた。
なぜかじぃちゃまは待ち合わせ場所も正確な住所も教えてはくれなかった。
東京へ着けば必ず会える。向こうから見つけてくれる。そう言っていつも通り笑った。
頼るべき人は…高橋愛。場所は…喫茶「リゾナント」。






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以上 ■ フィジカルアデプト-鞘師里保- ■でした

もしかしたら全然こんな子じゃないかもしれないですが
そのときは全部無かったことにしちゃえばいいじゃなイカ?
と思い切り勇み足させていただきました。

彼女のいまだ発現していない「超能力」に関しては全く触れぬままに終わってしまいました。
一応設定だけは作っては見たのですがもちろんただの個人的なメモです。

【水限定念動力(アクアキネシス;aqua kinesis)】
触れた水を任意に動かす能力
水に任意の硬度や粘度を与え任意の形を与え任意に動かす。
要は水でスライムや触手を形成して攻撃したり武器状に固めて使う能力。
ただし、現時点ではまだ能力が未成熟のため
量にしてペットボトル数本分(数リットル程度)の水しかコントロールできない。

このため具体的にはちょっと鋭角なエッジのある木刀状(切れ味は鈍い鉈程度)に水を固めて即席の武器として使ったり、対手の手足に絡めたり、数メートル程度の距離の小物を取って来させたりといった程度しかできない。

だが熟達すれば恐ろしい力となる可能性はある。
例えば触れただけで相手の体内の水分を支配し
心停止させたりといったことすらできる可能性がある。
(もちろん現状ではそんな力は無いが)

あるいは大量の水をコントロールしそれこそ巨大なタコ状の怪物を形成し暴れまわるなんてことすら出来るかもしれない。