『Vanish!Ⅱ~independent Girl~』(1)


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<day 1>
「ミヤ~」

今日もあいつが後ろから明るい声で私の名前を呼びながら駈け寄ってくる

「ねえ、ミヤ、あのね、今日ね、今日ね・・・」

こんなあたしになついてくれるから嬉しいんだけどさ…たまにうざいんだよね
昔の私も田中さんに対してこういう風にしていたのか?って思うとちょっと恥ずかしいかな?

「ねえ、聞いてるの?ミヤってば~」

一年くらい前に不良に絡まれていたのを助けたのがこの子と知り合ったきっかけ
初めは普通の子なのかなって思ったら、やっぱりちょっと変だってことがわかった
私のこと大好きなようで…べたべたされるのが嫌いな私としてはちょっといらっとする時もある

この子は見た目からは想像できないけど、自分の世界を持っていて、しかも意外と強情だ
やはり私のまわりにいる人は誰もかれも『自分』を持っている人が多いような気がする

 ・・・まあ、基本いい子だから好きなんだけどさっ

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

喫茶リゾナントのドアが勢いよく開き、久住が飛び込んできた
「おっはようございま~す」
今日も元気いっぱいのようだ

「小春、おはよう」「小春、朝から声大きくてうっさいと!」
二人はいつも通りのあいさつを投げかける
「今日も元気だね、小春は。仕事のほうは大丈夫なの?」
高橋は壁にかけられた時計を見ながら言った
「今日はもう終わったんですよ~いわゆるオフ日ってやつですよ☆」

久住はカウンター席に座り足をぶらぶらさせながらメニューを眺め始めた
「う~ん、レモンティー…あ、ココアがあるんだ…どうしよっかな…今日はココア!」
「はい、どうぞ。ってまだ小春はメニュー覚えとらんかいな…」
田中が久住の赤いマグカップにココアを注いで、カウンターに置いた

フーフーと冷ましながら久住は両手でコップを持ちながら高橋を見ながら言った
「もう冬が近づいてきているんですよ!ホットココアが美味しい季節なんですよ~」
「そうね…ニュースでも気温が下がるから厚着をした方がいいって言ってたね」
高橋は新聞から目をあげ、流しっぱなしのテレビへと目を移した
そこではもはや朝の顔となった芸人が真面目な顔で連続誘拐事件を解説していた

「冬か…ミティが元気になる季節っちゃ」
田中は二階の「れいな城」から持ってきたファッション雑誌を読んでいる
「あ、これめっちゃかわいい!!ね~愛ちゃん、みて~」
雑誌に付箋を貼りつけ田中は満足げだ。
「確かにカワイイかも…そういえば、去年の冬はあの子が来たね、れいな。大変だったよね~」
「ん?あの子って誰ですか~高橋さん?」
久住は少し首を傾けながらにやにやしている高橋に問いかけた

高橋は小春の横に座った
「そっか小春はほとんど会っていないんだったわね。
 一年前の冬にれいなのことを忘れさせようとした子がいたじゃない。覚えていない?」
「ミヤビとかいってた子ですか。田中さんのな・ま・か」
小さくれいながチッと舌打ちをした

雅―かつての田中れいなの仲間である少女

一年前、高橋達の前に突然姿を現し、れいなに関する記憶を消そうとした人物
それは過剰なまでにれいなに憧れていた故の暴走
ともに戦い、リゾナンターの絆の強さを知ることで、彼女は己の過ちに気付いた
リゾナンターは彼女を許したのだが、あれから一年近くたったが…この店に現れたことはない

「なんか嵐のような人でしたね。突然現れて何も言わずに田中さんのことを忘れさせようなんて
 一体田中さんのどこにそんな魅力があるんですかね…やっぱり似ているからなんですかね?」
「確かに似ていると言えば似ているかもね。ファッションセンスとか目力の強さとか」
「いや、そこじゃなくて」
ちらっとれいなを見ながら久住は言った
「なに言うとるかいな、小春?」
「別に☆」
小春の言いたいことの意味がわからずれいなの頭の上には「?」の文字が浮かんでいる

「似ているっていえば小春ってどことなく雅ちゃんと顔似ているよね」
高橋が小春の顔をじっと見ていたが、視線が合うと気まずそうに視線をそらした
「どこがですか?小春、あんな自分勝手と全然似てませんよ!」

小春は声を荒げて否定しているが、れいなは立ちあがって小春の顔をじっとみつめた
「な、なんですか?」
「確かに似とうね。輪郭とか目の大きさとか…なんか腹立ってきた。あいつ何も言わずに帰りやがって
 ・・・小春、なんも言わず一発殴らせろ」
「へ?いやですよ~」

ギャーギャー叫びながらどたばたと店内を逃げ回る小春
怒りの表情で追いかけるれいな
「こらーもう開店しているんだから~お客様来たら困るからやめなさ~い」

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

「次は『マルマインゲアー』の『秋のモンブラン』…甘さがいい感じなの」
「ねぇ~おいしいねぇ~へへへ」
またこの二人はケーキの試食会をしている
「なにその笑い方キモイよ」
「きもくないもんカワイイんもん。かわいい子がしたらなんでもかわいいんだよ!
 そして絵里はカワイイんだもん」

高橋からもらった紅茶を飲みながら買ってきたケーキに舌鼓を打つ二人。
前回と違い、今日はしっかりと道重がメモを取っているので問題はなさそうである

「サユさ~さっきから甘さしか言っていないよね~他に感想ないの~」
「絵里だって美味しいしかないの。例えば他にどういえばいいか例を示して欲しいの」
亀井はちょっと黙り目の前にあるモンブランを口に入れた
「・・・ちょっと栗のしぶさが強いけど、周りのクリームの甘さがそれを打ち消している。
 あと、栗の甘露煮が大きいからインパクトは大きいよ」
「・・・エリやるじゃん!凄いよ、そっかそういえばいいんだ!でもメモ取れなかったからもう一回言って」
「ごめん、無理。もう覚えてない」

しばしの沈黙
「・・・というとこれまで食べたケーキのことも」
「うん、覚えていないよ~」
さすがにこれには呆れ顔の道重であった

(絵里ちゃんの記憶を信じたさゆみがいけないのよ)

(そんなことないもん、エリはやるときはやる子だもん!今はちょっとPPPなだけだよ!)

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

同日の夜、ダークネスが現れた。場所は港の倉庫。高橋、れいな、久住の三人がまず現場へと向かった

「田中さん、危ない!」
久住の雷がれいなの後ろに迫っていた男の胸に突き刺ささる
「小春、ナイス!」「高橋さん、前、前!」

現在3対約50。数だけ見ると圧倒的不利な状況だが、所詮は下級構成員

「ごめん、遅れちゃった」
息を切らして新垣がやってきた頃には敵のほとんどが地面で倒れている状況であった
「ガキさん、遅いよ。えいっ!」
高橋が敵に延髄に手刀をたたき込みながら、遅れてきた新垣をみてニヤッと笑う
「仕方ないでしょ、こっちは雇われの身なんだから」

そこに道重(と更に遅れて亀井)がやってきた
「ごめんなの、ちょっと遅れたの」
笑ってごまかそうとする道重がちょこちょことこちらに向かってきた…が

「動くな」
突然男が現れ、道重の背後を取った。男は道重の首元にナイフを当てていた
ナイフを押しあてられた道重はそのナイフをゆっくりと大きな瞳で捉えた。その切先は不気味なほどに鋭い
「・・・」
「道重、お前は一人じゃ戦えない。あとはこのナイフで首筋をかっきるだけだ。おっと動くなよ」
男は高橋達、リゾナンターに向けて言い放った
「瞬間移動でもこいつを首筋に走らせるくらいの時間はあるだろう。そこでじっと見ていな、こいつのさい…」

「サユになにすんの!!」
突風が吹き、男が言い終わらないうちにナイフが風にさらわれた
「絵里!ナイス!」

亀井の能力の一つ、それが風使い

今のように風の流れを操ることで突風を吹かせたり、カマイタチを出現させることができる力

男がひるんだ隙に道重は男から距離を取り、同時にれいなが男の懐に入り腹部に重い打撃を加えた
くの字になって男は一撃であっけなく地面に倒れ込んだ
「小春達を相手にするには早かったんだよ、それだけ。っていうか弱いんだからダークネスやめれば?」
久住が飛ばされたナイフを拾い、手元でくるくる回しながら言った

「小春、危ないからやめなさい!」
新垣が小春を叱りつける。そんな新垣の目の前をふらふらっと何者かが通った
「ん?あっ、さゆみん、どうしたの」
道重は新垣の問いに答えず、倒れ込んだ男のもとへと近づいていった

道重は男の顎をつかみ、まだ朦朧としている男の視線をむりやり自身の視線と合わせた
「さゆみね、さっき、とっても怖かったの…ねえ、あなた、さゆみが一人じゃ戦えないっていったよね?」
そう言う道重の顔におびえの色は全くない
「あれ?もしかしてさゆみ死んじゃう?とか思ったんだよ。でも死ななかったの
 ということはさ、席が空いたんだよね、あの世行きの列車の座席が。だからさ、あんた、替わりに乗り込んで」

「やばい!みんな急いで離れて!!」
道重から桃色の光が発せられ、男に注がれていく

道重の能力―それは治癒能力
仲間の傷を治す、もっぱらその目的のみでしか使われない能力で、非戦闘系能力

しかし、彼女にはもう一つの力があるーそれが『さえみ』の力
物質崩壊―この世のありとあらゆる物質を崩壊する力で『さゆみ』の裏人格

「私の愛しいさゆみがあんなに怖がっているの久々に見たわ。
 天国とか地獄とかあるかわかないけど、そんなところにすら行けないように根本から消してあげるから」
笑みをうかべながら男へと力を注ぎこむ『さえみ』

「ねえ、おにいさん、どうしてお目目は二つあるの?それはね、一つなくしても大丈夫だからだよ」
―クシャっと音と共に男の絶叫と共に両目が潰れた

「どうして歯がたっくさんあるの?それはね、一本や二本くらい無くしても大丈夫なように作られているのよ」
―かすれた叫びと共に全ての歯がぼろぼろと崩れ落ちた

「どうして人間には血が流れるの?それはね、困っている人のために輸血するためだよ」
―男の胸が裂け、そこから勢いよく血が噴き出した

しかしそれでも男は死ねなかった
さえみが死なないように『治し』ながら『壊して』いるのだから・・・治しては壊し、壊しては治すの繰り返し
男は自分の体が崩れていくのを感じながらこの地獄が終わるのをただ待つしかなかった

「…そろそろ、飽きました。やりすぎると私がさゆみに怒られちゃいますからね」
さえみの周囲から桃色の光がいったん途切れた
さえみは倒れ込んだ男の頭を掴み、もう一度笑みを浮かべて力を解き放った。
「さあ、悔いなさい、呪いなさい、私と出会ったことを、この世に生を受けたことを」

桃色の光に包まれ、男は幾千もの砂にも満たない細かい結晶となり崩れ落ちた
それを目撃したダークネスの兵士達は我先にと一目散に逃げ帰っていった

打って変わって静まりかえった空間を破ったのはれいなの声だった
「・・・やりすぎやなかと?」
れいながぽつりと言い、久住が首を縦に振った

「そうかしら?私の可愛い『さゆみ』を守っただけですわ」
れいなの呟きを聞き逃さず、さえみはただただ冷静に答えた
「怖かったでしょ、さゆみちゃん…お姉ちゃんが悪い人を懲こらしめてあげたからね」
うってかわって優しい口調で自分自身に言いかけるさえみ

「さえみさん、久しぶりやね」
「・・・高橋さん、お久しぶりです。挨拶もしないで申し訳なかったですね。その他の皆さんもお久しぶりです」
「相変わらずさえみさんは堅苦しい感じやね。いい加減『愛ちゃん』呼んでくれてもええのに」
高橋が微笑みかけても、さえみは表情を変えようともせず人形のように無表情のまま

「いつも高橋さんにはさゆみがお世話になってます。ご飯、いつもごちそうさまです」
さゆみがお世話になっていることに一応の礼を示すように頭を丁寧に下げた
「ええって、こっちもサユには助けて貰っているんだからお互い様やって」
「・・・でも、高橋さん」
「なに?さえみさん」
「もうちょっと、私のさゆみを危険な目にあわせないようにしっかりと見ていてくださいよ。まったく…」
そう言い残し、『さえみ』は『さゆみ』と戻っていった

「あれ、愛ちゃん、終わったんですか?あ、怪我してるじゃないですか!傷を見せてください」
優しくさゆみは高橋の腕に触れた「ありがと、さゆ」

そんな道重を仲間達は少し離れた位置から眺めていた
「あの優しいサユと冷酷なさえみさんが同じ体に宿っているなんて今でも信じられないっちゃ・・・」
「ですよね・・・さえみさん、敵・味方関係ないですからね・・・しかもさえみさんの時の記憶は無いらしいですし」
道重の二重人格を改めて二人は目の当たりにし、そのギャップに驚いている

そこから少し離れた場所では新垣が亀井を褒めていた
「カメ、さっきはナイスだったよ!」
「ありがとうございます~エヘヘ、ガキサ~ン」
くしゃくしゃに顔をゆるませて、満面の笑みを浮かべる亀井
「風も随分操るの上手くなったじゃない!あっちの能力も使わなくて済むようになったし!」

新垣の言う「あっちの能力」、もう一つの亀井の能力―それが『傷の共有』
自身の体につけた傷を、対象者の同一部位に同時に発生させる能力
時には一人だけに全ての傷を移すこともできるらしい

かつての亀井は道重の『治癒』がなければ何もできなかった
かかえていた心臓の病、自分も同様に傷を負う強力だが呪われた力―それを救ったのは道重だった
『サユがね、友達になろって言ってくれたんですよ~あの時は嬉しかったなぁ、エヘヘ』
体が弱くて友達も少なかった亀井にとって道重は『初めて』の友達であった
道重の『治癒』と素直な優しさに亀井は救われた、と

新垣による一般人の記憶修正が終わったようで全員が高橋の近くに集まる
「よしっ、今日も無事だね!じゃあ、みんな気をつけて、解散」
「は~い」「愛ちゃん、なんかお夜食作ってほしいっちゃ」「ガキさん、またね~」
「カメ、道草食わないでまっすぐ帰るんだよ」「…なんか、ちょっと疲れたの」
「高橋サン、おなか空きマシタ!なにか作ってクダサイ」「あれ、リンリンおったん?」
「光井サン、あなたも同じダ。そして私もダ」

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

「ミヤ~」という声がしたので、雅は振り向いた
視界に入ったのは眩しい笑顔で駈け寄ってくる姿
(また、あいつか…転んでもしらないぞ)と思うが、ついつい頬が緩んでしまう

近づいてくるその姿が大きくなる。あと数メートル、そんな距離で突然横道から車が現れた
車から出てきた黒ずくめの男達は雅に駈け寄ってくるその女の子へと駆け足で近づいていった

少女が男達の存在を気付くよりも早く、男達は少女の口元になにか布を押し当てた
その直後ふらっとゆれて少女は倒れ、抱えられる様にしてそのまま車の中へと連れ込まれた
そして、男達が全員乗り込むと同時に車は出発してしまった

その場には一部始終を目撃した雅が茫然としたまま、取り残された
目の前であまりにも堂々と起きた事件を雅は信じられなかった
「ゆ・・・誘拐だ!110番!」