『Vanish!Ⅱ~independent Girl~』(2)


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<day 2>
双眼鏡越しに見た次のターゲットは可愛かった、この世界の誰よりも

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

肌に感じる空気の鋭さに冬の訪れを痛感しつつれいなは日課のランニングに励む
いつものように隣町を見渡せる小高い丘の上まで走り、そこで一旦休憩する
そこはかつて亀井がれいなと道重を連れてきた思い出の丘

『れーなと手をつないでさ、さゆの癒しの力をさ、絵里が起こす、風に乗っけることができたらさ―――』
『―――世界の人たちに、幸せ届けることってできないかなぁって』

ここにれいなが来るようになったのは亀井がそんな夢を語ってからだった

(エリはアホやけど、れーなが考えもつかんことするけん、不思議な奴っちゃ、出会えたことに感謝すると)

丘の上に置かれたベンチで横になって休むれいなは自然の風を感じ、瞳を閉じた

(あれかられーな達の風はどれだけの人に届いたと?)

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

食堂でマルシェは一人静かに新聞を読んでいた
「お、なんか面白いニュースでもあったか、マルシェ?」
「昔、アイドルグループに所属していたタレントがアナウンサーとして就職が決まったそうですよ」
吉澤がマルシェの後ろから新聞を覗き込んだ
「ふぅん、そっか、そりゃおめでとうだな」
そこまで興味がないようだ

「なんか大きな事件とか起きねえかな。例えば、30人くらいが地下に閉じ込められるみたいなさ」
「それ、すでに起きてます。っていうか解決しました。少しはニュース見た方いいですよ」
ボケなのか本気なのかわからない吉澤の答えをマルシェは笑いながらつっこんだ

「あんたたち、楽しそうじゃない。なに、いいことでもあった?」
「あ、保田さんお久しぶりです。いつ帰られたんですか?」
「ん?ついさっき。裕ちゃんの命令は相変わらずきつかったよ」
大きなスーツケースを携えながらやってきた保田の顔には疲労の色がありありと浮かんでいる

「保田さん、しばらくみないと思ったらまた出かけていたんですか?一緒に飲む約束いつ果たしてくれるんっすか?」
吉澤が非難がましく言うが、「まあ、次の仕事が終わってからね」と保田ははぐらかした
「また仕事入っているんですか?大変ですね、保田さん」
「それが大人ってものよ。マルシェだって次から次へと仕事が入ってくるでしょ。たいして変わらないわよ」
マルシェの労をねぎらうように保田は肩をポンと叩いた
「お互い頑張りましょうね」

そう言い残し、去っていく保田を見ながら吉澤は呟いた
「かっけえな、保田さん。しかし、いったい何の仕事しているんだか、あの人は。さっぱりわからん」
「そうですね…私も知らないんですよね」

ダークネス内でも話題になることがある―保田圭はいったい何の仕事をしているのか
彼女の能力が「時間停止」であることはわかっている、というかそれしかわかっていないのがほとんどだ

「そして、いったい何の仕事の帰りなんでしょうか?」
「さあ、ところでよ、マルシェ頼みがあるんだが・・・」

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

♪カランコロン「お疲れ様です、高橋さん、田中さん」
夕刻に光井が制服姿でリゾナントを訪れた。カバンから参考書を取り出し、テーブルの上に並べる
「あれ?もう授業終わったの?もしかしてテスト?」
ココアを光井に出しながら高橋が尋ねる
「もう少しで受験ですからね…勉強せなあかんですよ」
心なしか光井の表情は暗い

「大学なんかいかんで愛佳もここで働けばいいっちゃ。そしたられーなも愛ちゃんも助かるとよ」
れいなが自然な口調で呟いた
「…それでもええんですけど、やっぱり色々経験したいんですわ。大学行って世界を広げたいですし」
「えらいね、愛佳は。ほら、れいなも少しは勉強しなさい。新聞もたまには読みなさい」
そんな高橋の言葉を聞かないようにれいなは耳を押さえて「きこえませ~ん」という
「もう…愛佳、れいなの言葉は気にしなくていいから自分の道は自分で選びなさいね」
「はい、愛佳の未来は愛佳、自分自身で決めます」
そういい光井は数学の問題を解き始めようとした

その時客の女子高生グループの一人が高橋に声をかけた
「ねえ、高橋さん、その子って○○高校ですよね?」
「ん?愛佳?そうだけど、どうかしたの?」
「いやあ!やっぱりそうだ!高橋さん、知りませんか?昨日、その子の高校の生徒が誘拐されたんですよ」
その言葉にを聞いた光井は眉間にしわを寄せて露骨に嫌がった

「本当かいな?愛佳?学校で誘拐が起きたと?」
どこからか野次馬根性がわいてきたれいなが尋ねる
「…うちの学年ではないですけど、あったらしいです。ほら、これ見てくれはりますか?」
光井はカバンからプリントを取り出し、れいなに渡した
「『誘拐事件に注意しましょう』?なんかけったいな見出しっちゃね」
「じゃあ、本当なのね、愛佳?」
「らしいですわ。愛佳も友達伝えで聞いたんですけど…」
勉強することを諦めたようで光井は教科書を完全に閉じた
「しかし、まさか他の高校にまですでに噂が広がっているとは思ってはりませんでした」

「色々聞いているもんに―昨日の夜、黒ずくめの男達が車でさらっていったらしいってことも」
色黒の彼女は光井が少し嫌がっているのにも気がつかず、相変わらず笑顔で話し続ける
「なんか第一発見者はその人の友達で、警察は例の連続誘拐事件との関連を探っているらしいって~」

「愛ちゃん、黒づくめって、もしや」
れいなは低く小さい声で高橋に問いかけた
「・・・もしかしたら、ヤツラがからんでいるかもしれないね。あくまでも可能性のレベルだけど」
高橋は喫茶店リゾナントのマスターからリゾナンターのリーダーの顔になって答えた

「愛佳はそうは思えませんね…あの事件、身代金も要求も出ておりませんし、なんか、っぽくないっていうか」
他のお客に聴かれないように注意しながら光井は自分の意見を述べた

色黒の少女及び三人が言っている事件、それはワイドショーがこぞって騒ぎ立てている誘拐事件であった
事件の発端は今から半月前のこと。一人の少年が帰宅途中に誘拐された。目撃者はその友人であった
彼の証言では「黒づくめの男達が目の前で車に友人を押しこみ連れていった」

それから今日にいたるまで全部で4件の同様の事件が起きている。現場はすべて都内
マスコミは「黒づくめ誘拐事件」などとセンスのかけらもないネーミングであおりたてている
共通していること、それは犯人達はなんの要求もしてこないこと、身代金の要求がなく、安否がわからないこと
そして被害者達には何も共通点はなく、警察は頭を抱えているとのうわさだ

「・・・とにかく、このことがダークネスと関係あるかはどうかして、今はお客様がいるんだから、れいな」
「わかっていると。仕事は仕事やけん、しっかりするとよ」
高橋にれいなはウインクして了解との合図を送った
「愛佳もちょっと後で知っていることがあったら教えて、それまでちょっと残ってくれる?」
「わかりました…とりあえず、あの団体様が帰りはるまで待ってます…勉強でもしながら」
光井は出されたココアに口をつけた

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

病院帰りに道重と遊ぶ約束をした亀井はなんとなく待ち合わせのお店をぶらぶらしていた
その店はいかにも女の子が好きそうな小物、雑貨が置かれている
今月も残りわずかしかおこづかいが無いが、買い物好きな亀井は買いたくて買いたくて仕方がない
(う~このカメさん可愛いよぅ、あ!あのシュシュも可愛い。うう~あのバッグ我慢すれば買えたのに)

欲望にまけそうになりながら耐えていると講義を抜けてきた道重がやってきた
「ごめん、エリ、遅くなっちゃった。え、エリ?どうして泣いてるの?」
振り返った亀井はなぜか涙目になっている

「だって~買い物したくてもできないんだもん。すっごく悔しくてさぁ、エリもバイトしたいよぅ」
「そんなこといっても、さゆみはエリがバイトとか多分厳しいと思うの。
 だって体のこともあるし、ぜ~ったい遅刻するもん。無理なの」
真面目な顔で道重は答えた

「エリだってやるときはやるんだよ!できる子なんだよ、本当は!今はその時じゃないだけなんだよ!」
「それってただ言い訳してるだけのような気がするの」
これが長年連れ添った二人のコミュニケーションの形の一つで絶妙なバランスで成り立っている

アホで正面から受け止めようとする亀井、疑いを持つことで思惑を読み取ろうとする道重
二人はお互いの欠点をカバーしあっていることを気付いていなかったが、なんとなく居心地の良さを感じていた
それはぴったりとくっつく磁石のS極とM極のように

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

閉店後のリゾナントには現在4人の姿―高橋、れいな、光井、そして新垣
「仕事終わってすぐに来てとか結構大変だったんだよ、わかってるの、愛ちゃん?」
新垣は仕事帰りのまま無理やり連れて来られたようだった
「いきなり目の前に現れて、『ガキさん、来て』なんて勝手だよ、あのとき新商品をチェックしてたんだからさ」
「すまんのう、ガキさん。ほら、紅茶飲んで落ち着いて、大事な話かもしれないじゃない」
コーヒーカップに紅茶を注いでいる高橋は少しだけ反省しているような様子である

「それで、話ってなに?」
差し出された紅茶を唇を湿らす程度に口に含んだ新垣が言った
「実は昨日なんですけど愛佳の学校の生徒が誘拐されたんですわ」
「誘拐ってもしかしてワイドショーで取り立たされている『黒づくめ』の?」
間の抜けているそのネーミングはどうしてもこの場の雰囲気にそぐわないが仕方がない

「あくまでも人伝えの話なのでなんともいえないですし、これはまだテレビに発表されていませんし…
 でも、おそらく同じ犯人じゃないかと思います」
分かりやすく情報を整理したメモを光井は新垣に手渡した

「なるほどね、犯人は黒づくめの男で、これまた黒い車に連れ込まれてね…で、それでなんで私を呼んだの?」
「新垣さんの意見を聞きたいと思ったと。これがダークネスによるものかって」
椅子の上にあぐらをかいたれいなが尋ねた

「・・・ダークネスとは限らないけど、とにかく次の事件を未然に防ぐべきだとは思う
 ダークネスとは無関係でも完全にこれは『悪』に位置する事件だと思うから」
新垣は光井のメモに目を通しながら静かにだが力強く言った
「リゾナンターは別にダークネス専門の正義の組織ってわけでもないし、私も何かするべきだとずっと思ってた
 ガキさんが同じ意見持っていてよかった」
高橋が都内の地図をテーブルの上に広げ始める。地図の上には何箇所か×印が付いている

「みんな、これは今回の誘拐事件起きた現場を示しているの。ぱっと見て気付いたこととかない?」
「別に、なにもないっちゃね。場所がてんでバラバラっちゃね」
れいなの言う通り特段新しい発見はみられない。新垣も光井も地図を見ているが気になったことはなかった

「起きた時間も別々やし、被害者の年齢も性別もばらばら…ウチらなりに共通点探すことから始めませんか?」
「こういう時に小春がおれば念写なり、ぶっとんだ発想で展開がありそうなんだけどね」
新垣が苦笑いをして、もう一度地図に目を落とした

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

亀井と道重は亀井の最寄りの駅へと向かっていた
買い物をすることはほとんどなく、結局二人でガールズトークをしてばかりであった

秋から冬へと移り変わるこの季節では夕方になると急に寒さが身にしみる
駅へと向かうこの道にも街路樹が並んでいて、少し色づいた葉が路上に落ちている
踏みつけてもサクっと音はしないが、なんとなくもの寂しさに陥る

「帰ったらメールしてよね。エリが一人で帰ることができるかわからないの」
「それくらいちょちょいのちょいだよ~」
道重の冗談で亀井の顔に笑みが浮かび、バイバイと手を振りながら亀井は改札へと向かっていった

「さて、帰ろうっと。明日までに卒論ある程度までまとめなきゃいけないし…卒業か…」
楽しかった時間は矢のように過ぎ去る、光陰矢の如くという言葉を何となく思い出していた

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友達と別れたようで一人でこちら側に近づいてきた
やはり、可愛い、実物が双眼鏡越しよりも数倍可愛い
ただあの子が「能力者」とは思えんな、いかにも弱そうだし、そもそも使えるのか自分の力を?

これまでの人々の中には力を気付いていない者がほとんどだった。じゃあ、あの子はどうなんだ?

おっと、いけない、時間だ。さあ、お前ら準備はいいか?

3、2、1、Breaking' Out!

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「なんの共通点も見つからないっちゃ・・・」
れいなが両手を上にあげ降参のポーズを示す
「だよね~仕方ないからちょっと現場にでも行ってみる?」
「じゃあ、愛ちゃんちょっと跳んでって。私はもうちょっと休む、いや、考えるから」
夜が深まり疲労もたまっているのだろう、あの新垣ですらやる気が感じられない

高橋がその空気を察したのだろうか、「ま、疲れたし、明日、ちょっと行ってみるよ」と言った
それに引き続いて光井も口を開いた
「愛佳も授業終わりに言ってみようと思い…」

<<助けて!>>

声が響き、高橋は立ち上がり、新垣は眠気が吹き飛び、れいなは椅子から落ちそうになった
「今のは・・・道重さんの声ですよね?何が起こったんでしょうか?」
光井が不安そうな声を上げた
「ちょっとみんな待ってて!声のした場所へ行ってくるから」
そういい高橋は道重の声の場所へと跳んだ

「この辺やよね・・・」
跳んだ先は駅からさほど離れていなく、人通りの多い通りから一本裏に入った小道だった
決して暗いわけではなくむしろ人の顔が判別することが出来るほど光は満ちている
「サユ?どこや…」

道重を探そうと足を踏み出した時、何かが足に当たる感触がし、高橋はそれを拾い上げた
「携帯電話…これはサユのだよね」
ロックされていて中は確認できないが、何度となく見たその携帯及びストラップは道重のものだった

「サユ、どこにおるんや?」
拾った携帯をエプロンのポケットにいれて、高橋はたくさんの人が行きかう大通りへと出た

しかし道重の姿はどこにもない
高橋達、リゾナンターの繋がったココロでもその位置までは把握できない

(とりあえず戻ろう)

数秒後、高橋はリゾナントに戻ってきた
「愛ちゃん、どうやった?サユになにかあったと?」
不安そうなれいなが誰よりも先に高橋のもとに駈け寄ってきた
「これが跳んだ先に落ちていた」
高橋はポケットから携帯を取り出した
「これ、さゆみんのだよね?さゆみんの姿はなかったの?愛ちゃん?」

「なかった。だからちょっとここに残った残留思念を読んでみようと思う。れいな、力を貸して」
「れいなはええっちゃけど、愛ちゃん、そんなことできると?」
高橋の精神感応の対象はあくまでも人間、そのことをれいなは疑問に思った
「・・・わからんけど、仲間のサユのだったらできるかもしれん。やってみなくちゃ始まらんし」

高橋は携帯の見た景色を読み取るため、意識を手に持った道重の携帯電話へ集中させた
「ど、どうっちゃ」「話しかけないで!」
携帯を握った手から黄色の光が流れ、高橋自身を包んだ

時間にしてはほんの一分ほど、だがそれを見守る3人にとっては数時間にも感じられただろう
発せられた光が途切れると、高橋は疲れた様子で椅子に座り込み、頭を抱え込んだ
「見えた・・・だけど・・・」
「『だけど』?愛ちゃん、何が見えたの?教えてよ、愛ちゃん!」

「・・・黒い男と黒い車が見えた」

ぽつりと高橋が呟き、その場にいた3人は息をのんだ。高橋が静かに言った
「小春を呼ぼう」

それと同じ頃、遠く離れた自分の部屋で亀井は急に不安になって窓の外を眺め、呟いた
「サユ?」