Vanish!(8) 独占 ―はぶられいなと消失点― 第6部


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高橋がれいなのことを思い出した
―高橋とれいなが会話が聴こえたのであろう吉澤が明らかに聴かせるようにチッと舌打ちをした
「なんだよ、結局、れいなのことを思い出しちまったのかよ」
「そうみたいですね」「なんか嬉しそうだな、マルシェ」
マルシェは笑みを浮かべながら同意する

れいなが立ちあがるのを助けるように高橋が手を差し出した
「こんなにボロボロになるまで…ごめんね…私達のせいで。でも、勝負はここからだからね」
「愛ちゃん・・・」

「おしゃべり厳禁だ!!」
吉澤が二人のもとへと駈け寄ろうと地面を蹴りあげた

その瞬間、吉澤のもとへとピアノ線が伸びていき…その体の自由を奪った
「愛ちゃん達に注目がいっていて、こっちのことを忘れていたんじゃないんですか、吉澤さん」
先ほどの壁に開いた穴から漏れる月明かりがその声の主を照らす
「ガキさん!」

「新垣、おまえのピアノ線くらいどうってことないんだよ!!」
「それならこれはドウデスカ?発火!」
新垣のピアノ線が炎に包まれ、吉澤は炎に包まれた

「リンリン!」
新垣のピアノ線にふれながらリンリンが大声を上げた
「皆さん、田中サンのことを忘れるなんて・・・遅いデスヨ!」
傍らにいた新垣が小さくつぶやいた
「ごめんね、田中っち」

もちろん声は聴こえないが…心の中に新垣の申し訳なく思っているココロをれいなは感じた
「ガキさん、今回は許すと!!」
「だったらさゆみのことも許して欲しいの」「さゆ!」

れいなの手をとった道重は全力でれいなの傷を治していく
折れていた肋骨の痛みや蓄積した疲労が和らいでいくのをれいなは感じた
「しかたないとね、さゆも許しちゃる」
「ありがと」

「うおぉぉぉ」
吉澤が炎を振り払った。残念ながら致命傷には至らなかったようで、服を多少焦がした程度であった

「やっぱりあれだけで倒れないと思ったけど、さすが吉澤だね。うっ」
力なく地面に倒れ込む高橋
「あ、愛ちゃん?どうかしたと?」
「ヘヘヘ・・・ちょっとさっきの光弾返すので力使いきっちゃったかも。ごめん、ちょっと休んでいるね」
「わかった、れいなに任せると!」

そんな田中の肩を何かがちょんちょんとつついた
振り返るとそれはパンダ
自身の背中を指し示めし『乗れ』といっているようだった
(田中サン、私に乗ってくだサイ!田中さんよりも獣化したジュンジュンの方が早いダ)
言葉は話せない状況にある獣化だが、れいなはそんなココロを聴いた
「ジュン!!」
パンダはその瞳を細め、笑ったような表情をのぞかせた

「よし、ジュンジュン、目標は吉澤!!全力で突っ込むっちゃ!!」
『了解』とでもいうように、低く唸り声をあげた

パンダの筋肉質な4本の足で唸りを上げながら吉澤との距離が近づいていく

一方の吉澤はというと、炎を振りほどいたものの足元はふらつき、疲労の色がみえはじめていた
さすがの吉澤でもなんども立ち上がるれいなを相手にした後、不意打ちを受けた、それなりにダメ-ジが蓄積していた
「おいおい、まじかよ・・・復活するなんてズルくねえか?」

(吉澤さんが危ない!!」
マルシェはれいなを止めるために、自身の左手の重力装置に手を伸ばした
ボタンを押そうとした瞬間に涼しい風がマルシェを包んだ
(も、もしかしていまの風って・・・)
マルシェが装置に目を落とすとボタンに幾つもの細かい筋が入っており、装置が完全にバラバラになっていた

「愛佳の予知をなめとったら痛い目みますよ!ですよね?亀井さん?」
「えへへ、絵里の必殺カマイタチ、涼しいでしょ?」
「田中さんの邪魔はさせへんで、マルシェ!!」

(絵里!愛佳!)
ジュンジュンの背中から光井の指示で亀井がマルシェに向かって風を放ったのをれいなはじっと見ていた
そんな瞬間にも吉澤とれいな(とジュンジュン)の距離は縮まっていく
吉澤は覚悟を決めたように脚元をしっかりと固定し、ジュンジュンごとれいなを叩きつぶすことにしたようだ

「ジュンジュン、れいなを吉澤めがけて投げると!」
『ガゥ』(いいんですか?)
「れいなを信じると!!仲間っちゃろ?」
ジュンジュンが急停止したため、れいなはその背中から前のめりになって落ちそうになった
そんなれいなをキャッチし、ジュンジュンは力いっぱい吉澤向けて投げつけた

予想外の行動であったのだろう吉澤は目を丸くし、弾丸にも似た速度で迫ってくるれいなを見ていた
れいなと吉澤の視線が交錯する
(吉澤、れーなはこの一撃に全てをかけると。覚悟するとよ)
(フフ、れいな、やはりお前は面白い、来い、お前の全てをうけてとめてやる。最後の勝負だ)

吉澤とれいなの拳がぶつかり合い、空気の渦が生まれた
力はほぼ互角のようで、お互い歯を食いしばり飛ばされないようにと必死だ
(も、もう少し力があれば・・・)

そんなれいなの声を聴いた光井が、久住に対して視た未来の像をもとに指示を送った
「久住さん、田中さんに向かって、電を放ってください」
「え?でも、それじゃ田中さんが」
「大丈夫です。愛佳を、田中さんを信じてください!!」
「・・・わかった。でも、小春、何が起きても知らないからね、小春のせいじゃないからね!」
そういいながら小春は赤き雷をれいなに向けて放った

赤き雷はれいなに突き刺さり…付けていたあの“手袋”を通して―接触している吉澤の体へと流れ込んだ
「ギャアア・・・」
れいなに直撃した電撃は“抗電気手袋”を通じて吉澤へ直接流れた。
吉澤の力が衰えたのを見逃さずに、全ての力を込めて左手を放った

「1+1が10になるだけのれいなの共鳴だったら、れーなはオマエに勝てんかもしれんと
 …でも1+1+1+1+1+1+1+1+1だったら無限のパワーになるとよ!!」

れいなの左拳が吉澤の頬をえぐるように決まった。
吉澤は一度、二度、三度と何度も床をバウンドしながら、壁に叩きつけられた
叩きつけられた衝撃で壁には蜘蛛の巣状にひびが入り、その衝撃の強さを物語っていた

しかし、同時にれいなもその場に膝をつけて、座り込んだ
(今のが…最後の力を振り絞った攻撃っちゃ。お願い…立ち上がらないでくれ)

吉澤は下を浮いたまま動かない
そこにマルシェが無事を確かめるように近づいていった
「よ、吉澤さん」
「・・・おう、マルシェか?効いたぜ、今のは・・・」
小さく低い声がれいなをはじめとするリゾナンター及び雅の耳に届いた

「やっぱ、あいつらおもしれえな…クククッ・・・」
「あ、あいつは化けもんか?」
高橋は強く唇を噛みながら憎々しく言った

「ククク・・・クゥ、効いたぜ、こいつは…さてと・・・マルシェ、帰るぞ」
「え?」
突然の撤退宣言にマルシェは驚きの声を上げた
「何を驚いているんだ、最初の目的のリゾナンターの記憶を消すことは失敗したんだ
 帰るのは当たり前だろ。それとも何か、あいつらとオマエが戦うとでも」
「い、いいえ。そ、そうですね、帰りましょう。急いで傷を治さないと」
吉澤の肩を支えながらマルシェは立ちあがった

マルシェと吉澤のそばの空間に切れ目が入った。
「おい、リゾナンター」
吉澤が頭に降り積もったコンクリートのかけらを払いのけながら言い放った
「今日はオマエらの勝ちってことにしてやる。だがな…次はそうはいかないからな
 ダークネスは闇に巣くいし者。いつでも闇を持つ者がいれば、そいつに近づき…闇へといざなう
 ・・・雅、オマエの闇はなかなかに美味しかったよ。
 だがな、これで全てが終わったと思うんじゃねえぞ!!」

空間の切れ目に吉澤は跳び込み・・・二人は消え去った

「た、助かった…」
緊張の糸が切れたのであろう、姿が消えた途端にれいなは頭から地面にぶつかるような姿勢で―気を失った

「れいな!」「田中っち」「田中さん!!」
リゾナンターは気絶したれいなのもとにかけよっていく
もちろん、その輪の中に雅の姿もあった

●月■日(日) PM 11:00

歪んだ空間の中で二人は話し始めた
「吉澤さん、けっこうひどくやられましたね」
「まあ、たまにはこういう経験もいいじゃあねえか。Rもミティも経験して強くなっているんだしな」

「…吉澤さん、嘘ついてますよね」
「なにが?」
「だって、ガキさんを家の前まで連れていったのって吉澤さんとしか考えられないんですよ
 だって雅って子はガキさんの家なんてしらないはずですよね?なのにガキさんの記憶は家の前でいきなり復活している
 それに、あの子の力じゃ「気絶」なんてできるはずがないじゃないですか。あんな『静電気』だけで
 ついでに、雅の放った静電気がガキさんのワイヤーの上を走るなんておかしいですよ、科学的にありえませんから」

「…だったら、何が言いたいんだ?」
「ガキさんを襲ったのは『雅』なのは間違いないでしょう
でも、ガキさんを気絶させたのは吉澤さんで、『『田中れいな』の記憶を『失った』という催眠をかけたんじゃないんですか?』
それに解答せずに黙っている吉澤

「ガキさんに催眠をかけたからこそ、あんなに鮮明なココロの世界が作られた
ついでに、雅はあなたが『ダークネス』ということも知っていたんじゃないんですか?」
「・・・」
「これは私の勘ですけど、れいなが『欲しい』っていう願望も吉澤さんが催眠で増強させてい…」
「ま、そんなこたぁ、どうだっていいじゃないか。俺もかなり疲れたんだからよ
 お、どうだい、マルシェ、今夜一緒に飲まねえか?おいしいブランデーが手に入ったんだけどな」
強くマルシェの肩を叩いて、吉澤は豪快に笑い、しばらく笑った後、ぽつりと落ち着いたトーンで言った
「リゾナンター…あいつらが強くなるのは大歓迎なんだからな―あの方のためにも」

その発言を聞いたマルシェがぽつりと呟いた
「・・・全ては彼女達を強くするために仕組まれた計画だったのでは?」
しかし、その根拠となる発言を言った吉澤の心中をマルシェは読み取れなかった

●月∴日(水) PM 4:00

「う、う~ん」
「あ、ようやく気がついたみたい!!」「れいな!!」「田中さん、無事でよかった」
「こ、ここは?・・・リゾナント?」
眼を覚ますとそこはリゾナントの高橋の部屋だった

「もう、心配したんだから!いくら治しても、体をゆすっても全然起きないんだもん」
目を真っ赤にはらした道重が頬を膨らませながられいなの肩を軽く叩いた
「いたいとよ、サユ、まだ完全には治っていないんだから」
そう言いながらもれいなは笑ってしまう

「なに、れーな、そうやってニヤニヤ笑って。嬉しいことでもあったの?」
「いや、なんでもないとよ。ただ、みんながいてくれるのが嬉しいだけっちゃ」
ニヒヒ笑いが止まらない
「もう3日も寝ていたんだから、暫くはそのまま安静にしていないといけないみたいだけどね~」
新垣が姑ばりの口調で病状を報告する
「あの子も心配していたんだからね、あの茶髪の子」
「そうっちゃ、雅は?」

見渡してみたが、部屋の中に雅はいなかった
「れいなをここまで運んだ時にはいたんだけどね…サユに治療されたあと、どこかに行っちゃったんだよね
 ねえ、れいな、あの子、雅ちゃんの行方とか知らないの?」

れいなは首を横に振った
(そういえば、雅がどこに住んでいるとか、全く知らないっちゃ)
「ありがとうの一言も言わないで行っちゃったからさ・・・コーヒーの一杯でも飲んでほしかったな」
高橋が残念そうに呟いた

「ほら、田中っちもこうやって元気になったんだから、みんなちょっと部屋から出ていこうか」
ほぼ全員が「え~~」と反抗の声を上げた
「新垣さん、田中さんもせっかく起きたわけですし、少しくらい話しさせてもらっても…」

「ダメ!今、一番必要なのは落ち着いてもらうことなの。とりあえず一人でゆっくりしてもらった方がいいでしょ!!
田中っち、荷物は全部机の上に置いておいたからね。ほら、みんな騒がない、田中っちがいらいらするでしょうが~~~」
誰よりも大きく声を出して新垣が部屋から全員を追いだし、自身も部屋を出た。

「ガキさんの声が一番、大きかったとよ」
そう言いながられいなはカバンを手に取り、中から携帯を取り出した

予想通り・・・そこに雅からのメールが届いていた

『FROM ミヤ    TO れーな
 きっと田中さんなら真っ先にこのメールに気がつくと思います。だって田中さんだもん
 ・・・ミヤがしたことは本当に間違っていたんだなあって心から反省しています
 結局、ミヤは田中さんに憧れていて、ただ近くにいたいと言うよりも独占したい我儘だったんですね
 ミヤにとって田中さんが大切なように、田中さんにとって必要な人もいるってことが強くわかりました
 きっとミヤと田中さんは似ているけど、交わらないんですよね、平行線のように
 ただ「ごめんなさい」の一言も言わないでいなくなる私を許して下さい
 でも、今度はしっかり、成長した私で田中さんに会えるように…自分を見つめなおしたいと思います
 その時は田中さんの入れたコーヒーとケーキでもてなしてくださいね
 PS れいな城の荷物はあのマンションの部屋に隠してありますよ』

「生意気っちゃね」
れいなは鼻でふふんと笑い、携帯をパタンと閉じて窓の外を見た
下からは仲間達の騒ぎ声が聴こえていたが、決していやに感じなかった
むしろ―幸せを感じ、ニヤッと笑った

「ミヤ・・・次に会うときはまず一発殴ってやるとよ、約束やけん」


<エピローグ>

家に帰る途中の私は、品定めするような下品な目つきの男達に囲まれてしまった
「かわいい顔してるのに、こんな時間に歩いているなんて不良だねぇ」
取り巻きの男たちは声をあげて笑うような本当に下品な連中だった。
『近づかないで!やめて!!』
「イヤと言われてもな、俺らとしてもお嬢ちゃんみたいな子はなかなか会えないから逃したくないんだよね~」
そう言って私を囲む男達の輪が少しずつ小さくなり、リーダー格の男の手が私の肩に触れそうになった

「あんた達、なにしてるの?・・・ふぅん・・・そういうことしているんだぁ」
少し鼻にかかった声が聞こえ、数人の男たちが振り返る。
私よりも小さいのに、大きな目と髪型のせいであろうか、なぜか切れ味鋭いナイフのような印象が感じられた

おそらく血の気が多いと思われる一人の男が少女に向かって声を荒げて近づいた。
「なんだ、てめえは!!お前が相手にでもなるっていうのか?ああ?」
少女は何も言わずに近づいてきた男の腹に蹴りを入れ、男をあっけなく気絶させた。
「次はあんた達の番だね」ニヤリと少女は男達にむけて余裕の笑みを浮かべた。
「ふざけんな、やっちまおうぜ」男たちは息を荒げて一斉に少女に向かっていった

それから数分後、その場で自分の足で立っていられるのは少女だけになっていた
男達の隠し持っていたナイフや鉄パイプが路上に散乱していた
その少女は肩をふるわせ震えていた私に手を差し伸べてこう言った。
「・・・いっとくけどアンタのためじゃないから!勘違しないでよね。
ただ、こういうことしているヤツラが大嫌いだからしただけのこと」
粗暴な言葉づかいとはうらはらにその言葉に私は温かさを感じた。

「あんた名前は?」と言われたので答えたが耳があまり良くないらしく『り』しか聞き取れないようだった
私の名前を呼んだ彼女はゆっくりと手を差し出した
「家まで送っていってあげるから、家を教えて『…り…ちゃん』」
私は彼女が差し出してきた手を握り、ゆっくりと立ちあがった
握ってくれた手の温もりが心地よくて、それは寒さでかじかんでいたからだけではない―そんな気がした   (完?)