「Vanish!(8) 独占 ―はぶられいなと消失点― 第3部」


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●月■日(日) PM 9:00

屋根から屋根へと飛び移っていくのは三つの影、れいな、マルシェ、そして雅
そのシルエットはいつのまにか澄み切っていた夜空の中で華麗に浮かび上がる
白い吐息を吐きながら先陣を切っているれいなにマルシェが声をかける
「れいな、場所は分かっているのですか?」
「マルシェ、れーな達の絆をなめてほしくないと!もうすぐで着くとよ。
 っていうかマルシェ、愛ちゃん達を襲うのはお前ら、ダークネスやろ?誰が向かっているのか知らんと?」
「今日は完全にプライベートで来ているんですよ。それに私の部下のことしか私は知りませんし」
残念そうな表情を浮かべ、れいなはマンションの屋上にスタッと着地し、また向かいのマンションへと跳んでいく

「無意味なことはやめたほうが身のためだと思いませんか?ねえ、田中さん」
「うっさい」
れいなは最後尾で二人についてきている雅に対しては冷たい態度で応戦した
「酷いですね。まあ、いいですよ。すぐに考え変わりますよ。ね?マルシェさん?」
「・・・れいな、私もこの子のこと好きになれそうにないです」

「あれや!あそこの工場に愛ちゃん達がおると!マルシェ、急ぐと!」
目指すべき場所が見えてきたためれいなの声はますます浮つき、明るくなっていく
「ちょっと待ってください・・・れいな、早いですよ・・・」
着いていこうと必死なマルシェと雅を置いてれいなは一人で声の発せられた場所へと進んでいく

先ほどかられいなの胸には声は届いていないが、いやな予感は常に離れない
(あの声は・・・あの子やろ。確かに今日・・・リゾナントにはおらんかった!)
声の主の見当はついていた
しかし・・・なぜ声が届いたのかが疑問に残る多い人物であった。意外と言えば失礼だが…

●月■日(日) PM 9:00

高橋をはじめとする8人のリゾナンターが到着し対峙したのはたった一人
「おう、久しぶりだな。お、ガキさんも元気にしていたか?」
敵だと言うのに調子外れるようなフランクな口調の持ち主

「ガキさんを仲間みたいにいうな!もう、ガキさんは私達の仲間なんや!」
「それはとんだご失礼を・・・ククク、仲間ね」
高橋が睨みつけても相手は動じようともせず、紳士ぶった口調であざけ笑いをする

「何が面白いんダ!新垣サンをばかにする奴はジュンジュン許さない!!」
「新垣さんは小春の大切な仲間で会って、先輩で、友達だもん」
久住の赤い電撃が放たれ、戦闘ののろしがあがった

高橋の拳や蹴りが、久住の赤い電撃が、リンリンの緑色の炎が部屋を舞う
光井と道重、亀井はいつも通りに後ろに下がりサポートをする
そして新垣が中盤から敵の動きを捉え指示をこなす

そして今

気がつけば部屋の中で高橋のほかに立つことができていたのは光井だけになっていた
「が、ガキさん」
つい先ほどまでは新垣もかろうじてではあったが、立っていた。しかし、新垣も今しがたの攻撃で…
球形の光弾が腹部に直撃し、新垣は背中から叩きつけられボキッと嫌な音を出して動かなくなった
腹部をかぼおうとした時にガードした右腕が変な方向に曲がっていた

「ガキさん、ガキさんっ!!」
「・・・ごめん、愛ちゃん、動けないや」
急いで高橋は新垣の元に“跳んだ”が、敵の攻撃は容赦なく続く
「戦いの最中に敵に背を向けるなんて、甘いのは相変わらずだな、高橋」
低いトーンの声が耳元に届くと同時に高橋は後頭部に衝撃を受けた

「高橋さん!!」
自分の力だけでは戦闘することのできない光井は必死でリーダーの名前を呼び続ける
そんな光井の近くに敵は現れ、「邪魔だ、煩い」と言いみぞおちに蹴りをくらわせた
「!!」
声を出せないほどの激痛が体を走り、光井は腹を押さえてうずくまる

「残りはお前だけだな、高橋」
そう名前を呼ばれた高橋はイタタ・・・といいながらゆっくりと立ち上がる
先ほどまでの笑みを完全にしまい込んだその目は獲物を狩る野獣のように静か

全身に殺気を感じながら構えている高橋に新垣が倒れたままの姿勢で声をかける
「愛ちゃん、おかしい・・・みんなの力がいつもよりも圧倒的に弱い」
「実はあーしもそれを感じた。瞬間移動を数回しただけで体力が無くなってしまうんよ」
リンリンの炎も、久住の雷も速度が遅く簡単に避けられた
道重の治癒も光井の予知もいつもよりも時間がかかっていた・・・と感じられた

「おしゃべりしている暇があるんだったら、こっちを向くんだな」
気がつけば高橋の目の前には、鋭い蹴りが迫っていた
高橋は咄嗟に瞬間移動し、可能なだけの距離を取った
「遅い、遅いぞ!!止まって見える」
敵はすぐさま高橋の現れた場所に向かい突進してくる

必死に攻撃を避けながら高橋は考える
(どうして?いつもならこんな攻撃、簡単に避けられるハズなのに・・・)
幸運なことに仲間たちは気絶していたり、動けないだけで命にかかわる傷を負った物はいない
しかし、目の前にいるこの相手の気がいつ変わるのかはわからないため、高橋としては一時も早く対処したかった

「考え事をしていると余計な雑念が生まれる。それが命取りになるのは戦いの基本だぜ」

高橋の腹部に先ほど新垣が受けたのと同じ光弾が炸裂し、鈍痛とともに飛ばされた

痛みに顔をゆがめ宙に飛んでいる最中に高橋は違和感を感じていた

いつもに比べて圧倒的に弱い自分達の力
たった一人の敵にたいしてこれほどてこずることはなかった
そして・・・何かを忘れているようだった。そう、誰かが横に居てくれた様な気がしてならなかった

目をうつせば床に倒れ込んでいる仲間達が目に入ってくる
ジュンジュン、久住がまず最初に倒れ、リンリン、亀井、道重、新垣、そして光井…
誰もが苦痛で歪んだ表情をし、立ちあがろうとしているが立ちあがれるものはいなかった

地面が迫ってきたため高橋は受け身の姿勢を取ろうと構えた
      • しかし、地面にぶつかることはなく、誰かに受け止められた

「愛ちゃん、大丈夫かいな?」
その声に高橋は聴きおぼえがあった
そう、つい数時間前に「れいな」と、そして「一緒に戦っていた仲間」だと名乗っていた人物


「れいなちゃん?」
「みんなを助けに来たとよ」
高橋が立ちあがるのを助けながられいなは優しく微笑みかける

しかし高橋はあえて厳しい口調でれいなに言い返す
「なんでここにいるのよ!ここは危険なの、早く帰って!あなたみたいな子がいると命が危ないの!」
「大丈夫っちゃ、れーな、喧嘩にはなれとうと!ほら、愛ちゃん、少し休んでいた方がいいっちゃ」
そういいれいなは高橋を制してあたりをきょろきょろと見渡し、ある人物の姿を認めた

ゆっくりと近づいて口元に手を当てて、命に別条がないことを確認した
「良かった…息はしとうみたいっちゃ…意識を失っているだけみたいと」
パチパチと頬を叩き意識の有無を確認すると、その手を払いながらその子は言った
「・・・さっきから見えてイマスヨ。田中さん、やめてクダサイ」

『田中さん』といういつもなら何とも感じないであろう、その単語にれいなの体の中に温もりが広がっていった
「やっぱりあの声はリンリンだったとね。リンリンの声があったからここに来れたっちゃ」
かろうじて会話は出来るが全身がぼろぼろになっているリンリンに感謝をこめてれいなは話しかけた
「田中サン・・・来るの遅いデス。リンリン、動けないデス
あ、『デス』は『死ぬ』って意味じゃないデスから安心してください」
「そうやって、冗談言えるくらいなら問題ないっちゃね。リンリン、ゆっくり休んでいいとよ」

「リンリン、その人知っているの?」
足を引きずりながら高橋もリンリンの近くにやってきた
「愛ちゃん、無理せんほうがいいとよ。体ボロボロっちゃ」
「・・・田中サンがいないことに高橋サン、気がつかなかったんデスか?」
リンリンは眉間にしわをよせて、高橋を見上げる
「え?・・・いやいや、れいなのことは覚えとるがし。冗談やよ、冗談」
「・・・高橋サン、焦ってマスね」

そこに遅れて2つの足音が近づいてくる
「誰や?新しい敵か?」
高橋が近づいてくる足音のする方向に体を向け、構えをとる
やってきた二人はダークネス所属のマルシェ、そして・・・先程、お店に来た女の子、雅であった
「マルシェ!!」「あ、愛ちゃん、まだ無事でしたか!」
「無事じゃないよ!」
「まあぼろぼろだけど、そうやって言えるなら大丈夫です」
彼女からは何度もリゾナンターは攻撃を受けている。そして、目の前にいる敵もダークネス
これは完全に援護に来たとしか考えられない状況であった

そして・・・もう一人来た女の子、雅も高橋にとっては好ましい存在とはいえなかった
先ほど、お店に来て、ケーキを注文した見た目はちょっと派手な女の子
      • しかしここにマルシェとともに来たということは―彼女もまた、『敵』と考えるのが筋であろう

「れいなはどこかな?あ、あそこか。ごめん、愛ちゃん、今日はね構っている余裕はないんだよね」
「『れいな』?やっぱりあの子もダークネスなんやな!!」
高橋は唇を噛みながられいなを見つめる
「・・・本当にれーなのこと忘れさせられたみたいですね」「?」
「『共鳴』という絆のもとに集まったはずの戦士達、かなり残念です」
高橋はそのマルシェの言葉に疑問を感じたようだが、れいな達から視線を外そうとはしなかった

リンリンのそばに立っているれいなにマルシェ、そして雅は駈け寄った
「リンリンですか、まさかれいなのことをリンリンが覚えているとは予想外でしたね」
「・・・出会えなかったんですよ、そいつと。オリジンにいても、来なかったし」
「オリジン弁当で接触する予定だったんですね・・・計画が単純というか・・・」

マルシェは知っていた
―この3日間・・・リンリンのバイト先の店長さんは風邪でダウンしていてバイトできなかったことを
―そして、ずっとご飯を愛ちゃんのお世話になっていたからオリジンにはいかなかったことを

(まったく運がいいんだか、悪いんだか・・・)
れいなとリンリンをちらりと見ながら心の中で呟いた

「それで、みんなをこんな風にした奴はどこにいると?」
れいなは気配を殺している敵を探そうと、振り返り周囲をうかがう
殺気が漂っていることに気付かざるを得ないくらいに空間のゆがみが目に入った

「そこにいるんやろ!出て来るとよ!れーなが相手になると!」

工場の上に走っているパイプの上から何者かが飛び降りてきた
「そろそろいいよな?しかし・・・再会を喜ぶ姿は泣けるものだな・・・ぐすん」
「嘘泣きは止めると。さっさと来るっちゃ」
「おお、こわい、こわい。しかし、れいながいないだけでこんなに変わるものなんだな」
飄々としたその表情からは余裕が伺える

そのれいなとにらみ合っている相手がマルシェの方を向いて、親しみを込めた軽い口調で声をかけてきた
「おう、マルシェ」
「ん?え?なんで?あなたがここにいるんですか?

                  吉澤さん」