「Vanish!(8) 独占 ―はぶられいなと消失点― 第4部」


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工場のパイプの上から降り立った人物をれいなはよく知っていた
赤茶色に染まったショートヘアー、黒を基調としたロックコンサートにでもいくような格好の吉澤
そう、ダークネス所属の優秀な精神系能力者であり、「催眠」能力だけを見るならば最強に限りなく近い幹部
そんな吉澤がたった一人で高橋達、リゾナンターを壊滅寸前まで追い詰めていた

「吉澤ひとみ!愛ちゃん達をこんなにボロボロにしたんことの借りをかえすと!」
「・・・やっぱりお前がいないとリゾナンターは弱っちくてつまんねえな。まあ、おかげで簡単に倒せるんだけどな」
掌の上に光弾を浮かべながら吉澤が笑みを浮かべている
「れいなをなめんほうがいいとよ!」

「おい、マルシェ、おまえはどうする?」
ふいに名前を呼ばれたマルシェは「私ですか?」と尋ね返す
「う~ん、今日は完全にプライベートでいるので加勢はしません。というか吉澤さん、加勢とかそういうの嫌いですよね」
「お~さすが、マルシェわかってるじゃん。じゃあ、そこでじっとして見学してな」

「マルシェ、それでいいんか?」
思わず加勢に来たと思い込んでいた高橋が驚きの表情でマルシェに声をかける
「だって吉澤さんがそういうんですから、仕方ないですよ。愛ちゃんも知っているでしょ、あの人の性格を」
「ま、まあそうやけどさ・・・そのほうがありがたいけどさ・・・」
(じゃあなんのためにこの人は来たのか)という疑問が胸に疼く高橋であった

ただ、一番、吉澤が現れたことで動揺したのは・・・雅であった
「な、なんであなたが、ここに?」
雅の呟きを逃さずにれいなは訊き返した
「どうしたミヤ?あいつを知っていると?」
「あ、あの、た、田中さん、あの人って占い師さんですよね?駅前の有名な」
「何言うとると!あいつもマルシェと同じダークネスっちゃ」
「!!」

「しっかしなあ・・・へましちまったなあ」
吉澤が頭をかきながら呟き、れいながまた吉澤の方へと振り返る
「なんだかんだいってもよ、れいな来ないと思ったんだけどな・・・」
「愛ちゃん達のピンチに来ないわけないっちゃろ!吉澤!来ないならこっちから行くとよ」
「まあ、待てよ。お前一人で俺に勝てると思っているのか?だとしたら笑いもんだぜ」
言葉の一つ一つが挑発的なのに短気なれいなはいてもたってもいられない様子であった
「勝負はやってみないとわからんとよ!れいなには『共鳴』という力があるとよ!
 一人じゃ勝てんくてもみんなの力があれば勝てるかもしれんやろ!」

「無駄だって、共鳴できるのはリンリン『だけ』なんだろ、れいな?
 一人としか共鳴できないお前が俺に勝負を挑むとか無謀だぜ。諦めな」
「な、ちょっと待つと!なんでお前がそのことを知っていると!マルシェ!何も知らんと、本当に?」

「わ、私は少なくとも何も知らないですよ。だってダークネスの中で担当は矢口さんで・・・あ!!」

マルシェは自分の中で状況を説明できるようにしようと考え始めた
(もともと・・・これは吉澤さんが『仕事があるから』矢口さんに、ボスが渡した仕事
 もし、初めから吉澤さんが関わっているとしたら・・・)

ぼーっと考え込んでいるマルシェにれいなが声をかける
「どうしたと?マルシェ、なにか思い出したと?」
「い、いや、なんでもないですよ」

「いっとくがな、俺は何もしていないぞ。やったのはソイツだろ、な、雅ちゃん」
ソイツといいながら吉澤は雅を指差し、その場にいた全員の視線が雅に集中する
「あれ、どうしたのかな?お前が『れいなが欲しい』と言ったから手を貸したんだろう。
 お前の愛してやまない『れいな』様を渡すためにアドバイスしたことを忘れたのか?」

「あ、あなたはだってただの情報屋って言ってたじゃないですか!ダークネスなんて一言も…」
「あれ、お前はそんなこと訊いたっけ?そんなこと覚えてねえし。ま、訊いていたとしても嘘くらい言うだろうがな」
「そ、そんな・・・」

「もしかして、ミヤ、こいつとグルだったと?こいつはダークネスっちゃ!何しとうとよ!!」
「だ、だって、この人が『あなたの望んでいる物を得るのを助けましょう』なんて言ってきたから・・・」
「バカっ!!昔からミヤは自分のことしか見えとらんっちゃ!!吉澤っ、オマエが黒幕だったと!!」

「チッ、うっさいな。だからあっつい奴は嫌いなんだよ。クールに徹しな!
 あぁ!!それもこれも、雅!お前がリンリンの記憶を消さなかったのが原因なんだよ!」
いらいらした口調で吉澤が強い口調で言う
「だ、だってリンリンが来なかったから・・・いつも来るはずのオリジンに・・・」
なんとか立ちあがろうと壁に手をつけてもがいているリンリンを吉澤は捉えながら言う

自分のしてしまったことの重大さに今更気付いた雅は怯えてしまっている
そんな雅に吉澤は容赦なく責任を求め続ける
「雅、オマエが求めたから俺はおまえの望むものを得られるようにアドバイスをした
 もちろんリンリンと接触できなかったときも指示はしたぞ!」
「だ、だって、補習が・・・時間が・・・」
「それはお前の問題だろう!!それをどうにかするのが普通じゃないのか?欲しいんだろ、れいなが」
すっかり委縮してしまっている雅を見てれいなは素直に可哀そうと感じた

「やめるっちゃ、吉澤!これ以上、ミヤを責めるな!」
「何を言っているんだ、れいな?お前の大事な仲間を奪ったのは後ろにいるそいつだぞ
 何も俺は悪くないだろ?ちょっと手を差し伸べただけだろ?何も手出しはしていない」
口調は荒いが吉澤は冷静であった

「俺はただ計画を考えただけ。それを『やれ』なんて一言もいっていないし、決行したのはソイツだ
 仲間がいなくなったのは雅のせいだろ?そいつのために俺を責めてどうするんだ?」
しかしれいなは怒りをむき出しにせざると得ないくらい怒りを感じていた
「お前が悪いと・・・」
「なんだと?」
「悪いのは、吉澤オマエっちゃ!なんどでもいうと!悪いのは雅じゃなくて、雅をそそのかしたお前達っちゃ!
 雅がこんな力を持たなければ普通に『お客様』としてリゾナントに来て、一緒に笑って友達になれたと!
 雅がこんな方法を選んだのはオマエがなんかしたからやろ!!」

「わかっていないなあ、れいな。俺は本当に何もしていないぜ
 ただ、そいつの闇を感じ取って近づいただけだ、それ以上でも、それ以下でもない
 ちょっと後ろから囁いただけだ
 『バカやろ、ホントのじぶん、やりたいことをやってやれ』『自分を信じて行けばいいじゃん』ってな

 その闇に従って生きることができるもの、できないもの、そんな差なんて単純なものだぜ
 自分に『素直』になれるか、なれないか、それだけだ
 どうなんだ?いつも頭をぺこぺこ下げ、一人になった時にそれに苦悩する人生なんて楽しいのか?

 少なくとも俺は自分を貫き通してやる。自分に嘘つくくらいなら人間を辞めるね
 俺は何にもとらわれない、自分自身で道は切り開く、こう決断したからここにいる」

吉澤はれいなに手を差し出して言葉を締めた
「・・・こいよ、れいな、お前にもあるだろ、素直にやりたいことが
 俺達と一緒にいれば、楽しく自分らしい道が開ける。歓迎するぜ」
きらりと光る白い歯を見せながら吉澤は二ヤリと笑い、大きな瞳がれいなを捉える

れいなは下を向いたまま、答える
「そうやって雅を闇に取り入れたとね・・・」
下を向いたまま握った拳を更に強く握った
「お前の言葉でれいなを求める闇へとミヤを落として行ったとね・・・」
肩をぷるぷると震わせながら自分自身に言い聞かせるようにれいなは呟き続ける
「もちろん、心の闇に落ちいったのは許せん・・・でも、そのきっかけを作ったオマエはもっと許さんと!」
そういいれいなは吉澤向かって突進していった

「俺との実力差がわかっていたとしても来るのか?」
れいなの拳、蹴りを器用に避けながら吉澤が不敵な笑みを浮かべつつ問いかける
それには答えずにれいなはただひたすらに拳を放ち続ける

しかしその拳は一向に吉澤を捉えられない
「どうやら、れいなには闇に取りいられることの素晴らしさが伝わらないみたいだな
 ・・・残念だ、オマエなら分かってくれると前々から気になっていたんだけどな
 それもこれも高橋と一緒にいすぎたせいかもしれない」
大きく後退してれいなの蹴りを交わして、小さいながらも光弾を充電し始めた

「なんていわれてもれいなの心は決まっていると!おまえを倒して、また愛ちゃん達と一緒に戦う!
 オマエを倒せば、何か起こるかもしれんっちゃろ!」
「だから、俺を倒しても変わらねえんだって・・・全く残念だ、れいな」
吉澤は怒りにまかせて攻撃を仕掛けて来るれいなをひきよせ、その光弾を0距離で炸裂させた
直接腹にその攻撃を受けたれいなは苦痛に顔をゆがめ、大きくはじき飛ばされた

コンクリート製の柱に強く叩きつけられたがれいなは何とか立ちあがった
「グフッ」
腹を押さえて立ちあがったれいなが口元に手を当てると、掌が赤く染まった
「おいおい、れいな大丈夫かよ?勝負は始まったばかりだろ?」

ふらつきながられいなは吉澤を睨みつけて強がる
「それは、こっちの、セリフっちゃ・・・」
「おいおい、まだ初っぱななのにもう息がきれてるのかよ。やっぱリンリンだけじゃダメだな」
吉澤は静かにれいなを見降ろした

そんな二人を遠くからマルシェと雅は離れて見ていた
「まったく吉澤さんったら楽しんでいますね。ま、れいなも本調子になれないから仕方ないですけどね
 ・・・で、これみてどう感じた?」
横で震えている雅にマルシェはそれとなしに声をかけた
「・・・わからないです。なんで田中さんが戦っているのか
 田中さんの大事な人の記憶を消したのに、そんなミヤでなくて、あの人を怒っている
 確かにミヤがこんなことをしたのはあの人に関わったからですけど・・・責任があるとは到底思えないよ」

少し落ち着いたが、目のまわりが濡れたまま雅が心ここにあらずと言った口調だ
「心の闇に飲み込まれたのはミヤだし、行動を起こしたのもミヤ、田中さんを呼び記憶を消そうとしたのも…
 田中さんはミヤのことをあんなに嫌いになったはずなのに、どうして戦うんですか!わからないよ」
「・・・わかるわけないよ、そんなの。どんな人でもれいなにはなれないんだから」
マルシェはれいなをじっと見たまま雅に顔を向けることもせずに答えた
「理由なんているのかな?あの姿がれいなだし、それをあなたは求めたんじゃないの?
 れいな『らしく』生きてほしいって、あの姿がれいなの今の『らしさ』なんじゃないんですか?」
「・・・」
雅は言葉を紡ぐことができず黙り込んだ

ゆっくりとふらつきながらも立ちあがるれいなは静かに構えた
「ここからが本番っちゃ。れいなはまだ一人やないと!」
息をするだけで胸がきりきりと痛む
しかし先ほどの攻撃で冷静を取り戻しており、れいなは静かに吉澤を睨みつける
「吉澤、ここからが本番や!本気のれいなを見せつけるけん、覚悟すると!!」
疾風のように突進していくれいなを吉澤は軽くあしらい、華麗に右に左にかわし続ける
「吉澤ぁ、よけてばかりじゃなんもならんとよ!本気できていないっちゃろ!
 れいなを倒すなら本気でないといけないとよ!!」

「―その通りだ」
目の前にいたはずの吉澤の声がれいなの後ろから聴こえたような気がしてれいなの動きが一瞬止まった
「誰を見失ったんだい?言ってごらんよ」
その言葉と同時に正面に吉澤の影が現れ、腹部に強い痛みが入った
「!!」
れいなはその場に膝をついてうずくまった

「まだだ、こんなもんじゃねえんだろ?」
うずくまったれいなに向かい吉澤は光弾を放ち、れいなは再び大きく飛ばされた
柱に打ち付けられることはなかったものの、れいなが飛ばされたことで生じた埃が部屋を舞う

壁に叩きつけられたれいなに駆けつける影があった
「だ、大丈夫?れいなちゃん」
「あ、愛ちゃん」
打撃を受けお世辞にも綺麗な格好とはいえなくなってしまったれいなは、言葉が切れ切れながら問いかける
「み、みんなは?無事と?」
「う、うん、大丈夫。みんな息をしているし、動けないだけだから…お願い、れいなちゃん、休んでいて
 これ以上、一般人を戦いに巻き込むわけにはいかないのよ。ボロボロじゃない、もう。私達がやらないと…」
「れーななら大丈夫っちゃ、愛ちゃん達はそこでみとると!!」
そういいれいなはまた、吉澤に向かっていく

だが・・・れいなは吉澤に思いっきり殴られ、地面に倒れ込んだ。埃が部屋を舞う
埃がやわらぎ、未だ立ちあがれないれいなの姿を確認した吉澤はそっけなく言い放つ
「『共鳴』、他人、もしくは自身の力を強化する能力。でも今、共鳴できるのは1人。しかもリンリンときた
 れいな、所詮1+1。それが2じゃなくて、10や100になってもこんなもんだ、お前たちは」
れいなはペッと口の中に溜まった血を吐き唇を拭いながらゆっくりと立ちあがった
「本気になったら、オマエを殺しかねない。それじゃつまらねえからな!」
「うるさい!」
懲りもせずに吉澤に向かっていくれいな
「学習能力のねえ奴だな!」
れいなの拳を受け止め吉澤の拳がれいなの顎にヒットし、れいなは足がもつれる
「人の話を聞くときは黙っているって先生に教えてもらったことくらいあるだろ?」
吉澤は跳躍し、れいなのこめかみに向かって力いっぱい蹴りを放った

ゴムまりのようにれいなは吹き飛ばされ、その姿を見かねた雅がれいなに駈け寄っていく
れいなは雅の肩を借りながらゆっくりと立ちあがった
「ミヤ、下がっているっちゃ・・・あいつは危険なヤツっちゃ」
「わかってます!でも、ミヤが悪かったんです!だから、一緒に、田中さんと戦わせて下さい!」
「ふざけるんじゃないと!!」
れいなが大声をあげた。そのせいで胸に痛みが走った

「さっきまでれーなの記憶を奪おうとしていたのは誰や!ミヤやろ!それを今度は一緒に戦わせてほしい?
 ふざけるのもいい加減にするとよ!れーなは別にミヤのために戦っているんじゃなかと!
 あいつは『悪』っちゃろ?それ以外の理由なんてないとよ!あいつを倒したら…次はミヤ、オマエをぶっとばす」
そういいれいなは再び吉澤に向かっていった

(なんで、私のためでもなく、あそこまでボロボロになって戦うことが出来るんですか)

激しい衝撃音とともにれいなは打ちつけられたが、立ちあがり、吉澤に向かっていく

それを見ていた亀井は思った(れいなちゃん)、道重も同じく思った(れいなちゃん)、ジュンジュンも思った(レイナ)

(あんなボロボロで勝ち目なんてなさそうなのに、何度も何度も立ちあがっていく)
今度は踵落としを決められ、その場に倒れ込んだが、しばらくすると立ちあがった

リンリンが何もできないことで唇をかんだ。新垣も自身の折れた右腕を憎々しく眺めている

(誰かを守る、悪だから戦う…そんなに今の仲間が大切なんですね…それを私は…)

正直れいなの視点は定まらなくなっていた。足元はふらふらで立つのもままならない。ただ、それでもれいなは向かっていく
吉澤は容赦しようともせず、れいなに向かい光弾を放ち、れいなは飛ばされる

光井はれいなが決して一人では勝つことが出来ないという未来を視た。久住がぽつりといった「ねえ・・・あの人、誰?」

それが何度も繰り返され、れいなが雅に会うために用意した綺麗な洋服はぼろぼろになりあちこちに穴が開いた
その服と同様にあちこちに傷や血をきざみながらもれいなは立ちあがり、向かい続けた

これで何度目になるのであろうか、吉澤の光弾がれいなに炸裂した
れいなは飛びそうになった意識をむりやりその体に結び付けて、かろうじて受け身をとる
しかし、その体にも限界が近づいてきていた
立ちあがろうとしたれいなの体のあちらこちらを激しい痛みがおそい、立ちあがるだけでも息が上がる。
それでも諦めようともせずにれいなは無理やりに体を動かし、憎き敵へと向かっていく